-日本政府が関与した主要な共同コミュニケ等-
4. 日本政府が関与した主要な共同コミュニケ等
(1) フェノレディナンド・E・マルコス・フィリピン共和国大統領夫妻の訪日に際しての共同コミュニケ(仮訳)
(1977年4月28日,東京)
1. フィリピン共和国大統領フェルディナンド・E・マルコス閣下及びイメルダ・ロムアルデス・マルコス夫人は,1977年4月25日から28日まで,日本国を公式訪問した。マルコス大統領夫妻には,外務長官カルロス・P・ロムロ閣下ほか政府の高官が随行した。
2. マルコス大統領夫妻は,4月25日,天皇・皇后両陛下と会見した。
3. 4月26日及び27日,マルコス大統領及び福田総理大臣は,両国が共通の関心を有する国際的,地域的な幅広い諸問題ならびに二国間に存在する諸問題について意見交換を行つた。両首脳会談は,フィリピン側よりマルコス夫人,ロムロ外務長官,日本側より鳩山外務大臣,園田官房長官が出席し,親密かつ友好的な雰囲気の中で行われた。
4. 会談において,大統領と総理大臣は,現在の国際情勢の下ではすべての国家が相互依存の関係にたつているとの認識を再確認し,各国が世界の平和と繁栄という共通の目標に向つて世界全体の協力を続けることが肝要である旨強調した。両首脳は,アジアにおける平和と安定ならびに同地域の繁栄が世界平和の維持にとつて極めて重要であることを再確認するとともに,両国政府がかかる共通の目的を達成するために協力して建設的努力を行うとの決意を表明した。
5. 大統領と総理大臣は,国際連合が国際平和の維持及び国際協力の促進に果たしてきた重要な役割に注目し,両国政府が国際連合及びその他の国際的な場において引き続き協力を行うことが重要であることを再確認した。
6. 大統領と総理大臣は,南北関係における諸問題の解決を見出すことが国際社会にとつて極めて重要であることを確認した。
両首脳は,建設的な南北間の対話を促進するためにあらゆる努力を行うとの両政府の決意を表明した。総理大臣は,国連貿易開発会議及びその他の国際的な場においてフィリピンが果たしている重要な役割を評価し,また,これとの関連で大統領は共通基金の設立に対する支持を得るためにフィリピンが払つている努力を説明した。総理大臣は,更に日本は他の諸国と密接に協力しつつ,貿易,一次産品等の分野における効果的かつ実際的措置を真剣に追求し,国際的合意が得られたものについて着実に実施に移すよう努力するとの意向を表明した。
両首脳は,特に開発途上国が関心を有する一次産品の国際貿易の安定的条件を,過度の価格変動の防止を含め,生産者にとつては採算がとれかつ正当で,消費者にとつては公平なレベルにおいて実現させ,かつそれにより開発途上国の輸出収入の安定化を助けるための国際的な協力を増進することが必要であることを確認した。
総理大臣は,日本政府が開発途上国に対する政府開発援助の拡大と改善のため引き続き努力を行う旨述べた。大統領はこれらの措置について感謝の意を表明した。
7.両首脳はガット東京閣僚宣言を想起しつつ,貿易障害の除去及び世界貿易のための国際的枠組の改善を含む各種の方法により,世界貿易の継続的な拡大及び自由化を達成する必要があることで合意した。
8. 総理大臣は,大統領に対して,日本の外交政策の柱の1つは,ASEAN諸国との関係の強化であることを確言した。この関連において,総理大臣は,日本政府がASEAN諸国の自主性ならびに国としてまた地域としての強靱性を高めようとする努力を支持するための協力を行う用意がある旨を再確認した。大統領と総理大臣は,ASEANと日本の関係を双方にとつて有益な形で強化するために,ASEAN・日本フォーラムが設立されたことに満足の意を表明した。大統領は,ASEANの一加盟国としてのフィリピンを代表して,総理大臣に対して,ASEANの域内産業協力に対する日本の積極的態度につき謝意を表明した。
総理大臣は,ASEAN諸国が東南アジアの他の諸国の間に実りある関係と互恵的な協力を発展させる用意があることを歓迎し,このことは東南アジア全体の平和,安定及び発展に貢献するであろうと述べた。
9. 大統領と総理大臣は両国が地理的に近接していることならびに両国経済の補完的性格からして,平等と互恵に基づく両国の間の一層緊密な関係が必要である旨を認識した。
10. 両国政府首脳は,特に過去5年の間フィリピンの諸産業プロジェクトに対する日本の民間直接投資の流れが明らかに増大していることに示されているように両国間で進展している企業間の協調と協力に対し満足の意を表した。両首脳は,フィリピン政府によつて示された優先分野に配慮しつつ,相互協力を通じて,かかる傾向が継続されるようにとの希望を表明した。
大統領は,また,これら投資が,公正な諸条件の下で原材料の加工度及び適切な技術の流れを増大させる方法で行われるよう希望した。
11. 両首脳は,両国間に存在する友好・協力関係を一層発展させるためには,両国の経済関係を安定した基礎の上において維持し強化することが不可欠であるとの共通の認識に至つた。よつて,大統領と総理大臣は両国政府が友好通商航海条約の交渉を再開することを合意した。両首脳は,また,両国政府が次回交渉を1977年6月に行うことに合意した。
大統領と総理大臣は,さらに,両国間の経済関係を増進するために租税条約の交渉を再開することに合意した。
12. 大統領と総理大臣は,両国間の貿易の着実かつ大幅な拡大に満足の意をもつて留意した。
両国間の貿易の最近の傾向に鑑み,両首脳は相互の努力により,日本の輸入需要に見合つたフィリピン産品の輸入を促進することの重要性を認識した。
13. 総理大臣は,フィリピンの「新社会」における政治,経済及び社会の安定の確立の進展に大きな感銘を受けた。
14. 大統領と総理大臣は,両国が友好関係を拡大しつつある事実に満足の意を表し,フィリピンと日本の間の緊密な結びつきを一層強化することに合意した。
大統領は,日本がフィリピンに対し供与して来た大量の経済・技術援助,特に日比友好道路の建設を通じる協力を評価した。
両首脳は,両国間の経済協力を一層拡大するための方途を話し合つた。総理大臣は,日本政府がフィリピンの発展と繁栄のため引き続き協力する用意があることを表明した。
両首脳は日本のフィリピンに対する賠償の支払いが1976年7月に完了したことに満足の意をもつて留意した。
15. 大統領と総理大臣は,フィリピンの農業及び漁業の一層の発展と近代化並びにフィリピンの森林の保護の面で可能な協力の方途について話し合つた。
16. 大統領は,総理大臣に対しフィリピンの将来の産業発展の基礎を築くために建設される予定のいくつかの大型産業プロジェクトについて説明し,これらプロジェクトの実現のため日本からの技術的及び資金的協力を求めた。総理大臣は,日本は大統領のかかる要請に対し慎重に検討する旨述べた。
17. 両首脳は,観光分野での協力は両国の観光産業の振興に役立つものであることに留意した。両首脳は,またフィリピンの観光産業の可能性を十分開発するための共同の努力を促進することに合意した。
18. 大統領と総理大臣は,両国が共通に関心を有する国際的,地域的及び二国間の政治,経済問題について,しかるべきレベルで非公式な意見の交換を行うことが望ましいことで意見の一致をみた。
19. 両首脳は,文化交流がフィリピン及び日本の両国民間の相互理解を促進する上で重要な役割を果していることに満足の意をもつて留意した。両首脳は,今後ともあらゆる分野における両国民間の接触を増大し交流を拡大すべく努力する旨を再確認した。
20. 大統領と総理大臣は,大統領の日本訪問がフィリピン及び日本の両国間の相互理解と友好関係の促進に大きく寄与したことに深い満足の意を表明した。
21. 大統領は,日本国政府及び日本国民より,大統領と大統領夫人,そして大統領一行とに対して示された暖かいもてなしと惜しみない歓迎とを多とし,深甚なる感謝の意を表明した。
大統領は,総理大臣が都合の良い時期にフィリピンを訪問するよう招待した。総理大臣は,深い感謝の意をもつて招待を受諾した。
(2) 日本国総理大臣とASEAN首脳との会談共同声明(仮訳)
(1977年8月7日,クアラ・ルンプール)
1. 福田赴夫日本国総理大臣は,ASEAN首脳の招請に応じて,1977年8月7日,ASEAN首脳会議の終了後クアラ・ルンプールにおいてASEAN首脳と会談した。日本国総理大臣との会談には,スハルト・インドネシア共和国大統領,フセイン・オン・マレイシア首相,フェルディナンド・マルコス・フィリピン共和国大統領,リー・クワソ・ユー・シンガポール共和国首相,及びターニン・タイ国首相が出席した。
2. 日本国総理大臣には,鳩山外務大臣,園田内閣官房長官・国務大臣,田中通産大臣が随伴した。
ASEAN首脳には左記の者が随伴した。
インドネシア | アダム・マリク外務大臣,ウィジョヨ・ニティサストロ経済・財政・工業担当国務大臣兼国家開発企画庁長官,ラディウス・プラウィロ商業大臣,ユスフ工業大臣,スダルモノ国家官房長官・国務大臣。 | |
マレイシア | アハマド・リタウディン外務大臣,ハムザ・アブ・サマ貿易・産業大臣,マニカバサガム通信大臣,アリ・アハマド農務大臣,ムサ・ヒタム第一次産業大臣,ラザレイ・ハムザ大蔵大臣。 | |
フィリピン | カルロス・ロムロ外務長官,セサール・ヴィラタ大蔵長官,ジェラルド・シカット国家経済開発長官,ヴィセンテ・パテルノ産業長官,トロアディオ・キアソン通商長官。 | |
シンガポール | ラジャラトナム外務大臣,ホン・スイ・セン大蔵大臣,リー・ターン・チョイ外務担当国務大臣。 | |
タ イ | ウパディット・パチャリャンクン外務大臣,スティー・ナートウォラタット商務大臣。 |
会談は,日本とASEAN諸国との間の伝統的に緊密な結びつきを反映した友好的で誠意のある雰囲気の中で行われた。
3. 日本国総理大臣は,ASEANの進展と業績,特に1976年2月のバリにおけるASEAN首脳会議以来の進展と業績について説明を受けた。総理大臣は,また,クアラ・ルンプールでのASEAN首脳会議の結果について説明を受けた。ASEANはこの地域の経済成長,社会的進歩及び文化的発展を促進することを目的として創立されたものであることが強調された。ASEAN創立以後の年月において達成された重要な業績及び今回行われたASEAN首脳会議の結果は,東南アジアの安定と進歩に貢献する自主的な地域連合としてのASEANの生育力と活力を積極的に示すものであることが認識された。
4. 日本国総理大臣は,東南アジアにおける平和,進歩,繁栄及び安定を確保するためにASEANが果たしている役割,特に,バリにおけるASEAN首脳会議で採択された行動計画に沿つた地域協力を強化するためにASEANがとつた積極的な諸措置に対する評価の意を表明した。
日本国総理大臣は,今回のクアラ・ルンプールにおけるASEAN首脳会議において達成された具体的な成果について,ASEAN首脳に祝意を表明した。
日本国総理大臣は,ASEANの域内経済協力計画を援助し,また日本とASEANとの間の相互依存関係をさらに強化したいとの日本の希望を表明した。
5. 日本のASEANとの協力状況が討議された。日本国総理大臣及びASEAN首脳は,日本とASEAN各国との間に緊密かつ友好的な二国間関係がすでに存在していることを認識し,日本・ASEAN間でも具体的な進歩が達成されたことに留意した。特に,1973年11月に設立された合成ゴムに関する日本・ASEANフォーラムが,ASEANのタイヤ試験開発研究所の設立及びゴム研究センターの強化に対する資金援助を含め,ゴム問題に関する日本とASEANとの間の協力の改善につき注目すべき成果を生んだことに言及がなされた。
さらに,定期的に協力措置の策定,検討及び勧告を行うため,日本・ASEAN間の対話が1977年3月の日本・ASEANフォーラムの創設により公式化され拡大されたことが留意された。
6. 日本国総理大臣及びASEAN首脳は,日本とASEANとの間の協力が拡大されるべきであること,及び日本のASEANに対する協力が,ASEANの経済的強靱性を高めその連帯性をさらに強固にすることを目的とする自立をめざすASEAN自身の努力に貢献するようなやり方で行われるべきであることに意見の一致をみた。双方は,このような協力を通じ,パートナーシップの精神をもつて,日本とASEAN諸国との間に特別かつ緊密な経済関係を発展させることに意見の一致をみた。
7. 日本国総理大臣及びASEAN首脳は,日本とASEANとの間の貿易を着実に拡大させる必要性を認識し,貿易が双方の利益のため引き続き一層発展するようとの希望を表明した。ASEAN首脳は,ASEANから輸出される製品,半製品及び一次産品の日本市場へのアクセス改善について日本の協力を要請した。日本国総理大臣は,関税及び非関税障壁の撤廃ないし軽減に関するASEAN側の要望をMTNの枠内でさらに検討すること,日本の一般特恵制度を改善すること,及び同制度の下でASEAN累積原産地規則を導入することを含む諸措置を通じ,ASEANの対日輸出増大努力を容易にする用意があることを明らかにした。
日本国総理大臣は,また,ASEAN貿易観光常設展示場の東京設置を含む措置を通じ,ASEAN産品の対日輸出促進のためのASEAN諸国の努力に協力する用意があることを確認した。
8. 日本国総理大臣及びASEAN首脳は,ASEANの現在の対日輸出品目が主として一次産品からなることに留意し,価格安定化措置及びIMF補償融資制度の重要な補完的措置として,ASEAN一次産品の輸出所得を安定させるため,STABEX(輸出所得安定化)制度の線に沿つた制度の設立を討議した。日本国総理大臣は,輸出所得安定化制度を設立したいとのASEANの要望に理解を示し,一次産品輸出所得安定化に関する種種の問題についてASEAN側と共同検討を行うことに同意した。
9. 日本国総理大臣は,ASEAN産業プロジェクト実現のため日本が援助を供与する用意がある旨を確認した。この点に関して,日本は,ASEAN各国における一つのASEAN産業プロジェクトに対し,各プロジェクトがASEANプロジェクトとして確定され,かつ,そのフィージビリティが確認されることを条件として,種々の形での資金援助を行うことに同意した。
日本国総理大臣は,かかる援助を供与するにあたつて,総額10億米ドルの要請を好意的に考慮する旨述べた。かかる援助は,これらプロジェクトの性格と要請に応じ,できる限りコンセッショナルな条件で供与されることになろう。日本国総理大臣は,日本のASEAN各国との二国間協力がそれによつて影響を受けない旨保証した。日本国総理大臣は,さらに,日本政府は,具体的要請に基づき,これらプロジェクトを実現していく過程で必要となりうる種々の形の技術援助を供与することを考慮する用意がある旨述べた。
10. ASEAN首脳は,ASEANの経済及び社会開発努力を補完する上で日本の経済技術協力が果している役割につき,満足の意を表明した。日本国総理大臣は,今後5年間に政府開発援助を2倍以上に増大するとの日本の意図を再確認した。この点に関して,日本国総理大臣は,この援助増大の過程において,ASEAN諸国との協力に,より大きな重点が置かれるであろう旨述べた。
11. ASEAN首脳は,特にASEAN諸国に設立されることがより適切な産業の分野,なかんずく労働集約的な分野及びASEANの原材料及び部品に大きく依存する分野において,ASEANにおける産業開発の促進及び多様化に貢献するため日本の民間部門による投資が継続され増強されることの重要性を強調した。
