2. わが国が行つた重要演説

 

(1) 第31回ESCAP総会における木村首席代表演説

                                (1975年2月27日 ニュデリーにおいて)

(一)

議長,代表各位,御列席の皆様

 私は,まず,日本代表団を代表して今次総会の議長に対して敬意を表するとともに,今次総会を招請されたインド政府及び国民に対し心から感謝の意を表したいと思います。私は偉大なる文化と伝統とを有するインドが,アーメッド大統領及びガンジー首相の英邁なる指導の下に,より良き発展を目指して真摯な努力を続けておられることに感銘をうけており,その努力が一日も早く結実して大きな成果をあげられることを,心から期待しております。

(二) 議長
(1)

 本年は「第2次国連開発の10年」の中間年に当りますが,世界経済は,開発途上国,先進国を問わず未曽有の試練の年を迎えております。一昨年秋以降のエネルギー危機,世界的インフレーション,食糧問題,益々重大化する人口問題等人類の存在そのものをおびやかすような重要な諸問題が,相次いで我々の前に立ちはだかつてまいりました。国連は,これに対処するため,第6回国連特別総会,世界人口会議,世界食糧会議等の会議を開催し,世界各国が各々の利害と立場の相違を超えて一堂につどい,我々人類が直面している諸困難の解決への方途につき討議を行つたことは,誠に勇気づけられることでありました。

 我々は,これらの一連の会議を通じて,今日の深刻な世界経済の危機を乗りきり,我々人類が共に生きのびるためには,もはや一国単位の努力では如何ともしがたく,全地球的協力が不可欠であるとの認識を新たにしました。

(2)

 議長

 今次総会に提出された「経済・社会概観」が指摘するとおり,アジアの各国は,今日の世界的な経済危機をもたらしている諸問題の何れからも,直接的・間接的に大きく影響を受けております。このような影響の続くかぎり,「第2次国連開発の10年」の目標達成はおろか,アジアの各国がこれまで営々として築きあげてきた開発の成果は水泡に帰す恐れすらあります。したがつて,私は,今次総会においては,われわれアジアの諸国が直面している諸困難の実情を十分に把握し,お互いに知恵を出し合つてその解決のために国際協力による現実的な解決策を真剣に検討すべきであると信じます。

(3)

 議長

 次に,このような立場から,私はアジア諸国の経済開発の現状をふりかえり,アジアの経済的困難解決のための国際協力の在り方について,所信を述べたいと思います。「経済・社会概観」も指摘しているように,「第2次国連開発の10年」の中間点において,アジア地域では一部の国のみが「第2次国連開発の10年」の目標成長率6%を達成したにとどまり,その他の多くの国は自然災害,物価の高騰等による経済の悪化に悩んでおり,特に注目すべきことは,アジア諸国間の成長率の較差が拡大しつつあることでありましょう。部門別にみても,極めて残念なことに,多くのアジア諸国にとつて最も大きな比重を占める農業生産は,1970年代前半には期待通りの前進を示さず,アジアの殆んどすべての国が,「第2次国連開発の10年」の農業生産の目標成長率である4%を達成しえなかつたのが実情であります。このような農業生産の停滞に加えて,アジアの人口は年率2%以上の割合で膨張しており,この農業生産と人口増加のアンバランスが続けば,アジア諸国はより深刻な食料危機に直面することになりましょう。

(4)  私は,このようなアジア経済の現状を見るとき,アジアにおいては経済社会概観が勧告している如く,短期的には経済危機により最も深刻な影響を受けている諸国(MSAC)に対する緊急援助の促進が不可欠であり,長期的にはアジアの経済社会開発のキー・ファクターともいうべき農業生産と人口増加のアンバランスを抜本的に改善する努力を行うことが最も肝要であると信じております。
(5)

 議長

 このような前提に立つて,私は第1の短期的問題であるMSAC緊急援助に対する所信を述べたいと思います。私は昨年秋の第29回国連総会一般討論演説においても述べましたが,資源の有無による開発途上国間の発展の格差が拡大しつつある現実をみるとき,従来のいわゆる「南北問題」という問題の把え方を根本的に変えていく必要があると考えております。現下の情勢では,南北の区別なく,能力のあるすべての国が相たずさえ相対的に恵まれない開発途上国に対する開発協力を強化する必要が高まつています。わが国も他の多くのアジア諸国と同様現下の経済危機から深刻な影響を受け,最近の実質成長率もマイナスになつておりますが,国際的連帯意識に立つて,国連緊急事業に協力し,過去1年間の実績に少なくとも1億ドルを上乗せした規模の援助を行うこととしております。このような協力態度に基づき,わが国はアジアのMSACに重点をおいて二国間援助を行いつつあり,また国連事務総長の特別勘定に対し1975会計年度に650万ドルの拠出を行う予定であります。右拠出は人道的緊急食糧援助と新設されたFAOの肥料プールに使用されるもので,これらのわが国の拠出の相当部分がアジア諸国の緊急のニーズを満たすために使用されるものと期待しております。この機会に,私は,他の能力を有するすべての諸国がMSACへの協力を促進することを強く要望したいと思います。

(6)

 第2に,私は,上述の長期的問題である農業生産と人口の問題に触れたいと思います。私は,この肥沃な土地と太陽に恵まれたアジアの諸国が食糧不足に悩むかぎり健全なる経済社会開発は望み得ず,この意味から,アジア全体にとつて,農業の振興をはかることにより民生の安定と生活水準の向上をもたらし,健全なる工業化への基礎を固めることが最も重要であると確信しております。経済開発にはショート・カットと飛躍は望み得ず,我々アジアの諸国は一歩一歩地道な努力を通じて農業の近代化を進め,治水,灌漑施設等の農業インフラストラクチャーを拡充し,農業多角化を推進することこそが均衡のとれた経済社会発展への道を開くものでありましょう。

 このような見地から,わが国はアジア諸国の農業開発に対し技術援助等を通じて積極的に協力してまいりました。ESCAPにおいては,第29回東京総会においてアジアにおける農業開発の重要性を指摘し,農業開発委員会の設置を訴えましたが,昨年の第30回コロンボ総会においてその設立が決定され,同委員会の第1回会合が本年中に開催される運びとなつたことは誠に喜ばしいことであり,同委員会が実り多き成果をもたらすことを期待しております。また,わが国は,ESCAP農業開発部門強化のため農業専門家派遣経費として,1974年度に11万ドルの拠出を行いましたが,1975年も引き続き15万ドルの拠出を行う予定であります。さらにわが国は,目下フィリピンに設立が予定されているアジア農業機械センターには,すでに資金協力を行う用意があることを明らかにしております。わが国は,同センターがアジアの農業生産を高め,農業関連産業の育成を通じて工業化にも資するものと確信しており,ESCAP事務局がUNDPを中心とする関連国際機関との協力のもとに,一日も早く同センターの活動を開始することを強く要請いたします。また,わが国は昨年11月の世界食糧会議においては,食糧需給の安定化を目的とした食糧情報システムの設立を提唱し,本年度には15万ドルの拠出を行う予定でありますが,この情報システムの拡充は必ずやアジアの食料需給の安定化にも寄与するものと期待しております。

 以上のとおり,わが国はアジアの農業の開発のためにはできるかぎりの協力を惜しまない所存でありますが,今後アジア各国の努力により農業生産がある程度の成長をとげえたとしてもアジアの人口が現状の増加率で増大すれば,農業開発の成果は人口増加により相殺され,アジアにおける農業生産と人口増加とのアンバランスは改善しえないでありましょう。

 わが国は世界の全人口の55%の人口を擁するESCAP地域の人口問題の重要性を十分に認識しており,1972年には第2回アジア会議を東京に招致しましたが,この会議でアジアの人口政策のガイドラインとして「開発のための人口戦略宣言」が採択されました。また,わが国は昨年8月ブカレストで開催された世界人口会議にも他のアジアの諸国とともに積極的に参加いたしました。私はこれらの重要な会議を単に会議としてだけで終らせることなく,アジアの国がその成果を人口問題解決への指針とされることを望んでおり,そのためESCAP事務局がこれらの会議のフォロ一・アップを十分行うことを要望したいと思います。

(三)

議長

 私は,次に過去1年間におけるESCAPの諸活動をふりかえり,今後のESCAP活動をアジア諸国の現実のニーズにより合致したものとするために,次の3つの提言を行いたいと思います。

(1)  第1にかつてのECAFEは今やESCAPと名称を変更し,名実ともに新しく進展するアジア諸国の要請に応え,マラミス事務局長の指導のもとに「ニュー・ルック」の具体化に努めて参りました。特に機構改革の具体化,優先分野における総合的作業計画の作成等,ESCAP事務局と加盟各国が協力し精力的な討議を行い,今次総会にその成果を提示していることを評価したいと思います。また新設された常駐代表諮問委員会が,加盟国と事務局との間の有力なパイプ役を果たし,ESCAP活動の改善に大きな貢献をなすものとして歓迎いたします。わが国は昨年の第30回コロンボ総会において,ESCAPは常に問題のプライオリティを考え,アジア諸国の現実の要望に合致した分野のプロジェクトを,優先的に取上げていくことを要請いたしましたが,ESCAP事務局が,第30回総会において決定をみた重点分野を中心に,今後のESCAPの優先事業計画を策定し,より重点的かつ効率的な活動に向つて第一歩を踏み出したことを高く評価いたします。わが国はこれらの優先事業には加盟国のニーズが十分反映され,地域協力機構であるESCAPが推進するに適したすぐれた優先的プロジェクトが含まれていると考えております。これらの優先的プログラム遂行に当つては,長期的に実施していくべきもの,短期的な措置を必要とするものとを的確に区分けして,ESCAP事務局の資金力及びスタッフ力を十分考慮に入れつつ,一層重点的かつ効果的な活動を行うよう期待するものであります。この意味から,ESCAPが現下の経済危機を回避するために目下着手しつつある緊急計画をはじめとする地域的優先プログラムが,UNDP及び他の国連諸機関の協力のもとに早急に実施されることを強く希望するとともに,これらプロジェクトの実施に当つて,ESCAPが実施機関として十分な機能を発揮しうるよう,ESCAP事務局自体の体質が強化されることを望みます。
(2)  第2に,ESCAPは昨年「第2次国連開発の10年」の地域レベル期央レヴューの検討を進めたほか,第2回UNIDO総会準備のための地域会議を開催する等,重要問題について活発な審議を行いましたが,わが国としては,これらグローバルな問題について,ESCAPが積極的にアジア地域の声を反映させることが極めて重要であると考えます。しかし同時に,ESCAPの良き伝統--すなわちすべての加盟国が立場の相違を超えて対話と協調の精神に基づきコンセンサスにより解決をみいだすとのエイジアン・ウェイ--を維持しつつ,地域全体の利益増進に努めることを切望してやみません。ESCAPの場に「対立」をもちこむことは,どの加盟国をも利することではなく,地域協力の存立をおびやかす効果しかないでありましょう。ましてや,南北の区別なく能力のあるすべての国が開発協力を推進する必要性がさけばれている今日,わが国はアジアの一員としてESCAPにこのような事態が起こらないよう希望するものであります。
(3)

 第3に,国連システム全体の中におけるESCAPの果たすべき役割に関して一言申し述べたいと思います。今次総会の主要テーマの1つである,世界食糧会議のESCAPとしてのフォローアップ及びUNIDO総会のESCAP準備会議等にみられるとおり,食糧問題,資源問題,工業開発問題等,ある意味ではアジア地域のみでは解決不可能なグ口-バルな問題に,ESCAPが直面する場合が多くなつてきております。

