-国際経済関係-

第2章 国際経済関係

第1節 総    説

1. 世界経済の動向

(1) 先進国経済

(イ) 1973年末の石油危機以来,インフレーション,国際収支不均衡及び世界的不況といつた多くの困難に直面してきた世界経済は,今なおその衝撃から完全には立直りをみせておらず,78年においてもその景気回復テンポは77年につづいて比較的緩慢なものに留まつた。

(ロ) 先進国経済をみると,米国経済は引き続き拡大基調を維持した一方,日本及び西欧経済でも年央以降内需を中心に回復に転じるなど各国間の景気格差は改善傾向を示したが,全体として景気回復テンポは依然不十分なものに留まつた(OECD見通しによれば78年のOECD加盟国全体の実質経済成長率は77年とほぼ同程度の3・1/2%)。

物価面では,78年を通じ,西独,日本をはじめ全体として鎮静化の傾向がみられたが,総じて依然高水準であり,米国その他一部の国ではその騰勢の強まりがみられるほか,年末頃から西独,日本などにおいてもやや上昇しており,インフレ抑制は再び重要な政策課題となっている。

雇用面では,特に西欧諸国では依然高水準の失業が持続し,これにセクター上の困難も加わつて,多くの国において保護主義的圧力が引き続きみられた。

(ハ) 石油危機により生じた世界的な国際収支不均衡問題については,78年において大きなパターンの変化がみられた。

即ち,74年には680億ドルにのぼった産油国の経常収支黒字は,その後3年間は350~410億ドルの幅を推移した後,78年には約200億ドルに縮小するものと見込まれ,また非産油開発途上国の赤字は77年の220億ドルから再び拡大し,78年には300億ドルに達すると見込まれている。一方,先進国全体の経常収支はかなりの改善をみせ,77年の130億ドルの赤字から78年には30億ドルの黒字に転ずると見込まれている(78年IMF年次報告)。

先進国内の経常収支をみると米国の赤字,日本及び西独の黒字などの不均衡は依然継続したが,77年後半以降の英国,フランス,イタリアなどにおける改善傾向に加え,78年後半以降米国およびわが国についても改善傾向が顕著になるなど先進国全体の国際収支調整には進展がみられた。

(ニ) 一方,国際通貨情勢は,先進国間の国際収支の不均衡特に米国の大幅赤字継続を背景に,77年秋以降引き続き動揺したが,78年11月以降はドル防衛のための各国の協調などもあり比較的安定的に推移した。

(ホ) このように78年の先進国経済は,ボン・サミット以後各国においてとられた協調政策及び主要通貨間のレート調整などの効果により,内需の拡大,国際収支調整の進展など,全体としてかなりの明るさをとり戻すに至つている。

しかしながら,高水準の失業の継続,根強いインフレ圧力など克服すべき問題があり,加えて,イラン情勢などに起因する石油需給の不安定による悪影響が懸念される。このような状況下,上記改善傾向を一層進めるとともに,保護主義を排し着実なインフレなき成長を達成するため,各国が今後とも協調的努力を継続することが必要である。

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(2) 開発途上国経済

(イ) 非産油開発途上国の経済は76年以降総じて順調に推移しており,78年の実質成長率(GDP)は,77年とほぼ同様の5.2%(IMF推計)になつたものと見込まれているが,地域別にみるとかなりの相違がみられる。アジア地域は,農業生産と工業品の輸出が好調だつたこともあり,77年と同程度の高い成長を示した一方,アフリカ地域は早魃及び一次産品の需要減退から成長率が低下している。中南米は77年と同様の成長を維持したと見込まれている。

非産油開発途上国の経常収支は引締め政策の効果及び先進国の景気回復傾向を反映して76,77年赤字が縮小し,改善傾向にあつたが,78年には,交易条件の悪化などにより赤字幅が再び拡大した(300億ドルの赤字,78年IMF年次報告)。物価面では74年以降続いていた30%の消費者物価上昇率は,78年には若干改善を示したが依然として高水準が続いている(78年1~9月・前年同期比約27%台)。

