-軍縮問題-

第2節 軍縮問題

1. 国連における軍縮討議

(1) 国連軍縮特別総会

(イ) 概   説

国連史上初の軍縮特別総会は,1978年5月23日から7月1日までニュー・ヨークにおいて開催された。この特別総会には,従来軍縮交渉に参加していなかつた中国,フランスを含む145カ国が参加し,今後の軍縮審議,交渉の指針となる最終文書が,投票に付されることなく全会一致で採択されたほか,軍縮審議,交渉機構にも種々の改善が加えられた。

(ロ) 一般討論演説

5月24日から6月9日まで行われた一般討論演説においては,元首4名,首相16名,副首相4名,外相49名を含む126カ国の代表が演説を行つた。

わが国は,園田外務大臣が5月30日に一般討論演説を行つた。

演説において園田外務大臣は,平和憲法に立脚し,今後の国際社会における先覚者たるべく,軍事大国への道を排し,平和に徹し続けるわが国の決意を披瀝し,またわが国が非核三原則を堅持していることを宣明するとともに,核兵器国に対し,その責任を自覚し核軍縮を促進するよう強く要請した。さらに,軍縮の分野では,核兵器の廃絶を目標とした核軍縮の促進が,今日,最も高い優先度を置かれるべき課題であることを強調するとともに,この目標を達成するためには,まず核軍備競争を停止し,次に核軍備の削減を進めるとの方向で実行可能な措置を一歩一歩積み重ねて行くことが最も肝要である旨指摘した。そして,かかる観点から,米ソ戦略兵器制限交渉の早期妥結,包括的核実験禁止条約の早期締結などを強く訴えた。

(ハ) 最終文書

特別総会において採択された最終文書は,「序文」,「宣言」,「行動計画」,「機構」の4部から構成される。軍縮に関する一般原則を規定した「宣言」は,軍縮の究極的な目標が効果的な国際管理下での全面完全軍縮であり,この目標への前進のためには諸国の安全を守る必要性を考慮に入れ,軍備競争の停止と真の軍縮措置に関する協定の締結,及びその履行が必要であるとし,更にそのような措置の中では,核軍縮と核戦争の防止が最も優先度が高い旨規定している。

「行動計画」は,上記原則に沿つて,今後,諸国家が着手すべき軍縮分野における諸措置を挙げ,今後の軍縮分野における努力の諸目標を示している。

(ニ) 軍縮審議交渉機構の改革

軍縮の審議,交渉機構の分野では,最終文書の「機構」が示すように特別総会において次のような改善,強化がなされた。

(a) 全ての国連加盟国が参加する審議機関としての国連軍縮委員会(UNDC)の復活(同委員会は65年以来休眠状態にあつた)。

(b) ジュネーヴ軍縮委員会については,主として次の改善が行なわれ,79年1月より新たに軍縮委員会(CD)として発足。

(i) 新軍縮委は米,英,ソ,仏,中の全ての核兵器国に開放されるとともに(従来軍縮委の加盟国であつたが実際上参加していなかつたフランスが参加を決定。中国は当面参加しないとみられている),わが国を含む旧軍縮委の加盟27カ国に加え,次の8非核兵器国が新たに構成国となつた。アルジェリア,オーストラリア,ベルギー,キューバ,インドネシア,ケニア,スリ・ランカ,ヴェネズエラ。

(ii) 米ソ共同議長制を廃止し,議長を全ての構成国間で月毎の輪番制にする。

(c) 国連第1委員会は,従来,軍縮問題のほか,政治,安全保障,科学技術問題を審議してきたが,今後は,軍縮及びそれに関連する国際安全保障問題のみを取り扱う。

(d) 国連事務総長に助言するための軍縮諮問委員会の設置。

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(2) 第33回国連総会

軍縮特別総会を受けて行なわれた第33回国連総会の軍縮討議においては,核軍縮の促進を中心として,軍縮特別総会で採択された最終文書の行動計画に盛られた諸分野につき審議され,40の軍縮関係決議が採択された。

なお,わが国は,包括的核実験禁止条約の早期締結を求める決議及び同条約が締結されるまでの間,全ての国に核実験を慎むよう要請する決議など,7つの決議の共同提案国となつた。