 このようなグローバルな問題の解決において,アジアの声を有効に反映させるためには,ESCAPがいたずらに独走することなく,アジア地域のニーズに最も合致した適切な解決方法をグローバルな枠組の中で見出すことが必要でありましょう。

 ESCAP事務局としても,グローバルな場での審議状況を従来以上に十分フォローし,国連本部及び各種専門機関等との一層緊密な協力の下に,アジアの声をいかにして有効に反映させうるかを現実的,かつより緻密に検討すべきであると思います。食糧,人口,エネルギーといつたESCAP活動の優先領域に指定された諸問題は,開発途上国,先進国を問わず,世界の全ての国にとつて緊急かつ重要な事項であり,そのための各種のグローバルな協力体制ができ上つているわけであります。このような事実を考慮すれば,ESCAPがこれらグローバルな機構の活動を補完し,これらの機構を通じて援助を引き出すという役割を果たすことが現実的かつ効果的であると考えます。このためには,現存するグローバルな機構の動きに迅速に対応できるよう,ESCAP自身の機構に柔軟性と機動性をもたせることがなによりも重要であり,加盟国とESCAP事務局とが協力してなお一層の努力をなすべきでありましょう。

(四) 議長
(1)  以上私は,ESCAPの活動に対し極めて率直な意見を述べましたが,現下のアジア諸国を取りまく経済的環境がきわめて厳しい時,アジアのほとんどすべての国が一堂に会し討議しうる唯一の機関であるESCAPへの期待は大きく,またその責任も大なるものがあると信じます。ESCAPが真にアジア諸国の二-ズに合つた現実的解決への血のかよつた協力の場となることを心から望んでおります。
(2)

 議長

 わが国は以上のような考え方に立つてESCAPの諸活動に積極的に協力してまいりましたが,今後は第30回総会によつて決定された優先分野に対する協力をできる限り強化していく所存であります。わが国のESCAP活動への協力は技術協力,資金協力,自発的拠出等様々な方式で行われておりますが,1975年度には,自発的拠出のみでも農業開発等の優先分野の活動に対する拠出金を中心に100万ドルを超える拠出を行う予定であります。

(3)

 議長

 アジアは現在解決すべき多くの困難な問題をかかえております。そのいずれをとつてみても一国のみでは解決しうるものではなく,国際的連帯意識に基づく協力が必要でありましょう。我々は南北の区別や,資源保有の有無や政治体制の相違を越えて共に繁栄するために,それぞれの能力の特性を活して協力すべきでありましょう。かかる認識に立つてこそ,ESCAPの諸活動は協力と協調のエイジアン・ウェイの精神に基づき,実り多い成果をもたらすものと言えましょう。わが国も,アジアの一国として,また先進工業国としての国際的責任を自覚して,アジアの平和と繁栄のためできるかぎりの協力を続けていく決意であります。

 有難うございました。

 

目次へ

 

 

(2) 核兵器不拡散条約再検討会議本会議における西堀代表の一般討論発言

                                  (1975年5月7日 ジュネーヴにおいて)

議長

 わが国が核兵器不拡散条約再検討会議に参加し,発言を行う機会を与えられたことにつきまして議長をはじめ会議のメンバーである各国代表団の配慮を多としたいと思います。

議長

 周知のとおり,わが国は,核武装を排し,平和国家に徹することをもつて国の基本方針としております。日本国政府は,核兵器の拡散を防止することが,このような国の基本政策と一致するものであるとの見地から,この条約の精神に賛成し,署名致しました。

 更に,日本国政府は条約を批准するため,去る4月25日,条約批准承認案件を国会に提出し,目下国会での審議を経ている段階にあります。従つて,本件会議における条約の運用に関する討議及び結論は日本国国会の条約批准承認に密接なかかわりを有しており,会議の帰趨を日本国民は大きな関心をもつて注目しております。その意味で,署名国であるわが国が本件会議に参加し,見解を述べる機会を与えられたことは誠に意義深いことであると考えます。

議長

 条約が発行してから既に5年の歳月が流れましたが,条約の重要性は今日なおいささかも失われておりません。条約は,核兵器国の増加を防止することによつて核戦争勃発の危険を少なくし,国際関係の安定度を高め,軍縮の推進,平和の確保をより容易にするような国際環境をつくり出すことに貢献し続けております。しかし,新たに核爆発を行つた国の出現及び一連の核実験という最近の出来事は,我々全人類の生存の将来にとり懸念すべき事態であり,それ故条約をより一層強化する必要は増大していると言わなければなりません。

 これとの関連で,私は,条約作成の過程において条約のあるべき内容を示した1965年の国連総会決議2028(XX)の一節,「条約は核兵器国と非核兵器国との間の相互の責任と義務の受諾可能な均衡を含むものでなければならない」との文言を想起せざるを得ません。わが国は,他の多くの諸国とともに,条約の作成過程において,かかる「責任と義務の均衡」をはかり,条約の内容を公正なものとするよう努めました。特にわが国は,条約の内容が確定した1968年春の再開国連総会において,この点に関するわが国の見解を詳細に披瀝致しました。

 しかしながら,この「責任と義務の均衡」については,未だ多くの望むべきものが残されていると考えます。そこでこの会議で,条約をめぐる諸般の問題を検討し,条約の適正な運用をはかることにより,条約をより魅力あるものとすることができれば,一層多くの国が条約に参加し,条約の体制は更に強固なものになると信ずるものであります。

 かかる考え方から具体的に(イ)核兵器不拡散,(ロ)非核兵器国の安全保障,(ハ)核軍縮,(ニ)原子力平和利用,の各側面から条約を考察してみたいと思います。

議長

 先ず第1は核兵器不拡散の問題であります。

 言うまでもなく,この条約が直接狙いとするのは核兵器国の数の増加防止であります。昨年5月の新たな核爆発を行つた国が出現したことにかんがみ,核拡散を防止するため更に一層の国際的努力を行うことが緊要となつております。条約第1条及び第2条は核兵器不拡散に関する締約核兵器国及び非核兵器国の義務をそれぞれ規定しております。私は,核爆発国の増加を防止するためには締約国は第1条及び第2条の規定に反する行動を取らない義務があることを強調するとともに非締約国もこれら規定の精神に反する行動を差し控える必要があることを訴えたいと思います。特に,不拡散のため核兵器国の負う責任は重大であります。私は締約国たる三核兵器国が第1条に基づいて負う不拡散の義務を厳守しなければならないことを強調するとともに,条約に参加していない他の核兵器国も第1条の精神に従つて行動するよう強く訴えるものであります。

 更に私は,核兵器不拡散をより徹底させるためには,締約国たると,非締約国たるとを問わず,また核兵器国たると,非核兵器国たるとを問わずすべての国の原子力の平和利用分野で行う国際協力,特に核物質,資材及び技術の供給が核拡散につながらないための具体的措置がとられるよう強く訴えるものであります。特に私は,この点に関する核兵器国の行動に十分慎重な配慮を望むものであります。

 核兵器不拡散の上で今一つ重要な問題は平和目的の核爆発(PNE)の取り扱いであります。核兵器と平和目的核爆発装置とを技術的に区別できない現在,非核兵器国が平和目的の名の下に核爆発を行うことは,軍事目的の核爆発を行うことと何ら変わりありません。しかしながら他方核爆発が潜在的に持ちうる科学的,経済的利用価値も看過し得ないのであります。

 核拡散を招来せず,平和的応用面で核爆発の持つている潜在的価値を最大限に引き出すためには,PNEの技術面,経済面,法制面等についてさらに国際的研究を行うことによつて,条約第5条に言うような国際的レジームを早急に設立することが必要であると考えます。

 しかし,かかる国際的レジーム設立の問題は別にしても,いずれにせよ条約非締約非核兵器国がいかなる核爆発をも行わないよう強く訴えるものであります。また締約国たると非締約国たると問わず,核兵器国もPNEの研究開発の名のもとに何らの制約なく核爆発実験を行うことは差し控えるべきであると考えるのであります。また,地下核兵器実験の制限に関する条約第3条に従い現在米ソ間でPNEに関する取極につき交渉が行われていると伝えられておりますが両国が早急に合意に達し,PNE問題の研究に貢献するよう強く訴えるものであります。

 第2は非核兵器国の安全保障の問題であります。

 条約によれば,非核兵器国は核兵器を受領せず,製造せず,または他の方法により取得しないとの義務を負つております。非核兵器国は条約発効後少なくとも25年間,即ち今後20年という長い期間この義務を負わなければなりません。従つて,核武装によつて自国を防衛する権利を放棄する非核兵器国を核兵器による侵略またはその威嚇から保護する措置が必要であります。かかる必要に応え,1968年の条約作成に際し,米,ソ,英3国の共同提案による安保理決議255が採択されたのであります。日本国政府はかかる背景を有する同決議に相応の意義を認めているのであります。

 他方,条約成立後今日に至るまで自国の安全保障に関する非核兵器国一般の懸念が完全に解消された訳ではありません。それ故,わが国はこの会議で非核兵器国の懸念をできる限り除去するため,全ての参加国が受諾し得る形の何らかの成果が得られることを強く希望するものであります。

 かかる成果を得るにあたつては,非核兵器国の安全保障に特別の責任を有する核兵器国がその責任にふさわしい積極的な貢献をなすことが極めて重要であることをあらためて強調いたしたいと思います。また,非締約核兵器国も,他の核兵器国と共に,非核兵器国の安全保障確保の努力に積極的に参加するよう訴えるものであります。

 次に私は,第3の問題,即ち核軍縮の重要性について考えてみたいと思います。

 各締約国は「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき,並びに厳重かつ効果的な国際管理下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について誠実に交渉を行うことを約束」しております。核兵器国と非核兵器国との間の義務と責任の均衡が確立されるためには,特に,核兵器国が前述の約束を誠実に履行し,そしてかかる約束履行の実績を積み重ねていくことにより,究極的には核兵器を全廃することが必要であります。既に米ソ間には1972年5月の戦略攻撃兵器の制限に関する暫定協定,1974年7月の地下核兵器実験制限条約等,いくつかの核軍備管理に関する協定が成立しており,わが国は核軍縮の第一歩として,これらの成果を評価するものであります。しかし,究極の目標である核軍備の撤廃までには極めて長い道程があり,われわれは,目下米ソ間で交渉中のSALT新協定をはじめ包括的核兵器実験禁止等,核兵器国が核軍備管理及び核軍縮措置の実現につき今後一層努力するよう訴えるものであります。特に,米ソ両国が,核軍備管理及び核軍縮措置についてのより広範囲な軍縮交渉プログラムを提示するよう強く要請したいと考えます。また,SALT交渉の成果を真に意義あらしめるためにも,米ソ両国が包括的核兵器実験禁止問題の討議の進展のために努力を怠るべきでないと考えるものであります。

 核軍縮を有効に進めていくためには,全ての核兵器国が核軍縮交渉に参加することが必要であります。2つの核兵器国が条約に参加せず,従つて,これら両国が条約第6条に基づく義務に拘束されないことは核軍縮という条約の期待する効果を減殺することになります。わが国としては,これら両国に対し,条約に参加し,第6条に基づく義務を誠実に履行することを衷心から希望いたしますが,条約に参加するまでの間,他の締約核兵器国とともに核軍縮に向つて誠実に努力するよう強く訴えるものであります。

