第1節 国際文化交流の現状
1. 文化交流に関する諸取極の締結
(1) チェッコス口ヴァキアとの文化取極
76年1月20日,宮澤外務大臣(当時)とコジュシュニック駐日チェッコスロヴァキア大使との間で両国間の文化交流に関する取極が締結された。
チェッコスロヴァキアとの間には,これまでも種々の文化交流が行われていたが,本取極は,学者,芸術家,スポーツマンその他文化的活動に従事する者の交流,奨学金の供与,各種文化的行事の実施,広報資料の配布,公の刊行物の交換等の分野で,両国政府が自国の法令の範囲内でできる限り協力する旨取り決めている。同取極の締結によつて,両国民間の相互理解と友好関係の一層の増進が期待される。
76年10月26日,トルドー・カナダ首相来日の機会に,小坂外務大臣(当時)とランキン駐日大使との間で日加文化協定が署名された。
この協定は,本文14条から成り,従来わが国が締結した他の文化協定とほぼ同様に,文化及び教育の分野における交流を奨励し,その促進のため相互に便宜を供与すること等を規定しており,批准書の交換により効力を生ずることになつている。この協定の締結により,従来から種々の形で行われてきた両国間の文化交流がより安定した基礎の上に一層促進されることが期待される。
(1) 第1回日墨文化混合委員会
74年4月18日付けの交換公文により設立された日墨文化混合委員会の第1回会合が76年3月9日及び10日メキシコ市で開催された。同委員会では,文化,教育,科学及び技術の各分野における両国間の交流状況をレヴューするとともに,引き続き交流の拡大に努力することが合意された。
日豪文化協定(76年2月9日発効)に基づく第1回日豪文化混合委員会は,76年4月20日,東京において開催された。同委員会では,日豪文化交流促進計画,豪日財団,科学者の交換,青少年交流,日本における豪州研究講座の開設等の諸問題が話し合われた。
第8回カルコンは,76年5月26日から28日まで,ワシントンにおいて開催され,日米両国から,文化,教育,マスメディア,芸術,政治,経済等の各分野及び政府機関の代表等が出席した。
今次会議においては,米国における日本研究,わが国における米国研究,国際理解増進のための教育,博物館交流,テレビ・ジャーナリズム分野における交流等,多分野にわたる両国間の交流増進の方途について意見交換が行われたほか,経済人等に対する相手国文化についてのオリエンテーションの問題,日米両国間の文化・教育交流を妨げる障害の問題,日本語書籍文献等の英語への翻訳の問題等について活発な討議が行われた。
なお,右会議に先立ち,米国独立200年祭を記念して,ニューヨークにおいて,5月24日から26日まで「AGENDA FOR FUTURE」なるテーマの下に,カルコンのシンポジュウムが開催され,日米両国の若手学者,芸術家をはじめ,カルコンの両国代表が参加した。本シンポジュウムでは「人間関係」「環境問題」「生産過程」「創造過程」の4つのトピックの下に,若者の文化,社会的参加,都市の発展と環境の問題,労使関係,芸術と技術,大衆社会の問題等,現在日米両文化が直面している共通の諸問題に関し,活発な討論が行われた。
76年1月23日から約3週間にわたり,イラン,イラク,シリア,エジプト及びアルジェリアの中近東5ヵ国に石川忠雄教授,牟田口義郎論説委員,外務省,文部省,国際交流基金関係者等6名からなる文化交流調査団を派遣した。同調査団は,どのような形でわが国と中近東諸国との交流を進めるべきか,どのような文化交流が最も効率的かなどについて検討するため,各訪問国において政府関係者,文化人,教育関係者等との意見交換及び各種文化,教育施設の視察等を行い,中近東諸国との文化交流のあり方について提言をまとめた。
4. 米国独立200年祭記念事業-ケネディ・センター小劇場の寄贈
米国独立200年祭を記念し,75年訪米中の三木総理大臣(当時)は,米国西海岸のシアトル,サンフランシスコ及びロスアンゼルスの3都市に対する桜の苗木の寄贈(75年12月)とともに,ワシントンにあるケネディ・センターに小劇場を寄贈するとのわが国の意向を表明した。
本件小劇場の寄贈は,センター設立当時より未完成のまま残されているセンターの一部に,小劇場(500席)を建設するために必要な300万ドルを援助するもので,このうち100万ドルはわが国民間からの募金,200万ドルは政府が負担することとし,76年度予算より国際交流基金を通じて寄贈された。
