-わが国が行った主要演説-
2. わが国が行った主要演説
(1977年6月23日,パリ)
1 今日における国際経済関係は相互依存のたかまりの中にあり,国際経済の調和的発展のためには一国の繁栄は他国の繁栄なくしてはあり得ません。先進国と開発途上国の福利は相互に結びついており,先進国の経済発展が開発途上国の成長を促進し,また開発途上国の繁栄は先進国の発展に不可欠であります。かかる情勢の中で,南北問題は国際社会の安定と繁栄のため解決されるべき重要な課題となつております。
2 先般終了した国際経済協力会議は一時は会議決裂ないし文書不採択の危険もありましたが,先進国が同会議を円満に終了させるとの強い決意をもつて臨んだことから会議の決裂という事態を回避することができ,また過去一年半にわたる間断なき対話を通じ南北問題及びエネルギー分野において相互理解が深まりました。
共通基金,政府開発援助の拡充,総額10億ドルの特別行動などの具体的成果は,南北関係の改善という見地から一歩前進とみられ,意義あるものと言えましよう。なかでも,先進国は効果的かつ実質的な開発援助の増大を図ることに合意し,わが国は今後5年間に倍増以上の援助の拡大に努力する旨表明いたしました。
先進国が右会議において重視していたエネルギー分野においては,エネルギーの安定供給の必要性など多くの諸点について合意が形成されたことは,今後のエネルギー情勢の安定化に役立つものとして注目に値するものと考えます。エネルギー対話の継続問題について参加国全体の合意を得るに至らなかつたことは残念でありますが,一部の開発途上国にも対話の必要性の認識が高まつていることなどから,今後何らかの形でエネルギー対話が再開されることも期待し得るものと考えております。わが国としてもエネルギー情勢の安定化に資するため,エネルギーの節約と代替エネルギーの開発に引続き努力することにより,石油依存度の軽減に真剣に取り組んで行く所存であります。
3 今後の南北問題のとり進め方につき,私は次の2点を強調したいと思います。
第一に,経済制度面の問題については,長期的にみて開発途上国の開発に真に貢献でき,かつ世界経済全体の円滑かつ健全な発展に資するものは積極的に施策を講じるべきであります。たとえば,途上国産品の市場拡大措置については,東京宣言に留意しつつ,MTNなどの場を通じて努力すべきでありましよう。
一次産品問題については,その市場の長期的な安定及び改善のための施策を検討する必要がありますが,その際,共通基金,個別商品協定の如き問題は市場経済原理に調和させる方向で,南側との協力を図つて行くべきものと考えます。
第二に,今後の開発協力がいかにあるべきかにつき述べたいと思います。まず事務総長ノートにもられた長期的観点から開発協力の政策・目的などにつき見直すべき時期にきているとの提言に同感するものであります。そのほか事務総長が提示されたいくつかの構想は示唆に富み,興味深いものと考えます。
この関連で,我々は開発途上国間の発展段階の多様化傾向という事態を見過すことは出来ません。我々は,途上国の発展段階に応じ,きめ細かな対応を行う必要があります。従つて,特に人間の基本的なニーズに応える形での援助を拡大すると同時に,いわゆる中進国の発展に対してもその自立過程を容易にするような協力を進めていくべきであります。
我々は,近隣するアジアにおいても,このような多様な発展段階を有する国々が,開発に向かつて自助努力を行つている姿を目のあたりにしております。
わが国は,わが国自身がたどつてきた過去を想起し,その経験を生かしつつ,途上国がその当面する諸問題の解決に向かつて傾けている努力に対し,他の先進国とともに一層の協力を進めていく所存であります。
4 南北問題は長期的観点からとらえる必要があります。国際経済協力会議は,南北間の建設的な対話がいかに容易でないかを示すとともに,我々の今後の努力がいかに必要であるかということにつき認識を新たにさせられました。我々は,南北双方の現実的かつ責任ある態度によつてのみ南北関係の改善が可能となることを銘記すべきであります。わが国は,過去数年にわたり維持されてきた先進国間の協力体制を高く評価するとともに,この協力関係を今後も維持,強化して行く必要があると考えます。
(2) 第32回軍縮委員会夏会期における「核不拡散」に関する小木曾大使演説
(1977年8月11日,ジュネーブ)
I 「問題提起」
議長
1 本日,私は現代の最も重要な課題の一つである核不拡散の問題を特にとり上げ,日本政府の基本的見解を申し述べたいと思います。核不拡散の問題は,現在,端的には,増大するエネルギー需要を満たすために原子力エネルギーの供給を確保しつつ,同時に核兵器の拡散を防止するという二つの要請を調和的に追求するという問題として,にわかに国際的関心を集めています。しかしながら私は,問題はそこにとどまらず,更により広い視野から原子力の軍事利用及び平和利用の両面において,どこに核拡散の危険が存在するかを検討し,それらの危険を防止するためには何を為すべきかという課題であると考えます。
議長
2(1) 私は,ここで私が提起した課題を検討するにあたり,現在100余の加盟国を有する核兵器不拡散条約(NPT)が,その不平等性に基づく種々の問題点にかかわらず,核拡散を防止し,今後この面で一層の国際的努力を推進するに当つて,最も重要な法律的枠組みであるという事実を改めて強調したいと思います。従つて今後の核拡散防止のための新たな国際的努力は,NPT体制を出発点とすることが最も実際的であると思います。
(2) また1968年に同条約が作成された当時と現在とを比較するならば,その間石油危機を契機とする世界的なエネルギー不足によつて原子力エネルギー確保の緊急性が叫ばれるに至り,その結果原子力発電が急速且つ広範に普及した事実に気がつくのであります。私は,このような事態に伴つて核拡散の危険も増し,これを防止するためには新たに一層の国際協力が必要となつていることを十分認識しております。
(3) 従つて現在われわれが為すべきことは,第一に核防条約自体の実効性を確保するための措置をこの条約の枠組みの中でとることであります。そして第二に更に広い視点からこの枠組みの外でこの体制を補完するためにいかなる措置をとるべきかを,原子力技術先進国に限らず,全てのNPT締約国及びより広い範囲の国の参加を求めて,国際的に探究することであります。
II 「NPTの位置づけ」
議長
1(1) 考察を進めるに当り,まずNPT体制とは何であるかをもう一度再考してみる必要があると思います。この体制は,軍縮の観点からは,新核兵器国の出現を防止するための核超大国を中心とする核軍備管理の一面を有すると同時に,核軍縮への現実的な第一歩と信じて結集した多くの非核兵器国の希望の象徴でもあります。また原子力平和利用の観点からは,核兵器開発につながらない形での平和利用の発展を,非核兵器国に対し,核兵器国と区別することなく保障する国際協力体制であります。
