-アジア地域-

6. 南西アジア諸国

 

(1) 南西アジア諸国の内外情勢

(イ) 域内関係

インド・パキスタン関係は,パキスタンの国内政情が流動的であつたため特に進展はなかつた。

インド・バングラデシュ関係については,11月にガンジス河の水の分配に関する協定が署名され,長年の懸案であつたファラツカ・ダム問題に一応の解決がもたらされたほか,両国国境周辺の騒擾問題についても一応の解決をみるに至り,更に12月にはゼアウル・ラーマン・バングラデシュ大統領がネパール,パキスタンとともに,インドを訪問し,両国関係は改善に向かつた。

また,インド・ネパール関係も,3月にはビレンドラ・ネパール国王が訪印し,また,懸案の貿易通過協定問題に解決のめどがつき,12月にはデサイ・インド首相がネパールを訪問するなど両国関係は良好に推移した。

(ロ) イ ン ド

(a) 内   政

77年のインドは,3月の下院総選挙において,独立以来一貫して政権を担当してきたコングレス党が大敗を喫し,インド史上初の非コングレス党政権であるジャナタ党のデサイ政権が誕生するという大きな変革を経験した。ジャナタ党は,ガンジー政権打倒のため急拠4つの野党が結集した寄合い世帯であつたが,5月,4党を発展的に解消するとともに,民主コングレス党を合体して単一政党となつた。

新政権はガンジー政権下において抑えられていた民主主義ルールの再確立に努めるとともに,従来の重化学工業優先政策を改め農村開発と中小企業の振興に重点を置いた新産業政策を打ち出している。

(b) 外   交

(i) デサイ政権は「真の非同盟」を標榜し,一方では対ソ関係をより実務的かつバランスのとれた関係へと軌道修正するとともに,他方では米国及び日本などの西側先進国との関係緊密化を志向し,中国との関係についても関係改善への模索がみられた。

更に,同政権は,近隣諸国との一層の関係改善に努めインド亜大陸全体の安定化に大きく寄与した。

(ii) ソ連との関係では,4月のグロムイコ外相の訪印及び10月のデサイ首相の訪ソにより印ソ友好関係維持の必要性が確認されたが,デサイ政権としては印ソ関係を従来よりも実務的なものとしていくとの姿勢を明確にした。

(iii) 中国との関係では,印中両国とも関係緊密化をめざすとの点では一致しつつも,貿易再開を除いては大きな関係改善への動きは見られなかつた。

(iv) 米国との関係では78年1月のカーター大統領の訪印が印米関係の改善を図る上での大きな契機となつた。

(c) 経済情勢

77年のインド経済は食糧穀物生産が76年に続く豊作で75年の大豊作をしのぐ史上最高となる可能性もあり,経済成長率も76年を上回るものとみられている。他方工業部門においては,国内需要の停滞,労働争議の頻発,電力供給不足などにより政府の鉱工業生産目標達成は難しいものとみられている。76年既に顕著であつた穀物在庫及び外貨準備の増勢は続いており,貿易収支も76年に引き続き黒字を計上する見通しである。

(ハ) パキスタン

(a) 内   政

77年はパキスタンにとつて激動の年であつた。3月に6年半ぶりに下院総選挙が実施され,ブットー首相の率いる与党人民党が圧勝したが,野党連合は不正選挙であつたとして各地で激しい反政府運動を展開し,国内は混乱に陥つた。この混乱を収拾するため,7月に軍部による政変が発生し,ハック陸軍参謀長を首班とする軍事政権が発足した。同政権は「暫定政権」であるとして90日以内の総選挙の実施と民政移管を約したが,民政移管の前提となる政権の確固たる受け皿が存在しなかつたこともあり,10月軍事政権は,ブットー前首相などに対する裁判を総選挙前に完了する必要があるとして,予定されていた総選挙を無期延期した。この結果軍政が当分の間続くこととなつた。

