2. 南北問題解決への努力

(1) 79年の南北対話に至る背景

(イ) 70年代の開発途上国の開発実績に大きなバラツキが見られた結果,一方では急速に工業化を進め,先進工業国をはるかに上回る1人当たりGDP成長率を実現した中進国が抬頭し,他方では0.2%というほぼ「静止」した状態の経済を抱える貧困開発途上国(主としてアフリカ諸国)が生まれ,開発途上国間の経済格差が歴然としてきた。この結果,開発途上国側の開発ニーズもその発展段階に従つて多様化し,南北交渉においても南側の利害の分化が表面化するに至つた。かかる傾向に拍車をかけ,南側内部の利害対立を浮彫りにしたのが「石油」を巡る産油国と非産油国の動きであつた。

(ロ) 近年における石油価格の高騰は第2次石油危機の発生をもたらし,北側の援助「余力」を減退させたばかりでなく,非産油開発途上国の経済困難に拍車をかけ,これら諸国のOPEC諸国に対する不満を顕在化させた。

(2) 第5回UNCTAD総会

(イ) 前述の如き情勢を背景に79年5月マニラで開催された第5回UNCTAD総会は,同年における最大の南北交渉であつた。同総会は,最終的には保護主義(構造調整を含む),一次産品総合計画,実物資源の移転,技術移転,後発開発途上国問題,開発途上国間経済協力などの重要問題について南北間の合意が得られ,限定的ではあるが着実な成果を挙げたと言い得よう。しかしながらMTN,補足融資,国際通貨制度,債務などの問題については実質的進展がなく,開発途上国側に不満を残すこととなつたことは否めない。

(ロ) 包括的南北交渉ラウンド(グローバル・ネゴシェーションズG.N.)南北対話の潮流の変化を示すものとして前記UNCTAD総会において注目された重要な出来事としては,これまで国連においてはタブー視されてきたエネルギー問題の検討が同総会における「相互依存」問題の審議の際,ラ米の非産油開発途上諸国により主張され南側内部で深刻な対立を引き起したことが挙げられる。非産油開発途上国のかかる動きはその後更に進展し,同年7月ジュネーヴで開催された経済社会理事会では相当数の非産油開発途上国が直接,間接にOPECの石油価格政策を非難するところまで発展した。かかる非産油開発途上国の動きに対する宥和策としてOPEC創設以来のメンバーであるアルジェリアは同年9月の第6回非同盟首脳会議において,エネルギー問題を他の分野における南北間の経済問題と絡めて交渉するため,エネルギー,一次産品,貿易,開発,通貨・金融の5分野を対象とする包括的南北交渉ラウンド(グロバール・ネゴシエーションズ)を国連で行うべしとする提案を行い,同首脳会議の支持を得た。その後同提案は国連全体委員会での討議を経て,79年の第34回国連総会で審議された結果,前記全体委員会で議題の決定,交渉手続などの準備作業を行つた後,80年の経済特別総会(8月25日~9月5日)でG.N.を開始することが決定された。G.N.は前記5分野を対象とする包括的な南北交渉ラウンドであることにおいては,76~77年のCIECと並ぶものであるが,その参加が全国連加盟国に開放されている点でこれを上回る規模のものといえよう。わが国としてはG.N.が80年代前半における最大の南北交渉に発展する可能性を秘めていることに留意しつつ,CIEC以降,産消対話の重要性が言匿われながら,何ら実質的なエネルギー対話が実現しないまま石油価格は高騰を続けており,かかる国際エネルギー情勢悪化の影響を最も強く受けているのは非産油開発途上国であり,これら諸国の直面する諸困難を軽減するための国際的な協力が必要であるとの認識に立ち,これまでも全体委員会における準備作業(第1回80年4月,第2回同年5月)に積極的に参加し,南北双方の合意の形成に努めてきている。