日本国総理大臣は,かかるASEAN側の見解を十分勘案し,日本の民間部門が投資と技術移転を通じてASEANの開発に積極的に参加するよう勧奨する意向である旨を表明した。これとの関係で,ASEAN首脳は,ASEAN諸国が外国民間投資を促進するための措置を引き続きとる旨述べた。
12. 日本国総理大臣及びASEAN首脳は,国際経済協力のための環境の改善に引き続き関心を有する旨を表明した。特に,双方は,1977年5月の国際経済協力会議の最終会期及び他の国際会議の場で明らかにされた主要問題,特に開発途上国の問題の解決を達成することの重要性を強調した。双方は,一次産品総合プログラムの種々の要素を含む南北問題について緊急に積極的な措置がとられるべきことに意見の一致をみた。また,日本国総理大臣及びASEAN首脳は,国際経済協力会議で一次産品政策に関し到達した合意が早急に実施されるべきである旨を強調した。これに関し,双方は,共通基金を迅速に設立する必要性を特に強調し,この目的を達成するために日本及びASEANが緊密に協力することに合意した。日本国総理大臣は,ASEAN産品をカバーする既存の国際商品協定に日本が積極的かつ前向きに参加すること及びASEANが関心を有する産品をカバーするその他の商品協定の早期妥結のため最大の努力を払うことを確認した。
この確認の精神に基づき,日本国総理大臣は,日本が国際すず協定の緩衝在庫に対する任意拠出に向けて必要な措置を積極的に検討する旨を明らかにし,また,生産国及び消費国双方にとり受け入れ可能な国際ゴム価格安定協定の早期妥結のため協力する用意があることを明らかにした。
ASEAN首脳は,これらの積極的な姿勢を歓迎した。
13. 日本国総理大臣及びASEAN首脳は,ASEAN,他の開発途上国及び日本の経済に悪影響を与えてきた先進国における保護貿易主義の傾向の拡まりを憂慮の念をもつて考察した。これに関連し,日本国総理大臣及びASEAN首脳は,ASEAN,他の開発途上国及び日本の経済を含む世界経済の安定的発展を確保するため,このような保護貿易主義を除去し,自由な国際貿易を発展させる緊急な必要性があることに意見の一致を見た。双方は,また,先進国からASEAN諸国への投資の流入を拡大することの重要性についても意見の一致をみた。
14. 日本国総理大臣及びASEAN首脳は,文化的及び社会的分野での協力関係を強化する問題を検討した。この点に関し,双方は,日本とASEANの国民の間の相互理解を改善し,かつASEANと日本の結びつきを強化するため,両国民間の交流と接触を容易にすることに合意した。さらに,日本国総理大臣は,ASEAN内の文化協力を促進するためのASEANの努力と関連して必要とされる協力の種類を決定するため,共同研究が行われるよう提案した。日本国総理大臣は,また,右研究の結果を勘案して,応分の資金協力を含め,このような努力に対し日本が貢献する用意があることを述べた。ASEAN首脳は,この提案を歓迎し,双方は,この目的のために合同研究グループを設立することに合意した。
15. 日本国総理大臣及びASEAN首脳は,今回の討議が日本とASEAN諸国との間の増大しつつある相互依存関係の認識に立脚した両者の間の協力と理解の新時代の幕あけとなつたことに満足の意を表明した。双方は,ASEANと日本との間のより緊密な協力がアジアの平和と安定の維持に実質的に貢献するであろうとの確信を表明した。
16. 双方は,日本・ASEAN間の協力は物質的な交流に限定されるべきではなく,相互の信頼と理解の永続的な基盤の構築を目指すものでなければならないことに意見の一致をみた。日本国総理大臣は,ASEAN首脳に対し,日本は自立と連帯性を達成しようとのASEANの努力を支持する旨を保証した。ASEAN首脳は,日本とASEANとの間には特別に親密な友人としての関係が存在することを認め,かかる保証を歓迎した。
日本国総理大臣は,平和に徹し軍事大国とならないと誓つている日本の立場と,そのような立場から,アジアにおける安定勢力としてまた世界における経済的に重要な国として,世界の平和と繁栄に寄与したいとの日本の決意を説明した。ASEAN首脳は,日本の立場と決意に対する理解と感銘の念を表明した。
17. 日本国総理大臣及びASEAN首脳は,現下の情勢は東南アジア諸国に対し,政治,経済及び社会の体制の相違にもかかわらず,対話の強化及び同地域の国民の福祉を増進したいとのすべての国の共通の願望を通じて長期的な平和と安定を達成するため,新たな関係を形成する機会を提供している旨を述べた。双方は,これらの目的達成のため一層の努力を傾注するとの決意を再確認した。
18. 日本国総理大臣及びASEAN首脳は,今回の会合が双方にとり極めて有益かつ有用であつたことを認め,日本国総理大臣が引続きASEAN各国を歴訪する際に予定されている二国間の討議を通じ,今回の討議の成果がさらに固められかつ補完されるようにとの希望を表明した。双方は,今回の会合を日本とASEANとの間の協力促進に対する最高レベルでの関心を示すものであるとみなした。日本国総理大臣及びASEAN首脳は,日本とASEAN諸国との間の接触及び協議が,日本・ASEANフォーラム及び外交チャネルを通じ,一層拡大されるべきであることに意見の一致をみた。
19. 日本国総理大臣は,ASEAN首脳に対し,今回の会合への招待を感謝し,他方ASEAN首脳は,日本国総理大臣が招待を受諾したことに対し謝意を表明した。
今回の会合は,日本とASEANが政府首脳レベルで一堂に会した最初の機会であつた。日本国総理大臣とASEAN5首脳は,この歴史的な会合が日本とこれら5カ国とを結びつけてきた強く,友好的な絆の一層の強化に極めて貴重なものであつたことにつき意見の一致を見た。六カ国首脳のすべては,最も高いレベルでのこの会合が,日本とASEANとの間の協力を更に強めたいとの彼らの願望を示すものであることにつき意見の一致をみた。
20. 日本国総理大臣は,マレイシアの国民と政府が日本国総理大臣及び代表団に示された暖い歓迎と今回の会談のためのゆきとどいた準備に対して心からの謝意を表明した。
(3) 福田総理大臣のASEAN5カ国及びビルマ訪問関連文書
(イ) 福田総理大臣のマレイシア訪問に際してのプレス・リリース(仮訳抜粋)
(1977年8月10日,クアラ・ルンプール)
1. 福田赳夫日本国総理大臣は,1977年8月6日,7日の両日,クアラ・ルンプールにおいて行われたASEAN首脳との会談に臨んだ後,引続きフセイン・オン・マレイシア首相閣下の招待により,夫人とともに1977年8月9日及び10日マレイシアを公式訪問した。福田総理大臣夫妻には鳩山威一郎外務大臣,園田直内閣官房長官,田中龍夫通商産業大臣の他政府の高官が随行した。
2. 福田総理大臣夫妻は,8月10日マレイシア国王・王妃両陛下に拝謁を賜った。
3. 福田総理大臣は,同日フセイン・オン首相と会談し,両国が共通の関心を有する国際的,地域的な幅広い諸問題及び二国間に存在する諸問題について意見交換を行つた。この首脳会談には日本側より鳩山外務大臣,園田官房長官,田中通商産業大臣,マレイシア側よりアハマド・リタウディン外務大臣,ハムザ・アブ・サマ貿易・産業大臣,ムサ・ヒタム第一次産業大臣,ラザレイ・ハムザ大蔵大臣,チョン・ホン・ニヤン総理府無任所大臣,モハール首相特別経済顧問が出席した。
4. 福田総理大臣は,今回の訪問によつて,日本とマレイシアとの間に存在する友誼と相互信頼との関係を改めて確認し得たことを喜ぶとともに,このような両国間の友好関係を更に揺ぎないものとするために,日本国政府が,マレイシア政府と政治,経済,文化等あらゆる分野にわたつて一層緊密な協力を行つてゆく用意があることを明らかにした。
5. 福田総理大臣は,フセイン・オン首相より第3次マレイシア計画の概要と同計画の進捗振りにつき説明を受けた。総理大臣は,マレイシアの開発努力を高く評価するとともに,日本としてもマレイシアの進歩と繁栄のために引き続き協力を行う用意があることを明らかにした。
6. 総理大臣は,今後とも,日本からマレイシアに対する民間直接投資が,マレイシアの経済・社会の発展に見合つた形で,促進されることを期待した。
7. 総理大臣は,近年,日本とマレイシアとの貿易が増大し,特に昨年マレイシアから日本への輸出が著しい伸びを示したことを歓迎するとともに,今後とも両国間の健全な貿易関係が拡大してゆくことを望んだ。
8. 福田総理大臣は,日本とマレイシア両国経済人の間の恒常的な意志疎通の場として日・マ経済委員会が8月3日設立の運びとなつたことを高く評価するとともに,同委員会を通じ,今後両国経済界の関係が一層緊密なものになることを希望した。
9. 福田総理大臣は,近年のように日本とマレイシアとの経済関係が緊密になればなるほど,両国関係を更に幅広い基盤の上に築くためのあらゆるレベルでの両国国民間の交流が愈々重要になつてきているという認識の下に,日本国政府としては,今後ともマレイシア政府との協力により,人的,文化的交流を促進するとともに,民間における友好親善のための努力を支援することを明らかにした。
10. 福田総理大臣は,フセイン・オン首相に対し,夫人とともに来る9月後半に日本を公式に訪問するようにとの招待を行い,フセイン首相は,この招待を喜んで受諾する旨述べた。
(ロ) ビルマ連邦社会主義共和国と日本国との間の共同コミュニケ(仮訳)
(1977年8月11日,ラングーン)
1. 日本国総理大臣福田赳夫閣下夫妻は,ビルマ連邦社会主義共和国大統領ネ・ウイン閣下及び同国首相マウン・マウン・カ閣下の招待により,1977年8月10日から12日まで,ビルマ連邦社会主義共和国を公式訪問した。
総理大臣には,外務大臣鳩山威一郎閣下,官房長官園田直閣下,通商産業大臣田中龍夫閣下ほか政府高官が随行した。
2.(1) 福田総理大臣は,8月10日,ネ・ウイン大統領を往訪し,親密且つ友好的な雰囲気のもとで会談を行つた。会談において,両首脳は,両国間に存在する友誼と相互信頼の関係を再確認すると共に,両国が相互に関心を有する諸問題及び現下の国際情勢について意見を交換した。会談にはビルマ側から,国家評議会書記サン・ユ大将,タウン・チイ国家評議会委員,マウン・マウン・カ首相及びフラ・ポン外務大臣が同席した。
(2) 福田総理大臣は,更に8月11日,マウン・マウン・カ首相と会談を行い,双方が共通に関心を有する諸問題について話し合つた。会談では,主として二国間の問題がとりあげられた。
会談には,ビルマ側からは,チイ・マウン保健・情報大臣,フラ・ポン外務大臣,イエ・ガウン農林大臣,マウン・チョウ第2工業大臣,フラ・エイ貿易大臣,ティン・スエ第1工業大臣,タン・セイン計画・財務大臣ほか政府高官が出席した。
(3) なお,上記の二つの会談には,日本側から鳩山外務大臣,園田官房長官,田中通商産業大臣ほか政府高官が同席した。
3. 会談において,両国首脳は,今日の世界では,すべての国々が増々相互依存の関係に立ちつつあることをあらためて認識するとともに,各国が,相互に協力しつつ,恒久の平和と繁栄という共通の目標に向つて,引き続き努力を払つてゆくことが肝要であるということについて,意見の一致をみた。
4. 両首脳は,最近の国際情勢,就中,アジア情勢について率直な意見交換を行った。双方は,平和,安定及び繁栄が,世界の平和の維持に不可欠であることに留意するとともに,アジアのすべての国が協調と連帯の精神にのつとり,また,領土保全,政治的独立の尊重及び内政の不干渉に基づいて相和して努力して行くことが,平和で豊かなアジアの建設のために重要である旨を再確認した。
5. 福田総理大臣は,ネ・ウイン大統領及びマウン・マウン・カ首相との会談において,東南アジア諸国との間に協調と連帯の精神に基づいて,親しい隣人関係を築いてゆくことが日本の外交の基本的目標の一つである旨を表明した。総理大臣は,また,日本が,ビルマ及びその他の東南アジア諸国の開発のための自主的な努力に対し,可能な限り寄与してゆくことを基本的方針としていることを,確認した。
6. 福田総理大臣は,先般のASEAN諸国首脳との話し合いについて説明するとともに,日本としては,ASEAN諸国の自主独立の精神ならびにこれら諸国の域内調和の促進強化と,地域の発展の達成に向けられた積極的努力を高く評価している旨述べた。
7. 福田総理大臣は,ビルマ政府及び国民が国家建設のため不断の努力を継続していることに敬意を表すると共に,その成功を祈念した。この関連において総理大臣は,日本国政府がビルマの発展と繁栄のために,引続き積極的な協力を行つてゆく旨を確認した。
8. ビルマの指導者は,日本が,ビルマ及びその他の東南アジア諸国の発展への努力の実現のために,可能な限り寄与してゆきたいとの基本政策を彼らに伝えた福田総理大臣の友好的な配慮を多とした。
9. 両国首脳は,日緬両国間において,その伝統的友好関係が,相互協力及び互恵の原則に基づき,多くの分野において着実且つ円滑な進展を遂げてきたことに,満足の意を表明した。双方は,これまで日本からビルマ側に供与された経済・技術協力が,ビルマの社会・経済の発展に寄与したことに満足の意を表するとともに,貿易関係の面においても,両国の関係の一層の拡大が望まれることについて,合意をみた。双方は,また両国間の友好協力関係が,今後,相互に関心のある全ての分野において強化拡大されることが望ましいと述べた。
10. 両国首脳は,今回の福田総理大臣夫妻のビルマ連邦社会主義共和国訪問が,すでに存在する両国間の友好・協力関係の一層の増進に大きく寄与したことに満足の意を表明するとともに,今後とも両国の首脳間の個人的接触が一層深められることを強く希望した。
11.(1) 福田総理大臣は,ビルマ滞在中に,同総理大臣夫妻及び随員一行がビルマ側から受けた暖かい歓迎と厚遇について,ネ・ウイン大統領閣下及びマウン・マウン・カ首相閣下,並びにビルマ政府及び国民に対し深甚なる感謝の意を表明した。
(2) 福田総理大臣は,双方にとり都合のよい時期に,ネ・ウイン大統領閣下及びマウン・マウン・カ首相閣下が日本を訪問するよう招請し,同大統領及び同首相は,この招待を,深甚なる謝意をもつて受諾した。
(ハ) 福田総理大臣のインドネシア訪問に際してのプレス・リリース(仮訳 抜粋)
(1977年8月13日,ジャカルタ)
1. 福田赳夫日本国総理大臣は,スハルト・インドネシア共和国大統領閣下夫妻の招待により,夫人とともに1977年8月12日から14日まで,インドネシア共和国を公式訪問した。福田総理大臣夫妻には,鳩山威一郎外務大臣,園田直内閣官房長官,田中龍夫通商産業大臣の他政府の高官が随行した。
2. 福田総理大臣は,8月13日スハルト大統領と会談し,両友好国が共通の関心を有する国際的,地域的な幅広い諸問題及び二国間に存在する諸問題について意見交換を行つた。この首脳会談には,日本側より鳩山外務大臣,園田内閣官房長官,田中通商産業大臣,インドネシア側よりマリク外務大臣,ウィジョヨ経済・財政・工業担当国務大臣,ラディウス商業大臣,ユスフ工業大臣,トイブ農業大臣及びスダルモノ国家官房長官が出席した。
3. 福田総理大臣は,今回の訪問によつて,日本とインドネシアとの間に存在する友好関係が,歴史的・地理的・文化的要因に深く根ざしたものであることを改めて認識し得たことを喜ぶとともに,このような両国間の友好関係を更に揺ぎないものとするために,日本国政府がインドネシア共和国政府と,政治,経済,文化等あるゆる分野にわたつて一層緊密な協力を行つてゆく用意があることを明らかにした。
