-経 済 問 題-
第3節 経 済 問 題
本件再開会期は,77年6月に終了した国際経済協力会議(CIEC)の評価を目的として9月に開催された。CIECの結果に対する先進国側と開発途上国(G77)側との評価には隔たりがあり,再開総会においては,決議採択をめぐり見解の対立が表面化することとなった。G77の提示した決議案は,CIECに関し極めて否定的な評価が盛り込まれていたのに対し,先進国側は,南北双方の見解を反映したバランスのとれた評価とすることを主張した。しかしながらG77のうち,特にCIECに参加しなかつた諸国は,あくまでCIECの評価について否定的な姿勢を変えなかった。会議を3日間延長して折衝が続けられたが,結局何らの決議をも採択できずに閉会することとなつた。ただし,G77側は,投票による決議採択を強行することは避け,また双方とも最後に対話継続の意図を表明したため,南北対話の糸が絶たれることは避けることができた。
77年9月下旬より約3ヵ月間開催された第32回国連総会第2委員会では,南北問題をめぐり新国際経済秩序の樹立,一次産品共通基金問題など多くの重要な問題が審議され,65の決議が採択された。
開発途上国(G77)側は,(a)国連をNIEO樹立に関する世界的な問題の交渉の場とすること,(b)80年に国連経済特別総会を開催することとし,それまでの間,南北問題を全体的に見直すための全体委員会を設けること及び(c)同全体委の検討事項として,一次産品総合計画,債務問題,多角的貿易交渉(MTN)などの11項目とすること,を骨子とする決議案を提出したが,既存機関との重複などを指摘する先進国側との話合いが難航した。しかし,最終的には全体委の検討事項(11項目)につきG77側が譲歩したこともあり,上記(a),(b)を骨子とした決議が投票に付されることなく採択された。これにより,NIEO樹立に関する世界的な交渉はすべて国連のシステム内で行われることとなり,全体委員会は,78年早々に第1回会合を開くこととなつた。
G77側は,新IDSはNIEO樹立の目的に向けられるべきであり,その取り組むべき事項として,実物資源の移転,市場アクセス,技術移転,国際通貨制度などの諸項目を入れた決議案を提出したが,開発途上国の自助努力が欠けていること,新IDSは80年代の諸問題に対応すべきこと,などを指摘する先進国側の合意が得られず,結局,次回総会での検討に委ねられることとなつた。
UNCTAD一次産品共通基金交渉会議再開会期でも,共通基金の基本的要素について合意がみられなかつたことを不満とするG77側は,先進諸国に早急に政治的決断を行うことを求める決議案を提出し,先進諸国の修正提案にも応ぜず,12月19日,同決議案は投票に付され,賛成127,反対0,棄権13(日本を含む)にて採択された。
わが国は,第62回(77年4~5月)並びに,第63回(同年7~8月)経済社会理事会の両審議に参加した。77年経済社会理事会では,現行の国際開発戦略(IDS)の評価,天然資源,多国籍企業,アフリカ諸国への援助,科学技術国連機構改革などの諸問題を審議し,多くの決議を採択した。このうち,IDS評価に関しては,新国際経済秩序(NIEO)樹立のための努力を要求し,80年代の開発戦略である新IDSはNIEO樹立を目指すべきであるとの趣旨の決議が採択された。
また,第63回経済社会理事会の一般演説において,米国を始めとし,わが国を含む多くの先進国により,開発戦略における人間生活の基本的要請の重要性が指摘された点が注目された。
(1) 多国籍企業に関する行動規範を作成するために,多国籍企業委員会の下に設立された政府間作業部会は,2回の会合を通じ行動規範の骨子を作成する作業を進めた。その結果は4月に開かれた第3回国連多国籍企業委員会に報告され,同作業部会は引き続き行動規範作成作業を継続することとなつている。
(2) 多国籍企業の腐敗行為問題については,経済社会理事会の下に設立されたアド・ホック政府間作業部会において腐敗行為の防止策が検討され,その結果は7月の第63回経済社会理事会に報告された。同理事会では,本件に関する国際協定案を審議するため,作業部会を継続し,その構成国を拡大することを内容とする決議が採択された。