本件小劇場建設資金の贈呈式は,76年6月30日,米国大統領官邸ローズ・ガーデンにおいてフォード大統領及び三木総理大臣(当時)の出席のもとに,植木総務長官よりケネディ・センター,スティーヴンス理事長に対し,日本政府の200万ドル及び民間団体(経団連,日本経営者団体連盟,日本商工会議所,経済同友会,全農業組合中央会,日米協会の6団体が中心となり募金を行つた)の募金による100万ドルを贈呈した。
現在,ケネディ・センターでは,すでに工事請負の入札を行い,音響技師及び建築家を確定し,早期完成を目指して小劇場の基礎設計を行つている。
(注) ケネディ・センターは,71年ジョン・F・ケネディ・センター法に基づき,スミソニアン研究所の一部として設立された音楽会,オペラ,演劇等に使用されるいくつかのホールからなる国立の文化センター。
(1) 文化無償協力
政府は,75年度以降の予算措置により,文化交流に関する国際協力の一環として,文化財及び文化遺跡の保存活用,文化関係の公演及び展示等の開催並びに教育及び研究の振興のために使用する資機材等を相手国政府が購入するための資金を贈与する文化無償協力を実施している。
76年度中に実施した文化無償協力プロジェクトは次の5件である。
(イ) ラオス政府に対し,小中学校用謄写機材を購入するため1,350万円
(ロ) ビルマ政府に対し,文化財保存資機材を購入するため900万円
(ハ) インドネシア政府に対し,バンドン工科大学物理化学教室用実験機材を購入するため3,200万円
(ニ) フィリピン政府に対し,フィリピン高等研究センター人類学研究用資機材を購入するため700万円
(ホ) タイ政府に対し,シー・ナカリンウイロート大学体育学部用体操器具を購入するため1,250万円
東南アジア文相機構(SEAMEO)は,東南アジア諸国を加盟国,フランス,オーストラリア,ニュー・ジランドを準加盟国とする機構で,教育・科学・文化の各分野における東南アジア諸国間の協力を促進することを目的とし,前記分野における共同事業を実施し,加盟国の教育活動を助長することを任務としている。同機構はバンコクに事務局を置き,加盟国にそれぞれ農業,理数教育,語学,熱帯生物学,教育革新,熱帯医学の分野における専門家の養成・訓練を行い,またこれら分野の調査等を行うセンターを設置している。
SEAMOに対しては,加盟国・準加盟国以外の諸国も緊密な協力を行つており,わが国も域外国としてこれに協力している。76年中にフィリピンにある農業研究センター(SEARCA),インドネシアにある熱帯生物学センター(BIOTROP)に専門家を派遣するとともに,SEAMEO奨学金として1万ドル,BIOTROP研究訓練施設建設資金として15万ドルをSEAMEOに拠出した。
わが国は,ユネスコの要請に応じ,インドネシアが誇る世界的文化遺産であるボロブドール仏跡(8~9世紀頃建造されたヒンズー・ジャワ文化に属する石造建築物)の復興資金の一部として年間10万ドル,6年間に60万ドルの拠出を計画し,76年までに50万ドルを拠出した。
76年4月現在ユネスコ募金目標額500万ドルのうち,各国政府,民間団体から434万ドルの拠出ないし拠出誓約が行われた(76年末のわが国民間からの拠出額約24万ドル,万博記念協会の拠出額24万ドル)。しかし,経費見積額は,インフレ及び工事の遅延により,当初750万ドルであつたものが,75年に1,187万ドルに修正され,今後,経費の不足分をいかにして解決するかが問題となると思われる。
アジア太平洋地域文化・社会センターは,68年10月に設置(事務局はソウルに置く)されて以来域内文化交流,相互理解に多大の貢献を行つてきた。
76年中には,映画祭,博物館シンポジュウム,社会開発セミナー,音楽会議及び青少年開発セミナーの開催,相互理解のための刊行物の発行並びに域内研究旅行に対するフェローシップの供与などの事業が行われた。わが国は同センターに対し例年どおり,1,909万6,000円の分担金を支出した。
(1) 在外公館主催文化事業
