第3節 国際通貨・金融問題
1. 国際通貨情勢
(1) 1979年の国際通貨情勢は,先進国間の経常収支不均衡は是正の方向を辿つたものの,オイル・マネーの急増を背景に特に79年後半の中東産油国を中心とした準備資産多様化の動きや,金価格の異常な高騰に象徴される如く大きく動揺した。また79年においては世界的なインフレ高進が顕著であつたため,インフレ抑制と為替相場の安定確保の必要性が強調された。米国はこうした情勢下,従前にも増してインフレ抑制と米ドルの信認回復に重点を置き国内景気のスロー・ダウン傾向の中で思い切つた金融引締め政策をとり再三にわたる公定歩合の引上げを行つたが,これは大幅な金利上昇をもたらした。
(2) 他方欧州では,EC加盟国間における政策協調の促進と為替相場の安定的関係の維持を狙いとして79年3月に欧州通貨制度(EMS)が発足したが,同制度は発足後,(イ)同制度をてこに参加国間で政策の協調姿勢が強まる,(ロ)迅速に基準相場を変更することにより経済パフォーマンス格差拡大を防ぐ態勢を整えつつある,など比較的順調に機能している。
(3) 為替相場の動向をみると,79年前半は主要先進国間の経常収支バランスの均衡化や,78年秋以降のいわゆる協調的介入の実施などを背景に比較的平穏に推移したものの,年央頃からは原油の相次ぐ値上げや米国内のインフレが一段と加速したことなどを反映し,ドル不安がくすぶりドル相場は9月急落したが,その後米国のインフレ抑制,ドル防衛措置を契機に持直しを示した。こうした中で金価格は産油国のドル離れに対する思惑などに加速されて,79年12月に入ると連日異常な急騰を記録した。
2. IMFをめぐる動き
(1) 融資制度の拡充
79年は,年初来の石油価格の急上昇により多くの国が国際収支の困難に見舞われたが,こうした中で,IMFの融資制度がかなり拡充された。2月には,大幅かつ長期にわたる国際収支困難に直面している国に対して融資を行うための「補完的融資制度」が約100億ドルの規模をもつて発効し,8月には,「輸出変動補償融資制度」について,引出し枠の緩和及び輸出所得の落込み算定に当たつて,対象となる所得として,従来の「全商品」に「観光収入」と「海外労働者からの送金」を加え得ることを認めるなどの改善が行われた。更に,12月には,「拡大信用供与制度」について,返済期間の最大限度が8年から10年に延長された。
(2) 代替勘定構想
国際通貨制度改革の面では,IMFで検討されている代替勘定について,10月のIMF暫定委員会において,「もし,適切に創設されるならば,国際通貨制度の安定に寄与し,またSDRを中心的な準備資産とすることへの一歩となるであろう」とのコンセンサスが得られたが,為替差損の分担方法などの技術的問題点について引き続きIMF理事会が検討を行うこととなつた。