-資   料-

4. 日本政府が関与した主要な共同コミュニケ等

(1) 牛場大臣とストラウス大使との間の共同声明(仮訳)

    (1978年1月13日,東京)

1. 1978年1月12日及び13日の両日,日本政府と合衆国政府は,それぞれの代表である牛場信彦対外経済担当国務大臣と大統領通商交渉特別代表ロバート・S・ストラウス大使を通じて,世界経済の拡大に資しかつ両国間の経済関係を強化するための一連の政策と措置について協議を行つた。この協議の目的は,変化しつつある世界の経済情勢及び日本と米国との間の経済関係に対する建設的な調整を容易にするような共通の政策を策定することであつた。

2. 牛場大臣とストラウス大使は,特に,失業の増大と世界的な保護主義への逆戻りを回避するためには,以下に述べられた方策を基礎として新たな方向に向う行動をとることが必要であることに意見の一致をみた。

経済成長の拡大

3. 双方は,インフレなき高水準の経済成長を達成するため主要な方策を採ることに合意した。日本政府は,最近決定をみた7%の1978年度実質経済成長目標につきあらためて述べるとともに,かかる目標を達成するため,公共支出に関し既に発表された諸措置を含め,合理的かつ適切なあらゆる措置を講じるとの意向を述べた。

米国政府は,実質的なインフレなき経済成長の維持を目的とする政策を遂行するとの意向を確認した。かかる政策の詳細は近くカーター大統領により明らかにされる。

4. 双方は,現下の国際経済情勢においては,大幅な経常収支黒字の累積は適当ではないことに意見の一致をみた。

よつて,日本は経常収支黒字の顕著な縮小の達成を目ざした方策をとつている。大臣は,1978年度においては,日本の経常収支黒字は内需の拡大,最近数カ月における円の切上げの効果及び外国商品の日本市場に対するアクセスを改善するための一連の新たな措置を通じ,大幅に縮小するであろうと付言した。現下の国際経済情勢のもとでは,1979年度以降においても均衡化を目ざして日本の経常収支黒字の一層の縮小をはかるためすべての合理的な努力が継続されるであろうし,またたとえ赤字が生じたとしてもそれは受容されよう。

米国は,輸入石油への依存度を低下させ,輸出を増大する等の措置により,その国際収支ポジションを改善し,もつてドルの価値が基本的に依拠している基礎的条件を改善する意向である旨述べた。大使は,今後90日以内に議会により効果的なエネルギー計画が立法化されるであろうとの確信を表明した。

貿易目標

5, 双方は,開放的な世界貿易体制を維持強化するため,多角的貿易交渉東京ラウンド(MTN)の促進及び早期終結を全面的に支持する。双方は,各々他の参加国と十分協力して,貿易に対する関税・非関税障壁の軽減又は撤廃のために実質的な寄与を行う。

6. 両国政府は,この交渉における双方の共通の目標は,主要貿易国に対し相互主義に基づいて実質的に同等の競争機会を与えることにより双方の貿易関係における基本的な衡平を達成することであることに意見の一致をみた。

双方の貿易関係における均等性及び双方の同等な市場の開放を達成するため,フォーミュラを超える関税引下げが行われるであろう。

この関連で,双方は,多角的貿易交渉の過程で第3国の利益を十分に考慮しつつ,同交渉終結時に,非関税措置を加味して,譲許税率の平均水準が同等のものとなることを達成するよう目指す目的で相互の関心品目についてフォーミュラを超える関税引下げを実施することを好意的に考慮するとの双方の意向を表明した。

7. 日本政府は,製品輸入を増大させるためにあらゆる適当な方策を講じる意向である。日本政府は,製品輸入の総量及び日本の輸入全体に占める製品輸入の比率が着実に増大し続けることを期待している。双方は,日米通商円滑化委員会又はその他の適切な場においてこれらの点についての進展を検討し,また必要とされるあらゆる是正措置をとることにつき意見の一致をみた。

貿易上の措置

8. 大臣は,日本が輸入増大のために以下の重要な措置をとつている旨述べた。

-20億ドルの輸入にかかわる関税の前倒し引下げの4月1日実施。

-12の産品につき,数量制限の撤廃。

-高級牛肉については,1978年度以降にホテル枠及び一般枠の中でグローバルベース1万トンの輸入増がなされるよう,相互に需要開発の努力を払う。

-オレンジの輸入を3倍の45,000トンに拡大。

-かんきつ類の果汁の輸入枠を4倍の4,000トンに拡大。

-外国為替管理制度の全面的見直し及び特に禁止されない限り全ての取引きが自由であるとの原則に基づく新制度の検討。新制度に先がけて,いくつかの当面の自由化措置が近く発表される。

-果汁の混合及び季節枠を含むかんきつ諸事情の現状と将来につき検討するため,両国かんきつ業界間のグループの設立並びに1978年11月1日までの同グループによる両国政府への報告。

-木材貿易の拡大と充実を目的として林産物スタディグループの米国北西部への派遣。

-原子力発電機器を含む重電機器の購入の可能性を探究するための調査団を米国へ派遣。

-日米通商円滑化委員会の支援による政府・業界買付け使節団の米国への派遣。

-政府調達制度の下で外国の供給者に対し実質的に機会の増大を確保するための閣議決定。

-輸入品についての検査要件の簡素化。

-日本への輸入についての信用供与の拡充。

-標準決済制度の規制の緩和。

-輸出信用面における過度の競争を抑制するための国際的努力に対する協力。

経済協力

9. 大臣は,政府開発援助(ODA)に関し,5年間に援助を倍増以上にするという日本政府の意図を再確認し,かかる努力の一環として,1978年度について提案されたODAを実質的に増加させたこと,また,ODAの質も無償援助の増加により改善されたことに留意した。大臣は,日本政府が資金援助を一般的にアンタイ化するとの基本方針を遂行していく旨付言した。

ストラウス大使は,かかる進展を歓迎するとともに,大統領は開発途上国に対する米国の二国間及び多国間援助を実質的に増大するための立法を求める意向であることに留意した。

検討手続

10. 双方は,さらに,以下につき意見の一致をみた。

-多国間及び二国間の場において相互に,また,欧州共同体を含む両国の貿易相手国と緊密に協調していくこと。

-日米通商円滑化委員会において,自由貿易主義的なアプローチを適用することにより非関税障壁を克服する目的を含め製品輸入の増大を図り,また,日本との貿易において直面する具体的問題を解決する作業を成功させるようあらゆる努力を払うことにより日本市場に対するアクセスを改善すること。

-日米経済見通し作業部会を通じ経済成長に関する諸問題とその見通しとに関し定期的な技術的意見交換を継続すること。

-今春ワシントンで開催される次回の日米高級事務レベル協議の場で,世界及び二国間の経済政策を検討すること。

-来る10月,牛場大臣とストラウス大使との会談において,これらの全ての分野における進展を検討すること。

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(2) 日・EC共同コミュニケ(仮訳)

(1978年3月24日,東京)

1978年3月22日より24日まで,日本政府と欧州共同体(EC)委員会は,各々の代表である牛場信彦対外経済担当大臣とウィルヘルム・ハーフェルカンプ副委員長を通じて,日本と欧州共同体との間の通商および経済関係に生じている問題に関し協議を行つた。

双方は,日本と欧州共同体との間の関係を強化し,また世界経済問題に対する共通のアプローチを策定すること,およびこのために二国間並びに多国間の場において緊密に協力していくことの重要性を強調した。

特に,牛場大臣とハーフェルカンプ副委員長は,以下の方策が失業の増大と保護主義への世界的逆戻りを回避することに貢献するであろうことに意見の一致をみた。

経済の拡大と国際収支

双方は,国際収支の国際的な調整における一層の進展が貿易と通貨関係の調和ある発展にとつて望ましいこと,また現下の国際経済情勢においては,大幅な経常収支黒字の累積は適当でないことに意見の一致をみた。

この関連において,双方は,国際通貨情勢の一層の安定が不可欠であるとの共通の認識を確認した。この枠組のもとに,双方は,持続的なインフレなき経済成長の達成を目的とする政策を遂行することに意見の一致をみた。

副委員長は,EC加盟国においてインフレ率及び経常収支赤字の縮小につき実質的な進展がみられ,1978年においてこの方向で一層の進展が見込まれていることに注意を喚起した。

副委員長は,更にEC加盟国間の格差の縮小は,これら諸国がEC域内の調整された政策をベースにインフレなき持続的成長を遂行する幅を広め,EC全体として1978年の間において4%ないし4.5%の実質経済成長率を目標としている旨述べた。

副委員長は,また加盟国各々の国際収支ポジションの一層の均衡を実現するために加盟国によつて引続き最善の努力が払われる旨述べた。

大臣は,日本の1978年度の実質経済成長目標は安定的な国際通貨情勢を前提とした内需の拡大を通じ7%である旨,又日本政府はこの目標を達成するため合理的かつ適切なあらゆる措置を講じる意向である旨述べた。

日本銀行が3月16日から公定歩合を3.5%に引下げたことが指摘された。

大臣は,日本政府は,1978年度の全体的な経常収支黒字は1977年度に比べて3分の1程度縮小するであろうと見通していると述べた。

最近の外国為替市場の変動は,日本経済に深刻な影響を与えているが,日本政府は,上記見通しに留意し,内需の拡大と外国商品の日本市場へのアクセスを改善するための一連の新しい措置を通じ,全体的な経常収支黒字を可能な限り縮小させるため最大限の努力を払うであろうことを大臣は述べた。

1979年度以降においても,現在の国際経済情勢のもとでは日本の経常収支黒字の一層の縮小を図るためすべての合理的な努力が続けられるであろう。大臣は,さらに1978年度の全体的な経常収支の予想される黒字幅の縮小の一環として日本の対EC経常収支黒字が減少するであろうと期待している旨述べた。大臣は,この黒字幅縮小の方向への流れの変化の兆しは,1978年の秋までに表われはじめるであろうと考えた。

双方は,一定の間隔のもとに情勢の展開と結果を共同して検討することを合意した。不定期の検討も必要に応じ開かれよう。最初のこのような検討を1978年6月に行うことが合意された。

貿易及び国際収支の一般目的

双方は,開放的な貿易体制の維持及び保護主義的傾向の防圧の重要性を強調した。双方は,この目的のため,多角的貿易交渉の成功に対し,また本年七月に最終合意の大筋をまとめるとの目標達成に対し,双方が付与している重要性を再確認した。

双方は,全般的な相互主義に基づき,MTNのすべての分野において,できる限り実質的な成果を達成することに合意した。関税に関し,双方は,交渉の過程において,相互に関心を有する品目につき,相互主義に基づき関税を引下げるためできる限り努力することに合意した。

セーフガード問題に関し,双方は,選択的適用問題に関するそれぞれの立場に留意しつつも,ガットの枠組の中におけるセーフガードに関する,相互に満足しうる国際合意を作成するため,他の参加国と全面的に協調しつつ,積極的に交渉することに合意した。

副委員長は,交渉の成功は,真に相互的な関税引下げを行うこと,及び,セーフガード措置を,妥当な国際監視の下にかつ19条の援用を通じ,選択的に適用することの可能性に関する国際合意を,ガットの枠組の中で作成することに向つての進展があることの2点に特に依存している旨述べた。

大臣は,日本は引続き無差別原則に大きな重要性を付与し,差別措置の撤廃を求める旨述べた。

大臣は,日本政府は,外国為替管理制度を全面的に見直し,特に禁止されない限り全ての取引が自由であるとの原則に基づく新制度の検討を開始する旨の意向を発表した旨述べた。新制度に先がけて,日本政府は為替管理の当面の自由化及び簡素化を進めるため,去る1月26日,11項目に及ぶ措置をとることを発表した。このうち,輸入に係る標準決済方法の緩和については3月1日から実施されており,また他の措置については4月に実施される予定である。

貿易上の措置

副委員長は,日本がその輸入における製品のシェアーを拡大させる重要性を強調した。大臣は,日本政府が製品輸入を拡大させるためあらゆる適当な措置を引き続きとる旨述べるとともに,製品輸入の総量は,大幅に拡大するであろう旨期待した。大臣は,さらに石油価格の急激な上昇後歪められた日本の総輸入におけるこれら輸入のシェアーは現下の国際経済状況下においては着実に増大し,合理的な期間内に,より通常のレベルに戻るであろうと期待した。

副委員長は,日本への輸入の一層の拡大に資するために,1978年3月4日に実施された最近の例をはじめ,日本が,一度ならず自主的な関税引下げを行つたことを歓迎した。

MTNの合意が成立した時に,それぞれの産業及び貿易の状況に照らし,一部品目につき関税前倒し引下げを行う可能性が考慮されうることが合意された。

双方は,ECの日本への輸出を促進するため,EC輸出業者が既存の市場機会を十分に活用することが重要であることにつき意見の一致をみた。かかる努力を促進するため,双方は,ECの対日輸出業者が直面する問題を検討する上で引続き協力していくことを合意した。副委員長は,日本からのECへの買付ミッションを歓迎すると述べた。大臣は,ECからの日本への販売ミッションを歓迎すると述べた。

双方は,相互主義に基づき輸入検査制度の改善のためさらに努力を継続することにつき意見の一致を見た。

この分野において,共同体からの要請を反映して,日本政府によつてとられた措置には以下のものが含まれる。

1, 輸入自動車型式認定制度の簡素化

1, 外国で実施された医薬品の前臨床実験データの主要部分の受入れ

1, 船舶用ディーゼル・エンジン輸入検査手続の大幅な簡素化

この分野における他の問題については引続き協議される。

大臣は,日本は,外国供給者に対する競争参加機会の増加がはかられるよう,政府調達制度の運用にあたつて,競争契約方式の一層の拡大,情報提供方法の一層の改善をはかる意向である旨述べた。

商標に関し,大臣は,ECの関心事項は協議を継続すること,本年6月から発効する日本の商標法の改正,また今後EC関係者からの要請を反映させるように法律の運用につき,できる限り改善を計ることによつて推進される旨述べた。

ECからの農産物輸出の分野においては,若干の進展がみられたこと及びこの分野で引続き,協力が行われるであろうことが認められた。

援助

副委員長は,日本政府が政府開発援助(ODA),就中,国際機関に対する協力をサブスタンシャル,かつ,速やかに拡大するとともに,援助を一般的にアンタイ化することを促進するよう希望する旨述べた。

大臣は,ODAに言及し,(昨年6月国際経済協力会議閣僚会議において明らかにしたとおり)5年間に援助の倍増以上の拡大に努力する旨の日本の意図を再確認するとともに,日本政府が他のDAC諸国の水準に近づけるよう可能な最善の努力を行う旨述べた。大臣は,さらに,かかる努力の一環として,1978年度におけるODA事業予算がサブスタンシャルに増加したこと,国際機関への出資・拠出等についても大幅な増加をみたこと,また,ODAの質が無償援助の増加により改善されたことに留意した。また,大臣は,日本が今後かかる努力を積極的に遂行していく旨述べた。大臣は,日本政府が足の早いプログラム援助を含むアンタイのODA借款をサブスタンシャルに増加させることにより資金援助を一般的にアンタイ化するとの基本方針を遂行していく旨付言した。

副委員長は,かかる進展を歓迎するとともに,EC加盟諸国が供与国の間で負担をより公正に分担することの必要性を強調しつつ,ODAを効果的,かつ,サブスタンシャルに増加し,また,その質の高さを維持するため引き続きあらゆる努力を行つていく旨述べた。副委員長は,EC加盟諸国としては,ODAの量が今後可能な限り予算上の困難や貿易収支上の問題によつて影響をうけるべきではないと考える旨付言した。

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(3) OECD第17回閣僚理事会コミュニケ(仮訳)

(1978年6月15日,パリ)

