第3章 わが国の行つた外交努力
第1節 各国との関係の増進
1. アジア地域
(1) アジア全域
アジアは,わが国がその平和と発展に主要な役割を果たすべき地域である。1979年のアジアにおいては,ヴィエトナムによるカンボディア軍事介入,中国のヴィエトナム領進攻,インドシナ難民の大量流出などのインドシナ情勢をめぐる緊張の高まり,また,ソ連のアフガニスタン軍事介入に伴う西アジア地域における新たな緊張の生起などの不安定要因が見られたが,他方,日中・米中間の友好協力関係の一層の拡充,ASEAN諸国の安定と発展への着実な動き,更に朝鮮半島における南北対話再開への動きなど安定と発展への動きも見られた。
このようなアジア情勢を背景に,わが国は,不安定要因を除去し,安定要因を助長することにより,アジア全域にわたる平和と繁栄を構築するよう積極的に努力を行つてきた。
(2) 朝鮮半島
(イ) 朝鮮半島における平和と安定の維持は,わが国を含む東アジアの平和と安全にとつて重要である。かかる観点からわが国としては,同地域の安定と緊張緩和に資するため,米国及び中国など朝鮮半島情勢に大きな関心を有している諸国との意思疎通を深める努力を行うとともに,実質的な南北対話の再開に向けての国際環境造りに貢献するよう努力している。
79年に行つた主要関係諸国との意見交換としては,トウ小平中国副総理・大平総理大臣会談(2月),カーター米国大統領・大平総理大臣会談(5月及び6月),華国鋒中国総理・大平総理大臣会談(12月)などがある。
また,南北対話については2月から3月にかけて3回にわたり南北接触が行われた後中断されたが,朴大統領死亡後の新しい事態をうけて,80年1月に北朝鮮側が南北対話再開を呼びかけたことを契機として,同2月から南北総理会談開催のための準備会談が板門店において行われている。わが国としては,南北双方が対話再開に取り組む姿勢を示していることは好ましいことと考えており,これが実質的対話に発展することを希望しつつ,朝鮮半島地域の情勢の推移を注視している。
朝鮮半島の平和と安定については南北間の均衡が重要であるという現実も続いており,同地域のデリケートな状況をわが国の施策の上でよく勘案することが引き続き必要となつている。
(ロ) わが国は韓国との友好を重視し,両国間に緊密な協力関係を堅持するよう努力している。79年には韓国の朴大統領の死去という大きな事件があつたが,わが国としては同大統領の死去を悼む大平総理大臣の談話の中で日韓友好関係が変わることなく発展してゆくことを確信する旨述べるとともに,その後も各種の機会に日韓友好協力関係を引き続き重視し,その増進に努めることを明らかにしている。
また韓国の政治発展の問題については,韓国の国内問題であることをふまえつつ,緊密な関係にある友邦として韓国の政府首脳が明らかにしているように,これが実を結ぶことを期待する立場である。
(ハ) 北朝鮮との間では貿易,経済,文化などの分野における交流を漸次積み重ね,相互理解をはかる方針を維持している。
(3) 中 国
(イ) 78年の日中平和友好条約締結後の日中関係の発展はめざましく,あらゆる分野で一層の拡がりと深まりをみせている。まず,経済・貿易関係をみると,国交正常化以来の7年間に貿易往復額で約6倍の伸びを示しているほか,多くのプラント輸出が成約をみており,また石油・石炭・非鉄金属の開発に関する話合いも進められている。資金協力においては輸銀はじめ市中銀行が中国銀行に対しそれぞれローンを供与することが合意され,更に12月の大平総理大臣訪中の際には円借款供与の意図表明がなされた。
文化・学術交流についても近年緊密化を深めるとともに相互理解の増進が図られている。また人の往来はこの8年間に約7倍に著増しており,政府レベルの交流も頻繁になつている。
(ロ) 12月の大平総理大臣の訪中は発展拡大する日中関係を更に一歩推進させる上で大きな役割を果たした。訪問中,日中両総理は率直な意見の交換を通じ両国政府間の対話のチャンネルを太くするとともに個人的な信頼関係も築き,また日中両国政府間において円借款の供与,技術協力の増進,特恵関税の供与,文化交流の増進など日中間の交流・協力に関して具体的施策を打ち出した。
(ハ) このように両国間の交流が盛んになるにつれ,日中関係はいよいよ実質的友好・協力の段階を迎えるに至つたと言うことができよう。
(4) ASEAN諸国及びビルマ
わが国は,ASEAN諸国との友好協力関係を強化・拡充し,これら諸国とともにアジアの平和と繁栄に積極的に寄与していくことを,わが国アジア外交の主要な柱の一つとしている。また,わが国はビルマとの友好協力関係と相互理解を促進するよう努力している。
特に79年は,ASEAN諸国がインドシナ情勢の推移及びインドシナ難
民問題を自己の存在を脅かすものとしてとらえ,域内の結束を固めるとともに域外友好国に対し協力を呼びかけた年であつた。わが国は,かかる呼びかけに応え,対ASEAN協力の一層の拡充のため以下のとおりの外交努力を行つた。
