2. 国際協力事業団による協力

(1) 研修員受入れ

研修員受入れ事業は,開発途上諸国の中堅技術者,研究者,行政官などを当該国政府及び国際機関の要請に基づき日本に受け入れて,わが国の進んだ技術を研修する機会を与える技術協力の最も基本的な形態である。

79年度中に新規に受け入れた研修員は3,101名であつた。これによつて,わが国が54年にコロンボ・プランに加盟して以来国際協力事業団を通じて政府ベースで受け入れた研修員は合計34,953名に達した。

79年度における地域別特色としては,78年度と同様アジア地域の占める比率が減少したのに対し,近年とみにわが国との関係を深めつつある中南米地域の占める比率が増加していることがあげられる。更に受入れ方式別実績では,集団・個別研修で2,847名,国連・国際機関要請研修254名である。

他方79年度においても前年度に引き続き,研修事業の内容の改善に努め,研修員の滞在費及び研修付帯費1人1ヵ月当り基準額の増額など,研修内容の充実を図つた。また,研修員受入れ数の増加に対応するため,80年4月に筑波インターナショナルセンターを開設した。

(2) 専門家派遣

開発途上諸国の要請に応じて主として相手国の政府,政府関係機関,試験研究機関,事業所,学校及び指導訓練機関等において企画立案,調査研究,指導,普及活動及び助言などの業務を行うため各種分野の専門家を派遣し,技術協力を行う専門家派遣事業は,研修員受入れ事業と並び,いわば車の両車輪をなす最も基本的な技術協力の形態である。

79年度中に政府ベースで国際協力事業団を通じて新規に派遣した専門家は,計3,699名であつた。これによつて,わが国が開発途上諸国への専門家派遣を開始した55年以来,政府ベースで派遣した専門家の累計は,総計24,936名に達した。

このうち開発途上国政府若しくは国際機関の要請に基づいて個別に派遣した専門家累計5,569名(79年度437名),このうち国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP),東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC),アジア工科大学(AIT)などの国際機関へ派遣した専門家は,累計494名(79年度68名)である。

(3) 機材供与

機材供与事業は,開発途上国において一定の技術的知識又は経験があつても機材不足のため既存の技術が有効に活用されない場合に,わが国の行う技術協力と関連づけて必要な機材を供与する事業である。いわば「人」を通じての技術協力に,機材という「物」を有機的に組み合わせてその効果を高めんとするものである。

なお,この機材供与事業は,専門家の携行機材,あるいは後述のプロジェクト協力に伴う機材などの供与とは別のものであり,通常「単独機材供与」と呼ばれている。

79年度に供与した機材はコミットメントベースで50件,総額9億4,234万円であつた。79年度までの累計総額はディスバースメントベースで30億5,895万円で,地域別配分は,アジア・大洋州57.6%,中近東7.2%,アフリカ11.1%,中南米20.9%,その他3.2%となつている。

研修員受入れ(JICAベース,1954~78年度末累計実績)

<分野別>               <地域別>

専門家派遣(調査団を含む)(JICAベース,1954~78年度末累計実績)

<分野別>              <地域別>

(4) 開発調査

国際協力事業団による開発調査は,要請を受けて,当該国の経済社会開発上有効と認められる公共的な開発計画に関して実施されるものである。したがつてその分野も,鉄道,道路及び港湾の建設,農業開発,資源開発,電源開発,産業の近代化など多岐にわたる調査を行つている。79年度は新規及び継続分をあわせて169件,外務省予算95億円(繰越し分を含む)にのぼる開発調査を実施した。これを地域的にみるとアジア地域87件,中近東地域19件,アフリカ地域26件,中南米地域27件,オセアニア地域5件,その他5件となつている(具体的案件については資料編を参照)。

また海外開発計画調査(通産省予算)については,75件,総額25億円の調査が実施された。資源開発協力基礎調査(通産省予算)は,16件,16億円の調査を実施した。

(5) センター協力

(イ) 概要:開発途上国の技術訓練センターなどを拠点として,各種技術分野における人材の養成・訓練を行う。典型的な協力内容は大別して一般的な職業訓練(機械,電気,自動車,板金溶接など)と,電気通信,海運・道路交通,鉱工業,水産など,特定分野での技術者養成プロジェクトに分けられ,開発途上国の「国造り」の必要性に応じ多様な協力を実施している。

79年度においては,29億4,000万円の予算規模をもつて,19カ国27件の協力を行つた(具体的内容については資料編参照)。地域的にはアジアが中心であるが(15件),中近東に対する協力も比較的に多い(7件)。

(ロ) 最近の傾向:開発途上国の実状に見合つた適正な技術の開発研究を主目的とした協力が近年増加しており(5件),それに伴い訓練内容も高度化(半導体の試作,綿とポリエステルの混紡など)する傾向にある。