4. 福田総理大臣は,インドネシアの経済・社会開発への努力を高く評価するとともに,日本国政府としては,かかる努力に対し,引き続き協力してゆく意向であるとの考えを再確認した。
5. 福田総理大臣は,両国間の大型協力プロジェクトたるアサハン・アルミ・プロジェクトが順調に建設段階に入りつつあることを評価するとともに,今後とも同プロジェクトが両国間の緊密な協力によつて円滑に進捗してゆくことを希望した。総理大臣は,また,両国間の協力の下に実現されたLNGプロジェクトが,幾多の困難を克服して,今般,そのLNG第一船の日本への運航まで漕ぎ着けたことを高く評価した。
総理大臣は,今後とも,日本からインドネシアに対する民間直接投資が,インドネシアの経済・社会開発の必要に見合つた形で促進されることを期待した。
6. 福田総理大臣は,日本とインドネシアとの間の貿易の安定的な拡大が両国各々の利益に適うものであるとの認識の下に,日本国政府としても,かかる健全な両国間貿易の発展のためにできる限りの努力を払うとともに,企業側における各種の努力を支持することを明らかにした。
7. 総理大臣は,日本国政府が,両国間の文化的交流の重要性に対する認識に基づき,今後ともインドネシア共和国政府との協力によりこの面における交流を促進するとともに,民間におけるそのための努力を支援することを明らかにした。
この関連で,両国民の間の文化交流を一層強化するための具体的方策が検討されている。
8. 福田総理大臣は,今回の訪問中,スハルト大統領夫妻を初めインドネシア国民が,総理大臣夫妻及びその随員一行に対して示した暖かいもてなしに深く感謝した。
9. 総理大臣は,スハルト大統領夫妻に対し,双方にとつて都合の良い時期に日本を訪問するよう招待した。大統領は,喜んで招待を受けることを明らかにした。
スハルト大統領と福田総理大臣のメッセージ(仮訳)
(1977年8月14日,ジャカルタ)
インドネシア共和国スハルト大統領と日本国福田総理大臣は,福田総理大臣のインドネシア公式訪問を通じ,日イ関係の将来への展望につき次の諸点について認識を共にした。
1. 日イ両国は協調と連帯の精神に則り,ともにアジアひいては世界の安定と平和のために寄与したい。
2. 両国は国際社会における各々の責任を自覚し,排他的に走ることなく諸分野における一層緊密な協力関係を世界の平和と繁栄に貢献するよう発展させたい。
3. 両国の関係をより一層安定した基礎の上に構築するため,経済の分野にのみ限らず広く社会,文化,学術,スポーツその他の面での一層緊密な協力関係を活発化し,福田総理大臣のインドネシア訪問に反映されたような両国民各層の間の心と心の触れ合いを促進したい。
4. 両国は相互信頼の下に,対等な協力者としてその関係を発展させたい。
(ニ) 福田総理大臣のシンガポール訪問に際してのプレス・リリース(仮訳 抜粋)
(1977年8月15日,シンガポール)
1. 福田赳夫日本国総理大臣は,リー・クアン・ユーシンガポール共和国首相閣下の招待により,夫人とともに1977年8月14日から15日,シンガポール共和国を公式訪問した。福田総理大臣夫妻には,鳩山威一郎外務大臣,園田直内閣官房長官,田中龍夫通商産業大臣の他,政府の高官が随行した。
2. 福田総理大臣夫妻は,8月14日,べンジャミン・ヘンリー・シアーズシンガポール共和国大統領閣下夫妻を表敬訪問した。
3. 福田総理大臣は,8月15日リー首相と会見し,両友好国が共通の関心を有する国際的,地域的な諸問題及び二国間に存在する諸問題について意見交換を行つた。この首脳会談には,日本側より,鳩山外務大臣,園田内閣官房長官,田中通商産業大臣,シンガポール側よりラジャラトナム外務大臣,ホン大蔵大臣が出席した。
4. 福田総理大臣は,日本とシンガポール両国の間に存在する友好関係をさらにゆるぎないものとするために,日本国政府が,シンガポール共和国政府と,政治,経済,文化等あらゆる分野にわたつて一層緊密な協力を行つてゆく用意があることを明らかにした。
5. この関係において,総理大臣は,日本国政府が今後ともシンガポールの経済的発展のために,技術面における協力を積極的に推進してゆくことを明らかにするとともに,日本・シンガポール技術訓練センターについては,早急に事前調査を行う予定である旨説明した。
6. 総理大臣は,今回の訪問中に,日本とシンガポールとの協力の下に実現されることとなつたシンガポール石油化学計画のためのエチレン・センター会社が設立されたことを喜び,この重要な計画が今後順調に実施され,成功裡に運営されるよう希望した。
総理大臣は,今後とも,日本からシンガポールに対する民間直接投資が,シンガポールの経済・社会開発の必要に見合つた形で促進されることを期待した。
7. 福田総理大臣は,近年のように日本とシンガポールとの経済関係が緊密になればなるほど,両国関係を更に幅広い基盤の上に築くためのあらゆるレベルでの両国国民間の交流が愈々重要になつてきているという認識の下に,日本国政府としては,今後ともシンガポール共和国政府との協力により,人的,文化的交流を促進するとともに,民間における友好親善のための努力を支援することを明らかにした。
(ホ) 福田総理大臣のタイ訪問に際してのプレス・リリース(仮訳 抜粋)
(1977年8月16日,バンコック)
1. 福田赳夫日本国総理大臣及び同夫人は,ターニンタイ国首相閣下の招待により,1977年8月15日から17日までタイ国を公式訪問した。福田総理大臣夫妻には,鳩山威一郎外務大臣,園田直内閣官房長官,田中龍夫通商産業大臣の他政府の高官が随行した。
2. 福田総理大臣夫妻は,8月15日タイ国国王,王妃両陛下に拝謁を賜つた。
3. 福田総理大臣は,8月16日ター二ン首相と会見し,両友好国が共通の関心を有する国際的,地域的な幅広い諸問題及び二国間関係について意見交換を行つた。
この首脳会談には,日本側より鳩山外務大臣,園田内閣官房長官,田中通商産業大臣,タイ側よりウパディット外務大臣,スティー商務大臣,ブーム工業大臣が出席した。
4. 福田総理大臣は,日本とタイとの間に存在する友好関係が,あらゆる分野にわたつて近年ますます強固なものとなりつつあることを改めて認識し得たことを喜ぶとともに,このような両国間の友好関係を更に揺ぎないものとするために,日本国政府がタイ国政府と,政治,経済,文化等あらゆる分野にわたつて一層緊密な協力を行つてゆく用意があることを明らかにした。
5. 福田総理大臣は,タイ国の経済社会開発への努力を高く評価するとともに,日本国政府としては,かかる努力に対し引き続き協力してゆく意向であるとの考えを再確認した。
6. 福田総理大臣は,両国間貿易の安定的な拡大が両国各々の利益に適うものであることを認識し,政府としてもかかる健全な二国間貿易の発展のためにできる限りの努力を払うとともに,企業側における各種の努力を支援する旨を明らかにした。
7. 福田総理大臣は,近年のように日本国とタイ国との関係が緊密になればなるほど,両国関係を更に幅広い基盤の上に築くためのあらゆるレベルでの両国民間の交流が愈々重要になつてきているという認識に基づき,今後ともタイ国政府との協力により人的,文化的交流を促進するとともに,民間における友好親善のための努力を支援する旨を明らかにした。
8. 福田総理大臣は,ターニン首相に対し,来る9月わが国を公式に訪問されるようにとの招待を行い,ターニン首相はこの招待を喜んで受諾する旨表明した。
共同メッセージ(仮訳)
(1977年8月18日,マニラ)
福田総理大臣とマルコス大統領は,日比協力の新しい時代が始まつたことを歓迎した。
両首脳は,新しい姿勢と新しい方向付けに基づいた2国間の関係におけるこの歴史的発展は,2国間に既に存在する強力な紐帯に新たな活力を注入することになろうとの感を共にした。
両首脳は,この協力の新時代の始まりは東南アジアひいてはアジア全体の平和,安定及び進歩に貢献するであろうとの確信を表明した。
両国は安定的な基盤に立つた日比貿易関係の拡充は両国の利益に大いに資するものであるとの共通の認識の下に,両国貿易関係の一層の発展と拡充のために引き続きあらゆる努力を払つてゆくであろう。
総理大臣及び大統領は,公衆衛生,熱帯病,ならびに技術,農業及び文化面での教育の分野における諸計画及びプロジェクトを含む開発協力の新たな方向付けにつき話し合つた。
この関連において,総理大臣は,比国政府当局者と協力しつつ将来の援助の具体的分野を定めるために調査団を派遣することに同意した。
両首脳は,両国国民間のより深い理解が双方の共通の目的を助長する上で不可欠な要素であるとの確信を表明した。
よつて,両首脳は,日比両国間の文化交流を促進し拡充することに合意した。
(ヘ) 福田総理大臣のフィリピン訪問に際してのプレス・リリース(仮訳 抜粋)
(1977年8月18日,マニラ)
1. 福田赳夫日本国総理大臣は,フェルディナンド・E・マルコスフィリピン共和国大統領閣下の招待により,夫人とともに1977年8月17日及び18日,フィリピン共和国を公式訪問した。福田総理大臣夫妻には,鳩山威一郎外務大臣,園田直内閣官房長官,田中龍夫通商産業大臣の他政府の高官が随行した。
2. 福田総理大臣は,8月17日及び18日マルコス大統領と会談を行い,両友好国が共通の関心を有する国際的,地域的な幅広い諸問題及び二国間に存在する諸問題について意見交換を行つた。この首脳会談には日本側より鳩山外務大臣,園田官房長官,田中通商産業大臣,フィリピン側よりロムロ外務長官,ヴィラタ財務長官,キアソン通商長官,シカット国家経済開発長官,タタド情報長官,アスピラス観光長官,パテルノ産業長官,レイド天然資源長官が出席した。
3. 総理大臣は,今回の訪問によつて,日本とフィリピンとの間に存在する友誼と相互信頼との関係を改めて確認し得たことを喜ぶとともに,このような両国間の友好関係を更に揺ぎないものとするために,日本国政府がフィリピン共和国政府と政治,経済,文化等あらゆる分野にわたつて一層緊密な協力を行つてゆく用意があることを明らかにした。
4. 総理大臣は大統領より現在フィリピンで推進されている諸開発計画につき説明を受けた。総理大臣は,マルコス大統領の有能な指導のもとでフィリピン国民が払っている開発努力を高く評価するとともに,日本国政府としては,かかる努力に対し,引き続き協力してゆく意向であるとの考えを再確認した。この関連において,大統領は,フィリピン政府が日本の協力を求めたいプロジェクトのリストを提案した。このリストは,農業,社会サービス,医療施設,文化,教育,及びマンパワーの諸分野におけるプロジェクトを含んでいる。総理大臣は,日本国政府は,提案されたプロジェクトにつき,更に検討する旨述べた。
5. 総理大臣は,今後とも日本からフィリピンに対する民間直接投資が,フィリピンの経済・社会の発展に見合つた形で促進されることを期待した。
6. 総理大臣は,日本とフィリピンとの間の貿易の安定的な拡大が,両国各々の利益に適うものであるとの認識の下に,日本国政府としても,かかる健全な両国間貿易の発展のためにできる限りの努力を払うとともに,企業側における各種の努力を支持することを明らかにした。
7. 福田総理大臣は,現在両国政府間で行われている友好通商航海条約の改定交渉を重視し,両国政府が,本件につき引き続き緊密に話し合うことによつて,双方に満足のゆく形で合意が得られることを希望した。
8. 福田総理大臣は,近年のように日本とフィリピンとの経済関係が緊密になればなるほど,両国関係を更に幅広い基盤の上に築くためのあらゆるレベルでの両国国民間の交流が愈々重要になつてきているという認識の下に,日本国政府としては,今後ともフィリピン共和国政府との協力により人的,文化的交流を促進するとともに,民間における友好親善のための努力を支援することを明らかにした。
(1977年9月6日,東京)
1. 第9回日韓定期閣僚会議は,1977年9月5日及び6日の両日,東京において開催された。
会議には,日本側からは,鳩山威一郎外務大臣,坊秀男大蔵大臣,鈴木善幸農林大臣,田中龍夫通商産業大臣,倉成正経済企画庁長官,石原慎太郎環境庁長官が須之部量三駐韓大使とともに出席した。
韓国側からは,南ドク副総理兼経済企画院長官,朴東鎮外務部長官,金龍煥財務部長官,崔珏圭農水産部長官,張禮準商工部長官,申鉉碻保健社会部長官が金永善駐日大使とともに出席した。
2. 会議は,次の事項を議題として採択し,討議した。
(1) 国際情勢及び両国関係一般
(2) 両国の経済情勢
(3) 日韓経済関係
(4) その他
3. 両国の閣僚は,現下の国際情勢一般及びアジア情勢について隔意なき意見を交換した。
両国の閣僚は,日韓両国の善隣,友好,協力関係が東アジアの平和と安定に大きく貢献するとの認識を共にした。
両国の閣僚は,この地域における緊張緩和を促進し,より安定した平和をもたらすための適切な国際的努力がなされることが重要であり,両国はこのために緊密に協力していくべきであることを確認した。
4. 韓国側閣僚は,朝鮮半島情勢に言及し,在韓米地上軍の撤退問題に関し,先般行われた韓米安保協議会の成果について説明した。日本側閣僚は,韓米両国がこの問題について密接な協議を行つていることに関心をもつて留意し,今後ともこの地域の平和と安定を損なわないような形で取り進められることが重要であるとの考え方を述べた。
韓国側閣僚は,朝鮮半島の緊張緩和と平和定着,更に平和的統一達成のために,今後とも忍耐と誠意をもつて南北対話の速やかなる再開のための努力を継続することを表明した。
日本側閣僚は,このような韓国政府と国民の努力を高く評価し,朝鮮半島の緊張緩和と平和定着のために南北対話が速やかに再開され,朝鮮半島の統一が平和的な方法で達成されることを強く希望した。
5. 両国の閣僚は,最近の日韓関係について検討し,意見を交換した。
両国の閣僚は,両国間の友好関係が順調に発展していることに満足の意を表明した。両国の閣僚は,両国の発展と繁栄が相互に密接な関係にあることに鑑み,広く国民的基盤に立脚した善隣友好関係が発展することが望ましいことを認識し,今後とも政治,経済のみならず,学術,文化等を含むあらゆる分野において,交流と協力を一層緊密に進めることの必要性について意見の一致をみた。
両国の閣僚は,1974年1月30日に両国政府間で署名された日本国と大韓民国との間の両国に隣接する大陸棚の北部の境界画定に関する協定および日本国と大韓民国との間の両国に隣接する大陸棚の南部の共同開発に関する協定が,速やかに発効することが,石油エネルギー資源に乏しい両国にとつて極めて望ましいとの見解を再確認した。
韓国側閣僚は,在日韓国人の福祉増進に関連した諸問題に関し,日本政府の格別な配慮を要望し,これに対し日本側閣僚は,引き続き好意的に検討することを約束した。
両国の閣僚は,環境問題の重要性に鑑み,日韓両国が今後,この問題について緊密な協調関係を維持していくことに意見の一致をみた。
6. 両国の閣僚は,最近の海洋秩序が大きく変りつつあることに留意し,新しい海洋秩序の成立のための国際的な努力において両国が緊密に協調していくこと,及びかかる新しい海洋秩序をふまえつつ,両国間の円滑な漁業関係のため両国が密接に協力していくことが望ましいことに意見の一致をみた。
7. 両国の閣僚は,両国の経済情勢に関して検討した。
