-通 商 問 題-

 

第2節 通 商 問 題

1. 概   況

(1) 75年に戦後最大の落ち込みを記録した世界貿易は,76年には先進国を中心とした世界的景気回復に伴い数量ベースで前年比10.6%増(国連統計)を記録したが,77年にはいると先進工業国における成長の鈍化を反映し伸びが鈍化するに至つた。

(2) 更に,一部の先進工業国などにおいては,失業者の増大など景気の低迷に起因した政治的社会的不安を背景に,保護貿易主義的な圧力が高まり,経済困難が政治問題化する傾向が見られた。このような動きの中で5月にロンドンで開かれた主要国首脳会議では,保護貿易主義を排し,開放的で無差別な貿易制度を遵守すること及び77年中に東京ラウンドの実質的進展を図ることが確認された。一方ガットの場においても,自由貿易体制の維持強化を目的に東京ラウンド交渉が積極的に推し進められた。またOECDでは6月,貿易プレッジの向う1年間の延長が再確認された。

(3) このように先進諸国間においては積極的な国際協調の動きが見られた反面,日・米間及び日・EC間においては,日本側の貿易収支の黒字幅の増大を原因として,貿易関係における摩擦が発生した。

(4) かかる状況の中で78年1月13日には日米共同声明が発表され,77年秋以来日米間で行われてきた一連の経済協議に一応の決着が見られ,またECとの間においても,問題解決のための話し合いが進められている。

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2. ガ ッ ト

(1) 東京ラウンド(多角的貿易交渉)

73年9月の東京宣言により開始が正式に決定された東京ラウンドは,米国の通商法成立の遅延,石油危機に続く深刻な国際経済情勢,農業をめぐる米・EC間の対立などの理由から,はかばかしい進展をみなかつたが,77年には米国,ECの交渉責任者が交替したこともあり,実質的な進展が図られた。77年11月には工業品の非関税措置,農産物の関税,非関税措置について各国から交渉相手国に対し要求(リクエスト)リストが提出された。78年1月には上記リクエストに対する解答及び工業品の関税引下げがいわゆるイニシアル・オファーとして,日本,米国,ECなどより提出され,交渉は本格的段階に入つた。

わが国は,保護貿易主義的圧力を抑え,世界貿易の安定的かつ調和的な拡大を図るためには,東京ラウンドを推進することが重要であるとの認識のもとに,これまでも交渉の推進に努力してきた。また,交渉が本格的段階に入るに際し,78年1月,閣議で,本交渉が実質的成果をあげて早急に完結するよう率先して最大限の努力をするとの基本方針を決定した。

交渉各分野の現状と主な問題点は次のとおりである。

<関   税>

関税引下げ方式については,日本,米国,ECなどから提案が出されていたが,主要国間の話合いの結果,ハ一モニゼーション方式(高関税はより大幅に,低関税は相対的により小幅に引下げ,各国の関税構造格差を少なくする方式)を基本とするスイス案に従いつつ,例外を差引いた最終成果として,平均40%引下げを目標とした関税引下げオファーを行うことが合意された。わが国もこれにそつてオファーを提出し,各国と交渉を行つている。

<非関税措置>

非関税措置の分野では,数量制限・許可制度,税関問題,技術的貿易障害,補助金・相殺関税及び政府調達の各分野で,コード案の作成など多角的解決策の探究などが行われている。そして許可制度,税関問題,技術的貿易障害及び政府調達についてはコード案が固まりつつある。数量制限のような多角的解決策になじまないものは,関係国間で個別的品目または措置ごとに交渉が行われている。

<セクター・アプローチ>

特定の分野につき貿易障害の軽減を包括的に図ろうとするもので,カナダ,開発途上国などが重視している。わが国は他の分野の交渉状況をみた上でこのようなアプローチを検討すべしとの態度をとつている。

<セーフガード>

現行ガット19条を補完するための多角的セーフガード・システムの諸要素について討議されている。選択的適用を認めるか,代償提供,報復措置権限を不可欠の要素とするか,発動要件を精緻化するかなどが重要な争点である。自由化を進める一方で合理的なセーフガード措置について合意することは東京ラウンド全体を通じても極めて重要なポイントである。

<農   業>

市場アクセスの増大を目指す米国,豪州,カナダと,共通農業政策の堅持を基本方針とするECとの間で交渉の進め方につき原則的対立があるが,この対立を一応たな上げしたまま2国間,複数国間で品目ごとに前述のリクエスト・オファー方式による交渉が行われている。

穀物,食肉及び酪農品の3分野では,多角的解決策の探究が行われている。

<熱帯産品>

東京ラウンドでは,各交渉分野で開発途上国が,貿易上の一層有利な特別措置を要求している。特に熱帯産品については他の交渉分野に先がけて,77年はじめ,主要国は関税引下げ,特恵枠の拡大などのオファーを実施した。わが国も77年4月,83品目について関税引下げなどを行つた。

<フレームワーク>

国際貿易の枠組の改善について検討が行われている。

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(2) ガットの諸活動

77年11月開かれたガット第33回総会において,沢木大使は東京ラウンドの妥結前に,若千品目の関税引下げの前倒しを検討している旨発言し,大きな反響をえた。

ガット理事会は6回開催され,日本製民生用電子機器に対する米国関税清算停止措置はガット違反であるとのわが方主張を認めるなど,保護貿易的措置が各国において増えてゆくなかにあって,開放的貿易体制の維持強化に努めている。

貿易開発委員会では開発途上国の貿易開発のためにガット第4部の規定の実施状況の検討などを行っている。

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(3) ガット繊維取極(MFA)

74年1月に発効したMFAは,77年末で失効するので,繊維委員会はその延長問題を審議した。輸出国,輸入国から種々意見が出されたが,取極の修正は行わず,運用面で改善をはかることでようやく収拾がはかられた。その結果MFAは81年末まで4年間単純延長された。わが国は77年12月,延長されたMFAを受諾した。

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3. わが国の対応

-国際収支問題-

(1) 77年のわが国の輸出はIMFベースで793億ドル(前年比20%増)と高水準であったものの,輸入は内需の拡大が緩慢であったため618億ドル(同10%増)と輸出の伸びを下回り,約175億ドルの出超となった。

(2) このようなわが国の貿易黒字拡大に対し米国及びECは,対外収支不均衡是正のための協力を要請した。これに対しわが国は,先進工業国における国際収支の不均衡は赤字国における改善努力に待つべき点も多々あるとしても,このような不均衡状態が先進国の抱えている困難な国内社会政治問題の解決を更に困難にし,保護貿易主義の台頭を許容することがあってはならないという配慮もあって,この際,国際協力のための措置を更に進めることとした。

(3) まず,わが国経常収支の黒字幅を可及的速やかに縮小させるべきであるとの認識の下に,輸入拡大の前提である内需の拡大のため78年度の実質成長7%の目標達成を可能ならしめるための財政などの思いきった措置を導入する一方,関税の前倒し引下げを行うことを決定したほか,一部残存輸入制限品目の輸入枠の拡大,自由化などの具体的措置を決定した。

(4) そして,これらの政策目標や具体的措置は牛場対外経済大臣などを通じて77年末に米国,ECなどに説明された。

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