第2節 国際経済など多数国間問題
解決への努力
1. 世界経済の調和的発展への貢献
<1979年の世界経済>
世界経済は年初来,改善傾向を示したが,相次ぐOPEC諸国の石油価格引上げの影響などにより,石油を含む一次産品価格の上昇が物価の騰勢を強める一方,先進国経済のスローダウンがみられ,いわゆるスタグフレーションの傾向を強めた。さらに厳しい雇用情勢,生産性上昇率の低下,産油国と非産油国間の国際収支不均衡の拡大など,多くの問題が存在している。
先進国経済は,わが国,西独が景気上昇を続けた一方,長期にわたり拡大を続けてきた米国経済が基調として下降局面に転じ,英,仏などでも拡大テンポが鈍化するなど,全体としての上昇テンポは緩やかなものとなつた。OECDの見通しによれば79年のOECD加盟国全体の実質経済成長率は3.4%(実績見込)で,78年(3.9%)よりも低下した。
物価については,先進国全般に国内要因によるインフレ圧力があり,それに石油価格及びその他一次産品価格の上昇が加わり,各国とも物価が高騰した。
雇用面は,米国では一進一退の情勢が続いたが,西独では改善基調を持続し,他の主要国では景気拡大テンポの鈍化から悪化傾向を示した。
国際収支面では,石油価格の上昇に伴い,OPEC諸国の経常収支黒字が拡大する一方,先進国,非産油開発途上国の経常収支の大幅悪化が生じた。他方78年にみられた先進国間の国際収支不均衡は,景気動向や為替相場の変動から米国の赤字の縮小,わが国,西独の経常収支の悪化がみられ,不均衡が是正された。
為替相場は,79年前半には主要国間の国際収支不均衡の是正や協調的介入などのために比較的平穏に推移した。しかし年央頃から石油価格引上げ,米国のインフレなどによりドルが9月に急落したが,米のインフレ抑制,ドル防衛措置を契機に持ち直した。他方,金価格は産油国のドル離れに対する思惑などで,79年12月に異常な急騰を示した。欧州では79年3月に欧州通貨制度(EMS)が発足したが,比較的順調に機能している(9月及び11月に中心レートを調整)。
世界貿易は78年には引き続き対前年比数パーセントの伸びを示したが,79年は先進国経済のスローダウンなどもあり,貿易の伸びが鈍化したものとみられる。
79年初めはイラン革命の影響で石油需給は逼迫し,さらにOPEC諸国の相次ぐ石油価格引上げによる石油価格の高騰,石油供給の不安定化という事態が生じた。これに対応するため,先進国はIEA,東京サミットなどの場を通じて石油消費抑制,代替エネルギー・新エネルギーの利用・開発促進に努力した。他方,石油価格の高騰は石油輸入国ヘインフレをもたらすとともに,実質所得の移転によるデフレ効果をもたらし,さらに産油国・非産油国間の経常収支の不均衡が拡大し,産油国にたまつたドルのリサイクリングの問題が懸念されはじめた。
<国際協力の推進>
79年は国際経済の諸問題の相互関連性が認識されるとともに,これらの問題の解決のためには短期的政策のみならず,中・長期的観点からの政策も必要であることが強く認識された。
79年を最も動揺させたのはエネルギー問題であり,国際協力も特にこの問題に関して行なわれた。IEAでは3月の理事会で約200万B/D(5%)の石油消費削減が合意され,また6月に開かれた東京サミットにおいては先進7カ国が79年,80年のみならず85年についても石油の輸入・消費抑制目標として具体的数値を定めるとともに,代替エネルギーの開発促進,新エネルギーの研究・開発についても合意をし,先進国側のエネルギー問題に対処する基本的姿勢を明らかにした。9月には,東京サミットでの合意の具体的実施などに関し,エネルギー大臣会議が開かれた。さらにイラン問題を背景とする石油供給不安,メジャーのサード・パーティヘの供給削減などもあり,12月にはIEA閣僚会議が開催され,IEA全加盟国の80年及び85年の国別目標及びIEAのグループ輸入目標の下方修正が合意された。
成長・雇用・インフレの問題に関しては,東京サミットで,ボン・サミットで合意された協調的需要管理政策を現状に適合させつつ引き続き行うことが合意されるとともに,これらの問題に対処するためには需要管理政策のみならず,中・長期的観点から構造政策も重要であることが強調された。
貿易面での79年の最大の成果は,約5年半にわたつて行われてきたMTN東京ラウンドが妥結したことである。東京ラウンドの妥結は,各国が困難な国内事情を抱えつつも自由貿易体制の維持・強化をめざして結集し,その努力が具体的成果として結実した点に大きな意義がある。交渉の結果,関税の引下げとともに,各種の非関税措置に関するコード類と今後の新しい貿易の枠組みに関する合意ができた。MTNは80年1月1日から実施されている。
79年は,80年代の南北問題の展開の契機となるような動きがみられた。この点は2.で詳述する。
<わが国の国際協力>
わが国の世界経済に占める地位が拡大するにつれ,世界経済の諸問題の解決に対するわが国の貢献が期待されるとともに,わが国の経済発展のためにも国際協調が緊要となる。わが国は79年には内需拡大,経常収支不均衡の是正などに努め,他の諸国との調和ある発展に努力してきた。また79年はサミットが東京で開催され,わが国は議長国として尽力し,世界経済の安定的拡大のために実質的成果をあげることができた。さらに,東京ラウンド交渉の妥結のために,わが国は積極的貢献を行い,わが国も80年4月に,同交渉の成果の実施のための国会承認を得ることができた。最近の経済問題は一国の力のみでは解決し得ない問題が多々あり,これらは先進国間及び先進国と開発途上国との間の協調を通じて解決に努力していく必要がある。わが国は米国・EC諸国などの主要先進国との協調,開発途上国をも含めたマルチの場などにおいて積極的な役割を果たしていく必要がある。