日本側閣僚は,日本政府が物価の動向に配慮しつつ,内需の拡大を通ずる景気の回復をより一層確実なものとするべく,財政金融両面にわたる各般の景気対策を実施していることを強調し,さらに今後とも一連の景気対策の効果の一層の浸透を図るとともに,事態の推移に即応した機動的な対策を講じ,もつて世界経済の健全な発展にも貢献する所存である旨説明した。
韓国側閣僚は,1976年の韓国経済が物価,国際収支及び経済成長において,安定と成長趨勢を取りもどしたことを説明し,第4次経済開発5カ年計画の初年度である1977年には,国際収支の改善,国民貯蓄の増大,物価の安定等の安定基盤の構築,産業の国際競争力強化及び社会開発の拡大等に施策の重点を置いていることを説明した。また,韓国側閣僚は,1977年の韓国経済は安定傾向を維持し,7月まで産業生産,輸出等が堅実に伸張し,今年の成長目標10%は達成される見通しであることを述べた。
8. 両国の閣僚は,世界経済の安定的発展を確保するとの観点に立つて,自由な国際貿易の維持発展のために努力することが必要であることに意見の一致をみた。
両国の閣僚は,日韓貿易の均衡的拡大の必要性に留意しつつ,両国の利益の増進に資するべく今後の貿易関係の健全な発展の実現のため相互に積極的な努力を傾注することにつき意見の一致をみた。
また,両国の閣僚は,本年中に開催することが合意されている第14回目韓貿易会議において両国貿易の発展について率直な意見の交換が行われることを希望する旨表明した。
9. 両国の閣僚は,両国間の経済協力に関して意見を交換した。
両国の閣僚は,本年3月開催された国際復興開発銀行主催の対韓国協議グループ会議において,韓国の第4次経済開発5カ年計画の開発の諸目標を達成するためには,同計画期間中引き続き中長期借款の適切な導入が必要であると認められたことに注目しつつ,両国間の経済協力関係が今後も一層増進されることが望ましいことについて意見の一致をみた。
両国の閣僚は,韓国の第4次経済開発5カ年計画の事業のうち,政府ベースの協力を必要とする案件については,農業開発を含む経済,社会基盤施設の整備拡充等,均衡ある経済発展のため開発が必要とされる分野を中心に,政府間実務者レベルの協議を通じ検討の上適切な案件につき具体化していくことに意見の一致をみた。
10. 両国の閣僚は,両国間の科学技術協力がこれまで順調に進行していることに留意し,今後もこの分野での協力を拡充していくことに意見の一致をみた。
11. 両国の閣僚は,両国間の民間経済交流について意見を交換した。
両国の閣僚は,最近の韓国経済の着実な成長に伴う民間経済交流の順調な発展に留意しつつ,両国国民の善隣友好および共同利益の増進に資する見地から,今後ともこの分野の交流が,韓国の第4次経済開発5カ年計画の期間を通じ,一層増大されることが望ましいことに意見の一致をみた。
12. 両国の閣僚は,今回の会議が終始友好的な雰囲気の中で運営され,両国の相互理解と友好協力関係の増進のために極めて有益であつたことに対し満足の意を表明した。
また,両国の閣僚は,第10回日韓定期閣僚会議を来年ソウルで開催すること,およびその細目は今後外交経路を通じて決定することに合意した。
韓国側閣僚は,第9回日韓定期閣僚会議に際し,日本国政府と同国民から示された歓迎に対し,深甚な謝意を表明した。
(5) ターニン・クライウィチエン・タイ国首相の訪日に際しての日・タイ共同コミュニケ(仮訳)
(1977年9月9日,東京)
1. タイ国首相タ一二ン・クライウィチエン閣下及び同夫人は,日本国政府の招待により1977年9月7日から11日まで日本を公式訪問した。
2. タ一二ン首相夫妻は,9月8日,宮中において天皇・皇后両陛下に拝謁を賜つた。
3. ターニン首相及び福田総理大臣は,9月8日及び9日,両国が共通の関心を有する国際的及び地域的な幅広い諸問題ならびに両国間の諸問題について意見交換を行つた。
この首脳会談には,タイ側よりウパディット外務大臣,スパット大蔵大臣,プーム工業大臣,スティー商務大臣が,また,日本側より鳩山外務大臣,園田官房長官が出席した。会談は,本年8月福田総理大臣がタイを訪問した際に行われた首脳会談の結果を踏まえつつ親密かつ友好的な雰囲気の中で行われた。
4. 福田総理大臣は,前記の訪問の際にタイの政府及び国民から受けた暖かいもてなしにつき,あらためて感謝の意を表明した。福田総理大臣は更にクアラ・ルンプールにおけるASEAN首脳会議,ASEAN5カ国及び日本,オーストラリア,ニュー・ジーランド域外3カ国の非公式首脳会議及び同総理大臣とASEAN首脳との会談においてタイが果した役割を賞賛した。
5. ターニン首相は,本年8月の福田総理大臣のASEAN各国及びビルマ歴訪により,日本とこれら諸国との関係が更に緊密化したことを喜ぶとともに,このような関係の緊密化は東南アジアの安定と繁栄に大いに貢献するものであると信ずる旨述べた。
福田総理大臣は,同総理大臣のマニラにおける演説で明らかにされた日本の東南アジアに対する基本政策は,平和に徹する国家としての日本の決意を示すものであり,日本と東南アジア諸国との互恵的な友好関係の確固たる礎となるものである旨説明した。
ターニン首相は,東南アジア全域にわたる平和と繁栄の促進を目ざす日本のかかる政策を多とした。
6. 会談において,両首相は,今日の世界においてはすべての国家が相互依存の関係に立つているとの共通の認識を再確認し,各国が世界の平和と繁栄という共通の目標に向つてさらに協力を続けることが肝要である旨強調した。両首相は,更に,アジア全域における平和と安定ならびに同地域の繁栄が世界平和の維持にとつて極めて重要であることを再確認し,かかる共通の目的を達成するために協力して建設的努力を行うとの決意を表明した。
7. 両首相は,伝統的な友好的かつ親密な関係を反映して近年あらゆる分野にわたる二国間の交流が強化拡大しつつある事実を歓迎するとともに,両国関係の将来の一層の発展のためには,政治,経済のみならず,社会,文化等広範な分野において真の友人としての心と心の触れ合いに基づく相互信頼関係を築きあげることがますます重要であるとの認識を共にし,今後両国はこのために一層努力すべきことに意見の一致を見た。
8. 両首相は,両国間貿易の安定的な拡大及び多様化が両国各々の利益に適うものであることを認識しつつ,両国間の貿易を一層促進することの重要性を再確認し,より均衡的な経済関係を導びくような健全な二国間貿易の発展のために引き続き相互に努力を払う意向である旨を明らかにした。
両首相は,両国間の一層良好な貿易関係をもたらす上で日・タイ貿易合同委員会が引き続き重要かつ有効な役割を果していることに意見の一致をみた。
9. ターニン首相は,日本の民間部門による投資がタイの産業開発の促進に貢献していることに満足の意を表明し,またタイ側においても投資環境の一層の整備に今後も努めて行く意向である旨を述べた。ターニン首相は,近年タイにおける日本の投資が減退していることに鑑み,日本からの投資を増大させるための日本国政府及び民間部門の協力を要望した。福田総理大臣は,ターニン首相のかかる要望に対し,日本の民間部門が投資を通じてタイの開発に参加するよう勧奨する意向である旨を表明した。
この点に関し,両首相は,産業協力と民間投資の促進についての両国関係者間の緊密な協議が大いに望ましいと信ずる旨述べた。
10. 両首相は両国間の一層の経済協力の進め方について話し合つた。
ターニソ首相は,これまでの日本の経済技術協力がタイの経済開発と福祉の向上に寄与したことを高く評価するとともに,タイの第4次5カ年計画の重点施策である地方及び農村の開発計画の実施につき日本からより一層拡大された経済技術協力を得たい旨要請した。
福田総理大臣は,今後5年間に政府開発援助を2倍以上に増大するとの日本政府の基本方針に照らし,日本としてはタ一二ン首相により着手された地方及び農村の開発計画に特に重点をおいて引き続きタイの経済開発の促進と福祉の向上に応分の協力を行つていく用意がある旨述べた。
11. 両首相は,文化交流が両国国民間の相互理解を促進する上で重要な役割を果していること満足の意をもつて留意した。両首相は,今後ともあらゆる分野における両国国民間の接触を増大し交流を拡大すべく努力する意向を再確認した。
12. 両首相は,ターニン首相の日本訪問が日・タイ両国間の相互理解と友好関係の促進に大きく寄与したことに深い満足の意を表明した。
13. ターニン首相は,日本国政府及び日本国民より,同首相夫妻及びその一行に対して示された心からの歓迎と暖かいもてなしに対して深甚な謝意を表明した。
(6) ダトゥク・フセイン・オン首相の訪日に際しての日本・マレイシア共同コミュニケ(仮訳)
(1977年9月21日,東京)
1. マレイシア首相ダトゥク・フセイン・オン閣下及びダティン・スハイラ夫人は・日本国総理大臣福田赳夫閣下の招待により,1977年9月18日から23日まで,日本国を公式訪問した。フセイン・オン首相夫妻には,外務大臣トゥンク・アハマド・リタウディン閣下及びトゥンク・ノール・アイニ夫人及びマレイシア政府の高官が随行した。
2. フセイン・オン首相夫妻は,9月19日皇居において,天皇・皇后両陛下に拝謁を賜った。
3. 両首相は,9月19日及び20日の2回にわたり会談を行い,両国関係の様々な分野につき話し合いを行うとともに,共通の関心を有する地域的・国際的な諸問題について,幅広く意見交換を行つた。この会談には,マレイシア側より外務大臣トゥンク・アハマド・リタウディン閣下が同席し,日本側より外務大臣鳩山威一郎閣下及び国務大臣・内閣官房長官園田直閣下が同席した。会談は,両国間の伝統的に緊密な関係を反映して,極めて友好的な雰囲気の中で行われた。
4. 福田総理大臣は,本年8月,同総理大臣及びその一行がマレイシアを訪問した際に,マレイシアの政府及び国民から受けた暖かいもてなしについて,改めて感謝の意を表明した。両首相は,クアラ・ルンプールにおける両首相の会談が両国間の相互理解を促進し,また,両国間の緊密かつ友好的な関係を,一層強化することに貢献したことを認めた。
5. 福田総理大臣は,ASEAN首脳会議,ASEAN5カ国と豪州・日本及びニュー・ジーランドの首脳の非公式会議及び日本・ASEAN首脳会議等の各会議を成功裡に主催したマレイシアの功績を賞賛した。
6. 両首相は,上記の日本・ASEAN首脳会議が日本とASEANとの間の友好的協力関係を大きく前進させた歴史的なできごとであつたことを再確認した。
7. マレイシア首相は,日本が,その経済面,技術面における能力にもかかわらず,軍事大国となることを否定し,また,相互の尊敬及び平等とパートナーシップの精神に立って,平和政策を追求するという崇高な理想に徹しているとの日本国総理大臣の確信を心から歓迎した。
8. 両首相は,両国間の関係を概観して,両国間の接触と協議が益々緊密なものになりつつあり,このことは日本とマレイシアとの間に真の協力の精神が存在することを示すものであるとして,満足の意を表明した。両首相は特に,1977年6月に両国外務省の高級事務当局者間の協議が行われたことを歓迎し,このような対話が,両国間の協力と相互理解を,より一層確固たるものにするものであることを認めた。
両首相は更に近く両国民間実業界の代表者間において,意志疎通のためのチャンネルが創設される予定であることを歓迎した。
9. 両首相は,特に経済・技術協力の分野において,両国間の現在の緊密な関係を増進する諸方途について話し合つた。
マレイシア首相は,第1次及び第2次マレイシア計画の期間を通じ,日本からの経済・技術協力が,マレイシアの経済開発に大きく寄与したことに謝意を表明するとともに,マレイシアの開発努力におけるパートナーとして,日本が,第3次マレイシア計画に対し,引き続き協力することを要請した。
日本国総理大臣は,第1次及び第2次マレイシア計画を通ずる開発努力により,マレイシアが,社会・経済開発において顕著な進歩を遂げつつあることを高く評価するとともに,わが国としても,第3次マレイシア計画の諸目的に沿って,合意されたインフラストラクチャー・プロジェクトに対する円借款及び技術協力の如き方法により,引き続き応分の協力を行う用意がある旨述べた。
10. 日本国総理大臣は,マレイシアの開発計画において,同国内外の民間部門の果す役割に重点がおかれていることを歓迎した。この関連において,日本国総理大臣は,マレイシア政府が,マレイシアにおける投資環境を一層良好なものとするための措置をとることを希望した。マレイシア首相は,同国政府がそのためにすでに取つている措置について,詳細に日本国総理大臣に説明するとともに,日本の実業家が,マレイシアの良好な投資環境を十分に利用することを希望する旨述べた。マレイシア首相は,更に,日本の対マレイシア民間投資が,今後とも資本の移動のみならず,近代的な技術及び経営能力の移転をももたらすことを希望した。
11. 両国経済の補完性にかんがみ,マレイシア首相は,産業構造の変化に関することがらにつき,日本とマレイシアの間で,連絡と情報交換が行われることが望ましいとの意見を述べた。マレイシア首相は,また海外への移転が適当な日本の産業,特にマレイシアにおいて産出される一次産品及び天然産品を利用するような産業のマレイシアヘの誘致を歓迎する旨述べた。
12. 両首相は,両国間の貿易が発展的に拡大し,現在では,日本がマレイシアの最大の貿易相手国となるまでに至つていることに満足の意をもつて留意した。
マレイシア首相は,しかしながら一次産品がマレイシアの日本に対する輸出の約85%を占めている旨を述べ,マレイシアの社会・経済開発計画の実施のために,安定した輸出所得を確保することが重要であるとの見地から,マレイシアの産品,特に付加価値のある製品の,日本市場へのアクセスの改善について日本の協力を要請した。
これに対し日本国総理大臣は,関税及び非関税障壁の撤廃ないし緩和に関するマレイシアの要望について多国間貿易交渉(MTN)の枠内で更に検討すること,及び一般特恵制度の改善を含む種々の方法により,マレイシアの対日輸出増大努力に対する便宜をはかる用意のあることを明らかにした。
13. 両首相は,両国国民間の相互理解を促進し,関係を強化する上で,日本とマレイシアとの間の文化交流が,極めて重要な役割を果すことに留意し,今後両国が,両国民間の文化交流を,あらゆるレベルにおいて更に活発なものにするよう,引き続き努力して行くことに合意した。
両首相は,日本・ASEAN首脳会議の機会に発表された共同声明において述べられているASEAN内の文化協力に言及し,この望ましい目的に対する支持を再確認した。
マレイシア首相は更に,マレイシアとしては既に,この問題について真剣な検討を始めており,また,かかる協力を実現するために,マレイシアは他のASEAN加盟国とともに,行動を開始する旨を述べた。日本国総理大臣は,このようなマレイシアの行動を評価するとともに,日本としても,かかる協力に寄与する用意がある旨を再確認した。
14. 国際関係に関し,両首相は,南北関係における諸問題について早急かつ満足のゆく解決を見出すことの必要性を再確認し,また永続的な世界の平和と安定を確保するために,国際社会が新しい経済秩序の確立への動きを促進するための努力を強化するよう呼びかけた。かかる目的のために,両首相は,国際社会が,建設的な南北対話促進のためあらゆる努力を行うこと,特に,共通基金の設立を含む諸産品のための総合プログラムの早期実現に向かつて努力を行うように希望する旨を表明した。これに関し,マレイシア首相は,国際スズ協定の緩衝在庫に対する任意拠出を行うことに関する日本の積極的な立場を歓迎した。
