-通商問題-
第2節 通商問題
(1) 世界貿易は1975年後半より主要先進国を中心とした景気の上昇傾向に伴い回復基調に転じ,76年には数量ベースで前年比11%増(国連統計)を記録し,着実な回復を示した。しかし,77年には先進国の成長鈍化により世界貿易量の伸びも鈍化し,前年比3%増(同統計)にとどまり,続く78年の世界貿易量の伸びについても,前年水準を若干上回る程度と予想されている。
(2) こうした中で,一部の先進諸国においては,各国が当面する経済困難を背景として保護貿易主義的な圧力が高まつてきたが,6月,OECD閣僚理事会で貿易プレッジが更新され,また,7月のボン主要国首脳会議において保護貿易主義の回避と,開放貿易体制の維持強化が再確認されるとともに,12月15日までに東京ラウンド交渉の妥結を図ることが確認された。一方,ガットの場においても,11月には牛場(日)・ストラウス(米)・ハーフェルカンプ(EC)3者会談が行われるなど,自由貿易体制の維持強化を図るべく,東京ラウンドの妥結を目指して一層の努力が払われた。
(3) また,わが国と主要国との貿易問題に関しては,日・米間及び日・EC間において,日本側の貿易収支の黒字幅の増大を背景として,77年秋以降貿易関係における摩擦が嵩じていたが,日米間においては,78年1月13日に牛場・ストラウス共同声明が発表され,その後も大幅黒字の継続などを背景に9月の中川農林,牛場対外経済担当両大臣(当時)の訪米による日米MTN農産物交渉,10月末の牛場・ストラウス会談などが行なわれたほか,種々のレベルで広範囲な貿易経済関係上の問題につき協議が行なわれた。他方,日・EC間においても,3月24日に日・EC共同声明が発表され,7月には福田総理大臣(当時)がわが国現職の総理として初めてEC委員会を公式訪問し,ジェンキンス委員長をはじめとするEC委首脳と会談を行うなど,あらゆるレベルで日・EC通商経済関係の円滑な発展を図るための接触が続けられた。
東京ラウンド(多角的貿易交渉)
東京ラウンドは,78年中に急速な進展を見せ,79年4月には交渉が実質的に妥結の運びとなった。なお一部に交渉を継続する問題を残しているものの,6年越しの大交渉にようやく本格的終結へのメドがついたと言える。
78年1月に主要国が関税引下げなどのイニシャル・オファーを提出して本格的交渉に入つた東京ラウンドは,同年7月頃までに交渉各分野で実質的進展が見られ,7月13日には,交渉の現状に関する数カ国代表団の声明が発表されて,中間段階でのとりまとめが行われた。また,その直後のボン主要国首脳会議では,78年12月央までに交渉を終結することが申し合わされた。この目標に向けて秋以降さらに集中的な交渉が行われ,同年12月末までに,日,米をはじめ一部主要国の間で交渉の大筋妥結をみたが,ECとの交渉など幾つかの問題が翌年に持ち越された。
79年に入り,引き続き残された交渉が継続された結果,4月初旬までに交渉が全体として実質的妥結の状態にこぎつけた。4月11日には,交渉とりまとめのための貿易交渉委員会が開かれ,翌12日には,交渉成果の実質内容を確認する文書に主要国代表が署名を行った。(署名国は,5月現在,16カ国とECである)。
貿易立国を国是とするわが国にとつて,本交渉の目的である国際的な自由貿易体制の基盤拡充は今後の繁栄を確保する上で不可欠の要請である。かかる観点から,わが国は交渉の当初より積極的に参加し,各国との協調の下に実質的成果を挙げるべく最大限の努力を払つてきた。
交渉結果の主な内容は次のとおりである。
<関税引下げなどに関する2国間交渉>
(イ) 交渉の結果,主要先進国の工業品関税は,平均約33%の引下げ幅となり,同引下げ品目の貿易額合計は約1,100億ドル(76年ベース)にのぼる。また,農産物についても合計約120億ドル(同)の品目について関税引下げが行われることになる。
(ロ) わが国は他の主要国のオファーを勘案しつつ,鉱工業製品約2,600品目,また農林水産物約220品目について,関税を譲許し,譲許税率の引下げを行うこととなる。引下げの幅は品目により区々であるが,概ね30%ないし50%の引下げになるものが多い。
(ハ) 交渉の最終結果は,正確にはまだ出ていないが,鉱工業品の関税交渉において,現在までに実質合意を見ている日,米,ECの関税引下げ状況は,概ね次の通りである(いずれも暫定値)。
(i) 平均カット率(76年の各国の対世界輸入額でウエイトをつけた加重平均引下げ幅)
日 本 米 国 E C
50%弱 30%前後 25%前後
(但し,日本の実行税率からの引下げ幅は20%ないし26%程度)