1. 経済協力開発機構(OECD)の閣僚理事会は,6月14日,15日の両日,宮澤喜一経済企画庁長官及び牛場信彦対外経済担当国務大臣を共同議長として開催された。

2. より持続的な経済成長を達成するための加盟国による国際的な協調的行動の幅広いプログラムの主要構成要素について並びにより高い成長,一層の物価安定,より改善された国際収支の均衡及びエネルギー政策の強化に寄与するに当つての個々の加盟国の夫々の責任について,合意が得られた。閣僚は,開放的な市場指向経済体制を維持することが,このプログラムの不可欠な一部分であることを認識しつつ,1974年5月30日の宣言(「貿易プレッジ」)を更新し,また,より速やかな経済成長を持続させるために必要な構造的調整を促進する政策の一般方針(コミュニケ附属文書)につき合意した。

3. 閣僚は,先進国と開発途上国との間で増大している経済的相互依存の貿易及び投資に対する意味合いについても考慮した。閣僚は,開発途上国がその経済を強化及び多様化すること並びにその国民の福祉を改善することを助長するような開発協力に関する建設的政策についてのコミットメントを確認した。閣僚は,開発途上国が世界経済の成長に更に十分に参加する能力は,開発途上国への援助を含む資金の流れの増大及び世界貿易の条件の改善によつて強化されるであろう旨強調した。

I 経済的背景

4. 閣僚は,世界経済情勢が,困難な状況にもかかわらず,いくらかの改善があることに留意した。積極的な経済成長が景気後退にとつてかわり,インフレは相当に低減し,失業は,米国において大幅に減少し,またいくらかの加盟国においては,就中,特別な労働力及び雇用政策を講ずることにより,緩和されており,開放貿易体制は維持され,いくらかの重要な国際収支不均衡は是正され,国際金融市場の機能が,OECD内外における大きな貿易不均衡により惹起された問題を緩和するに役立つて来ている。しかしながら,近年の実績は多くの点で失望を招くものである。即ち,成長率が不満足であること,インフレ及び失業率が依然として高すぎること,為替市場が不安定な時期にあること,一般的には市場の力を阻害し特に世界貿易を阻害するような形の政府介入を求める圧力が増大していること及びエネルギーについての将来の必要性に対する準備が不足していることである。これら事態の進行は,総ての国の福祉にとり有害であるとともに,貧困国の開発見通しに対する悪影響が特に懸念される。

5. 閣僚は,現在の趨勢が継続することによる次のような損失及び危険を認識した。

-高水準の失業率の継続は,特に若年層及び社会的弱者にとつて,経済的及び社会的損失を増大せしめている。

-外国よりの競争に対する保護及び輸出補助金を求める圧力が増大し,また一方的な貿易上及びその他の経常収支上の措置が,連鎖反応を惹起する危険が増大している。

-セクター政策,地域政策及び労働力政策においては,構造変化に対する調整をもたらす行動から現状を維持することになり勝ちな防御的性格の措置への移行傾向がある。これらの措置は,重要な点で,保護貿易措置と同様な効果を有する。高い失業率の条件下では,資金面で困難な状況にあるセクター又は企業において現在の雇用を維持するための国内的措置は,ある場合には,短期的には正当化されるかも知れない。しかしながら,その措置が大規模に継続すれば,生産性向上をもたらす動的な過程はやがては損われ,持続的なインフレなき成長は妨げられることとなろう。

-工業化が比較的遅れているいくつかの加盟国においては,移民に対する制度,景気後退による移民の帰国及び深刻な国際収支上の困難によつて,充分な雇用を創出するという課題は一層困難となつており,これらの国の開発は,世界貿易の沈滞及び保護主義の増大という状況下で,大きく損われる危険がある。

6. 閣僚は,経済成長に対する諸制約について討議した。これらの諸制約の多くは,問題を有している国にとつて,国内的なものである。即ち,高いインフレ率,低い利潤,高い輸出依存度,インフレ期待に悪影響を与えることなしに大きな財政上の赤字の資金調達を行うことの困難及び政府負債の急速な増大についての懸念である。国際収支の脆弱な国については,対外的制約もある。高いインフレ率の持続,低水準の利潤及び稼働率,国際収支の大幅な不均衡為替市場が不安定な時期にあることが相俟つてビジネス・コンフィデンスは低下した。

更に重要な要素は,将来のエネルギー供給と価格に関しての不確実性であり,これは,効果的なエネルギー政策の実施が遅れたことが一因となつている。このような条件において,民間投資は,総需要刺激策のためにとられた行動に対して期待した程には反応して来てはいない。

7. 閣僚は,これらの制約を認識しつつ,長期的完全雇用への漸進的回復を達成するに十分であり,他方隘路の再発とインフレ期待の高まりを引き起こす危険を冒す程には高くはない,緩やかだが持続的な成長を目標とした1976年の決定を再確認した。この戦略に沿つて,閣僚は失業率を低下させるため,OECD地域全体として経済成長を過去18ヵ月間の実績値よりも高めることが明らかに必要である旨合意した。拡大的需要管理政策はその果すべき役割を有するものの,これは単に追加的購買力を注入することのみによつて達成され得るものではない。世界経済が現在直面している諸困難は相互に分離不可能であり,個別に考察し得ない。即ち,成長,雇用,物価安定,エネルギー,構造変化に対する調整は,加盟国が今日直面している困難な状況全体の個々の側面に過ぎない。現在及び中期的に必要とされることは適切な国内需要を確保するための政策と,インフレの低下,開放的な市場指向経済体制の維持,生産的投資及び利潤率の回復を必要とする持続的成長のための適切な環境作りを行うという政策との組合せである。

8. 以下に示された協調的行動のプログラムの一つの重要な特徴は,各加盟国の種々の方面における個々の行動が,共同してとられることにより,各国が個別に直面する諸制約を緩和し得るということである。

-物価パフォーマンスの悪い諸国におけるインフレ抑制政策の継続,及びある場合に,その強化は,OECD地域全体のより高い成長がインフレを再燃させる危険を減少させるであろう。

-重要な一つのグループに属する諸国による,より高い成長を達成するための行動は,対外ポジションの弱い諸国の国際収支上の制約を緩和するであろう。

-各国は孤立して行動する場合に比し,共同で行動することにより,必要な拡大のための行動はより小さく,また,それによる財政赤字もより少なくて済むであろう。

-構造的変化に対する調整を促進する諸政策は,需要の増加が潜在的供給力の増加に見合うことを確保することに資するであろう。

-エネルギーの節約及び生産増加を奨励する,より強力な政策を採るに最もふさわしい立場にある諸国において,かかる政策を採用することは,総ての加盟国においてコンフィデンスを高めることとなろう。

9. 閣僚は,このプログラムが成功裡に達成されるか否かは,各国政府の政策のみならず,物価及び所得の決定に関し,総ての関係者が責任ある態度を貫く度合にも依存するという事実を強調した。閣僚は,労使双方の当事者の必要な協力が得られるならば,より持続的かつより均衡のとれた経済成長が確保され,また,インフレの一層の低下を漸進的にもたらすという確信を強調した。

II 協調的行動のプログラム

10. かかる背景の下で,閣僚は協調的行動プログラムの以下の主要な構成要素について合意した。

需要管理及び安定化

11, 閣僚は,今後18ヵ月間にわたつて,より高い成長,物価の一層の安定及び国際収支の均衡改善に寄与するための個々の加盟国の責任について,以下のとおり合意した。

(i) ベルギー,カナダ,フランス,ドイツ,イタリア,日本,スイス及び英国は,必要に応じ適切な諸措置を講ずることにより,内需が1977年におけるそれよりも相当に拡大すること又は設備が既に完全に稼働している場合には,総需要が生産能力に見合つて増加することを確保すべきである。オランダは昨年達成された内需の急増の諸効果を確実なものとすべきである。このグループに属する諸国の拡大政策の規模と時期は,これら諸国の内外の状況に照らし決定されるべきであり,この点に関し,国際収支ポジションの強い諸国には特別の責任がある。かかる行動はインフレ抑制の諸政策を阻害するものであつてはならない。

(ii) 現在では,見込まれている以上に内需を拡大すべき明確な行動をとる立場にないその他総ての加盟国は,主としてインフレの削減及び国際収支ポジションの改善に専念すべきである。このグループに属するほとんどの諸国は,輸出拡大を通じ協調的行動がもたらすより高い成長を受容し得る。しかし,経済活動が活発に増大しており,需要圧力が極めて強い2~3の国においては,協調的行動に起因する輸出の増加には,総需要の純増を一切抑制する強化された安定化政策が伴うべきである。

特に重要なことは,米国における最近のインフレの加速を逆転すべきことである。

開放的な市場指向経済体制の維持

12. 閣僚は,開放的な市場指向経済体制を維持するとの確固たるコミットメントが,本協調的行動プログラムの成功に不可欠である旨合意した。このため閣僚は,

(i) 開放的な多角的貿易体制に対するコミットメントを再度表明し,このため1974年5月30日の宣言を,当時からの事態の進展を考慮に入れ,かつその実施にあたつてよるべき精神を反映している新たな前文に修正の上,更新することを決定した(付属文書1参照)。

(ii) 近い将来,多角的貿易交渉を成功裡に終結せしめるとの決意を再確認した。

(iii) 公的支持を伴う輸出信用のための指針に関する取極め交渉が2月に成功裡に終了したことに満足の意を表した。米国及びカナダは現行の取極めの実質的改善のため交渉に入るよう他の参加国に要請した。他の参加国はこの機会にかかる要請に明確に反応しうる立場になかつた。しかしながら,取極めが4月に発効したばかりであることを想起して,閣僚は,取極めの中に実際の運用を定期的にレヴューするとの規定があり,このレヴューは秋にスタートすること及びこれらのレヴューが指針の運用の強化のための新たな提案を考慮するための機会を提供するであろうことに留意した。

(iv) 本コミュニケ付属の,より高い経済成長を維持するために必要な構造的調整を促進する政策の一般方針について合意した(付属文書II参照)。

エネルギー

13. 閣僚は,1977年10月6日の国際エネルギー機関閣僚理事会において採択された決定に留意した。閣僚は,エネルギー政策の強化が協調的行動プログラムの極めて重要な一部分をなすことを強調した。既にかなりの進歩が見られたが,閣僚は,エネルギー政策のための下記の方針を強調し,それらが積極的に追求される必要があることにつき合意した。

(i) 価格機構は,エネルギー利用の効率向上を一層促進し,エネルギー供給を拡大するための最も重要な手段の一つであるので,エネルギー価格が未だ世界レベルより低い国は,エネルギー政策におけるこの点に特に注意を払うべきである。

(ii) 一層のエネルギー節約のために,(特に,石炭利用の拡大,適当な場合の充分な原子力開発計画の確立並びに石炭・核燃料についての安定的かつ信頼し得る貿易条件及び技術の開発による)他の形のエネルギーによる石油の代替のために並びに石油及びガスの探査・開発の拡大及び新エネルギー技術の研究・開発の強化の促進のために更に一層の努力がなされるべきである。鍵となる要件は,エネルギー需要と重要な環境,地域,安全及び安全保障問題との間に起こりうる競合をできる限り速やかに解決することである。

14. エネルギーの消費者及び生産者としての大きな重要性及びその国際収支に対する石油輸入コストに鑑み,米国が上記のラインに沿つた広範なエネルギー政策の採用を可及的速やかに了することが決定的に重要である。同時に,他の加盟国は,全体として等しく,重要な貢献を行い得るものであり,閣僚は,これらの国において,エネルギー政策が一層強化される必要があることに合意した。

通貨協力

15. 上記のラインに沿つた政策の実施は,特に協調的プログラムの枠組の中で採用されるならば,経済成長の見通しを改善させるだけでなく,現在の国際収支不均衡を低減せしめることに役立ち,それにより,外国為替市場の一層の安定に貢献することになろう。閣僚は,通貨政策がこれらの目的の達成に対し重要な役割を有していることに合意した。閣僚は,為替相場は基礎的経済諸条件を反映する必要があることを認識しつつ,各国は引続き,密接に協力し,攪乱的状況に対処するためには為替市場に介入することに合意した。他方,外国為替市場の一層の安定は,更に,コンフィデンスを改善し,持続的経済成長の達成に役立つであろう。

16. 閣僚は,協調的行動プログラムの各種の構成要素の早急な実施が,OECDの夫々の適切な組織においてフォロー・アップされるべきことに合意した。

17. 閣僚は,前回閣僚理事会の後に発出されたコミュニケ17項の,工業化の比較的遅れた加盟国の特定の問題に関連して行われたこれまでの作業に留意し,この作業の結果が次回の閣僚理事会に対して報告されるべきことに合意した。

III 世界的相互依存及び開発途上国との関係

18. 閣僚は,開発協力及び世界的相互依存の運営の観点から,開発途上国との関係について再検討した。閣僚は,OECD諸国の繁栄は孤立しては達成し得ないとの認識に立ち,世界経済の効率的運営についての共通の利益を促進し,世界経済の構造と均衡に関する相互に利益をもたらす変化を推進するため,開発途上国との協力を強化することの重要性を強調した。また,閣僚は,開発途上国の経済・社会開発の促進に対し支援を増大し,かつその支援を効果的ならしめるための積極的政策の必要性を強調した。閣僚は,世界的な経済問題に関する開発途上国との対話の新たな場として,国連総会の下に全体委員会が最近設立されたことを満足の意をもつて留意した。閣僚は,その作業が建設的に進展されるよう希望する旨表明し,この目的に向つて進む自国政府の決意を確認した。

相互依存,貿易及び調整

19. 閣僚は,世界の生産と貿易のパターンについての近年の変化を,特にいくつかの開発途上国における工業面の進展に関連しつつ討議した。特に緩慢な成長の下で,これらの進展は限られた産業セクターにおける調整問題の一因であるが,閣僚は,開発途上国との貿易が双方に積極的利益をもたらしていること及びかかる貿易の継続的拡大に相互の利益が存在することに合意した。閣僚は,世界的規模での開放的な多角的貿易体制に対するコミットメントを再び表明し,また,世界の生産・貿易のパターンの変化に対する調整を行う用意があることを再確認した。貿易プレッジの更新多角的貿易交渉の結果及びより積極的な調整政策の必要性の確認は,この目的に資するであろう。

20. 同時に,閣僚は,より強い経済力を有する開発途上国が貿易及びその他の政策をその発展段階と全般的資金力に漸進的に適合させるならば,他の開発途上国も含め,世界経済全般に利益をもたらすであろう旨留意した。

相互依存及び国際公的・民間投資

21. 閣僚は,開発途上国における投資の増大は,当該国の開発を進めるとともに,持続的かつバランスのとれた世界経済の成長に寄与するであろう旨留意した。それ故,先進国及び開発途上国双方とも,開発途上国において経済ベースでの投資を刺激する措置に利益を有することになる。そのセクターとしては,エネルギー,食糧生産,原材料及び加工並びに関連インフラストラクチャーが言及された。右に関連し,閣僚は,国際及び地域開発金融機関の融資能力を拡大するための現在及び今後予想される交渉の重要性について留意した。閣僚は,OECDにおいて,既存の機構及び制度の基に,開発途上国への投資の流れの増加を図る他の措置の有効性と実行可能性について検討することに合意した。かかる措置は,明らかに当該国の開発目的と両立することが必要であり,当然に開発途上国と密接に協力して立案されなければならない。これらの措置は,また後発開発途上国における投資を促進するようなものであるべきであり,援助の増大を含む積極的開発協力の枠組の中で探究されるべきである。

エネルギー協力

22. 閣僚は,更に,将来のエネルギー問題が総ての国に影響を及ぼすものであり,総ての国が協力して対処する必要があることを強調した。閣僚は,特に開発途上国とかかる協力を行う用意のあることを,再度確認した。

