-情報文化活動-
第5章 情報文化活動
1972年に設立された外務省所管の特殊法人国際交流基金は,わが国の政府レベルの国際文化交流の実施機関であるが,77年度の同基金の事業費総額は出資金350億円の運用益に当たる約28億円であつた。この事業費の配分を世界の地域別に見るとアジア・大洋州34.4%,北米19.2%,欧州19.5%,中南米8.1%,中近東・アフリカ6.9%となつている。また,基金の77年度事業費を事業別に見ると,人物の招へい及び派遣事業32.1%,日本語教育・日本研究の助成事業34.8%,公演・展示などの催物の実施及び助成事業20.7%,出版助成や図書の寄贈5.8%,映画フィルムやTVフィルムの購送などの視聴覚事業6.6%となつている。
基金を通じた事業のほか世界各地におかれている在外公館も毎年独自のイニシアチブに基づき,所在地における日本文化に対する要望にこたえて,きめ細い外交的配慮の下に文化事業を実施している。
このような日本文化の海外への紹介の事業とあわせて,政府は開発途上国における文化・教育の振興に寄与することを目的として文化無償協力をはじめとして東南アジア文相機構(SEAMEO)やユネスコなどの国際機関を通ずる協力を行つている。
78年3月20日わが国とイラク共和国との間の文化協定がバグダッドにおいてわが方伊達駐イラク大使とイラク側アル・ハラフ高等教育科学研究省次官との間で署名された。次いで7月4日同協定の批准書交換が東京で行われ同日同協定は発効した。これによつてわが国が諸外国と締結した文化協定は計17となつた。
78年12月27日わが国とフィンランド共和国との間の文化協定が東京においてわが方園田外務大臣とフィンランド側ブロムステッド駐日大使との間で署名された(未発効)。
78年11月16日ヤロシェーヴィッチ ポーランド首相の来日の機会に両国間の文化及び教育交流に関する取極(交換公文)が署名され,同日発効した。これによつてわが国が諸外国と締結した文化取極は計8となつた。
78年中に開催された文化協定に基づく文化混合委員会は次のとおりである。
第2回日白文化混合委員会(1月13日,ブラッセル),第17回日英文化混合委員会(1月17日・18日,ロンドン),第2同日豪文化混合委員会(9月20日・21日,キャンベラ),第2回日墨文化混合委員会(10月12日・13日,東京)。
また78年7月26日から28日まで文化教育交流に関する日米会議(CULCON)が東京において日米両国政府民間代表の出席の下に開催された。
開発途上国との文化面での交流に当たつては,わが国文化の相手国への紹介という側面のみならず,相手国の文化的・教育的水準の向上のための基盤の整備に寄与するための協力(いわゆる「文化協力」と呼ばれる新しいジャンルの協力)が重要性を増している。わが国もかかる観点から開発途上国による文化財及び文化遺跡の保存活用,文化関係の公演・展示などの開催並びに教育及び研究の振興のために使用する資機材の購入資金を贈与する「文化無償協力」をはじめ,ユネスコやSEAMEOなどの国際機関を通ずる協力などを行つている。また,78年12月にはASEAN域内の文化交流を促進するためのASEAN文化基金が設立されたが,同基金の主な財源はわが国政府からの拠出である。
78年に実施した文化無償協力プロジェクトは次の9件である。
(イ) ビルマ 文化省のパガン遺跡修復機材購入(25百万円)
(ロ) 同 ジュビリー劇場の音響,照明機材購入(30百万円)
(ハ) ネパール ジャナク教材センターのオフセット印刷機など購入(30百万円)
(ニ) タイ 教育省科学博物館の展示機材など購入(30百万円)
(ホ) 同 チュラロンコン大学の視聴覚及び印刷関係機材購入(40百万円)
(ヘ) フィリピン フィリピン大学の視聴覚教育機材購入(18百万円)
(ト) メキシコ 内務省地方都市教育普及機材購入(40百万円)
(チ) インド 文化庁考古局の写真関係機材購入(28百万円)
(リ) マレイシア 教育省の視聴覚教育機材の購入(33百万円)
78年にわが国は,SEAMEOの教育開発特別基金(SEDF)に対し5万ドルの拠出を行い,熱帯医学公衆衛生計画(TROPMED)の環境保健セミナー東京開催援助のために22,770ドルの拠出を行うとともに,8名の専門家を派遣した。
ユネスコが行つているモヘンジョダロ遺跡保護開発事業国際キャンペーンのために10万ドルの拠出を行つた。
77年にわが国は,例年どおり6.2万ドルの分担金を拠出,フェローシップ交換事業などに参加した。
海外にわが国の文化を紹介し,諸国民のわが国に対する理解を増進するために,わが国は国際交流基金を通じた公演・展示などの催物の実施,映画・TVフィルムなど視聴覚メディアによる紹介,日本関係図書の寄贈などの活動を行つている。また,各在外公館はそれぞれ管轄地域の特殊事情などを勘案してきめ細かな日本文化の紹介活動を行つている。
