-邦人の渡航・移住-

 

第3節 邦人の渡航・移住

 

1. 邦人の渡航

(1) 旅券発行の状況

(イ) 過去5年の旅券発行数の推移(付表1)

77年(1~12月)の旅券発行数は,1,735,998件,対前年比11.7%の増加で,国民の海外旅行指向の傾向は依然根強いものであることを示している(76年は対前年比増18.4%)。一方,一般旅券の発行数中,数次往復用旅券は発行総数の84%となり,76年の79%に比し5%の伸びを見せ,数次往復用旅券が一般化し,一往復用旅券は永住者などの使用に限られつつあることを反映している。

(ロ) 渡航目的別分類(付表2)

一般旅券の発行数の渡航目的別分類では,「観光」が発行総数の91%,ついで「経済活動」が7.6%と続いている。また,渡航期間別分類では,3ヵ月以上の長期渡航(在留届の提出を義務づけられている永住,赴任,留学,研究などがこれに当たる)の割合は,発行総数の2.1%となつている。

(ハ) 主渡航先別分類(付表3)

一般旅券発給申請書により,主渡航先を地域別に集計すると,従来どおり,アジア(51%)、北米(35.7%),欧州(10.4%)の順となつているが,76年に対比すると近距離のアジア地域への渡航者の割合が増加し,北米地域への渡航者の割合は逆に減少している。

(ニ) 申請者年齢別分類(付表4)

申請者の年齢別分類では,20歳代(35.0%),30歳代(22.3%),40歳代(18.0%)の順(この順位は過去5年不変)となつている。また,発行総数に占める女性の割合は,33.8%である。

[付表1]    旅券発行数の推移(暦年)

[付表2]    渡航目的別一般旅券発行数(暦年)

[付表3]    主渡航先地域別一般旅券発行数(暦年)

[付表4]    年齢別一般旅券発行数(暦年)

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(2) 旅券法の一部改正

77年9月末ダッカにおいて発生した日航機ハイジャック事件の経験にもかんがみ「日本赤軍」などによる非人道的暴力行為防止対策の一環として,同年11月旅券法の一部改正が行われたが,これにより,(i)法第13条第1項第2号の規定する一般旅券の発給制限事由の対象罪種が従来の「長期5年以上」の刑に当たる罪から「長期2年以上」に改められることになつたほか,(ii)旅券の返納命令を実効あらしめるための公告制度が新設され(法第19条の2),また,(iii)旅券法違反者に対する罰則の強化(法第23条)がはかられた。

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2. 海外移住の動向

(1) 移住の概況

戦後におけるわが国の移住者数は,内外情勢の変化をうけ,60年代前半の年間平均1万数千人から,同年代後半以降の5,000人程度へと減少している。移住の形態も変化し,家族単位の農業移住者は減少し,最近は単身青年の技術者,または,雇用農業者としての移住が主体となっている。77年の移住者数を移住先国別にみると,米国向けは2,328人で,その大半が日系米国市民や永住者による呼寄せ移住者であり,一部は技術者やその家族である。カナダヘの移住者数は技術移住者を主体とし,総数268人と76年より減少したが,これはカナダの景気停滞と移住者選考の厳格化などの要因によるものとみられる。また,カナダ政府は,年毎の受入移住者総数の決定など従来に比しより規制的内容をもつ新移民法案を連邦議会に提出していたが,77年8月成立した(78年4月より施行の予定)。中南米地域には,農業及び技術移住者など1,376人が移住したが、主要移住先国及び移住者数は,ブラジル682人,アルゼンティン315人,パラグァイ202人などである。なお,わが国はブラジル,アルゼンティン,パラグァイ及びボリヴィアとは移住協定を結んでいる。

他方,新しい動きとして,豪州が邦人移住者を白人と差別なく受入れる旨,また,アルゼンティンが邦人漁民を歓迎する旨,明らかにした。豪州には既に技術者が移住を許可されるケースが出ている。

(移住者総数表については,第3部資料編II付表8.(2)参照)

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(2) 移住施策

(イ) 国際協力事業団の業務

同事業団は,中南米地域などへの海外移住を円滑に実施するため,国内においては,海外移住に関する広報,相談,あつせん,移住希望者に対する訓練,講習など,また海外においては,移住者への各種援護を行つている。これらの事業を行うため,政府は77年度において同事業団(移住部門)に対し,約39億7千万円の交付金及び7億5千万円の出資金を支出した。

事業団は77年度において,渡航費支給者377人を含め中南米移住者422人(このほか,カナダなど向け約数百人)を送り出した(これらは78年3月末までの予定数)。事業団は,77年度において次のような業務を行つた。

(a) 営農指導

・アマゾニア熱帯農業総合試験場(ブラジル)の施設整備。

・オキナワ移住地(ボリヴィア)綿収穫機,第2トメアスー移住地(ブラジル)用トレーラー・トラックの購入貸与,グァタパラ移住地(ブラジル)堤防工事など。

・アルゼンティンにおける花卉栽培の指導,振興のための園芸センターの設置。

(b) 生活環境整備

(i) 医療衛生対策

移住地診療所の運営,医師の派遣,巡回診療,現地における医師及び看護婦の養成,サンパウロ日伯援護協会ヘレントゲン装置の提供など。

(ii) 道路対策

サンファン(ボリヴィア)移住地などの道路整備工事。

(iii) 生活改善対策

クビチェック(ブラジル)移住地公民館新設などへの助成。

(c) 教育対策

日本語指導教師の派遣,奨学資金の交付及び貸与,ラプラタ(アルゼンティン)及びマナオス(ブラジル)に寄宿舎の建設及び教員宿舎の建設,青年教育,社会教育,日本語教育など。

(d) 第3トメアスー(ブラジル)移住地(新設予定)道路造成工事対策,ブルドーザーなどの購入,提供。

(e) ブラジル日本移民史料館建設費補助

日伯文化協会に5,000万円支出。

(f) 融   資

77年度は,農業及び技術移住者に対し,約16億円の新規貸付を行つた。なお,貸付限度額は従来330万円であつたが,8月20日よりこれを830万円まで引上げた。

(ロ) 移住地現地調査

外務省は77年度において豪州移住調査,アルゼンティン漁業移住調査並びにブラジル移住70年記念行事など調査を実施した。

(ハ) 都道府県の移住事業

都道府県は,それぞれ独自の立場で,在外県人に対する諸種の援護,海外知識の普及,移住者子弟留学生の受入れなどの事業を行つている。

外務省はそれら事業の健全な発展を図るため,77年度総額約3,475万円の補助金を支出した。

(ニ) 日本海外移住家族会連合会の事業

同連合会は,海外日系人団体との連絡,移住者の消息調査,移住者子弟研修,移住者の福祉増進などの事業を行つてきている。外務省は,従来同様77年度においてその移住者子弟研修事業(毎年10人)と初期移住者(ブラジルから毎年20人前後)の訪日団受入れ事業に対して補助金を支給した。

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(3) 海外移住審議会の活動

同審議会(海外移住政策に関する内閣総理大臣及び関係大臣の諮問機関)は,6月24日第37回総会を開き,更に,小委員会で9月28日と10月31日の2回にわたり,既移住者の現地援護の問題につき討議した結果,10月31日の小委員会において,時代に即応した現地援護の強化の必要,移住者の自立をはかるため融資拡充などの援護策への留意,移住者と経済協力との関連・日系人対策の必要などについての統一見解をとりまとめた。また,12月26日,同審議会委員の改選が行われた。

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