-その他の重要文書-

5. その他の重要文書

(1)マラッカ・シンガポール海峡の航行安全に関するインドネシア,マレイシア及びシンガポール3国共同ステートメント(仮訳)

(1977年2月24日,マニラ)

インドネシア,マレイシア及びシンガポールの外務大臣会議は,マラッカ・シンガポール海峡における航行安全の増進並びに汚染防止対策及び措置に関する密接な協力及び協調の促進のための措置を検討するため,1977年2月24日マニラにおいて開催された。

インドネシア外務大臣アダム・マリク閣下,マレイシア外務大臣トゥンク・アーマド・リタウディン閣下及びシンガポール外務大臣S・ラジャラトナム閣下が会議に参加した。

外務大臣は,1976年12月20,21両日ジャカルタで開催された高級官吏会議の報告を検討かつ考査し,並びに以下の勧告を採択しているマラッカ・シンガポール海峡の航行安全に関する協定に署名した。

1. 船舶は,マラッカ・シンガポール海峡通航の間は常時,最低3.5メートルの余裕水深(UKC)を維持し,かつ,特に危険水域航行の際にはあらゆる必要な安全措置をとるものとする。

2. マラッカ・シンガポール海峡の3カ所の危険水域,即ちワン・ファゾム・バンク水域,メイン・ストレート及びフィリップ水道並びにホースバー灯台沖における航行分離方式(TSS)の設定

3.深喫水船,即ち喫水15メートル以上の船舶は,バッファロー・ロックまでのシンガポール海峡においては指定された深喫水航路(DWR)を通航することとし,また,バッファロー・ロックから,バツ・ベランティまでの水域では特定の航路を航行することを勧告される。その他の船舶は,緊急時を除き,深喫水航路に進入しないことを勧告される。

4. 航行分離方式の効果的かつ効率的な実施のため,航行援助施設は改良される。

5. 大型船舶のため現在行っている任意の通報の手続及び制度は継続される。

6. シンガポール海峡の危険水域における任意水先の原則は適用される。

7. 巨大タンカー(VLCC)及び深喫水船は,危険水域通航の間,12ノットを超えない速度で航行することを勧奨され,かつ,深喫水航路においては追い越しが禁止される。

8. 海図及び潮流・潮汐のデータは改善される。

9. 1972年国際海上衝突予防規則の規則10は,実施できる限り航行分離帯で適用される。

10. 航行分離方式の実施は,沿岸国に財政的負担をかけないものとし,必要な資金は利用者が負担する。

11. 海洋汚染処理のための共通政策が作成される。

12. マラッカ・シンガポール海峡を航行する全てのタンカー及び大型船舶は,保険及び補償制度により然るべく保証されるものとする。

インドネシア,マレイシア及びシンガポールの外務大臣は,フィリピン共和国政府に対し,マニラでの会議のため与えられた便宜に関し,謝意を表明した。

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(2) 第10回ASEAN閣僚会議コミュニケ(仮訳)

(1977年7月8日,シンガポール)

1. 第10回ASEAN閣僚会議は,1977年7月5日より8日までシンガポールにおいて開催された。会議は,シンガポール首相リー・クァン・ユー閣下によつて正式に開会された。

2. 会議には,インドネシア外務大臣ハジ・マリク博士閣下,マレイシア外務大臣トゥンク・アーマド・リタウデイン閣下,フィリピン外務長官カルロス・P・ロムロ博士閣下,シンガポール外務大臣ラジャラトナム閣下及びタイ外務大臣ウパディット・パチャリャンクン博士閣下及び5カ国の各代表団が出席した。

3. ASEAN事務総局長ハルトノ・ルクソ・ダルソノ閣下も出席した。

4. リー・クァン・ユー首相閣下は,開会の挨拶において,シンガポールの第4回ASEAN経済閣僚会議では,多くの問題についてある程度の理解が得られたとのべた。同首相は,同会議での決定は,きたるべきクアラ・ルンプールのASEAN首脳会議の議題に当然加えられるべきものであるとのべた。同首相は,世界は変動の状態にある故,ASEANの将来は,他国がASEAN諸国のために何をなそうとするかあるいはなすことができるかということよりもASEANが何をなすことができるかということにより多く依存するであろうとのべた。ASEANは,特に経済・政治分野において,加盟諸国間の協力によりイニシアチブをとらねばならないだろう。より緊密な経済的結びつきは,南東アジアの安定と繁栄の機会を増すであろうから,グループとしてのASEANは,日本,豪州及びニュー・ジーランドとより緊密な建設的,補完的関係を樹立せねばならない。

5. リー・クァン・ユー首相は,南東アジアの政治情勢の変化により,ASEAN諸国は相互内政不干渉の保証のもとにヴィエトナム,ラオス及びカンボジアとの間に,建設的かつ生産的基礎に立つ関係の樹立が必要になつたとの考えをのべた。

6. リー・クァン・ユー首相は,強力で活気に満ちた繁栄するASEANは,望ましい経済・貿易のパートナーとなるであろう旨強調した。ASEAN諸国が,迷惑な敬遠されるべき負債としてではなくより緊密に連合された望ましい資産としてみなされることは重要である。同首相は,1977年6月29日の米国務長官の演説が米国と東アジア及び太平洋間の経済面での関係を強調していることに言及した。この演説を行うことによつて,米国務長官は,米国,ASEAN間の協議が南東アジアの地域努力に対しより強い米国の支持の基礎を与えるであろうとの希望を表明したのである。

7. 同首相は,さらに続けて先進工業諸国の困難な経済状況は,時期をかえて結局は南東アジア及び太平洋の諸国を圧迫するであろうと述べた。先進工業諸国は,自由貿易の重要性についてのべる一方,ひそかに保護主義的措置を導入した。

8. リー・クァン・ユー首相は,先進工業諸国をしてASEAN諸国に投資し,その工業化を促進することに意義を見い出さしめるような新戦略がASEANの協力によって採用され得るかどうか質問した。同首相は,若しもASEAN諸国と先進工業諸国の双方にとって有益な措置がASEANによつてとられるならば,先進工業諸国はASEAN諸国との経済関係の拡大を欲するであろう旨述べた。

9. 外務大臣は,きたるASEAN首脳会議及びASEANと豪州,日本,ニュー・ジーランドとの首脳会談の準備と提案議題につき討議した。外務大臣は,きたるべきこれらの首脳会談はより大きな地域協力及びASEANと上記3国間の関係の強化・拡大へのはずみを与えるであろうとの確信を表明した。

10. 会議は,常任委員会の年報を承認し,実施済プロジェクト数の心強い程の増加に対して満足の意を表明し,これがその他の具体的な地域的努力にまで及ぶであろうことに注目した。

11. 東南アジアにおける発展及び1967年8月8日の設立以後のASEANの活動を再検討して,会議は,ASEAN諸国の集団的努力及び責任の増大が,ASEANをして結合力のあるダイナミックな地域機構に発展するのを可能ならしめたことに満足を表明した。

12. 会議は,バンコク宣言及びASEAN協和宣言の原則及び目的に対するASEAN諸国のコミットメントを再確認した。これらの歴史的文書は,ASEAN協力と国際関係におけるASEANの拡大している役割を更に強化するための基礎及び行動の枠組を引続き提供するであろう。

13. 会議は,ASEANの原則と目的を具体化している基礎的取極としてのバンコク宣言の地位を維持するとの決定を守りつつ,拡大しつつあるASEANの活動を更に効果的能率的に処理できるようその機構を強化するため組織を改革することに合意した。

14. 会議は,貿易,産業,食糧・農業・林業,財政・銀行業,運輸及び通信特にASEAN特恵貿易協定に基づく71品目の貿易上の譲許の交換における協力の拡大のためにASEAN経済閣僚の努力が著しく進展したことを賞賛し,これらの分野における地域協力の規模を拡大し速度を早めることの重要性を強調した。

15. 会議は,豪州,カナダ,EEC,日本,ニュー・ジーランド及び米国との正式な協力関係を強化・拡大する措置について合意した。

16. 会議は又,ASEANがEEC及びその他の先進諸国との間で,相互の関心事項を協議するために,合同の協議グループを設置すべきであるということに合意した。

17. 会議は,先進諸国が,ASEAN諸国への投資量を増大しASEANの輸出所得とASEAN産品の価格を引き合うレベルで安定させ,先進諸国へのASEANの輸出のアクセスを改善するような政策を採用するよう要請した。

18. 会議は又,南東アジアにおける平和・自由・中立地帯の設定に関するクアラ・ルンプール宣言へのASEANのコミットメントを再確認した。会議は,平和・自由・中立地帯に関する高級官吏委員会の報告を採択した。ASEAN諸国は既に提案されている種々の最初にとるべき手段に関する審議を継続し,域外大国からのいかなる形式・方法による干渉にも拘束されない平和・自由・中立地帯の設定を促す条件をつくり出すイニシアチブをさらに検討することが合意された。

19. 外務大臣は南東アジア情勢を再検討し,相手国の主権と領土保全の相互尊重及び相手国の内政に対する不干渉の基礎に立つて,カンボディア,ラオス及びヴィエトナムを含むすべての国との間に平和的かつ相互に利益となる関係を促進したいとのASEAN諸国の願望をくりかえしのべた。