 第4の問題として最後に原子力平和利用に触れたいと思います。

 条約は,核兵器の不拡散の観点から非核兵器国に対して核兵器その他の核爆発装置の製造又は取得を禁止する一方,原子力の平和利用についてはその推進を条約の基本的な柱のひとつとしております。言うまでもなく,原子力の開発は他のいかなる分野にも劣らず国際協力の要請される分野であります。この点締約諸国間における原子力の平和利用のための国際協力の促進をうたつた条約第4条及び第5条の規定は極めて重要であります。わが国は,上記規定が真に意味あるものとなるよう運用されることに重大な関心を有するものであり,かつ,それが条約の魅力を増す所以であると信ずるものであります。また,原子力平和利用の国際協力においては開発途上国も等しく原子力を必要としている点に,特に留意することが必要であると考えます。

 なお,原子力平和利用の分野では,すべての国が等しく権利を有しており,核兵器国と非核兵器国との間に差別が設けられてはならないことは言うまでもありません。かかる観点からわが国は,米国及び英国がIAEAの保障措置を受諾する旨決定し,目下IAEAとの間で鋭意交渉が進められていることを歓迎すると共に,これら両国に適用される保障措置の内容は,適正なものであることを期待するものであります。またわが国としては,他の核兵器国も米国及び英国同様早急にIAEAの保障措置を受諾することが条約を補完する措置として極めて重要であると考え,右を強く訴えるものであります。

議長

 以上私は条約の実質面につき問題別に見解を述べてまいりましたが条約の適正な運用を確保するためには,今回の如く再検討会議を十分に活用することが極めて重要であります。かかる見地から,わが国は条約作成の過程で再検討会議の定期的開催を主張しました。再検討会議の定期的開催に関するかかる重要性は,今日いささかも変つていないのみならず,国際情勢の変化及び科学技術の急速な進歩にかんがみ,むしろ増しているといわなければなりません。私は,この意味で,条約の適正なる運用を確保し,条約体制の強化をはかるための話し合いの場を,あらゆる機会をとらえできるだけ頻繁に持つ必要があると同時に,少なくとも今次会議で1980年に次回の再検討会議を開催する旨の決定が行われることが望ましいと考えるものであります。

議長

 今次再検討会議は,条約が少なくとも今後20年という長い年月に耐え得るか否かを問われている最初の機会であります。条約をめぐる活発な討議を通じて条約の運用をより満足なものとすることができれば,条約は,「より広汎な参加」を確保することが可能であり,また,より永続的かつ強固なものとなるでありましょう。

 更には,条約をより永続的かつ強固なものとするためには,現在条約の外にある2核兵器国をはじめできるだけ多くの非締約国の条約への参加を確保することが必要であります。この意味で,私は,これら2核兵器国をはじめ非締約国ができるだけ多く,しかも速やかに条約に参加して条約体制を強化するよう強く訴えるものであります。

議長

 以上私は,条約のより適正な運用を期するとの建設的意図のもとに日本国政府の見解を表明して参りました。冒頭に述べました如く,日本国政府としましては,条約に参加する意図のもとに,批准の手続を進めております。私は,この会議が最終的な結論を得るにあ

たり,かかる日本国政府の見解を十分考慮に入れるよう要望するとともに,会議が有意義な成果をあげることを強く希望するものであります。

 

目次へ

 

 

(3)  日米欧委員会合同総会京都会議における宮澤外務大臣演説-わが外交の基本的課題(原文英語)

                                         (1975年5月30日 京都において)

 

 本日ここに,日米欧委員会京都会議御列席の各位に対し,お話し申し上げる機会を得ましたことは,私の大きな喜びとするところであります。特に私は外務大臣に就任いたすまではこの委員会の日本側代表委員を務めておりましたので,今般親しい友人各位に再びお目にかかれてひとしお深い喜びを覚えるものであります。

 ここ数年来世界は,東西間の緊張緩和の動き,第4次中東戦争の勃発,これに続く石油危機とそれに伴う国際的インフレと経済不況,経済的苦難のこの時期を通じて新たな盛り上りをみせた開発途上国側の力の増大,そして最近のインドシナ新情勢に至る一連の大きな出来事を経験いたしました。これらの出来事は,国際政治・経済構造および各国の国内情勢の深層に影響を与えるものであり,かつ,極めて短期間のうちに,相次いで発生したため,いずれも解決の容易ならざる他の多くの問題をもたらしているのであります。

 今日,かかる世界にあつて共に民主主義・先進工業国である日・米・欧三者の果たすべき役割は,ますます重大,かつ困難なものとなつております。日米欧委員会が設置され,時代の要請にこたえて,新しく,かつ,一層創造的な国際協力の方式を求めて各般の活動を行つて来ましたのは,まさにかかる認識に基づくものであります。今次会議に参加され,熱心な討議を行われた各位に対して,私は心から敬意を表したいと存じます。

 ここで私は,世界の将来に重要な意味を有する国際関係の主要な流れについて,簡単に触れてみたいと思います。

 まず,東西関係でありますが,米ソ間においては,今後とも,直接的武力衝突の機会を最小限にし,かつ,これを回避する努力が継続されましょう。また,中国も西側諸国との対話を引き続き行つていくものと思われます。いわゆる東西間の平和共存関係は,今後も存続するでありましょう。しかし,このような動きは,これら諸国間の,イデオロギー上の,あるいは,政治上の基本的立場の相違を解消するものではなく,また,局地的紛争の危険も世界各地に今後とも存続していくものと思われます。さらに,中ソ対立の将来についても注目を要します。

 アジアの様相は複雑であります。

 域内各国が有する社会,政治,文化,宗教上の歴史は,互いに大きく異なつており,地勢的にも,この地域全体としての均質性は,著しく欠けております。更に多くの国が植民地であつたため相互の連帯感が育ちにくかつたという事情があります。多くの国は,独立後比較的歴史の浅い開発途上国家であり,そのため,揺れ動く国際情勢の中で,自由のアイデンティティ確立を求めながら,国内の安定と開発を達成するという困難な問題を抱えております。

 このような状況下で,日,米,中,ソの4カ国それぞれの動向は,アジア全体に大きな影響を及ぼすものであります。また最近のインドシナの新情勢後,アジアの情勢は流動的となつております。

 アジアの安定は万人の強く求めるところでありますが,右のような事情からアジア全域を包括し長期的にその安定を保証し得る国際的枠組を作ることは非常に困難であり,ここにアジアの悩みがあります。

 朝鮮半島からスエズに至るアジア・中東地域は,他の諸地域に比し,不安定要因を最も多く内包している地域であります。この地域において新たな紛争と緊張の発生を避けるためには,すべての国が自制をし,あらゆるレベルの対話を容易ならしめるよう最善の努力を行うとともに,域内各国の経済的社会的基盤を強化していくことが必要であります。日・米・欧三者はこのための努力に建設的に参加する責務を有するものであります。

 わが国外交の基本原則について,ここで多くを語る必要はないと思いますが,わが国は,外交の基本方針として日米友好協力関係をかなめとし,イデオロギー,政治体制のいかんにかかわらず,世界のあらゆる諸国との友好と協力を深めることを目的とする外交を展開して参りました。

 わが国の安定と発展は,世界の平和と安定に大きく依存しております。このような国際環境を形成するためには国際的安全保障の枠組が重要であります。先程述べました緊張緩和の動きも,米ソ両国の核抑止力を基本とする力の均衡と国際的安全保障に関する既存の種々の取極を背景として生まれてきたものであることを忘れてはなりません。その意味で,日米安保条約に基づく日米間の協力関係,またNATO条約に基づく西側諸国の協力体制は,国際社会の平和と安定の確保に極めて有効な役割を果たしており,その信頼性を維持するとともに,より複雑な安全保障上の諸問題の解決に一層効率的に対処し得るよう,絶えず努力していかなければなりません。

 また,先に述べました通り,わが国は,政治体制を異にする諸国との間に安定的な関係を保つことも極めて重要であると考えます。中国との関係につきましては,わが国は,種々の政府間協定の成立あるいは各種交流の増大に見られるとおり,平和友好関係の維持に努めております。また,ソ連との間でも,相互理解の増進を図り,あらゆる分野における交流を進めてまいりました。しかしながら,日ソ関係を真に安定した基礎の上に発展させるためには,領土問題を解決して,平和条約を締結することが必要であります。

 ここで,日本国民の心からの関心事である核拡散の防止問題について一言付け加えたいと考えます。わが国政府は,現在NPTの批准につき国会の承認を求めております。また,私は,すべての国が,核兵器の一層の拡散を防止するため,あらゆる機会を通じ,積極的な措置を講ずるよう強く求めるものであります。また同時に私は,すべての核兵器国が,非核兵器国の抱いている安全保障上の正当な懸念を認めるとともに,一層の核軍縮を実施するよう要望するものであります。

 現在われわれはインフレ,不況,資源・エネルギー,一次産品問題等,著しく困難な問題を抱えているため,他国と相協力していかねばならぬことをますます痛感しております。欧州諸国が域内統一を指向し,開発途上諸国が種々連帯の動きを示し,石油問題について,産油国,消費国が,各般の協議を行う等の動きは,相互依存の世界の反映であります。しかし,各国が,このような共同行動を行うに際しては,自分達のグループの利益のみならず,他者の利益をも考慮し,もつて効果的,かつ,グローバルな国際協力の達成を可能ならしめる道を探求せねばなりません。この課題こそ,日・米・欧の三者が深く認識しているところであります。

 ここで,日米欧三者間の理解をさらに深めるため,わが国外交政策の決定過程にかかわる若干の特性についてご説明したいと思います。

 第1に,「和」という伝統的な社会倫理を有するわが国におきましては,政策の決定と実施に至るまで,時間をかけてコンセンサス造りが行われるという点であります。このような時間をかけた過程においては,関係者は具体的措置振りについても熟知するに至り,その結果として,一度政策決定が行われますと,極めて迅速な行動がとられるのであります。時折,このような政策決定の特徴は,しばしば全体の「和」のために含みのある表現を用いる習慣と相俟つて,わが国と欧米諸国との間の誤解を招くこともありますが,わが国はかような仕組を通じて,国内に深刻な社会緊張を招くことなく,また物事の優先度を見失うことなく,複雑な問題を処理しているのであります。

 第2に,わが国は中・ソ等,政治・経済上の信条と体制を異にする諸国,および経済的発展段階を相当に異にする諸国によつて囲まれており,従つてわが国は,これらの近隣諸国との交流について細心の配慮を払う必要があり,このような事情を反映した政策はしばしば欧米諸国にとつて容易に理解し得ないことがあるという点であります。

 さて,今日の国際社会の厳しい現実の中にあつて,私は,日・米・欧三者の共通の基盤である個人の自由と民主主義の原則を遵守するというわれわれの不変の決意を再確認することが有意義であると考えます。これらの原則は,未だかつてなかつたような挑戦を受けておりますが,われわれは,これらの挑戦に対して,退くことなく,これに立ち向かつていくことを学ばねばなりません。

 同時に,われわれは,世界の諸国が,必ずしもすべてわれわれと同様の政治的信条あるいは社会制度を有していないことを認識しなければなりません。われわれは,このような現実を謙虚に認めなくてはなりませんが,同時に,各国にはそれぞれ異なつた種々の事情があることについても一層慎重な考慮を払うことが肝要であります。特に,われわれは,開発途上諸国が直面する諸困難について留意するとともに,忍耐と理解をもつてその必要性に見合う国造りの努力に協力しなければなりません。また,同時に開発途上諸国側が世界における相互依存性を認識し,調和ある国際協力関係確立のため協力するよう呼びかけるべきでありましょう。