開発協力

23. 閣僚は,開発途上国がその経済を強化及び多様化し,同国国民に適度の生活条件を確保し,また世界経済のより平等なパートナーとして次第に参加していくことを助けるため,開発協力のアプローチを発展させる必要性について合意した。

特に,世界の貧困層の基本的ニーズの充足が確保され,また,国際経済関係の建設的な構造変化を促進し,もつて,より衡平かつ安定した国際経済システムに至るよう一層の共同の努力が必要とされる。閣僚は,近年の援助フローの水準が全体的にみて不満足であることに留意した。しかしながら,閣僚は,いくつかの援助国の実績を歓迎するとともに,その他のいくつかの援助国が援助資金量を増大させる,また,政府援助をより効率的にするためにその他の措置をとる計画であると発言したことを歓迎した。

援助国であるOECD諸国の閣僚は,効果的かつ実質的に政府開発援助を増大させ,また,この面での各国の努力のバランスの改善を達成するとの,様々の場で表明された自国の意図を再確認した。閣僚は,より多くの援助資金が効果的に使われることを確保するために,いかなる方策が最善か更に検討することに合意した。

IV その他の事項

不正支払

24. 閣僚は,国連経済社会理事会の特別作業部会において,国際商取引に関連した不正支払いを防止する条約の準備に,本年,実質的な進展がなされたことに満足の意を表明した。閣僚は,今後の進展により,できる限り早い時期において全権会議の招集が可能となるよう希望の意を表明した。

<付属文書I>貿易プレッジ改訂宣言(仮訳)

OECD加盟国政府は,*

経済情勢は,いくつかの点において1974年の宣言採択当時とは異つているものの,エネルギー高価格に対する適応の問題及び低成長,高水準の失業,いくつかのセクターにおける生産設備の低稼動率,持続するインフレ,深刻な国際収支不均衡,通貨問題等の他のいくつかの深刻な困難によつて依然特徴づけられていることを考慮し,

特定セクターにおいて,しばしば多くの国で同時に経験している諸困難は,持続する需要の低迷とともに,相対価格,競争ポジション,生産・貿易パターンのシフト等の構造変化を反映していることを考慮し,

これらの諸困難は貿易の分野における緊張の重要な原因をなしており,また,それ故に貿易上のあるいは他の経常収支上の一方的措置が保護主義の連鎖反応を生じさせる危険が依然存在することを考慮し,

全加盟国は,程度の差はあれ,このような事態の進展により影響を受けていることを考慮し,

次のとおり合意する。

これら諸困難の性格と規模は,経済,貿易,財政,通貨,投資,エネルギー,雇用及び開発政策の分野において,より満足すべき持続的かつ均衡のとれた経済成長の達成を特に目指した広範な協力的行動を必要としていること,

国際収支の赤字決済のための資金調達は依然一部の加盟国において困難な問題であり,従つて加盟国はかかる資金調達を容易にするため十分協力を行い,この面で必要とされるような適当な取極につき検討する用意があること,

現下の状況に対処するための,一加盟国又は複数の加盟国による貿易上のあるいは他の経常収支上の一方的措置は,長期的観点からは基礎的な諸困難を解決することなく,他の諸国における問題を悪化させ,又もしこれが一般化されれば,意図に反する結果をもたらすものとなり,世界経済を後退させる効果を有するであろうこと,

各国は,輸入国として及び輸出国としての両面で貿易の通常の流れの阻害を回避する責任を有していること,

セクター上の問題については,これらの問題が危機的な規模に至る前にこれら問題を識別すべくあらゆる努力が払われるべきであり,この分野における行動は,調整の負担を貿易相手国に転稼することなく貿易上の歪みを回避もしくは最小限とするような措置を通じて適応をもたらすものであるべきこと,

従つて国際経済関係に有害な影響を及ぼすような一方的行動を防止することを目的とする共同の了解の必要性が依然としてあること,多角的貿易交渉において工業及び農業両分野で近い将来成果をあげること,及びその成果を実施に移すことは,開放的な多角的貿易体制を改善し,強化するものであること,

先進工業国と開発途上国との間の貿易関係を,双方に利益となる世界貿易の伸長を促進する観点から,改善する必要があること,

上記に鑑み,向う1年の期間について次のとおり決意を再確認する。

(a) 本宣言の目的に示すような一般的な又は特定の性質を有する輸入制限のための一方的な措置に訴え,又は他の経常取引について同様の措置に訴えることを回避する。

(b) 輸出又は他の経常取引を人為的に促進する措置を回避する。またなかんずく輸出信用に対する公的支持における破壊的な競争を差控え,このために協力的な行動が更に進展することを目指す。

(C) 本宣言の目的に反するような輸出制限を回避する。

(d) 本宣言の適切な実施を確保するため,OECDの枠内の一般的協議制度を十分活用して互いに協議する。

(e) 加盟国の国際的義務に従い,かつ開発途上国の特別のニーズに然るべく留意して,この宣言を実施する。

<付属文書II>調整政策:一般方針(仮訳)

1. 特定の産業,地域及び労働力グループは,相対価格,コスト構成及び需給パターンを変化させた1970年代初期以降の一連の出来事,即ち景気の同時的拡大,インフレ及び石油危機によつて特に厳しい打撃をうけた。かかる変化に対応する調整は,低成長,高い失業,固定費用を増大させている長期的トレンドによつて,一層困難かつ苦痛なものとなつた。

2. 異常に高い失業が継続する中では,現在の雇用と既存の生産設備を維持するための選択的措置によつて,かかる変化の影響が短期的には緩和される場合もある。しかしながら,やがて,かかる措置の短期的な経済的・社会的利益とその長期的コストとの間のトレード・オフは悪化するであろう。労働者が解雇されようとしている,または生産者が倒産しようとしている特定の時点で,これらを救済する行為は,それが長く続けられるならば,しばしば,労働が最も非効率的に利用される雇用を持続させる,または,もはや市場が成り立たない産物を生産させることとなろう。経済は次第にその生産性を低めるとともにインフレ体質を強めることとなろう。更に,かかる国内的措置は,非効率な生産者が海外の供給者と競争することを可能にし,必要な構造調整を遅らせる点で,国境での保護措置とほとんど同様の効果を持つかも知れない。それは,当該国において保護の既得権をつくりだし,他の国においては保護主義的な反作用を引き起こすかも知れない。

3. より建設的な方法は,最も生産的な利用へ向けて労働と資本の移動性を促進する市場の諸力に可能な限り依存しつつ,新たな状況に対応する調整を更に進めることである。同時に,政府は,社会的及び物理的な環境,所得配分,構造変化に対する調整の負担の公平な配分にかかわる他の社会的・政治的目標を追求している。しかしながら,かかる目標は,経済効率の低下という付随的コストを極小化する政策によつて追求されることが不可欠である。

4. 総需要が,他のセクターに代替的雇用を供給するだけの十分な速度で増加しない限り,各国が弱いセクターを支えるための防御的行為をとらないようにすることは困難である。しかしながら,同様に,持続的成長を確保するためには,適切なマクロ経済政策とともに,防御的政策からの漸進的な移行が必要である。さもなければ,低下しつつある経済活動の中に労働と資本が閉じ込められるので,ボトルネックが生じ,また再燃したインフレが景気拡大政策の制約となるとともに,景気回復を阻害するであろう。従つて,より積極的な調整政策への漸進的な移行は,世界経済のより持続的かつより均衡のとれた成長のための協調的行動プログラムの不可分の一部をなすものでなければならない。

5. 成長政策と調整政策の間には密接な相互関係があるが,これは厳格に解されるべきではない。ある場合には,行動はより高い成長を達成する前にとることができるし,またとられるべきである。このことは,経済体制に一層の硬直性をもたらすことを回避し,あるいは既存の硬直性を緩和するための措置について一般的にあてはまる。また,予算上のコストが余りに高くなつた場合,あるいは労働と資本を,国際収支の弱い国の競争力を改善させるように,又は過度に対外ポジションの強い国の輸出部門から資源を動かすように,移転する必要がある場合にもあてはまるかも知れない。他方,失業の減少についてかなりの進展がみられるまで,短期的な社会的利益が高く,かつ短期的な経済的コストが比較的低い暫定措置の漸進的な停止をのばし得る場合もあろう。

6. 要するに,政府がより積極的な調整政策へ移行するためには,総需要のかなり強い増加と持続的成長の見通しとが必要であろうが,需要の増加は,かかる移行が可能な限りもつとも早い機会に開始されなければ持続的なものとはならないであろう。

産業政策

7.工業部門の中で資金面で困難な企業からの救済の要請に対応するに際しては,通常の状況下では,損失を生み出す活動を補助する選択的行動に反対し,より一般的措置を評価するとの考えを認識すべきである。直面する困難が主として景気循環的なものの場合には,外部資金源に対するアクセスを容易にし,経済全体として需要を増加させ,利潤率を改善させる措置が,通常は最も有効であろう。困難が,需要の予期せざる悪化,または他の供給者との競争を反映したより根深いものである場合においても,特別の介入は,必要とされる調整の経済的・社会的コストが短期的に許容しうる限度以上に高く,調整の負担を軽減するための既存の政策を通じては十分には対処しえない場合にのみ,通常正当化され得る。このように,資金面の困難にある個々のセクターや企業を保護し,または補助する特定の行動が正当化されそうな,またそれが成功しそうな場合は比較的稀であろう。

8. それにもかかわらず,政府が介入を必要と考える場合には,経験上,以下の基準が重要である。

(i) 行動は一時的なものであるべきであり,可能な場合には,あらかじめ予定されたスケジュールに沿つて漸進的に縮小されるべきである。

(ii) かかる行動は,効率的な生産者に適正な利潤をもたらすこととなる水準以上には価格を引上げることを求めずに,老朽設備を漸次除去し,財務上健全な企業体を再建するための計画の実施と不可分に関連づけられるべきである。

(iii) コストは,政策決定者と大衆に対し,可能な限り明らかにされなければならない。価格を引上げる行動の消費者にとつてのコスト,納税者にとつてのコスト,及び補助をうけた競争が他の雇用に及ぼす影響について注意深い関心が払われるべきである。

(iv) 公的資金が民間部門に投入される場合には,民間危険資本が含められることが望ましい。

(V) 企業ごとに与えられる補助は,特に,国内的及び国際的な競争を十分に確保することによつて,管理方法の改善のための誘因が与えられるように構成されるべきである。

(vi) 第一義的な目標が特定の地域や都市における雇用維持にある場合には,当該地域内の資金面での困難にある企業のみというよりは,むしろ当該地域内で資格を有するすべての企業の利益となりうる行動に考慮が払われるべきである。

(vii) 政府が国の安全保障に対し正当な考慮を払わなければならないことを認識するものであるが,自給に対する考慮に基づく議論が保護と補助の措置のために濫用されないよう注意しなければならない。

9. 程度の差こそあれ,OECD諸国政府は「勝者を選び出す」ことを目的とした産業政策の追求を試みてきた。しかし経験によれば,これは特に技術進歩及び変化する消費パターンの最前線にあり,また大体似たような要素賦存と管理能力を持つ工業国にとつては,決して簡単なことではない。

10. しかしながら,各国の実情に従い,望ましい発展を促進するため,市場の諸力を補完することを目指す,合理的な経済基準に基づいた諸政策には,いくつかの方向がある。

(i) 市場が将来の経済的・社会的需要を充分に反映することや予測することが期待できない分野がある。これは,例えば,エネルギーの生産や節約のための研究開発及び投資,並びに環境の質・健康管理・都市のインフラストラクチュア等の改善についてあてはまる。

(ii) 最近の困難により,多くの企業は,より至近の必要性を満たすための研究を優先させ,大規模投資を伴う先端技術に対する長期的研究を削減するようになつた。従つて,政府は,長期的な研究開発のための充分な誘因が存在することを確保すべきである。

(iii) 技術進歩と変化する需要への対応の多くは中小企業によつてなされてきたので,これら中小企業が危険負担資本への充分なアクセスを有すること及び革新・特化及び近代化のための誘因と機会をもつことを確保するための政策を強化する必要があろう。

雇用及び労働力政策

11. 低成長が長期化すればするほど,雇用を保護するための諸措置が将来性のない産業構造を温存したり,技術変化を阻害したり,貿易の流れを歪曲したりすることがないよう確保することが一層重要となる。雇用保護の諸政策が失業緩和に成功することは,これら諸政策を中期にわたり継続せんとする強い圧力をもたらし得る。

12. 持続的経済成長の条件とより積極的な調整政策への移行との間には,特に強い関連が存在する。

長期の経済的・社会的目標を達成するためには:

(i) 需要のシフト,技術進歩及び貿易パターンの変化に対する適応を容易にするため,訓練,移動性,職業紹介のような供給側の措置に改めて重点がおかれるべきである。

(ii) 雇用創出計画は,構造的雇用問題に直面している明確に定義された不利な立場にあるグループ(若年者,婦人,少数民族,その他)に対して,より直接的な利益を与えることを目標とすべきである。

同時に,生産の一般的な拡大が失業の持続的減少に十分なはずみをつけるので:

(iii) 失業を防止するための一般的刺激策は,漸次撤廃されるべきか,または,他の活動で追加的労働者を雇用することを奨励する制度によつておきかえられるべきである。

(iv) 増加した公共サービスヘの正当なニーズを満たすための計画は引続き発展させる一方,所得支持に代わるものとしての,単に雇用維持のみに役立つ公共部門における一時的雇用創出制度は縮小されるべきである。

13. 低成長下で一層顕著となつてきた労働市場における硬直化及びゆがみを減少するための行動もまた必要である。

(i) 雇用保障の改善は,個々人に与える変化の影響を緩和し,調整するためのより多くの時間を与え,経済的及び社会的に要するコストを補償する。しかしながら,これは,同時に,雇用面での必要な変化を遅らせ,技術の変化により必要とされる投資を抑制する可能性がある。これは,また低成長下では,失業者に対する差別ともなり得る。これが深刻な問題になつている国では,転職に要するコスト(失業給付・再訓練等)のより多くを雇用主から社会全体へ-社会全体が直接に負担するか,もしくは,税制又は移転制度を通じて補償する形により-移した方がよい場合がある。

(ii) 企業の競争能力は,社会保障費の負担の諸制度-雇用,特に最低賃金労働者の雇用に対し重い負担を課す効果がある-により阻害され歪められる可能性がある。その結果,労働節約的投資を是とし,労働集約的活動に反対するといつた不必要に片寄つた傾向がでてくるが,それとは逆に,政府は"低賃金"国からの競争に打ち勝つことができるよう労働集約的活動に対する保護,又は補助を余儀なくされることとなるかも知れない。この点に関する状況は,各国により大きく異なるが,若干の国では,労働力使用に対する実際上の課税となつているものから,所得又は支出に対する課税というものへ移行するためのよい根拠があるように思われる。

(iii) 労働市場がよりうまく機能するためには,賃金構造が,変化するニーズに応じた労働力供給の調整を妨げず,また,ある種の労働力の雇用見通しに悪影響を及ぼさないことを政府,労組及び雇用者が確保するような努力が必要である。

14. 雇用パターンの変化に適応する労働力の適応能力及び適応意欲は,失業者に対し所得支持を与える制度によつてもまた影響される。このような制度は,社会的困難を緩和し,労働者に自らのニーズ及び能力に適応した新しい職業を見い出す時間を与えるために不可欠のものであるが,他方,この制度は長期的にみて,仕事に対する態度及び必要な変化を受入れる意欲に不当に悪い影響を与えぬよう慎重に立案されるべきである。低成長が継続する情勢下では,長期的失業者を対象とする特別な雇用計画の必要性もまた高まつてきている。

