-経済問題-

第3節 経済問題

1. 国連総会

(1) 第33回国連総会本会議

第32回総会決議に基づき,1980年の国連経済特別総会までの間,南北問題を総合的にフォローする機関として設置された全体委員会は,78年5月の第1回会期においては実物資源移転問題,同年9月の再開会期においては同委の権限明確化問題をめぐつていずれも紛糾し,なんらの合意も得られず中断される結果に終わり,今次総会における討議の成行きが注目されていた。

同委の権限問題は,第2委員会ではなく,総会本会議に直接付託され,先議案件として審議された結果,総会議長が,同委は第32回総会決議で付託された権限のもとで,合意に至る「交渉」を行うことも可能との解釈声明を出すことで妥協が成立し,今後の実質審議再開への道が開かれることとなつた。

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(2) 第33回総会第2委員会

78年9月下旬より約3か月間開催された第2委員会では,新国際開発戦略の策定準備など南北問題の多くの重要案件が審議され,計66の決議が採択された。

(イ) 新国際開発戦略の準備

第32回総会から持越されていた本件については,開発途上77カ国(G77)及びECから各々決議案が提出され,その双方を審議する形で作業が進められた。G77側は,新国際経済秩序の樹立を目指し,開発目標を設定して先進国のコミットを求めたのに対し,先進国側は,開発戦略を世界経済運営の中で位置付け,経済情勢の変化に対応できる弾力的な,かつ,異なる発展段階に応じた異なる戦略を主張し,合意成立が危ぶまれたが,連日,非公式協議を続けた結果,G77案をベースにEC案を盛込んだ修正案が副議長より提案され,同修正決議案がコンセンサス採択されるに至つた。同決議案は,開発戦略の目標及び右目標達成のためにとるべき措置に関するガイドラインを設定するとともに開発戦略策定のための機構として準備委員会を設置するとの内容のものである。

(ロ) 新・再生エネルギー国連会議

とくに開発途上国の将来の総合的エネルギー需要をみたす新・再生エネルギー源の開発利用措置を検討することを目的として,国連主催の国際会議を81年に開催する趣旨の決議が採択された。第2委員会においては,本件会議の討議対象に原子力を含むべしとの修正提案がパキスタンなどにより提出されたが,ケニアを始めとする本決議案共同提案国は,原子力の問題は,政治・安全保障の側面の討議が不可避であり,国際原子力機関(IAEA)などの場で検討することが望ましいとして反対した。12月14日は右修正決議案は投票に付され,賛成42,反対43,棄権34でわずか1票差をもつて否決される一方,本決議案はコンセンサスにより採択された。

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2. 経済社会理事会

わが国は,第1通常会期(4~5月)及び第2通常会期(7~8月)の審議に参加した(78年より会期の呼称変更を行い,46年の第1回会期よりの通し番号によるものを各年度毎に第1及び第2通常会期と改めた)。

78年の経済社会理事会では,新国際開発戦略,天然資源,多国籍企業,アフリカ諸国援助,国連機構改革,人権,社会開発などの諸問題を審議し,多くの決議を採択した。このうち,天然資源問題に関し,新・再生エネルギー会議の早期開催については第33回総会の決定に委ねる旨の決議が,また,多国籍企業問題に関し,腐敗行為防止国際協定案の策定を新たに準備委員会を設置して従来の政府間作業部会の作業を継承せしめ,79年の経社理第2通常会期において,協定採択のための全権会議を可能な限り80年に開催する旨を決定するとの決議が各々コンセンサスで採択された。

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3. 国連における多国籍企業問題の検討

(1) 多国籍企業行動規範の作成

多国籍企業に関する行動規範を作成するために,多国籍企業委員会の下に設立された政府間作業部会は,78年3月の第4回会期でようやく行動規範の草案作りの作業段階に入つた。以後3回会合が行われたが,行動規範の法的性格,恒久主権,国有化と補償などの問題に対する考え方が南北間で対立したまま推移し,今後引き続き行動規範作成の作業を継続することとなつている。

(2) 腐敗行為防止国際協定の作成

77年に引き続きアド・ホック作業部会が3回(3月,4月及び6月)開催され,6月の最終会期は腐敗行為防止国際協定草案及び同協定採択のための外交会議の開催勧告を含む報告書を採択して解散した。78年第2通常会期において,経済社会理事会は,この報告書をテークノートし,新たに委員会を設立して更に1年間,本件協定案の審議を行わしめ,その進捗状況を勘案して協定採択のための外交会議開催を79年第2通常会期で決定する旨の決議を採択した。(前記2.参照)

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4. 国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)