20. 外務大臣は,1977年6月29日の米国務長官の演説,特にASEANと米国との関係への言及に関心をよせた。

21. 会議は,中東情勢を検討し,国連の関連決議に従い,パレスチナ人民の奪うことのできない権利ならびに不法に占領されたアラブ領土からの撤退を含むすべての関係諸国の合法的権利と利害を考慮に入れた正当かつ平和的解決に対する支持を表明した。これに関連して,会議は,紛争の早期解決に関する新たなイニシアチブを歓迎した。

22. 外務大臣は,国際平和と安全に対する脅威をなしている南部アフリカにおける人種差別主義者少数政権の依然たる非妥協的態度に憂慮の意を表明した。外務大臣は,国連憲章の原則と目的及び国連の関連決議に従い,自決の原則と南部アフリカにおける多数支配のための闘争に対する全面的支持をくりかえし表明した。

23. 第11回ASEAN閣僚会議は,1978年にタイで開催される。

24. インドネシア,マレイシア,フィリピン及びタイの代表団は,彼らに供与された温い惜しみなき款待と会議の卓越した準備に関し,シンガポールの国民及び政府に対し謝意を表明した。

25. 会議は,ASEANの友好と連帯の伝統的精神において開催された。

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(3) 第2回ASEAN首脳会議コミュニケ要旨

(1977年8月5日,クアラ・ルンプール)

1. 1977年8月4日,5日ASEAN首脳はクアラ・ルンプールにて会談。

2. 会談は,伝統的な友好精神の中で行われた。

3. 過去10年のASEANの発展,特にASEAN協和宣言等に盛られた事項の実施状況を検討。各種分野の協力強化を通じて国家としての強靱性を強めたことに満足。

4. ASEAN設立宣言,ASEAN協和宣言がASEAN協調の基本であることを再確認。今後一層連帯を高めることを表明。

<地域発展>

5. 現下の情勢は,ASEAN諸国にとり域外勢力に左右されることなく,自らの運命を形成できる好機であることに合意。

6. カンボディア,ラオス及びヴィエトナムを含む東南アジアのすべての国との間の平和的,互恵的関係の発展に対するASEANの願望を強調。インドシナ諸国との外交,通商面での交流に満足,今後とも相互理解・協力に努力する旨合意。→全訳は末尾参照。

7. ヴィエトナムの国連加盟に関する国連安保理の決議を歓迎。今後ヴィエトナムが国連憲章に沿い東南アジアの平和・安定に貢献することを確信。→全訳は末尾参照。

<平和・自由及び中立地帯>

8・9. 「東南アジアの平和・自由・中立地帯」構想を再確認し,同構想実現へ向けて,努力することに同意。

10. 経済・社会発展及び社会的公正の強化のための努力が重要であることに留意。

<経済協力>

11. ASEAN協和宣言の「行動計画」を確認し,さらに努力を傾注するよう指示。特に,ASEAN地域の政治的安定のための経済・社会開発のための協力を強調。

12. ASEAN協和宣言に沿つた種々の経済協力の進展に満足を表明

13. 基礎産品分野における緊急時の相互優先供給・購入合意に留意。

14. ASEAN5大産業プロジェクトのフィージビリティ・スタディ及び追加ASEAN産業プロジェクト候補の予備フィージビリティ・スタディの早期実施に留意。

15. ASEAN諸国の民間部門が域内産業補完計画の実施のため果した役割に対し満足の意を表明。

16. ASEAN地域の産業開発のため,技術移転,投資の増大措置を指示。

17. エネルギーの重要性に鑑み,エネルギー開発のための協力強化に合意。

18. 本年2月署名されたASEAN特恵貿易協定に基づき合意された71品目の適用実施は,78年1月1日までに完全に行われるよう勧告。

19. UNCTAD一次産品プログラム,特に共通基金に対する支持を再確認。

20. 先進諸国に対し,ASEANの一次産品輸出所得安定のため,輸出所得補償制度等の措置を緊急に設けるよう要望。

21. 先進諸国に対し保護貿易主義的措置を除去するよう要望。

22. ASEAN域外市場に対する貿易アクセス改善につき共同アプローチをとること及びASEAN諸国における投資機会を増大させることを再確認。

23. ASEAN中央銀行及び金融当局に対し,スワップ協定の制定を推奨。

24. 先進諸国に対し,ASEAN産業プロジェクトのため,最も好条件な融資の増大を要望。

25. ASEAN諸国内の貿易,投資,企業活動を促進するため,投資保証,二重課税防止に関し二国間で条約を締結する必要性に合意。

26. 輸送及び通信に関する地域協力の進展に留意。(海底ケーブル,郵便・送金サービス,鉄道・道路等々について)

27. 食料,農業,林業面の地域協力についての調査の進展に留意。(食料等の需給,地域穀物保護センター,漁業資源管理,林業資源保護,飼料の需給,農業教育・訓練)

28. 食料,農業,林業面の協力拡大のため,先進国及び,国際機関との対話の重要性に留意。

29. 食料備畜等食料危機に対する緊急措置が望ましい旨認識。

<対外関係>

30. 豪,カナダ,日本,NZ,ECさらには米国,南西アジアとの経済面における協力拡大強化に合意。

31. ECとの経済面における協力について。

32. 日本との経済面における協力の開始について。(合成ゴムフォーラムの成果)→全訳は末尾参照。

33. 日本との経済面における協力の進展について。(日本・ASEANフォーラム,今次首脳会談を通じて,日本との経済面における協力が一層進展することを期待)→全訳は末尾参照。

34.35.36. 対豪州,NZ及びカナダとの経済面における協力について。

37. EEC,その他先進国との共同協議グループの設置との第10回ASEAN閣僚会議の決定を確認。その他諸国国際機関と対話開始の用意がある旨を再確認。

38. 豪州,日本,NZとの首脳会談を歓迎し,この一連の会談により双方間の経済面における協力が進展するよう希望。

39. ASEAN協和宣言の社会・文化面の実施状況に満足の意を表明。社会・文化面での協力を促進するため,担当大臣間のより密接な協力の呼びかけ。

40. 1977年7月のジャカルタ社会福祉大臣会議で採択されたガイドラインの確認。

41. 域内の社会環境改善のための協力拡大に合意。

42. 貧困,病気,文盲の除去のための協力及び人間の尊厳向上への貢献を指示。

43. 域内人口問題解決のため国連及び同機関との密接な協力を推奨。

44. 大衆の教育,訓練,自助活動を通ずるASEANの地域開発計画の速やかな実施を確認。

45. 麻薬等非合法薬剤撲滅に一層努力するよう指示。

46. 自然災害に対するASEAN加盟国間の相互援助の実施勧告。

47. 経済,社会,文化発展が地域及び国家の安定に欠くべからざる要素であり,また成長と発展の基礎であることを再確認。

48. ヴィエトナム難民問題解決のためUNHCR等に善後措置を呼びかけ。

49. 労働問題に関する1976年5月のASEAN労働大臣会議での「行動プログラム」を支持。

50. 雇用拡大のための各種合同プロジェクトの可能性を探究。

51. 低所得グループの福祉を増大するため労働と雇用の分野での協力を強化するよう勧告。

52. ASEAN情報政策実施のため1977年7月のASEAN情報大臣会議においてガイドラインが策定されたことに留意。

53. ASEAN機構をより効率的にすべく,同機構を見直す努力を続けていくことを指示。

54. 今次首脳会議の議長国であるマレイシア政府に対し,謝意表明。

日本関係部分及びインドシナとの関係部分全訳

<日本関係部分>

(第32項) 首脳は,ASEANと日本との間の経済面における協力は1973年11月のASEAN・日本合成ゴムフォーラムの設立によつて開始されたことに留意した。同フォーラムは,ASEANタイヤ試験開発研究所の設立に対する日本からの資金援助を含む,ASEAN・日本間のゴムに関するより一層の協力をもたらした。

(第33項) 首脳は,本年3月の拡大されたASEAN・日本フォーラムの設立及び来たるべきASEAN首脳と日本国総理大臣との会談により,特に,ASEAN産品の日本市場に対するアクセス改善,ASEAN輸出産品の価格及び所得安定,ASEAN産業プロジェクトに対する資金援助,及びASEAN農業及び工業開発の進展を目的とするASEANと日本との間の経済面における協力が拡大することを期待した。

<インドシナとの関係部分>

(第6項) 首脳は,カンボディア,ラオス及びヴィエトナムを含むこの地域のすべての国との間に平和的かつ互恵的な関係を発展させたいとのASEAN諸国の願望を強調した。

この点に関し,首脳は,ハイ・レベルでの外交及び通商使節団の交換がASEAN諸国とインドシナ諸国との関係改善への見通しを高めたことに満足の意をもつて留意した。

首脳は,これら諸国との間で互恵的なベースで理解と協力の分野を拡大するため,一層の努力を払うことに合意した。

(第7項) 首脳は,国連安全保障理事会が,ヴィエトナム社会主義共和国の国連加盟を認める勧告を決議したことを歓迎した。首脳は,ヴィエトナムが,国連憲章の目的と原則に沿つて,東南アジアの発展と繁栄に必要な平和と安定に貢献するであろうとの確信を表明した。

