-国際投資問題-
第4節 国際投資問題
(1) 国際経済の先行不安定などの理由から77年度においては,わが国民間企業の投資態度が慎重になり,許可ベースで28億600万ドルと,前年度の34億6,200万ドルに比べ18.9%減となったものの,77年度末現在の許可累計額は222億1,100万ドルに達した。
(2) 77年度の許可実績を業種別に見ると,製造業,鉱業,商業が大宗を占めている(これらが総投資額に占めるシェアは合計66.7%となつている)。製造業は化学,電機,繊維を中心に対前年度比4.8%増の10億7,400万ドルで,シェアも前年度の29.6%から38.3%に拡大したのに対し,鉱業は同54.6%減の4億5,200万ドルでシェアは28.7%から16.1%に低下,また商業は同14.9%減の3億4,400万ドルでシェアは11.7%から12.3%とほぼ横這いに推移した。
地域別に見ると,中南米及び大洋州向けが増加した以外,各地域とも減少した。従来より大きなシェアをもつアジア向け投資が対前年度比30.5%減となった結果,開発途上国向けの投資は同23.9%減でシェアは前年度の64.0%から60.1%に低下した。主要地域への投資額及びシェアはアジア8億6,500万ドル(シェア30.8%),北米7億3,500万ドル(同26.2%),中南米4億5,600万ドル(同16.3%)であり,主要投資先国は米国,インドネシア,ブラジルとなつている。
(3) 77年度末の許可累計額を業種別に見ると,製造業71億3,900万ドル(シェア32.1%),鉱業53億1,100万ドル(同23.9%),商業29億5,500万ドル(同13.3%)が主要なものである。地域別に見ると,アジア63億2,800万ドル(シェア28.5%),北米54億100万ドル(同24.3%),中南米37億5,700万ドル(同16.9%),欧州30億7,500万ドル(同13.8%),中近東14億7,900万ドル(同6.7%),大洋州12億5,700万ドル(同5.7%),アフリカ9億1,300万ドル(同4.1%)となつている。
わが国としてはOECD及び国連の場で行われている多国籍企業に関する討議に,円滑な国際経済の運営を確保するとの観点から以下のように対処してきている。
(イ) 76年の閣僚理事会において採択された「国際投資及び多国籍企業に関する宣言」(付属書として「多国籍企業の行動指針」が付されている)及びこれに関する理事会決定のレビューが79年前半に予定されており,OECDの国際投資・多国籍企業(IME)委員会ではその下にガイドライン作業グループ,内国民待遇作業グループを設置し,「宣言」及び「行動指針」の実施状況をフォローすることを中心に,レビューの準備作業を進めている。また,この過程でOECDの民間諮問機関である経済産業諮問委員会(BIAC)及び労働組合諮問委員会(TUAC)との公式及び非公式の意見交換の機会ももたれており,これらは幅広い検討に役立っている。
(ロ) 「行動指針」に関しては,これまで加盟国及びTUACによって具体的な事例が「行動指針」の下で問題になるものとしてIME委員会に提起された。IME委員会は個々の企業の行動に対して結論を下してはならないが,これらの事例の検討を通じ,「行動指針」の内容の一層の明確化を図るとともにその問題点の把握に努めている。
(ハ) 「宣言」はほかに外資系企業に対し法令などの下で国内企業よりも不利でない待遇が与えられるべきこと(内国民待遇)及び各国が国際直接投資の促進要因又は抑制要因となる公的措置をとる際に,それにより影響を受ける他国の利益を十分考慮すべきこと(国際投資の促進要因及び抑制要因)をその主要な内容としており,これらについてもIME委において検討を進めている。特に内国民待遇に関しては各国において内国民待遇の例外となる措置の明確化が図られ,78年9月にはその報告書が刊行された。
(ニ) また,「宣言」のレビュー作業とは別に,会計基準アドホック作業グループにおいて会計基準の国際的調和化のための検討が行われている。さらにOECDは国連における多国籍企業の行動規範作成に関しての先進国間の意見調整の場としても活用されている。
(2) 国連における多国籍企業問題の検討(多国籍企業行動規範の作成)
多国籍企業問題の総合的な検討のため74年12月,国連多国籍企業委員会が設立され,さらに76年3月同委員会の下に,多国籍企業に関する行動規範作成のための作業部会が設立された。同作業部会は77年1月以来79年3月までに7回会合を開き,最近漸く行動規範草案作成の段階に入つているが,国連における多国籍企業問題の検討はOECDのそれと異なり,特に開発途上国との問題であるので,今後とも先進国・開発途上国間の意見の調整が望まれている。