3. 原子力平和利用の確保への努力

石油代替エネルギーとして当面最も信頼性の高いもののひとつである原子力発電の促進の必要性に対する認識は,石油危機後ますます高まつており,特に79年6月,OPEC総会直後の東京サミットでは,「原子力発電の促進なくして国民経済の安定的発展はない」旨の強い宣言が出された。わが国の原子力発電は79年末現在,総発電容量の12%に達しており,絶対量(1,500万kW)としても米国に次ぎ第2位である。

他方かかる原子力開発の促進のためには,国内的に原子力の安全性の向上,環境問題の解決などの努力を払うのと並行して,国際レベルにおける核拡散防止問題に十分慎重に対処する必要がある。すなわち,原子力平和利用には,元来これに伴う核拡散の危険をいかにして防止するかとの問題が常に存在しており,74年5月のインドの核実験を契機として,核拡散の危険が強く危惧されるようになり,米,加,豪など供給国は核拡散防止のため,諸外国の原子力平和利用に対して厳しい規制(例えば再処理や国外移転に対する事前同意権)を加える政策をとるに至つた。

かかる国際的な動きに対し,わが国は,核拡散防止のための国際的努力には,世界の平和及びわが国自らの安全のためにも積極的に協力するが,他方わが国の原子力平和利用に対する不当な制約は排除するとの基本的方針に従つて活発な外交活動を行つた(このための努力の一環として外務省は79年4月原子力課を新設した)。特に,79年においては,米国の提唱により原子力平和利用と核拡散防止の両立を図る技術的方策を探求するため77年より開始されたINFCE(国際核燃料サイクル評価)のとりまとめの作業が鋭意進められ,その結果,80年2月末の最終総会をもつて,INFCEはその2年4ヵ月に及ぶ検討作業を完了した。当初からの申合わせにより,INFCEの結果は参加国政府を拘束しないこととなつているところ,今後はINFCEの結果を踏まえつつ政府間交渉,協議の場を通じ新しい国際原子力秩序造りのための努力が行われることとなつた。

このほか79年中の注目される動きとしては,77年10月以降IAEAの場において検討が続けられていた核物質防護(核ジャック防止)のための国際条約が79年10月にウィーンで開催された第4回会議において採択され,80年3月3日以降署名のため開放されることとなつたことが挙げられる。

この条約は核物質及び原子力施設に対する不法行為などに対処せんとするものであり,核拡散防止のための国際秩序造りの上で画期的な意味をもつと考えられる。

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