(2) これを更に条約の内容に沿つて敷桁するならば次のように述べることができます。すなわち非核兵器国が条約により核兵器の製造又は取得を義務として放棄しているのに対し,核兵器国は製造又は取得を認められ,条約上特別の地位を与えられているのであります。しかしその特権には特別の責任を伴います。これがNPT第6条により,「誠実に核軍縮交渉を行うこと」を法的義務として約束した根拠であり,核兵器国には具体的な核軍縮措置をとる責任があると申せましよう。つまり核兵器国自身が,核兵器の管理に万全を期すとともに,その削減を行つていくことが道義的に要求されています。非核兵器国が核武装のオプションを自から放棄してNPTに加盟し,その義務を受入れたのは,一方において,このような責任を遂行する核兵器国の意思に信頼を置いたからに他なりません。また非核兵器国は,同時に,その義務のいわば見返りとして,条約上無差別に平和利用の権利を確保されていると言えるのであります。この二つの要素が,まさにNPTの屋台骨を形づくつているのであります。
(3) 従つてNPTという核不拡散のための枠組みを実効あるものとするためには,核兵器国が非核兵器国の信頼に応えて具体的な核軍縮措置をとり,また非核兵器国の平和利用の権利がその核兵器を持たない義務に見合つて実質化されることが枢要であります。もし,これらが実施されないときには,NPTはその信頼性を損われ,またその普偏性を追求することも困難となりましよう。わが国が昨年NPTを批准した際発表した政府声明の中で,「核軍縮に特別の責任を有する核兵器国が具体的な核軍縮措置をとつていくことを強く要請」し,また「全人類の福祉のために原子力の平和利用に関する国際協力が,この条約の規定に従い強力に推進されるべきであると確信」する旨を強調したのも,このような趣旨からであります。更にわが国は,昨年の国連総会における小坂前外務大臣演説の中で,「核兵器国と非核兵器国の差別は固定永続化されてはならず,将来核兵器国が核兵器を廃絶することによつて是正されなければならない」旨明らかにしたことを付言したいと思います。
(4) しかし現実には,核軍縮の分野では見るべき進展がなく,また平和利用の分野では,一方でNPT加盟国たる非核兵器国の原子力活動の拡大に制約が課せられているのに反し,他方でNPTに加盟していない非核兵器国がNPT締約非核兵器国と同様に原子力協力の恩恵に与つている例が相次いでおります。かかる事態はNPTの信頼性を阻害しかねないと言わざるを得ません。この二つの分野において何らかの具体的措置がとられることが-それは核大国の政治的意思に依存していますが-未だNPTに加盟していない核兵器国及び幾多の敷居国がNPTに加盟するインセンティブを与え,この条約に真の普偏性を与えることになるのであります。
III 「NPT枠内での措置」
議長
1 核防条約はこのような問題を内包していますが,冒頭にも述べたとおり,NPTが現実には核不拡散の最も重要かつ基本的な国際間の法律的枠組みであるという政治的前提にかんがみ,NPT体制を強化していくことが核拡散防止のための現代の国際社会の建設的な任務であります。では如何にしてこれを行うかをNPTの枠内及び枠外について考えたいと思います。先ずNPTの枠内での措置として,私は,次の諸措置を提唱します。
(1) その一は,NPT締約核兵器国を始めとする原子力技術先進国がNPT締約非核兵器国との原子力協力に際し,同条約第4条に規定する平和利用確保のための積極的措置をとることであります。これは非核兵器国がNPT上の平和利用の奪うことのできない権利として当然に要求し得るものであり,これが画に描いたもちに終わらないようこの権利の実質化がはかられなければならないからであります。
そもそも上述のごときNPTに内在する不平等性にもかかわらず自発的に核兵器開発への途を放棄し,核拡散防止の大義に貢献している国の原子力平和利用に制約を加えることは,加盟国に条約の意義についての疑問を生ぜしめ,非加盟国から新たに加盟するインセンティブを奪うことにもなりましよう。具体的には,NPT締約非核兵器国に対し,天然ウランの供給,濃縮・再処理サービス,原子炉等の施設及び技術の供給を確保するための具体的かつ核拡散の危険の少ない措置を考慮するよう提唱したいと思います。
(2) 第二に,全てのNPT締約国は,NPT未加盟の非核兵器国に対し,原子力分野での協力を行うに際し,まず,少なくともその全ての平和利用活動に対してIAEA保障措置を受諾するよう要求すべきであります。更にNPT締約国が受諾している保障措置より,一層厳しい義務をこれらNPTの枠外にある非核兵器国に負わしめるよう,原子力技術先進国間の検討を念頭におきつつ,輸出国の政策を調整して行く必要があります。かくして非加盟国に対し,NPT加盟へのインセンティブを与えることができましよう。
(3) 第三に,核兵器国は原子力の平和利用活動に関する限り,IAEAの保障措置を自発的に受諾すると同時に,後述する兵器用核分裂物質の生産停止を行うための交渉を開始すべきであります。私は,この点で既に米英両国がIAEAとの間に,この目的のための保障措置協定を結んでいることを歓迎し,両国が早期にその協定を実施に移すことにより,その平和利用施設に対し,速かにIAEAの保障措置を受諾するよう要請したいと思います。同時に,他の核兵器国に対し,同様の措置をとるよう訴えたいと思います。
(4) その四は,IAEAの強化であります。NPT体制の下における平和利用の大前提が,締約国における平和目的のための原子力の研究,生産及び利用を発展させること,並びに締約国間における平和利用の設備,資材及び技術的情報の交流を自由に発展させることにあることは言うまでもありません。このような研究及び交流の進展が同時に核拡散防止の観点から潜在的な危険を伴うことは事実でありますが,しかし核の拡散を恐れるの余り,NPTに基づく加盟国の正当な平和利用の権利とそれに基づく平和利用活動を,たとえ部分的にせよ,凍結しようとすることは,角をためて牛を殺すことになりかねません。問題は,核爆発装置の開発に直接つながり得る技術及び物質の平和利用に際し,いかにしてその軍事利用への転用を防止するかにあります。つまり,これらの技術及び物質に対する有効な保障措置を確立することであります。この問題についての具体的な提言は後述いたしますが,この分野でIAEAが実に設立以来20年にわたつて経験と努力をつみかさねてきたことを考えれば,われわれはこの問題の解決のためにIAEAの経験と知識を最大限に生かすとともに,その役割の強化を図るべきであると考えます。