15. 両首相は,国際貿易における保護主義的傾向の拾頭について,懸念をもつてこれを見守るとともに,国際社会全体に不利益を及ぼし,かつ開発途上国の経済に悪影響を与えて来た国際貿易における保護主義を排除するために,早急に措置が執られる必要がある旨を力説した。
16. 両首相は,東南アジアの情勢を概観し,ASEAN諸国とインドシナ諸国の間に,協力的関係が発展することが,同地域の平和と安定に積極的に寄与するであろうとの点で,意見が一致した。
両首相は更に,今日の東南アジアにおける情勢が,互恵と平和共存の原則の遵守に基づいて,政治・経済・社会制度の相違に左右されない地域協力の有意義な枠組みを推し進めるという目的のために同地域諸国の相互の友好と協力を高める真の機会を提供していることについて,意見が一致した。両首相は,東南アジアにおける永続的な平和,繁栄及び安定は,このような基盤の上にのみ,うち立てられるものであることを確信した。
17. 両首相は,ASEANがこの地域の協力とコンセンサスのための自然発生的なものであることを確認した。1967年の創設以来,経済・社会的な協力をその活動の基本とし,自助と連帯の原則の推進をその主要目的として来たASEANの発展は,この地域の建設的かつ平和的な発展と,全面的に軌を一にするものである。両首相は,ASEANが有意義な相互依存関係を達成するために,新たな原動力と広がりを加えようとしており,また,ASEANが地域的及び国際的な平和と進歩に貢献していることを認めた。
18. 日本国総理大臣は,日本が東南アジア地域における平和と安定の促進と維持に向けて建設的な努力を行う旨確言し,またこれに関連して,ASEANとの協力を,更に促進するための措置をとる用意がある旨を再確認した。
マレイシア首相は,この発言に対し深い感謝の意を表明し,日本国総理大臣が,東京において同首相と会談した際及び8月にASEAN諸国とビルマを訪問した際に表明された日本の東南アジアに対する政策を歓迎した。
19. 両首相は,国際連合が,世界平和の維持,及び諸国民の福祉の向上のために果している役割を高く評価するとともに,両国政府が国際連合及びその他の国際的な場において,引き続き協力を行うことが重要であることを再確認した。
20. 東南アジア地域及び世界における平和と安定を促進するという基本的な信念と変わることなき希望に従い,両首相は,個別に,また共同で,軍縮の推進及び核兵器の拡散防止の促進に対し貢献するよう,引き続き努力するとの意向を再確認した。マレイシア首相は,外部からのいかなる形態ないし方法による干渉も受けることのない東南アジア平和・自由及び中立地帯構想を実現するためのマレイシアの努力について説明した。日本国総理大臣は,同構想を評価し,かつ同構想についての理解を表明した。
21. 両首相は,マラッカ・シンガポール海峡における安全通航及び汚染防止のため,引き続きできる限りのあらゆる措置を行うことが重要であることを再確認した。この関連において,日本国総理大臣は,海峡沿岸3カ国が新たに通航分離制度を導入するに際して主要な利用国との間で,IMCOその他の場を通じて,緊密な協議を開始したことを評価した。総理大臣は,日本が,同制度の設立を援助する用意があることを表明した。
22. マレイシア首相は,日本政府及び国民に対し同首相夫妻及びその一行が日本滞在中に受けた暖かい歓迎と手厚いもてなしについて,深い感謝の意を表明した。
(7) 福田赳夫総理大臣とジミー・カーター大統領との間の共同声明
(1977年3月22日,ワシントン)
1. 福田総理大臣とカーター大統領は,3月21日及び22日の両日,ワシントンにおいて会談し,共通の関心を有する諸問題について包括的かつ充実した意見の交換を行つた。
両者は,会談を通じ,日米両国政府の新しい首脳の間に自由かつ率直な対話と相互信頼の関係が築かれたことに満足の意を表した。両者は,両国政府が,共通の関心を有するすべての事項につき,今後とも密接な連絡と協議を行うことに意見の一致を見た。
2. 総理大臣と大統領は,日米両国が,先進工業民主主義国家として,それぞれの責任を認識しつつ,一層平和で繁栄した国際社会を実現するために努力するとの決意を表明した。この目的のために,両者は,先進工業民主主義諸国が,密接な協議を通じて,主要な経済問題に対して調和した立場を醸成することが緊要であることについて意見の一致をみた。さらに,両者は,政治体制,経済的発展段階を異にする諸国との対話と協調を維持し,発展させることが重要であることについて意見の一致をみた。
3. 総理大臣と大統領は,日米両国の友好協力関係が,単に経済及び政治の交流のみならず,科学技術,医学,教育及び文化等両国民の生活のさまざまな分野で拡大を続けていることに満足の意をもつて留意した。両者は,これらのすべての分野について民間及び政府間双方における一層の協調を期待した。総理大臣と大統領は,民主主義の共通の価値観及び個人の自由と基本的人権の深い尊重に基礎を置く両国の提携関係を一層強化して行くとの共通の決意を確認した。
4. 総理大臣と大統領は,諸国間の相互依存関係のゆえに,工業諸国が開発途上国を含む世界経済全体の必要を十分考慮しつつ,その経済運営に当ることが必要であるとの共通の認識を確認した。両者は,国際経済の安定的発展のためには,先進工業民主主義諸国の景気回復が不可欠であり,日米両国を含む経済規模の大きい諸国が,インフレの再発防止を図りつつ,それぞれの国の実情に見あった形で,世界経済の浮揚に貢献して行くべきことに意見の一致をみた。両者は,両国政府が,この目的のために,引続き緊密に協議することに意見の一致をみた。
両者は,世界経済の健全な発展のためには自由な世界貿易体制が緊要であることにつき意見の一致をみ,この関連において,多角的貿易交渉東京ラウンドの早期かつ重要な進展を図り,同交渉をできるだけ速やかに成功裡に妥結せしめるとの決意を表明した。
両者は,日米両国を含む関係諸国が,南北関係において提起されている諸問題に建設的に取組む必要を再確認した。両者は,世界のエネルギー問題が引続き重大であることに留意し,エネルギーの節約並びに新規及び代替エネルギー源の開発のために,一層の措置をとることが重要であることを再確認した。両者は,国際エネルギー機関における消費国間の協力を強化する必要があること及び石油輸入国と産油国との間の協力を引続き促進する必要があることにつき意見の一致をみた。両者は,両国政府が,これらの諸問題に対する積極的な解決を見出し,促進するために引き続き努力し,国際経済協力会議閣僚会議を成功裡に終了せしめるよう,努力することに意見の一致をみた。
総理大臣と大統領は,主要国首脳会議が,5月にロンドンにおいて開催されることを歓迎した。両者は,同会議が,協調と連帯の精神に基づいて,世界経済が直面する諸問題についての建設的かつ創造的な意見交換の場となることへの期待を表明した。
5. 総理大臣と大統領は,現下の国際情勢を検討し,アジア・太平洋地域における永続的平和の維持が,世界の平和と安全のために必要であるとの認識を再確認した。
両者は,友好と信頼の絆で結ばれた日米両国の緊密な協調関係が,アジア・太平洋地域における安定した国際政治構造にとつて不可欠であることにつき意見の一致を見た。両者は,日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約は極東の平和と安全の維持に大きく寄与してきていることに留意し,同条約を堅持することが両国の長期的利益に資するものであるとの確信を表明した。
大統領は,米国が,太平洋国家として,今後ともアジア・太平洋地域に強い関心をもち,同地域において積極的かつ建設的役割を引き続き果すことを再確認した。大統領は,米国がその安全保障上の約束を遵守し,西太平洋において,均衡がとれ,かつ,柔軟な軍事的存在を維持する意向である旨付言した。総理大臣は,米国のかかる確認を歓迎し,日本がこの地域の安定と発展のため,経済開発を含む諸分野において,一層の貢献を行うとの意向を表明した。
総理大臣と大統領は,東南アジア諸国連合の活動に注目し,自らの自主性と当該地域の強靱性を高めようとする同連合加盟諸国の努力を高く評価した。両者は,また,東南アジア諸国連合加盟国による地域的結束と発展への努力に対しては,両国が引き続き協力と援助を行う用意があることを再確認した。
両者は,インドシナ地域における事態に注目し,今後同地域が平和で安定した地域して発展して行くことが東南アジア全体の将来にとって望ましいとの見解を表明した。
総理大臣と大統領は,日本及び東アジア全体の安全のために,朝鮮半島における平和と安定の維持が引き続き重要であることに留意した。両者は,朝鮮半島における緊張を緩和するため,引き続き努力することが望ましいことにつき意見の一致をみるとともに,南北間の対話のすみやかな再開を強く希望した。大統領は,米国の意図する在韓米地上軍の撤退に関連して,米国が韓国とまた日本とも協議の後に同半島の平和を損なわないような仕方でこれを進めて行くこととなろう旨述べた。大統領は,米国が韓国の防衛についての約束を引き続き守ることを確認した。
6. 総理大臣と大統領は,最も緊急な課題である核軍縮への第一歩として,あらゆる環境における核実験が早急に禁止されなければならないことを強調した。通常兵器の国際的移転につき,両者は,国際社会により,かかる移転を抑制する措置が緊急の課題として検討されるべきことを強調した。また,大統領は,核拡散防止に関連して,日本が昨年核兵器不拡散条約を批准したことを歓迎した。
7. 総理大臣と大統領は,今日の世界において国際連合が果たしている重要な役割を認識し,同機構を強化するために日米両国が協力すべきことに意見の一致をみた。これに関連して,大統領は,日本が国際連合安全保障理事会の常任理事国となる資格を十分充たしているとの信念を表明し,かつ,この目的に対する米国の支持を言明した。総理大臣は,大統領のこの発言に謝意を表明した。
8. 総理大臣と大統領は,原子力の平和利用が核拡散につながるべきではないことを再確認した。これに関連して,大統領は,一層効果的な核拡散防止体制を支援するような米国の政策を策定する決意を表明した。総理大臣は,核不拡散条約の締約国であり,かつ輸入エネルギーに大幅に依存する高度な工業国である日本にとつてその原子力開発利用計画の実現に向つて進むことが緊要である旨述べた。大統領は,米国の新原子力政策の立案に関連して,エネルギーの必要に関する日本の立場に対して十分考慮を払うことに同意した。総理大臣と大統領は,日本の関心にかない,かつ一層効果的な核拡散防止体制に寄与するような実効的政策を策定するために日米両国が緊密な協力を行うことが必要であることにつき意見の一致をみた。
9. 総理大臣と大統領は,両国間の貿易,漁業及び航空問題を討議した。両者は,日米両国間で懸案となつている事項につき相互に受け入れうる公正な解決がえられるよう,両国政府間で今後とも緊密な協議と協力を行うことが重要であることに意見の一致をみた。
10. 総理大臣は,カーター大統領夫妻の訪日に関する日本国政府よりの招待を伝達した。
大統領は,この招待を深甚なる謝意をもつて受諾するとともに,日米双方の都合の良い時期に訪日することを楽しみにしていると述べた。
(8) 東海再処理施設の運転方法に関する日米共同声明及び共同決定
(1977年9月12日,ワシントン)
共同声明(仮訳)
I
東海再処理施設(以下「本施設」という。)を1968年2月26日の原子力の非軍事的利用に関する協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定(改正を含む。)(以下「協力協定」という。)に従つて運転することに関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の交渉は,東京において,1977年8月29日から9月1日まで行われた。日本側首席代表は,宇野宗佑国務大臣,科学技術庁長官兼原子力委員会委員長,また合衆国側首席代表は,ジェラード・スミス核不拡散問題特別代表兼移動大使であつた。本交渉は,全会期を通じて率直かつ友好的な雰囲気の裡に行われた。
II
合衆国は,原子力の開発が日本国のエネルギー上の安全保障及び経済発展にとつて重要であることを認める。合衆国は,日本国の原子力の平和利用が引き続き発展することを強く支持する。合衆国は,増殖炉の研究開発計画を含む日本国の長期原子力計画が阻害されないことを保証する目的で日本国と協力する用意がある。合衆国は,天然ウラン及び低濃縮ウランの供給を保証するための仕組みを確立するため日本国その他の国と協力する用意がある。合衆国は,その政策が原子力の平和利用の分野で日本国を差別しないものであることを確認する。
日本国及び合衆国は,核燃料サイクル及びプルトニウムの将来の役割を評価するために協力する。両国は,プルトニウムが核拡散上重大な危険性を有するものであり,軽水炉でのそのリサイクルは,現時点では,商業利用に供される段階にはなく,その尚早な商業化は避けられるべきであるとの見解を共有する。両国は,また,高速増殖炉及びその他の新型原子炉に関する研究開発用のプルトニウムの分離が行われる場合には,それはかかる目的のための実際のプルトニウムの必要量を超えるものであつてはならないとの見解を共有する。
日本国及び合衆国は,軽水炉へのプルトニウムの商業利用に関する決定を少なくとも,今後2年間続くと予想される国際核燃料サイクル評価計画(INFCEP)の間,延期する意図を有する。日本国は,この期間中,数キログラムのプルトニウムを用いた関連の研究開発作業を行う計画である。更に,日本国及び合衆国は,上記の期間中プルトニウム分離のための新たな再処理施設に関する主要な措置はとらないとの意図を有する。それ以後は,かかる施設に関する決定を行うに際して,両国は,使用済燃料の貯蔵の可能性並びにその他再処理に代わる技術的及び制度的な代替策を含めINFCEPの結果を考慮に入れる意図を有する。
III
両国政府は,緊急かつ現実的な問題点及び核拡散防止上できる限り効果のある燃料サイクルを見い出したいという両国政府の願望を考慮し,本施設の運転は,2年の当初期間,日本国の関係法令に従い,次の原則を指針とするとの了解に達した。
1. 本施設は,米国産使用済燃料については99トンまで処理する。この使用済燃料の大部分は,施設が設計どおり完成していることを立証し,日本の契約上保証された権利を確保するため,既定方式により処理される。この使用済燃料の若干部分は,下記第4項に記されている混合抽出法の実験のために使用され得る。
2. 日本国は,当初の運転期間中,本施設に付設される予定のプルトニウム転換施設の建設を延期する意図を有する。
3. 合衆国は,新型原子炉の研究開発のための日本国のプルトニウムの必要量を各年毎に日本国と考慮する用意があり,また,前項に掲げるプルトニウム転換施設の建設の延期から生ずるいかなるプルトニウムの不足も,日本国の計画に不必要な遅延をもたらさないことを保証する方法を探求する用意がある。
4. 既定方式で本施設の主たる部分が稼働している間,本施設内運転試験設備(OTL)及び他の施設において,混合抽出法の実験が行われる。上記実験作業の結果は,「使い捨て」燃料サイクルと同程度の核拡散防止上の効果がある燃料サイクルを見い出すというINFCEPの努力を支持するため,INFCEPに提供される。
