-総   説-

第3章 経済協力の現況

 

第1節 総   説

 

1. はじめに

経済協力の目的は,開発途上諸国の自助努力を支援することにより,その経済,社会の発展と国民の福祉の向上及び民生の安定に寄与せんとするところにある。国際社会の枢要な一員たるわが国が,このような目的に沿ってその国力にふさわしい協力を行うことは、わが国の国際的責務である。

特にエネルギー,食糧,資源などの面で他の先進国に比し海外,とりわけ開発途上地域に対する依存度の高いわが国が,経済の発展と国民生活の安定を確保していくためには,国際社会との調和,特に開発途上国との間の真の友好信頼と互恵の基礎に立つた関係を維持強化していかなければならない。

このように,わが国にとって経済協力は,国際的責務であると同時に開発途上国との真の友好信頼と互恵の基礎に立つた関係を維持強化するという長期的,総合的国益を推進していくための重要な政策である。

かかる観点にたって,わが国は77年5月パリで開催された国際経済協力会議(CIEC),8月の総理ASEAN・ビルマ訪問時などにおいて「今後5年間に政府開発援助(ODA)を倍増以上に拡大するよう努力する」旨の意図表明を行った。

したがって,わが国としては,現在のような困難な国際環境と国内経済情勢の中にあっても,中期的展望に立って,経済協力の拡充とその効果的実施のための努力を一層強化しなければならない。

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2. 1977年のわが国経済協力実績

(1) 概   観

77年のわが国から開発途上国に対する「資金の流れ総量」は76年の40.0億ドル(支出純額ベース,以下同様)から77年は55.3億ドルヘと大幅な増加を示した。これを対GNP比でみると76年の0.72%から77年には0.81%へと上昇した。このような増加がみられたのは,ODAの増加と並んで,その他の諸項目,特に輸出信用及び国際機関に対する融資等が76年に比し,それぞれ2.5倍,3.5倍と大幅増加を示したためである(直接投資などは16.3%の減)。なお,これらの項目は,資金ソースの別によって,「その他の政府資金」(Other Official Flows,OOF)及び「民間資」(Private Flows,PF)に分類されるが,前者(OOF)は76年に比し21.7%の増加となり,後者(PF)は59.0%の増加となつたため,両者の合計額は41.9%の大幅増加を示した(詳細は資料編の付表を参照)。

    第1図 わが国の開発途上国に対する資金の流れ

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(2) 政府開発援助(ODA)

(イ) 77年のわが国の政府開発援助(ODA)実績は,14.2億ドルとなり,76年の11.0億ドルに比し28.9%の大幅増加となった。また対GNP比も76年の0.20%から0.21%へと若干の改善を示した。

(ロ) わが国ODA実績を項目別にみれば以下のとおりである。

(a) 2国間贈与については,76年の1.8億ドルから77年は2.4億ドルと28.0%の大幅増加となった。2国間贈与を技術協力と無償資金協力に分類すると,技術協力は前年比36.7%と大幅増加となり,また,無償資金協力も,15.7%増加したが,わが国の場合,他のDAC諸国と比べODAに占める無償資金協力の割合は低く,今後とも無償資金協力の拡充努力の必要が指摘される。

(b) 国際機関に対する出資,拠出などは,76年の3.5億ドルに比し49.2%の増加を示し5.3億ドルとなった。この結果,政府開発援助に占める国際機関への出資・拠出などの割合は76年の31.9%から36.9%へと更にその比率を高め,ピアソン報告の目標20%をはるかに凌駕している。このうち,国連関係機関及びその他の国際機関に対する贈与は76年の0.78億ドルから0.74億ドルと4.4%の減少となったが,国際開発協会(IDA)などの国際開発金融機関に対する出資・拠出は,4.6億ドルと76年の2.8億ドルに比し63.4%の大幅増加となった。

(c) わが国ODAにおいて大きな割合を占めている2国間政府借款などは,6.6億ドルと76年の5.7億ドルに比し16.6%の増加を示した。

このうち,海外経済協力基金の貸付は,76年の4億1,542万ドルから5億3,802万ドルヘと大幅に増加を示したが,日本輸出入銀行の貸付は,76年の1億3,654万ドルから1億1,085万ドルに減少している。そのほか,国際協力事業団の融資は,733万ドルから965万ドルに増加,海外漁業協力財団の融資は,789万ドルから329万ドルへ大幅に減少,海外貿易開発協会の融資は90万ドルから94万ドルヘと若干の増加を示している。