(b) 外   交

7月に政権を掌握した軍事政権は,前政権が行つた国際約束を遵守する旨明らかにし,ハック戒厳令総司令官自身,9月にイラン,サウディ・アラビア,アラブ首長国連邦,アフガニスタンを,10月より11月にかけクウェイト,リビア,ジョルダン,トルコの各国を,また12月には中国を訪問するなど中近東諸国及び中国との友好関係の維持という前政権の外交路線を踏襲した。

76年より懸案となつていたフランスよりの核燃料再処理プラント購入問題は77年中も解決をみず,米・パ・仏間の懸案として持ち越された。

(c) 経済情勢

76年若干明るい兆しのみえたパキスタン経済は,77年綿花の大凶作及び総選挙後の国内混乱などにより大きな打撃を受けた。

農業部門で小麦,米,さとうきびがいずれも豊作であつたにもかかわらず,綿花が虫害などにより2年続きの大凶作にみまわれ,また工業部門でも綿花関連工業が著しい落ち込みを記録した。

貿易収支も綿花関連製品の輸出不振,石油の輸入価格の上昇などによりその赤字幅は13億ドル強を記録し,経済成長率は前年の4.3%を著しく下回る2.1%にとどまつた。

(ニ)バングラデシュ

(a) 内   政

ゼアウル・ラーマン戒厳司令官(陸軍参謀総長兼任)は,軍内部の体制立て直しを中心に国内秩序の回復及び自己の権力基盤の強化に努めた結果,77年のバングラデシュ政情は全般的に安定的に推移した。

同戒厳司令官は4月21日にサイヤム大統領に代つて大統領に就任するとともに民主政治復帰へのステップとしてこれまで無期延期となつていた総選挙を78年12月に実施する旨,また国家基本原則のうち脱宗教主義を削除し,代つて回教主義を採択する旨発表した。ゼアウル・ラーマン大統領就任については5月に行われたレフアレンダムにおいて国民の圧倒的な支持を受けた。77年後半よりラーマン大統領の提唱によるものとみられる既存政党を含む統一政治戦線結成の動きが伝えられたが,同年末には既存政党とは別に新たに政党を結成する動きがみられた。

(b) 外   交

77年には活発な訪問外交が展開された。1月にラーマン戒厳司令官は中国を公式訪問し,「貿易支払協定」などの調印,華国鋒主席のバングラデシュ訪問招請が行われるなど両国関係の緊密化がみられた。

また,ラーマン大統領は回教諸国との宗教に基づく連帯関係を強化するとともに経済協力関係などをも促進するために,3月にイラン,7月にサウディ・アラビア,9月にエジプトを各々公式訪問した。他方,インド亜大陸諸国との関係も改善された。

(c) 経済情勢

77年のバングラデシュ経済は,好天に恵まれた結果農業部門が比較的順調に推移した。また,民間部門育成のための一連の経済自由化措置もある程度の成果を挙げたものとみられている。

(ホ) スリ・ランカ

(a) 内   政

77年7月に実施された総選挙では,物価騰貴,失業増大などによる国民生活の窮迫に対する国民のうつ積した不満を背景として,野党統一国民党が圧勝した。この結果,70年5月以来政権の座にあつたバンダラナイケ首相は辞任し,J・R・ジャヤワルダナ統一国民党党首が首相に就任した。

同新政権は,内政の長期安定化を狙いとし,行政の実権を有する国家元首としての大統領(任期6年)を国民の直接選挙で選出すること及びその初代大統領にジャヤワルダナ首相が就任することなどを規定した憲法改正法を10月国会で可決せしめた。

(b) 外   交

ジャヤワルダナ政権は,「真の非同盟中立」を追求し,自由主義国,社会主義国を問わず,すべての国との友好関係維持に努める旨表明しているが,ジャヤワルダナ大統領が強固な自由主義思想の持主であり,また経済開発推進の上から諸外国の経済援助と投資拡大に期待せざるを得ない同国としては,わが国を含む自由主義圏諸国に対する積極的な外交姿勢を示している。