(3) 新国際開発戦略(新IDS)の策定

80年8月下旬に開催が予定されている国連経済特別総会では,G.N.の議題,手続などと並び第3次国際開発戦略が採択されることになつており(国連総会決議33/193),このため国連の場において79年初めより80年4月末までに5回にわたり新IDS準備委員会が開催され,策定作業が進められてきた。

わが国としては,新IDSは80年代あるいはそれ以降における南北協力関係のフレームワークを定めるものであるとの認識に基づき,同戦略の策定作業にはこれまでも積極的に取り組んできたところであるが,新IDSの性格を巡る南北の意見対立,G.N.という大きな交渉が後に控えていることによるモメンタムの喪失,及びG.N.との交渉課題の重複などの事情により準備作業の進捗は思わしくなく,前述の経済特別総会における同開発戦略の採択が危ぶまれている情況である。

(4) 一次産品共通基金

79年3月に合意された共通基金の基本的要素に基づき,当初,同年3回の暫定委において,共通基金協定の草案を採択すべく交渉が行われたが,各地域グループの主張を取り入れた統一協定文の作成には至らず,80年2月に更に第4回暫定委が開かれ,改めて統一協定案作成作業が継続された。しかし,協定作成交渉の内容が,技術的,専門的なこともあり,全般的にG77内部の検討作業が遅れ気味であり,他方,主要問題に対する地域グループ間の歩寄り(主にG77とBグループ)もみられなかつたため,第4回暫定委までの議論に基づき,議長が,妥協案を作成し,それを交渉のベースとして行詰まりを打開すべく80年4月に第5回の暫定委が開催されることになつた。かかる経緯を背景に開催された第5回暫定委においては,上記議長案をベースに審議が進められ,全12条のうち機構関連部分については,投票権の配分,発効要件などいくつかの主要問題を除き大部分実質合意が達成された。一方,CFの資本構成を定める第4条及び第5条についてはまだ相当数の係争点が存在し,南北の隔たりは依然残つたが,第5回暫定委においては,議長の主宰する非公式会合においてこれらの係争点をリスト・アップし,地域グループ間のパッケージ・ディールを行う動きも表面化しはじめ,交渉会議において未解決の問題について包括的な政治的解決が行われる下地を形成したと言える。

(5) ガット東京ラウンド交渉

79年妥結をみた東京ラウンド交渉においては,世界貿易を規律する枠組みの改善(いわゆる「フレームワーク」)について,"ガット第1条の最恵国待遇原則にかかわらず,開発途上国に対する特別優遇措置を与えうる"(いわゆる「授権条項」)などの規定を含む合意が作成され,ガット総会で決定されたほか,同交渉で作成された非関税措置に関する各種協定などにおいても種々の対途上国特別配慮が盛り込まれた。また,関税引下げなどに関する2国間交渉においても,わが国として途上国関心産品につきできる限りの配慮を加えオファーを行つた(なお,途上国が特に関心を有する熱帯産品については,特に優先的交渉分野として取り上げ,76年に交渉を終了し,77年より交渉結果を実施している)。

(6) わが国の政府開発援助

政府開発援助(ODA)の量については,79年において総額で78年の約4,663億円から約5,781億円へと24%の増加となつた。しかしながら対GNP比率においては78年の0.23%から0.26%へと着実な改善を示したものの,依然,DAC加盟諸国水準(78年平均0.35%)からは程遠い状態にある。わが国は,ODAの対GNP比0.7%の目標を受諾しており,この目的達成のため最大限の努力を行うこととしている。かかる政策意図の表われとして,わが国の79年度のODA事業予算は,総額8,402億円と前年度比16.4%増となつている。また,後発開発途上国(LLDC)及び石油危機により深刻な影響をうけた国(MSAC)に対しては,過去のODA債務救済のため同等措置としてアンタイドの新規無償資金供与を実施中である。

(7) 地域開発金融機関

地域開発金融機関に対する協力としては,アジア開発銀行において最大の出資国となつており,アフリカ開発基金に対しては80年には最大の出資国となつた。また米州開銀に対しても域外最大の出資国となつている。

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