-政 治 問 題-

第4章 国連における活動とその他の国際協力

 

第1節 政 治 問 題

 

1. 第32回国連総会

第32回国際連合総会は,9月20日から12月21日まで,ユーゴースラヴィアのモイソフ外務次官を議長として開催された。開会冒頭,ヴィエトナム社会主義共和国及びジブティ共和国の加盟が認められ,国連加盟国は149カ国に増加した。9月26日より行われた一般討論演説においては、カーター米大統領を始め国家元首級8名,首相6名,外相115名を含む141カ国の代表が演説を行った。わが国は,鳩山外務大臣が9月27日に一般討論演説を行った。本会議及び各委員会で審議された議題数は131,採択された決議数は262本に達し,いずれも総会史上最高となった。この間,日航機及びルフトハンザ機のハイジャック事件に関連して,「国際民間航空の安全」に関する緊急議題を追加上程し,決議を全会一致で採択した。

今次総会においては,前回同様,加盟国間の利害関係の対立があまり過激に尖鋭化することなく,議事が比較的平穏に経過した。その結果加盟国間には,総会に実務的に対処する空気が定着したと考えられるが,これは262本のうち161本の決議案が投票に付されることなく全会一致により採択されたことにも看取される。

今次総会が,このように平穏に経過したこととともに,国連及び総会の持つ力の範囲内で,それなりの着実な成果をあげたことも見逃せない。総会会期中,安全保障理事会において,憲章第7章に基づく対南ア武器禁輸を決定したこと,ハイジャック防止を目的とする「国際民間航空の安全」決議を採択したこと,80年の経済特別総会を目指して,国連が南北問題全体を見直すための全体委員会を設けて南北問題にかかわる活動を調整するとの姿勢を示すこととなったことなどは評価出来よう。

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2. 国連における主要政治問題

(1) 南部アフリカ及び非自治地域問題

(イ) 概   説

国連における南部アフリカ問題の審議は,77年を通じ,南部アフリカ情勢の展開を背景に活発に行われた。

すなわち,南アフリカ共和国のアパルトヘイト問題については,10月の南ア政府による黒人など運動家及び団体に対する弾圧措置を契機として,11月,安保理は,国連加盟国に対する憲章第7章に基づく強制措置としては初めての対南ア武器供与など禁止決議を採択した。

また,ナミビア問題に関しては,西側安保理メンバー5カ国(米,英,仏,西独,加)が,南ローデシア問題に関しては,英,米が平和的解決のためのイニシアティヴをとつた。

また,国連主催の下に,5月にモザンビークにおいて,ナミビア,ジンバブエ(南ローデシア)人民支援のための国際会議,8月にナイジェリアにおいて反アパルトヘイト行動世界会議が,わが国を含めそれぞれ100カ国以上の参加を得て開催された。

他方,非自治地域問題に関しては,国連で,西サハラ問題などを中心に審議が行われた。

(ロ) 南アのアパルトヘイト政策問題

第32回総会では,対南ア軍事・核協力非難,スポーツにおける反アパルトヘイト宣言など15の決議が採択された。

わが国は,南アのアパルトヘイト政策は撤廃されるべきであるとの基本的立場で対処したが,南アにおける事態を植民地問題として捉えること及び,本件政策の撤廃のために武力行使を支持するなどの主張は受け入れ難く,そのため,イスラエル・南ア関係非難,対南ア経済関係など協力非難及び南ア情勢の決議に棄権し,南ア解放運動支援決議に反対した。

(ハ) 南ローデシア問題

第32回国連総会では,独立達成前における多数支配の確立要請及び南ローデシア違法政権による近隣諸国侵入の非難を主旨とする包括的決議が全会一致で,対南ローデシア制裁措置の拡大,強化を要請する制裁決議がそれぞれ採択された。

わが国は,南ローデシアに対する全面的経済制裁を誠実に履行しており,両決議ともその基本的趣旨は支持できるので賛成した。

また,9月,安保理は南ローデシアにおける多数支配への移行のため,必要な手続などを行うべく事務総長特別代表の任命を要請する旨の決議を採択した。

(ニ) ナミビア問題

第32回総会では,本問題に関し,78年ナミビア特別総会開催要請など8つの決議が採択された。

わが国は,「ナミビア情勢」を除く諸決議に賛成したが,「ナミビア情勢」については,武力闘争の容認などの条項を含み,問題点が多いため棄権した。

(ホ) 非自治地域問題

本件の主たる係争問題として,西サハラ問題があり,総会の本件審議では関係者が激しく対立したため,解決をOAU特別会議にて行うことを要請する決議が採択された。

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(2) 中 東 問 題

(イ) 中東問題は,77年を通じ,ジュネーヴ会議再開を軸として国際的努力が集中されたが,国連でもかかる国際的動きを反映し,2月にワルトハイム事務総長が中東地域を訪問し,関係諸国,PLOを打診し,その結果を報告した。右訪問は,第31回総会決議31/62の実施として行われたものであるが,報告の内容は,アラブ諸国とイスラエルの間にPLOのジュネーヴ会議出席資格について基本的な意見の相違があることなどを含むもので,ジュネーヴ会議再開の困難を示唆するものであつた。安保理は,3月,前掲総会決議に基づき,上記事務総長の報告を基礎に中東和平達成を検討するため会合したが,何ら結論をえることなく審議を打ち切つた。