(ハ) わが国援助の条件面について見れば,77年にわが国が約束した政府開発援助のグラント・エレメント(注)は76年の74.9%から70.2%に低減した。これは,贈与約束額が37.7%伸びたにも拘わらず,借款約束額が倍以上に増加したため,ODA約束額に占める贈与比率が48.2%から37.7%に低減したことによる。なお,借款のグラント・エレメントは52.1%で,76年の51.5%とほぼ同水準であった。援助の質の面での国際目標は,78年2月のDAC本会議において従来のグラント・エレメント84%から86%に改訂されたが,わが国実績は遠く及ばないものであった。

(ニ) わが国の2国間ODAの地理的配分は,従来,地理的,歴史的,経済的に密接な関係を有するアジアが重点となつてきているが,77年についてみるとアジア地域のシェアが77.2%から59.3%に下ったのに対し,アフリカ地域が6.1%から6.3%に,中近東地域が7.9%から24.5%に,また中南米地域が6.6%から8.8%に各々増加を示した。

(ホ) 政府開発援助を予算ベース(一般会計以外のものを含む)でみれば,53年度は,6,354億円と前年度の5,485億円に比し15.8%の伸びを示した。この結果,予算ベースでの対GNP比は,前年度の0.28%より0.30%へと向上した。このうち贈与は2,966億円で,前年度の2,285億円に比し29.8%の伸びを示した。この贈与の内訳をみると,2国間贈与は前年度の745億円から1,092億円へ46.5%の大幅な伸びを示した。このうち,一般無償は前年度の180億円から390億円へと倍増以上になったほか,食糧及び食糧増産援助も前年度の110億円から174億円へと57.5%増加した。また国際機関への出資,拠出についても,前年度の1,540億円から1,874億円へと21.7%の伸びを示している。技術協力についても,前年度の439億円から512億円へと16.8%増の着実な増加を示した。

    第2図 わが国の政府開発援助

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(3) その他政府資金(OOF)及び民間資金の流れ(PF)

77年の「その他(ODA以外)の資金の流れ」(OOF及びPF)は,76年の29.0億ドルから41.1億ドルに12.1億ドル,41.9%増加し,GNP比も0.52%から0.60%に増加した。カテゴリー別に見れば,輸出信用は76年の7.9億ドルから20.0億ドルに約2.5倍の増加となった。直接投資などは,証券投資が76年の1.1億ドルから4.1億ドルに大幅増加し,市中銀行の対外貸付も増加したにもかかわらず,いわゆる直接投資が18.6億ドルから11.4億ドルに38.6%低下したため,全体として,19.6億ドルから16.4億ドルに16.3%減少した。国際機関に対する融資は,76年の1.3億ドルから4.6億ドルに約3.5倍の増加となった。

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3. 経済協力実施体制

最近わが国の経済協力の拡大に伴い,政策面及び実施面の双方において経済協力に関する行政の円滑な推進のための努力が払われている。わが国の経済協力は,対外関係事務の総括の衝に当たる外務省の実質的な調整のもとに,大蔵省,通産省,経済企画庁など関係各省庁との間で連絡協議を図りつつ進められており,77年6月には,52年度政府直接借款のディスバースメントを促進するための新規借款供与方針が決定された。

また,経済協力の実施体制の強化を図る努力の一環として,74年8月に設立された国際協力事業団(JICA)は,わが国の政府ベース技術協力に係わる業務を積極的に推進している。

なお,75年7月に設置され,経済協力の効果的な実施を図るための基本問題を協議してきた対外経済協力閣僚協議会は,77年1月に廃止され,今後は,必要に応じ機動的に開催し,効果的な運用を図ることとなった。

また,61年6月に政令に基づき総理大臣の諮問機関として設置された対外経済協力審議会は,引き続き積極的な活動を続けている。

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(注) ODAの条件の緩和度を示す指標。個別の援助のグラント・エレメントを加重平均して算出する。個別の援助のグラント・エレメントは金利が低くなり,据置期間及び償還期間が長くなる程,パーセントが高くなり,贈与は100%と定義され,逆に商業条件(金利10%)の借款は0%とされている。