-アジア地域-

第 2 部

各  説

第1章 各国の情勢及びわが国とこれら諸国との関係

 

 第1節 ア ジ ア 地 域

 

1. 東南アジア諸国連合(ASEAN)

 

(1) ASEANの動き

(イ) 全   般

インドネシア,マレイシア,フィリピン,シンガポール及びタイの5カ国から成るASEANは76年2月のバリ島での第1回首脳会議においてASEAN協和宣言,東南アジア友好協力条約などを採択して加盟国間の連帯を強めるとともに,機構としての基盤を強化し,各加盟国と地域の強靱性強化のため域内協力を推進することにつき合意した。

77年においてもASEANは以下に述べるとおり8月に第2回首脳会議及び日本,豪州,ニュー・ジーランドとの初めての首脳会談を開くなど,引き続き加盟国の連帯と強靱性の強化及び域外国との関係強化を計つた。

(ロ) 第2回首脳会議

(a) 7月5日から8日まで第10回ASEAN閣僚会議が開かれた。この会議では,その共同声明において,インドシナ諸国に対し平和的かつ互恵的関係を促進したいとの希望が再表明されたほか,第2回ASEAN首脳会議を間近に控えバリ会議以後の域内協力の進捗状況が検討された。

(b) 8月4日,5日の両日,ASEAN発足10周年を記念すると共に発足後の歩みを回顧するとの目的の下に,クアラ・ルンプールにおいて第2回ASEAN首脳会議が開催された。同会議では,ヴィエトナムの国連加盟が歓迎されたほか,インドシナ諸国に対し,平和的,互恵的関係の発展の願望が強調されると共に同諸国との外交,通商面での交流に対し,満足の意が表明されるなど,平和的呼びかけが繰返された点,注目された。他方,引き続き行われる域外3国との首脳会談のうち,特にわが国との首脳会談を念頭に置いて,経済面における協力拡大への期待が表明された。なお8月6日~8日には,後述のとおり,日本,豪州及びニュー・ジーランドとの初の首脳会談が行われた。

(ハ) 域外国との関係強化

以上のごとくASEANは加盟国間の連帯を高める一方,わが国をはじめ,豪州,ニュー・ジーランド,EC,米国,カナダなどの域外先進諸国との協力関係の強化に努めてきた。77年に開催された域外諸国との主な会議などをあげてみると次のとおりである。

なお,9月の米国との協議は双方間の初の公式対話として各方面より注目されたが,具体的な協力施策はなんら合意されなかつた趣である。

(ニ) 域内経済協力の進展

経済面におけるASEAN協力については,76年はASEAN協和宣言の行動計画に基づきかなりの進展がみられたが,77年においては以下に述べるとおり76年程の進展はなかつたと言える。

(a) 産業面での協力

まず1月の工業委員会において,5大プロジェクトに加えて7つの予備プロジェクトが次のとおり各国に割り当てられた。これらプロジェクトについても資本及び経営参加に関し,5大プロジェクトと同様の原則が適用される由である。

9月の第5回経済閣僚会議において,F/S(実現可能性調査)を終えたインドネシアの尿素プロジェクトが最初のASEAN工業プロジェクトとして承認され,78年4月には関係国政府より資金拠出のコミットメントを受けることができるよう必要な措置が取られることとなつた。またシンガポールのディーゼルエンジンプロジェクトについては,対象範囲,特恵待遇などに制限が加わることとなつた。

(b) 基礎産品,特に食糧及びエネルギーにおける協力

1月の第3回経済閣僚会議において基礎産品,特に米及び原油を特恵貿易の対象とすることに合意をみ,その後,米の緊急時における優先供給,購入の協議を容易にするため,米の需給審査を行う機関を設立した。

(c) 貿易面での協力

行動計画に沿つて貿易委員会を中心に検討が進められた結果,第3回経済閣僚会議で特恵貿易制度に関する協定案が合意され,2月の特別外相会議で署名された。同協定に基づいて6月の第4回経済閣僚会議においては,第1次域内特恵対象として,一次産品,工業製品を含む延べ71品目に10~30%程度の特恵関税の譲許を行うことが合意され,8月の第2回首脳会議での勧告に従い予定どおり78年1月1日より特恵実施に移された。また第5回ASEAN経済閣僚会議ではその後の貿易委員会における特恵貿易交渉のラウンドごとに各国最低50品目ずつ,5ヵ国合計250品目の関税引下げのオファーを行うことが合意された。

(d) 国際経済問題などに関する協力

わが国に対するパイナップル缶詰問題における共同アプローチ,UNCTAD一次産品総合プログラム及び共通基金を含む主要一次産品問題やジュネーヴでのガット多角的貿易交渉(MTN)東京ラウンド交渉におけるグループとしての行動などがみられた。

さらに金融面での協力として,加盟国の一時的な国際流動性危機に対処するため,各国中央銀行及び通貨当局間で1億米ドルのスワップ協定を締結することが第4回ASEAN経済閣僚会議で合意され,8月の第2回ASEAN首脳会議の際に署名された。

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(2) ASEANとわが国との関係

わが国は従来よりASEANを東南アジアにおける自主自立の地域協力機構として高く評価してきたところ,特にASEANが76年の第1回首脳会議を契機に域内協力活動を積極化している状況に鑑み,77年においては,対ASEAN関係を以下に述べるとおり積極的に推進した。

