第4節 無償資金協力

 

1. 総  論

 

 開発途上国に対する資金協力のうち,相手国政府に返済義務を課さない,いわゆる2国間無償資金協力は,技術協力を除く一般の無償援助(一般の無償資金協力),食糧援助(国際小麦協定の一部を構成する食糧援助規約に基づき実施され,一般にK・R援助と称されるもの)及び賠償・準賠償から成つている。2国間無償資金協力の目的は開発途上国の経済・社会の発展,住民福祉の向上及び民生の安定に寄与することにあり,わが国と開発途上国との友好関係の増進に大きな貢献をなしている。

わが国の無償資金協力の推移(補正予算を含む)

無償資金協力予算の推移

 わが国が76年において行つた無償資金協力の支出額は8,070万ドルである。これを前年の支出額1億1,377万ドルと比較すると約29%の減少となつたが,このような減少の主たる理由は,賠償・準賠償の終熄に伴う無償資金協力予算の総額の減少(74年度429億円,75年度388億円,76年度273億円)によるものである(図及び表参照)。

 一般の無償資金協力は,一部の例外を除き,外務省所管経済開発等援助費に計上される予算を外務省が支出することにより実施しているものであり,69年度に始まつて以来,毎年開発途上国の社会開発関連分野を中心として拡充の一途をたどつてきたが,72年度以降は横ばい状態となつている。

 食糧援助は,国際小麦協定の中の食糧援助規約に基づき,67年以降毎年1,430万ドル相当の米及び被援助国が希望する場合には農業物資を,食糧不足国に無償供与しているものである。

 賠償・準賠償は第2次世界大戦の終了に伴う賠償及び対外債務の処理に関連するものであり,賠償については,76年7月22日に終了したフィリピン賠償を最後にすべて実施を完了した。準賠償については,ビルマに対して供与しており,ミクロネシアに対する準賠償は76年10月をもつて支払いを完了した。ビルマに対する準賠償も77年4月で終了することになつている。なお,食糧援助及び賠償・準賠償は,いずれも大蔵省所管予算に所要経費が計上され,支出委任を受けた外務省がこれを実施している。

 わが国が76年中に実施した無償資金協力の概要を以下に略述する。

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2. 一般の無償資金協力

 

(1) 教育・研究分野

(イ) インドネシア「動力研究所の研究用機材の供与」

 インドネシア政府は,同国の経済社会開発の基盤となる電力供給の安定的発展に不可欠な電力研究体制の拡充強化を図るため,国営電力公社の研究機関である動力研究所施設を抜本的に拡充することを計画した。

 わが国は,本計画に協力することとし,76年12月28日付の交換公文により,同政府に対し動力研究所の高電圧試験及び研究用機材の購入のため,2億円を限度とする額の贈与を行つた。

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(ロ) フィリピン「フィリピン大学経済学部フィリピン経済開発センターの施設の建設」

 フィリピン政府は,同国の経済開発のための人材育成及び調査・研究体制の拡充強化を図るため,フィリピン経済開発センターを設立,フィリピン大学経済学部の施設を抜本的に拡充することを計画した。

 わが国は,本計画に協力することとし,76年12月7日付の交換公文により,同政府に対しフィリピン大学経済学部の講堂付図書館の建設のため5億5,000万円を限度とする額の贈与を行つた。

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(ハ) 韓国「ソウル大学校工科大学のための実験機材の供与」

 わが国は,ソウル大学校の総合化建設計画の一環として企画された,同大学校工科大学の老朽化した実験施設の更新と新規の実験設備機材の拡充計画に協力することとし,74年度及び75年度にそれぞれ5億円を限度とする額の贈与を行つたが,更に各種実験装置,電子顕微鏡等の大学院学生及び教授実習用の実験機材の購入のため,大韓民国政府に対し,76年9月1日付の交換公文により,10億円を限度とする額の贈与を行つた。

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(ニ) パキスタン「中央電気通信研究所の施設の建設」

 パキスタン回教共和国は,同国の電信電話施設の改善に努めているが,その技術的中核となつているハリプールの中央電気通信研究所をイスラマバードへ移転,研究体制を拡充する計画を策定した。

