6. インドシナ難民問題

(1) 75年のインドシナ3国における政変後,インドシナ諸国から流出する難民は,ヴィエトナム軍のカンボディア介入,中越紛争などインドシナ地域における情勢の悪化に伴い,79年春以来急激に増加した(7月末,近隣諸国に一時滞在する難民数は約36.4万人)。

大量の難民流出は単に人道上の放置できない問題であるばかりでなく,近隣諸国,なかんずくASEAN諸国に対し経済的・社会的負担を増大させ,アジア・太平洋地域の不安定要因になるに至つた。

かかる情勢に伴い難民問題に対する国際世論は急速に高まり,6月,東京で開催された先進国首脳会議では特別声明が発表され,引き続きインドネシアのバリ島で開催されたASEAN拡大外相会議においても主要議題となつた。また7月,ジュネーヴで国連の主催によりインドシナ難民問題国際会議が開催され,人道的観点から本問題が取り上げられ,予想以上の成果を挙げることができた。更に,カンボディア難民のタイヘの大量流入の事態に対しては,11月国連の主催によりカンボディア民衆救済拠出誓約会議が開催された。このようにインドシナの難民問題は,79年の国際政治の上で最も深刻な問題の一つとなつた。

因みに,79年1月より80年2月までの間に近隣諸国に流入した難民数は,海路難民約20万人(いわゆるボート・ピープルで主としてヴィエトナム人),陸路難民約7.4万人(主としてラオス人)である。更に,タイ・カンボディア国境周辺及びタイ領内キャンプには,約90万人のカンボディア難民が存在する。

(2) わが国はアジアの一国として,人道的見地及び国際協力の観点より,ヴィエトナム政府に対し難民流出を抑制するよう働きかけてきたほか,この問題解決のため次のような貢献を行つた。

(イ) 資金協力など

わが国は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のインドシナ難民救済計画79年所要経費の50%を負担することを決定し,インドネシア,ガラン島の難民一時収容センター建設計画及びフィリピン大規模難民センター建設計画への拠出をも含め,UNHCRに対して6,500万ドルを拠出した。更に,タイへ流入したカンボディア難民,カンボディア国内の被災民及びタイ疎開民を救援するため,国連児童基金(UNICEF),赤十字国際委員会(ICRC),世界食糧計画(WFP)及びタイ政府に対し,資金協力に加え,米,その他の食料品,車両,医薬品の供与を行つた。

UNHCRへの拠出を含めると,わが国のインドシナ難民に対する79年度の資金協力総額は約9,000万ドル(約200億円)にものぼる。

(ロ) 医療協力など

わが国は資金協力のみならず,医療面をはじめとして難民救援活動に対し官民あげて積極的に協力を行つた。80年3月末までに政府ベースの医療チーム5班及び日赤チーム3班が派遣されたほか,医療協力の一環として総額3億600万円の医療センターをタイのカンボディア人キャンプに近いサケオに建設した。同センターは政府派遣の医療チームの活動の拠点となり,カンボディア難民はもとより周辺地域のタイ人住民の検診にもあたつており,タイ政府から高い評価を受けている。

また,水資源調査団が派遣され,カオイダンの難民キャンプにおいて深井戸2本の掘削に成功した。このようにカンボディア難民に対する救済は一応軌道にのり,今後は難民のニーズを見極めながら,中長期的観点に立つて教育,職業訓練などの方面においても積極的に協力していくこととなろう。

(ハ) 難民の本邦受入れ

わが国は難民の定住受入れについて,国情を踏まえ鋭意努力を行つた。4月及び7月に定住条件の緩和を行い,80年3月末現在,本邦に定住を許可された難民は325人となつた(定住受入枠は80年3月末現在500人であるが,この定住枠は定住の進捗状況に応じ漸次拡大する方針である。さらに定住枠とは別にインドシナ諸国から元留学生など約740名に対し定住を許可している)。

他方,わが国は難民の本邦定住を促進するため,11月,アジア福祉教育財団(外務省所管)に難民事業本部を設け,本邦定住難民に対する日本語教育,職業訓練,職業紹介などの実施を委託した。難民事業本部は姫路市及び大和市に定住促進センターを開設し,日本に定住を希望する難民に日本語教育などを行つている。また,わが国は定住条件適格難民を調査するため,80年3月までに適格者調査団を東南アジア諸国の難民一時収容キャンプに6チーム派遣し,その結果400人余りの定住条件に適格する難民より本邦への定住申請が行われた。

また,海上で救助されて本邦に一時滞在する難民の受入れは3,344人に上り,うち1,369人が現在でも第三国定住を待つてわが国に一時滞在している(80年3月末現在)。

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