1. 石油エネルギー問題
(1) 国際石油情勢
(イ) 需 給 動 向
(a) 主要消費国の需給動向
世界経済の大幅な後退の影響を受けて74,75年と2年連続して前年水準を下回つた世界の石油需要は,76年に入り米国を中心に世界経済が回復基調を示したこともあつてようやく増勢に転じた。
世界経済の方は,その後,中だるみ状態に陥り,73年秋の石油ショックにより蒙つた影響がいかに深刻なものであつたかを改めて認識させるところとなつたが,石油需要の方は,ガソリンなど民生部門の需要を中心に順調に増え続け,全体でもほぼ年間を通じて前年を上回る水準で推移したものと思われる。
ただ,国別に見た場合は,各国必ずしも一様ではなく,日,米,仏,西独がそれぞれ75年に比し6%以上の伸びとなつているのに対し,英,伊両国については,なお低水準に推移しており,この点,先進国経済の"二極化現象"が石油需要にもそのまま反映されたことになる。
同時に,国別動向では,各国が増勢に転じつつも,なお73年水準を大きく下回つている中で,米国が僅かではあるが73年の需要実績を凌駕し,過去最高水準となつた点が注目される。
石油需要の回復につれて原油輸入量も着実に増大し,特に夏以降は,77年1月からの原油価格の値上げを見越した駆け込み需要もあり,各国の原油輸入量は急増した。
各国の原油輸入が増大する中で,特に目立つのは米国の輸入急増ぶりである。米国の76年の原油輸入は前年比28%増の525万バーレル/日製品輸入は200万バーレル/日で,合計では725万バーレル/日(前年比20%増)となつている。
米国の石油輸入がこのように高水準となつた背景には,国産原油に対する価格規制及び資源賦存上の制約による国内生産の不振に加えて,異常寒波による緊急輸入などのいくつかの要因が絡みあつた結果と推測されるが,いずれにしても,米国の石油輸入増大は70年以降恒常的なものとなつており,この点,国際石油市場における需給圧迫要因として今後とも注目を要しよう。
石油需要の回復と原油輸入の急増を反映して,OPECの原油生産量も76年2月を境に徐々に増えはじめ,年間を通じても75年比9%増の3,028万バーレル/日となつた。
特に,11月,12月の生産量は駆け込み需要,寒波による緊急輸入も作用して,過去最高であつた73年9月の水準を上回り,12月には3,442万バーレル/日を記録している。
76年の価格動向は,重質油と軽質油,また,前半期と後半期では著しい相違を見せた。
重質原油については,イランが同国の重質原油であるイラニアン・ヘビー原油の価格を76年2月に1バーレル当り11.495ドルから11.40ドルへ,更に6月に11.40ドルから11.33ドルへ2回にわたつて下方修正したほか,サウディ・アラビアとクウェイトも6月に重質油を中心に5~10セントの値下げに踏み切つたことに見られるように,需給緩和を反映してかなり弱含みに推移した。
他方,軽質原油については,ナイジェリアとアルジェリアが1月と4月にそれぞれ5~15セントの値上げを実施したのをはじめ,7月には上記2カ国のほかリビアも値上げに踏み切り,この結果,76年第3四半期のアフリカ産原油価格は,第45回OPEC総会(75年9月)決定価格水準を20~40セント上回る価格となつた。
これに対し,後半期,特に夏以降は,前述した石油需要の回復と駆け込み需要が価格圧迫要因となり,原油価格はスポット取引を中心に重質,軽質を問わず強含みとなつた。特に総会直前には寒波による緊急輸入も加わつて需給がかなり逼迫し,長期契約物もユーザンス期間の短縮により実質的な値上げになつたと伝えられる。
(a) 76年12月15日からカタールの首都ドーハで開催された第48回OPEC総会は,注目されていた77年1月以降の原油価格について,(I)イランなど11カ国は11.51ドル/バーレル(従来の標準原油価格)を77年1月1日から12.70ドル/バーレルに,また,77年7月1日から13.30ドル/バーレルにそれぞれ引き上げ,すべての原油について同額だけ引き上げる,(ii)サウディ・アラビアとアラブ首長国連邦は原油価格を5%引き上げる,という異例の2本立て引上げを決定した。
(b) 総会を前にした世界の石油情勢は,需要の回復とそれに伴うOPEC原油生産の増大,また重質原油も含めたスポット価格の全般的上昇などの傾向が見られたほか,先進国側でも石油会社を中心にある程度の値上げは避けられないとの見方が支配するなど,第48回総会は10%の値上げを決めた75年9月のウィーン総会や,凍結延長を決定した76年5月のバリ島総会に比べて,はるかにOPEC側に有利な展開を示していたことが看取される。その意味で,過去一枚岩の団結を誇つてきたOPECが分裂の萌芽をも内在しかねない2本立て決定を行つたことは全く予想外のことといえよう。