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(4) 第10回米韓安全保障協議会共同ステートメント(仮訳)

(1977年7月26日,ソウル)

1. 韓国と米国間の第10回安全保障協議会は,韓国政府及び米国政府間の1971年2月6日の協定及び1976年5月26日及び27日のハワイのホノルルにおける安全保障協議会の合意に従い,1977年7月25日及び26日,ソウルにおいて開催された。徐鐘チョル(Suh Jyong Chul)国防部長官,ハロルド・ブラウン(Harold Brown)国防長官,韓国統合参謀会議議長・盧載鉉(Ro Jae Hyun)大将,米国統合参謀本部議長ジョージ・S・ブラウン(George S.Brown)大将外,両国政府の外務・国防関係高級官吏が会議に参加した。ブラウン国防長官は,訪問中,朴正煕(Park Chung Hee)大統領及び崔圭夏(Choi Kyu Hah)首相を訪問した。

2. 徐国防部長官及びブラウン国防長官は,アジア及び太平洋地域における全般的情勢について討議し,北東アジアにおける安全保障の情勢を慎重に検討した。両代表団は,北西の諸島を含む韓国への軍事的脅威を分析判断し,この脅威に対する韓国及び米国共同の防衛能力を慎重に再検討した。徐国防部長官及びブラウン国防長官は,北朝鮮が近代兵器の取得の増大及びその兵器産業の開発によつて,その軍事力を近年増強したことを認めた。両代表団は,北朝鮮の脅威は,依然重大であるという点で意見の一致を見た。

3. 徐国防部長官は,米国の軍事援助の継続及び韓国の安全保障に対する米国のコミットメントの重要性に留意しつつ,韓国の防衛態勢を説明した。両代表団は,朝鮮半島への敵対行為の再発を抑止するに十分な態勢において,韓国の防衛力を維持・強化することが緊要であると結論した。

4. ブラウン国防長官は,計画にそつた米地上戦闘部隊の撤収は,韓国の安全保障に対する米国のコミットメントを如何なる点においても変更するものではなく,1954年の米韓相互防衛条約は完全に有効であり,又同条約に従つて,武力攻撃に対する防衛において韓国を援助するため迅速かつ効果的支援を供与するとの米国の決意は強固であり減退していないとのカーター大統領の言明を伝えた。ブラウン国防長官は,カーター大統領が北朝鮮も他の如何なる国も,この米国のコミットメントの変りない確実性を疑うべきではないと強調したことに特に言及した。

5. ブラウン国防長官は,4~5年にわたつての米地上戦闘部隊の慎重な段階的撤収は,それが韓国軍を強化・近代化する措置を伴つて行われる限り,朝鮮半島における軍事的均衡に影響を及ぼさないであろうと米国が結論した旨説明した。徐国防部長官及びブラウン国防長官は,米地上戦闘部隊の計画にそつた撤収に関連して,補完措置が撤収に先立つて或はこれと平行して実施させるものとするという点で合意した。ブラウン国防長官は,米国の空軍,海軍,情報,兵站その他補助部隊が韓国のため残留するであろうと確言した。ブラウン国防長官は,徐国防部長官に対し,撤収は朝鮮地域に平和と安定を維持するような方法で行われるであろうと保証した。ブラウン国防長官はまた,同地における他の米国の地上軍,海軍及び空軍と連携した朝鮮半島に残留する米国の戦術空軍力は,この点に関する米国の決意を明らかに証明するものであろうとのべた。

6. 徐国防部長官とブラウン国防長官は,韓国からの米地上戦闘部隊の撤収方式及びこの撤収の代替措置に関し,両国政府間で緊密かつ率直な協議が行われてきたことについて意見をともにし,これらの協議の結果を再検討した。ブラウン国防長官は,1978年末までに6000名が撤収され,残留地上戦闘部隊の撤収は,慎重に段階的に行われ,第2師団の司令部と2箇旅団は撤収の最終段階まで朝鮮に残留するであろうとのべた。ブラウン国防長官は,韓国に残留する米空軍部隊は増強され,米海軍は同地域内に引続き展開されるであろうとのべた。若干の米国の情報,通信その他の支援部隊も亦韓国に残留するであろう。徐国防部長官及びブラウン国防長官は,北朝鮮に対する抑止力が引続き強力であることを確保するため,韓国軍事力の拡張,半島における軍事的バランス及び同地域の平和と安全保障に影響を及ぼす他の情勢が,韓国政府との継続協議の題目になるであろうという点で合意した。

7. 徐国防部長官及びブラウン国防長官は,安全保障協議会に先立つて行われた共同軍事作業部会その他の協議を再検討し,韓国の継続的安全保障を確保するための考案された補完措置について討議した。ブラウン国防長官は,米国議会の協議と承認を条件として次の通り韓国がその軍事力を更に強化するのを援助するとの米国政府の意向を表明した。

(1) 現在朝鮮駐留米軍の保有している一定の装備を無償で韓国に移管する。

(2) 韓国がその国防軍の能力を改善するのを援助するため,補足的対外軍事販売クレジットを供与する。又,

(3) 韓国軍の全般的改善のための援助を継続する。

ブラウン国防長官はまた米国政府の次の措置についてのべた。

(1) 米国政府の海外武器移転政策の枠内で,韓国が北朝鮮の侵略を確実に防止し得るように,優先順位に従つて適当な武器を韓国の利用のため譲渡する。

(2) 米国政府の武器移転政策の枠内で,国防産業の分野における韓国の自助計画を,関連防衛技術とともに,援助するため特別の努力を払う。又,

(3) 韓国に対するすべての新たな侵略に抵抗すべき米韓連合軍の即応態勢を維持するため,韓国軍との共同軍事演習を継続し拡大する。

8. 徐国防部長官とブラウン国防長官は,両国間の伝統的友好,両国軍隊間の緊密な協力の長い歴史及びこの緊密な絆を更に強化することの望ましいことを認めて,米地上戦闘部隊第1陣の撤収完了前に,韓国防衛のための作戦上の能率を改善するため,米韓連合司令部を設立することに合意した。徐国防部長官及びブラウン国防長官は,米韓両国幕僚が既に開始している連合司令部の組織の計画・研究を継続することに合意した。両代表団は,連合司令部が朝鮮半島の平和と安全保障の維持に対する米国及び韓国の共同のコミットメントを象徴するであろうことを認めた。

9. 徐国防部長官及びブラウン国防長官は,関係国に休戦機構の維持をコミットさせる唯一の現存法的取極である休戦協定を実行するための持続的代替取極が存在しない限り,国連軍司令部が平和維持機関として引続き機能することを再確認した。

10. 韓国の防衛能力に対する信頼を表明する傍ら,徐国防部長官及びブラウン国防長官は,上述の計画及び措置の遂行は,米国の空軍,海軍,兵站等の必要な支援及び韓国の安全保障に対する米国の確固たるコミットメントと相まつて,いかなる武装攻撃も成功せず,半島における緊張緩和のための協力こそ朝鮮問題を解決できる唯一の方策であることを北朝鮮に対し必ずや明瞭ならしめるであろうということで意見の一致をみた。これに関連して,両代表団は,南北間の不可侵協定に関する韓国の提案を含む,朝鮮半島の緊張を緩和し,平和を強化するため韓国及び米国が試みた重要な政策上のイニシアチブに留意した。両代表団は又,北朝鮮が,1973年に北朝鮮によつて中断された南北対話の再開に合意することによつて朝鮮問題を平和的に解決する意向を示すよう強く要望した。米代表団は,朝鮮に関する4カ国会議のための従来の米国の提案に特に言及し,米国は,韓国の参加なしには朝鮮の将来に関し北朝鮮といかなる交渉にも入らないであろうことを繰返し確言した。

11. 両代表団は年次安全保障協議会の重要性と実績に留意しつつ,次回年次安全保障協議会が米国政府の招請により,1978年に米国で開催されることに合意した。

12. ブラウン国防長官は,徐国防部長官に対し,同長官及びその代表団に韓国当局者によつて示された親切と款待に関し,又,協議会の成功に寄与した申し分ない手配に関し,衷心より謝意を表明した。

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(5) 中華人民共和国第5期全国人民代表大会第1回会議における政府活動報告(日本関連部分抜粋)

(1978年2月26日,北京)

日本はわが国にとつて一衣帯水の隣国であり,中日両国人民は長い友情の歴史をもつている。国交正常化いらい,両国の多方面にわたる往来と連係はたえず発展しており,最近,長期貿易取極も調印された。中日両国政府の共同声明をふまえて,平和友好条約を早期に締結することは,両国人民の根本的利益に合致している。われわれは,北方四島の返還を要求する日本人民の正義の闘争を断固支持する。中日両国人民は子々孫々にいたるまで友好的につきあつていかなければならない。

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(6) カーター大統領の原子力政策に関する声明(仮訳)

(1977年4月7日,ワシントン)