(1) わが国は,アジア太平洋地域との協力拡充を目指し,第33回総会を始めとする諸会合に参加し,また,ESCAPのほとんどすべての分野にわたる事業活動に現金拠出又は専門家派遣などにより協力を行つた。
(2) 第33回総会は,77年4月,タイのバンコックで開催され朴同総会の主要テーマは,前回総会に引き続き,農村地域の貧困層に焦点をあてた総合農村開発の問題であつた。また開発途上国の中でも後発開発途上国,内陸国及び太平洋地域島興国に対して特別の配慮がなされるべきことが指摘され,同時に開発のための開発途上国間協力の問題にも関心が集まつた。
(3) 77年中に開催された下部機関の主要な会議としては,工業大臣会議のほか,天然資源,開発計画,海運・運輸・通信の3常設委員会及び,内陸国特別部会がある。右工業大臣会議においては,農業と工業の連携強化が強調された点が注目された。以上のほか,数多くのアド・ホック政府間会合,専門家会合などが開催され,そのうち総合農村開発政府間専門家グループ会合が,77年2月に東京で開催された。
(4) ESCAP傘下のメコン河下流域調査調整委員会は,75年のインドシナ情勢急変後,その活動の大部分を停止していたが,77年4月の上記ESCAP第33回総会の機会に,ラオス,タイ,ヴィエトナムの3カ国代表は,本委員会活動活発化のための暫定委員会を設置することをそれぞれの政府に勧告することに合意した。右合意を受けて,77年7月及び78年1月にビエンチャンにおいて2回にわたり関係3カ国の会合が開催された結果,「メコン暫定委員会に関する宣言」にこれら3国が署名して,同暫定委員会が発足することとなつた。
(1) 事業活動
77年においては,第11回工業開発理事会及び第9回常設委員会が開催されたところ,主要検討事項は,UNIDOの78~79年度計画予算の審議,工業技術情報銀行の実験的活動開始,工業開発基金の78年度活動計画の検討,協議システムの実施であつた。
産業の再配置を検討している協議システムは,77年中,肥料,鉄鋼,皮革,植物油脂産業につき協議が行われ,各分野の専門家による意見交換が行われ,勧告がまとめられた。
(2) 憲章起草政府間全体委員会(IGC)の開催
75年第2回総会において,UNIDO専門機関昇格の勧告が採択されたことにより,IGC会合が76年に第4回,77年に第5回会期が開催されたが,開発途上国,先進国,社会主義国との間で憲章条文につき未だ未合意点を残している。77年末の第32回国連総会は,78年(2~3月),国連本部にてUNIDO専門機関化設立会議を開催し,憲章を採択することを決定した。
(3) わが国の協力
77年の具体的な協力としては,フィリピンの中小企業開発プロジェクトの実施及び国内企業における研修事業として機械工業生産管理コース及び工業製品品質改良コース(各9名)を実施した。
77年1年間のUNCTADの活動は,第4回UNCTAD総会の合意事項の検討を中心に行われた。わが国は,南北間の対話と協調関係の一層の強化を図つていくため,この再検討作業に積極的に参加した。
「一次産品総合計画」にある共通基金と同計画対象18品目に関する交渉及び検討が行われた。
同計画の中核となる共通基金の設立については,77年3月の共通基金交渉会議において「共通基金を設立する」との原則をめぐり合意が成立しなかったが,その後,6月の国際経済協力会議(CIEC)閣僚会議で,主要先進国は,「一次産品総合計画の諸目的達成の鍵となる共通基金の設立」に合意した。同年11月に開催された共通基金交渉再開会期においては,共通基金の態様をめぐり,共通基金に対する直接拠出及び緩衝在庫以外の措置に対する同基金からの融資を主張するG77とこれを否定する先進国とが対立し,合意がえられず会議は中断したままとなつている。
また,個別産品交渉については,同計画の対象18品目の国際商品協定などの解決策を検討するため,78年1月末までに12品目について予備協議が行われた。