(c) 具体的な値上げ幅としては,11カ国側が重質油と軽質油では多少のバラツキはあるものの,ほぼ総会決議(バーレル当り一律1.19ドルの引上げ)を貫く方向を打ち出している。これに対し,2カ国側は,サウディ・アラビアがアラビアン・ミディアム原油とアラビアン・ヘビー原油の値上げ幅をそれぞれ3.6%,3.0%にとどめたほか,アラブ首長国連邦はアラビアン・ライト原油と同額の1バーレル58セントの値上げ幅とするなど,総会後の両派の姿勢は対決色の濃いものとなつており,価格問題の行方はかなり流動的となつている。
エネルギー消費国間の協調は74年11月にOECDの枠内に設置された国際エネルギー機関(IEA)を中心に行われている。IEAの活動は,緊急時対策,石油市場対策,長期協力対策,産油国等との協力促進対策の4分野に大別されるが,76年においては,IEA発足当時の緊急課題であつた緊急時対策が一応の形を整えた結果,活動の重点が長期協力対策に移行してきたことが注目される。
長期的に輸入石油に対する依存度を低め,石油市場の安定を期するための長期協力対策としては,節約,代替エネルギー開発及びエネルギー研究開発(R&D)があるが,IEAは76年1月の理事会において,節約,代替エネルギー開発のためのプロジェクトごとの協力方式及び最低保障価格制度,新規エネルギーの研究開発促進及びエネルギー市場に対するアクセスの改善等を内容とする長期協力計画を採択した。
節約面では,加盟各国の節約対策につき国別審査を行い,その結果を9月に公表するとともに,望ましい節約対策の例示一覧表を作成した。また76年及び77年におけるIEA全体としてのエネルギー消費節約目標が合意された。
代替エネルギー開発面では,加盟各国の代替エネルギー開発政策を審査するとともに,エネルギー投資保護のための最低保障価格の設定及び代替エネルギー開発促進のためのプロジェクトごとの国際協力の方式等について合意がみられた。
更に11月の理事会において輸入石油依存度低減目標(85年)を設定する作業に着手することが決定され,右決定に基づいて加盟国各国のエネルギー政策全般にわたる国別審査が77年1月にかけて行われた。
R&D分野については,石炭技術,太陽エネルギー等の16の分野における研究開発協力につき検討の結果,76年には太陽冷暖房システム等5プロジェクトに関する協力のための協定が関係加盟国間で締結された。
IEAは,国際経済協力会議(CIEC)のエネルギー委員会にオブザーバーとして参加し,討議用資料を提供する等積極的に貢献するとともに,同委員会に臨む先進消費国側の立場調整に尽力している。
IEAは,緊急時における作業に必要な特別情報システム及び総合エネルギー・データ・バンク制度の創設の検討に着手し,情報制度の枠組みはほぼ完成した。また石油会社との協議の枠組みができており,76年には原油供給パターン等について4つの石油会社との協議が行われた。
IEA加盟各国は,最低60日分の輸入量に相当する石油備蓄をもつべきこととされているが,80年1月1日までに90日分の備蓄を達成するよう努力することが合意された。また,緊急時の石油融通の手続・細目等について検討を重ねた結果,76年5月の理事会で緊急時作業要綱が採択され,一応融通スキームの体制は完成した。
(1) 経緯と見通し
(イ) 一次産品問題は現下の南北問題のうち最も重要な問題となつているが,これは開発途上国がその輸出所得の大きな部分を一次産品に依存していることにある。一次産品とは,食糧,農産品,工業用原材料,燃料など,加工される前の原料形態のままの産品を指すが(南北問題の一環としていわゆる一次産品問題といわれる際は,通常,燃料は除かれる),これら産品の中には価格変動が激しいもの,需要が長期的に低落傾向にあるもの,合成品との競合関係にあるもの等があり,これら産品の輸出に依存している開発途上国はその輸出所得の変動,また長期的減少に悩まされている。このような事情を背景として,開発途上国はUNCTAD事務局により打ち出された「一次産品総合プログラム」(注1) により一次産品問題の包括的解決を求め,76年2月77カ国グループ(注2) のマニラ閣僚会議において同構想を全面的に支持し,先進諸国に対してその実施を迫るに至つた。
(ロ) 76年における一次産品問題の推移は,同年5月,ナイロビにおいて開催された第4回UNCTAD総会を大きな山場として,UNCTADを中心に動いたことが指摘される。
上記UNCTADナイロビ総会において,開発途上国側は,「一次産品総合プログラム」の実現を最重要な要求としてこの受諾を先進国側に迫り,先進国側も南北間の決定的対立を回避せんとの政治的配慮を払つた結果,最終的に妥協に達し,次のような要旨を内容とする「一次産品総合プログラム」実施に関する決議が全会一致で採択された。
(a) 一次産品総合プログラムが正式にエンドースされ,その目的,対象産品の範囲,措置及び手続とタイムテーブルが決定された。
(b) 遅くとも77年3月までに共通基金に関する交渉会議を招集すること及びその準備会合(複数)を76年9月以降開催することが決定された。