農業政策

15. 農業に対する政策は,各国の異なる国内事情を考慮し,広範な社会的・政治的目標によつて伝統的に影響されてきた。かかる政策の一部分として,OECD加盟諸国においては,農業生産性の向上にかなりの重点がおかれてきた。低成長下においてこれらの政策は,他の経済部門において過剰農業労働力に対する雇用機会が少なくなつている時期には,農業所得と雇用を支持するのに役立つてきている。この点において,かかる政策は安定化効果を有してはいるものの,前記パラグラフ2及び3で叙述された危険とコストとを伴つている。インフレの危険が継続している現在の困難な情勢下においては,農業政策もまた,今までに検討した他の政策と同様,農業生産者の正当な利益をないがしろにすることなく,同時に必要な全体的な食糧の安全保障を確保しつつ,消費者及び納税者の最少限の負担において,その社会的,経済的及び政治的目的を達成すべく策定されるようにすることが特に大切である。より般的には,農業市場の機能の改善を,その安定化と同様に求めることが望ましい。

地域政策

16. 最近のOECD地域政策レビューによれば,助成は地域的に差をつけては行われず,深刻な構造問題又は他の困難に直面しているセクターないし企業に向けられるようになつてきている。しかし,かかる助成は,弱い地域での将来育成可能な新たな産業の発展を助長しない。従つて,今後はインフラストラクチュアの整備及び地域的に差をつけた財政措置などの長期間にわたつて利益をもたらすであろうような措置に重点を次第に戻していく必要があろう。

規則に関する政策

17. 新しい情勢に適応するための経済の能力を高めるため,政府は,全ての政策行為によつて生じた不確定性及び追加的なコストを減少させるべく一層努めることが可能であろう。これは,不必要な規制や報告の必要性を回避し,また安全性,健康及び環境に関するものも含めた政府規制の相互間の調整,透明性及び継続性を維持する努力を示唆している。

国際協力

18. ある国における防御的措置の継続と長期的構造改革計画の欠如は,他の諸国が調整政策を推進することを政治的に困難にしよう。より持続的かつより均衡のとれた成長のための協調的計画の一環として,産業,雇用,労働,農業,地域及び規則に関する政策の分野で,防御的なものからより積極的な調整政策に転換する必要性について加盟国全体が合意すれば,各加盟国が,適切な国内政策を採用することやOECD貿易プレッジにおけるその約束を尊重することを一層容易ならしめよう。これは又,加盟国が開発途上国との間の工業品及びその他の生産物に関する貿易の変化に適応するという積極的意思の確認でもある。現在及び将来の発展について,適当なフォーラムにおいて,レビューし,分析し,討議し,調整政策に関する協力と調整を求める継続的な努力が行われれば,それは,各国政府が,他の国に及ぼし得る影響を考慮に入れ,かつ調整のためのコストの公平な分担を伴う政策を策定する上で,役立つであろう。

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(4) 園田外務大臣とASEAN外務大臣との会談に関する共同プレス・リリース(仮訳)

(1978年6月17日,パタヤ)

1. 園田直日本国外務大臣は,ASEAN常任委員会議長たるウパディット・パチャリャンクン・タイ国外務大臣の招請に応じて,1978年6月17日,パタヤにおいてASEAN加盟国外務大臣と会談した。

2. 日本国外務大臣との会談には,モフタル・クスマアトマジャ・インドネシア共和国外務大臣,アハマド・リタウディン・マレーシア外務大臣,カルロス・ロムロ・フィリピン外務大臣,S・ラジャラトナム・シンガポール共和国外務大臣及びウパディット・パチャリャンクン・タイ国外務大臣が出席した。

3. ASEAN諸国の外務大臣と日本国外務大臣は,アジア情勢をレビューし,アジアの安定と繁栄がASEANと日本のために不可欠であることを再確認し,日本とASEAN諸国は東南アジアにおける平和と繁栄を促進するため,積極的な努力を続けることに意見の一致をみた。

4. ASEAN諸国の外務大臣と日本国外務大臣は,主要な国際経済問題について意見を交換し,世界経済の景気回復,保護主義の抑制及び自由貿易の促進が,ASEAN諸国の経済の発展のため不可欠であることに意見の一致をみた。

これに関連し,日本国外務大臣は,1978年7月のボンにおける来たるべき主要国首脳会議での日本の立場を概説したが,その立場はASEAN諸国の関心事を考慮に入れたものとなろう。

5. ASEAN諸国の外務大臣と日本国外務大臣は,ASEANと日本との間の協力関係の進捗状況をレビューした。ASEAN諸国の外務大臣は,日本政府によつてとられたいくつかの積極的な措置を感謝の意をもつて留意した。このような措置には,第五次国際錫協定の緩衝在庫に対する日本の任意供与,ASEAN産品のための累積原産地制度の採用及び日・ASEAN貿易・観光・投資促進協力センターを東京に設立するために行われている諸準備が含まれる。ASEAN諸国の外務大臣と日本国外務大臣は,1977年8月7日のクアラルンプールにおけるASEAN諸国の首脳と日本国総理大臣との会談の共同声明にうたわれた諸分野における進捗を促進する必要性についても意見の一致をみた。

6. 日本国外務大臣は,討議の過程で,ASEAN諸国のためのSTABEX制度に関する日本の関心を再度表明した。日本国外務大臣は,ASEANに対し,日本は共通基金に関する第3回全権交渉会議の成功を確保するため,積極的に貢献する所存であることを保証した。日本国外務大臣は,また,日本はMTNに関するASEAN側の要請に好意的に回答するであろうと述べた。ASEAN諸国の外務大臣は,これらのASEAN側要請に対する日本側の回答が,積極的かつ実体のあるものとなるようにとの希望を表明した。日本国外務大臣は,ASEAN工業プロジェクトに関し,1977年8月7日のクアラルンプールにおけるASEAN諸国の首脳と日本国総理大臣との会談で発表された共同声明の実施について,日本がASEANプロジェクトの実現のため,種々の形での資金援助を行う用意がある旨,またこれらのプロジェクトに必要な技術援助を引続き供与する用意がある旨を再確認した。この関連で,日本国外務大臣はASEAN諸国の外務大臣に対し,ASEAN工業プロジェクトとして確定したASEAN尿素プロジェクト(インドネシア)及びASEAN尿素プロジェクト(マレーシア)に対する資金援助に関しては,ASEAN側との協議の下に,具体的な諸措置がとられていくこととなろう旨通報した。

7. 文化協力の分野においては,ASEAN諸国の外務大臣と日本国外務大臣は,文化協力に関するASEAN・日本合同研究グループ(JSGCC)の設立及び同グループによつて達成された進展を,満足の意をもつて留意した。日本国外務大臣は,日本がASEAN域内文化協力を促進する上でのASEAN側の努力を援助するため,ASEAN文化基金に対し50億円を年賦で拠出する用意がある旨再確認した。

8. ASEAN諸国の外務大臣は,第11回ASEAN閣僚会議の結果を踏まえ,ASEANの地域協力の進捗状況を説明した。日本国外務大臣は,かかる進展を歓迎するとともに,日本が対等の協力者として,ASEAN諸国との協力をさらに促進する旨の日本の決意を表明した。

9. 日本国外務大臣とASEAN諸国の外務大臣は,本会談が協力の諸分野に関する討議及び相互に利益となる事項についての理解の促進にとつて,貴重な機会を提供したことに意見の一致をみた。

10. 日本国外務大臣は,タイ国の政府と国民が日本国外務大臣及び代表団に示された暖かい歓迎に深甚なる感謝を表明するとともに,今回の会談のためのゆきとどいた準備に対して,衷心よりの謝意を表明した。

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(5) 第4回主要国首脳会議宣言及び航空機のハイジャックに関する声明

(1978年7月17日,ボン)

宣   言(仮訳)

カナダ,ドイツ連邦共和国,フランス,イタリア,日本国,グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国並びにアメリカ合衆国の元首及び首相は,1978年7月16日及び17日にボンで会合した。欧州共同体の権限に属する事項の討議については,欧州理事会議長及び同共同体委員会委員長が同共同体を代表して参加した。

1. われわれは,成長・雇用・インフレ,国際通貨政策,エネルギー,貿易及び開発途上国が特別の関心を有するその他の諸問題にわたる総合的な戦略に合意した。われわれは,より多くの雇用機会を創り出し,インフレと闘い,国際貿易に力を入れ,国際収支の不均衡を縮小し,為替市場において一層の安定を達成するようにしなければならない。われわれが取り組んでいるのは,長期的な問題であり,これらの問題は,われわれが努力を続けることによつて初めて克服しうるものである。この戦略全体は,ひとつのまとまつたものであり,その構成部分は,相互に依存関係にある。各国はこの戦略に対して貢献することができるし,また,この戦略から利益を得ることができる。

成長・雇用・インフレ

2. われわれは,何にも増して世界的な失業について懸念を抱いている。なぜならば,失業は,多年にわたつてあまりにも高い水準にあり,最も脆弱な立場にある人々に最も厳しい打撃を与えているからであり,また,失業による経済的な損失そしてそれ以上に人間的な損失は,大きいものがあるからである。われわれは,雇用機会を増大させるため,成長を確保し及び必要とされる技能を開発するという措置を講じる。

われわれは,このような措置をとるに際し,インフレに対する闘いでこれまでに達成された進歩を基礎としつつ,この闘いにおいて新たな成功を追求していくであろう。しかしながら,われわれは,国際収支の極端な黒字及び赤字を縮小するためにインフレを再燃することなく,より高い成長を実現できる国においては,そのような成長を達成することを必要としている。このことは不安定な為替相場の変動を少なくする。成長の改善は,保護主義的圧力の軽減に役立つ。それはまた経済進歩の鍵である民間投資の流れを促進するためにも必要である。われわれは,国内的に,また,国際的に民間投資に対する障害を軽減することに努める。自由世界がその国民の期待及び開発途上国の要望に応えて発展できることを確保するためには,より高い成長が行われることが必要である。

3. 着実なインフレなき成長を確保するためには,異なつた状況に直面している各国の異なつた行動からなるプログラムを作成することが必要となつている。すなわち,国際収支の状況及びインフレ率が特別の制約となつていない国においては,内需の拡大を速めることが要請される。価格とコストの上昇が強い圧力要因となつている国においては,インフレに抗して新たな措置をとることを意味する。

-カナダは,インフレを抑制し,軽減する必要性と両立する限度内で雇用の拡大及び5パーセントまでの生産の増加を達成する意図を再確認した。

-ドイツ代表団は,経済的均衡の世界的な攪乱を回避することに資するため,8月末までに立法府に対し,需要を著しく拡大し成長率を高めることを意図した国民総生産の1パーセントまでに相当する数量的に相当大きな追加的措置を提案する旨表明した。上記措置の規模は,資本市場の消化能力及びインフレ圧力を回避する必要性を考慮したものとする。

-フランス共和国大統領は,フランス政府が,インフレ率を低減するための政策を追求する一方,共通の努力に対する貢献として,1978年国家予算の赤字を国民総生産の約0.5パーセント相当分増大させることに同意する旨述べた。

-イタリア首相は,イタリア政府が1979年の経済成長率を1978年に比し1.5パーセント高めることを約束する旨述べた。同国政府は,インフレを引き起こさずに雇用を増大させるために,投資を刺激する一方で,経常的公共支出を削減することによつて,この目標を達成することを計画している。

-日本国総理大臣は,日本国政府が既に1978年度の実質経済成長率について内需拡大を中心として前年度実績を約1.5パーセント・ポイント上回る目標を決定し,その達成に努力していることに言及し,必要ならば適切な措置をとりその目標を実現したいとの決意を表明した。総理は,8月又は9月に追加措置が必要かどうか決定するであろう。

-連合王国は,インフレ率の大幅な低減及び国際収支の改善を達成し,国民総生産の1パーセント強に相当する財政上の刺激策を最近実施した。連合王国政府は,成長と雇用の見通しを更に改善するため,インフレとの闘いを継続する意図を有する。

-アメリカ合衆国大統領は,同国の健全な経済を維持するためには,インフレの軽減が肝要であり,それ故に,インフレ軽減は合衆国の経済政策の最優先事項となつた旨述べた。大統領は合衆国におけるインフレ抑制のために今まで取られた,または,現在取られている主な措置として1979年度に当初予定されていた減税幅を100億ドル縮小したこと,1978年及び1979年の政府支出予測の削減,1980年度のため準備されている高度の緊縮予算,政府の規則あるいは規制によつて費用及び物価の上昇に直接的に結びつくような原因を減少させるために現在とられている諸施策,賃金及び物価上昇の速度を低めるために取られている自発的計画を指摘した。

-既にブレーメンで合意された欧州共同体の共通アプローチは,このプログラムの有効性を強化することを,今会議は満足をもつて留意した。

エネルギー

4. 現下のエネルギー情勢は,若干の改善はみられるものの,未だ不満足なものである。更に多くのことがなされる必要がある。

5. われわれは,輸入石油への依存度を低減することを約束する。

6. われわれは,欧州共同体がブレーメンにおいて,1985年の目標として次の諸点に合意したことに留意した。

-共同体の輸入エネルギーへの依存度を50%にまで引き下げること

-石油の純輸入を制限すること

-エネルギー消費の増加率と国内総生産の増加率との比率を0.8まで引き下げること

7. 合衆国は,エネルギー分野における特別の責任を認め,輸入石油への依存度を低減する。合衆国は今年末までに上記努力が緊急に推進されるような総合的な政策の枠組を用意する。年末までに,1985年までに1日およそ250万バーレルの石油輸入の節約をもたらす措置が発効する。これらの目標を達成するために,合衆国は10億バーレルの戦略的石油備蓄を確立する。石炭生産を現在の2/3相当増大する。国民総生産の伸びとエネルギー需要の伸びの比率を0.8又はそれ以下に維持する。そして石油消費は,エネルギー消費よりもより緩やかな伸びになる。1978年と1979年の石油輸入量は,1977年のそれよりも少なくなるはずである。石油の過剰消費を抑制し,石炭への移行を助長するために,合衆国は国内の石油価格を1980年末までに国際水準に引き上げる決意である。

8. われわれは,石油輸出国が引き続き世界のエネルギー情勢の安定に寄与することを希望する。

9. より長期的視点から,各国はそれぞれのエネルギー計画を促進するため,その計画をレヴューする。全体的なエネルギー目標は,計画の達成度を計る有効な尺度として役立つであろう。

10. 先進工業社会におけるエネルギー生産及びエネルギーのより効率的な利用のため,民間投資及び公共投資を増大すべきである。このことは,経済成長に寄与することが大きいであろう。

11. 原子力エネルギーの開発を促進することは,欠くことのできないものであり,また,原子力発電計画の実施の遅れは,逆転しなければならない。原子力エネルギーの平和利用を促進し,また,核拡散の危険性を軽減するため,ロンドン首脳会議で開始された核燃料サイクルの検討は,引き続き行うべきである。

合衆国大統領及びカナダ首相は,有効な保障措置の枠組み内において,引続き核燃料の信頼できる供給者となるとの固い意図を表明した。合衆国大統領は,濃縮ウランの供給のいかなる中断をも防止し,また既存の協定が尊重されることを確保するため,大統領としての全ての権限を行使する意図である。カナダ首相は,有効な保障措置に基づきカナダのウラン供給を中断しない意図である。

12. 石炭は長期的にますます重要な役割を担うべきである。

13. 再生可能なエネルギーを含む新規エネルギー源の開発及び既存のエネルギー源のより効率的な利用を促進するため,エネルギー研究開発を共同して又は協調して実施しなければならない。

14. エネルギー開発に当たつては,環境及び住民の安全は最大の注意をもつて保障されるべきである。

15. われわれは,開発途上国を支援するため,エネルギー分野における国毎の開発援助計画を強化する。われわれは,また,再生可能なエネルギーに関する技術を実用化するための協調的な努力を行うこととし,向こう1年間のうちにそれを具体化する意図を有する。