(c) 経済情勢

77年のスリ・ランカ経済は,史上最高の豊作となつた米作のほか紅茶及びゴムの生産増など農業部門の生産が好調であつたため,全体として従前にくらべやや好転した。

ジャヤワルダナ政権は,前政権による福祉重視の国家主導型の統制的経済体制をより自由な経済体制に転換せしめることを企図し,輸入制限緩和,為替制度の一本化と平価切下げ,為替管理の自由化など一連の経済自由化政策を実施し,開発予算拡大のため食糧補助金の削減を断行した。

(ヘ) ネパール

(a) 内   政

77年のネパールはビレンドラ国王の親政体制が一段と強化されたが9月反王制勢力の中心人物であるコイララ元首相の処遇問題をめぐり国王との意見の対立によりギリ内閣が退陣し,ビスタ新内閣が成立した。ビスタ首相は政治犯の釈放,反体制的新聞の復刊を認めるなど民主的政治環境の醸成につとめている。

(b) 外   交

インドとの関係は3月のビレンドラ国王の訪印,7月のヴァジパイ・インド外相及び12月のデサイ首相のネパール訪問により,両国関係は良好に推移した。中国とは引き続き緊密な関係にある。

(c) 経済情勢

77年の農業生産は天候不順のため76年に比較して約4%の減産を記録し,物価も上昇して経済成長率はマイナスを記録した。国際収支については,貿易収支の赤字幅が拡大したが,観光収入,外国援助などが増加したため総合収支では黒字を記録した。

(ト) モルディヴ

(a) 内   政

77年のモルディヴ情勢はナーシル大統領親政体制が一層強化される中で平穏に推移した。ナーシル政権は,国民生活向上のため漁業近代化の推進,教育の普及,国内通信網の整備などに努めるほか,衛星通信による国際社会との通信の確立などにより同国の国際化にも努めている。

(b) 外   交

77年には,インド,リビア及びパキスタンがあいついで首都マレに大使館を設置した。モルディヴ近海の豊富な漁業資源と同国のインド洋上に占める戦略上の位置に鑑み,漁業開発援助を中心とする同国に対する諸外国の働きかけは活発化している。

(c) 経済情勢

モルディヴ経済を支える漁業の近代化が,漁船の動力化という形で進展しつつあり,従来の伝統的輸出品目であるモルディヴ・フィッシュに加え,鮮魚の輸出も急増しつつある。政府は外貨取得源として海運業及び観光業の振興にも力を入れ,かなりの成果をあげている。

(チ) ブータン

(a) 内   政

ワンチュク国王は国内の地域格差の是正,教育の普及などにより自国の近代化のため開発諸計画の推進に努めている。

(b) 外   交

外交関係については,インド・ブータン条約に基づき,インド政府の助言に従うこととなつており,現在ブータンが外交関係を結んでいる国はインド及びバングラデシュの2カ国のみである。

(c) 経済情勢

インドから経済技術援助を得て農業,運輸,道路及びダム建設などに重点を置く第4次5カ年計画(76年~81年)を推進中である。

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(2) わが国と南西アジア諸国との関係

鳩山外務大臣の南西アジア諸国訪問

鳩山外務大臣は7月,バングラデシュ,インド,ネパールの3カ国を公式訪問した。同大臣はバングラデシュにおいては,ラーマン大統領,ハック政策評議会委員(外務担当)と,インドではデサイ首相,ヴァジパイ外相ほか主要閣僚と,またネパールではビレンドラ国王,アリヤル外相と会談した。

会談においては,これら3カ国より,わが国からの経済・技術協力関係を一層緊密化したいとの強い願望が表明された。また,従来行われていた日印事務レベル定期協議を外相レベル協議とすることが合意された。

<要人往来>

<貿 易>

<民間投資>

<経済協力(政府開発援助)>

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