77年7月に開催された第8回製品委員会では,ガットの多角的貿易交渉の進捗状況,国際繊維貿易,調整援助及び制限的商慣行(RBP)などの諸問題について討議が行われた。
また製品委員会の下部組織であるRBP専門家グループでは,73年3月の第1回会合以来,77年末までに,3回会合を開催し,RBPの規制のための原則及び規則作成を目指した作業が行われている。
77年6月の第8回特恵特別委員会において,先進各国に対し,特恵スキームの内容の改善(特恵対象品目の拡大,特恵税率の引下げ,原産地規則の調和化・簡素化など)と現行の特恵スキームに関する協議手続の再検討につき議論され,後者について,現行協議手続の改善及び適当であれば追加的手続の策定を含む特恵供与国の個別スキームの協議手続につき再検討することが望ましいとの合意が行われた。
開発途上国の債務累積問題は,CIECにおける精力的な討議にもかかわらず,何等実質的な合意がえられず,再び検討をUNCTADの場に移し,UNCTAD決議94(IV)に基づき,78年3月に開催される閣僚レベルTDBにおいて取り上げられることになった。77年7月及び12月には,債務累積政府専門家会合が,また77年9月及び78年1月のUNCTAD・TDB第9回特別会期第1及び第2会期がそれぞれ開催されたが,既存債務の一括救済と将来の債務救済の自動化を主張する開発途上国と,債務救済はあくまでケース・バイ・ケースで行うとする先進国が,原則論において対立して,債務問題の実質的討議は行われず,結局,閣僚レベルTDBの議題案が決定されたにとどまった。
77年4月,第8回海運委員会が開催され,開発途上国における商船隊の開発,港湾の開発などについて討議が行われるとともに,同委員会の決定を受けて,78年2月,便宜置籍船問題に関するアド・ホック政府間会合が開催された。また,77年11月,国際複合運送に関する条約草案を作成するための政府間会合が開かれ,草案作成に向けて作業が行われた。
78年10月に開催される予定の「行動規範のための国連会議」を目途に技術移転の行動規範の草案を作成するための政府専門家グループが設立され,その法的性格を如何にするかについてはたな上げにしたまま,目下,同グループにより具体的な草案作成作業が進められた。
第4回UNCTAD決議に基づき設立された開発途上国間経済協力委員会は,その第1回会合(77年2月及び5月)において,貿易,通貨,技術移転及び運輸などの分野について作業計画を策定すること,また,右作業計画の実施面で調和を図るため他の国連諸機関と協議することが決定された。
(1) UNDPは,66年発足以来国連システム内の中心となつて開発途上国に対する技術協力を進めており,第1次5カ年計画(72~76年)中に総額16億7,250万ドルにのぼる援助を行つた。75年末に深刻な流動性危機に見舞われたが,76年の緊縮財政で一応解消された。
(2) 77年より第2次計画(77~81年)に入つて一層の活動が期待されている。同計画中の援助予定額は24億5,490万ドルで,その財源確保のため,各国は自発的拠出金を毎年14%以上増額するとの目標が定められている。わが国は,77年に,対前年比10%増の2,200万ドルを拠出(総額の4.21%。順位9位)し,78年には同13.6%増の2,500万ドルを拠出する予定である。
(3) 他方,近年一部の専門機関や開発途上国にUNDP中心主義からの離反傾向が見られることなどを背景に,77年の第24回管理理事会では「UNDPの役割と活動」の問題が洗い直された。その結果,UNDPを中心とする国連技術協力システムの一体制維持の概念を定めた70年の全会一致による決議が再確認されるとともに,財政基盤強化策の一環として,責任の公平な分担を図るため,関心を有する国による非公式協議の開催が合意された。
77年6月20日より5日間にわたりマニラにおいて第3回世界食糧理事会が開催された。同理事会においては,食糧増産,食糧援助,食糧安全保障などについて討議され,最終日に「飢餓と栄養失調撲滅のための行動計画」と題する「マニラ・コミュニケ」が万場一致により採択された。