各在外公館はそれぞれ管轄地域の特殊事情等を勘案して,講演会,音楽会,生花教室及び生花展,日本文化紹介展等の各種催し物を企画・実施し,または,現地諸団体のイニシアティブに基づく文化的諸行事に参加するなど,日本文化紹介及び相互理解の増進に努力している。76年度には,各地域を通じて生花(生花教室,講習会及び展示会)35回,講演会38回,音楽会6回,民芸品展1回,日本紹介展51回,スポーツ大会3回その他各種の文化行事を行うとともに,現地各種文化団体等主催の催しに参加した。
わが国の音楽,舞踊,演劇その他の伝統芸能,現代芸能,民俗芸能等の海外への紹介は,わが国についての理解を深めるための重要な文化交流事業の1つであり,在外公館と協力しつつ,国際交流基金の自主的事業,あるいは民間団体に対する一部援助という形で行つている。
76年に世界各地域で国際交流基金が実施又は援助した主要な公演事業としては,米国独立200年祭記念行事としての歌舞伎俳優研修生による公演,文楽・能・狂言・雅楽の公演(欧州・東欧),邦楽4人の会及び日本舞踊アンサンブルの公演(中米),劇団天井棧敷公演(中近東),日本大学リズム・ソサエティー・オーケストラ公演(アジア),上智大学オーケストラ公演(大洋州)等がある。
国際交流基金は,わが国の美術,工芸,版画,書等の展示を通じ,日本文化を海外に紹介し,対日理解の増進に努めている。76年中の主要な展示事業としては,中近東巡回平山郁夫展,芹沢けい介展(フランス),大洋州巡回現代日本陶芸展,東欧巡回日本木版画展,20世紀日本の書展(西独)等がある。
わが国の文化を紹介し,わが国に対する理解の増進を図るため,76年中に国際交流基金は,日本研究を行つている研究機関及びわが国に関心を有している研究機関・図書館等135機関に対し,わが国の文化・歴史・政治・経済・社会・文学・芸術等に関する図書(主として英文)1万3,620冊,マイクロ・フィルム165リール,カセット・テープ9セット,スライド6セットを寄贈した。
映画及びテレビは,諸外国におけるわが国についての理解を深めるうえで,有効な手段として活用されている。76年は,在外公館主催映画会,国際映画祭への参加等,以下の活動が行われた。
76年度には在外公館主催による劇・文化映画会を164回開催した。これら映画会で使用するフィルムの購入数は,76年度中に劇映画8種類20本,文化映画16種類83本,テレビ用フィルム22種類79本,計182本となつている。
日ソ両国政府の取極に基づき,日ソ両国は63年以来毎年相手国で映画祭を開催し,両国の友好親善と相互理解を深める努力を行つている。
76年にわが方はバクー及びナホトカの2都市において日本映画祭を開催し,ソ連側は敦賀,福井,金沢,東京の4都市においてソ連映画祭を開催した。
(1) 文化人等の海外派遣
わが国は,国際交流基金を通じ諸外国との相互理解と友好親善を促進するため,76年においても学者,音楽家,芸能家,生花・囲碁・柔道師範,卓球・体操指導者等を短期(派遣期間5ヵ月以内)90名,長期(同6ヵ月以上2年以内)37名,合計127名を海外に派遣した。
わが国は,国際交流基金を通じ,76年において次のとおり文化人等を本邦に招聘した。
諸外国の文化人,学者等にわが国の事情を認識させ,あわせてわが国の関係者との意見交換の機会を与えることを目的として86名を招聘した。
諸外国の日本関係研究者にわが国での実地研究の機会を与えることを目的として74名を招聘した。
米加11大学連合日木研究センター(東京)での日木語研修に参加する学生等10名を招聘した。
わが国研究機関が行う,研究計画への参加を通じ,わが国国民の諸外国に対する正しい理解を促進することを目的とするもので,76年にはフィリピン,マレイシアより各1名,またイスラエル,レバノンよりそれぞれ1名,計4名を招聘した。
諸外国の中学,高校教員に対し,わが国の実情を視察する機会を与えるもので,76年にはASEAN5ヵ国,韓国,ビルマ,オーストラリア及びニュー・ジーランドより合計115名を招聘した。
外国の大学等がその教育の一環として,わが国での実地教育,研究を行う計画に対し協力を行うもので,76年には米国,カナダ,オーストラリア,インド,インドネシア等から計154名を招聘した。
外務省は,76年においても,総理府の実施する青年海外派遣,青年の船,東南アジア青年の船,外国青年の招聘事業をはじめとする各種の青少年国際交流事業に対する協力を行つた。