今日において,原子力利用に係わるジレンマほど解決の困難なものはない。多くの国は,原子力を,少くとも,今世紀中は,自国の経済発展の輸入石油への依存度を減少させるための唯一の現実的手段だと考えている。(石油は供給に不安があり,価格の上昇及び枯涸の恐れがあるエネルギー源だからである。)米国は,これらの国々と異なり,国内に大量のエネルギー源-石炭-を有している。しかしながら,石炭の利用には問題がないわけではなく,米国政府の計画もエネルギー生産の一部を原子力利用により賄うことを予定している。

原子力の利益は,このように非常に現実的であり,実際的なものである。しかし,原子力が広く世界的に利用される場合には非常な危険が伴う-即ち,原子力利用過程のある部分が核兵器製造に転用される危険があるからである。

米国は,核不拡散条約を通じて,核兵器所有の拡大の危険を減少させるために重要な一歩を進めた。同条約により,100カ国以上の国が核爆発装置を開発しないことに同意している。しかし,米国は更にこれを押し進めなければならない。米国は,核兵器又は核爆発能力の一層の拡散が全ての国にもたらす結果につき深刻な懸念を有している。米国は,プルトニウム,高濃縮ウラン又はその他の兵器転用可能物質への直接の接近を可能とするセンシチブな技術の一層の拡散により,この危険が大いに増大するものと信ずる。私が大統領就任以来検討して来た問題は,いかにして,このことを原子力の具体的な利益を放棄することなく達成できるかという問題である。

我々は今や,原子力の利用に係わる全ての問題について徹底的な再検討を完了しつつある。我々は,拡散のもたらす深刻な結果及び平和と安全保障への直接的影響にかんがみ,また,科学的,経済的理由からも,次のことをしなければならないとの結論に達した。

-米国内の原子力政策と計画の大幅な変更。

-原子力の利用増大に伴なう問題点と危険に対するより良い解答を見出すべく各国との協調努力。

本日,私は,上記の検討結果より次の決定を発表する。

第1 米国政府は,米国の原子力計画において生産されたプルトニウムの商業的再処理及びリサイクリング(再利用)を無期限(indefinitely)に延期する。

米国政府は,独自の経験により,原子力計画がかかる再処理及びリサイクリングを行わなくとも,十分経済的に成り立ち得るとの結論を引き出した。

我々は,サウス・カロライナ州のバーンウェル工場に対し,再処理施設としてその完成のため連邦政府の奨励も,また資金の援助も行わない。

第2 米国の現行増殖炉計画を変更し,別の形の増殖炉の設計を優先させ,増殖炉が商業化される時期を延期する。

第3 核兵器に使用可能な物質に直接結びつかない核燃料サイクルの代替案の研究を促進するため,米国の原子力研究開発計画に関する予算の再編成を行う。

第4 国内及び海外の需要に対して,十分且つタイムリーに核燃料を供給するため,米国の濃縮ウラン生産能力を増大させる。

第5 他国に対し核燃料供給契約を提示し,且つかかる核燃料の引渡しを保証し得るため,必要な立法措置を提案する。

第6 ウラン濃縮及び化学的再処理に関する設備又は技術の輸出を引き続き禁止する。

第7 核爆発能力の拡散を減少させながら,すべての国のエネルギーに関する目的を達成し得る広範な国際的アプローチと枠組につき,供給国と輸入国と一様に協議する。

その他,米国政府は,代替核燃料サイクル開発を目的とする国際核燃料サイクル評価計画並びに不拡散という共通の目的を分かち合う諸国のため,核燃料供給と使用済燃料貯蔵へのアクセスを保証する国際的及び国内的措置の確立を探求する。

米国政府は,核エネルギーが平和的,経済的目的のために実用化されることを保証するために,最も望ましい多数国間及び二国間取極に関して,各国政府と極めて緊密に引き続き協議を行う。

米国政府の真意は,この死活的に重要な問題に関して,組織的且つ徹底的国際的協議を通じて広範な国際協力を進めることである。

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(7) 米国の対アジア政策に関するバンス国務長官の演説(仮訳)

(1977年6月29日,ニューヨーク)

今晩皆さまと席を同じくすることは大きな光栄である。アジア協会は,20年の間,アジア人と米国人の理解のかけ橋を築いてきた。その功績の多くは,アジア協会の創設者であるジョン・D・ロックフェラー三世のものである。アジア文化に寄せる彼の関心は持続的なものであり,アジア・アメリカ関係に対する彼の関心は深く,彼が創設したアジア協会の貢献は限りないものがある。今晩,私は,皆さまにアジア-やつと平和が訪れたが不確定性をまぬがれないアジア-における米国の役割について述へてみたい。

私はまず,東アジア諸国との効果的な関係を維持し,かつ発展させるためのわれわれの展望は,第二次世界大戦以後のどの時期よりも明るいという基本的命題を提示したい。米国政府が直面している根本的挑戦は,過去数年間における積極的な進展-日本との平等でより緊密なパートナーシップの到来,中国と「門戸を開きあう」ための有望な見通し,太平洋地域経済の益々成長する繁栄,東南アシア諸国連合の強まりつつある団結-を強固なものにし,そして現在の好ましい同地域の環境を緊張させるようなよくない傾向を阻止ないし緩和することである。この挑戦に対処するわれわれの能力に多くがかかつている。なぜならば,われわれのアジアに対する関心は永続的かつ本質的なものであるからである。

私は,次の了解事項について皆さまの判断を求めたい。

-第1に,米国はアジア・太平洋の勢力であり,将来もそうあり続けるであろう。

-第2に,米国はアジアと太平洋における平和と安定への貢献に重要な役割を果たし続けるであろう。

-第3に,米国は互恵と相互尊重の基礎に立つて,同地域諸国との正常かつ友好的な関係を追求する。

-第4に,米国は,米国と同地域の経済の相互依存の増大を認識し,太平洋諸国との貿易及び投資の相互拡大を追求するであろう。

-第5に,われわれは,アジア諸国民の人間としての条件を改善するためにその影響力を行使するであろう。

このすべてにおいて,わが国のアジア・太平洋諸国民との関係が永続的に生き続けることは疑いない。

アジアの人々に対して,今晩私は,わが国が国内において自信を回復したということを又アジアに対する関心を放棄していないことを無条件で申し上げる。

われわれは,われわれの地理的条件,歴史,通商,そして利害関係からして,太平洋国家であり,そして今後もそうあり続けるであろう。現在,われわれの全貿易の約1/4は東アジアと太平洋地域とのものであり,昨年われわれは同地域に220億ドルの米国産品を売つた。過去5年間,われわれは,欧州共同体を含む他のどの地域よりも多くの貿易をこの地域と行つた。

アジアにおける平和と安定について語ることができることは,歓迎すべき変化である。しかし,深刻な諸問題が存続している。われわれの任務は,アジアに生まれつつある平和的均衡を強固にすることを助け,そしてアジア諸国民に希望を与える経済成長を促進することである。

米国は,虚心坦懐にアジア諸国との関係を追求するであろう。われわれは同盟諸国及び友好諸国と緊密に協力し続けるであろう。そして,われわれは,相互に建設的な基礎に立つて,かつて敵国であつた国々との関係を正常化することを望んでいる。

米国は,アジアの安全保障に対する継続的な貢献の重要性を認識している。われわれは同地域において強力な軍事的存在を維持するであろう。

この存在は,科学技術の変化,われわれの友好諸国及び同盟諸国の安全保障能力の改善及び協調と平和を促進しようとするわれわれの努力によつて影響されるであろう。

われわれの同盟諸国及び古くからの友好諸国のうち日本ほど重要な国はない。日米安全保障条約は東アジアにおける平和にとつて柱石である。日本の民主的諸制度はしつかりと根づいている。日本人より大きな政治的自由を享受している国民はどこにもいない。その平和に対する献身には疑問の余地はない。25年前,日本は戦争の荒廃から立ち直つてはいたが,その経済発展はちようど始まつたばかりであつた。今日,日本の1人当たりの国民総生産はほとんど5千ドルに達している。1953年には,それは,現在の貨幣価値で約7百ドルに過ぎず,今日の多くの発展途上諸国のそれよりも少なかつた。

日本の成長は,東アジアにおける低開発諸国の経済発展に不可欠な要素であつた。日本の援助はこれら諸国の福祉に貢献するうえで重要であつた。われわれは,今後5年以内にその援助を倍増するとの日本の約束を歓迎する。

日本の偉大な業績は,それに相応する責任を日本人にもたらした。日本の行動は,われわれの行動と同じように,はるか国境を越えて影響力を持たないわけにはいかない。他の国々の製品のための日本市場の拡大は,高度の経済拡大が他の国々の経済を刺激するのに貢献するのと同様に,より健全な世界の経済的均衡に多大の貢献をするであろう。

米国と日本は緊密な協議によつてやつて行かなければならない。とりわけ,われわれは,われわれ相互間のいかなる問題も真の友好と理解の精神でこれを解決しなければならない。

われわれの日本とのきづなは,今後ともアジアにおけるわれわれの政策の柱石である。しかし,われわれには,中華人民共和国との新しい関係を樹立する大きな機会が見えている。