VI 「NPT枠外での措置」
議長
1 私は,次に核拡散の危険はどこにあるかを一応NPTを離れて広い観点から,すなわち核軍備管理面及び平和利用の面のそれぞれについて検討し,世界的にあるいは地域的にこれを防止するため何ができるかを一般的に考察したいと思います。
2 軍事面
NPTが核兵器の軍備管理に関する一つの世界的秩序であることは既に指摘したとおりでありますが,この条約は,更に歩を進めて核兵器の生産の規制や現存する核兵器の廃棄については何ら規定しておりません。しかし核拡散の危険を問題にするとき,われわれは先ず核拡散の根源にある核兵器の存在そのものの危険を忘れるわけにはゆきません。また核兵器の絶対数の増加は,同時に偶発的使用の機会を増し,核兵器又は核物質が事故により紛失したり,テロリストの手に渡つたりする危険をもたらします。そこでNPTの考慮の外にあるこれらの危険を防止する必要があります。
私は,以上のような方向付けを与えた上で,早急にとられるべき実効可能な措置として,次の措置を挙げたいと思います。
(1) 核兵器の偶発的使用の防止
核兵器の数が増大し,戦略核弾頭が数千発,戦術核兵器は数万発をもつて数えるようになると,よほど有効な管理が行われない限り偶発戦争の危険が高まつてくることは明らかであります。
私は,核保有数につき圧倒的優位にある米ソ両国が,まず自らの核兵器の管理体制を整備し,更にこれを国際的な取極めにまで発展させることが必要であると思います。このような観点から,米ソ偶発戦争防止条約,米ソ・ホット・ライン協定の成立は一応評価するものでありますが,更にミサイル発射実験,軍事演習等の相互通報義務を制度化することを提案したいと思います。
(2) 米ソ間戦略兵器制限交渉(SALT)
核兵器の存在そのものの危険に対しては,核兵器の質的・量的競争を防止するという所謂核兵器の垂直的拡散の防止が必要となるわけであります。これが前述のとおり,核兵器国がNPT第6条に基づき,誠実に核軍縮交渉を行うことを要請されている所以であります。私は,具体的には現在米ソ間で行われているSALT・IIの早期妥結と,核兵器の実質的削減を内容とするSALT・IIIの早期開始を希望します。米ソ間のSALT交渉は現在若干の困難に直面しているように見えますが,本件を推進するに当っては特に両超大国の最高指導者の勇気と指導力に期待するところが大であるのは言うまでもないことであります。
(3) 包括的核実験禁止条約の締結
わが国が,軍縮委員会の場で永年に亘り,包括的核実験禁止の早期実現を訴え,そのための具体的提案を積み重ねてきたのもまさに核軍縮の第一歩として,核兵器の質的改良の中止を重視しているためであります。私が,条約締結のための技術的問題点解明と政治的環境の成熟を踏まえて,4月21日にこの委員会に具体的な締結交渉手続きを提唱したことは御承知のとおりであります。私は,来年の国連軍縮特別総会を控え,条約締結交渉を開始するようここに再度要請したいと思います。
この点に関連して,PNEの問題がCTB条約の交渉に占める重要性にかんがみ,わが方の立場を再度明らかにしたいと思います。PNEの取扱いについては,一昨年のCCDにおける非公式専門家会議の検討の結果,現在の技術では,兵器目的の爆発装置と平和目的のそれを区別することは不可能であるという意見が大勢を占め,これは昨年の米ソ間PNE条約の規定ぶりにより一層明確になつたと思われます。以上から考えても,CTB体制の下でPNEの規制を放置すれば,(1)非核兵器国が平和目的の名の下に核爆発能力を取得することを可能ならしめ,(2)核兵器国に対してはCTBの抜け穴を提供する結果となることは明白であります。以上のごとき危険にかんがみわが代表団はPNEの名の下に,いかなる核兵器実験も行われていないことを確保するための国際的監視について合意が達成されない限りPNEは行うべきでない,と考えます。
(4) 兵器用核分裂性物質の生産停止
更に進んで私は,核兵器拡散防止にとって問題となる兵器用グレードの核分裂性物質の生産・貯蔵が過剰傾向にある一方,平和利用のための燃料核分裂性物質が,長期的には不足する見通しであることを指摘しなくてはなりません。この点にかんがみ,私は核軍縮の第二のステップとして,核兵器国が,兵器用の核分裂性物質の生産を停止すると共に,そうして節約される天然ウランの平和目的への転用及び兵器用高濃縮ウランを平和利用に転用することを提案します。兵器用グレードのウランの希釈技術は,技術的に探究されていることも付言したいと思います。
この措置は,核軍縮の観点からは,核兵器の量的凍結のための実質的なステップであります。
(5) 非核兵器国の安全保障
最後に,しかし重要な問題として,核兵器のオプションを放棄している非核兵器国の安全保障をいかにして確保するかという問題があります。
この問題は,NPT再検討会議の際にも,最も議論を呼んだ困難な問題であります。非核兵器国の安全保障を確保する具体的かつ現実的な方途は,それぞれの国及び地域が置かれた,現実の政治的・軍事的条件等をふまえた解決策をとることにあると考えられます。ラ米核禁条約の如き非核兵器地帯の構想も,相対的に核兵器の活動範囲を狭め,封じ込むことに役立つという意味で一つのアプローチであると考えます。しかしながらいかなる地域においてかかる構想が実効的であるかについては,それぞれの地域の状況に応じて考える他ありません。
またインド洋平和ゾーン構想の如きも,その実現に当り核兵器国を含む関係諸国の合意が得られ査察検証を含む適切な保障措置を伴い,国際航行の自由を初めとする国際法の諸原則に一致するようなものであるならば,適用地域の非核兵器国の安全保障に貢献しうるでありましよう。
3 平和面
議長
次に私は,平和利用の面における核拡散を防止するための措置について考察したいと思います。それは,核兵器開発能力につながるセンシティブ・テクノロジー及び物質の効果的な管理についてであります。この問題に触れるにあたり,私はここで考えられる新たな国際的措置の実施が,既にNPTの法律的要請を充たしている諸国については,各国が現実に置かれている状況を踏まえて行われるべきであることを予め強調しておきたいと思います。
(1) 先ず,私は使用済み燃料を再処理して得られたプルトニウムを再循環するという核燃料サイクルが,30年以上に亘る国際的な原子力平和利用研究の結果選択された,しかも現状では技術的・経済的に確立されている唯一の核燃料サイクルであるという事実を指摘しなくてはなりません。またわが国の如く大量のエネルギーを原子力発電に依存せざるを得ず,また環境上の考慮から,物理的に使用済燃料を長期貯蔵することのできない国にとつて,使用済燃料を再処理し,ウラン及びプルトニウムを再利用することが,エネルギーの長期安定供給確保の観点から必要不可欠であるという点を指摘したいと思います。