外務省は,76年もわが国から派遣される学術調査隊(46隊),スポーツ団体(18団体)及び登山隊(27隊)に対する便宜供与を行つた。
(1) 日本研究に対する援助
わが国は,国際交流基金を通じ,諸外国での日本研究を援助するため,76年において次の事業を行つた。
わが国は,60年代後半に日本研究に対する関心の高いアジアの主要大学(タイのタマサート及びチュラロンコン大学,フィリピンのアテネオ大学,香港の中文大学,マレイシアのマラヤ大学,シンガポールの南洋大学,インドネシアのインドネシア大学,インドのデリー大学)に日本研究講座を寄贈し,これら大学に教授,講師を派遣するとともに,図書,教材の寄贈を行つているところ,76年度末における派遣状況は客員教授,講師計19名である。
上記(イ)の大学に加え,香港大学,ラサール大学(フィリピン),ニューサウスウエルズ大学(豪),ボッコー二商科大学(伊),フロリダ大学等米国の6大学,エル・コレヒオ・デ・メヒコ(メキシコ),イスタンブール大学(トルコ)の日本研究に協力するため,これら大学に客員教授等計14名を派遣した。
教授等の派遣に加え,在京米加11大学連合日本研究センター及びサンパウロ大学日本文化研究所に対する助成,世界各地の大学,研究所等を対象として日本関係の教授スタッフの拡充計画や,日本に関する研究プロジェクトないしセミナーに対する助成等を行つた。
わが国は,国際交流基金を通じ,海外における日本語の普及のため,76年度において次の事業を行つた。
海外の大学を中心とする日本語教育機関に専任の日本語講師を派遣するもので,76年度末現在で40名が海外での日本語普及に従事している。
海外の日本語教師にわが国での研修の機会を与えるため,アジア及び中南米地域から計30名の日本語教師を招聘し,76年7月19日より8月27日まで研修会を実施した。
海外の日本語講座の成績優秀者計46名を招聘し,76年3月9日から22日まで研修会を実施した。
更に,アジア及び大洋州地域における日本語弁論大会での上位入賞者6名を76年6月3日から16日まで本邦に招聘し,外国人による日本語弁論大会に参加せしめた。
(1) 国際学友会による事業
財団法人国際学友会(昭和10年創立)は,国庫補助金を受けて,外国人留学生のための日本語学校の運営,宿舎の提供を行うとともに,大学進学の斡旋等の事業を行つている。76年には,東京本部及び関西国際学友会の日本語学校で271名の留学生に対し,日本語をはじめ,数学,理科,社会などの基礎学科を教授し,これら課程の修了者に対し大学等への進学を斡旋した。
75年5月現在約5,600名の留学生が日本の大学で勉強している。外国人留学生のうち日本政府の奨学金を受けている留学生は76年5月現在1,037名であり,76年新規採用の国費留学生数は414名である。
76年には約1万2,000名の日本人学生等が海外の約50ヵ国に留学や研修のために渡航しているが,外国政府又は準政府機関の奨学金を受けた者は358名,日本政府奨学金を受けた者は214名である。
パリ大学都市日本館は,パリ大学で学ぶ日本人留学生,外国人留学生及びフランス人学生のための学寮であり,館長は日本館に居住する学生及び大学都市内の各館に居住する日本人留学生の補導にあたつている。
また,日本館内には日本関係図書を収集して日本研究に便宜を与えている。
第3回「東南アジア日本留学者の集い」は,76年9月29日から10月6日まで実施された。参加者は,留学生問題について意見交換を行い,また,滞日中,関係施設見学,留学生問題関係者との懇談等を行つた。
この「集い」は,外務省の招待により,インドネシア,シンガポール,タイ,フィリピン及びマレイシアの5ヵ国から,元日本留学生36名及び同伴夫人33名が参加して行われた。
わが国は,65年以降政府取極に基づき,ソ連高等教育省との間で学者・研究者の交流を行つているが,76年には,日本側から長期(10ヵ月以内)2名,短期(2ヵ月以内)3名,ソ連側から長期4名,短期5名の学者・研究者の交換を行つた。
わが国は,また,73年の「日本政府の関係研究機関とソ連科学アカデミーの研究機関との間の学者及び研究者の交換に関する交換公文」に基づき,76年には,日本側から長期(10ヵ月以内)10名,短期(2ヵ月以内)9名,ソ連側から長期11名,短期9名の学者・研究者の交換を行つた。