 現在必要とされているものは,美辞麗句ではなく,創造的かつ具体的な行動であります。私が日米欧委員会の作業に大きな期待を寄せているのは,正にこのような理由に基づくものであり,豊かな発想に基づくものであり,豊かな発想に基づく知的な努力を通じてのみ世界の生存を確保し得るからであります。

 

目次へ

 

 

(4) 国際婦人年世界会議に対する三木総理大臣のメッセージ

                                                  (1975年6月24日)

 

 国際婦人年世界会議に対して御挨拶をお送りしますことは,私の大きな喜びであります。

 人類が平和,開発のみならず環境,資源,食糧,人口,インフレその他の経済的困難等の諸問題に直面している今日,平等,発展,平和を主なテーマに国連が今年1975年を国際婦人年に指定し,婦人の地位向上をめざして世界各国が一堂に会し討議するためにこの会議を企画したことは非常に有意義なことであります。

 人間社会が男女両性によつて構成されているものである以上,国際社会の発展と平和も国内社会の安定と繁栄も,両性の等しい貢献及び協力なくしてはなしとげられません。国連が婦人の持つ優れた能力をいかに世界の発展と平和のために役立てうるかという観点から,この会議を召集したことは,誠に歓迎すべきことであり,わが代表団もこの会議の成功のために建設的貢献を行うものと期待しております。

 日本においても各界の婦人はこの国際婦人年と世界会議に極めて大きな関心を示しており,国会は「国際婦人年にあたり婦人の社会的地位の向上をはかる決議」を採択しました。日本政府としましては,この会議の討論を通じて学びうろことおよび最終的に決定される行動計画に照らして,婦人の地位の向上のためできる限りの努力を行つて,実効をあげうる施設を策定する所存であり,この意味からも会議の成果には非常に大きな期待をかけるものであります。

 この会議は歴史上初めて世界的規模において婦人の諸問題が討議されるという意味で,誠に画期的であり,その討議の成行は全世界の注視を受けております。会議がこの世界の期待に応え,実り多き討議を通じて婦人の地位の向上と,婦人の持つ優れた能力による一層大きな人類への貢献への幸多き出発点となることを希望し,かつ確信することをここに申しのべて,御挨拶といたします。

 

目次へ

 

 

(5)  国連憲章調印30周年記念式典におけるアジア・グループ議長としての斉藤(在国連代表部)大使演説

                              (1975年6月26日 ニューヨークにおいて)

 

事務総長,各国代表並びにみなさま。

 国連憲章調印30周年を祝賀するため,ここにお集まりになつた国連加盟国の代表各位に対し,アジア・グループの議長として,一言申し上げることは私の大きな喜びであり,かつ光栄であります。

 国連憲章調印は人類の歴史に新しい時代をもたらしました。憲章は第2次世界大戦とともに消滅した古い秩序にとつて代る新しい世界社会に対する実施計画を規定しました。それはまた,人類の希望する平和,正義及び進歩を現実のものにしようとする組織を設けました。私たちはいずれも,もし国際連合がなかつたならば,戦後世界は今日の世界とはかなり異なつたものになつていたであろうことを知つています。憲章の調印は,従つて,極めて現実的な意味において世界の形態を変更したのであります。

 今や,あの重要な日から30年の月日が流れました。国際連合および国際連合が反映する世界は,この30年間に,大きな変動を経ました。われわれは今や植民地主義時代に終止符を打たんとしています。かつ右においてその指導的役割を行なつた国際連合自身,その結果として大きく変化しました。国連は51の原加盟国から138の加盟国を有する機関に成長しました。その原加盟国が主としてヨーロッパと西半球の諸国であつたのに対して,現在の加盟国はほとんどすべての人種,宗教,イデオロギーを代表しており,国連は事実上普遍的な機構となりました。われわれアジア人は,憲章が署名された当時には,僅かに8つのアジア諸国が国連加盟国であつたのに対し,現在,アジアからは34カ国の加盟国があるという事実に満足しています。憲章調印の時から経過した30年の間に科学と技術の画期的な発展は国連が活動する世界をますます相互依存の世界に変化させました。

 今日では平和と安全の問題のみならず,国際貿易,経済発展,環境に影響を与える問題もすべて世界的関心事となり,かつ世界的観点からの解決を必要としています。世界的共同社会の目的と啓蒙された国家利益は合致するものであるということを信ずる理由は,1945年よりも,今日,一層多くあります。世界の諸問題に対する国際連合の有効性は減少せず,却つて増加しているようであります。

事務総長。

 憲章が署名されてから30年間,国連は良き時代にも,また悪しき時代にも国連が創設された目的の増進のため,不断の努力をつづけて来ました。国際連合は民族国家の世界で活動しているとの事実から受ける制約にもかかわらず,公平に見て,立派な仕事をしたと言えます。民族国家の互いに共通点のないイデオロギー,経済又は政治的提携は屢々共通の利益のための決定を行なうことを困難にするものであります。

 国際連合の最重要な責任は勿論,平和の維持であります。この30年が,大戦争をもたらさなかつたことは,御同慶の至りであり,その功績の大部分は国際連合によるものです。又,国連は現実に発生した戦争の拡大を防止する役割を果たしました。

 国連が発展途上国の経済的社会的発展を推進するため,果たしてまた,現に果たしている役割はよく知られています。また,私は,この立派な会合において,国連憲章が署名された時,植民地支配下にあつた数億人にとり,マグナ・カルタとなつた被植民地国および人民に対する独立付与の宣言を実現せしめた国連の成果にわざわざ注意をうながす必要はないと思います。

 しかしながら事務総長,国際連合は,憲章が調印された時に人類の抱いていた願望と期待を完全には満たさなかつたことをも認めねばなりません。

 事務総長,私はあなたもこの極めて重要な記念日を祝賀するためにここに集まつたわれわれの多くの者と同様に,何故,国際連合がその多くの成果にもかかわらず,より多くのことを果たし得なかつたのかとの問題を深く考えられたと思います。国連が本来の目的に忠実であることに失敗したすべての場合,それぞれ,特別の事情がありました。しかし,国連の活動の成果についても,短所についても,責任があつたことは,基本的には,他の如何なる事情よりも,常に,加盟国の行動であつたのであります。

 事務総長,われわれは皆,今日の相互依存の世界における国連の重要性については,意見の一致をみています。そして,われわれが直面する諸問題と取組むために国連は新しい力を得なければならないことを確信しています。国連を強化するためには,次のことがなされなければなりません。

 第1に,加盟諸国は,国連に必要な活力を与えるために,何をなし得たか,また現在何をなし得るかを十分に深く考えてみることが絶対に必要であります。

 第2に国際連合自身が,新しい状況と新しい必要に対処するために,機構および機能の変革を通じ,適応させられねばなりません。これら2つのことは同じように必要であり,まさにお互いに補填しあうものであります。憲章の目的のために新しい公約を加盟諸国より獲得することは,時間がかかりますし,国連の必要とする変革を現実のものにすることも時間が必要です。しかしもしこれらが同時に進められるならば,国際連合は確実に諸国の行動を調和するための真の中心となるでありましょう。

 事務総長,アジア諸国の代表としての私に対し,アジアにおいて国連が果たした役割及び将来果たさんとしている役割について,一言発言することをお許し下さい。アジアにおける国連の役割は,特に非植民地化過程の促進及び経済的,社会的発展の推進の面で,有益かつ有効でありました。

 アジアでは一つの戦争,即ちヴィエトナム戦争は今や終結しました。しかしながら今一つの紛争,即ち中東における紛争は未だ未解決であります。インドシナ人民は戦争の残した傷跡から回復しつつあります。そして彼らは国際連合が彼らの国の復興と再建に積極的な役割を果たすことを期待しています。中東の人々はその地域における公正かつ永続的な平和を切望しており,国際連合はその実現をもたらす役割を果たすよう求められております。

 事務総長,国連憲章調印30周年を記念するための加盟国にとつて最良の方法は憲章の高邁な目的に自らを再び棒げ,かつこれらの目的に現実的な中味を与えることを新たに決意することであります。

 国連アジア加盟国は国連の理想に対し,固い約束をしており,憲章の目的と原則を厳守し,かつ平和,正義並びに進歩のため,われわれが有する唯一の普遍的な機関たる国連に対し,可能な,最も強い忠誠を与えるでありましょう。私は私が今,申しあげました点は,国連アジア加盟国の感情を表明しているものと信じております。

 御静聴ありかとうございました。事務総長。

 

目次へ

 

 

(6)  東京外人記者クラブにおける宮澤外務大臣演説-今日の世界と日本外交(原文英語)

 

                                        (1975年7月10日 東京において)

 カリソン会長ならびに御列席の各位

 本日ここにお招き頂き,親しくお話申し上げる機会を与えられましたことは私の大きな喜びであります。御協会は,言わば日本の中の世界に向けて開かれた窓であり,特派員各位の日頃のご活躍ぶりに対して深い敬意を表したいと存じます。

 大戦後30年が過ぎました。この間,わが国は,幸いにして平和を享受し,戦後の荒廃から復興して順調な経済発展を遂げ,今や広く世界の全域で友好と協力を進めており,国際間の協力と世界の平和と進歩にとつて欠かすことのできない安定勢力となるに至りました。

 この30年間に世界も大きく変貌しました。国際政治の基調は冷戦下の対決から緊張緩和の下での共存へと移行し,また70有余の諸国が独立してあらたに国際政治の舞台に登場し,国連加盟国の数も138カ国に達しました。さらに,中ソ対立という事象も生ずるに至りました。

 特に最近数年来,国際社会は,かつてなかつた種類の大きな変動が短期間に相次いで起るのを経験しました。

 20世紀の最後の四半世紀を迎えるに当つて,日本の直面する国際関係の図式はこれまでとは異質の複雑なものであります。国家間の関係は著しく多様となり,かつ一層密接で相互依存的になつております。

 これまでわが国は自らの発意によつて自衛力を最小限の範囲に局限し,諸国民の公正と信義に信頼して平和を確保するという歴史的実験を試みてこれに成功し,その下で世界に稀な高度の経済発展を遂げてきました。これが可能であつたのは,わが国が比較的恵まれた国際環境の中にあり,かつ,国民が基本的に誤りのない選択を行つてきたからであります。

 今日大きく変動しつつある国際環境の下で,わが国がこれまでの成果に基づき,引続き平和の針路を続けるためには,わが国の平和と安全の基礎を一層強固にするとともに,一層柔軟にして積極的な外交努力を行うことが必要であります。

 わが国の平和と安全を確保するための基本方策は,国内のコンセンサスに基づいて最小限かつ有効な自衛力を保持するほかに,日米間の友好信頼関係の下での日米安保協力体制を維持し,あわせてわが国周辺の国際情勢の安定化を図ることであります。

 日米間の友好協力関係は,わが国の平和の針路にとつて基本的に重要であります。日米間には政治,経済,科学,文化の各領域において密接な協力関係が存在するのみならず,アジア太平洋地域の平和と安定の問題について,さらに,人類全体が直面する幾多の共通の課題について,両国は相協力して対処する立場にあります。

 日米両国間には自然条件や歴史的社会的風土に大きな相違があるにもかかわらず,両国は国際関係の多くの分野にわたつて効果的なパートナーシップを有しております。変転する国際社会の中にあつて,わが国は米国との密接な協力関係を重視し,同国との間にあらゆるレベルにおいて率直にして建設的な対話を一層重ねて参りたいと考えます。従つて,私はこの点に関する先般のキッシンジャー国務長官の発言を歓迎するとともに,来る8月の三木総理訪米の機会に両国首脳間で十分実りある対話が行われることを期待するものであります。