われわれは,OECDが他の国々との協力のための場を提供するよう示唆する。

16. われわれは,エネルギーの分野における開発途上国向け援助の改善及び協調の必要性を強調する。われわれは,世界銀行がこの分野におけるその活動を開発途上国のニーズに一層応えるように行う方途を探究し,特に,炭化水素の探査のファイナンスについて新たなアプローチが有用であるかについて検討することを示唆する。

貿 易

17.われわれは,より持続的かつ均衡のとれた経済成長を推し進める一つの力である国際貿易を拡大するとのわれわれの決意を再確認する。われわれは,共同の努力を通じて,開放的な国際貿易体制を維持し,かつ強化する。われわれは1978年7月13日にジュネーヴにおいて公表された多角的貿易交渉東京ラウンドに関する了解の枠組みのなかで述べられている進展を評価しかつ支持する。もつとも,かかる了解の枠組みのなかにおいても,いくつかの困難でかつ重要な問題が未解決になつている。

この史上最大の交渉を成功裡に妥結することは,単に1980年代にわたる主要な貿易自由化プログラムを意味するばかりでなく,非関税措置に関してガットにおいてかつてない最も重要な進歩がなされることを意味するものとなろう。かくして,ガットの規則,特にセーフガードに関するものは,世界貿易制度の弱体化を避け,かつ先進国,開発途上国を問わずすべての貿易国に利益をもたらすような形で次の十年の要請に一層則したものとされるであろう。多くの分野における協議及び紛争処理の新しいメカニズムの創設により,国際貿易制度において,従来より相当に高い程度の衡平及び規律が達成されることとなろう。ガット規則の統一的適用が肝要であり,われわれは,この方向に出来るだけ速やかに進むであろう。

交渉のすべての分野において,首脳会議参加諸国は開発途上国と一層緊密に協力して行きたいと考える。われわれは,たとえば,特別かつ異なつた取扱いを通じて開発途上国の必要を十分考慮に入れ,かつ,世界貿易制度の利益及び義務に対する開発途上国の一層の参加をもたらすような健全かつ均衡のとれた結果がすべての参加国に対して確保されるよう努力する。

昨年のロンドン首脳会議においてわれわれは世界貿易の保護主義への道をしりぞけた。われわれは東京ラウンドに新たな活力を与えることに合意した。われわれの交渉者はその約束を履行してきた。今日,われわれは,われわれの交渉者に対し,他の参加国と協力して,残された問題を解決し,細部にわたる交渉を1978年12月15日迄に成功裡に完了する任務を与える。

18. われわれは,先月行われたOECD閣僚理事会が開放的な市場指向型の経済体制を維持するとのプレッジを更新したことに満足の意をもつて留意する。今日における世界経済上の諸問題は,明らさまのあるいは隠れた保護主義に逆戻りすることによつては解決することはできない。

19. われわれは,積極的調整政策に関するOECD諸国閣僚の声明を歓迎する。時間の経過に伴い,構造的な変化を受入れ,かつこれを促進する用意がなくてはならない。このような変化を妨げる措置は,経済の非効率性を永続的なものとし,構造的な変化の負担を貿易相手国に転嫁し,また開発途上国を世界経済に組みこむことを阻害する。

われわれは,産業政策,社会政策,構造政策及び地域政策に関するイニシアティヴをとるに当つて,困難に陥つている部門を国際競争及び貿易の流れを妨げることなく支援することを決意している。

20. われわれは,大幅な経常収支の赤字を抱える国が輸出を増大し,また,大幅な経常収支の黒字を有する国が輸入増大を促進することの必要性に留意する。この関連において,合衆国はその輸出を改善するべく固く決意しており,この目的を達成するための措置を検討している。日本国総理大臣は,内需の拡大と諸々の輸入促進のための努力を通じて輸入の増大を図るべく努めたい旨述べた。さらに,日本国総理大臣は当面する異常な黒字に対処すべく日本政府は1978年度輸出を数量で前年度と横ばいないしそれ以下とすることをねらいとして輸出の自粛を要請するという臨時異例の措置を講じている旨述べた。

21. われわれは,先進国間及び先進国と開発途上国間の対外民間投資の流れの分野における協力を増大する用意があることを強調する。われわれは,OECD及びその他の場において一層の合意を得るための作業を強化する。

22. 世界の経済活動を拡大させることとの関連において,われわれは,開発途上国の製品のわれわれの国の市場へのアクセスを改善する必要性があることを認める。同時に,われわれは,開発がより進んだ開発途上国が輸入品に対して自国の市場を開放するべく一層の用意をすることを期待する。

開発途上国との関係

23. われわれの経済を強化しようとする努力が成功することは,開発途上国の利益になることであり,また,開発途上国の経済の進展は,われわれにとつて利益となる。このことは,責任を共にしているとの認識に基づく共同行動を必要としている。

24. 開発途上国,とりわけ最も困窮している諸国は将来にわたり,その開発のための資金協力その他の協力の増大につき,われわれに期待することができる。日本国総理大臣は,日本の政府開発援助を3年間で倍増するように努力すると述べた。

われわれは,コメコン諸国が開発途上国への資金援助における相応の分担をしていないことを極めて遺憾に思い,再度同諸国に対して相応の分担を負うよう呼びかける。

25. 貧困開発途上国は,緩和された条件での援助をより多く必要としている。われわれは,世界銀行及び三つの地域開発銀行のソフトな融資基金を支援する。われわれは,われわれの政府が,国際開発協会が行う融資が実質価値で毎年増大しうるような規模の資金補充を支援することを誓う。

26. より開発の進んだ開発途上国については,われわれは,商業的条件での融資に対する需要が増大していることに応えるのに足る規模の国際開発銀行の資金補充を支援するとの誓約を再確認する。われわれは,開発プロジェクトに関し,政府及び民間がこれら銀行と協調融資を行うことを奨励する。

開発途上国の経済成長をもたらし,開発途上国への技術移転を促進する上で対外民間投資が効果的な役割を果たしうるためには,これら開発途上国において良好な投資環境がつくり出され,かつ,外国投資に対して適切な保護がはかられるよう,これら諸国が協力することが必要である。

われわれは,また,パラグラフ15及び16に述べられているエネルギー分野における開発途上国に関する努力に言及する。

27. われわれは,共通基金についての交渉を成功裡に終結するよう積極的に推進し,個別商品協定締結のための努力を引き続き行い,また,輸出所得安定化のための種々の方策の検討を完了することに合意した。

国際通貨政策

28. 為替市場における最近数カ月間の不規則な変動により,コンフィデンス,投資及び成長に対して,世界的に悪影響が及んだ。為替相場の安定は,基本的には,今日の国際収支の大幅な赤字及び黒字の要因となつている基礎的な諸問題に取り組むことによつてのみ達成することができる。先に述べた諸政策を協調的プログラムの枠内で実施することにより,世界的な国際収支バランスのより良いパターンが実現され,国際為替市場の一層の安定がもたらされることとなろう。この安定によりまた,コンフィデンスは高まり,経済の持続的成長のための環境が改善されるであろう。

29. 為替相場は,各国間の基礎的な経済金融条件の変化に対応するものであるが,われわれの通貨当局は,為替市場における無秩序な状態に対処するために必要な範囲で,引き続き介入を行う。われわれの通貨当局は,それらの努力の効果を高めるため,広汎な協議を行つていく。われわれは,国際通貨制度が効果的に機能することを促進するため,国際通貨基金による監視を支持する。

30. 欧州共同体の代表者は,より緊密な通貨協力の構想を検討するとの7月6日及び7日のブレーメンにおける欧州理事会の決定につき,会議に報告した。

会議は,この報告を歓迎し,共同体がその進展につき他の参加国に常時連絡することにつき留意した。

結 論

31. われわれの共同の目的は,われわれの国が直面する基礎的な経済問題にとり組むことである。

われわれが合意した諸措置は,相互に補強的なものであり,その全体の効果は,各構成部分の単なる合計以上のものとなろう。われわれは,今,これらの措置に対する議会及び国民の支持を求める。

われわれはこれらの目的をわれわれのみで達成することを望むことはできない。われわれは他の国々と,また,適当な国際機関の枠内において,緊密に協力する。われわれのうちで欧州共同体の加盟国である国は,共同体の枠組の中において努力する考えである。

われわれは,われわれの代表に対し,1978年末までにこの宣言をレヴューするために会合するよう指示した。

われわれは,明年適当な時期にわれわれ自身の間で同様の会議を開く意向である。

航空機のハイジャックに関する声明(仮訳)

各国元首及び首相は,テロ活動及び人質行為を憂慮し,自国政府が国際的テロ活動と闘うための共同の努力をより一層強化することを宣言する。

このために航空機をハイジャックした者の身柄引渡し,またはその訴追を拒絶する国,またはこのような航空機を返還しない国については,それらの国への全ての航空機の運行を停止させるため,各国元首及び首相は自国政府が直ちに行動をとる旨,共同して決意した。

その際,参加国政府は,当該国からの全ての航空機の自国への運行又は当該国の航空機のいかなる国からの自国への運行を中止するために行動を開始する。各国元首及び首相は,他の国々に対してもこの約束に参加するよう強く要請する。

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(6) 第10回日韓定期閣僚会議共同コミュニケ

(1978年9月4日,ソウル)

1. 第10回日韓定期閣僚会議は1978年9月3日及び4日の両日,ソウルにおいて開催された。

会議には,日本側からは,園田直外務大臣,村山達雄大蔵大臣,中川一郎農林水産大臣,河本敏夫通商産業大臣及び前田治一郎経済企画政務次官が須之部量三駐韓大使とともに出席した。

韓国側からは,朴東鎮外務部長官,金竜煥財務部長官,張徳鎮農水産部長官,崔珏圭商工部長官,張礼準動力資源部長官及び徐錫俊経済企画院次官が金永善駐日大使とともに出席した。

2. 会議は,次の事項を議題として採択し,討議した。

(1) 国際情勢及び両国関係一般

(2) 両国の経済情勢及び日韓経済関係

(3) その他

3・ 両国の閣僚は,最近の国際情勢一般特にアジア情勢について隔意なき意見交換を行つた。

両国の閣僚は,アジア地域における平和と安定を一層促進することの重要性を認識するとともに,日韓両国が善隣友好協力関係を維持発展させることは,この地域の平和と安定に大きく貢献するものであることにつき認識を共にした。

また,両国の閣僚は,両国がこの地域における平和と安定を一層促進するため国際的な場において引続き緊密に協力していくことを再確認した。

日本側閣僚は,先般署名された日中平和友好条約は,両締約国間に長期にわたる安定的な平和友好関係を確立することとなり,ひいてはアジアの平和と安定にも貢献するものとなろうとの見解を表明し,また,朝鮮半島に関しては,従来の基本的政策が同条約の締結により特に何らかの変更がもたらされるものではない旨述べた。韓国側閣僚は,日本側閣僚の説明に留意し,同条約が東アジアの平和と安定に寄与することを希望した。

4. 両国の閣僚は,朝鮮半島における平和の維持が東アジアの平和に寄与するところが大であるとの見解を表明した。

韓国側閣僚は,朝鮮半島情勢に関連し,同地域の緊張緩和と平和定着,更に平和的統一達成のために,1970年以来一連の政策的努力を根気強く行なつて来たこと,特に本年6月23日南北対話の無条件再開を呼びかけるとともに,朝鮮半島の平和的統一基盤構築を目的として南北間の経済協力の促進のための協議機構の設置等を提案した朴大統領の特別談話に言及し,今後とも引続き平和的統一達成のために忍耐と誠意をもつて現実的且つ合理的な努力を行なうことを表明した。

日本側閣僚は,このような韓国政府と国民の努力を高く評価し,朝鮮半島の緊張緩和と平和定着のために南北対話が速やかに再開され,朝鮮半島の統一が平和的な方法で達成されることを強く希望した。

韓国側閣僚は,在韓米地上軍撤退問題,米国の対韓防衛公約問題等に関連して,韓米両国が最近開かれた定期安保協議会等の場において緊密な協議を行つていることを説明した。

日本側閣僚は,在韓米地上軍撤退問題に関し,韓米両国が密接な協議を行つていることに関心をもつて留意し,同問題は今後ともこの地域の平和と安定が損われないような形で取り進められることが重要であるとの考え方を改めて表明した。

5, 両国の閣僚は,最近の日韓関係について検討し,意見を交換した。

両国の閣僚は,両国間の友好関係が順調に発展していること,特に「日韓大陸棚協定」が本年6月22日に発効したことにつき深い満足の意を表明した。両国の閣僚は,エネルギー源を確保するため共同開発の円滑な実施をはかると共に,これを通じ両国の相互信頼と善隣友好協力関係がより一層増進されることにつき強い期待を表明した。

両国の閣僚は,両国の発展と繁栄が相互に密接な関係にあることにかんがみ,広く国民的基盤に立脚した善隣友好協力関係が発展することが望ましいことを認識し,今後とも政治,経済のみならず,学術,教育,文化等を含むあらゆる分野において,交流と協力を一層緊密に進めることの必要性について意見の一致をみた。

両国の閣僚は,両国の青少年の交流が両国の相互理解の増進に重要であることにつき認識を共にし,両国の将来をになう青少年の交流を今後とも一層拡大するよう努力することにつき意見の一致をみた。

韓国側閣僚は,在日韓国人の福祉増進に関連した諸問題に関し,日本政府の格別な配慮を要望し,これに対し日本側閣僚は,引き続き好意的に検討することを約束した。

6. 両国の閣僚は,最近の海洋秩序が大きく変りつつあることに留意し,新しい海洋秩序の成立のための国際的な努力において両国が緊密に協調していくこと,及びかかる新しい海洋秩序をふまえつつ,両国間の円滑な漁業関係のため両国が密接に協力していくことが望ましいことに意見の一致をみた。

7. 両国の閣僚は,両国の経済情勢に関して検討した。

日本側閣僚は,日本政府が物価の安定に配慮しつつ,内需中心の需要拡大を通じ7%の1978年度実質経済成長の目標の達成をはかるべく,財政金融両面にわたる各般の景気対策を実施してきていることを指摘し,さらに今般,最近の経済情勢をふまえ,9月2日の経済対策閣僚会議で総合経済対策を決定したところであり,もつて世界経済の健全な発展にも貢献する所存である旨説明した。

韓国側閣僚は,1977年の韓国経済が物価,国際収支及び経済成長において,安定と成長を維持したことを説明し,1978年にはかかる安定と成長を一層助長すべく,国民貯蓄の増大,物価の安定等の安定基盤の構築,産業の国際競争力強化を通ずる貿易の拡大及び社会開発等に施策の重点を置いていることを説明した。

8. 両国の閣僚は,世界経済の安定的発展を確保するとの観点に立つて,自由な国際貿易の維持発展のために努力することが必要であることに意見の一致をみた。

両国の閣僚は,日韓両国の貿易不均衡の推移に留意するとともに,日韓貿易の均衡的拡大の必要性につき認識しつつ,両国の利益の増進に資するべく今後の貿易関係の健全な発展の実現のため相互に積極的な努力を傾注することにつき意見の一致をみた。

また,両国の閣僚は,第15回日韓貿易会議を本年中に開催することとし,同会議において両国貿易の発展について率直な意見の交換が行われることを希望する旨表明した。

9. 両国の閣僚は,両国間の経済協力に関して意見を交換した。

両国の閣僚は,両国間のこれまでの経済協力が全般的な両国関係の増進に寄与したことに満足の意を表するとともに,日韓経済協力関係の順調な維持,発展が今後とも両国の善隣友好関係の促進,経済関係の強化及びアジアの平和と繁栄に貢献するものであるとの期待の意を表明した。

