-国連専門機関-

 

第8節 国連専門機関

 

1. 概   況

最近2~3年,専門機関において政治問題が持ち出される傾向が弱まつており,77年もこの延長線上にあった。同年における主要な事項としては,米国のILO脱退,ICAOにおけるハイジャック問題審議,IFADの設立が挙げられよう。

米国のILO脱退は,国連機関からの主要国の脱退として,他の国連機関への波及及びILOの今後のあり方などの観点から,その影響が大いに注目されている。また,日航機,ルフトハンザ機のハイジャック事件に触発され,ハイジャック防止対策がICAOなどの場で討議されたが,ハイジャック防止3条約への加入促進など,専門機関としてのICAOの役割をわが国は見直したといえよう。

目次へ

2. 各国連専門機関における活動

(1) 国際労働機関(ILO)

77年中に開催された主な会議としては,第63回総会(6月),及び第202~204回各理事会が挙げられる。

第63回総会では,「空気汚染,騒音及び振動に起因する作業環境における職業性の危害からの労働者の保護」に関する条約(第148号)及び同勧告(第156号)並びに「看護職員の雇用・労働条件及び生活状態」に関する条約(第149号)及び同勧告(第157号)が採択されるとともに,「労働行政:役割,機能及び組織」及び「公務における結社の自由及び雇用条件決定手続」に関する新基準設定のための第1次討議が行われた。

米国は,75年11月6日,ILO事務局に対し脱退意図通告を行つていたが,その後脱退通告発効までの2年間,わが国を始め各国から,ILOの普遍性と適切な運営を図るため,米国が脱退しないよう慰留に努めたにもかかわらず,77年11月6日正式に脱退が決定した。

わが国は,77年の分担金として567万3,726ドル(7.13%)を支払つたほか,ILOとのマルチ及びノバイ協力による「労働力計画に関するアジア地域会議」開催に約5万7,000ドルを拠出し,またILOの付属機関である国際高等職業訓練所の機能を充実するために機材供与などの協力を行う意図のあることを総会において表明した。

ILO条約の批准促進については,77年7月26日に職業がん条約(第139号)の批准登録を了し,わが国のILO批准条約数は35となった。

目次へ

(2) 国連教育科学文化機関(UNESCO)

77年に開催された会議の主なものは,第102~103回執行委員会,第10回政府間海洋学委員会総会及び同第8~9回執行理事会,国際教育会議,第2回万国著作権条約政府間委員会,第14~15回国際教育局理事会,第1回体育スポーツ政府間暫定委員会,環境教育政府間会議などがある。

上記第102回執行委員会において,広長委員の辞任に伴い,同委員の残りの任期を務める新委員として菅沼駐ヴァチカン大使が任命された。

また,75年以来分担金の支払を停止してきた米国は,6月に支払を再開した。

77年度のわが国のユネスコに対する協力としては,アジア地域教育刷新計画に12万ドル,ヌビア遺跡保存に1万ドルを拠出したほか,教育工学,基礎科学地域協力事業に協力を行つ。

目次へ

(3) 国連食糧農業機関(FAO)

77年に開催された会議の主なものとしては,第2回食糧安全保障委員会,第4回農業委員会,第71~73回理事会及び第19回総会がある。特に,第19回総会においては,78~79年度のFAO通常予算(2億1,135万ドル)が決定された。なお,わが国の分担率は,これまでの9.11%から10.69%となった(米国に次いで第2位)。さらに同総会において,食糧の損失を防止するための特別基金の設立が決定された。

また,わが国は,FAOと国連の共同計画として開発途上国への多数国間食糧援助を行う世界食糧計画(WFP)に対し,拠出誓約会議(76年2月,ニューヨーク)で77~78年度分拠出額としてわが国が誓約した750万ドルのうち350万ドルを77年度に拠出した。

目次へ

(4) 世界保健機関(WHO)

77年においては,第30回総会,第59~60回執行理事会が開催されたほか,6地域委員会が開催された。わが国は,西太平洋地域委員会を東京にて開催するとともに,WHOプロジェクトに基づく開発途上国より50名の研修生を受け入れ,10名の専門家を開発途上国に対し派遣している。またWHOの共同研究センターとして新たに3つの機関が指名された。

目次へ

(5) 国際民間航空機関(ICAO)