他方同時に,プルトニウム及び再処理技術の伝播(spread)が潜在的核開発能力の拡散と裏腹の現象に他ならないことから,その危険を防止するために真剣な国際協力が必要とされていることもまた事実であります。多くの国とこのような懸念を共にしているわが国としては,こうした協力に積極的に参加し,有効な核不拡散政策の確立に貢献したいと考えています。
これらの物質及び技術が核拡散につながらないよう効果的に管理するための方法としては,(イ)核燃料サイクルに関する国際的評価計画を実施すること,特に(ロ)核兵器製造に不適当な形でプルトニウムを抽出する技術的可能性を探究すること,また(ハ)CTB条約を締結し条約への加盟を促進することもこれに資すると考えられます。
再処理技術が核拡散につながらないようにするための方法として,先ず(イ)の核燃料サイクルに関する国際的評価計画については,わが国の原子力開発計画が阻害されないとの了解の下にこれを支持するものであります。またこの計画を効果的かつ真に権威あるものとするためには,核先進国のみならず,敷居国を含むできる限り多くの関心を有する国の参加が必要不可欠であります。またそれらの国にある特定の原子力施設のデータが,この国際的検討のために提供されることが望ましいと思います。
他方,かかる国際的評価の実施が完了するまでの間においても,増大するエネルギー需要を賄うために現に使用済燃料の再処理を緊急に必要としているNPT加盟非核兵器国に関しては,再処理計画及びプルトニウム利用計画は阻害されるべきでないと考えます。
(2) 最後に核物質の国内及び国際間での移動に際しての危険の問題,即ち,核物質を国内及び国際間で輸送する際の紛失あるいはハイ・ジャックの問題があります。またこれらの事故に伴う核物質による環境汚染の危険も指摘できましよう。この問題の一部については,既にIAEAで専門家の検討が行われていますが,私は更に進んで核物質の貯蔵・輸送の際の物理的防護に関する国際的取極めを作成する必要性を指摘したいと思います。
V 「結語」
議長
1(1) 1938年に人類が核分裂反応を発見し,1941年にその制禦に成功して以来約40年が過ぎ,多くの国が原子力の平和目的の研究,生産及び利用のために膨大な量の資金と人員を注ぎ込んできました。しかもこれらの国のうち多くの非核兵器国は,核拡散防止に協力するためNPTを批准しIAEAの保障措置を受諾しています。このことは,エクランドIAEA事務局長の指摘のごとく,「最も重要な資産即ち,その主権の一部を放棄」してまで,核拡散を防止しようとする非核兵器国の真摯な願望の表明であることを,核兵器国は理解すべきであります。
(2) 従つて,冒頭私が提起した現代の課題が要請しているのは,かくのごとく原子力を専ら平和利用と民生の向上のために発展させてきた諸国に対し,NPT上認められている平和利用の権利を,地域的かつ部分的に凍結することではありません。問題は,これらの国に対する"philosophy of denial"を確認することではなく,むしろ上述のようなNPTの枠内及び枠外の諸措置を,均衡のとれた形で実施に移すことであります。かくして現存の核不拡散体制を実効的なものとし,広範囲の諸国の参加による一般的な合意(General Consensus)に基づく原子力利用の国際的コントロールの確立により,この課題を前向きに解決すべきでありましよう。
こうした国際的努力は,とりわけ片や核軍縮の実質的進展,即ち縦の核拡散防止の努力によつて裏うちされる必要があることを,今一度強調せざるを得ません。
核兵器の実質的削減に向つての具体的措置が勇気を持つて開始され,この世界が核兵器の暗い影を払拭する望みを見出すことによつてはじめて,こうした横の核拡散防止の国際協力は,力強いはずみを得ることになりましよう。核兵器大国の核軍縮に対する重大な責任を改めて指摘する所以であります。
このようにしてのみわれわれは真に核拡散の悪夢から世界を解放し,それによつて原子力を1953年にアイゼンハワー大統領が提唱した"Atoms for Peace"Planの理想に立ち帰らせ,本来の目的である平和利用の発展に向つて巨歩を進めることに成功するでありましよう。
(3) 福田総理大臣のマニラにおけるスピーチ(わが国の東南アジア政策)
(1977年8月18日,マニラ)
マルコス大統領閣下,イメルダ・マルコス夫人,御列席の皆様
1. クアラ・ルンプールでの首脳会談出席に始まつた私の東南アジア諸国訪問もいよいよその終りに近づきました。今,わが国と最も近い隣国である,ここフィリピンにおいて,アジアにおける最も傑出した指導者の一人であり,私の親しい友人であるマルコス大統領閣下の御出席を得て,今回の旅行をしめくくる意味で私の所信を表明する機会を得ましたことは,私の非常な喜びとするところであります。
2. 私は,まず今回の歴訪を通じて得た私の率直な印象からお話を始めたいと存じます。
それは,この地域の「多様性」ということであります。私の歴訪した地域は,人種,言語,宗教,文化はもとより,その歴史的背景についても,また経済構造の面でも,まことに多様な様相を呈しております。東南アジアは,決して同質的,画一的な地域ではありません。したがつて,この地域における域内協力の可能性について一部に懐疑的な見方があつたとしても無理からぬことであったかも知れません。
しかしながら,このたび創立10周年を迎えた東南アジア諸国連合(ASEAN)は,この地域の自主的な地域協力機構として,着実に,その地歩を固めつつあります。とりわけ,バリ島における第1回首脳会議はASEANの連帯への志向を前進させる点で画期的でありました。更に今回の首脳会議の成功によって,ASEAN諸国間の連帯への意思は定着したと言えるかと思います。
ASEANは,まさに,その加盟各国の豊かな多様性を肯定し,その誇り高いナショナリズムを尊重しつつ,連帯の強化を通じて,この地域の一体性を求めようとする歴史的な,そして成功しつつある試みであります。私は,クアラ・ルンプールで会談した加盟国首脳のASEANの連帯に寄せられる情熱をこのような創造的な努力の現われとして理解し,評価したのであります。
ASEANという協力の場における共同作業を通じて共通の利益が生れ,それによつて強められた連帯が,次の協力のための計画を可能にする-この繰返しが,ASEANの将来の歩みであろうと思います。その連帯への歩みは,より同質性の高い地域,例えば欧州と比較するとき,時には遅く,時には多くの逡巡を伴うこととなるかも知れません。
私は,ここで,ASEAN諸国の指導者と国民の皆様に一つのお約束を致します。それは,日本の政府と国民は,ASEANの連帯と強靱性強化への努力に対し決しで懐疑的な傍観者とはならず,ASEANとともに歩む「良き協力者」であり続けるであろうということであります。