5. 当初の運転期間が終了した時点において,もし運転試験設備での実験作業の結果として,及びINFCEPの結果に照らして,混合抽出法が技術的に実行可能であり,かつ効果的であると両国政府が合意するならば,本施設の運転方式は,在来の再処理法から全面的な混合抽出法に速やかに変更される。本施設の必要な変更は,費用と時間の遅れがこれらの原則の目的を達成しつつ最小限にとどめられ,かつ,本施設の運転が混合抽出法で速やかに開始することを保証するような方法で行われる。
6. 国際原子力機関(IAEA)は,該当する現在及び将来の国際協定に従い,本施設において常時査察を含む保障措置を適用する機会を十分に与えられる。日本国は,本施設におけるセーフガーダビリティ及び核物質防護措置を改善する意向を有し,並びにこの目的のために改良された保障措置関連機器の試験のためにIAEAと協力し,及び当初期間中かかる関連機器の使用を容易にする時宜にかなつた準備を行う用意がある。合衆国は,合意された手段により,この保障措置の試験に参加する用意がある。日本国及び合衆国は,この試験計画の実施を容易にするために,速やかにIAEAと協議を行う。この保障措置の試験の結果は,INFCEPに提供される。
IV
上記の了解,原則及び意図に基づき,かつ,日本国の核不拡散条約に対する変わらない支持及び同条約中の保障措置に関する日本国の約束,取り扱われるプルトニウムの量が限られていること,工程が注意深く監視された実験的性格のものであること,並びにIAEAによる効果的な保障措置の適用の規定及び改良された保障措置の実験の規定にかんがみ,同協力協定の第8条C項に基づき,同協定の第11条の規定が,合衆国から受領した99トンを限度とする燃料資材を含む照射を受けた燃料要素を本施設において再処理することに効果的に適用されるとの共同決定が行われた。
日本国及び合衆国は,定期的に,又は一方の当事者の要求により上記の事項の実施及び両国間の協力協定に関連する他のいかなる事項についても協議する。
(訳文)
合衆国産の特殊核物質の再処理についての共同決定
1977年9月12日に発表された日本国政府及びアメリカ合衆国政府の共同声明において述べられた了解,原則及び意図に基づき,かつ,日本国の核兵器の不拡散に関する条約に対する変わらない支持及び同条約中の保障措置に関する日本国の約束,取り扱われるプルトニウムの量が限られていること,工程が注意深く監視された実験的性格のものであること,並びにIAEAによる効果的な保障措置の適用の規定及び改良された保障措置の実験の規定にかんがみ,
1. 日本国政府及びアメリカ合衆国政府は,ここに,1968年2月26日の原子力の非軍事的利用に関する協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定(改正を含む。)第8条C項に基づき,同協定第11条の規定が,合衆国から受領した99トンを限度とする燃料資材を含む照射を受けた燃料要素を動力炉・核燃料開発事業団の東海施設において再処理することに効果的に適用されるとの共同決定を行う。
2. 保障措置がピューレックス再処理施設一般に効果的に適用され得るか否かに関する決定はここでは行わない。
3. 上記協定第11条の規定が,特殊核物質又は照射を受けた燃料要素であつて,上記第一項に掲げる照射を受けた燃料要素を超えたものの再処理又はその他の形状もしくは内容の変更に対して効果的に適用されるかどうかについて,同協定第8条C項に基づき今後決定を必要とすることには何らの変更もない。しかしながら,もし上記施設の運転方式が全面的な混合抽出法に変更される場合には,合衆国は,混合抽出法による運転の範囲及び性格に関する合衆国の法律要件及び双方の合意に従つて,肯定的な共同決定を行う用意がある。
1977年9月12日
日本国政府のために アメリカ合衆国政府のために
宇 野 宗 佑 | ジェラード・C・スミス | |
東 郷 文 彦 | ロバート・W・フライ |
(1978年1月13日,東京)
1. 1978年1月12日及び13日の両日,日本政府と合衆国政府は,それぞれの代表である牛場信彦対外経済担当国務大臣と大統領通商交渉特別代表ロバート・S・ストラウス大使を通じて,世界経済の拡大に資しかつ両国間の経済関係を強化するための一連の政策と措置について協議を行つた。この協議の目的は,変化しつつある世界の経済情勢及び日本と米国との間の経済関係に対する建設的な調整を容易にするような共通の政策を策定することであつた。
2. 牛場大臣とストラウス大使は,特に,失業の増大と世界的な保護主義への逆戻りを回避するためには,以下に述べられた方策を基礎として新たな方向に向う行動をとることが必要であることに意見の一致をみた。
経済成長の拡大
3. 双方は,インフレなき高水準の経済成長を達成するため主要な方策を採ることに合意した。日本政府は,最近決定をみた7%の1978年度実質経済成長目標につきあらためて述べるとともに,かかる目標を達成するため,公共支出に関し既に発表された諸措置を含め,合理的かつ適切なあらゆる措置を講じるとの意向を述べた。米国政府は,実質的なインフレなき経済成長の維持を目的とする政策を遂行するとの意向を確認した。かかる政策の詳細は近くカーター大統領により明らかにされる。
4. 双方は,現下の国際経済情勢においては,大幅な経常収支黒字の累積は適当ではないことに意見の一致をみた。
よつて,日本は経常収支黒字の顕著な縮小の達成を目ざした方策をとつている。大臣は,1978年度においては,日本の経常収支黒字は内需の拡大,最近数カ月における円の切上げの効果及び外国商品の日本市場に対するアクセスを改善するための一連の新たな措置を通じ,大幅に縮小するであろうと付言した。現下の国際経済情勢のもとでは,1979年度以降においても均衡化を目ざして日本の経常収支黒字の一層の縮小をはかるためすべての合理的な努力が継続されるであろうし,またたとえ赤字が生じたとしてもそれは受容されよう。
米国は,輸入石油への依存度を低下させ,輸出を増大する等の措置により,その国際収支ポジションを改善し,もつてドルの価値が基本的に依拠している基礎的条件を改善する意向である旨述べた。大使は,今後90日以内に議会により効果的なエネルギー計画が立法化されるであろうとの確信を表明した。
貿易目標
5. 双方は,開放的な世界貿易体制を維持強化するため,多角的貿易交渉東京ラウンド(MTN)の促進及び早期終結を全面的に支持する。双方は,各々他の参加国と十分協力して,貿易に対する関税・非関税障壁の軽減又は撤廃のために実質的な寄与を行う。
6. 両国政府は,この交渉における双方の共通の目標は,主要貿易国に対し相互主義に基づいて実質的に同等の競争機会を与えることにより双方の貿易関係における基本的な衡平を達成することであることに意見の一致をみた。
双方の貿易関係における均等性及び双方の同等な市場の開放を達成するため,フォーミュラを超える関税引下げが行われるであろう。
この関連で,双方は,多角的貿易交渉の過程で第3国の利益を十分に考慮しつつ,同交渉終結時に,非関税措置を加味して,譲許税率の平均水準が同等のものとなることを達成するよう目指す目的で相互の関心品目についてフォーミュラを超える関税引下げを実施することを好意的に考慮するとの双方の意向を表明した。
7. 日本政府は,製品輸入を増大させるためにあらゆる適当な方策を講じる意向である。日本政府は,製品輸入の総量及び日本の輸入全体に占める製品輸入の比率が着実に増大し続けることを期待している。双方は,日米通商円滑化委員会又はその他の適切な場においてこれらの点についての進展を検討し,また必要とされるあらゆる是正措置をとることにつき意見の一致をみた。
貿易上の措置
8. 大臣は,日本が輸入増大のために以下の重要な措置をとつている旨述べた。
-20億ドルの輸入にかかわる関税の前倒し引下げの4月1日実施。
-12の産品につき,数量制限の撤廃。
-高級牛肉については,1978年度以降にホテル枠及び一般枠の中でグローバルベース1万トンの輸入増がなされるよう,相互に需要開発の努力を払う。
-オレンジの輸入を3倍の45,000トンに拡大。
-かんきつ類の果汁の輸入枠を4倍の4,000トンに拡大。
-外国為替管理制度の全面的見直し及び特に禁止されない限り全ての取引きが自由であるとの原則に基づく新制度の検討。新制度に先がけて,いくつかの当面の自由化措置が近く発表される。
-果汁の混合及び季節枠を含むかんきつ諸事情の現状と将来につき検討するため,両国かんきつ業界間のグループの設立並びに1978年11月1日までの同グループによる両国政府への報告。
-木材貿易の拡大と充実を目的として林産物スタディグループの米国北西部への派遣。
-原子力発電機器を含む重電機器の購入の可能性を探究するための調査団を米国へ派遣。
-日米通商円滑化委員会の支援による政府業界買付け使節団の米国への派遣。
-政府調達制度の下で外国の供給者に対し実質的に機会の増大を確保するための閣議決定。
-輸入品についての検査要件の簡素化。
-日本への輸入についての信用供与の拡充。
-標準決済制度の規制の緩和。
-輸出信用面における過度の競争を抑制するための国際的努力に対する協力。
経済協力
9. 大臣は,政府開発援助(ODA)に関し,5年間に援助を倍増以上にするという日本政府の意図を再確認し,かかる努力の一環として,1978年度について提案されたODAを実質的に増加させたこと,また,ODAの質も無償援助の増加により改善されたことに留意した。大臣は,日本政府が資金援助を一般的にアンタイ化するとの基方方針を遂行していく旨付言した。
ストラウス大使は,かかる進展を歓迎するとともに,大統領は開発途上国に対する米国の二国間及び多国間援助を実質的に増大するための立法を求める意向であることに留意した。
検討手続
10. 双方は,さらに,以下につき意見の一致をみた。
-多国間及び二国間の場において相互に,また,欧州共同体を含む両国の貿易相手国と緊密に協調していくこと。
-日米通商円滑化委員会において,自由貿易主義的なアプローチを適用することにより非関税障壁を克服する目的を含め製品輸入の増大を図り,また,日本との貿易において直面する具体的問題を解決する作業を成功させるようあらゆる努力を払うことにより日本市場に対するアクセスを改善すること。
-日米経済見通し作業部会を通じ経済成長に関する諸問題とその見通しとに関し定期的な技術的意見交換を継続すること。
-今春ワシントンで開催される次回の日米高級事務レヘル協議の場で,世界及び二国間の経済政策を検討すること。
-来る10月,牛場大臣とストラウス大使との会談において,これらの全ての分野における進展を検討すること。
(1977年5月8日,ロンドン)
<ダウニング街首脳会議宣言>
ダウニング街におけるこの2日間にわたる集中的討議を通じ,われわれは,われわれ自身の国とその他の国々の双方の福利を増進するため,いかに最善の助力をなしうるかについて合意した。
世界経済は,全体として考えられなければならない。これは単に各国政府間の協力のみならず,適当な国際機関の強化を伴わなければならない。われわれは,われわれが直面している全ての問題の相互関連性とわれわれ自身の相互依存の事実につき認識を更に深めた。われわれは,未来の挑戦に対して,共同して対処する決意である。
-われわれの最も緊急な任務は引き続きインフレを抑制しつつさらに雇用を拡大することである。インフレは,失業を減少せしめるものではなく,かえつて失業の主要な原因の一つである。われわれは,特に,若年層の失業問題につき懸念を有している。われわれは,若年層に雇用機会を提供することに関し,相互に経験と考え方を交換することに合意した。
-われわれの政府は,公表されている経済成長目標の達成又は安定化政策の実施を約束する。こうした目標及び政策は,全体として見れば,われわれ自身の国及び全世界におけるインフレなき持続的成長と国際収支不均衡の軽減のための基礎をもたらすこととなろう。
-融資制度の改善が必要である。国際通貨基金は顕著な役割を果さなければならない。われわれは,IMFの資金を増大させることを約束し,その融資活動を適当な安定化政策の採用に連繋せしめることを支持する。
-われわれは,開放的な国際貿易制度を強化するために貿易の機会を拡大するよう強い政治的指導力を発揮する。これは雇用機会を拡大することとなろう。われわれは,保護主義を拒否する。保護主義は失業を助長し,インフレを昂進させ国民の福祉を低下させる。われわれは,多角的貿易交渉東京ラウンドに新たな活力を吹き込むであろう。われわれの目的は,重要な諸分野において1977年に実質的進展の達成をはかることである。この分野においては世界経済の構造的変化が考慮に入れられなければならない。
-われわれは,石油への依存度を低下させるため工ネルギーを一層節約し,その生産を拡大し,多様化する。われわれは,世界のエネルギー需要への対応に資するため,核エネルギーの増大の必要性につき合意した。われわれは,これを核拡散の危険を減少せしめつつ,実施することを約束する。われわれは,これら諸目的を達成する最善の方途を決定するため,緊急な研究を発足させる。
-世界経済が持続的かつ衡平な基盤の下に成長することができるのは,開発途上国もそのような成長を分ち合う場合のみである。われわれは,CIECを成功裡に完了せしめるため全力を投入することにつき合意するとともに,開発途上国との建設的な対話を継続することを約束する。われわれは,これらの国に対する援助の流れ及びその他の実物資源の移転を増大することを目指すとともに,コメコン諸国も同様の努力を行うことを要請する。われわれは,世界銀行等多角的機関を支援する。これら機関の一般的資金は,その融資の実質額での増大を許容するに十分な程に増やされるべきである。われわれは,世界経済の成長を助長するため,安全な民間投資の重要性を強調する。
これらの任務を遂行するため,われわれは,他国の支援と協力を必要とする。われわれは,このような協力を国際連合,世界銀行,IMF,GATT及びOECD等適当な国際機関において推進する。われわれのうちで欧州経済共同体加盟国である国は,共同体の枠組の中において努力する意図を有する。
討議においてわれわれは,相当の合意に到達した。われわれの重要な目的は,この合意を行動に移すことである。われわれは,経済回復の勢いを維持するため,ここダウニング街において討議されたすべての施策の進展ぶりにつき見直しを行つていくであろう。
ダウニング街首脳会議の趣旨は,
-われわれ社会の継続的強靱性とこれら社会の活力の基盤をなしてきている民主主義の諸原則に対する自信の確保
-われわれが諸問題を克服し未来の一層の繁栄を実現するため必要な諸政策を実施しつつあるとの自信の表明である。
1977年5月8日
<ダウニング街首脳会議宣言付属文書>
世界経済の見通し
1975年以降世界経済の情勢は徐々に改善してきている。しかしながら困難な問題は引き続きわれわれの国すべてに存続している。われわれの最も緊急な任務は,引き続きインフレを抑制しつつ雇用を拡大することである。インフレは,失業の解決策ではなく,かえつて失業の主要な原因の一つである。インフレとの闘いにおける進展の度合いは,釣合いがとれていない。黒字国と赤字国との間の調整の必要性は,依然として大きい。世界は,未だ1974年の石油価格の上昇がもたらした景気抑圧の影響に対し,完全な調整を終えていない。