(イ) 日米首脳会談一対ASEAN協力の表明

わが国は3月21日及び22日ワシントンで行われた日米首脳会談後の共同声明において,米国とともにASEANの活動に注目し,その強靱性強化の努力を高く評価するとともに,その連帯と発展への努力に対し協力と援助を行う用意がある旨表明した。

(ロ) 日本・ASEANフォーラムの発足

他方,日本・ASEAN間においては,双方の対話と協力を,従来の日本・ASEAN合成ゴム・フォーラムの範囲から拡大・強化すべく,双方の関係全般につき意見交換を行う新たなフォーラムの場を作ることが既に76年11月に合意されていた。これは上記日米首脳会談とほとんど時を同じくして3月23日ジャカルタにおいて開かれた日本・ASEANフォーラムの第1回会合として結実した。この第1回会合では,今後双方がこのフォーラムを通じて対話を行う対象分野が大枠として決められたのみで具体的内容には立ち入らなかつた。

(ハ) 日本・ASEAN首脳会談への準備-ラディウス・ミッションの訪日

上記日本・ASEANフォーラムの発足によりASEANとの協力推進の機構づくりが行われたあと,ASEAN側は,協力関係発展につき具体的に意見交換すべく,8月の第2回ASEAN首脳会談の機会にわが国など関係諸国との首脳会談を行うことを検討しはじめた。このラインに沿つて,まず6月シンガポールで行われた第4回ASEAN経済閣僚会議では,わが国との経済関係についてASEAN側の考えを説明すべく,インドネシアのラディウス商業大臣を団長とする代表団をわが国に派遣することで合意した。右代表団は7月14日に来日し,15,16日と福田総理大臣及び関係閣僚に会見したほか事務当局と会議を行い,一次産品問題,ASEAN産品の対日輸出拡大及びわが国のASEANプロジェクトなどに対する協力方要望を表明した。

(ニ) 日本・ASEAN首脳会談

(a) 8月に創立10周年を迎えたASEANは,この機会にクアラ・ルンプールで第2回首脳会議を開くとともに,引き続き同地で,ASEANと特に関係の深いわが国,豪州及びニュー・ジーランドの政府首脳との首脳会談を行うため,わが国の福田総理大臣,豪州のフレイザー首相及びニュー・ジーランドのマルドゥーン首相の3域外国首脳をクアラ・ルンプールへ招請した。

わが国の福田総理大臣はASEAN側の要請にこたえ,8月6日鳩山外務大臣,園田官房長官,田中通産大臣などを同道同地を訪問し,まず同日豪州及びニュー・ジーランド首相と共にASEAN5カ国首脳と非公式に会合した。翌8月7日,福田総理大臣はASEAN5カ国首脳との歴史的首脳会談に臨んだ。会談の結果,わが国はASEANの連帯と強靱性強化の努力に積極的に協力すること,ASEANとの間に「特別かつ緊密な経済関係」を樹立することなどを合意し,その旨共同声明で表明した。

具体的には,わが国は主として次のようなASEAN協力を行うことに合意した。

(i) 経済協力-5つのASEANプロジェクトに対する総額10億ドルの援助要請を好意的に考慮。

(ii) 貿易問題-関税,非関税措置の撤廃ないし軽減を多角的貿易交渉(MTN)の枠内で検討。一般特恵制度の改善を検討。ASEAN貿易観光常設展示場の東京設置。一次産品輸出所得安定化問題につき共同検討。その他の一次産品問題における協力。

(iii) 文化協力-ASEAN域内の文化協力促進に対し資金面も含めて協力。

(b) このような画期的な日本・ASEAN首脳会談の結果,日本・ASEAN関係は大きく前進し,双方の関係は「新時代の幕明け」を迎えることとなつた。

(ホ) マニラ・スピーチ

福田総理大臣は上記日本・ASEAN首脳会談のあと8月9日より18日までASEAN5カ国及びビルマを歴訪した。(詳細は70~72ページ)

右歴訪を終えるに当たり同総理大臣は8月18日最後の訪問地マニラにおいて演説し,わが国のASEANを含む東南アジア地域全体に対する外交姿勢を以下の3つの原則として表明したところ,右はわが国が戦後初めて示した積極的外交姿勢としてASEAN諸国ほか関係諸国より高く称賛された。

(a) わが国は,平和に徹し軍事大国にはならないことを決意しており,そのような立場から,東南アジアひいては世界の平和と繁栄に貢献する。

(b) わが国は,東南アジアの国々との間に,政治,経済のみならず社会,文化など広範な分野において,真の友人として心と心のふれ合う相互信頼関係を築きあげる。

(c) わが国は,「対等な協力者」の立場に立つて,ASEAN及びその加盟国の連帯と強靱性強化の自主的努力に対し,志を同じくする他の域外諸国とともに積極的に協力し,また,インドシナ諸国との間には相互理解に基づく関係の醸成をはかり,もつて東南アジア全域にわたる平和と繁栄の構築に寄与する。

(ヘ) 日本・ASEANフォーラム第2回会合

上述の福田総理大臣の東南アジア訪問により,わが国とASEANとの協力関係の具体的目標が設定された。そこで日本・ASEAN共国声明で合意された具体的な協力施策の実現方につき意見交換をすべく,11月17日,18日の両日東京において本フォーラム第2回会合が開かれ,ASEAN側よりラディウス・インドネシア商業相らが来日した。双方は,経済協力,貿易及び文化の協力分野ごとに分科会に分かれて意見交換し,協力施策実現に向けて一歩前進がはかられた。

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