25年間にわたる対決の後に,われわれは中華人民共和国と建設的な対話を続けている。

文化,社会制度,イデオロギー及び外交政策にわたる大きな相違がわれわれ両国をいまだに隔てている。しかし,米中両国民は,もはや,敵意や誤解をもつて,そしてまた20年間存在した実質的に完全な分離状態で対侍してはいない。

われわれは,中国との友好関係を外交政策の中心部分と考えている。世界平和の維持にとつて中国の役割は不可欠である。中国との建設的な関係は,地域的にのみでなく,全世界の均衡にとつて重要である。そのような関係は誰をも脅かさないであろう。それは平和にのみ役立つであろう。

人類の4分の1が全世界の諸問題解決の探求に関与することは重要である。

中国人との関係を築きあげるにあたり,われわれは中華人民共和国に敵対するようないかなる協定も他国と結ぶことはない。われわれは,中国が独立,統一及び自立を強く決意していることを認めかつこれを尊重する。

中国に対するわれわれの政策は,引き続き上海コミュニケの精神によつて導かれるであろう。そして,その基礎に立つて,われわれは全面的な関係正常化に向かつて前進を図るであろう。われわれは,上海コミュニケの中に表明された「中国は一つである」という考え方を認める。われわれはまた,中国人自身による台湾問題の平和的解決が重要であると考える。

7週間後に,私は中国指導者たちと話し合うために北京にいるであろう。世界の広範な諸問題が,われわれの注意を必要としている。そして,われわれは,中華人民共和国との双務的関係をより正常化するための方策を探究したい。この点に関する相互のかつ互恵的な努力が不可欠である。

われわれが北京訪問を準備するに際し,前進は容易でないかもしれず,あるいはそれが直ちに明確にならないかもしれない,ということを認識している。しかし,わが政府は,前進を決意しており,それを念頭に置いて北京での会談に臨もうとしている。

われわれは,このほかにアジア中の多くの国々と緊密かつ歴史的な関係にある。そして,われわれは,それを強化する新しい方策を追求するつもりである。

韓国は,朝鮮半島の平和がもたらした機会をうまく利用して,益々自立かつ自給自足できるようになつてきた。その国民の生活水準は,過去10年間に著しく向上した。その貿易は著しく拡大した。その農業は大きな変革を遂げた。

韓国に対するわれわれの安全保障の約束とそれを維持しようとするわれわれの決意は,北東アジアの平和維持にとつて不可欠である。

韓国の成長と力は,在韓米地上軍の慎重な段階的撤退を進めるというカーター大統領の決定の基礎となつている。この撤退は,韓国の安全保障を損なわないような方法で実施されるであろう。われわれはまた,議会の同意を得て,韓国の防衛能力を強化する方針である。

さらに

-米地上軍は,韓国の防衛任務についている全地上軍の約5%に過ぎない。

-在韓米地上軍の4年から5年にかけての段階的撤退は,韓国軍の増大する力と自信によつて補われるであろう。

-米空,海軍及びその他の支援部隊は残留するであろう。

-われわれは,韓国人が自らの防衛能力を増強するのを助けるため,彼らと緊密に協力している。

-米国と韓国は,朝鮮半島の平和と安定を維持するための永続的な枠組を築きたいとともに強く望んでいる。

-われわれは,終局的な再統一を損なうことなく,南北両朝鮮の国連加盟を支持する。

-われわれは,北朝鮮の同盟諸国か韓国との関係改善の措置をとるならは,北朝鮮との関係改善に向かう用意がある。

-われわれは,現在の休戦協定をより恒久的な取極に代えるための交渉を提唱している。

-われわれは,この目的のために,最も直接的な関係当事国である南北両朝鮮及び中華人民共和国と会談し,そこで拡大会議の可能性を探ることを提案している。われわれは,韓国の参加を唯一の条件に,朝鮮半島の将来についていかなる交渉にも応じる用意がある。

10年前,インドシナにおいて戦争が行われていたのに,東南アジア5カ国は新たな平和のための機構-東南アジア諸国連合即ちASEAN-を創設した。その加盟国の1つであるフィリピンとわれわれの結び付きば,われわれ両国が共有する歴史に根差している。この結び付きの強さはわれわれ両国の相互防衛条約によつて強化されている。他のASEAN加盟4カ国-タイ,インドネシア,マレイシア及びシンガポール-は,それぞれわれわれの古くからの貴重な友好国である。

われわれのASEAN諸国との経済関係は,益々重要になつてきている。われわれは,ASEAN地域から輸入原油の10分の1,そして,それより大きな割合のゴム,スズ,ココア,ボーキサイト及びその他の重要原料を輸入している。南アメリカの全人口より大きな人口を有するこれら5カ国は,1976年に37億ドルの米国品を輸入した。

われわれは,ASEAN各国との緊密な双務的関係を維持するであろう。そしてわれわれは,彼らがそう望むなら,彼らの組織を通じて彼らと交渉する機会を歓迎する。われわれは,第1回米・ASEAN公式協議が2,3カ月以内にマニラで開催されることを特にうれしく思う。われわれは,この会談が東南アジアの地域的努力に対する米国のより強力な支援の基礎となるよう希望する。

米国,オーストラリア,ニュー・ジーランド3国の緊密な関係は,ANZUS条約によりわれわれが正式に同盟を結んだずつと以前から存在していた。つい先週,カーター大統領は,オーストラリアのマルコム・フレイザー首相をワシントンに迎えた。彼らの広範にわたる会談において,アジア地域に特別の注意が払われた。オーストラリア,ニュー・ジーランド両国のこの地域に対する貢献は重要であり,われわれは彼らとあらゆる共通の関心事について緊密に協議するであろう。

われわれは,古くからの友好諸国と行動する一方,ヴィエトナム社会主義共和国との関係正常化の手続きを開始した。

東南アジア及び太平洋地域の古くからの友好諸国は,われわれとヴィエトナムとの交渉について絶えず説明を受けている。これら諸国は,ヴィエトナムと米国との平常な関係樹立がすべての国の利益になるであろうということを認めている。

戦争の傷跡はなお米国,ヴィエトナム双方に残っている。両国とも,克服しなければならない敵意の残滓をもつている。しかし,若干の進展はみられる。

-ヴィエトナム人とともに,われわれはヴィエトナムでの戦闘中行方不明になつた米国人の遺体を確認し送還する方法を考え出した。間もなく,さらに20名の米人パイロットの遺体が,あるものは10年も前に死んだ土地から,彼らが名誉とともに立派に奉仕した国に送還されてくるであろう。

-われわれはウィエトナムヘの旅行制限を解除し,和解への過程を促進するための他の積極的な措置を講じた。

-われわれは,外交関係を樹立する時には通商禁止措置を解除すると申し入れた。

-そして,われわれは,もはやウィエトナムの国連加盟に反対しないであろう。私は,次期国連総会にはヴィエトナム代表団が議席に着いているものと期待する。

これらの措置は,われわれが新しい関係の樹立に向かつて努力していることを明らかにするものである。過去の教訓を忘れず,両国ともそれにとらわれたり,間違つた結論を引き出したりすべきでない。われわれは,根拠のない義務をわれわれに課す過去の解釈を受け入れることはできない。

一方,インドシナ難民の新たな流れは,世界の緊急な人道的関心を集めている。難民の数は,1ヵ月1500人の割合で増大している。数カ国-タイ,フランス,カナダ,オーストラリア,そしてつい最近ではイスラエルを含め-は,それらの不幸な人々を援助するのに多大の努力を払つてきた。しかし,若干の国は,難民に背を向け,彼らが溺れ死んだり,病死したりするのを放置してきた。

私は,これらの難民のためにより恒久的な定住の地が決められるまでの間,彼らに避難場所と援助を提供するよう強く要請する。

今日,広大な太平洋を見渡せば,われわれをお互いに結んでいる関係の網の目とアジアの安全保障における米国の継続的役割が見える。この地域の平和はまた,ソ連との緊張を緩和しようとするわれわれの努力いかんにかかつている。現在の全般的均衡を変えようとするいかなる企ても,この地域の他のすべての国から不安の目で見られるであろう。

平和は,米国とアジアが経済成長に注意を集中する自由を与えた。この経済成長こそ現代のアジアにおける極めて印象的な事実である。

日本経済の奇跡はよく知られているが,アジアの他の国々の注目すべき経済実績はそれほど注意を引いていない。例えば,過去5年間の経済成長率は,韓国が年率11パーセント,シンガポール,インドネシア及びマレイシアが年率約8パーセント,フィリピンが年率約7パーセントとなつている。

こうした経済成長が今後も当然継続すると思つてはならない。われわれは,経済発展が逆転しないように,そしてまた利益がより広く行き渡るように保障する諸政策を採用しなければならない。

