-在外邦人に対する保護・援助-
第4節 在外邦人に対する保護・援助
78年にはザイールのシャバ州事件(5月),アフガニスタンのクーデター(4月)と各地でクーデター,内戦などの緊急事態が発生したが,邦人保護の観点より最も重要な事件はイラン革命であつた。
イランには78年10月現在約7千名の邦人が在住していたが11月以降政情が急激に悪化し,暴動,デモ,政権交替などが繰り返され,生活環境も悪化し,多数邦人の安全確保のため政府として苦慮することとなつた。
このため政府は東京及び現地において関係企業などとの連絡を緊密に保ちつつ情勢の変化をフォローし,その悪化に伴い12月末(婦女子)及び1月下旬(一般邦人)の2度にわたり引揚勧告を発した。更に救援機の派遣を含め万一の際の保護策をも鋭意検討したが幸い新政権発足後情勢は安定化へ向いつつある。
78年中に在外公館で取扱い,外務本省に報告のあつた邦人の事故,疾病などは,交通事故58件(死亡66名,負傷73名),精神病を含む疾病81名(うち死亡29名),自殺14名,殺害された者4名,山岳遭難14件(死亡19名),行方不明14名である。
これら事故,疾病などにより援護の必要が生じた場合,外務省は在外公館と緊密な連絡をとりつつ,留守宅への通報をはじめ当該邦人が安全かつ速やかに帰国できるよう最大の努力をしている。また,死亡の場合には遺体(骨)の引取りなどの事後措置につき必要な援助を与えている。
なお,78年中の特記すべき事件として4月大韓航空機事件,エル・サルバドルの2回にわたる邦人誘拐事件などが挙げられる。
一方,日本政府は生活に困窮した在外邦人に生活扶助,医療扶助などを行うとともに困窮状態から立直る見込みがなく,帰国を希望するが帰国費を負担し得ない者に対して帰国旅費の貸付を行なつている(78年の貸付は12世帯48名)。78年中に報告のあつた一般邦人の犯罪は,関税法違反21件,麻薬などの密輸及び不法所持29件,入国管理法違反13件,殺人1件その他であるが,特に東南アジアなどを中心にわが国のいわゆる組織暴力が根を下ろしつつあるやに見受けられることが憂慮される。在外公館はこれら邦人の犯罪事件などに際しても人道的見地及び外国人故に不利益を蒙ることのないよう必要に応じ援助を行つている。
また,船員,船舶に係わる犯罪,事故は計78件となつている。
外務省は,72年以来海外在留邦人の健康維持の見地から,十分な医療施設のない開発途上国の在留邦人が多い地域に医師団を派遣している。78年度においては,中近東・アフリカに6チーム,南東及び南西アジアに2チーム,中南米に2チーム合計10チームをそれぞれ派遣し,約6,700名の邦人の健康相談に当たつた。
78年5月現在海外の学令子女(小・中学生)は21,400人であり,このうち44%が全日制日本人学校,36%が補習授業校,20%が現地校その他となつている。海外子女教育は国内と異なり種々の問題を抱えているが,外務省はできる限り海外子女教育について援助すべく,その充実強化に努めている。
援助は施設面と人的面で行われているが,前者は校舎建設,借料補助,後者は教員の派遣経費(在勤手当,旅費など),現地採用教員や補習校講師の謝金補助,医療費補助などが主なものである。このほか文部省が教材,教科書の補助を行つている。
外務省の海外子女教育予算は年々増大しており,78年度は41億円に上つている(第3部資料編参照)。
日本人学校は,国内とほぼ同様の全日制教育を行つているが,78年はアブダビ,ワルシャワ,ウィーン,シカゴ,パースの5カ所に新設され,合計55校となつた。
在籍児童生徒数は78年5月現在9,412人で,うち約80%は開発途上国にいる。派遣教員(殆んど公立学校教員)は524名に上る。
補習授業校は,現地校などに通学する邦人子女に対し,週末などに国語を中心に補習授業を行つているもので,78年末現在69校となつている。
在籍児童生徒数は78年5月現在7,777人で,うち94%は欧米の先進国にいる。
補習授業校の講師は現地の在留邦人であるが,78年は合計562名となつている。外務省はニュー・ヨークなど大規模補習授業校に13名の専任教員を派遣している。
日本人学校も補習授業校もない地域の邦人子女のため,日本人学校教員による巡回指導を企画し,援助を行つている。78年は21カ所に巡回した。
民間の財団法人海外子女教育振興財団が通信教育を行つている。