第3章 経済協力の現況
第1節 総 説
1. はじめに
各国が国際社会に貢献し,国際的責任を果たすに際しては種々の態様がありうるが,わが国の場合は,自由世界第2位の経済力を有し,他方,貿易,資源,エネルギーその他の面で開発途上国と深い相互依存関係を有することにかんがみ,開発途上国に対する経済協力の拡充によつて世界の平和と安定に貢献することが望ましい。また,世界経済自体がますます相互依存の関係を深めていることから,南北問題は最も重要な国際課題のひとつとなつており経済協力,中でも政府開発援助(ODA)は,南北問題解決のための最も重要な方途のひとつである。このような見地から,わが国は,政府開発援助の拡充に努め,1977年に14億ドルに達したODAを翌78年から3年間で倍増するとの意慾的な中期目標を実施中である。79年のわが国の政府開発援助実績は約26億ドル(対GNP比0.26%)と対前年比19%の伸びを示しているが,3年倍増の最終年にあたる80年にはこの中期目標を確実に達成するとの観点から,80年度ODA事業予算においては厳しい財政状況下にもかかわらず援助予算の拡充に格段の配慮を行い,対前年度比16.4%増の8,402億円を計上するなど,目標達成のために最大限の努力を払つている。また,今後とも積極的姿勢を維持し,政府開発援助の量を拡大してGNP比の改善に一層努力するとともに,グラント・エレメントの向上,資金協力の一般アンタイド化方針の遂行などによる質の改善にもたゆまず努力する方針である。また,わが国は援助対象分野として引き続き,「人造り」,農業開発,エネルギー開発,社会インフラストラクチャーの整備などに対する協力を重視していくとともに,教育,保健,医療,人口など地域住民の福祉に直接裨益する分野に対する協力を推進していく方針である。更に,政府開発援助の供与にあたつては,わが国は低所得開発途上国に対して特に配慮しており,79年の無償資金協力の約8割を1人当たりGNP400ドル以下の諸国に供与している。
わが国経済協力の目的は,第一義的には前述の如く,開発途上国の経済社会開発に貢献することにより住民の福祉の向上をはかることにあるが,経済協力の実施に際しては,外交上,政治・経済上の種々の考慮を行つている。例えば,インドシナ難民救済のための政府ベースの医療チームや飲料水調査チームの派遣,医療センターの建設など,援助の効果的・機動的活用に努めている。また,パキスタン,トルコ,タイなどに対する援助の強化にみられるように,広い意味での安全保障を確保するとの見地から,現下の国際情勢を踏まえつつわが国独自の立場で援助の強化を図るよう心掛けている。
2. 1979年のわが国経済協力実績
(1) 概 観
79年においては,政府開発援助が78年に比べ19.1%増大し,3年倍増達成にむけて大きく歩を進めた。しかしながら,開発途上国に対する「資金の流れ総量」では78年の107.0億ドル(支出純額ベース,以下同様)から79年には75.6億ドルと29.4%減少した。これを対GNP比でみると78年の1.10%から0.75%と減少したことになる。(なお,78年のDAC諸国の平均は1.23%)このような減少がみられたのは,ODA以外の資金フローである「その他政府資金の流れ」(Other Offcial Flows, 00F)が90.2%と大幅に減少し,同じく「民間資金の流れ」(Private Flows,PF)も25.8%減少したことによる(詳細は資料編の付表を参照)。
(2) 政府開発援助(ODA)
(イ) 79年のわが国の政府開発援助(ODA)実績は26.4億ドルとなり,78年の22.2億ドルに比し19.1%の増加となつた。これを対GNP比でみると78年の0.23%から0.26%へと向上した。このわが国の79年のODA実績は,量の上ではDAC諸国中,米,仏,西独に次いで第4位であるが,対GNP比では第12位であり,DAC諸国平均の0.34%には未だ遠く及ばない。今後一層の努力が必要である。
(ロ) わが国のODA実績を項目別にみれば次のとおりである。
(a) 2国間贈与については,78年の3.8億ドルから79年には5.6億ドルと46.1%の増加となつた。2国間贈与を無償資金協力と技術協力とに分けると,無償資金協力は前年比96.2%の大幅増を示しており,技術協力も9.4%と着実に増加している。