(ロ) 他方パレスチナ委員会は,9月,総会決議31/20に基づき報告書を提出し,「第31回総会で承認されたパレスチナ委員会報告書の勧告(76年に提出された最初の勧告)の有効性を全会一致で再確認し,同勧告が提案するイスラエルの撤退時期(77年6月1日まで)は既に経過したが,その象徴的意義及び平和的解決の緊急性を示すため,これを維持すること及び同委勧告履行のための努力強化の必要性を合意した」ことなどを勧告した。

安保理は,10月,上記総会決議に基づき,右勧告を審議したが,何ら結論を出さずに審議を打切つた。

(ハ) なお安保理は,5月,10月及び11月に会合し,UNEF(10月)及びUNDOF(5月,11月)の任期延長を決議した。

(ニ) 上記背景の下に,第32回総会が開催されたが,同総会の主要決議採択状況次のとおり。

(a) イスラエル入植地問題

10月28日,「イスラエルの67年占領地に対する措置は法的効果を有せず,中東和平の重大障害を構成する」などを内容とする決議を賛成131(わが国を含む),反対1,棄権7で採択した。

(b) 中東情勢

11月25日,「イスラエルの占領継続を弾劾し,PLOを含む全当事者が平等の立場で参加するジュネーヴ会議の早期開催を要請し,安保理が中東和平の包括的解決を容易にするため必要措置をとるよう要請する」などを内容とする決議を賛成102,反対4,棄権29(わが国を含む)で採択した。

わが国としては,この決議は,問題の一面のみを強調したり,また安保理の措置を要請するなど必ずしも時宜をえたものでなく,問題の建設的解決に寄与するものとは考えられないなどの理由により棄権した。

(c) パレスチナ問題

12月2日,「パレスチナ委員会報告書の勧告を承認し,パレスチナ問題解決の基礎として決議31/20により総会が承認した勧告につき,決定を下すよう安保理に要請する」などを内容とする決議及び「事務局内にパレスチナ人の権利に関する特別班を設置する」内容の決議を,前者は賛成100,反対12,棄権29(わが国を含む),後者は賛成95,反対20,棄権26(わが国を含む)でそれぞれ採択した。

わが国は,パレスチナ委員会の勧告は法的にも政治的にも実行不可能で,同勧告をパレスチナ問題解決の基礎とすることには賛成できないし,かかる勧告の実施を前提とする特別班の設置にも同意できなかったので棄権した。

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(3) 「国際民間航空の安全」決議と人質行為防止国際条約起草問題

77年秋に相次いで発生した日航機とルフトハンザ機のハイジャック事件を契機に,ワルトハイム国連事務総長は,国連総会において国際民間航空の安全問題について改めて国際的合意を作ることを示唆した。わが国は,この示唆を積極的に支持し,その実現を図るため関心を有する国との協議を通じて本問題に関する追加議題の上程,及び総会決議案としての日本案の作成,提出など積極的努力を行った。その結果,総会本会議は11月3日に「国際民間航空の安全」決議を全会一致で採択した。このような決議が全会一致で採択されたことは,国際世論をハイジャックなどの再発防止のために結集せしめ,国際民間航空機関及び各国が具体的措置をとつていくに当たってのよりどころを与えるとともに,国連が,世界の現下の問題に即応しうることを示すものとして高く評価された。

一方,人質行為防止国際条約の起草のために,第31回総会で設置された35カ国よりなる条約起草委員会の第1会期は,8月1日より3週間ニューヨークで開催され,わが国もメンバーとして参加した。委員会審議では,条約案文やこれに対する修正提案を含む作業文書が提出されたが,具体的な条約草案の作成には至らなかつた。第32回総会においては,わが国は,理由のいかんを問わずあらゆる暴力行為に反対するとの立場及び早期に条約案がえられることが望ましいとの立場から,同委員会の作業継続を求める決議案の共同提案国に加わり,その全会一致による採択に尽力した。同委員会第2会期は,78年2月6日より3週間ジュネーヴで会合した。同会期では,条約草案の逐条審議などを通じて作業の進展がみられたが,条約の適用範囲の問題などについては更に作業を必要としている。

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(4) 国連憲章再検討問題及び国連の役割強化問題

第30回総会により設置され,第31回総会で作業継続が決定された「憲章及び国連の役割強化に関する特別委員会」の第2会期は,2月中旬より4週間開催され,メンバー国であるわが国も参加した。今次会期においては,従来より加盟諸国が表明してきた憲章再検討及び役割強化に関する見解,提案をとりまとめた分析研究の検討が継続された。審議においては,従来同様,憲章再検討積極派と反対派の主張が対立したが,秩序だつた方法で本件問題の検討が継続されたことは有意義なことであった。

こうした特別委員会の経験に照らし,わが国は,関心を有する他の諸国とともに第32回総会において,同特別委員会の作業継続を求める決議案を推進し,その採択に尽力した。

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