ASEAN諸国の政府首脳は,今般の会談において,日本をASEANの「とくに親しい友人」であると呼ばれました。順境においてのみならず,逆境においても,理解と友清の手を差し伸べるのが,真の友人であります。日本は,ASEANにとつて,そのような友人でありたいと望みます。
4. 御列席の皆様
ここで,私は,今日の日本が,就中アジアにおいて,どのような姿勢で,他の国々との関係を築こうとしているかについて一言申し述べ,皆様の御理解を得たいと考えます。
第2次大戦後30年の間,日本国民は,自由と民主主義に立脚した社会の建設のために努力を重ねて参りました。この間に,我が国は,この開かれた社会体制の下に1億1千万人の国民と5千億ドルを超える国民総生産を擁するまでに成長し,世界経済の成長と発展に積極的に協力する意思と能力を併せもつに至ったのであります。
過去の歴史をみれば,経済的な大国は,常に同時に軍事的な大国でもありました。しかし,我が国は,諸国民の公正と信義に信頼してその安全と生存を保持しようという歴史上かつて例をみない理想を掲げ,軍事大国への道は選ばないことを決意いたしました。そして,核兵器をつくる経済的,技術的能力を持ちながらも,かかる兵器を持つことをあえて拒否しているのであります。
これは,史上類例を見ない実験への挑戦であります。同時に人口稠密で資源に乏しく,海外諸国との交流と協調を必要とする我が国にとつてはこれ以外の選択はありえないのであります。私は,このような日本の選択こそはアジアの地域,ひいては世界全体の基本的な利益にも資するものであると信じます。我が国が,近隣のいずれの国に対しても軍事的にはもちろんのこと,その他いかなる形であれ,他国を脅かすような存在ではなく,その持てる力を専ら国の内外における平和的な建設と繁栄のために向けようと志す国柄であること-われわれは,このような日本の在り方こそが世界における安定勢力として世界の平和,安定及び発展に貢献しうる道であると確信いたします。
5. 私が常々申しているとおり,今日,人々は協調と連帯以外に生きる道のない時代に生きております。人間は一人で生きていくわけにはまいりません。一人一人の人間が,生まれながらのそれぞれの才能を伸ばし,その伸ばした才能を互いに分かち合い,補い合う,その仕組みとしての社会があります。そして社会がよくなるその中で,一人一人の人間は完成されていくのであります。
まつたく同じように相互依存の度をますます強めている今日の国際社会においても,いずれの国も一国の力だけで生存することは,もはや,不可能になつております。すべての国は,国際社会の中で,互いに助け合い,補い合い,責任を分かち合い,世界全体がよくなるその中で自国の繁栄をはからなければなりません。
6. このことは日本と東南アジアの諸国との関係を考える場合に特に重要であります。
日本と東南アジア諸国との関係は,単に,物質的な相互利益に基づくものにとどまつてはなりません。同じアジアの一員としてお互いに助けあい,補いあうことを心から望む気持があつてはじめて物質的,経済的な関係も生きて来るものと考えます。これこそ,日本と東南アジアの人々が,頭だけではなく,心をもつて理解し合うことの必要性,すなわち,「心と心のふれ合い」の必要を,私が,今回の歴訪を通じ,繰返し訴えて来た所以であります。同じアジア人である皆様には,私の意味するところはよくお判りいただけることと信じます。物質的充足のみでは慊たらず,精神的な豊かさを求めるのは,アジアの伝統であり,アジア人の心だからであります。
7. 東南アジア諸国民の一人一人と日本国民の一人一人との間に心と心の触れ合う相互理解を育てて行くために,文化交流が果す重要な役割りは,あらためて多言を要しません。
今日わが国と東南アジアとの間には科学,芸術,スポーツ等の分野での交流が活発に行われており,それは単に,わが国文化の東南アジアヘの紹介にとどまらず,東南アジアの古い優れた文化の日本への紹介にも及んでいます。
今後ともわが国とASEAN諸国との間に,このような一方通行でない文化交流をさらに積極的に推進していくべきことはもちろんでありますが,同時に,ASEAN諸国間の連帯感が高まるにつれ,域内での文化,学術,とくに地域研究等の分野での交流がますます重視されていることに注目したいと思います。私は,このような見地から,ASEAN側において域内交流促進のための具体的構想が固められるのを受けて,これにできる限りの協力を惜しまない旨を明らかにいたしました。この提案は,ASEAN諸国間の相互理解の増進というASEAN諸国民の願望に対する日本国民の共感を示すものにほかなりません。
幸いにして,ASEAN加盟国首脳と私との会談において,各首脳は,この私の提案に賛意を表されましたので,それは,遠からず実現の運びになるものと考えます。
8. さらに私が,ASEAN工業プロジェクトに対する10億ドルの協力に積極的姿勢を示したのも,地域連帯の強化を熱望するASEAN諸国民の心に「心と心のふれ合う」理解をもつて応えることが重要であると考えたからであります。日本による協力が域内分業の試みとして歴史的な意義を有するこの計画の実現を促進し,ASEANにおける種々の域内協力が今後一層強化発展して行く契機となることを期待します。
わが国は,既に今後5年間のうちに,政府開発援助を倍増以上に伸ばす方針を打出しております。この援助の重要な部分は,東南アジアの工業化計画を促進するための工業プロジェクトや基盤整備に引き続き供与されることとなりましようが,日本政府としては,これに加え,農業,医療,教育等人々の福祉に密着した分野における協力に一層力を入れて行きたいと考えます。
9. わが国の政府開発援助の半ばが,ASEAN諸国及びビルマに向けられていることにも見られるとおり,日本とこれらの諸国の間には,すでに密接な経済上の関係が存在しています。私は,クアラ・ルンプールでの首脳会談と各国の首都における指導者との会談の結果を受けて,この関係をさらに拡大強化する方策について協議して行きたいと存じます。もとよりわが国は,世界的な工業国として,貿易の面でも世界経済全体に対し格別の責任を有しております。世界が排他的経済ブロックに分裂することは全世界にとつて自殺行為であります。とくに,今後広く世界の市場へ進出しようというASEAN諸国の利益にも反するものと考えます。わが国とASEAN諸国とが,特別に密接な経済貿易関係を発展させようとするに際しては,私どもは,世界的,長期的な視野に立つて,われわれの相互の立場と利益とを理解し合うことが,永続的な協力関係を作つて行くために肝要であると考えるものであります。