 国際政治の現実を直視すれば,今日の世界において大規模な軍事抗争を回避し,平和を維持するためには,東西両大国間の軍事的均衡と西側諸国間の緊密な協力関係の存続は不可欠であると言わねばなりません。近年の緊張緩和の動きも,この国際的枠組の中で可能になつたことを忘れてはなりません。従つて日米安保協力体制は日本の安定のみならず国際関係の安定にとつて必要であり,わが国はこれを引続き堅持する考えであります。

 わが国を取り巻くアジアの情勢は複雑であります。

 アジアは地勢上,また民族,文化,歴史,宗教上の理由から域内全体としての均質性を著しく欠いており,連帯意識にも乏しいという特徴を有します。また米中ソの三大国がこの地域の動向に深い係り合いを有しており,域内各国がこれら大国との間に持つ関係であります。

 このようなアジアの現状の下で,わが国が自らの平和と安全を確保し,東アジア一帯の安定を図るためには,わが国は次の3点を達成することが最も重要であると考えます。

 第1は,わが国と一衣帯水の関係にある朝鮮半島の平和と安定を維持することであります。

 第2は,わが国と政治・経済体制を異にする隣国である中ソとの間に安定的協調関係を確保することであります。

 第3は,東南アジア地域の諸国との友好親善を深め,その自助努力に協力し,もつて,この地域の安定を寄与することであります。

 以上の3つの問題に取組むにあたつては,わが国は米国をはじめカナダ,豪州,ニュー・ジーランドという太平洋地域の友邦,ならびに西欧の民主主義諸国との協調を重視するものであります。

 特に米国との協調は基本的に重要であります。過去100年有余にわたり,米国はアジアにおいて極めて大きな役割を果たしてきたのであり,近年のインドシナにおける困難な経験を乗越えて,米国がこの地域の安定と進歩のため,長期的視野から今後引続き主要な役割を演ずることを期待するものであります。

 以下右の3つの問題について簡単に述べてみます。

 まず朝鮮半島の情勢は,わが国の国民にとつて重大な関心事であるのみならず,米,中,ソの3大国の動向にも密接に係わるものであり,従つて国際関係全般にも直ちに影響するものであります。

 わが国としては,韓国との関係を一層強化する方針にもとより変りはありませんが,同時にこの地域の平和と安定のため,南北双方の当事者がすみやかに1972年7月の共同声明の精神に立戻り,平和的統一に向つての実質的話し合いを再開し,統一に至るまでの間平和的共存をはかるよう強く希望するものであります。また,そのために日本として関係諸国と協力して果たすべき役割があれば,積極的に努力したい考えであります。

 次に中国とソ連についてでありますが,両国はアジアの将来に大きな影響を及ぼす立場にあります。わが国は,彼我の体制と立場の相違を超えて,アジアの平和のため対話を重ね,協調関係を育成することに力を注ぐ考えであります。

 中国は,わが国にとつて古くからの隣人であります。わが国は1972年の国交正常化の際の共同声明の原則と精神に則り,中国との平和と友好の関係を着実に進めて参りたいと考えます。

 ソ連もまたわが国にとつて重要な隣国であります。日ソ関係は近年諸般の分野において進展しておりますが,両国関係を永続的安定的基礎の上に発展させるには,北方領土の返還を実現して平和条約を締結することが必要であると考えます。

 第3に東南アジアについてでありますが,インドシナの新しい事態を迎えて,わが国の国民は東南アジアの将来に一層強い関心を払つております。インドシナの戦火は終熄しましたが,東南アジアが永続的安定を達成するまでには今後なお幾多の困難が予想されます。

 ヴィトナムの出来事は,これからの東南アジアにおいて平和と安定が維持されるためには,域内の各国がそれぞれの国情に見合つた方法で,国内の政治的安定と民生の向上発展を図るとともに,体制の異なる諸国相互間にも安定的共存関係が樹立されることが必要であることを示したと思います。

 わが国はこのような歴史上の要請を十分認識し,富の不均衡と所得の格差の是正を求める諸国民の願望をよく理解して,これら諸国との幅の広い相互理解と協力関係を増進することに努める考えであります。その際,伝統的に友好関係を有する諸国との協力に一層力を入れることはもとより,北ヴィエトナムおよび他のインドシナの諸国との間においても,体制の相違を超えて安定的な関係を樹立することを求めるものであります。

 わが国が平和の針路を続けるに当つては,アジアの平和のみならず世界全体の平和について考えることが必要であります。特に中東の平和はわが国の国民が深い関心を有する問題であります。わが国は,かねて明らかにして参つたとおり,国連憲章と国連諸決議に従つて問題の公正な解決をみることを心から願い,そのための諸国の努力と自制を強く支持するものであります。

 世界を核戦争の危険から解放することは,世界平和を欲する者全ての望むところであります。わが国は,核軍縮の必要性を強調するとともに,核拡散防止に誠実に協力するものであります。核拡散防止条約については,審議日程の都合から先国会の会期中に国会の承認を得るには至りませんでしたが,可能な限り早急に国会の承認を得て批准を行う方針に変りはありません。

 過去20カ月の間に,世界経済は史上稀な大変動に襲われました。石油問題の発生によつて,各国で既に進みつつあつたインフレは著しく激化し,また多くの国は国際収支の悪化と強い不況に見舞われ,世界経済は停滞と甚だしい不均衡に直面しております。

 国際的相互依存関係の深まつた今日の世界においては,いかなる国も,このような経済の変調による影響を免れることはできません。今日の国際経済社会においては,諸国は世界経済全体の健全な発展を図ることによつて共通の利益を得る立場にあり,全体の利益を阻害する形で一部の利益を追求することは,結局自らの利益を封ずることになるという現実をわれわれは十分認識する必要があります。

 従つて,わが国は各国間の対話と協調によつて今日の困難に対処することが,明日への発展にとつて不可欠であると考えます。このような精神の下に,わが国は石油生産国と消費国との間の調和ある関係の形成と対話の促進を求めるものであり,生産国・消費国間の対話の再開の早期実現のため協力を行うとともに,かかる再開会議が,石油エネルギー問題の解決についての実りある結果をもたらすことを強く期待するものであります。また,わが国は,消費国間の協力も世界石油市場安定化のため重要であると考え,主要消費国間の協力に今後とも積極的に参加して参ります。

 さらに,わが国は貿易,金融等世界経済全般に係わる多くの分野で国際協調に基づく諸国間の努力に積極的に参加して参りました。わが国は,OECDがこれらの分野で果たしている役割を高く評価し,今後もOECDを通ずる協力に十分の参加と貢献を行う所存であります。

 21世紀に向う歴史の流れの中で,国際関係において今日急速かつ大幅に重要性を増しつつある問題は南北問題であります。先進経済諸国と開発途上諸国との間に調和ある関係を樹立し,開発途上諸国の民生向上,経済的社会的発展のため努力することは,国際関係全般の安定と発展のために不可欠の要件であります。

 近年,開発途上諸国は変動する国際環境の中で著しくその発言力を増しており,その連帯に基づく主張と行動は国際政治・経済の両面にわたつて大きな影響を及ぼしております。開発途上諸国の抱える困難は多様であり,国によつて相異なるものでありますが,これら諸国は一様に停滞と貧困からの脱却と国際社会における地位の向上とを強く願望しております。

 わが国としては,先進工業諸国,開発途上諸国双方の健全な発展を支える国際経済の枠組の中で開発途上国の開発が進められることが必要であると考えます。わが国にとつて開発途上国との関係は重要であり,また様々な制約の下で急速な近代化の過程を歩んだ自らの歴史的経験に照らして,わが国は開発途上諸国の立場への深い理解を有するものであります。従つて,わが国は開発途上諸国との協力を外交の重要目標のひとつとして,その一層の推進に努めたいと考えます。

 以上当面するわが国外交の基本的課題について申し述べました。わが国は,わが国の平和の針路を一層固い決意をもつて続けて参る考えであります。この針路を通じて,わが国が国際社会の安定と発展に一層有効な貢献をなし得るよう,諸外国の理解ある協力に強く期待して,私のお話を終らせて頂きます。

 

目次へ

 

 

(7)  ナショナル・プレスクラブにおける三木総理大臣演説-平和への創造的協力

                                    (1975年8月6日 ワシントンにおいて)

 

 日米関係は,今日,きわめて友誼にみち協力的なものであります。私は今,フォード大統領,キッシンジャー国務長官等米国政府要人との2日間にわたるまことに実り多い会談を終えて,このことを自信をもつていうことができます。

 このように円満な両国の関係は,昨秋のフォード大統領訪日の際にも如実に示されたところであります。日本国民は,大統領の訪日を喜びと誇りの念をもつて懐しく想い起しております。本年10月に天皇・皇后両陛下が米国を訪れられる際にも,政治を超えたこのような両国民の間の親愛の情があらためてよびおこされることでありましょう。

 現下の世界において両国が直面している困難な諸問題を考えますとき,日米間の相互の善意と信頼はますます重要な意味を持つてきているといえましょう。アジア及び世界の平和と安定は日米両国民の熱望するところであります。その達成のためには,われわれがより一層緊密で創造性に富んだ協力を行つていくことが必要なのであります。

 私はまず,平和の建設のためにわれわれが是非ともたどつていくべき道について,広く世界的な観点からお話ししたいと思います。

 第1に,超大国間の緊張緩和を中心とするデタントの道を地道にかつ忍耐強くたどつてゆくことが重要であります。この点,これまでにも歓迎すべき進展がみられてきているとはいえ,未だ限られたものであります。また,デタントと同時に,相互に利益となる協力関係を拡大していくための不断の努力を進めるべきであります。すなわち,危険な対決を回避するための自制のみならず,対決を引起すもとになる要因を交渉によつて取除く努力が必要なのであります。また,核軍備拡張競争を制限するにとどまらず,均衡による安定に配慮しつつ核軍備の縮小をはかるべく努力していくことも必要であります。

 第2に,世界の平和と安定をおびやかすおそれのある地域的及び局地的な紛争を解決していく努力が必要であります。中でも,アラブとイスラエルの対決は最も危険な起爆剤といえましょう。このように緊迫した情勢下で,貴国の大統領と国務長官は,この複雑な問題の解決のために,細心で独創的な外交を展開しておられます。日本政府はかかる米国の努力を多とするとともに,これを心から支持するものであります。

 第3に,世界平和のためには,社会体制,イテオロギー,民族主義などの面で多様化している今日の世界において,このような相違を乗りこえて,融和と協調をはかる外交を促進すべきであります。このためには東西間だけでなく,北の先進諸国と南の発展途上国の間での利害の調整が必要であります。

 今日の国際社会では,種々のひずみや緊張がみられます。これは,経済及び政治の両面において国際間の力関係が著しく変化してきていることに起因するものであります。同時に,世界の諸国間の相互依存関係がますます深まつてきている今日,われわれは人類の生存という共通の課題のため,新しい均衡を探し求めなければならないのであります。

 ヴィエトナム後のアジアにおいても,以上のような基本的動きがみられます。悲劇的なヴィエトナム戦争が突然終熄したことにより,戦争が終つたという安堵の念がアジアにも広まつております。人々は,今や,米国民,そしてインドシナの人々の高価な犠牲が終り,東南アジアにようやく平和が訪れたと感じているのであります。

