3. 原子力の平和利用

(1) 国際核燃料サイクル評価(INFCE)

原子力平和利用と核拡散防止の両立をはかる方策を探求するための技術的検討を行うことを目的に,77年10月より米国の提唱により開始されたINFCEについては,79年にはそのまとめの作業が行われ,80年2月に開かれた最終総会では各作業部会及び技術調整委員会の報告書が受理され,2年4ヵ月にわたるINFCE作業に終止符が打たれた。わが方外交努力の結果,INFCEは「再処理を行う核燃料サイクルは,再処理を行わない場合と比べて核拡散防止上,特に問題があるというわけでなく,また大規模発電国の場合,再処理を行う経済的正当性がある」などのわが国としておおむね満足できる結論を出した。ただし,INFCEの検討結果は当初の申合わせにより参加国政府を拘束しないこととなつているので,今後,INFCE終了に伴い,INFCEの結果を参考としつつ各国政府間で新しい原子力秩序を求めて協議や交渉が行われていくことになろう。なお,INFCE最終総会議長にわが国外務省矢田部科学技術審議官が選ばれたことは,わが国の原子力先進国としての実績及びINFCEの検討など核不拡散のため国際的努力への積極的貢献が認められたことを示すものと言えよう。

(2) 日豪原子力協定改正交渉

現行原子力協定の改正を求める豪との交渉は,79年7月末から8月初めにかけて東京で第3回交渉が行われ,日豪双方の間で充分な意見の交換が行われたが交渉妥結には至らなかつた。

日豪間で行われているウラン濃縮共同研究はその第1フェーズを78年に終了したが,80年1月の大平総理大臣訪豪の際,両国首脳間で,次の段階においても引き続き協力を行つていくことが確認された。

(3) 米国との関係

(イ) 78年3月に発効した米国の新核拡散防止法により,米国行政府は各国との原子力協定を米国の規制権を強化する方向で改正を行わねばならないこととなつており,これに関する日米協議が79年2月に東京で行われた。

(ロ) 東海村再処理工場の運転期間は77年の日米交渉により,INFCEの期間にあわせて79年9月までとなつていたところ,INFCEの期間延長に合わせて80年4月末まで延長されることとなつた。80年4月末以降の運転についてはわが国の関連計画が阻害されないよう日米間で協議を行つた。

(ハ) 米国産使用済燃料のわが国から英・仏への移転に関する日米原子力協定上の米国の同意取付けは,79年度中については円滑に行われた。

(ニ) このほか米国は,各国が過早な再処理を行うことをさけるため使用済燃料を太平洋の島に暫定貯蔵を行うとの構想を打ち出していたが,80年1月に行われた日米間の協議の際,わが国は自国の使用済燃料をかかる貯蔵施設に貯蔵する考えはないが,米国の核不拡散努力に協力するとの見地から,同構想のフィージビリティ・スタディ自体には参加するとの立場を明らかにした。

(4) 核物質防護条約

核物質防護条約草案検討のための政府間会議は,79年10月ウィーンの国際原子力機関(IAEA)本部で開催された第4回会合で審議を終了し,同会議において作成された条約テキストを添付した最終文書に,わが国を含む46カ国及びECの代表が署名を行つた。この会議は,核物質及び原子力施設に対する不法行為などに対処する方策として,核物質防護に関する国際協力,なかんずく国際条約締結の重要性が各国の強く認識するところとなつた結果,米国の提唱により,77年10月以降,IAEAの場において4回にわたつて開催されたものである。同条約は,80年3月3日以降署名のために開放され,21カ国の加入批准などによつて発効することとなつている。

(5) 国際原子力機関(IAEA)の活動

(イ) 核拡散防止のために保障措置活動を進めつつ,世界の原子力平和利用を促進する目的をもつて設置され,活発な活動を続けているIAEAは,原子力の各種の分野での政府代表者間会議,専門家会議などを年間を通じて多数開催しており,わが国は,これらの多くに代表者,専門家などを派遣参加せしめ相応の貢献を行つている(80年4月現在,IAEA加盟国は110)。

(ロ) 79年3月末,米国ペンシルヴァニア州のスリーマイル・アイランド原子力発電所で発生した事故は,原子力の安全性につき全世界の注目を惹いたが,IAEAはいち早くこれに対処し,事故の調査分析に従事するとともに,5月下旬には原子力安全対策専門家会議を開催した。つづいて6月開催されたIAEA理事会は,安全性問題をとりあげ,これまでIAEAが行つてきたNUSSプロジェクトほかの安全性に関する活動を一段と強化することを決定した。わが国は,主要メンバー国中の一国として貢献を行つた。

(ハ) また開発途上国のための原子力平和利用については,IAEAを中心とする「地域協力協定」(RCA)の枠組みの中で,アイソトープ,放射線照射の農業,医療,工業への利用などに関する技術援助が,アジア太平洋諸国に対して行われており,わが国は,この枠組みにおいて中心的役割をつとめている。特に,10月中旬,わが国は東京において「RCA加盟国政府間特別会議」をホストするとともに,開発途上国専門家のための「食品照射に関するワークショップ」を関係研究所において開催した。

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