(ロ) 78年の産油国経済は,原油輸出の伸び悩みなどを反映し,経済成長率がかなり鈍化するとともに,経常収支黒字は77年の350億ドルから200億ドル(78年IMF年次報告)へと顕著な縮小を示した。また,高水準で推移していた消費者物価は(IMF-IFS,77年前年比,14.7%),各国の厳しい金融引き締め政策の効果もあって,78年にはいると,急速に鎮静化した(同78年7~9月・前年同期比6.5%)。

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2. 国際経済社会における国際協調

(1) 主要国首脳会議

(イ) 第4回主要国首脳会議は78年7月16,17日の両日西ドイツのボンで開かれ,日本,米国,フランス,西ドイツ,英国,イタリア,カナダの首脳及びEC委員長が参加した。

同会議は従来とほぼ同様,(a)成長・雇用・インフレ,(b)国際通貨政策,(c)エネルギー,(d)貿易,(e)開発途上国に関係する問題という5つの議題に添って進められた。会議は終始友好的な雰囲気の中で行われ,「宣言」を発表して成功裏に閉会した。

(ロ) 過去4回の会議は,それぞれの開催時点における世界経済情勢によつて裏付けられている。

75年11月のランブイエ会議においては,石油ショックに由来する世界的不況から脱出することに重点が置かれた。76年6月のプエルト・リコ会議においては,上昇基調にあつた世界経済を背景に,インフレの回避が主眼となつた。さらに77年5月のロンドンの会議では,景気回復のテンポが一般的に落ちた中で,インフレを抑制しつつ雇用を拡大することが緊急な任務であることが合意された。そして78年のボンの会議を迎えたわけである。

当時の世界経済情勢は,景気回復のペースがスローダウンし,多くの国において失業率が高く,世界の貿易量の伸び率は低下し,インフレの進行率は高かつた。また,米国の貿易および経常収支の赤字と,日本と西ドイツの貿易及び経常収支の黒字が対照的であつた。このように各国の経済情勢が一様でない中で,世界経済の調和のとれた発展をはかるため,各国がどのような役割を分担するかがボンでの重要な課題となつた。

(ハ) その結果,異なつた経済情勢に直面しているそれぞれの国が,自国の情勢にみあつた相当具体的な成長政策,インフレ対策,エネルギー政策などをとることになつた。このように各国が相互支援的な「総合的戦略」に合意したことはボン・サミットの大きな特徴となつた。

例えばマクロ経済政策についてはカナダのインフレ抑制と5%までの生産増加,西ドイツのGNPの1%の追加経済刺激策,フランスのインフレ率低減及びGNPの0.5%に相当する国家予算の赤字増大,わが国が経済成長率を1.5%高めること,米国がインフレを軽減することなどがうたわれた。

(ニ) エネルギーについては,石油の輸入が貿易収支の赤字につながるとして最も注目されていた米国は,エネルギー分野における特別の責任を認め,輸入石油への依存度を低減する努力を推進する意図を明らかにした。また核エネルギーの開発を促進することの必要性が強調されるとともに,再生可能なエネルギーを含む新しいエネルギー源の開発,及び既存のエネルギー源の一層効率的な利用を促進するため,各国が共同してエネルギーの研究開発を行うことが確認された。さらに,開発途上国のエネルギー開発を援助すべきことが強調された。

(ホ) 貿易については,国際貿易を拡大するため,開放的な国際貿易体制を維持,強化することの重要性が改めて確認され,東京ラウンド交渉の進展を評価するとともに,同交渉に新たな活力を与えることが合意された。