 闘いの双方において生命というもつとも高価な犠牲を払つた人々を再び地上に呼び帰すことはできません。しかし,生き残つた人々に対して希望を与え,力づけることは,今は亡き人々へのはなむけとなるのであります。

 今や,和解の時がきているのであります。

 今日,東南アジアの諸国が,自らの発意により,各々の立場を認め合い,共通の問題や関心事なこついて平和的に協力してゆくための政治的条件を作り出してゆく機会が到来しているのであります。

 東南アジアの一部の国々がすでに行つたか,あるいは現在検討しつつある政治的決定をみてこれらの国々が「米国離れ」を志向しているのではないかと考える向きもありましょう。しかし,私は,そのような結論を引出すことは当をえていないと思います。現在東南アジアで進行している和解のための対話は,同地域に安定した平和をもたらすために必ずたどらなければならない道程の一つなのであります。それは,軍事的というより,むしろ政治的な基盤に立つ均衡を追求するものであります。そうすることによつて,東南アジアの人々が国造りに専念し,自立的に存立しうる経済を築きあげることができるのであります。

 アジアにおいては緊張緩和はようやく始まつたばかりであり,その進展のためには先進的な工業諸国,とりわけ日米の理解と協力が必要であります。

 事実,これら諸国民が熱望する平和の建設とより良き明日への夢は,日米両国の協力なしでは現実困難であるといえましょう。今こそ,米国がアジアにおいて,一層多様でかつ柔軟性に富んだ役割を果たしていく好機なのであります。

 日本もまた,アジアにおける先進的な工業国家として,アジアの経済及び社会の発展に一層幅広く参画していく機会を歓迎するものであります。

 私は,このことは日米両国の共通した責任であると確信しております。日米両国の運命は,この広大なアジアの平和的な発展に不可分に結びついているのであります。

 両国の共同責任のなかには,それぞれが日米相互協力及び安全保障条約の下においてアジアの平和と安定のために貢献していくことが含まれております。日本は憲法上,非軍事国家であり,これはまた国民の間に深く根ざした信念に基づくものであります。われわれは攻撃用兵器を保有しないとの誓いを固めておりますし,また,将来にわたり核兵器は一切持たない決意であります。私は,わが国のこの姿勢は,アジアの平和の建設に積極的に貢献するものであると信じます。わが国が再軍備を行つたり,核兵器を保有する場合には,周辺の国々の間に恐怖と不安を呼びおこすことでありましょう。

 私は,現在衆議院において審議を継続中である核拡散防止条約の批准のための承認ができるだけ近い時期に得られることを期待するものであります。

 このような制限の範囲内で,わが国は,日米両国間の安全保障上の取極に基づく義務を引続き十分に履行するとともに,自衛隊の質的向上をはかる考えであります。

 わが国は,朝鮮半島の平和的統一がすみやかに達成されるように南北間の対話が促進されることを強く希望しており,この地域の緊張を緩和し,その平和と安定に寄与するためあらゆる努力が払われるべきであると考えます。他方,現在の情勢の下では,われわれは,米軍が引続き韓国内に駐留することが朝鮮半島の平和,そしてアジアの安定にとつて重要な貢献をなしていると考えており,この米国の政策に急激な変化はないものと信じております。

 安全保障上の取極は戦争への抑止力として必要であります。しかし,われわれが戦争の抑止をはかるのは,平和の建設に積極的に取組もうとするからであります。

 われわれは,平和を建設していくにあたり,前の障害物や危険にとらわれず,目を地平線の彼方に向けて,将来のため建設すべき国際秩序のすがたにつき思いをいたさなければなりません。アジアの諸国民は,この広大で人口稠密な地域の開発の潜在的可能性を創造的かつ精力的に活かしていくことにより,新しい世界の形成にきわめて重要な貢献を行うことができるのであります。

 私は10年来,アジア・太平洋諸国は,この地域の発展途上国の経済開発のため貿易,経済援助等の面で協力し合うべきことを主張してきました。

 今日のアジア情勢においては,イデオロギーや社会制度の相違を超えてこの問題に精力的にとり組む好機が存在すると思います。私は,ここで,アジア・太平洋諸国間の経済的協力を一層活発化させる具体的方策につき若干の示唆を行つてみたいと思います。

 まず第1に,東南アジアにおいて着実にその成果を挙げつつあり,地域の政治的,経済的安定に重要な役割を果たしている東南アジア諸国連合(ASEAN)に対する協力の強化

をあげることができます。わが国は,ASEAN諸国のイニシアティヴ及び自主性を尊重しつつ,ASEANの活動を積極的に支援していく用意があります。

 第2に,発展途上国の一次産品の開発,輸出促進のため,特定産品に関する輸出所得の補償を行うという方式なグローバルに適用し,アジア・太平洋地域の発展途上国が関心を有する産品を含めていくことも十分検討に値すると思います。私は他のアジア・太平洋諸国とともに,このような問題に建設的にとり組むことを呼びかけたいのであります。

 われわれがともに手を携え構築すべき国際関係の構造は,力の均衡の概念のみに基づくものではありません。文明社会が生存するためには,われわれが21世紀にたどりつくまでに,相互依存の地域社会の中でいかにしてともに平和に暮らしていくべきかを学んでいかなければなりません。

 この目的に向つて今われわれは歩みはじめたのであります。人類生存のためのこの進路を歩むにあたり,日米の友好と協力のきずなは強じんで積極的な力であります。私は,両国がこの力を十分に発揮していくためには,両国間の協議を・一層拡大していくことが必要であると考えます。

 日米両国が常に同一の立場をとるとは限りません。また,日米両国にはそれぞれの特色に基づく相違点もありますが,それだけに,不断の緊密な協議が必要なのであります。また,両国の優先的な関心事とそれを達成する能力が個々の場合に異なることもありますので,両国が常に同一の立場をとる必要もないのであります。しかしながら,両国は根本的な価値観と理想をともにするものであり,お互いの利益は多くの場合一致しております。従つて,お互いに常に協議を行つてゆくことにより,両国の協力関係は最も創造的かつ効果的なものとなるでありましょう。

 米国民は独立200年祭を迎えようとされています。米国の力と世界に対する影響力は米国の特徴である多様性と同一性のユニークな融合に由来するものであると思います。米国は過去200年の間にかくも偉大な国家となり,今後とも偉大な国家であり続けるでありましょう。その力の根源は,米国が単一の民族,宗教,文化から成立つているのではなく,世界の各地からきた幾多の民族が,自由,正義,平等,友愛そして民主主義の理想実現にともに邁進してきたことに由来する国家としての同一性にあるのであります。

 今日,民主主義は試練に立たされているといわれています。これは現代の世界の複雑でかつ多様な社会の諸々の力にある程度の統合をもたらすには,民主主義は非能率でふさわしくない制度であるとの批判によるものであります。私はこのような考えには組みしません。民主主義は多様性から生れ,多様性を基として栄えるものであるとの私の信念はいささかも変つていないのであります。

 日米関係も,また,両国の同一性のみならず多様性に基礎をおくものであり,そしてこれこそ世界に対する良き例証となるのであります。

 相互に依存し,協力し合う世界社会は,すべての人が同じように考え,行動することを要請するものではありません。多様性に対する寛容の心と,異なる信条に対する敬意と,われわれの生存のため協力すべき分野において相互間の相違を克服することを要請するものであります。

 米国独立200年祭を祝う者は,米国民のみに限られません。

 それは,米国の内外を問わず,自由と民主主義を享受し,また,これを希求する人々にとつて,大きな意義を有する出来事なのであります。

 私は,かかる米国建国の精神を祝して,200年祭に際し,わが国より米国民に対し,2つの記念品を差し上げることとなつたことをお伝えしたいと存じます。

 その1つは,日本国民より,ここワシントンのケネディ・センターに対するもので,具体的には同センターの小劇場の建設を完了するための協力であります。

 もう1つの贈り物は,まだ具体的な場所は決つておりませんが,西海岸のいずれか適当な地に,日本の桜の木の記念林をつくろうというものであります。

 このような日本からの友情のしるしは,今後幾世代にもわたり,米国民の心の中に,太平洋をはさんだ永遠の友である日本国民の米国民に対する尊厳と親愛の念を想い起させることを期待するものであります。

 これで,私の用意した演説は終りますが,草稿を離れて短い時間,私の個人的感慨をつけ加えることを許していただきたいと思います。

 明年は,アメリカデモクラシーが声高らかに建国の宣言を行つてから200年を迎えようとしています。そのアメリカが今から45年前に当時日本の一犬学生としての私が訪れ,そして学んだはじめての外国でありました。

 そこで学び,かつ,強く印象づけられたものこそ,アメリカ社会のもつ自由と民主主義でありました。今,私はその私の心のふるさとに帰つてきて,こうして皆さんとお話しています。私の感慨ひとしおなるものがあることを理解していただけるでありましょう。

 1929年--皆さんの多くはまだ生まれなかつたかも知れませんが--当時,一大学生であつた私に,父は遺産前渡しの形で,私に世界一周をさせてくれました。1年3カ月の旅行でありました。

 私は最初の訪問国,アメリカから,ムッソリニーのイタリア,ヒットラーがまさに台頭してこようとするドイツ,革命後10数年たつたスターリンのソ連をみました。私の母国,日本も軍国主義の暗黒の日が近づこうとしていました。

 当時,まだ22歳の多感な青年であつた私は,各国の政治体制を比較する機会をもちました。そして私が心をひかれたものこそ,アメリカ社会のもつ自由とデモクラシーの精神でありました。その後,4年間カリフォルニア州の大学で学びました。その自由とデモクラシーへの信仰こそが,過去38年間の絶え間なき私の議員生活を支え導いた指導原理であり,力であつたのです。

 同じ長い議員経歴を持つフォード大統領とも,この点を胸襟を開いて話合いました。ともに,民主主義政治体制に対するゆるぎない信念をもつ2人であることを確め合つたことは,私の最も喜びとするところでありました。これは,2人を結びつける太いきずなとなり,密接なる協力の励ましになることを信じます。

 しかし,今や,その民主主義が重大なる試練に直面しているといわれております。

 なるほど,世界が共通に抱えている問題--たとえば,エネルギー,資源,環境,人口,食糧,スタグフレーション等々の問題--に世界中が手こずつており,民主主義の統治能力が問われています。

 しかし,私はデモクラシーが,時代とともに歩むリベラルな精神と,改革の精神を失わぬ限り,また,他の異なつた政治,経済制度,イデオロギーと共存する寛容な配慮を失わぬ限り,民主主義は決して賢明に働く力を失うことはないと思います。今のところ民主主義以外に個人思想と自由を制度的に保障する制度はありません。

 たとえ,独裁的政治体制で1日できめられることが,民主主義体制の下に1カ月かかつても,私は民主主義をとります。

 民主主義は,暴力主義や無法主義と戦わねばならぬ。しかし,どんな困難があろうとも私は自らの信念をゆるがすことはありません。

 むろん私は民主主義の将来が決して安易なものでないことを知つています。ただここでアメリカ国民にはつきり約束できることは,アジア太平洋地域における自由と民主主義を守るために,われわれ日本国民が盟友でありつづける,ということであります。

 最後に,若い私の魂に深い感銘を残した2人のアメリカ建国の父祖の言葉を引いて,私の話をしめくくろうと思います。

 トマス・ペインはいいました。「いまや人間がためされている時代である。」現代の民主主義もまたためされているといえましょう。

 一方トマス・ジェファソンはいいました。「もし新聞のない政治と,政治のない新聞のいずれかを選ぶとすれば,私はためらうことなく後者を選ぶであろう。」

 このジェファソンの言葉こそ,いまにアメリカの新聞の行動原理であることを私は知つています。自由と民主主義のとりでとしての皆さんの健闘を心から願つてやみません。

 