両国の閣僚は,韓国経済の着実かつ継続的な発展に伴い,日韓経済協力が民間ベース主体に移行しつつあることにつき共通の認識を深めるとともに,政府ペースの協力については,経済,社会基盤施設の整備拡充等,韓国の均衡ある経済,社会発展の為開発が必要とされる分野を中心に,政府間実務者レベルの協議を通じ検討の上,適切な案件につき具体化していくことを再確認した。

10・ 両国の閣僚は,両国間の科学技術協力がこれまで順調に進行してきたことに留意し,今後も開発が必要とされる分野を中心に協力を進めていくことについて意見の一致をみた。

l1. 両国の閣僚は,両国間の民間経済交流について意見を交換した。

両国の閣僚は,民間経済交流の順調な発展に留意しつつ,両国国民の善隣友好及び共同利益の増進に資する見地から今後ともこの分野の交流が一層増大されることが望ましいことについて意見の一致をみた。

12. 両国の閣僚は,これまで日韓定期閣僚会議が両国間の善隣友好協力関係増進に多大な寄与をして来たことを高く評価し,今回の会議も終始友好的な雰囲気の中で運営され,両国の相互理解と友好協力関係の増進のために極めて有益であつたことに対し満足の意を表明した。

また,両国の閣僚は,第11回日韓定期閣僚会議を来年東京で開催すること,及びその細目は今後外交経路を通じて決定することに合意した。

日本側閣僚は,第10回日韓定期閣僚会議に際し,韓国政府と同国民から示された歓迎に対し,深甚な謝意を表明した。

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(7) 福田総理大臣の中東4カ国訪問関連文書

() 福田総理大臣イラン訪問の際の日本・イラン共同コミュニケ(仮訳)

(1978年9月7日,テヘラン)

1・ 福田赳夫日本国総理大臣は,ジャッファル・シャリーフ・エマーミー・イラン帝国首相よりの招待により,夫人とともに1978年9月5日から8日までイランを公式訪問した。園田外務大臣が福田総理に同行した。

2. 福田総理は,イラン滞在中,イラン皇帝陛下に拝謁を賜わつた。

3. 福田総理とシャリーフ・エマーミー首相は,友好的かつ親密な雰囲気の下で,両国関係及び重要な国際問題につき意見の交換を行つた。

4. 現下の国際情勢に関する意見交換において,双方は,両国の外交政策の基本姿勢が世界の平和と安全の維持及び全ての国との友好関係の発展にむけて努力することを目指すものであるということで同一のものであることを再確認し合つた。

5. 双方は,インド洋における平和と安全の維持の重要性を強調し,この関連で,国際連合決議第2832号に従つてインド洋を平和地帯として認めることに対する支持を確認した。

イラン首相は,日本を含む工業国のエネルギー需要の過半の供給路であるペルシャ湾の国際経済上の重要性に言及し,イラン帝国政府は世界のこの重要な地域の平和と安全を維持することは沿岸国の責任であり,この地域は外国の干渉を受けるべきではないと考える旨述べた。日本国総理は,ペルシャ湾は,日本にとり経済的に大きな重要性を有する旨述べ,イラン首相の発言に対し十分な理解を示した。

6. 双方は,東アジア情勢に関し同様な見解を表明した。イラン首相は,その地域における協力と平和の維持にむけて日本が行つている努力を評価した。

7. 中東情勢を展望して,双方は,公正かつ永続的和平を達成するためには,国際連合安全保障理事会決議第242号及び第338号の全ての規定が全面的に適用されること及び国連憲章に基づくパレスチナ人の正当な権利が承認されることが必要な旨意見の一致をみた。

8. 両国総理は,世界経済の回復,国際通貨情勢の安定化及び新国際経済秩序の樹立につき意見を交換した。両者は,世界経済情勢の安定化と改善のため可能な限り協力を継続することに合意した。

9. 両国総理は,あらゆる分野においていちじるしく拡大しつつある日本とイランの両国関係の現状に満足の意を表明した。

10. 双方は,イランからの日本への石油の輸出の分野及び日本からのイランへの技術移転の分野における緊密な協力を継続することに合意した。

双方は,科学技術協力,特に石油代替エネルギーの開発に関し協力を促進することの必要性を再確認し,経済,科学及び技術協力の促進のため常時協議することに合意した。両者はまたイランの半製品の日本への輸出を含む両国間貿易が相互の利益のために増進されるべきことに合意した。

11. 両国総理は,両国が共に古い伝統文化を有しているとともに近代的文明を志向していることに留意し,両国間の文化交流を拡大する必要性を認めた。両者は,両国間の文化協力の増進のため相互に真剣に協議し,それぞれの大学において相手国に関する研究コースの開設及びアジアにおける東西文化交流史に関する共同研究の促進を含む措置を講ずることに合意した。

12. 両国総理は,1980年が日本からの最初の公式使節がイランを訪問してから100年目にあたることにかんがみ,同年に日イ修好100年を記念するにふさわしい事業を両国において行うことに合意した。

13. シャリーフ・エマーミー首相は,今回の福田総理のイラン訪問が,両国間における一層の相互理解の促進,相互友好協力関係の強化及び協力の拡大に対し大きく貢献した旨述べた。

14. 福田総理は,同総理及び随員一行がイラン滞在中に受けたあたたかい厚遇に対し,感謝の意を表明した。

15. 福田総理は,シャリーフ・エマーミー首相が日本を訪問するよう公式に招待した。

この招待は感謝の念をもつて受諾された。訪日の具体的日時は今後外交チャネルを通じて決定される。

(ロ) 福田総理大臣のカタル国訪問の際の日本・カタル国共同コミュニケ(仮訳)

     (1978年9月10日,ドーハ)

1. 福田赳夫日本国総理大臣及び一行は,シェイク・カリーファ・ビン・ハマド・アール・サーニー・カタル国首長殿下の招待により,イスラム暦1398年10月7日から8日まで,すなわち1978年9月9日から10日までカタル国を公式訪問した。

2. 偉大なる賓客は,カタル国の日本に対する深い敬意と両国をつなぐ固い友好関係を反映し,公式かつ温い歓迎を受けた。

3. 福田総理は,カタル国滞在中,シェイク・カリーファ・ビン・ハマド・アール・サーニー首長に拝謁を賜わり,次いで同首長と会談した。

4. 福田総理と首長は,湾岸地域情勢をはじめとする現下の国際情勢及び両国が関心を有する諸問題につき,率直かつ有益な意見の交換を行つた。会談は友好的かつ親密な雰囲気の中で行われ,双方は,右会談が両国間の相互理解及び友好関係の一層の増進に貢献したことを確認した。

5. 双方は,両国の経済,貿易関係が近年非常に円滑に発展しつつあることに満足の意を表明し,今後かかる円滑な関係が一層増進することを希望した。

更に,双方は,両国間の友好協力関係を一層多角的に発展させるため,技術協力,文化活動における交流及び人物交流を促進することにつき意見の一致をみた。

6, 共通の関心を有する現下の国際情勢を展望して,双方は,国際連合憲章の諸原則と目的に対する固い信念を再確認し,それらの尊重及び遵守がなければ,世界に平和と安定と安全及び繁栄は実現されないことを再確認した。双方は,また,国際連合が,開発途上国と工業国の間に衡平且つ均衡のとれた経済関係を達成するとともに,両者が平等な基礎に立つた利益を実現し,その結果全世界に繁栄をもたらすような新しい国際経済秩序を確立するため行つている努力を賞賛した。

7. 双方は,湾岸地域の国際政治・経済上の重要性を再確認するとともに,日本側はカタル国が同地域の安定的発展のために果している役割を高く評価した。更に,双方は,インド洋における平和と安定の維持の重要性を強調し,国際連合決議第2832号に従つてインド洋を平和地帯として認めることに対する支持を確認した。

8. 双方は,中東における公正かつ永続的和平の早期達成が世界平和にとつて緊要であり,このためには,1967年戦争の全占領地からのイスラエル兵力の撤退を含む国際連合安全保障理事会決議第242号及び第338号の完全な実施,民族自決権を含むパレスチナ人の国際連合憲章に基づく正当な権利の承認と尊重の確保が必要であることにつき意見の一致をみた。

9. 偉大なる賓客は,カタル国首長の英邁な指導の下で,同国があらゆる分野において達成した素晴しい業績に対し深い敬意を表明した。

10. 双方は,今回の訪問の成果に完全な満足の意を表し,今後とも双方で緊密な接触を保ち,両国の友好協力関係を一層強固なものとするため,両国の政府間関係者間で適宜緊密な協議を行うことに合意した。

11. 賓客は,カタル国滞在中,同賓客及び一行に対して与えられた温い歓待に対し,カタル国首長,政府及び国民に心からの感謝の意を表明した。

12. 賓客は,首長に対し日本を公式訪問するよう招待した。首長は,右招待を感謝の念をもつて受諾し,できるだけ早く訪問が実現することを希望する旨表明した。

(ハ) 福田総理大臣のアラブ首長国連邦訪問の際の日本・アラブ首長国連邦共同プレス・リリース(仮訳)

(1978年9月11日,アブダビ)

1. 福田赳夫日本国総理大臣は夫人とともに,アラブ首長国連邦政府の賓客として1978年9月10日から11日まで同国を公式訪問した。

福田総理大臣夫妻には園田直外務大臣を含む政府高官が随行した。一行は,マクトウーム・ビン・ラーシド・アル・マクトウーム・アラブ首長国連邦首相および政府高官によつて歓迎を受けた。

福田総理大臣は,アラブ首長国連邦滞在中,シエイク・ザーイド・ビン・スルタン・アール・ナハヤーン・アラブ首長国連邦大統領に拝謁を賜わり,次いで同大統領と有益な会談を行つた。

右会談には,日本側より園田外務大臣らが出席し,他方アラブ首長国連邦側よりマクトウーム・ビン・ラーシド・アル・マクトウーム首相らが出席した。

2. 福田総理大臣およびザーイド大統領は率直かつ有益な会談を行い,湾岸地域情勢をはじめとする現下の国際情勢および両国が関心を有する諸問題につき意見の交換を行つた。会談は友好的かつ親密な雰囲気の中で行われ,双方は右会談が両国間の相互理解および友好関係を一層増進する上で極めて有意義であつたことを確認した。

3. 福田総理大臣は,アラブ首長国連邦がザーイド大統領の英邁な指導の下で,世界で最も重要な地域のひとつである湾岸地域の安定的発展のために果している重要な役割を高く評価した。

双方は,中東における公正かつ永続的和平の早期達成が世界平和にとつて緊要であることにつき意見の一致をみた。この関連で,ザーイド大統領は,現下の中東情勢を展望するとともに,この問題に関するアラブ首長国連邦の見解を説明し,福田総理大臣は,中東に公正かつ永続的和平が達成されるためには,1967年戦争の全占領地からのイスラエル兵力の撤退を含む国連安全保障理事会決議第242号ができるだけ早く実施されるとともに,民族自決権を含むパレスチナ人の国連憲章に基づく正当な権利が承認され尊重されることが必要であると考えるとの日本政府の立場を再確認した。ザーイド大統領は,中東問題に関する日本政府の立場を評価した。

更に福田総理大臣は,アラブ首長国連邦の石油価格に関する穏健な政策を高く評価した。

4. 双方は,両国の経済,貿易関係が近年極めて順調に発展しつつあることに満足の意を表明し,今後かかる円滑な関係が一層増進することを希望した。

また双方は,両国間の友好協力関係をさらに多角的に発展させるため,技術協力,文化,その他の分野において交流を促進することにつき完全な意見の一致をみた。

5. 福田総理大臣は,アラブ首長国連邦滞在中,同総理大臣夫妻一行に対して与えられた丁重かつ温かい歓待に対し,心からの感謝の意を表明した。また,福田総理大臣は,ザーイド大統領に対する以前よりの日本国政府の招待を再確認した。これに対し,ザーイド大統領は,近い将来訪日したいとの希望を表明した。訪日の時期は外交チャネルを通じ決定される。

(ニ) 福田総理大臣のサウディ・アラビア王国訪問の際の日本・サウディ・アラビア共同コミュニケ

(1978年9月12日,タイフ)

1. 福田赳夫日本国総理大臣は,ファハド・ビン・アブドル・アジーズ皇太子兼副首相の招待により,1978年9月11,12日の両日サウディ・アラビア王国を公式訪問した。

福田総理大臣には,園田外務大臣その他政府高官が随行した。

2. 福田総理大臣は,ハーリド・ビン・アブドル・アジーズ国王兼首相に拝謁を賜わるとともに,同国王と現下の国際情勢及び2国間関係について極めて有益な意見交換を行つた。さらに福田総理大臣はファハド・ビン・アブドル・アジーズ皇太子兼副首相と会談した。これら会談には,日本側から園田外務大臣,大口駐サウディ・アラビア大使,道正官房副長官,高島外務審議官らが同席し,サウディ・アラビア側からスルタン国防航空大臣,サウド外務大臣,ヤマニ石油鉱物大臣,ナーゼル企画大臣,アバル・ヘイル財政・経済大臣,マンスーリ外務次官,ダッバーグ駐日大使,セラージ外務省アジア局長が同席した。

3. 福田総理大臣とファハド皇太子兼副首相は非常に友好的な雰囲気の中で,現下の国際情勢に係る共通の関心事項及び2国間関係につき意見の交換を行つた。両者の見解は,率直な形で表明され,一致するものであつた。

双方は,両国関係が近年非常に多岐の分野にわたり一層緊密化していることに満足の意を表明し,さらに福田総理大臣の今次訪問が,両国の最高指導者同士の個人的接触を通じ,両国間の相互理解及び友好協力関係を更に増進する上で真に有意義であつたことに意見の一致をみた。

4.(1) 双方は,世界平和にとつて中東における公正かつ永続的和平の早期達成が必要であることにつき意見の一致をみた。双方は,かかる和平が達成されるためには,イスラエルが,1967年戦争において同国が占領したジェルサレムのアラブ地区を含む全アラブ占領地から撤退し,民族自決権を含むパレスチナ人の国連憲章に基づく正当な権利を承認すべきである旨認識した。日本側は,公正かつ永続的和平が達成されるためには,同地域のすべての国の領土の保全と安全が尊重されることが必要であることを確認した。

(2) 福田総理大臣は,特に,日本がアジアの安定と発展のために払つている努力につき説明した。これに対し,ファハド皇太子兼副首相は湾岸・紅海情勢に関するサウディ・アラビア側の見解を表明するとともに,サウディ・アラビアが同地域の安全と安定確保のために同地域のその他の諸国と協力して果している役割につき言及した。双方は,世界の平和と繁栄確保のため,それぞれが,その地位にふさわしい役割を今後とも果してゆくことにつき意見の一致をみた。

5. 双方は,国際経済情勢について意見を交換した。福田総理大臣は,先般の主要国首脳会議の成果及び日本が世界経済の発展と安定及び開発途上国に対する援助拡大のために行つている積極的努力につき説明し,今後ともそうした努力を継続して行くとの決意を表明した。サウディ・アラビア側は,日本側のかかる努力を評価するとともに,通貨の安定,南北間の協力の推進,エネルギー資源の有効利用及び代替エネルギー源の開発の必要性等に対するサウディ側の強い関心を表明した。双方は,今後とも世界経済の安定的発展のため両国が夫々の立場であらゆる可能な努力を行うことにつき意見の一致をみた。日本側は,サウディ・アラビアが世界経済に対する責任を十分に認識し,穏健な石油政策をとつていることを高く評価すると共に,そのような政策が継続されることを希望した。

