-軍 縮 問 題-
第2節 軍 縮 問 題
77年の軍縮討議では,核拡散防止問題が各国の主要関心事の一つとして議論されたこと,78年の国連軍縮特別総会の準備が進められ,特別総会では通常兵器の国際移転問題を取りあげるべしとの認識が広く支持されるようになつたことが特筆される。
3月のヴァンス・グロムイコ会談に基づき,7月に米・ソ間協議が,また10月より米・英・ソ3国間協議が開始されて,包括的核実験禁止条約作成交渉はかなりの進展をみせている。特に,11月2日,ソ連がブレジネフ演説において,従来同国が禁止対象から除外するよう主張していた平和目的核爆発を,一定期間凍結することに合意する用意がある旨述べたことにより,米・ソ間の基本的な立場の違いがかなりせばまつた。現在交渉されている主な点は,(イ)現地査察のあり方,(ロ)国際的検証システムの構成と権限,(ハ)平和目的核爆発の凍結の期間,(ニ)条約の脱退規定(他の核兵器保有国-特に中国-が参加しない場合に,締約核兵器保有国の自動的脱退を認めるか)などである。
(イ) 77年の軍縮委員会では,日本案などの考えを取り入れた英国提出(76年夏会期)の条約案が審議の中心となる一方,非公式専門家会議においては,検証の技術的側面に焦点をあてた討議が行われた。
(ロ) 76年までの化学兵器禁止問題の中心は,主として禁止対象となる化学剤の範囲を如何に決定するかにあつたが,77年の軍縮委員会討議の中心は,禁止されるべき化学剤の範囲についての一般的な合意が生まれつつあることにかんがみ,むしろ条約の実効性を確保する上で,如何なる検証手段を確保するかの問題に重点が移つていつた。
(ハ) 他方,3月のヴァンス米国務長官の訪ソを契機に,米ソ2国間作業部会が設置され,77年中に3回の会合を行った結果,禁止されるべき化学剤の具体的な範囲についてはほぼ合意され,更に化学兵器の貯蔵の廃棄,生産工場の閉鎖の検証方法などの条約案の主要項目についての交渉が行われたが,その具体的進展は78年に持ち越されることとなつた。
(イ) 核拡散を防止しつつ原子力の平和利用を如何にして推進するかという問題は,4月に米国が新原子力政策を発表したこともあって,これまでにも増して大きな国際問題となり,国連総会,軍縮委員会,国際原子力機関(IAEA)などにおいても討議の中心のひとつとなつた。
(ロ) わが国は,この問題に対する基本的見解を軍縮委員会で発表し,「原子力平和利用に対する規制は,核兵器保有国の核軍縮努力があつて初めてその根拠をもちうる」旨主張し,各国の注目を集めた。
わが国の見解の骨子は,
(a) 核拡散防止と原子力平和利用促進を調和的に追求することは国際社会の緊急課題である,
(b) その出発点は,核兵器不拡散条約(NPT)であり,NPTは不平等性を内包しているとはいえ,現在100余の加盟国を有しており,その枠組みを強化する必要がある,
(c) NPT加盟国には,平和利用の分野で,非加盟国に対してよりも有利な立場が与えられるべきであり,また未加盟の非核兵器保有国に,そのすべての原子力平和利用活動についてIAEA保障措置を受諾せしめる必要がある,
(d) 核兵器保有国が,核実験の包括的禁止や兵器用の核分裂性物質の生産停止などの具体的な核軍縮措置をとる必要がある,
(e) 平和利用技術が核兵器の拡散につながらないよう効果的に管理する必要があるが,そのための国際的検討が行われている間においても,
現に使用済核燃料の再処理を緊急に必要としているNPT加盟国の再処理は,阻害されるべきではない,
の5項目から成るものであり,今後あるべき核拡散防止に関する国際協力への一指針となった。
(ハ) 第32回総会では,第1委員会の全面完全軍縮の議題及び本会議のIAEA報告の議題の下で,核拡散防止問題が討議され,それぞれ決議案の文言をめぐつて核拡散防止を重視する米,加,豪などと,開発途上国の原子力平和利用技術へのアクセス確保を強調するインド,ユーゴースラヴィアなどの間で議論が交わされ,結局,フィンランドが提出したNPT未加盟国に対しNPTへの加盟又はその全核燃料サイクルについての保障措置を受諾するよう要請することなどを内容とする決議と,ユーゴースラヴィア,パキスタンなどが提出した,すべての国が原子力平和利用の権利を有することを確認するなどを内容とする決議が共に採択された。
(イ) 第31回総会でわが国が提起したこの問題は,第32回総会においても引き続き国際的関心を呼び,約20カ国が第1委員会の軍縮演説の中で,移転の規制のため国際的検討が必要である旨指摘したほか,特別総会準備委員会における演説又は事務総長に提出した特別総会に対する政府見解の中で,多くの国がこの問題を特別総会で取り上げるべきであるとの態度を明らかにした。
(ロ) このような状況の中で,わが国は,第32回総会中に軍縮特別総会準備委員会に対し,わが国見解の表明として,
(a) 特別総会の軍縮宣言の中で,通常兵器の国際移転の規制が必要であるとの認識が確認されるべきこと,
(b) 軍縮行動計画の中には,
(i) 予備的措置として,専門家による通常兵器の国際的移転及び地域的相互削減に関する包括的研究の開始,
(ii) これと平行して主要武器供給国による相互自制措置のための協議の開始要請,また通常兵器制限のための地域的会議をその地域の諸国によるイニシアティヴで開催すること,
などを内容とする作業文書を提出し,国際世論の喚起に努めた。
(1) 78年5月に開催される国連軍縮特別総会のための準備委員会(54カ国で構成。わが国は副議長国)は,77年中に3回会合(3月,5月及び9月)し,次の決定を含む報告書を作成して第32回総会に提出した。
(イ) 特別総会開催期日
78年5月23日~6月28日。
(ロ) 特別総会開催場所
国連本部(ニューヨーク)。
(ハ) 代表レベル
できる限り高いレベル。
(ニ) 仮議題
(a) 軍縮交渉の成果と現状の再検討。
(b) 軍縮宣言及び行動計画の採択。
(c) 軍縮交渉のための国際的機構の役割の再検討。
(2) また第31回国連総会で採択された決議は,各国政府に対し,4月15日までに軍縮特別総会に関する見解を国連事務総長に提出するよう要請していたが,77年末までに,国連加盟国のうち合計59カ国がその見解を提出した。
わが国は,軍縮特別総会においては,次の項目が優先的に取り上げられるべきであるとの見解を4月15日付で国連事務総長に提出した。
(イ) 核軍備競争の停止と核兵器の削減。
(ロ) 核実験の全面的禁止。
(ハ) 化学兵器の禁止。
(ニ) 通常兵器の国際的移転。
(ホ) 軍事費削減問題。
(3) 第32回国連総会は、準備委員会の報告書を承認し,更に同委員会に作業を継続するよう要請する決議を採択した(わが国を含む55カ国の共同提案)。
78年の2月及び4月には,上記決議に基づく第4回と第5回の準備委員会を開催し,特別総会において審議,採択されるべき最終文書の起草作業を行う予定である。