目次へ

 

 

(8) 日米協会における三木総理大臣演説-未来への展望

                            (1975年8月8日 ニューヨークにおいて)

 

 会長並びに御列席の皆様

 木夕ここで皆様にお話するよう招待を頂きましたことにつき,日米協会及び協賛の諸団体に対し,深くお礼を申し上げます。私は,今朝程当地に参る前に,フォード大統領及びキッシンジャー長官と2回にわたる極めて有益な会談を行うとともに,貴国政府その他の指導者の方々と有意義な話合いを行いました。

 これらの会談の際,私はわれわれの生存と今後の人類の繁栄にとつて直接係わり合いがある幾つかの問題につき,私の考えをお話しました。本日は,これらの点につきまして,皆様方にお話すると同時に,皆様方を通じ米国民に対し直接お話したいと思います。

 私は,皆様が御存知でないような新しいことをお話しようとは思いません。しかしながら,おそらくアジア人として,日本人として,また,米国の終生の友人という立場から,私は,世界はどこに向つているのか,また,これらの流れの中にあつてわれわれは共に協力することにより何ができるかということについて,新たな展望をお話できるのではないかと思います。

 アジアは,ヴィエトナム戦争後の世界の現実にいかに適応するかを模索している段階にあります。これは,新しい均衡を求める極めて自然な模索であります。そして,この新しい均衡とは,戦争というような対決に基づくものではなく,交渉,対話,協調に依存する平和的な共存に基づくものであります。

 換言すれば,ついにアジアも,緊張緩和のきざしが見えはじめたということであります。

 東南アジアでの戦闘の終結により,アジア諸国は,この地域の軍事的安定に代つて政治的安定を求めることが可能になりました。実際のところ可能になつたというよりも,必要となつたというべきでありましょう。また,平和がもたらされた結果,われわれは,この地域が真に必要とするもの,とりわけ体制とイデオロギーの相違を超えて地域協力の枠組の中で新しい経済面の協力を樹立することに,われわれの関心をかたむけることが可能になりました。

 われわれが,アジアにおいて緊張緩和をうまく機能させることに成功するかどうか,そして今後は国造りと平和の確立のために全力を集中することができるかどうかに関連して重要なのは,これらの変化の過程で米国がアジアの安定と経済的繁栄に寄与し続けるかどうかの問題であります。

 アジアの諸国民はこのことをよく知つています。アジアの諸国民は,まさに,貴国が引き続きアジアに留ることを望んでおります。米国の積極的な参加があつてこそ,はじめて国造りと平和の確立という2つの目的の追求が,アジアにおいて可能となるのであります。

 日本も,また,アジア諸国の平和的な経済社会発展をはかるという,複雑かつ緊急な課題の解決のために貢献する特別の責任を有しています。わが国は,この地域における先進工業国家であり,われわれ自身の安全保障と重大な利害が,この共通の課題の成功いかんにかかつております。

 日本の役割は,必然的に非軍事的なものとならざるを得ません。ましてや,核と関係のないものであることは言うまでもありません。私は,現在衆議院において審議を継続中である核拡散防止条約の批准のための承認ができるだけ近い時期に得られることを期待するのであります。伝統的には,世界の主要な経済大国は,同時に軍事大国でもありましたが,日本国民は,常に一貫して非軍事国家であり続けるという選択をはつきりと行つたのであります。

 従つて,日本としては,そのアジア外交においてアジア諸国民のすべてが有する正当なる願望達成のために,経済的,政治的,また,文化的な支援と協力を行つていくことに最重点を置く考えであります。そのためには,やらなければならぬことが極めてたくさんありますが,私としましては,アジアの発展途上国に対する経済援助をさらに拡大する努力を継続していく所存であります。特に,工業化,農業,農村開発,教育・職業訓練の強化をより一層促進するために必要な,無償援助,緩和された条件での借款の供与を拡大すべく努力したいと考えております。

 次に,より広く世界情勢についてお話したいと思います。ここでも,われわれが共有している目的の達成のためには,日本と米国との協力が必要不可欠であります。

 これらの目的のうち,最も大きな優先度を与えられねばならないのは,われわれ自身の民主主義社会が引き続き繁栄し,また,すべての国が自分の選択する体制を維持しながら,しかも,お互いに恐怖や脅威を感ずることなく,それぞれの最善の希望を追求できるような世界平和のための構造を造りあげることであります。

 われわれ両国が求めるべき目標で次に優先されるべきものは,すべての国が,互いの市場,産品及び原材料に対し公平なアクセスを持ち得るような世界経済体制を維持,強化することであり,また,すべての国に対し,世界全体の繁栄に貢献するとともに,それからの利益を得ることについて公平な機会を保証することであります。

 経済分野においても,政治・安全保障の分野と同様に,現代を支配する要素は,世界的な相互依存関係であります。その意味において,われわれは,すべて同じ船に乗つているわけであります。われわれは,この船の中で違うデッキにいるかもしれませんが,なお,1つの船に乗つていることにかわりはありません。海の上で必要な修理をしながら一緒に航海しなければ,われわれはともども沈没せざるを得ないのであります。

 世界的なインフレと不況が進行しエネルギー危機の影響は未だに深刻なものがあり,そして過去30年間にわたり世界経済における協力と発展をもたらした基本原則自体がその妥当性を問題にされている現状を見るとき,私は世界経済の構造は今や重大な岐路にさしかかつていると痛感するのであります。

 これらの問題提起の中には,ほとんど「船を捨てろ」との呼びかけに等しいものがあります。すなわち,自由な市場原理を捨て,協力に代えて対決をもたらし,世界を富める国対貧しい国,工業国対開発途上国,一次産品生産国対消費国といつた相対立するブロックに分割せんとする傾向がみられます。

 このような問題提起は,イデオロギーや政治上の考慮からなされているという面もありましょう。しかし,最大の理由は,世界の富の分配が均等でないこと,特に先進工業国と,発展途上国の間の所得較差の存在があると言えましょう。

 世界の人口の半数の人々が貧困にあえいでいるという事実は,すべての人間にとつて重大な関心事であります。われわれはこの問題に全力を挙げて取組む必要があります。しかしながら,人為的な富の再分配をもつてしては問題の解決にならないことに留意すべきであります。

 貧困との戦いに勝利をおさめるためには,開発途上国が,自助の精神をもつて自国民に教育と訓練を与えられるようになり,また,新たな富を生み出すために必要な資本と組織と生産力を入手し,協力と協調を旨とする世界経済の有力な一員となることが必要であります。

 私は,過去30年間にわたつて,世界経済の枠組が貿易の拡大と世界経済の成長を支えてきたからこそ,開発途上国において将来に対する期待感が高まつたのであると思います。開発途上地域の発展はかかる枠組を打ちこわすことによつてではなくて,この枠組を維持強化し,改善することによつて一層促進することができるのであります。

 すべての国によつて享受される世界全体の繁栄は,経済的な協力の枠組の中においてのみ可能であります。基本的立場を共通にする米国と日本は,この目的を達成するために緊密な協調を保ちつつあります。

 さらに具体的に述べますと,両国の緊密な協力のもとに打開策が検討されている問題としてエネルギー問題がありますが,この問題ほど全世界的な経済的相互依存関係をはつきりと示したものはありません。

 エネルギー問題は,長期的側面と短期的側面の両面をもつております。長期的観点からみれば,世界の石油埋蔵量には限りがあり,もし世界が現在のペースで石油を消費し続ければ,将来石油が枯渇してしまう日が来るということは,われわれすべてが認識しているところであります。日本,米国,その他石油消費国が直面している問題は,代替エネルギー源の研究と開発の分野での緊密な協力を通じて,石油への依存を低減していくことであります。

 短期的な問題として重要なことは,経済的混乱をできるだけ避けながら,また,産油国・消費国間の無用で危険でさえある対決を回避しながら,できるだけ能率的かつ平穏に石油への過度の依存から脱却を図ることであります。

 1973年,石油危機のさ中,私は日本政府の特使として中東を訪問し,故人となられたファイサル国王をはじめ,中東諸国の首脳と長時間にわたる充実した会談を行いました。私はファイサル国王に対して,石油の輸出禁止措置は,日本ばかりでなく,特に石油を原料とする肥料について,日本からの輸入に大きく依存している開発途上国,特にアジアの途上国にも多大の打撃を与えていると説明を行いましたが,国王は問題をすぐ理解され,その後これに対する救済措置が執られました。

 このような個人的体験を述べましたのは,エネルギー問題であれ,貿易問題であれ,また国家間の政治問題であれ,交渉は対決よりもはる力峙こ生産的であるということをこの体験がはつぎりと示しているからであります。増大しつつある相互依存関係の時代にあつて,対話と協調は,国際関係全体にわたり適用することのできる有用な原則であります。こうした相互依存関係を強化していくことこそ,日米両国が相たずさえてあたるべき最大の課題と言いうるでしょう。

 外交政策の遂行にあたり,ときには,わが国が米国とは異なつた行動をとることもありましょう。また両国の利益が合致し,わが国が米国と緊密に協力して行動する面も数多くあります。しかし,いずれにしても,米国とは常に最も緊密な協議を保つつもりであり,われわれ相互の外交努力は,互いに調和のとれた相互補完的なものとなりうると信じております。特に現在のように困難な時代にあつてこそ,貴国とわが国はお互いを必要としていると思います。

 次に,私が申し述べたいことは,日本国民は昨年秋のフォード大統領の訪日を深い喜びの念をもつて迎えたということであります。この訪日は,大統領就任式後初の公式外国訪問でもあり,また,現職の米国大統領として初めての日本訪問でありました。日本国民はこれを名誉であると思うとともに,フォード大統領のかざらない,暖かみにみちた人柄に強く印象付けられました。

 本年秋,天皇・皇后両陛下は,米国を公式に御訪問になる予定であります。日本国民は,これを日米両国民の間の友情の強い絆の証左であると考えております。

 最後に,貴国が建国以来第3の世紀の戸口に立ち,また,日米両国が相携えて20世紀最後の年に入ろうとしている現在,将来の日米両国民にいかなる遺産を引継ぐかという問いに思いを致すのも無用なことではないと思います。

 最も重要な遺産として,民主主義に基づく政治体制と自由市場原則に基づく経済体制の活力を維持していくこと,及び国際協力の促進により世界をより開放的に,より平和にすることの2点があげられると思います。

 次の世代の日米両国民を構成していく人々は,すでにわれわれの中にいるのであります。21世紀初頭の指導者達は,すでに生を受けており,彼らの夢と考え方をいかに育むかは,われわれの手中に託されております。われわれが望むより良き将来に向い,彼らの準備を整えてやるには,何をなすべきでありましょうか。

 40余年前を振りかえれば,私は南カリフォルニアの若き一大学生でありました。この体験は,私の将来を形づくる上で,重要な意味をもつものであつたと思います。異なる文化の中で生活し,働き,かつ勉学すること,つまり4年間を異なる文化にひたつて過ごしたことは,それ以降の私の人生に対する考え方に大きな影響を与えて来ました。

 私は,日本は,異なる文化の間の青少年交流の促進のために重要な役割を果たすべきであると信じております。わが国はすでに青少年交流を進めるため様々な組織や計画を持つておりますが,今後米国や近隣アジア諸国との間の交流計画を一層拡大させたいと考えております。

