-国連専門機関-

第9節 国連専門機関

1. 概   況

中東,南部アフリカ問題などの国際政治問題に係わる尖鋭な対立を元来技術的性格の濃厚な各種国連専門機関の場に持ち込む,いわゆる専門機関の政治化傾向は,ここ数年比較的弱まつており,1978年においても,各専門機関において,それぞれの本来の事業活動の強化に専念する傾向が続いている。他方,専門機関の活動を南北問題の観点からとらえ,その事業活動を途上国の利益強化のために方向づけんとする途上国の動きもますます強くなった。また,専門機関がそれぞれの専門分野の事業活動において特定の国連総会決議に呼応,協力することを推進せんとする動きも途上国を中心にますます顕著になつた。

ILOでは,77年11月に米国が脱退した後,財政・機構の両面で見直しの作業が進められており,またユネスコの第20回総会(78年11月)では,国家によるマスメディア規制を提起した問題として70年代当初より注目されていたいわゆる「マスメディア宣言」が異なつた社会体制,思惑を背景とする諸国間の相違を克服して,報道の自由を尊重する形で採択された。

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2. 各国連専門機関における活動

(1) 国際労働機関(ILO)

78年中に開催された主な会議としては,第64回総会(6月)及び第205回~208回各理事会が挙げられる。

第64回総会では,「労働行政(役割,機能及び組織)に関する条約(第150号)」及び同勧告(第158号)並びに「公務における団結権の保護及び雇用条件の決定のための手続に関する条約(第151号)」及び「公務における雇用条件の決定のための手続に関する勧告(第159号)」が採択されるとともに,「災害防止(仲仕)条約(第32号)の改正」及び「路面運送における労働時間及び休息期間」に関し,新基準設定のための第1次討議が行われた。

77年11月の米国脱退の結果ILOは深刻な財政危機にみまわれ(米国の分担率は25%),人員削減を含むプログラムの大幅削減の努力が続けられる一方各国からの任意拠出の要請が行われ,これに対しわが国をはじめ多数の国が拠出を行つた。

わが国は78年の分担金として750万2,590ドル(8.62%)を支払つたほか,ILOの財政危機を救うためにさらに100万ドルの特別拠出を行つた。そのほか,ILOとのマルチ・バイ協力による「アジア地域労働行政幹部セミナー」開催に約5万7,000ドルを拠出し,またILOの付属機関である国際高等職業訓練所(トリノ・センター)の機能を充実するために約30万ドルの機材供与を行つた。

ILO条約の批准促進については,78年7月4日に災害防止(船員)条約(第134号)の批准登録を了し,わが国のILO批准条約数は36となつた。

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(2) 国連教育科学文化機関(UNESCO)

78年に開催された会議の主なものは,第20回総会(10~11月),第104~106回執行委員会,宣言・勧告・条約案作成政府間会議4件,政府間海洋学委員会第10回執行理事会,アジア・オセアニア地域教育大臣経済計画担当大臣会議,第2回体育スポーツ暫定政府間委員会がある。

第20回総会では,79~80年事業計画予算及び予算総額3億3百万ドルが承認されたほか,宣言2件-「平和及び国際理解の強化,人権の促進並びに人種差別主義,アパルトヘイト及び戦争の煽動への対抗に関するマスメディアの貢献についての基本原則に関する宣言」及び「人種及び人種偏見宣言」,勧告4件-「教育統計の国際標準化に関する改正勧告」,「科学及び技術統計の国際標準化に関する勧告」,「建築及び都市計画の国際競技に関する改正勧告」及び「可動文化財の保護に関する勧告」が採択された。また,総会中行われた執行委員会委員の選挙では菅沼潔代表が当選した。

78年度のわが国のユネスコに対する協力としては,分担金929万0,085ドル,アジア地域教育刷新計画に12万ドル,基礎科学地域協力事業に10万ドル,教育工学事業に3万ドルのほか,ヌビア,ボロブドゥール及びモヘンジョダロ各遺跡保存に拠出した。

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(3) 国連食糧農業機関(FAO)

78年に開催された会議の主なものとしては,第3回食糧安全保障委員会,第14回アジア・極東地域総会及び第74回理事会がある。第3回食糧安全保障委員会においては,食糧安全保障の観点からIWC及び国連の場で改訂交渉が進められていた新国際穀物協定の経済条項に関し本件協定交渉参加国に対し,本件協定が世界食糧安全保障に貢献すべく諸側面に特別な配慮を払うべき旨勧告を行つた。更に,第74回理事会では今次理事会の主要議題である「技術協力計画(TCP)の評価」を審議した結果,これまでTCPが果した役割を評価し,エンドースした決議を採択した。

また,わが国は,FAOと国連の共同計画として開発途上国への多数国間食糧援助を行う世界食糧計画(WFP)に対し,拠出誓約会議(76年2月,ニュー・ヨーク)で誓約した750万ドル(77~78年度)のうち,78年度において400万ドルを拠出した。更に,78年2月ニュー・ヨークで開催された拠出誓約会議においては79~80年度分拠出額として1,000万ドルを誓約した。