6. 福田総理大臣は,サウディ・アラビアの建設事業及び開発計画実施について同国に対し,日本として可能な限りの協力を行う方針であり,今後とも石油化学関連合弁プロジェクトその他のプロジェクトにおいて,サウディ・アラビアの経済開発と工業化に積極的に貢献したいとの意向を表明すると共に,日本・サウディ・アラビア合同委員会がこの協力を一層推進するものとなる旨述べた。サウディ・アラビア側は日本側のかかる積極的な姿勢を歓迎した。

7.(1) 双方は,園田外務大臣のサウディ・アラビア訪問の際合意されたように,文化交流を拡大すると共に,学術,科学技術交流を一層促進することの必要性を確認し,更にそのための具体的な措置につき,今後共両国間で協議を継続することの必要性を確認した。

(2) 双方は,両国間の相互理解増進のために交流の促進が有益であることに意見の一致をみ,その一環として特に青少年の交流を促進して行くことに合意した。

8. 福田総理大臣は,同総理大臣及び随員一行がサウディ・アラビア王国滞在中に受けた温かい歓迎と厚遇に対し,心からの感謝の意を表明した。更に,福田総理大臣は,ファハド・ビン・アブドル・アジーズ皇太子に対し,日本を訪問するよう正式に招待した。同皇太子は,右招待を感謝の念をもつて受諾した。訪日の時期は,今後外交チャネルを通じて決定される。

又,ファハド皇太子は福田総理大臣に対し,ハーリド国王からのかねてよりの天皇陛下に対するサウディ・アラビア王国訪問への招待を改めて行つた。

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(8) シュミット・ドイツ連邦共和国首相訪日に際しての共同新聞発表

(1978年10月13日,東京)

1. ヘルムート・シュミット・ドイツ連邦共和国首相及び同夫人は日本国政府の招待により,1978年10月10日より13日まで日本を公式訪問した。シュミット首相夫妻には,ハンス・ユルゲン・ヴィシュネフスキー・連邦首相府国務大臣夫妻及び連邦政府高官並びにドイツの経済界,労働組合及び文化界の代表者が同行した。

2. 日本滞在中シュミット首相夫妻は,天皇・皇后両陛下より謁見を賜わつた。シュミット首相はまた,福田総理大臣と詳細にわたり意見の交換を行つた他,日独友好議員連盟所属の国会議員と会見し,東京の日独協会に招待され,また日本側の経済団体代表者と懇談した。これらの会見及び催しは,極めて良好な状態にある日独関係を反映して,いずれも極めて友好的かつ相互理解の雰囲気の裡に行われた。

3. シュミット首相と福田総理大臣は,両首脳間の会談を通じて東西関係を含む国際政治の諸問題,通貨問題を含む国際経済情勢,南北対話の現状及び日独関係について深く且つ詳細な意見の交換を行つた。総理及び首相は,双方の見解の一致が将来の日独協力に対する良い前提条件となることを確認した。双方は,この協力関係を世界的な平和の確保及び国際経済の発展のために活用することによつて世界に貢献したいとの決意を強調した。

総理及び首相は日欧米三者間の協力を更に強化することが極めて望ましい旨意見の一致をみた。総理及び首相は核不拡散に合致した有力な代替エネルギー源たる原子力の一層の開発と妨げられない平和利用が極めて重要であることを強調した。

総理及び首相は国際テロリズムに対する闘いに関し,主要国首脳会議の宣言を実施するとの決意を確認した。

4. 総理及び首相は,両国が世界,就中,それぞれの属する地域における平和と安定のために大きな役割を果す決意であることを強調した。

総理は,ドイツ連邦共和国が欧州における多数国間及び2国間のあらゆるレベルでの東西緊張緩和のプロセスにおいて多大の貢献を行つてきたこと,ならびに欧州統合の促進についても政治,経済その他の分野での統合努力に大きな役割を果していることを認めた。またシュミット首相は日中平和友好条約の締結を含む最近のアジア情勢の進展がこの地域における平和と安定の維持発展のため大きく寄与するものであり,且つ,その他の地域にも好ましい影響をもたらすものであるとしてこれを歓迎した。

その他,中東和平問題,アフリカ情勢等についても意見交換が行われた。日独両国は今後とも世界平和の確保のためにあらゆる努力を行つていくとの決意を表明した。

5.総理及び首相は,世界経済に占める日独両国の大きな役割りを相互に確認するとともに,世界経済の安定的発展とりわけ先進国経済の着実なインフレなき成長を達成し,雇用の拡大を図るためには先進主要各国がボン・サミットの精神にのつとり,それぞれの政策努力を強化すると共に国際協調の増進を図ることが緊要であることに意見の一致をみた。

両国首脳はまた保護主義を防圧し国際貿易を拡大するとの決意を再確認し,この関連で東京ラウンドが本年12月15日までに成功裡に完了することが重要であることを強調した。

更に,両国首脳は世界経済の安定的発展という目的を達成するためには,国際通貨情勢の安定,特に基軸通貨の安定が不可欠であること及び関係諸国が国際収支の均衡回復に向けて努力すべきであることが必要であることについて意見の一致をみた。

シュミット首相は,ドイツ連邦共和国を議長国として本年後半に行われている欧州共同体の諸活動の現状,就中,新欧州通貨制度設立への動きにつき説明し,福田総理は同通貨制度が欧州における通貨安定のみならず,国際通貨情勢の安定にも大きく貢献することを歓迎する旨述べた。

6. 総理及び首相は,開発途上国の経済成長を促し,人間生活の基本的要請を満たすことを目的として先進国と開発途上国との間で現在進められている南北間の対話に積極的に参加し,衡平かつ調和のとれた経済秩序の樹立に向けて引き続き努力を重ねる意思を確認した。

両首相は共通基金についての交渉を成功裡に終結するよう積極的に推進することの重要性を認識し,かつ開発途上国の輸出所得を安定化する種々の構想につき詳細にわたり話し合いを行つた。

7. 両国首相は,日独両国の友好関係があらゆる分野で極めて良好に進展してきたことに対し満足の意を表明した。両国首相は共通の利害を有する諸問題の解決のために将来とも集中的に協議を重ねかつ相互信頼に基づく協力を行うとの決意を表明した。

8. シュミット首相は福田総理大臣にドイツ連邦共和国を訪問するよう招待した。福田総理大臣はこの招待を深甚なる謝意と共に受諾した。

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(9) 福田総理大臣とロペス・ポルティーリョ・メキシコ大統領との間の共同コミュニケ

(1978年11月2日,東京)

ホセ・ロペス・ポルティーリョ・メキシコ合衆国大統領及びカルメン・ロマーノ・デ・ロペス・ポルティーリョ同令夫人は日本国政府の招待により,1978年10月30日から11月4日まで国賓として日本を訪問した。

大統領には,ロドルフォ・ゴンサレス・ゲバラ下院大委員会委員長,アグスティン・テリェス・クルセス最高裁判所長官,ホアキン・ガンボア・パスコエ上院大委員会委員長,サンティアゴ・ロエル・ガルシア外務大臣,ダヴィド・イバラ・ムニョス大蔵大臣,ホセ・アンドレス・デ・オテイサ国有財産・工業振興大臣,ギリェルモ・ロセール・デ・ラ・ラマ観光大臣,フェルナンド・ラフール・ミゲル漁業長官,ホルヘ・ディアス・セラーノ石油公社総裁,アドリアン・ラユウス・マルティネス外国貿易庁長官,エドムンド・フローレス科学・技術審議会長官,グスタボ・ロメロ・コルペック・メキシコ中央銀行総裁,ニクトル・エルナンデス外国貿易担当次官が随行した。

大統領夫妻は,10月30日皇居において天皇・皇后両陛下と会見した。

滞日中,大統領は日墨議員連盟の議員と会談し,最高裁判所長官及び判事と会見した。また,第10回日墨経済協議会に参加するとともに,日本の経済団体の指導者と会談を行つた。名古屋及び大阪においては,商工会議所会員,指導者,名古屋・メキシコ友好協会会員と会合するとともに,港湾及び工業施設を訪問する。京都外国語大学では,同大学の名誉総長の称号が授与される。

福田総理大臣とロペス・ポルティーリョ大統領は友好的かつ建設的な雰囲気の下に,二度にわたつて,国際問題及び両国関係につき,広範な会談を行つた。

両首脳は,アジアと米州の情勢に言及しつつ国際情勢についての,全般的な検討を行つた。また,両首脳は国際連合が国際平和の維持及び国際協力の促進に果してきた役割を高く評価し,国際連合の重要性を再確認した。

総理大臣と大統領は,かかる目的のため,「憲章及び国際連合の役割強化に関する特別委員会」が,その討議において,国際連合の重要な任務をより活動的かつ効果的に遂行できるような方法を検討し,採択すべきことを強調することに合意した。

両首脳は,先般ニュー・ヨークにおいて開催された国際連合軍縮特別総会において採択された最終文書に基づき,究極的な目的である効果的な国際管理下での全面完全軍縮を達成するため両国政府が各国の安全保障に留意しつつ最善の努力を行うことが重要であることを強調した。

一方,総理大臣は,ラテン・アメリカにおける核兵器の禁止に関する条約(トラテロルコ条約)が完全な有効性を達成しつつあることの重要性を認識し,全面的軍縮の一環として,特定通常兵器の使用の禁止もしくは制限,ならびにこれら兵器の移転の禁止に関し,20カ国のラテン・アメリカ諸国による努力が開始されたことを評価した。

大統領は,すべての諸国間に衡平な経済関係を達成するため,国際連合によつて決議された新国際経済秩序を樹立する緊急性を表明したのに対し,総理大臣はこれを注意深く聞くとともに,この重要な問題について広範にわたつて日本の考えを述べた。

総理大臣と大統領は,政治,経済及び文化面における2国間関係を詳細に分析するとともに,政府並びに民間レベルでの接触が恒常的に増大していることに対し満足の意を表明した。

両首脳は,メキシコ大統領の訪問により日本とメキシコとの間の友好関係がより高い次元のものに発展するとの確信を表明した。両首脳は,両国間の交流を相互扶助により行うことを保証するような総合的な観点より両国関係を律することを決意することにより,実り多い相互補完関係を達成しうる可能性が大きいことに意見の一致をみた。さらに,両首脳は,両国関係は貿易の促進にとどまらず,両国が関心を有する経済の各分野において,両国相応の能力により共同投資が促進されることを含め,総合的な考えに基づき補完関係を体系的に探求することにある旨意見の一致を見た。また,大統領はかかる分野として鉄鋼,資本財生産,漁業,技術,金融,観光,天然資源の利用等の分野を指摘した。

両首脳は,石油及び天然ガスの分野における両国の関心を強調した。また日本に対する輸出のため相当量の原油をメキシコで生産することの可能性について関心をもつて話し合つた。この観点より両首脳は,メキシコが実施し多量の埋蔵量を確認した石油及び天然ガスの探鉱と開発計画について話し合うとともに,日本企業との間で量について将来決定される石油の売買のための弾力的な契約を結ぶ可能性についても話し合つた。

両首脳は,経済協力の主要な分野につき詳細に検討し,メキシコにおける開発計画に協力する可能性につき関心をもつて話し合うと共に,港湾,運輸,船舶,鉄鋼,石油化学,工作機械の分野における協力の可能性についても話しあつた。メキシコ側は,この関連においてコアツァコアルコス,サリナ・クルス及びラサロ・カルデナスにおける工業港の建設計画につき説明した。両首脳は,石油産業をはじめ既存の産業部門の一層の発展及び新たな産業部門の振興につき両国間の関係が今後とも順調に進展することを希望する旨表明した。

総理大臣と大統領は,両国の公的及び私的機関間の,メキシコの開発のための投資計画に対する資金協力に関する取決めが締結されたことに満足の意をもつて言及した。これ等の資金はインフラストラクチャーの整備を通じメキシコの経済を強化する開発のための投資計画,即ち電力,石油のエネルギー部門及び機械工業等の重工業に使用される。両首脳はまた各々の国の目的を達成するに当つて双方に利益となるような協力が今後も引続き行われるよう希望する旨表明した。

両首脳は,メキシコ大統領の臨席の下に閉会された第10回日墨経済協議会の成果,日墨共同投資促進セミナーの開催及び中小企業の分野における共同投資を促進する目的を有する共同投資基金の創設に祝意を表し,又両国の経営者間の提携が実りある成果をあげるとともに相互理解の下に行われる投資及び共同投資が両国相応の能力により推進されることが期待されることに留意した。

両首脳は,両国間の貿易の現状及び今後の見通しについて意見を交換し,これが着実に増大していることを確認するとともに,相互利益の下により基本的な貿易関係を増大させるためには,製品の輸出増大に関するメキシコ側の意向に留意しつつ品目の多様化及び2国間直接貿易を推進し,かつそれぞれの国がもつ可能性を周知させるための広報手段が必要であることに意見の一致をみた。

両首脳は,漁業の分野における協力の重要性を再確認した。メキシコ側は,優先度の高い,現在推進中の漁業計画を説明するとともに,漁船の建造及び陸上設備の建設に対する技術的及び資金的協力について関心を表明したのに対し,日本側はこの計画についての説明を関心をもつて聴取した。両首脳はまた,漁業分野における共同投資に対し満足の意を表するとともに,今後ひき続き協力が行われるよう希望を表明した。

両首脳は,日本にとつて最初の観光協定である「観光の分野における協力に関する日本国政府とメキシコ合衆国政府との間の協定」が締結されたことに祝意を表明するとともに同協定が相互に人の往来を促進し,観光に関する経験を交換するとともに,観光分野における新しい協力体制を樹立することによつて両国民の理解と友好関係を増進することにつき言及した。

両首脳は,科学及び技術が両国間のきずなを強化するため大きな役割を果すことから日本とメキシコの間で科学技術交流を増大させることが重要であることに意見の一致をみた。両首脳はまた1971年に開始された研修生・学生等交流計画を今後とも継続することが望ましいことに合意した。

両首脳は,両国間の文化交流が着実に進展していることを満足の意をもつて確認した。さらに両首脳は,最近開催され,教授,学生,運動選手,情報と刊行物,公演,展示等の文化的催物,フィルム等視聴覚分野における交流の増進を含む広範な検討を行つた文化混合委員会の成果に言及した。1976年に設立された日本・メキシコ学院が相互理解を促進する上で重要な成果を収めていることを評価した。さらに,視聴覚教育機材購入のため最近日本国政府よりメキシコ合衆国政府に対し行われた協力に満足の意を以つて言及した。

ホセ・ロペス・ポルティーリョ大統領は家族及び随員一行とともに,日本国政府及び日本国民によつて与えられた厚遇に対し深い感謝の念を表明するとともに,かかる厚遇と親愛の情は,日本国民とメキシコ国民とが相互に抱いている友情のしるしであるとの意向を表明した。

メキシコ大統領は福田総理大臣がメキシコを訪問するよう公式に招待した。福田総理大臣はこの招待を感謝の念をもつて受諾した。訪墨の具体的期日は外交チャネルを通じて決定される。

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(10) 日米安全保障協議委員会が了承した防衛協力小委員会の報告

(1978年11月28日,東京)

昭和51年7月8日に開催された日米安全保障協議委員会で設置された防衛協力小委員会は,今日まで8回の会合を行つた。防衛協力小委員会は,日米安全保障協議委員会によつて付託された任務を遂行するに当たり,次の前提条件及び研究・協議事項に合意した。

1.前提条件

(1) 事前協議に関する諸問題,日本の憲法上の制約に関する諸問題及び非核三原則は,研究・協議の対象としない。

(2) 研究・協議の結論は,日米安全保障協議委員会に報告し,その取扱いは,日米両国政府のそれぞれの判断に委ねられるものとする。この結論は,両国政府の立法,予算ないし行政上の措置を義務づけるものではない。

2. 研究・協議事項

(1) 日本に武力攻撃がなされた場合又はそのおそれのある場合の諸問題

(2) (1)以外の極東における事態で日本の安全に重要な影響を与える場合の諸問題

(3) その他(共同演習・訓練等)

