4. 科学技術
(1) 2国間の科学技術協力
資源エネルギー,環境など現代社会の抱える諸問題を解決しつつ,国民の福祉向上を図るために,科学技術の役割はますます重要なものとなつており,研究開発などの効率化のために,科学技術の分野における国際協力が世界的に活発化している。わが国としても,協定などに基づき,先進諸国との間で2国間及び多数国間の科学技術協力を行つている。
(イ) 日・米協力
78年5月,ワシントンにおける日米首脳会談の折に日本側から提案した,21世紀を展望した新エネルギー研究開発のための日米協力の構想は,翌79年5月2日に締結された「エネルギー及びこれに関連する分野における研究開発のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」により具体化されることとなつた。この協定に基づき,核融合,石炭転換をはじめとする諸分野において日米間の協力が進められている。
一方,78年末米国政府は,エネルギー以外の分野においても上記エネルギー分野における協力と類似した形での本格的な日米協力を提案した。これを受けて79年9月と80年2月に事務レベルの日米会議が開かれ,本件協力の具体的対象及び協力の枠組みとなる協定についての検討が行われた。
(ロ) その他各国
わが国は,西独,フランスとの間でも科学技術協力協定を結んでおり(ともに74年に締結),5月には第4回日仏科学技術混合委員会が,また,9月には第5回目独科学技術合同委員会が開かれ,それぞれ協定に基づく協力のレヴューなどが行われた。
このほか,わが国はソ連,東欧の各国との間にも科学技術協力取極を結んでおり,開発途上諸国との間においても,技術協力の一環として科学技術の分野における協力の必要性が増大してきている。
(2) 多数国間の科学技術協力
79年8月オーストリアのウィーンにおいて「開発のための科学技術国連会議」(UNCSTD)がわが国を含む142ヵ国の参加を得て開催された。UNCSTDは,科学技術分野での,国連システムを中心とするより望ましい国際協力の方途を探究するために開かれたもので,会議においては,開発途上国と先進国との間でいわゆる南北対話の形での交渉が行われた。会議は,開発のための科学技術融資システムの設立,国連内における開発のための政府間科学技術委員会の設立などを盛りこんだ「開発のための科学技術ウィーン行動計画」を採択して閉幕した。
このほか,79年5月韓国のソウルにおいて,アジア科学協力連合(ASCA)第7回本会議が,わが国を含む15カ国の参加を得て開かれた。ユネスコなど国連の各専門機関やOECDなどの場においても科学技術の研究開発とその利用,科学技術の発展に伴う諸問題などについての情報交換,政策面の検討などの形での協力が活発に行われており,OECDにおいては81年に科学技術担当大臣会議の開催も見込まれている。
(3) 宇宙の開発と利用
(イ) 宇宙空間の平和利用は今や人類に不可欠のものとなつており,米・ソをはじめとする各国は宇宙開発を積極的に推進しているが,わが国も通信,放送,気象観測などの分野において実用衛星の打上げを行うなど活発な活動を行つている。
(ロ) 国連宇宙空間平和利用委員会(構成国数47)は,79年においては,月協定案,直接テレビジョン放送のための人工衛星の利用を律する原則案,人工衛星による地球の遠隔探査(リモートセンシング)に関する問題,第2回国連宇宙会議開催問題,原子力衛星の安全性問題などについて審議を行つた。その結果,月協定案テキストが作成されたほか,原子力衛星の安全性問題の検討及び第2回国連宇宙会議(82年後半開催予定)の準備などが更に進展した。第34回国連総会は,宇宙空間平和利用委員会の報告書をレヴューするとともに,同委員会に対し上記諸問題の検討の継続を求める宇宙オムニバス決議,第2回国連宇宙会議の準備に関する同委員会の勧告を承認する決議及び月協定を推奨する決議の3決議を採択した。
(ハ) 衛星通信に関しては,従来より国際公衆電気通信業務の分野で活発な活動を続けている国際電気通信衛星機構(インテルサット)に加えて,79年7月16日,海事通信のための人工衛星を提供することを目的とする国際海事衛星機構(インマルサット)が発足した。
(4) 南極の調査と保全
(イ) 南極条約協議国はこれまで南極地域の環境保全,科学調査のための国際協力を主要問題として会合してきたが,近年の資源有限時代を反映して,最近では鉱物・生物資源問題にも各国の強い関心が示されている。
(ロ) 南極海洋生物資源の保存のための条約作成については,協議国間で交渉が続けられた結果,80年5月にオーストラリア政府によつて本条約採択のための会議が招集されることとなつた。本条約は鯨,あざらしなど既存の国際協定に基づき既に規制されているものを除く南極海洋生物資源を対象とし,科学的データに基づく保存と合理的な利用を図るため国際協力を行うものである。
(ハ) 鉱物資源の探査・開発問題は,79年6~7月の専門家会合及び79年9月の第10回協議会議で討議が行われ,将来作成されるべき鉱物資源開発の法的な枠組みにつき諸々の角度から検討が加えられたものの,その殆んどすべてが南極の領有権問題に関連するため,実質的な進展は見られなかつた。