-国連における活動とその他の国際協力-
第4章 国連における活動とその他の国際協力
第33回総会は,1978年9月19日からコロンビアのリエバノ外務大臣を議長として開催された。その後,閉会予定期日に至るも審議未了の議題が残つたため,12月21日で一旦審議を打ち切り,79年1月15日から29日まで再開総会を行った。開会冒頭の9月18日,ソロモン諸島が,また続いて12月18日にはドミニカ国がそれぞれ加盟を認められ,国連加盟国は151カ国に増加した。9月25日より行われた一般討論演説においては,国家元首4名,首相5名,外務大臣126名を含む140カ国の代表が演説を行つた。わが国は,9月25日に園田外務大臣が一般討論演説を行つた。
今次総会では,129の議題について,本会議及び7委員会にわかれて審議が行われたが,前回と同様,加盟国間の利害関係の対立が尖鋭化することなく,議事が比較的平穏に推移した。これは最大の政治問題であるナミビア問題及び中東問題について,事態の推移をまず見極めるべきだとの意見が少なからずあり,過激な意見の対立が回避され,従来と同趣旨の決議がそれぞれ採択されたことによる。しかしながら,中東問題については,軍縮関係議題の下に,イスラエルに対する武器禁輸実施を安保理に求める新たな決議が採択された。
その他,平和維持活動の包括的検討議題の下では,国連ナミビア独立支援グループ(UNTAG)及び国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の設置を背景に,国連の平和維持活動に対する広汎な協力を各国に求める決議が採択されたことが注目される。また,国連憲章再検討議題及び人質行為防止条約起草議題の下で,それぞれ各委員会の作業継続を求める旨の決議が採択されている。
南部アフリカ問題の国連における審議はナミビア情勢の急展開をめぐって,78年中も活発に行われた。
ナミビアの独立問題に関しては,西側安保理メンバー5カ国(米,英,仏,西独,加)が平和的解決の努力を続け,その結果,国連の監視・統制下における自由選挙を通じて独立を実現するとの構想が大きな前進をみたものの実現するには至らず,また,南アフリカ共和国のアパルトヘイト政策の撤廃,南ローデシアの全当事者会議開催については,さしたる進展がみられないままに推移した。
他方,非自治地域問題については,ソロモン諸島,ドミニカ国,ツヴァルが独立を達成し,その他の地域でも非植民地化の動きが進展した。
第33回総会においては,反アパルトヘイト国際動員,石油禁輸,対南ア核協力停止,経済協力停止など15の決議が採択された。
わが国は,あらゆる人種差別に反対するとの立場から南アのアパルトヘイト政策は早期に撤廃されるべきであるとの基本的立場で対処したが,いかなる手段による闘争をも支持する,特定国を名指しで非難する,南アに対し憲章第7章下の制裁を課すべきである,などの主張は,本件の平和的解決に資するとは考えられず,そのため,11の決議に賛したが,イスラエル・南ア関係非難,石油禁輸,対南ア経済協力停止,南ア情勢の決議に棄権せざるを得なかつた。
第33回総会においては,南ローデシア違法政権による近隣諸国に対する侵略行為を非難し,愛国戦線を排除したいわゆる「内部解決」を非難する包括決議及び南アを含む制裁違反国の行為を非難ないしは遺憾とし,対南ロ制裁措置の拡大を要請する制裁決議がそれぞれ採択された。わが国は,いずれの決議にも賛成した。
4月から5月にかけて開催されたナミビア問題に関する第9回特別総会においては,ナミビアに関する宣言並びにナミビアの自決及び国家独立支援行動計画が採択された。わが国は,これら宣言及び行動計画にはわが国の基本的立場に合致しない部分があり,また西側5カ国の平和的解決努力に対する言及もないため棄権した。
第33回総会においては,UNTAGの設立をめぐって関係者間の協議が行われている最中に本問題が審議されたため,その推移を見守る空気が強く,例年より簡略な3決議が採択されるに留まつた。わが国は,あらゆる手段による闘争を支持するとか,南アに対し憲章第7章下の制裁を課すべきであるとかの内容を含むナミビア情勢決議及び南アのナミビア関係国連決議無視非難決議の双方に棄権し,国連ナミビア理事会作業計画決議に賛成した。なお,本件に関し79年に第33回総会を再開することが決定された。わが国は,一般討論において,UNTAGが実施される場合にはその民政部門に対し,人員派遣,資機材供与という形で協力する旨明らかにした。
今次総会の本件審議においては,西サハラ問題,ベリセ問題,東チモール問題などを中心に活発な議論が行われた。
(イ) 78年の中東情勢は,エジプト・イスラエルの和平交渉が断続的ながらも継続され,9月にはキャンプ・デービッド合意が成立するなど,米国・エジプト・イスラエルの和平努力を軸として動いたが,かかる情勢を背景に第33回国連総会における討議も活発に行われた。同総会の主要決議採択状況は次のとおりである。
(a) 中東情勢
12月7日,「イスラエルの占領継続を弾劾し,PLOを含む全当事者が平等の立場で参加する中東和平会議の早期開催を要請し,中東問題の公正かつ永続的解決は包括的解決に基礎をおくべきであり,右解決のため安保理が必要な措置をとるよう要請する」などを内容とする決議を賛成100,反対4,棄権33(わが国を含む)で採択した。
(b) パレスチナ問題