 わが国は,これに協力することとし,77年1月25日付の交換公文により,同政府に対し研究棟の建設のため,10億円を限度とする額の贈与を行つた。

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(2) 農 業 分 野

(イ) バングラデシュ「中央農業普及技術開発研究所の設立」

 バングラデシュ政府は,同国における農業技術水準の向上を図るため,農業技術普及体制の中核機関たる中央農業普及技術開発研究所の設立を計画した。

 わが国は,本計画に協力することとし,研究所の本館,講堂,実習場等の施設の建設及び実験・教育用機材の購入のために,バングラデシュ政府に対し,76年5月11日付交換公文により,7億円を限度とする額の贈与を行つた。

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(ロ) バングラデシュ「浅井戸掘削計画」

 わが国は,バングラデシュにおける食糧増産のための浅井戸掘削計画に協力することとし,浅井戸用エンジン及びパイプの購入のために,バングラデシュ政府に対し,76年7月16日付交換公文により,9億2,000万円を限度とする額の贈与を行つた。

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(ハ) タイ「口蹄疫ワクチン製造センターの施設の建設及びワクチン製造用機材の供与」

 タイ政府は,家畜の悪性伝染病の1つである口蹄疫の防疫態勢の充実を図るため,近代的なワクチン製造方法を導入した製造施設を建設し,ワクチン製造能力を拡大することを計画した。

 わが国は,本計画に協力することとし,75年度に10億円を限度とする額の贈与を行つたが,更に口蹄疫ワクチン製造センターの感染動物舎,免疫用動物舎,実験動物生産棟及び水酸化アルミニウムゲル製造棟の建設並びに同センターで使用するワクチン製造用機材の購入のため,タイ政府に対し,76年9月20日付の交換公文により,9億円を限度とする額の贈与を行つた。

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(3) 水 産 分 野

(イ) インドネシア「漁業訓練船等の供与」

 インドネシア共和国の周辺海域は,えび,まぐろ等高級水産資源の宝庫となつているにもかかわらず,同国の漁業水準ではいまだこれら資源を有効利用するに至つていない。このため,同国政府は漁業の発展を急務と考え,ジャカルタの水産大学及びバリ州ブノアの漁業作業場の強化を計画した。

 わが国は本計画に協力することとし,同国政府に対し,76年4月29日付の交換公文により,(漁業訓練船,漁業訓練機材及び作業場のための機材の購入のために)6億円を限度とする額の贈与を行つた。

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(ロ) スリナム「漁業訓練船の供与」

 スリナム政府は,同国の原始的な沿岸漁業を商業的な海洋漁業へと発展させる目的のため,早急に漁民の育成及び資質の向上を図るための漁業訓練センター設立を計画した。

 わが国は,本計画に協力することとし,同センターに必要な漁業訓練船2隻の購入のため,同国政府に対し,76年5月24日付の交換公文により,2億9,000万円を限度とする額の贈与を行つた。

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(ハ) ガンビア「小型漁船の供与」

 ガンビア政府は,蛋白質確保のみならず雇用の増大をも図るとの見地より,漁業を主要産業に発展させるべく漁船増強計画を策定していたところ,サハラ周辺地域の旱魃により木材が不足し,同計画を推進するに十分な数のカヌーを確保することが困難となつた。

 わが国は,本計画に協力することとし,プラスチック製小型漁船(カヌー型)の購入のため,同国政府に対し76年5月25日付の交換公文により1億円を限度とする額の贈与を行つた。

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(ニ) モルディヴ「漁船動力化機材の供与」

 モルディヴは,同国最大の産業である帆船による,かつお一本釣漁業の発展のための漁船動力化が急務となつており,既存の帆走漁船の動力化計画を策定した。

 わが国は,本計画に協力することとし,75年度にエンジン等の購入のため1億5,000万円を限度とする額の贈与を行つたところ,これらを据え付けた漁船は機動性を得て漁獲増及び鮮度保持に予想外の効果が得られたため,更にエンジン整備施設等の購入のため,77年3月10日付の交換公文により,1億5,000万円を限度とする額の贈与を行つた。

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(ホ) セネガル共和国「漁業振興のための機材の供与」

 セネガル政府は経済開発計画の一環としての漁業振興計画を推進しており,漁船,漁業関連施設,加工施設等の近代化,生産の増強を目標としている。

 わが国は,本計画に協力することとし,試験操業船,船外機及び無線機の購入のため,77年3月21日付の交換公文により,同国政府に対し3億5,000万円を限度とする額の贈与を行つた。