(c) 個別産品について,76年9月より78年2月まで予備的検討を行い,その後78年末まで交渉を行うことが決定された。
(ハ) 上記のタイムテーブルに従い,76年11月に共通基金準備会合がUNCTADにおいて開催され(77年1月に第2回,2月に第3回が開かれた),共通基金の資金規模,財源,機構,目的等について検討が行われたが,開発途上国と先進国の立場の違いが大きく,実質的な進展はあまり見られなかつた。
また,個別産品については,76年秋より,銅,ジュート,硬質繊維,ゴムについての予備協議がUNCTADにおいて行われ,緩衝在庫の設立をその検討の対象の一つとした専門家レベルの会合において、今後も討議を続けていくことで合意をみている。
(ニ) 今後,一次産品問題はUNCTADにおける共通基金及び個別産品に関する検討,交渉を中心として展開していくものと思われる。特に共通基金の設立についての先進国のコミットメントを開発途上国は強く望んでおり,これが得られない場合には開発途上国及び設立に賛成している一部先進国のみで共通基金を発足させることも辞さないとの強い態度をとつており,共通基金をめぐる今後の交渉の推移は南北関係全般の成行きにも大きな影響を与えるものと注目される。
76年においてわが国は次の3つの商品協定の締結について国会の承認を得,それぞれ受諾書を寄託した。
(イ) 「第5次国際すず協定」
(口) 「75年の国際ココア協定」
(ハ) 「76年の国際コーヒー協定」
また経済条項のない協定にとどまつている小麦及び砂糖の協定については準備作業も進展し,両者とも77年中に新協定の交渉会議が行われることとなつている。
(1) 世界食糧需給動向
76年の世界穀物生産について見ると,FAO事務局は,小麦4億1,500万トンで前年比6,000万トン増(17%増),粗粒穀物7億1,700万トンで前年比5,600万トン増(8%増)の数字を出しており,この生産水準は史上最高であるとしている。これは,主として需要の増大傾向を反映し米国をはじめ主要生産国が作付面積を増加したこと及び世界全体として天候の推移が順調であつたことによる。
76年春から夏にかけての旱魃による欧州の大麦,とうもろこしを中心とした飼料穀物の被害及び豪州の小麦の減収にもかかわらず,米国及びカナダの小麦,飼料穀物生産及びソ連の穀物生産の大幅増加によつて世界全体の穀物生産は史上最高の豊作となつた。
世界の穀物需要は,今後,飼料需要増を中心に増大するものと見込まれるが,多くの場合,需要増加分は自国産穀物の増産によつて賄われるため世界の貿易量はかなり減少するものとみられる。
以上により,穀物の需給は,かなりの増産によつて在庫の大幅な増加が見込まれる(ちなみにFAO事務局はソ連,中国を除く期末在庫は1億5,300万トンになるとみており,これは,世界穀物消費量の16%を上回る)ことから緩和に向うものとみられる。国際小麦価格は,軟調気味に推移し,76年10月以降トン当り100ドルを前後する水準になつている。また,飼料穀物の大部分を占めるとうもろこしの国際価格も豊作見込みとともに軟調となり,76年10月以降トン当り100ドルを下回つている。
食糧需要の大きな部分を海外からの輸入によつて賄つているわが国としては,主要穀物の供給安定について重大な関心を有しており,穀物備蓄に関する次のような国際的検討に積極的に参加している。
74年末にFAOで採択された1世界食糧安全保障のための国際的申し合わせ」の実施状況をフォローする場として食糧安全保障委員会が設置され,世界食糧安全保障状況と世界穀物在庫の適正水準等を検討した。
食糧問題の総合調整機関として設立された本理事会では,食糧安全保障の国際システムが1テーマとして取り上げられた。
世界の食糧安全保障の観点から3,000万トン(小麦2,500万トン,米500万トン)の国際備蓄協定を米国が提案し,各国間で意見交換が続けられている。わが国は,備蓄の重要性を認めるが,備蓄は穀物貿易の安定の観点から価格メカニズムと関連をもつべきとの立場をとつている。
穀物貿易の価格・市場の安定化問題と関連して備蓄問題の検討が続けられている。
開発途上国の輸出する一次産品価格の安定と輸出所得の改善のため,共通基金を設立し,これを財源とする国際的緩衝在庫を形成運用し,加えて多角的貿易取極,補償融資スキーム及び貿易・生産面での多様化等によつて補完しようとするものであり,多数の開発途上国関心品目である主要18品目につき,同時併行的にこのための交渉を共通の目的のもとに開始するためのプログラムとされている。 |
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国連,UNCTAD等における開発途上国の集りを指し,発足時の構成国が77カ国だつたことにより77カ国グループと命名されたが,現在の構成国は114カ国に増加している。 |