10. 最後に,ASEAN地域の安定と繁栄は東南アジア全体の平和の中においてはじめて確保されるものであることは申すまでもありません。東南アジアの一角に多年に亘つて燃え続けた戦火がようやく終息した今日,われわれは,東南アジア全域の恒久的な平和と安定のための努力を強化する好機を迎えております。このような観点から,私は,先般のASEAN首脳会議の共同声明において,ASEAN諸国が,インドシナ諸国と平和で互恵的な関係を発展させたいとの願望を表明し,「これら諸国との理解と協力の領域を互恵を基礎として拡大するための一層の努力をする」との方針を打ち出されたことに敬意を表するものであります。このような忍耐強い努力を通じて,相互理解と協力の輪がやがては,東南アジア全域に拡がつて行くことを期待いたしたいと考えます。わが国としても,同様の目的をもつてインドシナ諸国との間に相互理解の関係を定着させるため努力したいと考えます。
11. 御列席の皆様
私は,今回のASEAN諸国およびビルマの政府首脳との実り多い会談において,以上のような東南アジアに対するわが国の姿勢を明らかにして参りました。このわが国の姿勢が,各国首脳の十分な理解と賛同をえたことは,今回の歴訪の大きな収穫でありました。その要点は,次のとおりであります。
第1に,わが国は,平和に徹し軍事大国にはならないことを決意しており,そのような立場から,東南アジアひいては世界の平和と繁栄に貢献する。
第2に,わが国は,東南アジアの国々との間に,政治,経済のみならず社会,文化等,広範な分野において,真の友人として心と心のふれ合う相互信頼関係を築きあげる。
第3に,わが国は,「対等な協力者」の立場に立って,ASEAN及びその加盟国の連帯と強靱性強化の自主的努力に対し,志を同じくする他の域外諸国とともに積極的に協力し,また,インドシナ諸国との間には相互理解に基づく関係の醸成をはかり,もつて東南アジア全域にわたる平和と繁栄の構築に寄与する。
私は,今後以上の3項目を,東南アジアに対するわが国の政策の柱に据え,これを力強く実行してゆく所存であります。そして,東南アジア全域に相互理解と信頼に基づく新しい協力の枠組が定着するよう努め,この地域の諸国とともに平和と繁栄を頒ち合いながら,相携えて,世界人類の幸福に貢献して行きたいと念願するものであります。
12. マルコス大統領閣下並びにフィリピン国民の皆様
昨日マニラ到着のすぐ後に,私は,フィリピン独立の志士リサール博士の記念碑に献花いたしました。東南アジアにおける植民地支配に対抗して最初に独立運動の火の手を挙げたのは,フィリピン国民でありました。今日国際関係に新しい局面が開かれつつあるとき,ASEANの下での協力の進展,南北問題解決のための国際的な努力などの面で,フィリピンが貴大統領の御指導の下に積極的なイニシアチブをとつておられることも,けだし,当然であります。
私は,日本と東南アジア諸国との間に,心と心の触れ合う相互信頼関係を打ち立て,われわれの関係の歴史に新たな一頁を開こうとするときにあたり,とくに貴大統領並びにフィリピン国民の主導的な役割りに期待して,私のお話を終りたいと存じます。
有難うございました。サラマ・ポ。
(4) 第32回国際連合総会一般討論における鳩山外務大臣演説
(1977年9月27日ニューヨーク)
議長
私は,モイソフ議長閣下が第32回国連総会議長に選出されたことに対し,日本政府を代表して祝意を表明致します。
閣下の優れた指導のもとに,今次総会が実り多いものとなるであろうことを,私は確信するものであります。
私は,また,アメラシンゲ大使が,議長として第31回総会を成功に導かれたことに敬意を表します。閣下が,第3次国連海洋法会議議長として引き続きその卓越した手腕を発揮されることを期待しております。
私は,また,ワルトハイム事務総長の着実な業績と国連に対する献身に深甚な敬意を表するとともに,事務総長が国連の諸目的の実現に向つて引き続き尽力されることを確信致します。
議長
わが国は,第2次大戦後一貫して,平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,国際紛争を解決する手段としての武力を放棄し,平和的手段によつてのみ国際関係を処理するとの基本的立場を堅持して参りました。わが国が核軍縮をはじめとする軍縮のための国際的な努力にイニシアティブをとり,また,武器の輸出を慎んできたのもかかる立場によるものであります。わが国が歩んできたこのような道が,国際の平和と安全の推持という国連の目的に合致するものであることを確信して,わが国は,世界の平和と安定のための自らの努力を今後ともたゆみなく続ける決意であります。
議長
かかる観点から,わが国は,今日,アジアにおいて戦火が終息し,各国が平和と安定のうちに経済社会開発に専念しうる環境が整いつつあることに勇気づけられるのであります。
東南アジアにおいては,10年前東南アジア諸国連合を結成した国々が,経済社会発展及び社会的公正の強化を目的とする共同の努力を続け,域内における紛争はもつぱら平和的手段によつて解決する決意を表明し,また,東南アジアの他の諸国との間に平和で互恵的な関係を発展させたいとの願望を強調しております。
インドシナにおいては,各国による再建,復興の真剣な努力が進められております。わが国は,つとにヴィエトナム民主共和国との外交関係を樹立し,また一貫してヴィエトナム社会主義共和国との友好関係の樹立に努めて参りました。私は,ヴィエトナム社会主義共和国の国連加盟が,今次総会において全会一致で認められたことに対し心から歓迎の意を表するものであります。
福田総理大臣は,先月マニラにおいて,わが国の東南アジアに対する基本政策を明らかに致しました。
それは,第1に,わが国は,平和に徹し,軍事大国にはならないことを決意して,東南アジアひいては世界の平和と繁栄に貢献することであります。第2に,わが国は,東南アジアの国々との間に,真の友人として心と心のふれ合う相互信頼関係を築きあげることであります。第3に,わが国は,対等な協力者の立場に立つて,経済開発,貿易,文化交流をはじめとする諸分野において,ASEAN諸国の自助と連帯の努力に積極的に協力し,また,インドシナ諸国との間には相互理解に基づく関係の醸成をはかり,もつて東南アジア全域にわたる平和と繁栄の構築に寄与することであります。
南西アジアにおいても,域内諸国間の関係を正常化し,地域の平和を維持しつつ各国の国情に応じた開発を進める方向が定着しつつあります。わが国は,今後ともこれら諸国との間に開発のための協力を推進する決意であります。また,広く国際社会の当面する諸問題の解決のために,これら諸国との国際場裡における協力を深めていきたいと考えております。
