2. ガット
(1) 東京ラウンド交渉の妥結
73年9月の東京宣言以来6年有余にわたり行われた多角的貿易交渉東京ラウンド(MTN)は,関税引下げ及び非関税措置に関する各種の協定作りなどに大きな成果を挙げて79年4月実質的妥結に至り,更にその後同年11月の第35回ガット総会において,交渉諸成果全体が了承されるとともに正式にガット機構に組み込まれた。
すなわち,前年(78年)末までに,日,米はじめ一部主要国の間で大筋妥結をみた交渉は,79年に入り,引き続き残された問題について交渉を継続した結果,4月初旬にはほぼ交渉全体として実質的妥結をみるに至つた。その結果,4月11日に,交渉とりまとめのための貿易交渉委員会が開かれ,翌12日には,交渉成果の実質内容を確認する文書に主要国代表による署名が行われた。
交渉は,更にその後細部の調整を経て,6月30日には,関税交渉の成果を収録する「ジュネーヴ議定書」が作成され,7月11日には同議定書が各国の署名に開放された(わが国は,同月26日,受諾を条件として同議定書に署名)。また非関税措置に関する各種協定などについても,細部の文言上の調整を加え,79年夏から秋にかけ,次々と協定の最終テキストが確定された。
これらをふまえ,11月26~29日に開催された第35回ガット総会は,MTNの交渉成果を満場一致で了承し,諸合意は正式にガット機構の中に組み込まれた。
これら交渉成果の具体的内容は,別表1~3に見るとおりである。
(2) 各国国内手続の進捗と交渉成果の実施
この間,各国においては,交渉成果の受諾・実施のための国内手続が進められた。米国においては,6月19日,交渉成果の国内実施法たる「1979年通商協定法案」が議会に提出され,7月11日下院本会議,同23日上院本会議での可決を経て,同26日カーター大統領の署名により同法が成立した。またECにおいては,11月20日に開催されたEC外相理事会で最終パッケージが承認され,そのほか,スウェーデン,ノールウェー,スイスなどの諸国も79年末までに国内手続を終了した。
以上の諸経緯をふまえ,12月17日,ジュネーヴにおいて,各国による諸協定への署名が行われ,わが国は,ダンピング防止協定など7本の協定に憲法上の手続の完了を条件として署名を行つたほか,2本の取極(酪農品取極及び牛肉取極)に受諾の署名を行つた。またわが国において,諸協定は,12月21日,承認のため国会に提出された。
80年2月1日現在,各協定への署名国(批准などの条件付き署名を含む)及び何らかの形で参加の意図を表明した国(例えば,関税の引下げを約束した譲許表を提出済の国など)は合計47カ国(EC9カ国を含む)及びEC委員会となつている。
このようにして,MTNの交渉諸成果は,実施の段階に移り,既に米国,ECなど主要交渉参加国は80年1月1日より第1回目の関税引下げを実施し,また,非関税措置に関する各種協定なども(81年1月に発効が予定されている関税評価協定・同議定書及び政府調達協定を除き)80年1月1日より発効するとともに,協定に基づく委員会が設立され,諸合意の運用が開始されている。
(3) 東京ラウンド後のガット
開放貿易体制の基盤の拡充・強化のために大きな成果を挙げた東京ラウンド交渉が終了した現在,ガットとして最大の課題は,交渉成果を諸協定の規定と精神に則り誠実に運用していくことといえよう。またセーフガード交渉など東京ラウンドで合意に達しなかつた問題について,引き続き検討が継続されることとなるほか,開発途上国の貿易に関連する諸問題にも大きな比重が置かれることとなろう。79年11月のガット総会では,これら諸点をとり入れたMTN後のガットの作業計画を策定している。
〔別表1〕
MTN関税引下げ交渉の成果
(あ) 主要国の関税引下げ品目の貿易額合計(ガット事務局試算,76年ベース)
鉱工業品…………1,100億ドル超
(石油を除く。以下同じ)(全体の平均引下げ幅は約33%,KR30~35%)
農産品…………約150億ドル
鉱工業品の場合,主要先進国全体の平均関税率は,現在の7.2%から4.9%に低下する。
わが国は,この交渉で,鉱工業品約2,400品目(76年の輸入額約136億ドル),農産物約200品目(同約34億ドル)について関税を譲許。
(い) 日,米,ECの鉱工業品関税引下げ状況(76年対世界輸入ベース)
(i) 平均引下げ率
(ii) 引下げ前後の平均関税水準
(う) 引下げは80年から8年間にわたり,段階的に実施される。
〔別表2〕
〔別表3〕
(2) 農産物貿易
食肉と酪農品について,情報交換や市況の検討などを中心とする国際協力を通じて貿易の拡大と一層の自由化をはかることを目的として「牛肉に関する取極」及び「国際酪農品取極」が作成された。
また,農業分野での各国の協力を一層推進するため,適当な協議の枠組みを今後検討していくことが合意された。
(3) 世界貿易を規律するための枠組み
貿易を律するための国際的枠組みの改善について,(a)開発途上国に対し特別優遇措置を与えることができる,(b)国際収支目的でとられる貿易措置についての規律と手続,(c)開発途上国が開発目的のために保護措置をとる場合の条件・手続を緩和す