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2. 主要軍縮問題

(1) 核実験禁止問題

包括的核実験禁止問題については,77年3月のヴアンス・グロムイコ会談に基づく7月の米・ソ協議を経て,10月より米・英・ソ3国間協議が続けられてきた。これまでに,(イ)包括的核実験禁止条約はあらゆる環境におけるすべての核兵器爆発実験を禁止すること,また,条約と不可分の一体をなす議定書において平和目的核爆発を規定すること,(ロ)一定期間後に条約の運用を再検討すること,(ハ)できるだけ多数の加盟国を確保することなどについては3国間において大筋の合意が見られている。しかしながら,条約遵守を確保する上で不可欠な検証措置を含め具体的詳細については合意に至つていない。

わが国は,従来より国連及び軍縮委員会などにおいて,米・英・ソ3国交渉が速やかに合意に達し,軍縮委員会において条約作成のための交渉が開始されるよう訴えてきた。また,わが国は,検証措置の一環として地震データを国際的に交換するためのネット・ワーク設置を主張,78年10月,11カ国から17名の専門家を本邦に招へいし,右ネット・ワーク設置に伴う技術的問題の検討を行つた。

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(2) 核不拡散問題

(イ) 米国の新・核拡散防止法成立に見られる如く,原子力の平和利用に伴う核拡散の危険を防止するための国際的規制強化の動きが一段と強まつた78年において,核拡散防止の問題は,特に原子力平和利用との関連で,国際場裡における活発な討議の対象となつた。(原子力平和利用の項参照)

(ロ) 軍縮特別総会の討議においては,原子力平和利用が核拡散につながることを懸念する西側,東側諸国と,原子力平和利用は主権にかかわる奪い得ない権利であるとする非同盟諸国の間に見解の相違が見られた。

(ハ) わが国は77年10月に開始された国際核燃料サイクル評価(INFCE)に参加し,78年においても核拡散防止と原子力平和利用を両立させる技術的方策の探求に努力した。同時に,両者を調和的に追求する法的枠組は核不拡散条約(NPT)であるとの立場から,78年も,国際場裡において,もしくは外交チャネルを通じ,NPT未加盟国に対し,同条約への加盟を要請するなど,NPTの普遍的加盟達成のための努力を行つた。

(ニ) なお,78年には,80年の第2回NPT再検討会議の準備委員会の開催が決定された(わが国は準備委構成国)。

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(3) 化学兵器禁止問題

(イ) 78年の軍縮委員会及びその下に開催された非公式専門家会議は,主として(a)化学兵器の貯蔵の廃棄,(b)生産工場の閉鎖及び平和目的への転換,(c)二重目的剤(戦用化学剤の可能性のある殺虫剤など)を生産する民間工場などに対し,条約の実効性を維持する上で,如何なる検証手段を確保するかの問題に焦点を絞つて,審議を行つてきた。

(ロ) しかし,総じて78年の討議においては,「化学戦争の最も危険な致死的手段を対象とした化学兵器禁止」に関する米ソ交渉の結果待ちのまま実質的な進展をみなかつた。

(ハ) 上記米ソ交渉は,78年2回(通算8回)の協議を重ねた。しかし,条約で禁止されるべき化学剤の範囲については,ほぼ合意があるものの,化学兵器工場の閉鎖などにかかわる検証問題,特に現地査察の受け入れをめぐつて,双方の主張に隔たりがある。

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(4) 特定通常兵器の使用禁止問題

(イ) 特定通常兵器の問題は,いわゆる戦時における犠牲者の保護に関する1949年のジュネーヴ4条約追加議定書案の審議・採択のために開催された「武力紛争に適用される国際人道法の再確認と発展に関する外交会議」において,「不必要な苦痛を与え又は無差別の効果を及ぼすと思われる通常兵器の使用の禁止又は制限」の問題として取り上げられ討議されてきたが,結論は得られなかつた。

(ロ) 77年の第32回国連総会は,この問題を討議するための国連会議の召集を決定し,78年8月第1回準備会議が開催された。同準備会議においては,手続事項に関する審議が中心となり,実質事項については,各国から「X線で探知されない破片兵器」,「地雷及びブービートラップ」,「焼夷兵器」などに関する提案がなされたにとどまつた。

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