(1) わが国は,アジア太平洋地域との協力拡充を目指し,第34回総会を始めとする諸会合に参加し,また,ESCAPのほとんどすべての分野にわたる事業活動に,資金拠出又は専門家派遣などにより協力を行つた。

(2) 第35回総会は,79年3月フィリピンのマニラで開催された。同総会の主要テーマは「1980年代のアジア太平洋地域開発戦略」などであつたが,70年代を回顧し,80年代におけるアジア太平洋地域開発戦略と,それに応じたESCAPの方向付けと組織再編成への全面的検討を開始したものとして特徴付けられる。また開発途上国の中でも後発開発途上国,内陸国及び太平洋地域島嶼国に対して特別の配慮がなされるべき旨が指摘された。

(3) 78年中に開催された下部機関の主要な会議としては,貿易大臣会議のほか,産業・住宅・技術,天然資源,農業開発,海運・運輸通信,統計の5常設委員会がある。右貿易大臣会議では,域内貿易協力グループ及び貿易促進情報ネットワークなどに関する7つのサブグループを結成することが決定された。以上のほか,数多くのアド・ホック政府間会合,専門家会合などが開催され,そのうち投資促進政府間専門家グループ会合は,78年12月に東京で開催された。

(4) ESCAP傘下のメコン河下流域調査調整委員会は,75年のインドシナ情勢急変後,その活動の大部分を停止していたが,77年4月のESCAP第33回総会の機会に,ラオス,タイ,ヴィエトナムの3カ国代表は,本委員会活動活発化のための暫定委員会を設置することをそれぞれの政府に勧告し,これら3国によるメコン暫定委員会が発足した。

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5. 国連工業開発機関(UNIDO)

(1) 事業活動

78年においては,第12回工業開発理事会及び第10回常設委員会が開催されたところ,主要検討事項は,国連工業開発基金の79~80年度の活動計画承認,第3回UNIDO総会仮議題の決定,協議システム諸会合の開催決定などであつた。

国連工業開発基金は,約950万ドルの資金で活動が開始された。また産業の再配置を検討している協議システムは,肥料産業の第2回会合が行われ,各分野の専門家による意見交換が行われた。

(2) 憲章作成会議

76~77年まで5回開催された憲章起草政府間全体委員会の審議結果を踏まえ,78年2~3月国連本部にて開催された。しかし,憲章条文につき,開発途上国は,先進国,社会主義国の間において合意が達成されなかつた。78年末の第33回国連総会は,79年3~4月ウィーンにて第2回憲章作成会議を開催することを決定した。

(3) わが国の協力

78年の具体的な協力としては,フィリピンの地場産業型中小企業ワークショップの実施,国際協力事業団による研修員(24名)の受入れ,また,国内企業における研修事業として機械工業生産管理コース及び工業製品品質改良コース(計19名)を実施した。

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6. 国連貿易開発会議(UNCTAD)

78年1年間のUNCTADの活動は,79年5月7日より6月1日までマニラで開催される第5回UNCTAD総会の準備を中心に行われた。わが国は,同会議が,わが国と密接な関係にあるASEAN諸国地域で行われることなどに鑑み,議題の選定をはじめその準備作業に積極的に参加した。

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(1) 一次産品関係

「一次産品総合計画」の下で共通基金と同計画対象18品目に関する交渉と検討が行われた。

共通基金交渉は,コレア事務局長が各国政策決定レベルと協議を行つた結果,11月に再開された。同再開会議ではいずれの国をもコミットすることのない形で基金の大綱に関する一括提案が議長より提出され,これが79年3月の次回会議の検討対象とされることになつた。同議長案は,緩衝在庫融資のための第1の窓の資金規模を4億ドル,緩衝在庫融資以外の措置,すなわち研究開発,市場開拓などのための第2の窓には3億ドルの任意拠出目標を設定することとした。

個別産品協議については,天然ゴムについて,国連天然ゴム会議(11月~12月)で,協定交渉が開始された。銅については,1月の予備協議で産消双方の参加による協議機関を設けるラインが合意された。このほか,これまで具体的検討に入った品目は5品目であるが,マンガン,鉄鉱石,燐鉱石,植物油,食肉,バナナ,ボーキサイトについては具体的検討に入つていない。また,すず,ココアについては次期新協定が準備中であり,また,コーヒー,砂糖については,76年および77年の協定がそれぞれ有効となつている。