防衛協力小委員会は,研究・協議を進めるに当たり,日本に対する武力攻撃に際しての日米安保条約に基づく日米間の防衛協力のあり方についての日本政府の基本的な構想を聴取し,これを研究・協議の基礎として作業を進めることとした。防衛協力小委員会は,小委員会における研究・協議の進捗を図るため,下部機構として,作戦,情報及び後方支援の三部会を設置した。これらの部会は,専門的な立場から研究・協議を行つた。更に,防衛協力小委員会は,その任務内にあるその他の日米間の協力に関する諸問題についても研究・協議を行つた。

防衛協力小委員会がここに日米安全保障協議委員会の了承を得るため報告する「日米防衛協力のための指針」は,以上のような防衛協力小委員会の活動の結果である。

日米防衛協力のための指針

この指針は,日米安保条約及びその関連取極に基づいて日米両国が有している権利及び義務に何ら影響を与えるものと解されてはならない。

この指針が記述する米国に対する日本の便宜供与及び支援の実施は,日本の関係法令に従うことが了解される。

I 侵略を未然に防止するための態勢

1.日本は,その防衛政策として自衛のため必要な範囲内において適切な規模の防衛力を保有するとともに,その最も効率的な運用を確保するための態勢を整備・維持し,また,地位協定に従い,米軍による在日施設・区域の安定的かつ効果的な使用を確保する。また,米国は,核抑止力を保持するとともに,即応部隊を前方展開し,及び来援し得るその他の兵力を保持する。

2. 日米両国は,日本に対する武力攻撃がなされた場合に共同対処行動を円滑に実施し得るよう,作戦,情報,後方支援等の分野における自衛隊と米軍との間の協力態勢の整備に努める。

このため,(1)自衛隊及び米軍は,日本防衛のための整合のとれた作戦を円滑かつ効果的に共同して実施するため,共同作戦計画についての研究を行う。また,必要な共同演習及び共同訓練を適時実施する。

更に,自衛隊及び米軍は,作戦を円滑に共同して実施するため作戦上必要と認める共通の実施要領をあらかじめ研究し,準備しておく。この実施要領には,作戦,情報及び後方支援に関する事項が含まれる。また,通信電子活動は指揮及び連絡の実施に不可欠であるので,自衛隊及び米軍は,通信電子活動に関しても相互に必要な事項をあらかじめ定めておく。

(2) 自衛隊及び米軍は,日本防衛に必要な情報を作成し,交換する。自衛隊及び米軍は,情報の交換を円滑に実施するため,交換する情報の種類並びに交換の任務に当たる自衛隊及び米軍の部隊を調整して定めておく。また,自衛隊及び米軍は,相互間の通信連絡体系の整備等所要の措置を講ずることにより緊密な情報協力態勢の充実を図る。

(3) 自衛隊及び米軍は,日米両国がそれぞれ自国の自衛隊又は軍の後方支援について責任を有するとの基本原則を踏まえつつ,適時,適切に相互支援を実施し得るよう,補給,輸送,整備,施設等の各機能について,あらかじめ緊密に相互に調整し又は研究を行う。この相互支援に必要な細目は,共同の研究及び計画作業を通じて明らかにされる。特に,自衛隊及び米軍は,予想される不足補給品目,数量,補完の優先順位,緊急取得要領等についてあらかじめ調整しておくとともに,自衛隊の基地及び米軍の施設・区域の経済的かつ効率的な利用のあり方について研究する。

II 日本に対する武力攻撃に際しての対処行動等

1. 日本に対する武力攻撃がなされるおそれのある場合

日米両国は,連絡を一層密にして,それぞれ所要の措置をとるとともに,情勢の変化に応じて必要と認めるときは,自衛隊と米軍との間の調整機関の開設を含め,整合のとれた共同対処行動を確保するために必要な準備を行う。

自衛隊及び米軍は,それぞれが実施する作戦準備に関し,日米両国が整合のとれた共通の準備段階を選択し自衛隊及び米軍がそれぞれ効果的な作戦準備を協力して行うことを確保することができるよう,共通の基準をあらかじめ定めておく。

この共通の基準は,情報活動,部隊の行動準備,移動,後方支援その他の作戦準備に係る事項に関し,部隊の警戒監視のための態勢の強化から部隊の戦闘準備の態勢の最大限の強化にいたるまでの準備段階を区分して示す。

自衛隊及び米軍は,それぞれ,日米両国政府の合意によつて選択された準備段階に従い必要と認める作戦準備を実施する。

2. 日本に対する武力攻撃がなされた場合

(1) 日本は,原則として,限定的かつ小規模な侵略を独力で排除する。侵略の規模,態様等により独力で排除することが困難な場合には,米国の協力をまつて,これを排除する。

(2) 自衛隊及び米軍が日本防衛のための作戦を共同して実施する場合には,双方は,相互に緊密な調整を図り,それぞれの防衛力を適時かつ効果的に運用する。

(i) 作戦構想

自衛隊は主として日本の領域及びその周辺海空域において防勢作戦を行い,米軍は自衛隊の行う作戦を支援する。米軍は,また,自衛隊の能力の及ばない機能を補完するための作戦を実施する。

自衛隊及び米軍は,陸上作戦,海上作戦及び航空作戦を次のとおり共同して実施する。

(a) 陸上作戦

陸上自衛隊及び米陸上部隊は,日本防衛のための陸上作戦を共同して実施する。

陸上自衛隊は,阻止,持久及び反撃のための作戦を実施する。

米陸上部隊は,必要に応じ来援し,反撃のための作戦を中心に陸上自衛隊と共同して作戦を実施する。

(b) 海上作戦

海上自衛隊及び米海軍は,周辺海域の防衛のための海上作戦及び海上交通の保護のための海上作戦を共同して実施する。

海上自衛隊は,日本の重要な港湾及び海峡の防備のための作戦並びに周辺海域における対潜作戦,船舶の保護のための作戦その他の作戦を主体となつて実施する。

米海軍部隊は,海上自衛隊の行う作戦を支援し,及び機動打撃力を有する任務部隊の使用を伴うような作戦を含め,侵攻兵力を撃退するための作戦を実施する。

(c) 航空作戦

航空自衛隊及び米空軍は,日本防衛のための航空作戦を共同して実施する。

航空自衛隊は,防空,着上陸侵攻阻止,対地支援,航空偵察,航空輸送等の航空作戦を実施する。

米空軍部隊は,航空自衛隊の行う作戦を支援し,及び航空打撃力を有する航空部隊の使用を伴うような作戦を含め,侵攻兵力を撃退するための作戦を実施する。

(d) 陸上作戦,海上作戦及び航空作戦を実施するに当たり,自衛隊及び米軍は,情報,後方支援等の作戦に係る諸活動について必要な支援を相互に与える。

(ii) 指揮及び調整

自衛隊及び米軍は,緊密な協力の下に,それぞれの指揮系統に従つて行動する。自衛隊及び米軍は,整合のとれた作戦を共同して効果的に実施することができるよう,あらかじめ調整された作戦運用上の手続に従つて行動する。

(iii) 調整機関

自衛隊及び米軍は,効果的な作戦を共同して実施するため,調整機関を通じ,作戦,情報及び後方支援について相互に緊密な調整を図る。

(iv) 情報活動

自衛隊及び米軍は,それぞれの情報組織を運営しつつ,効果的な作戦を共同して遂行することに資するため緊密に協力して情報活動を実施する。このため,自衛隊及び米軍は,情報の要求,収集,処理及び配布の各段階につき情報活動を緊密に調整する。自衛隊及び米軍は,保全に関しそれぞれ責任を負う。

(V) 後方支援活動

自衛隊及び米軍は,日米両国間の関係取極に従い,効率的かつ適切な後方支援活動を緊密に協力して実施する。

このため,日本及び米国は,後方支援の各機能の効率性を向上し及びそれぞれの能力不足を軽減するよう,相互支援活動を次のとおり実施する。

(a) 補給

米国は,米国製の装備品等の補給品の取得を支援し,日本は,日本国内における補給品の取得を支援する。

(b) 輸送

日本及び米国は,米国から日本への補給品の航空輸送及び海上輸送を含む輸送活動を緊密に協力して実施する。

(c) 整備

米国は,米国製の品目の整備であつて日本の整備能力が及ばないものを支援し,日本は,日本国内において米軍の装備品の整備を支援する。整備支援には,必要な整備要員の技術指導を含める。関連活動として,日本は,日本国内におけるサルベージ及び回収に関する米軍の需要についても支援を与える。

(d) 施設

米軍は,必要なときは,日米安保条約及びその関連取極に従つて新たな施設・区域を提供される。また,効果的かつ経済的な使用を向上するため自衛隊の基地及び米軍の施設・区域の共同使用を考慮することが必要な場合には,自衛隊及び米軍は,同条約及び取極に従つて,共同使用を実施する。

III 日本以外の極東における事態で日本の安全に重要な影響を与える場合の日米間の協力

日米両政府は,情勢の変化に応じ随時協議する。

日本以外の極東における事態で日本の安全に重要な影響を与える場合に日本が米軍に対して行う便宜供与のあり方は,日米安保条約,その関連取極,その他の日米間の関係取極及び日本の関係法令によつて規律される。日米両政府は,日本が上記の法的枠組みの範囲内において米軍に対し行う便宜供与のあり方について,あらかじめ相互に研究を行う。このような研究には,米軍による自衛隊の基地の共同使用その他の便宜供与のあり方に関する研究が含まれる。

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(11) グエン・ズイ・チン・ヴィエトナム社会主義共和国副首相兼外務大臣の訪日に関する日本・ヴィエトナム共同新聞発表(仮訳)

(1978年12月19日,東京)

1. グエン・ズイ・チン・ヴィエトナム社会主義共和国外務大臣閣下は,日本国政府の招待により,1978年12月14日から20日まで日本を公式訪問した。グエン・ズイ・チン外務大臣には,レ・カック国家計画委員会副議長,ファン・ヒエン外務次官,チャン・ヴァン・タイン外務省アジア第一局長,グエン・ヴァン・イック国家計画委員会対外経済部長等が随行した。

2. グエン・ズイ・チン外務大臣は滞在中大平総理大臣を表敬訪問し,園田外務大臣と2回にわたり会談を行つた他,滞日中産業及び文化諸施設を視察した。

3. 園田外務大臣とグエン・ズイ・チン外務大臣は,その会談において,両国に関心のある国際問題及び両国関係について意見交換を行つた。同会談は友好的かつ率直な雰囲気の下で行われた。

両外務大臣は独立・主権・領土保全の相互尊重,相互不可侵,相互内政不干渉,平等互恵,平和共存の諸原則に立つて,アジアの平和と安定のため両国が協力していくことにつき意見の一致をみた。両外務大臣は,更に,両国間の相互理解を通じて両国の友好・協力関係を強化することにつき意見の一致をみた。

4. グエン・ズイ・チン外務大臣は,同大臣及びその一行の日本滞在中に与えられた丁重な歓迎と暖かいもてなしについて,日本国政府及び同国国民に対し深い感謝の意を表明した。

5. グエン・ズイ・チン外務大臣は,園田外務大臣に対し,ヴィエトナム訪問の招待を衷心より行つた。園田外務大臣は,この招待を深甚なる感謝の念をもつて受諾した。

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(12) クリアンサック・チョマナン・タイ国首相の訪日に際しての日・タイ共同コミュニケ(仮訳)

(1979年1月18日,東京)

1. タイ国首相クリアンサック・チョマナン閣下および同夫人は,日本国政府の招待により1979年1月16日から19日まで日本を公式訪問した。

2. クリアンサック首相夫妻は,1月17日,宮中において天皇・皇后両陛下に拝謁を賜わつた。

3. クリアンサック首相及び大平総理大臣は,1月17日及び18日,2回にわたり両国が共通の関心を有する国際問題及び両国間の諸問題について討議を行つた。

この討議には,タイ側よりスントン副首相,ウパディット外務大臣,スパット大蔵大臣,ナム商務大臣,ソンポン総理府付大臣,カセム工業大臣が,また日本側より園田外務大臣,田中官房長官が出席した。会談は,親密かつ友好的な雰囲気の中で行われ,両首相は討議の実りある成果に満足の意を表明した。

4. 会談において,両首相は現下の東南アジア情勢につき意見交換を行つた。

両首相は,カンボディアにおける現下の情勢につき深い懸念を表明するとともに,民族自決及び相互内政不干渉の原則に基づき,かつ国連憲章にそつた平和的方法によつてこの地域における平和と安定が可及的すみやかに回復されることを強く希望した。

これとの関連で,大平総理大臣は1979年1月12日,バンコクにおいて開催されたASEAN外相会議で発出された共同声明を強く支持した。

両首相は,東南アジアにおける平和と安定の確保という共通の目的を達成するため関係諸国及び適切な国際機関とともに双方が一層の建設的努力を行うことにつき意見の一致をみた。

5. クリアンサック首相は,大平総理大臣に対し最近のインドシナ難民のタイヘの流入の激増により,タイにおける経済的,社会的負担が増大している旨説明した。

これに対し大平総理大臣は,タイに課された厳しい負担を理解するとともに,日本としてはUNHCR及び関係諸国とともにタイにおける負担の軽減及び同国におけるインドシナ難民問題の有効な解決に貢献するため今後とも協力していく旨述べた。

6. 両首相は,近年あらゆる分野における二国間の交流が拡大しつつある事実を満足の意をもつて留意するとともに,現在の両国間における緊密かつ友好的な関係を一層ゆるぎないものとするため相互信頼及び相互理解の関係が強化されるよう希望を表明した。

7. 両首相は両国間の経済協力につき話し合つた。

クリアンサック首相は,日本の経済及び技術協力がタイ国における経済及び社会の開発にとつて大いに寄与してきたことを高く評価するとともに,外国からの追加的経済,技術協力を必要とするタイ国の第4次5カ年計画につき説明した。

大平総理大臣は,日本としては,既に両国政府間で討議が行われているバンナー港高速道路の建設,ドーン・ムアン空港の拡張,農村電化計画及びその他の優先度の高いプロジェクトの実施のために320億円を限度とする円借款を供与する用意がある旨述べた。

また大平総理大臣は,タイ国の新農村開発計画の実施のため,日本政府はタイ政府に対し,2年度(1979/80-1980/81)にわたつて140億円を限度とする円借款を供与するための必要な措置をとる意向である旨述べた。

クリアンサック首相は,日本政府に対しタイ国における経済及び社会の開発とタイ国民の福祉の向上を一層支援していく日本政府の親密な協力につき謝意を表明した。

8. 両首相は両国間の経済関係全般の着実な発展について満足の意を表明した。

9. 両首相は,両国間の貿易の安定的な拡大と多様化が両国各々の利益に適うものであることを認識しつつ,両国間の貿易を一層促進することの重要性を再確認した。両首相は,最近の増加しつつある両国間貿易インバランスに留意しつつ,より均衡的な経済関係を達成するよう双方が両国間貿易インバランスの縮少のため引き続き一層の努力を行う必要につき意見の一致をみた。

10. 両首相は,文化交流及び特に青少年をはじめとする両国国民間の接触を通じて両国国民間の相互理解を一層促進していく意向を再確認した。

11. 両首相は,クリアンサック首相の日本訪問が日・タイ両国間の相互理解と友好関係の一層の増進に大きく寄与したことに意見の一致を見た。

12. クリアンサック首相は,大平総理大臣に対し,タイ国公式訪問の招待を行い,大平総理大臣は,この招待を深甚なる感謝の念をもつて受諾した。

13. クリアンサック首相は,日本国政府及び日本国民より,同首相夫妻及びその一行に対して示された心からの歓迎と暖かいもてなしに対して深甚な謝意を表明した。

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*欧州共同体を含む