現在,ICAOの懸案としては,ハイジャックなどの民間航空に対する不法妨害行為の防止のほか,国際航空運送業務の諸問題,特に,料金料率設定機構,輸送力規制問題及びチャーター・リースより生じる法律問題などがある。77年に日航機及びルフトハンザ機のハイジャック事件が発生したため,ハイジャック防止のための総会決議及び理事会決議が全会一致で採択され,さらに,理事会の下にある不法妨害委員会においては,航空の安全のための具体的強化措置の検討が行われた。

料金料率設定問題及び輸送力規制問題は,77年春に開催されたICAO主催特別航空運送会議において討議されたが,次回会議でも引き続き検討されることとなつている。チャーター・リースに1より生じる法律問題は,3月末開催された法律小委員会において,関係条約の改正を行う旨の報告書が作成された。

目次へ

(6) 政府間海事協議機関(IMCO)

政府間海事協議機関は,海上の安全と航行の能率及び海洋汚染防止を確立するための条約及び勧告の作成などを行つているところ,世界の海運及び造船でわが国が占める地位にかんがみ,IMCOにおける活動はわが国にとり極めて重要である。

77年には,海上人命安全条約で除外されていた漁船を対象とした「漁船の安全に関する国際条約」が作成され,署名のために開放されている。また,第10回総会が開催され,各種の勧告が採択されるとともに,78~79年の活動計画が決定された。一方,海洋汚染防止に関して,米国がタンカーに対する規制強化案を提出し,これを基に検討が開始された。

目次へ

(7) 世界気象機関(WMO)

77年においては,同機関の基礎組織委員会,測器観測法委員会,大気科学委員会,航空気象委員会,農業気象委員会,海洋気象委員会,水文委員会,気象気候特殊応用委員会の8つの専門委員会及び執行委員会が開催された。わが国は,国連の「世界気象監視計画」及びWMOの第1回全球実験に従い,7月,静止気象衛星「ひまわり」を打ち上げるとともに,10月,ESCAPとWMO主催の台風委員会を東京において開催した。

目次へ

(8) 万国郵便連合(UPU)

77年度は,執行理事会(5月)及び郵便研究諮問理事会がベルヌで開催され,わが国は,理事国としてその審議に積極的に参加し,特に,執行理事会では財政委員会議長国として議事を主宰した。執行理事会においては,価格表記書状に関する約定,小形包装物業務の存廃,放射性物質の運送などの問題が審議されたほか,予算制度問題についてはさらに研究を継続することとなつた。

目次へ

(9) 国際電気通信連合(ITU)

77年度は,1月に,12ギガヘルツ帯における放送衛星業務の計画に関する世界無線通信主管庁会議(於ジュネーヴ)が開催され,放送衛星業務用周波数割当計画,技術基準及び管理規定が定められた。5月には,第32回管理理事会がジュネーヴで開催され,78年度予算の承認,技術協力問題及び各種会議計画などが審議された。また第14回CCIR総会の本邦開催(於京都78年6月)が承認された。

目次へ

(10) 世界知的所有権機関(WIPO)

77年には,第11回調整委員会,第13回パリ同盟執行委員会,第11回ベルヌ同盟執行委員会などが開催されたほか,工業所有権の保護に関するパリ条約の改正問題を検討するための政府間準備会合の第2回会合が6月に,第3回会合が11月に開催された。本件問題は,なお検討すべきことが多いことから,78年6月に開催される第4回会合において引き続き検討される予定である。

目次へ

(11) 国際農業開発基金(IFAD)

本基金設立協定は,77年11月30日にその効力を発生し,本基金の第1回総務会及び第1回理事会が同年12月に開催された。第1回総務会において本基金の総裁選出選挙,本基金各種機関の手続規則の採択及び本基金と国連との間の連携協定の採択などが行われ,また第1回理事会において本基金運営規則が採択された。なお,第33回国連総会において,上記国連との連携協定が承認され,本基金は第15番目の専門機関となった。

わが国は,77年10月25日に本基金設立協定受諾書の寄託を行い,本基金の早期発足に寄与したほか,本基金に対し77年度より3年間にわたり計5,500万ドルを支払うこととしており,米国,イラン,サウディ・アラビア,ヴェネズエラに次ぐ大口拠出国となつている。

また,第1回総務会において行われた理事国選出選挙において,わが国は,米,英,イランなど17カ国とともに理事国に選出された。

目次へ