第4節 諸外国との相互理解の促進と

文化交流

世界の諸国との文化交流は,わが国に対する諸外国の理解を深め,国際友好親善を促進していく上において極めて重要である。各国間の相互依存関係が強まりつつある今日,文化交流を通じて言語,習慣,文化的伝統などそれぞれの社会の基盤について相互の理解を深め心の触れ合う関係を培つていくことはますます緊要となつているので,政府としては,国際交流基金などを通ずる諸般の文化交流活動を外交政策の柱の一つとして一層拡充強化していく考えである。

世界の主要諸国は,文化交流の重要性を認識し,その活発化に努めており,政府又は政府関係機関の手により文化交流活動を盛んに行つている。もとより文化交流に当たつては民間のイニシアティヴを尊重し,これを主体とすることが必要であるが,多額の費用を要するものや高度の専門知識を要するものなど民間のみの活動によることにはおのずから限界があるものもあるので,民間レベルでの交流を補完し,またその円滑な展開を可能ならしめる基盤をつくる必要がある。政府は,このような観点から世界各国との文化交流を安定した基盤の上で組織的・効率的に行うため,1972年10月,特殊法人国際交流基金を設立した。基金は発足以来,人物交流(わが国の学者,芸術家,スポーツマン,文化人などの派遣,外国からの日本研究者,学者,芸術家などの招へい),わが国の美術などを紹介する展示会,わが国の伝統演劇や音楽などを紹介する公演,日本研究の促進,日本語普及の協力・援助など多岐にわたる活動を行つている。政府は基金に対する出資金を順次追加し,79年度までの出資金は450億円,同年度の基金予算額は約50億円となつた。基金の事業はほぼ全世界に及んでいるが,アジア,北米地域が比較的大きな割合を占めており,両地域で全事業予算の約5割を占めている。このような基金を通じた文化交流活動のほかに,わが国はユネスコや東南アジア文相機構などの国際機関を通じて各国との間に専門家の派遣,フェローの受入れなどの協力や諸外国からの留学生に対する配慮,東南アジアの日本留学経験者の日本への招へい,青少年交流なども,文化交流活動の一環として行つている。

文化交流の推進に当たつては,わが国の文化を広く海外に紹介することによつて対日理解を深めることが重要であることは言うまでもないが,これと並行して諸外国の文化を理解しようとする努力を行うことも必要である。特に独自の伝統の上に新しい国造りを進めている開発途上国との文化交流の実施に当たつては,わが国文化のこれら諸国に対する一方的な紹介のみでなく,これらの諸国の優れた文化のわが国への紹介にも特に努力を傾注することによつて,より良い相互理解の基盤を醸成していくことが重要であり,政府としてもこのような努力を今後とも一層強化していく考えである。

特に,開発途上国に対しては従来の形での文化交流のみならず,これら諸国の文化,教育の振興に寄与するための協力を行つていく必要がある。これは,開発途上国に対し,経済面に偏らない,いわば,「物心両面にバランスのとれた」援助を行い,これら諸国の真の国造りに協力するためである。政府は,このため75年度より文化無償協力を実施しており,またユネスコ・キャンペーンによる開発途上国の遺跡保存事業に対しても資金を拠出している。また,わが国はASEAN域内文化交流の促進を目的として78年にASEAN諸国が設立したASEAN文化基金に対して,78年12月,79年8月の2回に分けて50億円を拠出した。さらに,79年5月マニラで大平総理大臣が提唱した「人造り」協力の一環として,ASEAN諸国の青年のための奨学金制度を80年度より発足させ,毎年100万ドルの奨学金をASEAN諸国に対して供与することとしている。

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