(6) 保健・医療協力

(イ) 概要:開発途上国民の健康の維持・増進を図り,社会福祉の向上に寄与することを目的とし,途上国で必要とする医師,看護婦など,医療・医学部門の人材養成・訓練を行う。協力内容は,内科,外科,眼科など基礎・臨床医学の研究,特定疾病(結核,ライ,がんなど)の撲滅対策,プライマリー・ヘルス・ケア(住民の健康医療サービス向上,公衆衛生改善,看護婦・保健婦の養成など,地域住民に直結した協力)及び人口・家族計画に大別される。

79年度においては,26億8,000万円の予算規模をもつて,23カ国30件の協力を行つた(具体的内容については資料編参照)。このほか,地理的関係などから,わが国の医学・医療について認識のあまり深くない中近東,アフリカ,中南米諸国に対し,わが国トップレベルの医学者,大学教授を派遣し,学術講演などを通じ,わが国の医学,医療を紹介するなどの事業を行つている。

(ロ) 最近の傾向:タイにおけるカンボディア難民問題が深刻化したため,わが国は,79年度に保健・医療協力の一環として,難民救済医療チーム(3チーム)を難民キャンプに派遣し,緊急医療活動を実施した。

(7) 農林業協力

(イ) 概要:開発途上国の産業構造の中で農業の占める割合は極めて高く,また,途上国の国民の過半は農業従事者であり,そのほとんどが貧困に苦しんでいる。従つて農業開発への協力は,依然開発途上国の経済・社会開発上の最重要施策となつている。

プロジェクト方式技術協力の対応としては生産性向上のための技術の移転・普及を重点的に実施しており,内容も農業・食糧増産,養蚕,畜産,林業,水産など多岐にわたつており,地域的には,わが国同様稲作中心のアジア地域に対する協力が圧倒的に多い。

79年度においては,43億7,000万円の予算規模をもつて,14カ国32件の協力を行つた(具体的内容については資料編参照)。

(ロ) 最近の傾向:末端農民の生産性向上に直接つながりうる技術普及対策を重視しており,54年度には,プロジェクト基盤整備費(8件),中堅技術者(農業普及員)養成対策費(1件)をもつて,わが国によるローカルコスト負担を大幅に拡大した。

(8) 産業開発協力

(イ) 概要:開発途上国国内の産業上の諸条件に適した特定産業の育成・振興のためのプラニングから人材の養成,技術の研究・開発までの諸要素を適宜有機的に結びつけた総合的な協力要請に応え,開発途上国の中小規模工業など特定産業の育成・振興に対し総合的,多角的な協力を行うことを目的とする技術協力プロジェクトである。

79年度においては,7億8,000万円の予算規模をもつて,9カ国10件の協力を行つた(具体的内容については資料編参照)。

(ロ) 最近の傾向:従来鉱物資源の活用を目的とした協力が多かつたため,地域的にも,中南米地域に対する協力が中心であつたところ,近年は,中小工業育成のための協力要請も強まつてきており,アジアのほかアフリカ地域へも協力が拡大しつつある。

(9) 開発協力

(イ) 開発投融資

(a) 開発投融資の意義

国際協力事業団による開発投融資は,わが国民間企業などが開発途上地域などで行う経済協力に対する財政支援制度である。それは政府ベースと民間ベースの経済協力の連携の強化及び資金協力と技術協力の結びつきの強化を図るものであり,投融資対象事業が相手国の経済,社会の発展と民政の安定向上に資することを目的としている。

(b) 投融資業務の内容

国際協力事業団の投融資の対象は,開発途上地域などの社会の開発並びに農林業及び鉱工業の開発に資する次の事業であつて,日本輸出入銀行あるいは海外経済協力基金からの貸付などを受けることが困難と認められる事業に対し,他の政府関係機関に比し,相当緩和した条件の資金を供与するものである。

(i)  関連施設の整備

開発事業に付随して必要となる関連施設であつて,周辺地域の開発に貢献する施設の整備事業,例えば,道路,橋梁,港湾施設,上下水道,市場,学校,病院,公民館,教会,訓練所などである。

(ii)  試験的事業

開発事業のうら試験的に行われるものであつて,技術の改良又は開発と一体として行わなければその達成が困難な事業である。資金供給の態様は,関連施設の設備の場合は貸付及び債務保証,試験的事業は貸付,債務保証及び出資である。

(c) 投融資事業の実績

79年度の投融資額は,関連施設の整備,試験的事業あわせて総額40億円となつた。

(ロ) 開発協力調査及び開発協力技術指導

国際協力事業団の発足の意義の一つは,資金協力と技術協力の連携であり,融資対象となる事業に必要な調査及び技術指導(専門家派遣及び研修員受入れ)を実施している。すなわち融資対象となる事業が相手国の経済発展,地域開発,民生の安定などにどの程度資するか,あるいは当該事業が採算に乗り得るかどうかなどの必要な調査を実施するとともに,開発途上地域で実施している開発事業で民間企業が自力で対処し得ない技術的問題に対し必要な技術の指導を行つている。79年度は21件の調査を実施し,17人の専門家の派遣,並びに23人の研修員を受け入れた。

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