カーター大統領の主要国首脳会議における公約は,世界の他の地域に対してと同様,アジアにも当てはまるものである。

-われわれは,インフレーションとの闘いを継続するであろう。

-われわれは,引き続き新しいエネルギー資源を開発する方法を探求し,かつ安定した公正な燃料価格を確保するであろう。

-われわれは,保護貿易主義的傾向に抵抗し,自由貿易体制を支持するであろう。

-われわれは,生産国と消貿国が出資し,かつ共通基金に支えられた,価格安定商品協定及び選定された商品のための緩衝在庫の設立を支持するであろう。

さらに,アジアにおけるわれわれの政策は,同地域の経済的諸問題と諸機会に合致したものとなるであろう。

アジア開発銀行の役割は特に重要である。米国政府は,アジア開発銀行の通常基金に対する2千5百万ドルの拠出及び同銀行の特別基金に対する今後3年間にわたる年間6千万ドルの出資を議会に提案した。

われわれはまた,他の加盟国とともに同銀行の諸計画の多様化と強化に努力するであろう。われわれは,ASEAN諸国及び南太平洋の新しい国々による協同プロジェクトに対する同銀行の支援を奨励する。

もちろん,政府資金は,資本,科学技術及び管理経営の必要を満たすのには決して十分でないであろう。さらに相当な民間資本もまた必要である。これに関連して,われわれは,政府の海外民間投資会社と米国の民間投資家との協力を通じて援助する機会をもつている。

開発の分野において,米国は最近,人間の基本的必要の問題解決に全世界が一致して努力するよう率先して呼びかけた。

アジア及び発展途上世界のその他の地域において,われわれが解決すべき人間の必要の問題には,パリにおけるOECD閣僚会議で先週私がその概要を述べた次の基本的要素が含まれなければならない。

-最も貧しい人々の大多数が住んでいる第3世界の農村地域の開発。

-これらの地域における食糧増産と栄養改善のための統合戦略。

-最少限の費用による予防医学,家族計画及び胎児保護の強調。

-初等・中等教育及び職場における技術訓練の計画拡大。

-開発過程に女性を参加させるための新たな努力。

これらの努力のすべてに対して,米国は強力な支援を約束する。しかし,多くの国において,急激な人口増加が経済発展に対する脅威となつている。土地に対する人口の圧力がすでに東アジアの自然環境を脅しているのに,東アジアのいくつかの国においては,その人口が今世紀末までに1970年の2倍になるであろう。

私は,米国がこれらの困難な問題に取り組んでいる国々を援助しなければならないと信じている。

われわれは,人権の他の諸局面-残酷で独断的で下劣な扱いから保護する法のルールのもとに生活し,政治とその決定に参加し,自由に意見を表明し,平和的な変革を求める権利-についても同様に関心を持たなければならない。

われわれは,文化の違いを理解している。われわれの伝統は,個人の権利と福祉を重視する。アジアの伝統の中には集団の権利と福祉を大切にするものもある。われわれは,アジア諸国が大きな代償を払つて獲得した,彼ら自身の政策を決定し彼ら自身の制度を樹立する能力を保持しようとするその決意を称賛する。

しかし,われわれは,私が今日述へたアジア-平和な大陸,天賦の才ある有能な人々がその国家の独立のもとに安んじて住んでいる所-には人間の条件を改善すへき新しい大きな機会が存在すると固く信じている。

われわれは,用心と決意,友清と理解をもつて,アジアの友好諸国がその国民の人権を促進する機会をとらえるよう奨励する。

そうすることは,いかなる国をも弱体化するものではない。

それどころか,より底の深い力-すべての国民の全面的参加から生まれる力-は,人間の条件の改善のための献身的努力が長期にわたつて生み出すものであろう。

すでにこの道を歩き始めているアジアの諸国は,それ故にそれだけ強くなつているであろうし,われわれは,彼らとより緊密に協力することができるであろう。

私は,今晩,アジア地域全体に支配的となりつつある歓迎すべき平和の希望及び平和的変化について述べることからこの演説を始めた。私は,アジアと太平洋における新しい意味での共同体を強く希望してこの演説を終えたい。われわれは,次のことを追求する。

-相互尊重の関係を樹立すること。

-すでに達成された損われやすい安定を強固なものにすること。

-より大きな自由及びより大きな人権尊重をもたらすこと。そして

-存続している分裂を消滅させること。

私は,これに向けての米政府の最善の努力を約束するとともに,アジアの友好諸国と米国民の支援をお願いする。

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(8) 南部州議会議員会議第31回年次会議(於チャールストン)におけるカーター米大統領の演説(仮訳)

(1977年7月21日,チャールストン)

ホリングズ上院議員,イーストランド上院議員,ステニス上院議員,エドワーズ知事,ブラッグ議長,連邦議会議員各位,米国のリーダーシップを担う州政府代表各位,そして南部へもどつて来た私を歓迎するために参集された親愛なる友人各位。

大統領が代理演説者としてやつてくるというようなことは,しばしばあることではない。最初に私の弟のビリーをここに呼ぶことになつていたと了解している。(笑声)南部州議会議員会議は-(笑声)-ビリーをここへ呼ぶには高くつくので呼へなかつたと私は承知している。

私はこの旅行をプレインズ経由にしようと思つていたが,プレインズでは部屋がとれなかつた。(笑声)今夜はヤズー市へ行き,そのあとニューオルリンズへ行く予定である。

私は,わが国の大統領としてここへ来ることができて大へんうれしく思つている。私は大統領就任後のこの6ヵ月間に多くを学んだ。初めてワシントンに着いて助言を求めた時,ある人が,「あなたは,大統領らしく振舞い,連邦議会を州議会と同様に扱いなさい。」と言つてくれた。しかし初めはそれもうまくいかなかつた。(笑声)

すぐに私は,議会が私をまだジョージア州知事であるかのように扱つていることに気づいた。しかし今は,議会の多くの友人たちの助けによつて,われわれはホワイトハウスと国会議事堂との間に存在すべき一種の関係を作り上げた。私は,本当の意味において政府の責任と負担を分ち合うことが大切であると思う。そして,あなたがたは,大統領や議会や他の人々と共に,われわれの政府が確実に機能するように努力している州議会及び州政府における指導層の一員である。

私は,米国民であることに,いつそう誇りを持つようになつた。そして,南部人であることにもまた,より一層誇りを持つようになつた。そしてまた私は,チャールストンで言われているように,二つの大河が合流し大西洋をつくるというこの地で,あなた方と席を同じくできたことを誇りに思つている。ここは,わが国の最も恵まれた都市の一つである。

そして今日私は,あなたがたに,われわれが,南部人として,また米国民として共有している希望と問題について話したいと思う。私は,あなたがたのような州議員に対しては,特別の親近感を持つている。4年の間,私はジョージア州上院の一員であつた。そして今も,州政府を高く評価している。それは,そこで働いている人々が有能であるということだけではなく,フリッツ・ホリングズが言うように,州政府が州民を身近に代表しているからである。

われわれの南部諸州は,地方自治政府という誇るべき伝統を持つている。そして今,あなたがたはその伝統の継承者である。しかしわれわれ南部人は又,現代に起こつためまぐるしい変化のいくつかを,恐らく他の多くの人々よりもより直接に感じてきた。われわれ自身の生活は,他の都市での出来事や,他の州での決定,世界の他の場所での緊張によつてますます左右されるようになつている。

そして,米国人としてわれわれは,われわれの運命が他の国民の運命に結びついている状態を見落すわけにはいかない。この相互依存は,わが国の経済の状態から戦争と平和さらにはわが国自身のエネルギー供給の安定にまで及んでいる。われわれのビジョンが狭かつたり,先見の明が欠けていたり,あるいはわれわれの目的が利己的であつたりすることは許されない新しい世界である。

ちようど6ヵ月ほど前に私が大統領に就任した時,わが国は世界中の一連の問題-南部アフリカや中東における問題,われわれとNATO同盟諸国との関係における問題,そして核兵器拡散や旧敵国との交渉,パナマ運河条約,人権,世界の貧困といつたような難問題に直面していた。

われわれは,以上の問題や困難かつ論議の的になつているその他の多くの問題-過去においては,これらの問題のいくつかは,つつこんで検討されなかつたり,或いは解決を延ばされてきたものだが-を公然と取り上げてきた。

私が最近の記者会見で指摘したように,論争,意見の相違,探究の期間は避けられないものだつた。われわれの目標は,安易な,あるいは一時的な合意に達することではなく,有意義で,均衡がとれ,かつ永続する解決策を見出すことである。

さて,大統領たるものは,この国の国民に複雑で重要な問題についての報告と概要を紹介する責任がある。私が直面する最も困難にして最も複雑な問題があなたがたに理解され,討論され,また議会にも理解され,討論されているならば,私は大統領として一層安心して決定を下すことができる。

過去において,わが国の指導者達は,秘密のうちに決定を行うとの誤ちを犯してきたと私は考える。それで,決定が正しいと判明した場合でさえ,大統領や国務長官は,個人で話す時は,堂々と話せないのである。

今日,私は,われわれの対外関係の非常に重要な側面,すなわちわれわれやわれわれの子どもたちのために平和をもたらす機会を最も直接的に生み出すであろう側面について論じてみたい。私は,ソ連との関係においてわれわれが行つてきたこと及び今後どのような方針をとるかということについての私の見解を明確に説明し,また,わが国家政策の根本原則を再び確認しておきたい。