78年には,各地域を通じて文化講演会32回,生花(生花教室,講習会,展示会)36回,日本文化紹介展28回,茶道実演6回,邦人音楽会17回,折紙講座,囲碁大会その他各種の文化行事を行うとともに,各種文化団体など主催の催しに参加した。
音楽,演劇,舞踊などわが国の伝統芸能,現代芸能の海外への紹介及び外国の芸能の日本への紹介は,重要な文化交流事業であり,国際交流基金の主催事業または民間団体に対する援助事業という形で在外公館と協力しつつ実施している。
78年に実施した主な公演事業としては,歌舞伎豪州公演,宝塚歌劇団中南米公演,「第2回アジア伝統芸能の交流」,日本音楽集団欧州米国公演などがある。
わが国の美術,工芸,版画,写真,児童画などの海外への紹介及び海外美術の日本への紹介は重要な文化交流事業であり,国際交流基金の主催,援助事業として在外公館の協力の下に各種展示会の開催を行つている。78年の主要な展示事業としては欧州巡回現代日本画展,北米巡回日本古代文化史展,米国巡回日本民俗芸術展,欧州巡回日本木彫展などがあり,そのほかベニス・ビエンナーレなど国際美術展への参加も行つている。
78年わが国は,国際交流基金を通じ外国研究機関及び公共機関など193機関に対し,わが国に関する図書20,080冊及び9セット,マイクロフィルム536リール,オーディオ・カセット・テープ1本及び写真1,190枚を寄贈した(総額輸送料を含め74.7百万円)。
(イ) 78年には在外公館主催による劇・文化映画会を127回開催した。これら映画会で使用するフィルムの購入数は,劇映画16種29本,文化映画18種34本,テレビ用フィルム15種18本となつている。
(ロ) 日ソ両国政府の文化交流取極に基づき,78年わが方はミンスク,ヴィルニュス及びナホトカにおいて日本映画祭を,ソ連側は札幌,秋田及び東京においてソ連映画祭を開催した。
(1) 国際交流基金による人物交流
人物交流は文化交流の最も基本的な分野であり,外務省は国際交流基金を通じ,学者,芸術家,スポーツ専門家などを海外に派遣する一方,外国の日本研究関係者,著名な文化人,中高校教員グループなどの招へいを行つており,78年度における実績は次のとおりであつた。
イ. 派遣
長期(平均6ヵ月) 37名
短期(約1ヵ月) 123名
計 160名
ロ. 招へい
日本研究関係者長期招へい(14ヵ月以内) 109名
文化人短期招へい(2~3週間) 128名
特定地域専門家招へい(4ヵ月) 4名
中学,高校教員グループ招へい(2~3週間)
136名
計 377名
(2) その他の人物交流
外務省は,総理府,地方自治体などの青少年国際交流事業に対し,側面的協力を行つた。その他,海外に派遣される学術調査隊,スポーツ団体などに所要の便宜供与を行い,国際スポーツ大会のわが国における開催に協力している。
諸外国の日本研究,日本語教育に対する関心の増大に応え,外務省は国際交流基金を通じ,種々の援助を行つている。
アジアの主要8大学に,日本研究講座を寄贈しているほか,諸外国の日本研究に対し,78年度において次の通り客員教授などの派遣,資金援助,研究用図書の寄贈などを行つた。
教授など派遣数 56名
講師・助手招へい数 7名
日本研究機関に対する資金援助など
44件 138,519千円
研究用図書など寄贈
21件 8,771千円
諸外国の日本語教育機関に対し,78年度において次の通り講師派遣,教材寄贈などの援助を行つた。
講師派遣数 64名
講師研修会招へい 35名
成績優秀者招へい 43名
日本語教育機関に対する資金援助など
124件 61,919千円
教材寄贈
192件 42,423千円
(イ) 77年5月現在5,755名の外国人留学生がわが国で勉学しており,うち,文部省奨学金留学生が1,075名,その他は私費留学生である。78年度の文部省奨学金留学生採用数は475名である。
(ロ) 外務省は,(財)国際学友会に補助金を与え,大学進学前の私費留学生のための日本語学校の運営,宿舎提供などを行なつてきたが,77年より78年にかけて同校舎,寮舎を改築し,事業の充実をはかつた。
(ハ) 留学生アフターケア対策として,第5回「東南アジア日本留学者の集い」を開催したほか,東南アジアの元日本留学者団体に対する各種助成(集会施設の借料の援助,集会に要する経費の援助など)を行つた。
わが国は,ソ連との間に,65年以来ソ連高等教育省と,また73年以来ソ連科学アカデミーとの間にそれぞれ学者,研究者の交換を行つており,78年には22人を派遣し,26人を受入れた。
日本人の英語教育強化及び日英相互理解増進の見地から外務省は文部省の協力を得て78年10月より英国人英語教師招へい計画を開始し,初年度22名が来日した。
文部省の学者・専門家招致計画,科学技術庁の外国人研究者招へい計画などにより78年に33人が来日したが,外務省はこれに諸般の便宜供与を行つた。