第2章 国際経済関係
第1節 総 説
1. 世界経済の動向
(1) 先進国経済
(イ) 1979年の先進国経済をみると,日本,西独では先行きに懸念はあるものの概して着実な拡大がみられた。しかし,米国では,年初の異常寒波や労働争議などの影響により景気にかげりがみられはじめ,年央以後上昇局面もみられたものの,総じて景気は頭打ち状態となつた。また,フランス,イタリアでも年後半より景気の拡大テンポが鈍化し,英国では景気の後退色が強まつた(OECD見通しによれば,OECD加盟国全体の実質経済成長率は,78年の3.9%に対し79年は3.4%)。
(ロ) 物価面では,年初から各国において上昇が目立ちはじめ,特に年央以後,石油価格の高騰や国内要因によるインフレ圧力などを反映して,騰勢が強まつた。すなわち,米国や欧州諸国では年初来10%前後の上昇率を示す一方,比較的物価水準が落ち着いていた日本,西独でも年後半以後騰勢が強まり,各国ともインフレ抑制が重要な政策課題となつた。
(ハ) 雇用面をみると,米国では自動車業界のレイオフの増加もあつて一進一退の情勢が続いた。一方欧州諸国においては,西独では改善基調を持続したものの,他の主要国では景気拡大テンポの鈍化から,悪化傾向を示した。またわが国では,厳しい雇用情勢が続くなか,僅かながら改善傾向がみられた。
(ニ) 国際収支面では,石油価格の大幅な引上げに伴い,OPEC諸国の経常収支の黒字が拡大する一方,先進国の経常収支は大幅に悪化するなど,78年とは様変わりの様相を呈した。すなわち,78年には45億ドルにとどまつたOPEC諸国の経常黒字は,79年には670億ドルに達するものと見込まれるのに対し,OECD諸国の経常収支は,78年の103億ドルの黒字から,79年には374億ドルの赤字に転ずるものとみられている(OECD見通し)。
一方,78年中にみられた先進国間の大幅な収支不均衡は,景気動向や為替相場の変動から,79年にはかなりの変化をみせた。すなわち,米国の経常赤字は,78年の135億ドルから,79年には3億ドルと顕著に縮小する一方,わが国の経常収支は78年の165億ドルの黒字に対し,79年には石油価格の高騰から,一転して83億ドルの赤字となつた。また,欧州諸国でも,経常収支は総じて悪化した。
(ホ) このように,79年の先進国経済は,おおむね景気が鈍化するなかで物価の上昇と石油輸入額の増大による国際収支の赤字傾向が強まつた。かかる情勢下,世界経済の安定的拡大を持続させていくためには,インフレの抑制が極めて重要であり,また,エネルギー問題に積極的に取り組むことが肝要である。さらに,保護主義を排し着実なインフレなき成長を達成するため,各国が今後とも協調的努力を継続することが必要である。
(2) 開発途上国経済
(イ) 79年の非産油開発途上国の経済は,先進国および石油輸出国の経済成長率が鈍化するなかにあつて,実質成長率(GDP)は5.4%(IMF推計)を記録したが,地域別にみるとかなりの相違がみられる模様である。アジア地域では,ほとんどの国で物価上昇と貿易収支の悪化が顕著となり,インフレ対策と国際収支対策に格段の努力が払われるなかで成長率が低減したと思われる。アフリカ地域では成長率は低下したものの,中南米地域,中近東地域はともに78年を上回る成長率を示したものと見込まれている。
非産油開発途上国の経常収支赤字は77年を底にしてその後赤字幅が拡大し,79年には約525億ドル(IMF推計)に達した模様である。物価面では74年以来高水準を続けていた消費者物価は,78年には若干改善を示したものの,79年には29.2%(前年比)となつている(IMF-IFS)。
(ロ) 79年の産油国経済は,実質成長率(GDP)1.7%(IMF推計)という73年の石油危機以来最低の水準を記録した模様である。これは同年における石油部門ならびに非石油部門の生産がともに低調だつたことによる。経常収支黒字は,78年と全く対照的に輸出の増加と輸入の横ばいのため680億ドル(IMF推計)と前年比約10倍に拡大した。79年における輸出増加の主因は石油価格の大幅上昇である。一方,79年にみられた輸入の横ばい現象は,非石油部門の成長鈍化によつて引き起こされたものである。物価面では,十数%台で推移していた消費者物価は,各国の厳しい金融引締め政策の効果もあり,78年には9.1%と鎮静化したものの,79年には再び高騰のきざしを見せている(IMF-IFS,79年7~9月・前年同期比11.4%)。