われわれの政府は,経済の成長及び安定化を目指す目標の実現を約束する。これらの目標は,国によって異なるが,全体として見れば,全世界を通じてインフレなき持続的成長の基礎を提供することになろう。
われわれの国のいくつかは,1977年について妥当な拡大的成長を目標として決めた。これら諸国の政府は,自国の政策を常に検討し,公表された目標率を達成するため,また国際収支不均衡の調整に貢献するため必要な場合には,新たな政策を執ることを約束する。他の国々は,インフレ期待感を増大させることなく持続的成長の基盤を造成するため,安定化政策を追求している。これらの国々の政府は,引き続きこうした目的を追求する。
この二つの範ちゆうに属する諸政策は,相互に関連している。最初のグループの国々の諸政策は,他のグループの諸国の拡大を,インフレを増大させることなく導き出しうる環境の造成を助長することとなろう。成長率が第一のグループにおいて維持されかつ,第二のグループにおいて増大し,またインフレが両グループにおいて成功裡に克服された場合においてのみ,失業の減少が可能となる。
われわれは,若年層の失業問題につき特に懸念を有している。従って,われわれは,今後経済活動が上昇するのに応じて,これに即応しうるよう熟練度と弾力性を有する労働力を育成するため,若年層の訓練を促進する。われわれの政府は,個別に又は共同して,この目標に向って,適切な措置をとりつつある。われわれは,可能な限り相互間で学び合うべきであり,経験と考え方を交換することに合意した。
われわれが国内経済の運営に成功することは,単に世界経済の成長を強化するのみならず,次にとりあげる国際収支ファイナンシング,貿易,エネルギー及び南北問題の4分野における成功にも寄与することとなろう。これらの分野における進展は更に世界経済の回復に貢献することとなろう。
国際収支ファイナンシング
今後数年間石油輸入国は,全体として相当な額の国際収支赤字に直面し,これをファイナンスするためOPEC諸国から資本を輸入することになろう。本年の石油輸入国の赤字額は450億ドルという高額にのぼる可能性がある。このような赤字は,われわれの輸入石油への依存度を低下させること及び産油国の輸入能力を高めることによつてのみ,減少させることができる。
このような赤字は,石油消費国間においてそれぞれの国の継続的資本調達能力に対応する形で配分される必要がある。このような形での調整の必要性は依然として大きく,引き続き進展を確保するためには,広汎な国際協力と黒字・赤字双方の国々の確固とした行動が要請されている。赤字国による調整上の戦略には,インフレの国内要因の排除と,国際的費用・価格関係の改善に重点を置くことが含まれるべきである。国際収支上相対的に強い立場にある工業諸国は,節度のとれた範囲内で,国内需要の適当な拡大を引き続き実施すべきである。更に,これら諸国は,その他の国際収支上強い立場にある国々とともに,長期的資本輸出の流れの増大を促進すべきである。
国際通貨基金は,国際収支ファイナンシング及び国際収支調整について顕著な役割を果たさなければならない。従つて,われわれは,IMFが同基金に対する追加的資金を求め,また,IMF融資を適当な安定化政策の採用と結びつけるというIMF暫定委員会の最近の合意を強く支持する。このような追加的資金は,IMF加盟国が国際収支赤字を抑制し,民間市場を通じた国際収支ファイナンシングを可能ならしめるような政策を採用するようIMFとして奨励し,支援する能力を強化するであろう。このような資金は,適当な速度で調整がなされるよう,必要な諸条件を付してまたそのために必要な柔軟性をもつて利用されるべきである。
このIMF提案は,妥当な水準の経済活動の維持を容易にし,貿易上及び国際収支上の制限に訴える危険を減少させるものとなろう。この提案は,石油輸出国,金融的に強い立場にある先進工業国とIMFとの間の協力を示すものであり,また,世界経済を健全にし,かつ,発展させるうえで実質的な貢献を行うであろう。かかる目的を追求するにあたって,われわれは,通貨の安定を高めるため努力するとの意図をも再確認する。
われわれは,新しいすでに合意された法的枠組の下における国際通貨金融制度がIMFの割当額の増大の早期発効により強化されるべきことに合意した。われわれは,IMFにおいて次期の割当額の増大が早期に合意されるよう努める。
貿 易
われわれは,貿易機会を拡大し開放的な国際貿易体制を強化するための世界的な努力のために強い政治的指導力を発揮することを約束する。これらの目標の達成は,世界経済の繁栄並びに全世界の先進国及び開発途上国が直面している経済上の諸問題の効果的解決にとつて緊要である。
保護主義の諸政策は失業を助長し,インフレを昂進させ国民の福祉を低下させる。従つて,われわれは,開放的で無差別な世界貿易制度の遵守という政治的約束を維持することの必要性につき合意した。
われわれは,各国それぞれに,また,適当な国際機関を通じ,貿易の拡大により新たな雇用及び消費者利益をもたらすような解決を促進することに努めるとともに,貿易を制限するような方途を回避することに努める。
多角的貿易交渉東京ラウンドは精力的に推進されなければならない。現在も続いている経済的諸困難は,東京宣言の諸目的を達成すること及びすべての国にとつて最大限の利益となる包括的な一連の合意に向かって交渉することをますます緊要なものにしている。この目的のため,われわれは,本年,次の如き重要な諸分野において実質的進展の達成を追求する。
(i) 関税の実質的引下げ,ハーモニゼーション及びある場合には関税撤廃を目指したできる限り広く適用される関税引下げ計画
(ii) 貿易に対する非関税障壁の実質的軽減及び将来のこの種の障壁の回避を容易にし,かつ,世界経済に起きた構造的変化を考慮に入れた規約,取極及びその他の措置
(iii) 農産物貿易の一層の拡大及び安定化並びに世界の食糧供給につきより大きな保証を達成する相互に受諾しうる農業問題への取組み方
かかる進展は,各国が現存の国際取極の下で著しい市場攪乱を回避するため有する権利を害するものではない。
われわれは,すべての先進工業国の間で相互主義に基づいた包括的かつ均衡のとれた合意を結ぶことを追求するに当り,東京宣言の目的に沿って,そのような合意が開発途上国に特別の利益をもたらすことを確保する決意である。
われわれは,公的支持のある輸出信用についての非生産的な競争を軽減するため,諸政府によってとられた行動を歓迎するとともに,この分野における現在の合意を改善し拡大するために本年さらに実質的努力を払うべきことを提案する。
われわれは,正常でない慣行や不当な行為が国際貿易,金融及び通商から排除さるべきであると考えており,現在不正な支払の禁止についての国際的合意に向けて作業がなされていることを歓迎する。
エネルギー
われわれは,エネルギー節約を強化するため,いくつかの政府によりとられている措置及び米国大統領により最近発表された計画を歓迎する。エネルギー需要と石油輸入は,枯渇しつつある世界の炭化水素資源に過重な圧力となる比率で引き続き増大している。われわれは,従ってわれわれの努力を更に強化するため,可能な限りのことを全て行う必要性につき合意する。
われわれは,エネルギー需要を抑制し,かつエネルギー供給を増加させ,多様化させるため,各国が個別に又は共同して努力することを約束する。エネルギー利用の効率化,石炭等在来型資源の改善された形の再活用と利用及び新規エネルギー源の開発を目的とした技術の交流あるいは共同の研究開発を促進する必要がある。
増大するエネルギー需要を満足させ,エネルギー源の多様化を助長するため,核エネルギーに対する依存度が増大することとなろう。これは,核兵器のために用いられ得る物質の生成と拡散につき最大限の注意を払いつつ,なさなければならない。われわれの目的は,核兵器の拡散の危険を回避しつつ,世界のエネルギーの必要を充たすことであり,核エネルギーの平和利用を広く利用可能にすることにある。われわれは,更に,不拡散政策は,これが効果的であるためには,先進工業国と開発途上国双方にできるだけ広く受諾可能なものでなければならないことに合意した。このため,われわれは,これらの目標を達成するための最善の方法につき2カ月以内に完了されるべき予備的な分析を進めることとした。これには国際核燃料サイクル評価のための付託事項の研究も含まれる。
石油輸入開発途上国は,その経済開発計画を維持するために必要なエネルギー供給の確保とその代金支払いの双方について特別な問題を有している。これら諸国は,国内エネルギー生産を拡大するための追加的援助を必要としており,このため,われわれは,世界銀行がその資金量が増大するに伴い,この目的に役立つプロジェクトに特に重点をおくことを希望するものである。
われわれは,この移行期間においてエネルギー市場が特に厳格な節約措置及びすべてのエネルギー資源の開発により,調和的に機能することを確保するため最善を尽す意向である。われわれは,石油産出国もこれらの努力を考慮に入れ産油国としての貢献を行うよう強く希望する。
われわれはすべての国がインフレを伴わない持続的経済成長に矛盾しない合理的な価格で現在及び将来にわたつて引き続きエネルギー供給を確保し得るためにはこうした活動は不可欠であると信ずる。
そのため,われわれはあらゆる有用な場を通じ,われわれ相互間及び他の諸国と引き続き協議し,協力しつつ,われわれの政策を調整する意図を有する。
南北関係
世界経済が持続的かつ衡平な基盤の下に成長することができるのは,開発途上国もそのような成長を分ち合う場合のみである。この面ではすでに進歩が見られた。先進工業国は深刻な不況にもかかわらず開放的な市場制度を維持してきた。先進工業国は,特に貧困国に対し援助の流れを増大してきた。われわれがIDAの第5次増資に対する約束を他の国国と共に履行することにより,IDAからこれら貧困国に対し今後3年間にわたり約80億ドルの利用が可能となろう。IMFは,その補償融資制度の下で昨年開発途上国のために20億ドル近くの追加的資金を供与した。国際農業開発基金が,先進国,OPEC諸国及びその他の開発途上国の共通の努力に基づき創設された。
これまでに見られた進展及び協力の精神は,今後の前進のための格好の基礎となりうる。次の前進は,国際経済協力会議を成功裡に終結させることであり,このためわれわれは全力を投入することにつき合意した。
われわれは次の目的に向かつて行動する。
(i) 先進工業国から開発途上国特に現在絶対的貧困の中に生活している8億人の人々に対する援助及びその他の実物資源の移転を増大すること及び援助の効果を高めること。
(ii) 開発途上国の国際金融資金へのアクセスを容易にすること。
(iii) 世界銀行のような多角的融資機関を支援すること。われわれはその融資が今後実質ベースで増大し,また,その範囲が拡大するよう,これら機関の融資能力が今後拡充されなければならないと信ずる。
(iv) 世界の経済発展を促すため必要とされる安全な投資を促進すること。
(v) 一次産品価格の安定化及び個々の緩衝在庫取極のための共通基金創設に関する交渉において,建設的結果を確保すること。開発途上諸国の輸出所得の安定化の問題を検討すること。
(vi) 開発途上国産品の先進国市場へのアクセスを市場攪乱を起さないような形で引き続き改善していくこと。
こうした先進国及び開発途上国の行動は,相互の関連において,また,われわれが共有する更に大きな目標との関連において評価され,調整されることが望ましい。われわれは,このことがどのようにして最善に達成されうるかを探求するため,世界銀行がIMFとともに他の先進国及び開発途上国と協議することを希望する。
先進国と開発途上国の福利は相互に結びついている。先進国の成長が開発途上国を利するように,開発途上国が繁栄に向かうことは先進国に利益を与える。先進国と開発途上国は全世界の安定的経済成長に資する状況を維持していくことに共通の利益を有している。
(1977年6月3日,パリ)
1. 国際経済協力会議は1977年5月30日から6月3日までパリにおいて閣僚レベルでの最終会合を開催した。会合には次の27カ国の代表が参加した。アルジェリア,アルゼンティン,オーストラリア,ブラジル,カメルーン,カナダ,エジプト・アラブ共和国,欧州経済共同体,インド,インドネシア,イラン,イラク,ジャマイカ,日本,メキシコ,ナイジェリア,パキスタン,ペルー,サウディ・アラビア,スペイン,スウェーデン,スイス,米国,ヴェネズエラ,ユーゴースラヴィア,ザイール及びザンビア。参加者は,国連事務総長の出席を歓迎した。次のとおりのオブザーヴァーもまたこの会議に出席した。石油輸出国機構,国際エネルギー機関国連貿易開発会議,経済協力開発機構,食糧農業機構,関税及び貿易に関する一般協定,国連開発計画,国連工業開発機構,国際通貨基金,国際復興開発銀行及びラ米経済機構。
2. この会議の両共同議長であるカナダの枢密院議長アラン・J・マッカッケン閣下及びヴェネズエラの国際経済問題担当国務大臣マニュエル・ペレス・ゲレロ閣下が閣僚会議の司会を務めた。ペルナール・ギットン氏がこの会議の事務局長を務めた。
3. この会議の閣僚代表は,その作業の過程において,また,1975年12月にこの会議を発足させた閣僚会議において樹立された枠組の中で,この会議がエネルギー,一次産品,開発,金融の分野において広範多岐にわたる経済問題を検討したことを認識した。これら各分野における問題は相互に密接に関連していること,また,開発途上国,特にその中でも最も深刻に影響を被つている諸国の問題に特別の配慮が払われるべきであることも認識された。
4. スティーヴン・ボスワース及びアブドルハディ・ターヘル・エネルギー委員会共同議長,アルフォンソ・アリアス・シュライバー及び宮崎弘道・一次産品委員会共同議長,メサウッド・アイシャラル及びエドムンド・ワレンシュタイン開発委員会共同議長並びにスタンレー・ペイトン及びモハメッド・イェガネ金融委員会共同議長は5月14日4委員会の作業の最終報告書を提出し,これら報告書は5月26日~28日の高級官吏会合で検討され,次いで閣僚会議に提出された。
5. 参加者は会議が合意,決定,約束及び勧告を含む国際経済協力のための衡平かつ包括的なプログラムに関する具体的な提案を生み出すべきであるとの合意を想起した。参加者は更に,会議における行動は国際経済協力面での重要な前進を成すべきであり,開発途上国の経済開発に対する実質的な貢献を行うべきであるとの合意を想起した。
6. 参加者は次の事項に関する多くの問題及び措置につき合意した。
(エネルギー)
1 購買力の制約要因を除いて商業的意味での利用可能性及び供給に関する結論及び勧告*。
2 石油及びガスの枯渇性の認識,石油を基礎とした工ネルギーの使用体系からより恒常的再生可能なエネルギー源への移行。
3 節約及びエネルギー使用の効率改善。
4 あらゆる形態のエネルギーを開発する必要性。
5 工ネルギー分野における各国の行動及び国際協力のための一般的結論及び勧告。
(一次産品及び貿易)
1 共通基金の設立。その目的・対象その他構成については今後更に国連貿易開発会議の場で交渉する。
2 合成品と競合する天然産品のための研究・開発及びいくつかのその他の措置。
3 一次産品のマーケッティング及び流通の分野における国際協力のための措置。
4 輸入開発途上国の固有の天然資源の開発及び多様化を補助するための措置。
5 一般特恵制度の改善のための合意。
多角的貿易交渉における開発途上国に対する特別かつより有利な取扱いのための分野の確定並びにその他特定の貿易問題。