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(4) 世界保健機関(WHO)

78年においては第31回総会,第61~62回執行理事会,6地域委員会が開催された。わが国の属する西太平洋地域委員会においては同地域事務局長選挙が行われ,わが国の中嶋宏博士が同地域事務局長に選出された。

78年におけるWHOを通じてのわが国の医療協力のうち新規の協力として中国との医療協力がある。

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(5) 国際民間航空機関(ICAO)

現在,ICAOが検討を続けている問題として,ハイジャックなどの民間航空に対する不法妨害行為の防止のほか,外国航空機が地上の第三者に与えた損害の補償問題,航空機騒音問題などがある。

77年秋に日航機及びルフトハンザ機のハイジャック事件が発生したため,ICAOとしても,航空の安全の強化を図ることとなり,具体的措置を規定しているICAO条約第17付属書を強化拡充することとなつた。このため理事会は,加盟国に対し,不法行為防止委員会が作成した具体的修正案文の照会を行つた。外国航空機が地上の第三者に与えた損害の補償問題については,損害補償を規定している現行のローマ条約を改正する外交会議が78年9月にICAO主催で開催され,損害補償額を大幅に引き上げるなどの改正議定書が採択された。また,航空機騒音問題は,78年4月に開催された法律小委員会で審議されたが,結論が出ず第2回会合の開催が考慮されている。

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(6) 万国郵便連合(UPU)

78年度は,執行理事会(4~5月)及び郵便研究諮問理事会(11月)がベルンで開催され,わが国は,理事国としてその審議に積極的に参加し,特に,執行理事会では財政委員会議長国として議事を主宰した。執行理事会においては,79年度予算案の承認,連合経費のスイスによる立替払の廃止問題,郵政庁間の郵便料金決裁及び料金表示に金フランに替え,IMFのSDRを導入する問題などが審議された。

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(7) 国際電気通信連合(ITU)

78年度は,2月に,航空移動業務に関する世界無線通信主管庁会議(於ジュネーヴ)が開催され,航空移動業務用周波数区域分配計画,技術基準などが定められた。5月には,第33回管理理事会がジュネーヴで開催され,79年度予算の承認,全権委員会議の時期,人事,技術協力などの問題が審議された。また6月には第14回国際無線通信諮問委員会(CCIR)総会が京都で開催され,無線通信に関する技術及び運用の問題につき広範な審議が行われた。10月には,世界主管庁会議(WARC-G)のための特別準備会合であるCCIR-SPMが,ジュネーヴで開催された。

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(8) 世界気象機関(WMO)

78年においては執行委員会及び「世界気候会議」が開催された。右会議は気象を多角的に捉え,気象と人間生活との関係を考えて行こうとするものであり,今後のWMO活動の1つの方向を示すものである。

わが国においては78年11月,国際連合とWMOの合同の「気象衛星利用セミナー」が開催され,77年にWMOのWWW計画(世界気象監視計画)の一環として打ち上げられた気象衛星「ひまわり」の利用法が開発途上国に紹介された。

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(9) 政府間海事協議機関(IMCO)

政府間海事協議機関は,海上の安全と航行の能率及び海洋汚染防止を確立するための条約及び勧告の作成などを行つているところ,世界の海運及び造船でわが国が占める地位にかんがみ,IMCOにおける活動はわが国にとり極めて重要である。

78年には,タンカーの安全及び汚染防止に関する規制を強化することを目的とした「1974年の海上における人命の安全のための国際条約に関する1978年の議定書」及び「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」が採択され,また,船員の訓練,資格,当直などにつき国際的な最低基準を定めた「1978年の船員の訓練,資格証明及び当直の基準に関する国際条約」が採択された。

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(10) 世界知的所有権機関(WIPO)

78年には,第12回調整委員会,第14回パリ同盟執行委員会,第13回ベルヌ同盟執行委員会,第1,2回特許協力条約同盟総会などが開催されたほか,工業所有権の保護に関するパリ条約の改正問題を検討するための第4,5回政府間準備会合が開催された。本件問題は,なお検討すべきことが残されているが,右条約の改正外交会議は80年2月に開催されることが決定している。また,特許付与手続などにおける国際協力を目的とする特許協力条約が78年1月に発効し,わが国は10月1日に締約国となつた。

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(11) 国際農業開発基金(IFAD)

本基金は,同設立協定が77年11月30日に発効したことから,78年に入つて実質的活動を開始するに至つた。同年の4月,10月及び12月に開催された各理事会においては,開発途上国とりわけ後発開発途上国の農業開発プロジェクトに対し計10件(総額で1億1,700万米ドル)の融資が決定された。また,本基金独自のプロジェクト・パイプライン確立のため,16件のプロジェクト発掘ミッションが派遣され,当該活動は今後とも継続・強化される見通しである。

なお,78年12月開催された第2回総務会では79年の事業計画案(総額3億7,500万ドル)及び行政予算案(1,045万ドル)が採択された。

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