わが国と隣接する朝鮮半島においてなお緊張が存在していることは残念でありますが,今次総会においても,昨年に引き続き,朝鮮問題に関する対決が回避されようとしております。私はこれが半島における現実の緊張緩和につながることを心から期待いたします。
朝鮮半島の平和と安定に深い関心を有するわが国としては,南北両朝鮮間の対話が速かに再開され,朝鮮半島の再統一が平和的な方法で達成されることを引き続き強く希望するものであります。その間,両当事者間の対話の促進のための平穏な環境醸成に全ての国が協力することを特によびかけたいと考えます。
なお,南北両朝鮮がそれぞれ希望するならば,平和的再統一が実現するまでの間,ともに国際連合に加盟することをわが国として歓迎する立場に変りありません。
議長
以上申し述べました如く,わが国は,平和と安定のうちに建設と発展の努力がアジアをおおい,アジアに定着することを強く期待しております。同時に,私は,アジア諸国が外部からの干渉を受けることなく,しかも,自らの安定と発展のための努力に対してはひろく域外からの理解と協力を得られることを強く希望するものであります。
議長
私は,かねてより,中南米諸国が,地域の問題を相互理解の精神によつて解決する域内協力の永い伝統を有することを高く評価して参りましたが,今月初頭パナマ運河新条約の調印にあたり,地域の指導者が一堂に会する姿にあらためて印象づけられたのであります。パナマ運河問題が平和的な話合いを通じて解決されようとしていることに対し,同慶の意を表するものであります。
また,この機会に,わが国としては中南米諸国との協力を一層強化し,これら諸国との友好関係を深めていく所存であることを,あらためて申し述べたいと考えます。
議長
国際の平和と安定の維持にとつて,中東問題が極めて大きな重要性を有することは多言を要しないところであります。わが国は,ジュネーブ和平会議再開のためのヴァンス米国務長官の献身的な努力をはじめ,関係諸国の指導者による問題の平和的解決のための真剣な努力を全面的に支持するものであります。わが国としては,今年中に,イスラエル,アラブ直接当事国及びパレスチナ人の代表たるPLOを含む関係者が,ジュネーブで話し合いを始め得るはこびとなることを強く希望しております。
中東和平の基礎は安保理決議242及び338であり,また,国連憲章に基づくパレスチナ人の正当な権利,就中,民族自決権の実現であります。
武力による領土の獲得及び占領は許されず,イスラエル軍は67年戦争の全占領地より撤退しなければなりません。他方,イスラエルを含むすべての関係国の政治的独立と領土保全が保障されるべきであります。また,パレスチナ人の民族自決権が,国連憲章に従つて承認され,尊重され且つ実現されることが必要であります。
この関連で,最近イスラエル政府のとつたジョルダン河西岸における入植地に関する措置は極めて遺憾であり,中東和平促進のためには,イスラエルが,問題の解決を更に困難にさせるような現状変更の措置を採ることを度しむよう強く要請するものであります。
わが国は,今次総会に際しても早期和平を探究する努力が真剣に続けられることを希望し,かつ,今後とも国際社会の一員として,中東における公正かつ永続的な和平の早期実現のため,わが国自身としてもできる限りの貢献を行いたいと考えます。
議長
南部アフリカの情勢は,その継続が国際の平和及び安全の維持を危くするおそれのあるものであります。南部アフリカにおいては,人種差別の撤廃,非植民地化及び多数支配が,平和的手段を通じて一日も早く実現されなければならず,その過程において国連が有効な役割を果すことが期待されているのであります。
わが国は,ジンバブウェにおける民族主義運動に対する理解と支持を表明するとともに,フロントライン5カ国の努力に敬意を表し,あわせて英・米両国のイニシアティブを評価するものであります。また,わが国は,問題の平和的解決のための国際的努力に協力するため,南ローデシアに対する経済制裁を完全に遵守する所存であります。
ナミビアにおいては,安保理決議385に従つて,南西アフリカ人民組織(SWAPO)をはじめ全てのナミビア住民の参加を得て独立が達成されなければなりません。わが国は,安保理メンバー5カ国の,問題の平和的解決に向つての真剣な努力を支持するものであり,わが国としても国連の問題解決への努力に対し,自らの役割を果す用意があります。
南部アフリカの諸問題に対する南アフリカ共和国政府の立場は決定的な重要性を有するものであります。わが国は,南アフリカ政府が人種差別の撤廃に対する国際的要求を重視するとともに,南部アフリカ問題の1日も早い解決に協力することを強く要請するものであります。就中,南アフリカ政府は,現在行われつつあるジンバブウェ及びナミビアの問題の平和的解決のための国際的努力に十分協力すべきであります。それが行われない場合には,南アフリカに対する非難のたかまりによつて,深刻な結果が招来され得るのであります。
最近,南アフリカにおける核開発の可能性が伝えられておりますが,これは核拡散の可能性を意味するものとして国際社会にとつての重大な関心事であると同時に,南部アフリカ問題の平和的解決の努力を水泡に帰せしめるおそれのあるものであり,我が国としては南アフリカ政府がかかる危険な道を採ることのない様強く求めるものであります。
議長
私はこの機会に,ジブティ共和国が独立を達成し,国連加盟を認められたことを心から歓迎するものであります。わが国は,今後,新生のジブティ共和国が順調に経済的,社会的発展を遂げるよう,協力を進めてまいりたいと考えます。
わが国は,アフリカ諸国との友好親善と互恵協力の関係を増進することを基本的方針としており,南部アフリカ問題の解決と国造りというアフリカ諸国の共通の目標の実現に心からの支援を惜しまないものであります。
かかる立場から,わが国は,人的交流,経済技術協力をはじめ,アフリカ諸国の願望の実現に対する各種の分野における協力を更に拡大する所存であります。
議長
明年5月には,軍縮特別総会が開催されることとなつております。軍縮の分野における着実な進展は,国際平和の維持にとつて基本的な重要性を有するものであり,わが国は特別総会が実りある成果をあげるためにも,引続き,この分野において積極的に努力していく所存であります。
わが国は,核軍縮の促進が軍縮の分野で最も重要な課題であると考え,核軍縮に向つての最も緊要な第一歩である核実験の包括的禁止の実現のための技術的提案を行うなど,積極的な努力を傾注して参りました。わが国は,自ら,核兵器を持たず,作らず,持ち込ませずとの非核三原則を堅持しておりますが,さらに,核戦争の防止に貢献すべく,核拡散防止条約の締約国となつたのであります。