(開発)
1 政府開発援助の量と質。
2 資源移転の一般的問題に直面して個々の低所得国に対する特別措置計画としての先進国による10億ドルの供与。
3 食糧及び農業。
4 アフリカヘの特別の言及を含む,開発途上国のインフラストラクチャー開発に対する援助。
5 開発途上国の工業化のいくつかの側面。
6 工業所有権,技術移転,国連科学・技術会議に関する国連貿易開発会議の関連決議の実施。
(金融)
1 外国直接民間投資。但し,補償所得及び資本の送金及び紛争解決の管轄権及び準則についての基準を除く。
2 開発途上国の資本市場アクセス。
3 その他の資金の流れ(通貨問題)。
4 開発途上国間協力。
合意された文章は,本文書と一体を成す別添に収められている(注,別添は省略)。
7. 参加者は,次の事項に関するその他の問題及び措置につき合意し得なかつた。
(エネルギー)
1 エネルギー価格及びエネルギー輸出所得の購買力
2 石油輸出からの累積収入
3 石油輸入諸国または石油輸入開発途上諸国の対外収支問題に対処するための金融援助
4 海洋法会議における資源に関する勧告
5 エネルギーに関する協議の継続
(一次産品及び貿易)
1 開発途上国の購買力
2 補償融資に関する措置
3 現地加工及び多様化の諸側面
4 世界の船腹量及び貿易,商品取引所における代表,定期船同盟行動憲章及びその他の事項における開発途上国の利益に関する措置
5 合成品に関する生産制限及びその他の措置
6 一次産品の分野における投資
7 一次産品総合計画の実施により不利益を蒙るかも知れない開発途上国の利益の保護のための措置
8 一次産品総合計画の新国際経済秩序に対する関係
9 貿易の制度的枠組,一般特恵の側面及び多角的貿易交渉に関する措置並びに供給条件
(開発)
1 開発途上国の債務
2 工業化目的のための調整援助措置
3 製品及び半製品の市場アクセス
4 多国籍企業
(金融)
1 補償,所得及び資本の送金及び紛争解決の管轄権及び準則についての基準。
2 インフレ対策。
3 産油開発途上国の金融資産。
これらの事項に関する参加者あるいは参加者のグループによりなされた提案も上記の別添に収められている(注,別添は省略)。
8. 国際経済協力会議における開発途上国よりの参加者は,同会議において,開発途上国の幾つかの提案に対応する進展がなされたことを認識する一方,国際経済体制の構造的改革に関する大部分の提案及び焦眉の問題についての緊急な行動に関する提案のいくつかについて合意されなかつたことに,遺憾の意を示した。
従つてG19は,国際経済協力会議の結論は新国際経済秩序の樹立を目ざす総合的かつ衡平な行動計画のために想定される目標を達成出来なかつたとの感じを有している。
9. 国際経済協力会議における先進国よりの参加者は,概してこの会議が協力の精神をもつて開催されたことを歓迎し,開発途上国と先進国との間の対話が他の場所において継続されるに当り,この協力の精神を維持するとの決意を表明した。
これらの国は,エネルギー協力の幾つかの側面のような,対話の幾つかの重要な分野について合意に至ることが出来なかつたことを遺憾とした。
10. 会議参加者は,この会議は国際経済情勢の一層広汎な理解に貢献し,この会議における集中的討議は,全ての参加者にとつて有益であつたと考える。
会議参加者は,国際経済協力会議は国際連合組織及びその他の既存の適当な諸機関において,積極的に継続して追求されるべき先進国と開発途上国との間の継続的対話の単なる一局面であることにつき合意した。
11. 会議参加者は,この会議の成果を検討と適当な行動のために第31回国際連合総会再開会期及び全ての他の適当な諸国際機関に対し送付することに合意した。
参加者は更に,懸案諸問題の集中的検討は国際連合組織及びその他の既存の適当な機関において,継続されるべきことに合意した。
12. 会議参加者は,本報告書において合意された国際協力のための諸措置を時宜を得た効果的方法にて,実施することを誓約する。会議参加者は,この会議に参加しなかつた各国がこの共同努力に参加することを慫慂する。
13. 最後に,この会議の閣僚代表は,フランス大統領及びフランス政府に対し,国際経済協力会議の作業を容易にしたその厚遇と協力に対する謝意をあらためて表明した。
(1977年6月24日,パリ)
1. 経済協力開発機構(OECD)の閣僚理事会は,6月23日にはアンドリュー・ピーコック・オーストラリア外務大臣を議長として,また,6月24日はフィリップ・リンチ・オーストラリア大蔵大臣の司会のもとで開催された。
開発協力
2. 閣僚は,国際経済協力会議(CIEC)の結果を検討し,国際開発協力の長期的側面について討議した。その後,閣僚は,本コミュニケ付属の「開発途上国との関係に関する宣言」を採択した。閣僚は,宣言にもられた目標に向かつて努力するに際して,種々の国際場裡における開発途上国との特定の討議に備えて加盟国政府を支援するため,OECDにおける密接な協調と調整の強化の重要性を再確認した。
エネルギー
3. 閣僚は,1980年代にも顕在化しうる世界のエネルギー需給の不均衡が,OECD諸国及び世界中に深刻な経済的・社会的・政治的影響を及ぼすであろうことを認識した。閣僚は,エネルギーの節約及び代替エネルギー源の開発のためにより強力な行動をとること並びに経済政策全般の中に健全なエネルギー政策を含めることにより,かかる状況を回避する決意を表明した。
一次産品
4. 閣僚は,一次産品に関する継続的な討議の重要性に留意し,国連貿易開発会議(UNCTAD)において今後とも交渉が行われる具体的目的,目標及びその他の構成要素を有する共通基金の設立につきCIECで到達した合意並びにUNCTADにおいて行われている産品に関する交渉の成功のためあらゆる努力を払う旨CIECにおいて宣言された意思を承認した。閣僚は,加盟国のかかる努力を支援するため一次産品の分野における作業を継続し,また,その他の一次産品関連の諸問題を検討するようOECDに招請した。
貿易
5. 閣僚は,経済情勢は,いくつかの点において,1974年の貿易宣言の採択時に一般的であつた情勢とは異なるが,他方,それは加盟国の情勢における異例な困難及び差異により依然として特徴づけられていることに意見の一致をみた。閣僚は,高率の失業の持続及び特定セクターにおける困難が保護主義の圧力を増大させていることに懸念をもつて留意した。閣僚は,保護主義の政策に訴えることが失業を増加させ,インフレを増進し,経済的福祉を減退させるであろうことを強調した。閣僚は,OECD諸国経済の相互依存の深まりと相俟つて現下の経済情勢は,一方的な貿易及び経常収支の制限的措置並びに人為的な輸出促進-この種の措置は自己破壊的な意味あいを有する波及の危険を伴う傾向がある-を回避するために政治的な約束を更新する必要性を高めたことに意見の一致をみた。閣僚は,また,このような約束及び一般的経済政策の分野での関連する節度がOECD地域におけるインフレなき持続的経済成長のための戦略の不可欠な要素であることに意見の一致をみた。まさに,かかる成長それ自体が制限の回避を容易にするものであろう。
6. 加盟国政府(注)は,従つて,1974年5月30日の貿易宣言を更に1年間更新することを決定した。閣僚は,全ての関係国の利益を考慮した方法で,工業であれ農業であれ,貿易問題に対し多国間で受諾可能な解決を見い出し,かつ,実施するために現に可能である協議を十分活用すべきことに合意した。セクター上の問題の場合には,それが決定的なものとなる前にかかる問題を確認し,また,特に世界経済の構造的変化を勘案しつつかかる問題に関する協議を行うためにあらゆる努力が払われるべきである。
7. 閣僚は,輸出信用に関し多国間協力において達成された進展を歓迎し,公的に支持される輸出信用の供与に関する指針についての合意を改善し延長するために一層の努力が必要とされる旨強調した。
8. 閣僚は,自国が直面している経済問題に対する総合的な対処振りにおいて,開放的かつ多角的貿易体制を維持することが基本的要素として緊要であることを再確認し,また,多角的貿易交渉(MTN)に対し,1977年中に主要な分野において実質的な進展を図るとともに,出来る限り早急に一連の問題につき合意に達することを目的として,活力を与えることの重要性を強調した。
9. 閣僚は,国際連合経済社会理事会において行われている国際商取引における腐敗行為に関する作業を歓迎するとともに,国際協定の交渉も含め不正支払いと闘う適当な手段につきできる限り早急に合意に達することを目的として必要な措置をとることについて希望を表明した。
国際投資及び多国籍企業
10. 1976年6月21日のOECD加盟国政府による国際投資及び多国籍企業に関する宣言及び決定を想起し,閣僚は,また,国際連合多国籍企業委員会の行動規範に関する作業を歓迎した。
持続的経済拡大のための戦略の下における進展
11. 閣僚は,完全雇用及び物価安定への漸進的な回復を目ざして,1976年6月に採択した持続的拡大のための戦略を再確認した。この戦略が依拠する基本的な前提は,完全雇用を回復しかつ増大する経済的及び社会的要求を充足させるために必要とされる着実な経済成長は,すべての加盟国がインフレの根絶に向かつて更に前進することなくしては持続的なものとはならないであろうということである。閣僚は,戦略を実施する上で見られた進展につき検討し,来るべき年の見通しにつき見直しを行つた。深刻な問題が依然存在することを認識する一方,閣僚は,世界的規模のインフレなき持続的成長の基礎を提供するとの意図の下に,いくつかの加盟国政府が1977年中の経済成長目標を約束し,また他のいくつかの加盟国政府が安定化政策を約束した事実を歓迎した。
12. 閣僚は,いくつかの国には当てはまらないが,この戦略の目的の実現は1977年に達成されと見込まれる成長率よりも幾分高い1978年のOECD域内全体としての成長率によつて促進されるであろうことに意見の一致を見た。1978年における5%前後のOECD地域の全体的なGNP成長率が,この時点では望ましくかつ戦略と整合性あるものと思われる。閣僚は,これを達成するため,必要かつ適当な場合には,行動をとることに合意した。この幾分高い成長率は,
-来年失業を減少する上で真の進展が見られることを可能とし,
-失業者に職を与えるために必要な生産投資を刺激することに役立ち,
-インフレ率の一層の低下と両立すベきである。
13. インフレの一層の克服は放置したままでは実現しない。物価と賃金の悪循環を緩和するためには断固たる措置が要請される。いくつかの国は強力な安定化政策を遂行し,さらにいくつかの国はそれを強化する必要がある。より好ましい国際収支均衡を促進するため,対外ポジションの弱い加盟国は,持続可能な経常収支ポジションに到達し得るよう,インフレを低下せしめることと両立し得る率に国内需要の増加を抑制し,また競争力を改善するための政策を進めるであろう。対外ポジションの強い加盟国は,インフレの一層の低下と両立し得る国内需要の持続的拡大を行うであろうし,また,これら諸国は基調として存在する市場の力に対応してその経常収支ポジションが弱まり,その通貨価値が上昇することを見守る用意がある。
14. 成長と安定のための具体的目標及び政策は,各加盟国でそれぞれ異る。しかし,それらの総体としてはOECD域内及び世界経済全体においてインフレなき持続的な成長への基礎を与えるものでなければならない。閣僚は,戦略の下における進展を見守るための手続きを強化する必要性について合意した。この目的のため,閣僚は,その相互間の整合性と全体的見地での意味合いを検討しそれが来年中の進展を見守るための基礎を提供し得ることとなるよう,加盟国は1978年のGNPと国内需要の増加の予備的な目標及び安定化政策をOECDに通告することを決定した。
15. 閣僚は,需要の持続的増加は,必要とは言え,一つには構造的原因と近年の出来事の後遺症に起因するところの失業と停滞する投資の問題をそれ自体で解決することにはならないことを認めた。
-現在の停滞する投資は,後に失業につながる。近年実質賃金の上昇が生産性の伸びに先行した国では投資収益を増加させる必要がある。いくつかの国では,公的及び個人消費の増加の抑制について政,労,使の間で一層の合意が生れることの必要性があろう。
-現状においては,適当な場合には,急速な構造上及び技術上の変化の要請に労働力を適合せしめることに資する政策を含め,全体的な需要管理政策を雇用を増大させる目的の特定の措置によつて補完するための一層の努力がなされるべきである。
-失業を縮小するための努力において,若年労働者の失業に特別の注意が払われねばならない。特別の措置が多くの国でとられており,更にこれらの措置が必要とされよう。閣僚は,経験の交換を強化し,又この目的のために緊急にハイレベルの会議を組織するようOECDに対し指示した。
16. 閣僚は,国際収支の状況を検討した。閣僚は,いくつかのより大きな加盟国によつてなされつつあるより適当な対外収支ポジションに向けての進展を歓迎した。いくつかのより小さな加盟国もまた正しい方向での進展を見せている一方,その多くは依然維持し難い大きな経常収支赤字を続けている。閣僚は,OECD域内における経常収支ポジションの更に持続可能なパターンに到達するための継続的努力の必要性を強調した。閣僚は,適切な安定化計画を支援するため適当な公的融資制度が利用できることを確保する必要性について合意した。この関連で,国際通貨基金専務理事より国際通貨基金を通ずる国際収支ファイナンスのための追加的資金の交渉で見られた進展についてのステートメントが行われた。多くの閣僚は,国際通貨基金の制度に加えてOECD金融支援基金の実施に重要性を付していることを強調した。
17. 閣僚は,現在の各種の困難がいくつかの加盟国の長期的な構造上及び開発面の問題ならびに雇用及び国際収支困難を悪化させていることに留意した。閣僚は,従つて,これらの問題の諸側面をとりあつかつているOECDの権限ある機関がこのような困難を克服する方策を積極的かつ調整のとれた方法で考慮に入れるべきことに合意した。
18. 閣僚は,マクラッケン教授の議長の下に専門家グループがとりまとめた「完全雇用と物価安定を目指して」と題する報告に含まれている諸勧告に興味をもつて留意し,本報告の分析と勧告をともに検討するようOECDに指示した。閣僚は,OECD及び加盟国政府は各国間の重要な相違を考慮に入れつつ,中期にわたり高いインフレ率を許さない政策が次の要素のいくつか又はすべてを勘案して立案されるべきであるとの勧告を特に検討すべきことに合意した。即ち,総通貨供給量の増加に関する公的に表明された基準,公共支出に関する指針に適合する財政政策及びインフレ的刺激を回避するための財政上の基準,そして完全雇用の達成及び維持と合致する価格・賃金の行動様式が明確にされるような協議取極めである。
19. 閣僚は,また,完全雇用のための戦略についてのOECD労働組合諮問委員会の報告に興味をもつて留意し,これらの報告ならびにインフレなき成長についてのOECD経済産業諮問委員会のペーパーに含まれる提案を検討し評価するようOECDに指示した。
* いくつかのG19代表団は,この項目は閣僚会議に対するエネルギー委員会の両共同議長の報告及びエジプト,イラン,イラク及びヴェネズエラの代表によつてエネルギー委員会に提出された提案のコンテクストの中で捉えられるべきであると考えている。
(注) スペインは,暫定的にその立場を留保した。