(ii) 平均関税率(同上のウエイトづけによる加重平均税率)
(ニ) 関税以外の交渉(但し,コード類を除く)では,わが国は,とくに米国との交渉で,かんきつ類及び高級牛肉のわが国の輸入拡大について,また,豪州との交渉でもわが国の牛肉輸入の増加見通しについて話し合いを行い妥結に達している。
<各種協定類>
(イ) 非関税措置に関する協定類
(a) 政府調達に関する協定
政府の物品調達について,国際的な競争機会の増大をはかり,貿易の拡大に貢献することを目的とする。このため,政府調達分野に内国民待遇及び無差別待遇の原則を確立し,また,入札手続などの公開性を定めている。
(b) 補助金・相殺措置に関する協定
(i)相殺関税発動の要件,条件及び手続を精緻化し,(ii)輸出補助金や内国補助金を合理的かつ妥当な国際的規律に服せしめること,及び(iii)通報,協議,紛争処理の手続を整備して制度の実効を確保すること,を主な内容とする。
(c) ダンピング防止協定(改正)
現行協定は64~67年のケネディ・ラウンド交渉の結果作成されたものであるが,今回,上記(b)の補助金・相殺措置に関する協定との整合をはかるなどの理由から,主にダンピング防止税発動の要件,条件,調査手続,紛争処理などの規定について,改正ないし整備が行われた。
(d) 技術的貿易障害に関する協定
各国における産品の規格・基準,右との適合性に関する検査(試験)及び適合性を証明する認証制度について,これらが不必要な貿易障害にならないようにするため,制定の手続に公開性を確保し,また,運用における内外無差別の原則などを定めている。
(e) 関税評価に関する協定
課税価額を決定するための関税評価制度において,恣意的な方法を排除し,関税評価制度を国際的に統一することを目的とする。このため,関税評価の基準となるべき価額を定め,評価に際しての調整のルールを明確にすることを主な内容とする。
(f) 輸入許可手続に関する協定
各国の輸入許可手続が不必要な貿易障害にならないようにするため,右に関する行政上の手続の簡素化と透明性の確保を主な内容とする。
(ロ) 農産物貿易
食肉と酪農品について,情報交換や市況の検討などを中心とする国際協力を通じて貿易の拡大と一層の自由化をはかることを目的として「国際食肉取極」及び「国際酪農品取極」が作成された。
また,農業分野での各国の協力を一層推進するため,適当な協議の枠組みを今後検討していくことが合意された。
(ハ) 貿易のルール(フレームワーク)
貿易を律するための国際的枠組みを改善する交渉が行われ,(a)開発途上国に対し特別優遇措置を与えることができる,(b)国際収支目的でとられる貿易措置についての規律と手続,(c)開発途上国が開発目的のために保護措置をとる場合の条件・手続を緩和する,(d)協議,紛争処理の慣行を成文化して紛争処理手続の実効性を確保するなどを内容とする合意ができている。
(ニ) 以上のほか,民間航空機貿易の最大限の自由化を目指す「航空機協定」が作成された。なお,セーフガードに関する協定については,79年7月央までに合意に達することを目標に交渉を継続することになつている。
(1) 先進工業国における国際収支の不均衡問題解決のためには,黒字国及び赤字国双方の改善努力が不可欠であるが,わが国としても,世界経済の長期的かつ安定的な発展に協力するとの観点から,当面の対外経済政策の最も重要な課題として経常収支黒字の削減に引き続き努力しているところである。
(2) このため,内需拡大による景気回復を通じて輸入拡大を図ることを基本とし,加えて関税の前倒し引下げ,残存輸入制限の一部自由化,為替管理制度の自由化及び簡素化,緊急輸入のための長期外貨貸付制度の創設など,輸入促進のための具体的措置を講じたほか,78年度における輸出が数量ベースでほぼ前年度並となるよう輸出の自粛要請を行うなどの措置を講じた。この結果,数量ベースで見ると,輸出は78年1~3月期7.6%増し前年同期比。以下同じ。)のあと,4~6月期2.8%減,7~9月期3.9%減,10~12月期4.8%減と,減少傾向を示している。他方,輸入は,78年1~3月期0.9%増,4~6月期5.22増,7~9月期7.3%増,10~12月期11.8%増と,着実な増加基調にある。
(3) 78年のわが国の経常収支(IMFベース)は165億ドルの黒字(前年比56億ドル増)となつたものの,経常収支の黒字幅(季調済)は,1~3月期51億ドル,4~6月期48億ドル,7~9月期46億ドル,10~12月期21億ドル,79年1~2月(暫定値)では5億ドルと期を追つて顕著な縮小傾向を示しつつある。