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(ヘ) メキシコ「漁業訓練船の供与」

 メキシコ政府は,従来の外貨獲得を目的としたえびトロール中心の漁業政策を大きく転換し,食生活の改善を図ることはもちろん,食糧問題解決の一助とすべく魚類漁獲を目的とした漁業振興計画を策定した。

 わが国は本計画に協力することとし,漁業訓練船の購入のため,同国政府に対し77年3月30日付の交換公文により,5億円を限度とする額の贈与を行つた。

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(4) 運輸・通信分野

(イ) アフガニスタン「テレビジョン放送局の設立」

 アフガニスタン政府は,国家発展の基礎固めのため,教育水準,文化水準の向上を重視し,教育の普及や文盲撲滅に力を注いでおり,そのためにテレビジョンの導入を計画した。

 わが国は,本計画に協力することとし,アフガニスタン側が施工する放送局建物の設計監理及び放送用機材の購入のため,同国政府に対し76年11月3日付の交換公文により,9億5,000万円を限度とする額の贈与を行つた。

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(ロ) ビルマ「電話機器の譲与及び電話回線網システムの拡充」

 ビルマ政府は,同国の電話通信施設の整備改善を図るため,ラングーン及びメイミョウにおける電話回線網システムを拡充(回線数増大,自動化)することを計画した。

 わが国は,本計画に協力することとし,76年10月9日付の交換公文により,同政府に対し電話機器(交換機4台,電話機2,000台)を無償で譲与し,かつラングーン及びメイミョウにおける電話回線網システムの建設のため6億円を限度とする額の贈与を行つた。

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(ハ) ニジェール「輸送用車輛の供与」

 ニジェールは数年にわたるサハラ旱魃のため食糧不足が深刻化し,外国よりの食糧援助を受けているが,輸送力が未整備な内陸国であるため食糧輸送が大きく制約されている。このため同国は輸送力整備計画を策定し近隣諸国の港からニジェールまでの食糧等の輸送の円滑化を図らんとしている。

 わが国は,本計画に協力することとし,76年12月23日付交換公文により,トラック(及び部品)の購入のため3億8,000万円を限度とする額の贈与を行つた。

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(5) 経済復興・難民救済等の分野

(イ) ヴィエトナム「経済の復興と発展のための機材の供与」

 わが国は,ヴィエトナムの経済の復興と発展に協力することとし,75年度においてブルドーザー,トラック,掘削機等の購入のため,85億円を限度とする額の贈与を行つたが,更に,同国のセメント・プラント建設に協力することとし,同プラントの建設資材及びセメント製造一貫設備の購入のため,76年9月14日付の交換公文により,50億円を限度とする額の贈与を行つた。

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(ロ) ラオス「道路網復旧計画用建設機材の供与」

 わが国は,長年の戦乱によつて荒廃した13号道路及び首都ヴィエンチャン市一部道路の復旧に協力することとし,ディーゼル式ダンプトラック,給水車,トラクター・ショベル・コンプレッサー等の建設機材の購入のため,ラオス人民民主共和国政府に対し,76年12月9日付の交換公文により,3億円を限度とする額の贈与を行つた。

 なお,本計画が完成すれば,南部穀倉地域から首都ヴィエンチャンに向けての食糧の輸送が円滑に行われることになる。

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(6) 災害救済等のための緊急援助

 わが国は,76年中に外務省所管経済開発等援助費を支出して災害救済等のためモザンビークに対する緊急援助(国連難民高等弁務官経由2億5,000万円,12月14日意図表明)を行つた(なお,このほか同援助費以外の経費から若干の災害見舞金等が支出された)。

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3. 食糧援助(KR援助)

 

(1)

 食糧援助はもともと,ガットのケネディ・ラウンド関税一括引下交渉の一環として成立した67年の国際穀物協定の一部をなす67年食糧援助規約に基づいて行われていたが,この国際穀物協定に代わる71年の国際小麦協定が発効してからは,同国際小麦協定を71年小麦貿易規約とともに構成する71年食糧援助規約に引き継がれている(なお,同規約の当初の有効期間は71年から3カ年となつていたが,開発途上国に対する食糧援助の必要性が依然として強いため,その後,同規約加盟国間で協議のうえ,有効期間を再三延長している)。