この条約は,私が指摘するまでもなく,核保有国と非核保有国との間の不平等性を内包しておりますが,その不平等性を是正し,もつて,核拡散防止体制を強化するためには,核兵器国による一層の核軍縮努力が必要であります。また,同時に,この条約の締約国たる非核兵器国が原子力平和利用の分野において有する奪うことのできない権利が,実質化されるべきことを改めて強調したいのであります。
議長
近年,世界の一部地域では通常兵器の蓄積が武力衝突を惹起せしめる危険をはらんでいることが懸念されております。通常兵器の分野における軍備競争と,これらの兵器の国際移転の加速化は,国際社会が引続き真剣に検討すべき問題であり,特に軍縮特別総会の主要な問題の一つとして取り上げられるべきものであると考えます。
議長
国際の平和及び安全の維持と並んで,国連の当面する大きな課題は,開発途上国の経済的社会的発展の一層の促進であります。
わが国は,新国際経済秩序を樹立したいという開発途上国の願望を十分認識するものであります。新国際経済秩序の樹立は絶えず進化する動態的過程として把握することが必要でありますが,わが国はかかる新しい国際秩序に向つての共同の努力に建設的に協力して行く考えであります。
議長
われわれは,1980年代の国際開発戦略を策定すべきときを迎えております。この時に当り,私は次の諸点を指摘したいと考えます。
第1は,開発途上国の開発に真に貢献し,世界経済全体の健全な発展に資する施策を積極的に推進すべきであるということであります。この点に関して,私は工業開発と並んで農業開発の重要性を強調するものであります。農業開発の問題は,人間と土地,それに制度が絡み合つた複雑なものであり,従つて,われわれはこれに総合的に取組まなければならないのであります。
第2に,南北間の所得格差の是正はもとより当然のことでありますが,開発途上国間の発展段階及び経済的社会的必要の多様性が看過されてはならないのであります。とりわけ,後発開発途上国には一層の配慮が必要であります。
第3に,すべての人が開発のプロセスに直接参加しうる能力を与えられ,開発の利益を分かち得ることが肝要であると考えます。
そのためには,所得の向上に直接寄与する開発と並んで,社会開発,特に,人間生活の基本的要請に応えるための開発が重視されなければなりません。その際,何が人間生活の基本的要請であり,また,社会開発の如何なる分野に優先度がおかれるべきかは,もとより,開発計画の策定等を通じて,それぞれの開発途上国みずからが判断すべき問題であります。
かくして人間生活の基本的要請を満たすことこそ,人間の尊厳と人権の尊重につながるものなのであります。
議長
次に,開発途上国の経済的,社会的発展のためにわが国がなさんとしていることの一端を申し述べます。
まず,わが国は,今後5年間に政府開発援助を倍以上にのばす意図を有していることを表明いたします。
貿易の分野においては,多角的貿易交渉において,1973年の東京宣言の趣旨を体しつつ,開発途上国の必要に最大限可能な配慮を行つてまいります。わが国は,一次産品共通基金を設立する必要性を特に強調しております。共通基金の内容については,11月に再開される交渉会議において,満足な合意が得られるよう強く期待しております。わが国は,既存の国際商品協定に積極的かつ前向きに参加し,第5次国際スズ協定緩衝在庫に対する任意拠出に向けて必要な措置を積極的に検討することを表明致します。
更に,国際経済協力会議をはじめとするこれまでの国際的討議において合意の得られていない諸問題については,今後,国連を中心とする各種のフォーラムにおいて,その解決のために一層の努力を傾けて行きたいと考えます。
わが国は,21世紀に向つて「貧困のカーテン」を取り除くための国際協力に全力を傾ける決意、であります。
議長
国連は,人類の最後のフロンティアの一つと言われる海洋の問題に取組んでおります。過去10年にわたる新海洋法秩序樹立のための苦難に満ちた歩みの中で,今程,すべての国の相互理解と協力が必要とされている時はないと考えます。国連は,すべての国の受諾しうる公正な海洋秩序を一日も早く樹立するという大きな挑戦にうちかたなければならないのであります。わが国は,海洋国家として,今後とも,新海洋法の策定に協力していく所存であります。
議長
私は,最後に,国連自体との関連で,わが国が特に関心を有する若干の問題に言及したいと考えます。
第1に,国際社会の現実の発展に応じて,絶えず国連の機構及び機能に対する検討が加えられなければなりまぜん。国連の創設以来既に32年が経過致しましたが,その間,各国が国際関係に果す役割りは,大きく変化してきております。私は,憲章再検討の問題を含め,現在国連で行われているこの分野での作業が,かかる現実を反映した建設的な成果を生み出すことを希望いたします。
第2に,国連の主要なフォーラムにおけるアジア・グループの地位の問題があります。国連のアジア・グループを構成する国は,現在37カ国に及んでおり,これら各国の有する人口は,世界の人口の半ば以上である23億に達しております。グループの各国は,それぞれの立場から国連の諸活動に対する積極的な貢献を行つてきておりますが,国連の各種フォーラムにおいて十分な地位と機会が与えられるべきであるというのが,アジア・グループの一致した主張であります。国連の重要な機関の選挙におけるアジア・グループのアンダーリプレゼンテーションは早急に改善されるべきものであると考えます。
第3に,一部の国連専門機関において,政治的考慮が若干行き過ぎとなる傾向が見られます。これらの機関における討議が世界の政治的現実を反映するものであることは認識いたすものでありますが,それぞれの機関の本来の使命も忘れられてはならないのであります。われわれは,すべて,専門機関の円滑かつ効率的な機能の増進のために協力すべきであります。
第4に,国連大学が,資源,環境,人口及び食糧等の人類が直面している基本的な諸問題に取り組むための研究活動の世界的ネット・ワークの本部として設立されて以来4年になります。わが国は,相当額の拠出を行つて参りましたが,国連大学は,期待されている役割を十分に果すためにより広い支援を緊急に必要としております。私は,加盟諸国がそのような支援を行うよう要請するものであります。
議長
今日の国連において安保理常任理事国の地位を占める主要国は,極めて大きな役割を担い,責任を有するのであります。私は,今後とも,これら諸国が,その持てる力を平和の維持と開発への協力という人類共通の目標に向つて最大限に活用することを強く期待致します。
同時に,今日,それ以外の国連加盟国も,世界の平和と発展に対する責任を担つていることが強調されなければなりません。わが国は,非核兵器国として,国連の理想と活動を支持するものであり,国際平和の建設をはじめとする国連の諸目的を達成するため,より大きな役割を果す決意を新たにするものであります。