(イ) まず大平総理大臣は,5月フィリピンのマニラにおける第5回UNCTAD総会に出席の機会にフィリピンを訪問し,ASEAN重視の態度を鮮明にした。またその際ASEAN有為の青年育成のため「ASEAN青年奨学金制度」の創設を提案した。ついで6月の東京サミット開催に当たつては事前に安川政府代表をASEAN各国に派遣することによりASEAN側の要望を十分に踏まえ会議に臨むとともに,同サミットにおいては「インドシナ難民に関する特別声明」の発出を関係国とともに提議し,その作成のためのイニシアティヴをとつた。また7月にはインドネシアのバリ島において開催されたASEAN各国外相と日本,米国,EC,豪州,ニュー・ジーランド各国外相との10カ国外相会議及びそれに引き続いて開催された第2回の日・ASEAN外相会議においてインドシナ難民問題に対する資金面での協力大幅拡大を宣明することによりASEAN諸国の負担軽減のために努力する姿勢を示した。また同じ場においてカンボディア問題の平和的解決を目指す国際会議の開催を呼びかけ,ASEANとの協調下に平和回復を目指す外交努力を展開した。その後,11月には,初の日・ASEAN経済閣僚会議を東京で開催し,日本とASEANの間の経済面での協力関係のありかたにつき,幅広い意見交換を行つた。
(ロ) わが国は,以上のような外交努力のほか,経済,経済協力,文化交流などあらゆる分野において対ASEAN協力に重点的に配慮してきたが特に77年にわが国が日・ASEAN首脳会議の際打ち出した各種の対ASEAN協力施策については,既にASEAN工業プロジェクト,ASEAN文化基金,ASEAN貿易投資観光促進暫定センターなど多くの具体的成果が実りつつある。
(5) インドシナ地域
インドシナにおいては,ヴィエトナムのカンボディア武力介入,中国のヴィエトナムに対する軍事行動があり,東南アジアの緊張を高めた。わが国は武力により紛争を解決せんとする全ての試みに反対する立場を貫くとともに,ASEAN諸国と協調しつつインドシナの平和回復に努力するとの外交方針を堅持した。
まずカンボディアについては,プノンペン陥落直後に開催された国連緊急安保理事会以来,わが国は一貫して,外国軍隊の関与を特に遺憾とし,外国軍隊の即時全面撤退を主張しているが,このために前述の日・ASEAN外相会議でのわが国の外交努力のほか,国連総会においてもASEAN決議の共同提案国となるなどASEANの立場を全面的に支援した。他方,ヴィエトナムに対しても,カンボディアからの撤退,紛争のタイヘの波及防止などを求めるわが国,ASEAN諸国をはじめとする国際世論の立場を申し入れるなどの働きかけを行つた。また中越紛争については,紛争の平和的解決を双方に申し入れてあつたが,中国軍の対越進攻の際には直ちに,かかる事態に立ち至つたことを極めて遺憾とし,平和回復を求める大臣談話を発表するとともに外交チャンネルを通じ,即時停戦・撤兵による平和的解決を申し入れた。中国軍の撤退後も,中越間の緊張が続いていることにかんがみ,両国間の紛争が平和的に解決されるよう中越双方に働きかけている。
(6) インドシナ難民問題
インドシナ諸国から流出する難民は,79年春以来急増し,人道上放置し得ないのみならず,アジア・太平洋地域の不安定要因となるに至つた。
かかる事態にかんがみ,6月の東京サミットにおいて,インドシナ難民問題に関する特別声明発出に努力したほか,7月には,難民問題に関するジュネーヴ国際会議でわが国は会議の成功のため積極的貢献を行つた。
また難民流出抑制,救援活動に対する協力などの点をヴィエトナムに対し申し入れた。一方,わが国は人道上の観点のみならず,タイをはじめとするASEAN諸国の負担軽減の観点から国連難民高等弁務官事務所に対し,79年インドシナ難民救済計画所要資金の50%を負担したほか,他の国際機関などへの拠出,コメなどの物資の供与,医療チームの派遣などを含めて約9,000万ドルの協力を行つた。
難民の本邦受入れについても,2度にわたり定住条件を緩和したほか定住促進センターの開設,定住条件適格者調査団の派遣など,国情を踏まえ最大限の努力を払つてきた。
(7) 南西アジア
(イ) 南西アジア地域の安定は,アジアのみならず世界の平和と安定に深い係わりを有するとの見地より,わが国は,同地域諸国との友好協力関係の増進を通じ同地域の安定と発展に寄与している。79年9月にはスリ・ランカのジャヤワルダナ大統領がわが国を公式訪問し,わが国とスリ・ランカの友好協力関係が一層促進された。
(ロ) わが国は,ソ連のアフガニスタン軍事介入の影響下にある南西アジア地域の安定維持のため,いかなる政治的役割を果たせるかを探求するため,80年3月,パキスタン,インドに園田特使を派遣し,パキスタンの安定強化のため,他国に先駆けて援助強化の意図を表明するとともに,インドではガンジー首相と国際情勢につき意見交換を行い,目印間の政治的対話を推進した。
(8) モンゴル
72年2月の外交関係樹立以来,わが国とモンゴル共和国との関係は着実に進展してきた。経済協力面では,日本・モンゴル経済協力協定によるカシミヤ・ラクダ毛加工工場建設工事が進捗し,技術協力面では,研修員の受入れ,医療機材の供与などが行われている。