(b) 国際機関への出資・拠出など国際機関向けODAについては,78年の6.8億ドルに比し4.7%増の7.2億ドルとなつた。ODAに占める国際機関への出資・拠出などの割合は,78年の30.9%から27.2%へ低下した。この内訳をみると,国連開発計画(UNDP)など国連諸機関及びその他の国際機関に対する贈与は78年の1.14億ドルから1.13億ドルヘと若干減少したが,国際復興開発銀行などの国際開発金融機関に対する出資及び拠出は78年の5.8億ドルから79年には6.1億ドルヘと5.7%増加した。
(c) わが国ODAの中で大きな割合を占めている2国間政府貸付などは,13.6億ドルと78年の11.5億ドルに比べ18.6%の増加を示した。
(ハ) わが国援助資金の条件についてみれば,79年中にわが国が約束した政府開発援助の平均グラント・エレメント(注)は,78年の75.1%から77.8%に改善された。また,政府貸付の平均条件も,金利3.1%,返済期間27.7年(うち据置期間9.1年)となり,前年の金利3.3%,返済期間26.3年(うち据置期間8.5年)に比し改善を示している。
なお,政府開発援助(約束額)中に占める贈与の割合は,前年の48.1%から50.1%へと改善し,はじめて贈与が政府貸付などを上回つた。
以上の如く,わが国援助の質の改善については,種々の努力の結果,かなりの改善をみている。しかしながら,他のDAC諸国との比較においては,贈与比率(DAC諸国平均76.3%),グラント・エレメント(DAC諸国平均90.7%,国際目標86%)ともに遠く及ばず,援助の質の改善のための一層の努力が必要である。
(注)ODAの条件の緩和度を示す指標。個別の援助のグラント・エレメントを加重平均して算出する。個別の援助のグラント・エレメントは,金利が低くなり,据置期間及び償還期間が長くなるほど,パーセントが高くなり,贈与は100%と定義され,逆に商業条件(金利10%)の借款は0%とされている。
(ニ) わが国の2国間ODAの地理的配分については,従来より地理的,歴史的,経済的にわが国と密接な関係を有するアジア地域に重点がおかれてきており,79年もアジア地域の占める割合が69.3%と前年の60.3%に比べ増加している。その他の地域については,中近東地域が前年の22.7%より10.6%へと減少,アフリカ地域は6.9%から9.7%と増加,中南米地域は8.6%と前年と同じ割合であつた。
(ホ) 80年度政府開発援助事業予算については,80年が,わが国の国際公約である政府開発援助3年倍増の最終年にあたり,これを確実に達成するため,厳しい財政事情にもかかわらず,格別の配慮が払われた。
この結果,80年度ODA事業予算として総額8,402億円が計上され,前年度の7,217億円に比し16.4%の伸びを示した。また,予算の対GNP比も,79年度の0.31%から0.34%へと大幅に改善された。
また,予算中の贈与分が前年度の3,575億円から4,325億円へと21.0%増加したことにより,事業規模に対する贈与の割合が50.1%(前年は47.3%)となり,わが国が本格的な援助を開始してから初めて予算中の贈与比率が50%を超え,質的にも改善がみられた。
(3) その他政府資金及び民間資金の流れ
79年のその他政府資金及び民間資金の流れは,合計(非営利団体による贈与を含む)で49.2億ドルと78年の84.9億ドルから42.0%の減少となつた。
これを形態別にみると,輸出信用は前年の17.0億ドルから4.1億ドルに,直接投資は20.3億ドルから13.7億ドルに,市中銀行による対外貸付が23.3億ドルから20.0億ドルに,証券投資は13.6億ドルから7.2億ドルに,国際機関に対する融資などは10.5億ドルから4.1億ドルにと,いずれの形態においても減少がみられた。
3. 経済協力実施体制
最近のわが国の経済協力の拡大に伴い,政策面及び実施面の双方において経済協力に関する行政の円滑な推進のための努力が払われている。わが国の経済協力は,対外関係事務の総括の衝に当たる外務省の実質的な調整のもとに,大蔵省,通産省,経済企画庁など関係各省庁間で連絡協議を図りつつ進められている。
また,経済協力実施体制の強化を図る努力の一環として,74年8月に設立された国際協力事業団(JICA)は,わが国の政府ベース技術協力に係わる業務を積極的に推進している。
なお,61年6月に政令に基づき総理大臣の諮問機関として設置された対外経済協力審議会は,引き続き積極的な活動を続げている。