私は,南部州議会議員会議において,対外問題について話すことにつき何ら弁明をしない。なぜならば,常識や正常な判断や米国民の建設的な影響力をわれわれは見捨てることができるという考えのもとに対外問題を取扱つたり,又それらの困難な決定を行うべきではないからである。

数十年の間,われわれの対外政策の主要問題は,一つは米国の率いる連合ともう一つはソ連の率いる連合の両者間の反目を中心として動いていた。

われわれの国家の安全保障は,ほとんど全くソ連との軍事上の競争という点からしばしば決定されてきた。この競争は,それが戦争につながりうる諸問題を含んでいるが故に,今なお重大である。しかし,軍事的均衡関係がいかに重要であつても,同じくわれわれ双方にとつて関係のある世界の他の諸問題をそつちのけにしてまで,それにのみ心を奪われているわけにはいかない。

たとえわれわれがソ連との緊張緩和に成功したとしても,いつの日か目が醒めたら,われわれほど責任のない何十という他の国々に核兵器が拡散していたということもありうるのである。また,われわれが米ソ2カ国の通常兵器を制限し,戦争の危険を軽減するために努力しても,世界中に兵器を無制限に輸出し続けることによつてわれわれの努力が無になることもありうるのである。

二つの工業大国として,われわれは長期にわたる世界的規模のエネルギー危機に直面している。われわれの政治上の相違が何であれ,われわれ両国は世界のエネルギーを保存し,かつ石油やガスの代替物の開発を始めざるを得なくなつている。

世界観の相違は深く,かつ持続しているにもかかわらず,われわれ両国は,国際関係の変動性によつてわれわれが負わされる新しい責任を引き受けなければならない。

欧州と日本は,戦争の廃墟から立ち上がり経済大国になつた。共産党や共産党政府はより広い地域にひろがり,またより多様性を帯びるようになつた。言うならば,それぞれが独自性を持つようになつた。新しく独立した国々は,現在第三世界として知られる存在となつ心世界問題での彼らの役割はますます重要性を増してきた。米ソ両国は,莫大な資源を有しているにもかかわらず,われわれ両国とその国民が全能でないことを知つた。我々は,この世界は,科学技術によつていかに距離が縮められたとはいえ,一,二の超大国の支配下におかれるには,あまりにも大きくかつ多様であることを知つた。そして,恐らくすべてのうちでより重要なことは,われわれが,われわれすべてが,われわれの関する限り,この事実,これらの事実を,ますますつのるあきらめの精神ではなく,ますます高まる分別の精神で学んだことである。

あなたがたのよく知つている聞きなれたこれらの変化について私が述べるのは,今日の米ソ関係を理解するには,その変化をば歴史を背景にして,そしてまた総体的な世界情勢を背景にして見なければならないと思うからである。

米ソ関係の全歴史は,われわれがその長期政策の基礎をその時の一時的なムードにおくならば,そのムードが安楽なものであれ,きびしいものであれ,われわれは誤つた道に進むことになるということを教えている。われわれはみな,米ソ関係が特に危険に思われた時代と特に明るく思われた時代を想い出すことができる。

われわれは,それらの峰や谷をこれまでに越えてきた。そしてわれわれの見るところ,結局のところ,過去の最後の3分の1世紀における傾向は肯定的なものだつた。

われわれ二つの政府が人間の自由と力と精神生活に関して信じているものには大きな相違があるが,このような相違は今後も解消しそうもない。又米ソ間の競争の他の要素に関しても同様である。その競争は,現実のものであり,歴史やそれぞれの社会の価値観の中に深く根ざしている。しかし,われわれ両国にとつて重要な一致する利害関係が多々ある,ということも事実である。われわれの仕事-私の仕事,あなたがたの仕事-は,これらの共通の利害関係を探究し,平等と相互尊重を基礎に,それらを利用してわれわれの間の協力の場を拡げることである。

われわれがソ連と交渉する際,われわれは,より穏やかで,より自由で,より豊かな世界というビジョンに導かれるであろう。しかし,われわれは現実の世界の本質について幻想を抱くことはしない。われわれの間の完全な相互信頼の基礎は未だに存在しない。それゆえに,われわれが到達する合意は,それがわれわれにとつて最善であり,ソ連にとつても最善であるといつたように,お互いに理解し合つた上での利己主義に基づいたものにならざるをえない。われわれが,われわれの真の利益とソ連の真の利益とが合致する合意の領域を探求するのはこのためである。

われわれは,ますます高まりつつある人類の諸問題を扱うことを目的とした国際活動にソ連がもつと携わつてもらいたいと思う。それは,この場合,ソ連が真の助けになり得るばかりではなく,建設的で平和な世界秩序を創造するために,われわれは双方とも大きな責任を求めなければならないからである。

私が就任した時,多くの米国人は,緊張緩和に対しますます幻滅を感じていたフォード大統領は,緊張緩和という言葉を使うのをやめまでした,そして,その結果として国民は,米ソ関係の全般について心配していた。また,恐らくもつと重大なことには,米国の対外政策の本質的公正さに対し世界か寄せていた尊敬の念がこの十年の出来事-ヴィエトナム,カンボティア,CIA,ウォーターゲート-によつてゆらいでいた。同時に,われわれは自信と国家としての目的と統一を取り戻し始めていた。

こういう状態のもとで私は,米国民と国際問題について,卒直に討論する時が来たと判断した。私は,米国の対外政策の道義的立場を取り戻すことが緊要であると思つた。そして私は特に米ソ関係を,より互恵的,現実的,そして究極的には,両国にとつてより生産的な基礎の上に置くことが重要であると思つた。

これは,強硬政策とか柔軟政策といつた問題ではなく,いかにして最も効果的にわれわれ自身の安全を守るか,また私がちようど今述べた世界秩序を創造するかについての明晰な認識の問題である。これがわれわれの目標である。

われわれは,米ソ関係の問題を新しい角度から眺め,そして,具体的な結果を産み出すことを意図した提案を行つて,大胆にそして建設的にこの問題に取り組もうとしてきた。私はその提案のうちほんの少数を指摘してみたい。

戦略兵器制限交渉,すなわちSALT交渉において,われわれは,戦略的戦力の均衡を維持するであろう戦略兵器の真の削減,制限及び新しい科学技術の凍結に関する包括的提案を行つた。

われわれは,すべての核実験の完全停止を主張し,その交渉が目下進行中である。これが合意すれば,米ソ関係における一つの重要な段階となるであろう。

われわれは,化学兵器及び生物学的兵器による戦争の禁止と,これらの破壊的物質の貯蔵廃棄に向つて共に努力している。われわれは,通常兵器の他国への売却及び移転を抑制するよう提案した。そして,フランス,イギリス及びその他の諸国に対し,このわれわれの努力に参加するよう要請した。

われわれは,まだ核爆発を行う能力を持つに至つていない世界の国々への核兵器の危険な拡散の阻止に努力している。

われわれは,インド洋における軍備制限について真剣に交渉してきた。われわれはソ連に対し,核兵器の西半球南部への導入を禁止するトラテロルコ条約(中南米非核武装地帯条約)にわれわれと共に調印するよう勧めてきた。

われわれは,中東の平和を助長するために開催が予想されているジュネーヴ会議の共同議長国としてソ連指導者と定期的に協議を始めた。

われわれとわれわれの同盟諸国は,ソ連及びワルシャワ条約機構加盟のソ連の同盟諸国と共に,欧州における兵力の削減について交渉している。

われわれは,科学及び科学技術に関する協力のための1972年の協定及び宇宙における協力のための同様な協定を更新した。

われわれは,世界における保健改善と飢餓救済のための協力策を追求している。

戦略兵器制限交渉において,われわれは,基本的な戦略的均衡を維持しながら,ウラジオストック合意を確認し,かつそれに基づいて戦略兵器の真の削減及び厳格な制限というわれわれの長期目標に向つて着実に前進する必要がある。

われわれは,双方の軍備の大幅削減兵器の配備と科学技術との凍結,そして現在存在する均衡を崩す恐れのある双方の戦略態勢におけるある種の要素の制限,といつた兵器制限の重要な新要素を織りこんだ諸提案の概要を明らかにした。

1974年のウラジオストック交渉において,いくつかの問題は未解決のまま,又その解釈の相違が明らかにされたまま残された。その間,科学技術の新しい開発は,新たな関心事-米国の巡航ミサイル,ソ連の巨大な大陸間弾道弾-を生み出した。

ソ連は,われわれの巡航ミサイルを憂慮し,われわれは,われわれ自身の抑止力の保障を憂慮している。われわれの巡航ミサイルは,ソ連の戦略的攻撃兵器の増強に代表されるわれわれの抑止力に対する増大する脅威を代償しようとするものである。若しも,この脅威を抑制することが可能ならば,そして,私はそれが可能であると信ずるが,われわれは,われわれ自身の戦略計画を制限する用意がある。しかし,もし合意に達することができなければ,米国は,われわれの安全保障を確保し,われわれの戦略態勢の妥当性を保証するためにしなければならないことをなしうるし,また必ずそうするであろう。

