3. 東南アジア諸国連合(ASEAN)

(1) ASEANの動き

(イ) 全 般

ASEAN(AssociationofSouthEastAsianNations=東南アジア諸国連合)とは,東南アジアに位置するインドネシア,マレイシア,フィリピン,シンガポール及びタイの5カ国が地域の平和と発展を図ることを目的として創設した地域協力機構である。

1967年8月に発足したASEANは,76年2月のバリ島で行われた第1回首脳会議以来,政治・経済面の域内協力の推進と域外先進諸国との対話の強化に具体的成果をあげつつあり,いまやASEANの動向は,ASEAN加盟各国の動向と並んで,東南アジアの平和と安定に不可欠の重要性を有するに至つている。

特に79年においては,ASEANは,ヴィエトナムのカンボディア侵攻,中越武力衝突,インドシナ難民の大量流入といつた一連の事態を,75年の南ヴィエトナム陥落以来の対外的な脅威として深刻に受けとめ,加盟国間の政治的結束の強化と友好国との協力の拡大を通じ難局の乗切りに努力した。

他方,経済面においては,ASEANの域内経済協力が着実に進展したほか,日本,米国,豪州,ニュー・ジーランド,ECなど域外諸国との関係強化の努力も引き続き行われた。

(ロ) 政治面での協力

79年のASEANの動きの最大の特徴はヴィエトナムのカンボディア侵攻,中越武力衝突,インドシナ難民の大量流出など一連のインドシナ情勢の展開を背景に,政治面でのASEAN協力の一層強化,活発化がみられたことである。

具体的には78年末から79年初頭にかけての越の対「カ」侵攻,中越紛争の勃発に際しASEAN諸国は1月には特別外相会議共同声明を,2月にはASEAN常任委員会議長声明を発出し,それぞれ外国軍隊の早期撤退と紛争の拡大防止を呼びかけた。また79年央に至り,カンボディア紛争の拡大とインドシナ難民の大量流出のきざしが明らかになるに及び,6月に第12回ASEAN外相会議(バリ島),8月には臨時外相会議(クアラルンプール)を開催し,紛争の拡大防止と難民流出に対する厳しい態度を盛り込んだ共同声明を発出した。

他方,ASEAN諸国は国連においても共同歩調を強化し,その結果11月の第34回国連総会で「カンボディア情勢に関するASEAN決議案」が圧倒的多数で採択されるという成果を挙げた。

更に,12月には,クアラルンプールで臨時外相会議を開催し,マレーシア外相をASEAN常任委員会議長の資格で訪越させるなどを内容とする共同声明を発出するなど,ASEANとして「カ」問題の平和的解決のため積極的なイニシアティヴをとる意向を明らかにした。

このほか79年においてASEAN各国間には,以下のとおり首脳間の活発な相互訪問が行われたが,かかる動きもASEANの政治面での結束強化への努力を示すものといえよう。

(ハ) 域内経済協力

79年においてもASEANの域内経済協力は,引き続き着実に進展した。他方,このような協力が進展した反面,いくつかの協力案件については加盟国間の意見の対立が表面化する局面もみられた。

(a) 産業面での協力 第1号ASEAN工業プロジェクトであるインドネシアの尿素肥料プロジェクトに対し,わが国が総額475億円の資金協力を決定し(79年交換公文署名),本プロジェクトは実施段階に入つた。また,同12月,ASEAN各国によるASEAN工業プロジェクトに関する基本協定と,インドネシア,マレイシアの尿素肥料プロジェクトに関する補足協定の署名を完了した。

(b) 貿易面での協力 76年2月のバリ首脳会議で合意されたASEAN域内特恵については,77年2月に「ASEAN特恵貿易協定」が署名され,これに基づき,米,原油などの基礎物資,ASEAN工業プロジェクト製品,ASEAN域内貿易拡大のための商品,その他加盟国の関心品目に対して域内特恵が適用されることとなつていたが,具体的な品目については,まず,77年6月の第4回経済閣僚会議で決定された71品目が78年1月1日から域内特恵対象品目として実施されていた。それ以後累次の経済閣僚会議で対象品目が追加されてきており,79年9月の第8回経済閣僚会議で更に1,001品目が承認された結果,79年末現在では本制度の対象品目は2,327品目に達している。

(c) 基礎産品,特に食糧及びエネルギーにおける協力 77年1月の第3回経済閣僚会議では米と原油の緊急時における域内優先供給,買付けについて合意をみたが,その後79年8月初めて開催されたASEAN農相会議で「ASEAN食糧安全備蓄協定」の仮調印が行われ(10月,正式調印),ASEAN緊急時米備蓄制度を創設,初年度5万トンの備蓄が行われることとなつた。その内訳は,インドネシア1万2,000トン,マレイシア6,000トン,比1万2,000トン,シンガポール5,000トン,タイ1万5,000トンとなつている。

(d) 国際経済問題などに関する協力 ジュネーヴでのガット多角的貿易交渉(MTN),東京ラウンドあるいは,UNCTADにおける共通基金及び個別商品協定交渉,さらには豪州の新航空政策に関する交渉などにおいてASEANは内部の意思疎通を密に行い,グループとして一致した姿勢で臨んだ。

(ニ) 域外国との関係

域外先進諸国との協力関係については,前述のとおりASEANが対外危機乗切りのため,域外友好国との協力関係の強化を図つたこともあり,79年においてはこれら諸国との協力活動は活発化し,特に7月にはASEANと日,米,豪,ニュー・ジーランド,ECの10カ国外相会議が開催された。79年から80年初めにかけて開催された域外諸国との主要な会議は以下のとおりである。

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