12月7日,「安保理に対し,パレスチナ問題解決の基礎として,総会が採択した総会決議31/20,32/40A及び本決議で承認した勧告に関し,できる限り早急に決定を行うことを要請する」(A),「パレスチナ委員会に対し,引き続きパレスチナ情勢を検討し,総会ないし安保理に対し,報告及び勧告をすることを要請する」(B),「事務総長に対し,パレスチナ人の権利に関する特別班が引き続きその任務を遂行することを確保するよう要請する」(C)などを内容とする決議をそれぞれ(A)賛成97,反対19,棄権25,(B)賛成103,反対14,棄権24,(C)賛成98,反対17,棄権26(わが国はいずれも棄権)で採択した。
わが国は,これら決議の基礎として引用している関連国連諸決議に現実的でない内容を含み問題の建設的解決に寄与しないなどの理由でこれまで棄権してきており,また同じく決議の基礎としているパレスチナ委員会の勧告なども法的にも政治的にも実行不可能で,右勧告をパレスチナ問題解決の基礎とすることには賛成できず棄権した。
(c) 対イスラエル武器など供給停止問題
12月14日,「安保理に対し,各国がイスラエルに武器・弾薬などを供給し,あらゆる核設備・技術の移転を差し控えることを要請するよう求める」などの内容の決議を賛成72,反対30,棄権37(わが国を含む)で採択した。
(ロ) 安保理は,3月イスラエル軍が南レバノンに大規模侵攻を行つたため緊急召集され,3月19日決議425を採択し,レバノン政府の要請にかんがみ,イスラエル軍の撤退を確認し,国際の平和と安全を回復し,レバノン政府が南レバノンにおける有効な権限を回復するのを援助するとの目的をもつてUNIFILを創設することを決定し,さらに同日決議426をもつてその実施細目について提案した事務総長報告(S/12611)を承認した。
また安保理は,5月,9月,10月及び11月に会合し,国連中東緊急軍(UNEF,10月),国連兵力引離し監視軍(UNDOF,5月,11月)及び前記UNIFIL(9月)の任期延長を決議した。
国連は第19回総会決議で本問題に関する特別委員会を設置し,同委員会は,「平和維持活動」の迅速かつ効率的な運用を図るためのガイドライン作成作業を行つている。特に78年を通じて,国連は,上述のとおりUNTAGを設置し,また,極めて短時日の間に国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の設置,派遣に成功した。この事実は,紛争の再発及び拡大を防止するための国連平和維持活動が極めて有用であることを示すものであるが,かかる動きを反映して,第33回総会では,加盟国によるロジスティック面での協力や,要員の訓練などをも含む広汎な協力を要請し,また財政負担の公平な分担を強調する決議(33/114)が採択された。同決議は,前総会決議に比べて,加盟各国の協力要請を強調するものとなつている点が特徴である。
わが国は,国連の「平和維持活動」を高く評価し,特別委員会の作業にも,副議長国として積極的に参加してきており,第33回総会においても上記決議の共同提案国となつてその採択に尽力した。
第30回総会により設置された「国連憲章及び国連の役割強化に関する特別委員会」の第3会期は,78年2月末より4週間開催され,わが国もメンバー国として同委員会の作業に参加した。同委員会は,特に紛争の平和的解決の分野をとりあげて,加盟諸国の見解及び提案を51のリストに整理した。第33回総会は,かかる委員会作業の進捗を評価し,委員会が同分野でのリスト・アップ作業を完了し,国連の既存手続の合理化及び国際の平和と安全の維持の分野で,同様のリスト・アップ作業を行うよう決定する決議をコンセンサスで採択した。従来のように憲章再検討積極派と反対派の主張の対立は今後も予想されるが,少なくとも秩序だつた方法で審議継続が同総会決議により決定されたことは有意義であつた。
第31回総会で設置された人質行為防止国際条約の起草アドホック委員会は,78年2月に開かれた。起草作業は,多くの条項について進展を見せたが,民族解放運動の取扱いなど若干の問題については合意に至らなかつたので,第33回総会は,同委員会の作業継続を決定する決議をコンセンサスで採択した。わが国は委員会のメンバー国であり,理由のいかんを問わず,あらゆる人質行為に反対するとの立場及び早期に条約を締結すべきだとの基本的立場から,本決議案の共同提案国になつた。
わが国は,1956年国連に加盟して以来,政治,経済,社会などの各種分野における国連の諸目的の達成のため積極的に貢献すべく努力してきたが,国連の平和及び安全の維持のための中心的機関たる安保理に参加することにより,更に対国連協力の実を上げることを希望し,安保理非常任理事国選挙に立候補した。他方,バングラデシュも,国連における機会均等を主張して立候補したところ,アジア・グループ内における統一候補確定のための調整は不調に終わり,11月10日の投票日を迎えることになつた。第1回及び第2回投票において,バングラデシュ,わが国のいずれも当選に必要な票数を獲得することができなかつたが,バングラデシュの得票がいずれもわが方のそれを上回つたので(第1回84票対65票,第2回87票対61票),わが国としては,これ以上の混乱を避けるため,第3回投票前に,バングラデシュに議席を譲る旨発言し,立候補を辞退した。