われわれの新しい諸提案は,以前に提案されたものよりも進んでいる。実際,多くの分野において,われわれは初めて,困難で複雑な諸懸案の核心に取り組んでいる。われわれは初めて,科学技術の次の躍進によつてくつがえされることのないような合意に達するよう努力している。われわれは,一口で言えば,真の和解に達するよう努力しているのである。

しかし,私があなたがたにその概略を述べたどの提案も安全保障を犠牲にするものではない。それらのすべては,双方の安全保障を強化しようとするものである。われわれは,容易に合意できる最小の公分母を表わすにすぎないようなSALT協定は,前進の幻想を生み出すだけで,結果的には,兵器制限の全過程に逆行するものであると考える。われわれは,SALTに真の前進が見られる場合,それは兵器の競争を安定させるばかりでなく,政治的関係の改善の基礎をも与え得るものであると考える。

私がこれらの努力は,緊張緩和を意図したものであるといつても,単に軍事的安全保障についてのみ語つているのではない。私は,ソ連と米国の個々の市民たちの間にある懸念をも考えているのである。この懸念は,われわれ両国の指導者には,誤解あるいは間違いによつて人類社会を破壊してしまう行為能力があるということをあなたがたすべてが知つていることに由来するものである。もし,われわれが核の脅威を軽減することによつて,この緊張を緩和することができるならば,われわれは,世界をより安全な場所にするだけではなく,世界により良い生活をもたらすため,建設的な行動に専念する自由を持つことになるであろう。

われわれは,目標に向かつていくらかの前進を遂げた。しかし,率直に言つて,われわれはまた,SALT交渉及びわれわれのより全般的関係について,ソ連側からいくつかの否定的コメントを聞いている。もしこれらのコメントがわれわれの動機についてのソ連側の誤解によるものであるならば,われわれは動機を明確にするための努力を倍加するであろう。しかし,もしソ連が単にわれわれに圧力をかけるための宣伝としてコメントしているだけであるならば,われわれは屈することなくやり抜くであろうということを何人も疑うべきでない。

究極的に問題となるのは,われわれが双方の国益に根ざした協力関係を創造することができるかどうかである。われわれは,常に変化する世界に順応するようにわれわれ自身の政策を立案する。そしてわれわれは,ソ連がわれわれと同様のことをするよう希望する。われわれは共に,この変化に積極的方向を与えることができる。

米国とソ連との間の貿易の増大は,われわれ双方の助けになるであろう。米ソ合同通商委員会は,長い中断の後,会合を再開した。私は,貿易拡大に向かつての前進を可能とするであろう条件がつくり出され得ることを期待している。

アフリカ南部においてわれわれは,ソ連とキューバの自制を要求してきた。非同盟世界を通じて,われわれの目標は,紛争を助長したり非同盟世界を対立するイデオロギー陣営に再分割することではなく,独立し経済的に自立した国々の範囲を拡げ,新しい種類の征服の企てに反対することである。

ソ連指導者たちの最近の態度の幾分かは,われわれの人権に対する関心が特別に彼らに向けられたものであり,あるいは彼らのきわめて重大な利害に対する攻撃であるという彼らの明白な-しかも誤つた-所信に基づいたものであるのかもしれない。

われわれの人権に対するコミットメントには隠された意図は何もない。

われわれは,人権問題についてわれわれが述べてきたことをあくまで主張し続ける。われわれの政策は,全くその額面通りであり,それはわれわれ国民としての深い信念の積極的かつ誠実な表明そのものである。それは,世界のどんな特定の人々あるいは地域に対しても向けられたものではなく,われわれ自身の国をも含めすべての国に同じように向けられたものである。そして,それは特に,兵器競争を激化したり或は冷戦に逆戻りすることを意図したものではない。

それどころか,平和的協力の雰囲気は,交戦,憎悪,あるいは好戦的対決の雰囲気よりも一段と人権尊重の強化に役立つと私は信ずる。過去1世紀におけるわれわれ自身の経験がそれを繰り返し証明している。

われわれは,その過程が短いとか変化が容易に起こるとかいつた幻想を持つてはいない。しかし,もしわれわれがその努力を放棄しないならば,個人の自由と人間の尊厳の主張が世界のすべての国において高められるであろうとわれわれは確信している。われわれは,それを実行しようとしている。

この6ヵ月間に,われわれは,米国人の基本的信念を表明すると同時に,東西対立の永続的な解決策を得るというわれわれの決意を明らかにしてきた。たとえ,敵意と分裂ではなく,平和と協力を強調するこの機会が今後去つてしまうことがあつたとしても,それはわれわれが,そうする道を選んだためではないであろう。

われわれは,常に現実主義を原則に結びつけなければならない。われわれの行動は,われわれ自身の社会が依拠している基本的価値観に忠実でなければならない。なぜならば,その価値観に対するわれわれの信頼は,この関係がより建設的方向に発展するであろうというわれわれの確信の源泉だからである。

私は,われわれの努力のすべてが成功するかどうか予測することはできない。しかし,私に希望を与えるものがいくつかある。私は,終わりに臨んでそれらを極く簡単に述べてみたい。

私が今立つているこの場所は,米国の最も古い都市の一つである。それは,米国人のすべてが誇りに思う文化と都市の魅力をもつた美しい町である。それはちようど,ソ連人がトビリシやノブゴロドといつた古都を正当な誇りにしているのと同様である。彼らは,それらをチャールストンのあなたがたのように愛情をもつて保存し,栄光に満ちた歴史的過去の単なる残骸以上のものにする新たな生命をこれらの都市に吹き込んでいる。

われわれの価値観と理念には深い相違があるが,われわれ米国人とソ連人は,何百年もの昔にその起源を持つ同じ文明に属している。

われわれの間のすべての不一致を越えたところには,そしてまたわれわれ両国が交渉の場に持ち出す相互の私利の冷静な打算を越えたところには,われわれをもつと親密にするにちがいない目に見えない人間の現実がある。私が言わんとするのは,われわれすべての骨にまでしみ込んでいる平和-本当の平和-を熱望する心情である。

私は,戦争でひどい損害をこうむつたことのあるソ連人がこの平和を熱望する心情を持つているものと確信している。そして,この点では,彼らは米国人と一体である。その口に出されない熱望を単なる夢以上のものにするように仕向けることは,われわれすべての責任である。そして,その責任は,あなたがたのような人々に非常に大きくかかつていることはもちろんであるが,特にブレジネフ書記長や私のように現代兵器によつて恐ろしい力を授けられている者にかかつている。

ブレジネフ書記長は,最近非常に興味深いことを言つたが,私は,彼の言葉を引用することにする。「政治における現実主義,それから緊張緩和と進歩への意志は,究極的には勝利を収めるであろう。そして,人類は,かつて存在したことのないような安定した平和の状態において21世紀を迎えることができるであろう。」

私は,その中に隠された意味はないと思う。私は,その誠実さを信頼する。そして私は,ブレジネフ書記長が表明したのと同じ希望と信念を表明する。すべての困難,すべての紛争にもかかわらず,私は,われわれの地球は,最後には聖書の次の教えに従うにちがいないと信じている。「平和に役立つものすべてを求めよ。」御清聴ありがとう。

[注] 大統領は,午後3時8分にゲイラード市公会堂で演説し,演説の冒頭で会議の議長であるジョン・T・ブラッグ・テネシー州下院議員に言及した。

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(9) ソ連邦沿岸に接続する太平洋及び北氷洋水域における生物資源の保存及び漁業規制に関する暫定措置の実施に関するソ連邦大臣会議決定(仮訳)

(1977年2月24日,モスクワ)

ソ 連 邦 大 臣 会 議 決 定

1977年2月24日ソ連邦大臣会議は,「ソ連邦沿岸に接続する太平洋及び北氷洋水域における生物資源の保存及び漁業規制に関する暫定措置の実施に関する」決定を採択した。

同決定においては,1976年12月10日付「ソ連邦沿岸に接続する水域における生物資源の保存及び漁業規制に関する暫定措置に関する」ソ連邦最高会議幹部会令第6条に従い,同会令に規定されている措置は,ソ連邦に属する諸島周辺の水域を含め,ソ連邦の領海の基線から幅200海里までに至る,べーリング海,オホーツク海,日本海,チュコトカ海,太平洋及び北氷洋のソ連邦沿岸に接続する水域において,1977年3月1日から実施されると指摘されている。

ソ連邦大臣会議の決定においては,ソ連邦沿岸と隣接諸国沿岸との間の距離が400海里以下の前記水域の部分で,1976年12月10日付ソ連邦最高会議幹部会令に基づく暫定措置の効力の及ぶ水域を限定する線となるのは次のとおりである旨規定されている。べーリング海及びチュコトカ海,及び北氷洋では1867年4月18日(30日)付露米条約で設定された線;太平洋,クリール諸島南グループ水域では右諸島及び日本領土からの同等距離の線;ソヴィエト海峡及びクナシリ海峡ではソ連邦国境;オホーツク海及び日本海では中央線またはソ連邦沿岸及び隣接諸国沿岸からの同等距離の線である。

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