(2)

 わが国としては,元来開発途上国に対する食糧援助義務を穀物協定の中に盛り込むことは,本来需給の調整を目的とする商品協定の性格からいつて筋違いであり,わが国のごとき穀物の大輸入国にまでもかかる援助を強いることは納得できず,また,開発途上国の食糧問題は,基本的には農業開発により解決されるべきであるとの立場をとつている。このような立場から,67年に小麦貿易規約と食糧援助規約からなる国際穀物協定が採択された際に,わが国は,同食糧援助規約への署名に当たり,その第2条の受諾を留保した。しかし,開発途上国の食糧問題の重要性は,わが国も十分認識しており,また,過渡的措置としての食糧援助自体の必要性をも否定するものではないので,留保に当たつて,わが国の拠出義務量22万5,000トンに相当する穀物を現金換算し(1,430万ドル),これを米を含む食用穀物又は受益国の要請により農業物資(肥料,農機具,農薬等)の形態で援助を行う旨の意図を表明した。その後わが国は,国際小麦協定の成立,同協定の延長に当たつても同様の留保を付し,米又は農業物資の援助を行つてきているが,このためわが国の援助形態は,主に小麦による現物供与を行つている他の加盟国に比し特異なものとなつている。なお米と農業物資がこれまでのわが国食糧援助に占める割合は,平均それぞれ約84%及び約16%となつている。

(3)

 本援助は規約上,海上輸送費等を含まない建前(いわゆるFOB建て)となつているが,被援助国の中には援助物資の海上輸送費,海上保険料がかなりの負担となり財政上困難となる場合があることに鑑み,わが国は73年度以降の予算から輸送費,保険料に必要な経費を計上し,外貨事情の特に苦しい国等に対しては,この分野において応分の協力をしている。76年度予算においてはこれら輸送費等に100万ドルを計上した。

(4)

 わが国は76年中に次の援助を実施ないし約束した。

1. 75年に援助を約束し,76年に実施を完了したもの

2. 76年に援助を約束したもの

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4. 賠償・準賠償

 

(1) 賠  償

 わが国は,第2次世界大戦後に賠償請求国と交渉の結果,ビルマ,フィリピン,インドネシア及びヴィエトナム共和国の4カ国と賠償協定を締結し,賠償義務を履行してきた。

 76年には,最後のフィリピンに対する賠償のみが実施され,同年7月に協定総額5億5,000万ドル(20年間)の義務が完了し,これをもつて賠償協定に基づくわが国の賠償支払義務はすべて完了した。

 なお76年1~7月中の支払額は約1,922万ドル(約59億円)である。

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(2) 準 賠 償

 準賠償は,賠償ではないが終戦処理の一環として対外債務を処理するためのいわば義務的支払いであるが,76年においては,ビルマ及び太平洋諸島信託統治地域(ミクロネシア)に対して,それぞれ協定に基づく無償の経済協力が実施された。

(イ) ビルマについては,平和条約の条項に基づいて再検討が行われた結果,63年3月に経済技術協力協定が締結され,65年4月から12年間に総額1億4,000万ドルの生産物及び役務を無償で供与することになつている。76年1月以降77年4月までに約1,495万ドル(約46億円)を支払い,77年4月15日をもつて総額1億4,000万ドルの無償供与が完了した。

(ロ) ミクロネシアについては,同地域とわが国との間の財産請求権問題を解決するために,64年4月,わが国と同地域の施政権者である米国との間に「太平洋諸島信託統治地域に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定」を締結し,日米両国は,同地域の住民の福祉のために,それぞれ18億円及び500万ドルの自発的拠出を行うことになつている。日本側の拠出については,75年3月末までに米国政府名義の特別勘定に全額払込済であり,この資金による日本国の生産物及び役務の購入についても,76年10月15日までにすべて完了した。

 以上のとおり,戦後実施してきた賠償(4カ国)及び準賠償(8カ国)は,すべて完了した。(総括表参照)

賠償及び経済技術協力協定等無償援助(準賠償)総括表

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