貿易に関するもうひとつの問題は経常収支不均衡の是正であり,大幅な経常収支赤字国は輸出を増大し,反対に大幅な経常収支黒字国は輸入を増大する必要があることが留意された。このほか,時間の経過に伴い,構造的変化を受入れ,これを促進することによつて国際競争及び貿易の流れを妨げないようにしようという趣旨のOECDの「積極的調整政策」が評価された。

(ヘ) 開発途上国との関係については,先進国と開発途上国との相互依存関を認識しつつ,先進国の途上国に対する,資金協力その他の協力の増大(特に日本によるODAの3年間倍増の努力),世銀などのソフトな融資基金支援,国際開発銀行の資金補完支援,共通基金交渉の推進,個別商品協定締結のための努力,輸出所得安定化の方策検討などがうたわれた。

(ト) 国際通貨政策については,為替相場の安定は,国際収支不均衡の原因となつている基礎的な諸問題に取り組むことによつてのみ達成することができ,前に述べた諸政策を協調的プログラムの枠内で実施することにより,為替市場の安定がもたらされるであろうという認識が表明された。同時に,参加各国は,為替市場における無秩序な状態に対処するため,必要な範囲で引き続き介入することとなった。

(チ) 宣言には78年中にレヴュー会議を行うことを定めていたが,この会議は12月11日,各国首脳の個人代表などが出席してボンで開かれ,首脳会議以降各国がとつた措置などについてボン宣言に沿つて意見が交換された。

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(2) 経済協力開発機構(OECD)

6月に開催された第17回OECD閣僚理事会では,わが国はOECDに加盟して以来初めて議長国を勤めた。同理事会において先進諸国は世界経済の相互依存の高まりを認識し,インフレなき持続的成長を達成するため,需要管理政策,エネルギー政策,開放的貿易政策,積極的調整政策などを構成要素とする幅広い「協調的行動」(Concerted Action)につき合意した。この幅広い協調的行動の考えが7月のボン主要国首脳会議の宣言において,発展的に継承された点からも伺われるとおり,同理事会は有意義な成果をもたらした重要な会議であつた。

(イ) 経済政策

2月の経済政策委員会(EPC)の会合では,国際収支面やインフレ面でみた場合の「強い国」が世界経済の回復のための推進役となるべしとのいわゆる「機関車論」が後退し,その代わりに,これらの「強い国」のみならず「弱い国」もそれぞれの置かれた状況に適応した経済政策を追求することにより世界経済の持続的成長を達成すべしとのいわゆる「輸送船団論」が打ち出され注目された。

5月のEPC会合では,成長,インフレ,国際収支などのいわゆる基本的要因(ファンダメンタルズ)については各国間の格差が依然残つていることが認識され,こうした格差の縮小を図つていくためには,需要管理政策を中心に各国間での「協調的行動」が必要であるとの方向付けが行われた。11月のEPC会合では,幅広い「協調的行動」の実施状況のフォローアップが行われた。具体的には,わが国と西独がとつた景気対策や米国がとつたドル防衛策については多くの国が評価した。幅広い「協調的行動」に沿つた各国の努力を通じ,OECD諸国の経済に関する当面の見通しは前回会合の5月の時点に比べ好転したことが確認された。しかし,多くの国において,インフレ及び失業がなお高水準であることや79年下期における日本,西独の内需鈍化,米国の景気後退などに対する懸念も指摘された。

(ロ) 貿   易

6月の閣僚理事会において,加盟国は貿易上あるいは経常収支上の制限的措置をとることを自粛するとのいわゆる「貿易プレッジ」(貿易制限自粛宣言,74年5月閣僚理事会で採択)が改訂の上更新された。

一方・貿易委員会としては,最終段階のMTN交渉,共通基金再開交渉,中進国台頭,保護主義の高まりなど貿易分野における重要な動きを背景に貿易政策に係る諸措置に関する通報協議制度の活用などにより,加盟国における各種制限的措置の回避,撤廃のため有形無形の貢献を行なつた。また,79年5月のUNCTAD Vに向けてBグループとしての準備についても積極的に検討をすすめた。