なお,第4回UNCTAD決議により78年中に個別産品協議は終了することになつていたが,貿易開発理事会(TDB)決定により,79年末まで延長された。

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(2) 製品・半製品関係

製品委員会の下部組織であるRBP専門家グループは,73年3月の第1回会合以来,78年末までに,5回の会合を開催し,「制限的商慣行に関する原則とルール」および,モデルローの作成作業を行つた。「原則とルール」については,79年末または80年の前半に国連会議を開いて,専門家グループの作成した草案を審議することが合意された。

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(3) 特   恵

現行の特恵スキームに関する協議手続の改善の方法として,78年9月のTDBにおいて,各国特恵スキームごとに当該供与国及び関係受益国間協議が行われる旨が決定された。ただし,このような協議は,将来の特恵特別委員会に際し,非公式かつ非公開の形で行われるものであることがわが国をはじめ西側諸国の意向として表明され,これが了承されている。

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(4) 援助関係

78年3月に,史上初の閣僚レベル会合として開催された第9回TDB特別会議では,(イ)先進援助供与国は,政府開発援助の流れを改善する方法として,過去の2国間政府開発援助の条件を現在の援助の条件に調整する措置あるいはこれと同等の措置をとること,および,(ロ)将来の債務救済の指針となる過去の救済措置の特徴を抽出する作業を行うことが合意された。上記(イ)の措置は債務返済の免除を含むものであるが,UNCTAD事務局の仮集計によれば,11の援助供与国がむこう20年間に65億ドルの救済措置をとるとみられている。他方,上記(ロ)については,その検討のために,10月に専門家グループが開かれたが,綜合的な債務救済措置の履行機関の必要につき合意が得られないまま,翌年に結論はもちこされた。

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(5) 海運関係

従来,UNCTADの要請をうけて,国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)の海運作業部会で作業中であつた海上物品運送条約案は,78年3月,ハンブルグで開催された国連海上運送条約会議で採択された。このほかの海運関係では,便宜置籍船政府間会合(78年2月),国際複合運送条約政府間会合(78年9月),国際複合運送用コンテナー規格政府間会合(78年11月),が開かれたが,未だそれぞれの作業の結論は得られていない。

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(6) 技術移転

78年11月に行われた「行動規範のための国連会議」においては,2章及び3章につき作業が終了したが,行動規範の法的性格,親子会社関係の取扱い,制限的商慣行などの困難な問題については殆んど進展がみられなかつた。しかし,これまでの交渉過程からみて,これら主要問題点につき決定的な対立を避け,地道な作業を続け,79年中に実際的に有用な行動規範の策定をめざす動きが南北双方に醸成されつつある。

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(7) 開発途上国間経済協力関係

第4回UNCTADの決定の実施のため設立された本件関係の常設委員会は,78年10月に第2回会合を開いたが,開発途上国側が協力措置策定のために開発途上国の代表のみの会合を開催することが提案され,これは国連との普遍性に反することから西側諸国がこれに反対したため,結論を得なかつた。

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7. 国連開発計画(UNDP)

(1) UNDPは,66年発足以来国連システム内の中心となつて開発途上国に対する技術協力を進めており,第1次5カ年計画(72~76年)中に総額17億2,600万ドルにのぼる援助を行つた。

(2) 77年より第2次計画(77~81年)に入つて一層の活動が期待されている。同計画中の援助予定額は24億5,490万ドルで,その財源確保のため,各国は自発的拠出金を毎年14%以上増額するとの目標が定められているところ,77年の拠出総額は5億2,314万ドル(対前年比12.2%増),78年には5億8,953万ドル(同12.7%増)となつた。わが国は,77年に2,200万ドル(対前年比10%増,拠出総額の4.21%,順位9位),78年には2,500万ドル(13.6%増,4.24%,9位)を拠出し,79年には3,500万ドル(40%増)を拠出する予定である。

(3) 他方,75年に端を発したUNDPの財政危機の経験に鑑み,今後のUNDPの活動,特に国連開発機構の中枢機関としての事業の拡充強化に資するため,77年及び78年の第24回及び第25回管理理事会では「UNDPの役割と活動」を見直す検討が行われたところ,UNDPを中心とする国連技術協力システムの一体性維持の概念を定めた70年のコンセンサス決議が再確認されるとともに,財政基盤強化策の一環として,各国の責任の公平な分担を図るため,voluntary burden sharingの概念や多年度拠出誓約制度の導入などの問題が検討された。

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8. 世界食糧理事会(WFCL)

78年6月12日より15日までメキシコ・シティにおいて第4回世界食糧理事会が開催された。同理事会においては,食糧増産,栄養改善,食糧安全保障,食糧援助,国際緊急リザーヴ及び食糧貿易について討議され,最終日に右事項に関する勧告を盛り込んだ「メキシコ宣言」を万場一致で採択した。

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