-第3次国連海洋法会議-
第8節 第3次国連海洋法会議
第3次国連海洋法会議は包括的な新しい海の秩序を形成する目的で73年から開催されており,第1委員会(深海海底開発),第2委員会(領海,公海,海峡,経済水域,大陸棚など海洋法問題一般)及び第3委員会(海洋汚染防止,科学調査,技術移転)の項目別に交渉が続けられている。150カ国余りの主権国家の間で極めて大きな国家利益にかかわる海洋法の諸問題について原則として全会一致方式で利害調整をはからんとするこの野心的な試みは困難をきわめ,交渉も78年で既に6年目を迎えることとなる。しかし,これまでの交渉の結果,第6会期直後の77年7月には前文・最終条項まで整え全303条及び7つの附属書よりなる非公式統合交渉草案(以下統合草案という。)が作成されており,また,深海海底開発,大陸棚外縁の定義,最終条項などの特定の問題を除き,領海,漁業,経済水域,公海,内陸国・地理的不利国,海洋汚染などの問題についてはおおむね内容が固まりつつあるといえる。
79年3月19日より6週間の予定でジュネーヴにおいて開催される第8会期においては最終的な実質交渉に向け,まさに残された最大の問題である深海海底開発の問題につき開発途上国及び先進諸国の間の歩み寄りをはかるべく重点的に交渉が行われることが予想され,わが国も,包括的な条約の早期妥結に向け一層の努力を継続する所存である。
第7会期は78年3月28日より5月19日までの6週間ジュネーヴで,また,再開第7会期は8月21日より9月15日までの4週間ニューヨークで開催された。第7会期においては統合草案の改訂などを目的として残された主要問題につき主に7つの交渉グループにおいて重点的に討議が行われたが,特に深海海底開発の諸問題につき開発途上諸国及び先進諸国間の対立を調整し得ず,各交渉グループごとに議長妥協案が作成されたが,統合草案の改訂は第8会期の交渉に持ち越された。
(イ) 第1交渉グループ
主要な問題は探査・開発の方式,技術移転,生産制限,再検討条項などである。探査・開発の方式については国及び私企業がエンタープライズ(国際開発公社)と並んで開発権を有することがより明確に規定された。技術移転についてはその具体的交渉が深海海底開発契約締結の際にではなくその後に国・私企業及びエンタープライズとの間で行われること及びその代価は「商業的条件」に基づくことが明確化されたが,他方,先進諸国の強い反対にもかかわらず,第三者所有の技術の移転につき厳格な規定が設けられたほか,開発途上国に対する技術の移転義務も新たに規定された。生産制限についての規定は技術的には若干改善されたが依然として深海海底よりの生産許容量は厳しく制限されている。再検討会議(現議長妥協案においては最初の契約承認の20年後に条約の探査・開発の方式が深海海底資源の衡平な分配に寄与したか否かなどの観点より行われることとなっている)については,5年間交渉しても新たに合意に達することができない場合には国及び私企業の開発は排除されるとのいわゆる「ギロチン条項」は削除され,代わりにオーソリティ(国際海底機関)がすべての新規契約の承認を禁止できるとの規定振りとなつた。しかし,エンタープライズに対しては一部例外規定が設けられ,国・私企業との衡平を確保する観点より依然問題がある。
(ロ) 第2交渉グループ
オーソリティ及びエンタープライズの財政問題のほか専ら開発収益のオーソリティに対する分配につき討議され,できるだけ多額の支払いを要求する開発途上国側の主張と,支払額は企業の採算ベースに合致した範囲に留めるべしとの先進国の主張が対立した。議長妥協案において示された具体的数値は先進国側には受け入れ難く,開発者の負担の軽減をはかるべく次回会期に交渉が継続される。
(ハ) 第3交渉グループ
主にオーソリティの理事会の構成及び表決につき討議され,先進国側は極めて不利な現統合草案の規定の改善に努めたが,先進国に有利となるような議席配分及び表決方法に関する修正案は退けられ,妥協への模索は今後の交渉に持ち越された。
(ニ) 第4交渉グループ
内陸国・地理的不利国の近隣国経済水域内の生物資源の開発参加につき討議された。同諸国は会議参加国の約3分の1(約50カ国)の勢力を占めており,第3国に比し優先的配分権を主張する同諸国の意向を満たすことは条約採択の不可欠の要素となっていたが,第7会期には開発途上の内陸国・地理的不利国を対象に統合草案を若干同諸国寄りに修正した妥協案が作成され進展がみられた。
(ホ) 第5交渉グループ
経済水域内の漁業に関連する紛争が討議の中心となつた。紛争解決の問題については従来より義務的紛争解決にかけることにつき,いかなる事項につきどの程度の例外を認めるかが大きな対立点となつていたが,本件漁業紛争の問題については交渉の結果,義務的紛争解決手続の例外としつつも,特定の限られた問題については強制調停に付託する旨の議長妥協案が作成された。
(ヘ) 第6交渉グループ
大陸棚外縁の定義については,堆積層の厚さを第一義的基準とする自然延長論にたつたアイルランド提案がますます有力となりつつあるが,最大限300海里以上の大陸棚は認めないとのソ連の新たな提案との間の対立は解消されず,200海里距離基準を主張する国も残つている。
(ト) 第7交渉グループ
隣接国,相対国との大陸棚・経済水域の境界画定の基準及び紛争解決などにつき討議されたが,境界画定の基準については中間線原則支持派と衡平原則支持派,また,紛争解決については義務的紛争解決支持派とその反対派の主張が対立し,交渉は進展をみないままに次会期に持ち越された。
(チ) 第3委員会
海洋汚染防止及び科学調査につき討議が行われ,特に仏のブルターニュ沖で座礁し,大規模な汚染事故に発展したアモコ・カディス号事件を契機に船舶に起因する汚染防止に討議の焦点が当てられた結果,汚染防止規制に関する沿岸国の権限を若干強化する方向でのいくつかの修正案につきコンセンサスが得られた。
(リ) その他の問題
鯨類につき関係国間協議で若干議論されたほか,サケ・マスにつき第2委員会非公式会合で討議され,母川国がサケ・マスの許容漁獲量を決定するに当つて協議を行わなければならない関係国の範囲を明確にするとともに,200海里以遠の公海での漁業については関係国が協議を行う際,母川国の諸要請にも妥当な考慮を払わなければならないとの統合草案の修正案につき合意がみられた。