なお,このほか輸出信用面においては,公的支持を受ける輸出信用に関し,いわゆる「コンセンサス」の改訂が合意され,4月よりアイスランド,トルコを除くOECD加盟国の間で改訂コンセンサス(「輸出信用アレンジメント」)のガイドラインが適用されることとなつた。

(ハ) 主要セクター問題

(a) 鉄   鋼

石油危機後,先進国における鉄鋼需要が大幅に減退した結果,世界の鉄鋼産業は供給過剰に陥り,鉄鋼貿易の面では通商摩擦の増大,保護主義の台頭などの諸問題が顕在化した。鉄鋼の問題についての認識を深めるため,77年にはOECDの枠内に鉄鋼アドホック・グループが設立され,情報交換が開始されたが,78年10月には各国の鉄鋼政策についても情報・意見交換を行う鉄鋼委員会が設立され,同時に鉄鋼分野で各国がとるべき政策についてのいくつかのガイドラインが策定された。

なお,同委員会には招請を受けたOECD非加盟中進製鉄国も希望すれば参加し得る制度になつており,OECDの組織上例をみないものとして注目される。

(b) 造船・海運

78年は造船部会が4回開催され,造船不況対策などを中心に討議が行われた。わが国からは造船業安定基本計画の策定を中心とする諸般の造船不況対策の説明が行われたほか,各国からも国内措置につき報告があり,これに基づいて活発な論議が行われた。

(ニ) 積極的調整政策

エネルギー高価格,需要構造の変化,中進国の台頭などの世界経済の構造的変化に対応して先進各国では種々の調整措置が導入されているが,インフレなき持続的成長を実現するためには,これらの措置は防御的たるべきではなく,変化に対して前向きに調整するという積極的調整を指向する必要があるとの認識が高まり,6月の閣僚理事会において,この認識を踏まえ,あり得べき積極的調整政策を示した「調整政策:一般方針」が採択された。同「一般方針」のフォローアップのため工業委,労社委をはじめとする各関連委員会において,諸分野別に各国の実態や「一般方針」の明確化について検討が開始された。

(ホ) 中進国問題

本問題はここ数年来次第に各国の注目を集めてきており,OECDでも10月の専門家会合以降本格的に検討されるところとなつた。この会合では,(a)中進国の台頭は世界経済のダイナミックな構造変化の一つの表われである。(b)先進国は中進国を長期的観点から世界経済の中に組み入れるべく調整していく必要がある。(c)先進国側としてはとるべき調整措置を怠ることを回避するとともに,中進国に対して一方的な要求を押しつけるべきでないなど,種々前向きの議論がなされた。

(ヘ) その他

(a) 農業大臣会議

2月には5年振りに農業大臣会議が開催され,ここ数年来の農産物供給過剰状態や各国の物価対策重視としての小売価格抑制などから生じる問題を幅広く討議した。この結果,各国農業政策の定期的検討の促進,農業市場動向の監視強化などにつきコミュニケを採択した。

(b) 教育大臣会議

世界経済の停滞や社会構造の変化による若年失業の増加,教育予算の伸悩みなどの問題が生じている一方,国民の教育に対するニーズも多様化しているところから,10月にはOECDの場で初めて教育大臣会議が開催され,活発な討議の結果,若年失業問題解決のための教育の寄与,リカレント教育の充実など10項目につき合意をみるに至つた。

(c) その他

OECDの活動は以上の分野のほかにも多岐にわたつており,工業委員会,科学技術政策委員会,環境委員会,労働力社会問題委員会,国際投資・多国籍企業委員会,消費者政策委員会などの場で幅広い努力が行われている。

なお,OECDの諮問機関の一つであるBIAC(経済産業諮問委員会)は,日本が3月会長国に就任したこともあり,11月には東京会合を開催している。

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