 われわれはさらに,広範な分野にわたる知識と経験のコミュニケーションを行うためのより強力なネットワークをつくりあげていく必要にせまられております。

 これとの関連で,私は,日米両国間においてより幅広い教育文化交流を進めるための枠組みを新たに設けるために現在米国で進められている努力を高く評価しております。

 また,日米間にとどまらず,世界の研究教育のネットワークをつくるために,きたる9月,東京に国連大学の本部が設置されます。初代の学長はニューヨーク大学のへスター前学長であり,また,日本では朝野をあげてこの事業に協力しています。ここにも,世界平和のための日米の協力があります。

 人類は,いまや,真に平和な一体の人類となるためのながい旅路の出発点にあります。旅はながく,ゆくてには困難もありましょう。しかし,真の国際理解を築き上げることこそが,世界平和を築き上げる唯一の道であることを私は信じております。

 

目次へ

 

 

(9) 第7回国際連合特別総会における木村首席代表一般演説

                               (1975年9月2日 ニューヨークにおいて)

 

議長

 私は,閣下が第7回国連特別総会議長の重職に就かれたことに対して,日本代表団の名において心から祝意を表するとともに,今次特別総会が閣下の卓越し,かつ,公正なる指導の下に,実り多き具体的成果をあげることを期待いたします。わが代表団は,閣下がこの重大な責務を遂行されるにあたり,できる限りの協力を惜しまない所存であります。

議長

 私は,「開発と国際経済協力」に関するいくつかの基本的事項に関して今次特別総会が開催されるに至つたことは,世界経済の現状,なかんずく,南北間の経済関係を創造的に再調整する必要性の増大にかんがみ,誠に時宜を得たものであると考えます。

 世界経済の現状は,通貨情勢の動揺,インフレーションの世界的規模での昂進,エネルギー・原材料・食糧等の価格及び供給面での未曽有の混乱等を受けて停滞の局面にあり,先進国,開発途上国の別を問わず,多くの国の困難は深まつております。かかる時点において,相互依存度の増大を認識し,対話と協調の精神の下に,安定の回復と将来における繁栄のための新たな軌道を模索することが急務となつております。しかも,同時に,その取組み方を一歩誤れば,世界的規模における経済活動の縮小均衡や開発の停滞,更には深刻な社会的混乱の発生をすら招くおそれがあり,いわばわれわれは危険な分水嶺に立つているということができます。かかる重大な時点においてまず何よりも要請されることは,世界経済の実態を踏まえた冷静なる判断及び世界経済の安定回復と進歩を目ざした着実な実行意志であるといえましょう。この場合,現下の深刻な困難にいかに対処すべきかを考えつつも,長期的な視野から世界経済社会全体の窮極的利益とは一体何であるべきかを,膝を交えて検討する姿勢をもつことが必要であると考えます。

議長

 世界の諸国民は,今次特別総会の成否に多大の注目と期待とを寄せております。われわれは,今次総会が現下の経済的・社会的困難に対処するために建設的な態度を示しうるよう,あらゆる努力を行う必要があります。しかしながら,同時に,今次総会は今後われわれが努力を継続するための1つのステップであつて,あまりに過大な期待をかけてはならないとも考えられます。この意味においては,歩みは遅くとも,希望と繁栄への軌道を着実に前進していくとの意思をわれわれは今次総会において表明すべきではないでしょうか。

 昨年5月の第6回特別総会においては残念ながらいくつかの重要事項についての合意が成立しなかつたのは事実であります。しかしながら,その開催の意義は,それなりに評価されるべきであると私は考えており,そのことは,同総会最終日に,貴議長が,会議提唱国アルジェリアの代表として,いみじくも「対話の糸は保たれた」と発言されたことにも示されております。今次特別総会は,かかる対話と協調の精神の下に,当面する現下の枢要なる基本的諸事項に関し,着実な前進をはかつていくためのいくつかの基本原則と,とりうべき種々の選択的方法につき,より具体的かつ建設的な形で,「実行可能な真の合意」に達するよう努力すべきであります。

議長

 今次総会の開催にいたるまでには,すでにベンナーニ議長の指導の下に3回にわたつて準備会議が行われ,また,その間を縫つて非公式協議も累次精力的に行われてまいりました。私は,その過程を通じて開発途上諸国が示されたイニシアチブと努力に対し,多大の敬意を表したいと思います。

議長

 私は,今次総会が「実行可能な真の合意」に達するための一助として,議題の各項目について,わが国の考え方を以下に表明したいと思います。

 まず第1は,貿易についてであります。わが国は,世界貿易の安定的な拡大を強く支持します。私は,過去30年にわたる世界の自由な貿易の枠組は,貿易の拡大と世界経済の成長を支えてきたのみならず,開発途上国の開発にも役立つてきた点を注目したいと思います。同時に,われわれの課題は,自由貿易の長所を活かしながら,これを改善・強化することによつて,開発途上諸国が行う一層の開発努力をも結実させるとの点にあると信じます。

 開発途上国と先進国との間の貿易に関しては,かかる改善・強化の一環として,経済発展段階の格差を考慮した種々の措置が国際的に検討される必要があると考えます。

 原材料及び一次産品貿易に関しては,南北間の格差を踏まえつつ,対話を継続・発展させていくための努力が,生産輸出国と輸入消費国との間で一層強化されるべきものと考えます。この意味においては,一次産品・エネルギー・開発に関する国際協議開始のための準備が着実に進められつつあることをわが国としては歓迎するものであります。かかる対話の継続・発展のためには,関係国の一層の努力が要請されるとともに,わが国としても,わが国自身の協力的態度をこの場で明確にしておきたいと思います。

 また,一次産品貿易については,消費国の生産輸出国に対する供給アクセス及び輸出国の消費国に対する市場アクセスの双方が,多角的に保証されなければなりません。更に,一次産品価格を公正かつ採算にみあう一定の合理的な範囲において安定させることも同時に重要であります。わが国としては,このための産品の特性に応じた種々の方策に関する国際的検討に積極的に参加していくこととしております。

 また,わが国としては,開発途上国の輸出所得安定化については,特定産品に関するグローバルな輸出所得補償スキームを改善することを目的とした検討に参加することといたしたいと考えております。

 一次産品貿易との関連においては,より長期的な観点から見れば,生産基盤の強化,加工度向上,輸出産業の多様化等のための融資が,世界銀行,各地域開発銀行等を通じて強化される必要もありましょう。

 一次産品に関する右のような諸方策を具体的に検討していくにあたり,わが国としては,第4回UNCTADをめどとして国際的合意が得られるよう,より幅広く,かつ,積極的なアプローチを通じて,できる限りの努力を尽していく用意があります。

議長

 わが国は,ガットの「東京宣言」の精神に則り,その多角的貿易交渉の場において,一層の関税の引下げと貿易の自由化のための努力を行つており,その際には開発途上国の諸要請に対してもできるだけの配慮を加えていくこととしています。この関連において,わが国の一般特恵スキームの改善について今後とも努力したいと考えております。

議長

 次に,私は,開発援助及び国際通貨改革について,わが国の考え方を呈示したいと思います。

 開発援助の自動移転メカニズムの考え方が開発途上国から呈示されるにいたつた背景については,理解するものであります。すなわち,援助総額をGNPの1%とし,そのうち,ODAを0.7%とする等の援助目標の達成は従来からの援助方式によつていては困難ではないかとの疑問であります。しかしながら,これらの目標達成の方策として援助の自動移転のメカニズムを導入することについての開発途上国の現在の考え方には,種々の問題があり,慎重に検討する必要があると考えます。いずれにせよ,わが国としては,援助方式の改善の検討を積極的に行う所存であります。また,開発途上国の経済運営が特に困難な時期には,各援助国及び援助国際機関は,格別の配慮をしていくことが必要であると考えます。

 わが国としては,「第2次国際連合開発の10年のための国際開発戦略」に盛られた諸目標の達成を目指して開発援助の拡充をはかるべく,あらゆる努力を傾注していく所存であります。また,援助の質の向上についても,DAC72年勧告を勘案して鋭意努力したいと考えており,無償援助や一層緩和された条件での借款の供与を拡大するよう,できる限りの努力を行う方針であります。

 更に,開発途上国の累積債務問題が極めて深刻であることを,わが国は十分認識しております。わが国としては,かかる諸国に対しては,必要に応じ,他の援助国と協力しつつ,ケース・バイ・ケースに,リスケジューリング,リファイナンシング等を引き続き行つていきたいと考えております。

 最後に,援助に関しては,第1には開発途上国の多様化しつつある援助要請に適合した援助政策をきめ細かく実行していくことが必要でありますが,援助の効果を高めていくことも重要であり,更に,被援助国の自助努力と援助供与国ないし援助機関の努力とが十分有機的に統合されなければならないということを強調しておきたいと思います。

 次に,国際通貨制度の改革については,わが国としては,安定性と柔軟性とが巧みに調和された新たな国際通貨制度が国際経済社会の円滑な発展のために不可欠であるとの認識の下に,この分野における国際的努力に積極的に参加しております。わが国は,この分野において,開発途上国の利益にも然るべき形での配慮が払われなければならないと考えており,改革後の通貨制度の運用にあたつても,開発途上国のかかる制度に対する有効かつ責任ある参画をはかる必要があると考えております。

議長

 わが国は,科学・技術の経済開発に占める戦略的役割は極めて重要であると考えており,しかるが故にUNCTADにおける技術移転コードの検討にも積極的に参画して参りました。わが国としては,わが国を含む先進国が,コード案に関し,最近,積極的に対案を呈示する等の進展がみられたことに満足の意を表明するとともに,作業の一層の進捗を期待するものであります。技術移転分野における民間企業の果たす役割は非常に大きく,かかる民間部門の協力も得つつ,実効性あるコードを確立するためには,基本的には,法的拘束力のある規範とするよりも,政府・民間を混じえた当事者間での実行意思を確認するというガイド・ラインの形式の方がより妥当であると考えます。

 一方,科学・技術の分野では,開発途上国の必要に見合つた技術開発なり,応用技術の移転,開発途上国におけるかかる技術の定着等のための努力も今後益々必要であります。わが国としては,通信,運輸,建設,農業等の公共部門における技術開発ないしその開発途上国への応用については,政府ベースでの協力もできるだけ積極的に行つていくこととしたいと考えております。

 わが国としては,また,開発途上国が技術を導入する場合に,情報不足の故に困難に当面しているという事実もあると考えております。かかる困難に対処するためには,まず,さしあたり,特許に関する情報をプールした既存のフォーラムの活用等により,技術情報への開発途上国のアクセスを改善することが重要であると考えます。わが国は,また,新たな技術情報システム設立に関する世界知的所有権機関における検討に積極的に参加していくこととしております。

議長

 わが国は,開発途上国が工業化を重視し,この分野で行つている努力を支持するものであります。わが国は「工業化のためのリマ宣言と行動計画」全体には棄権しましたが,わが国が合意した多くの事項については,誠実にこれを実行していくこととしています。

 工業化にあたつては,内外市場の需要動向に則した生産政策が必要であります。また,国内市場の有効需要を創出することも必要であり,そのためには農地制度,賃金制度,税制等の改革が同時に進められることがいかに戦略的に重要であるかを,わが国の経験に照らして強調しておきたいと思います。一般的には,広範な国内大衆市場の存在なくしては,必需消費財を作り出す軽工業も成長せず,また,軽工業の発展なくしては,生産財を生み出す重化学工業の成長も困難であると考えるからであります。

 かかる類の各国の工業化の体験あるいは当面する困難を持ち寄り,各国のそれぞれの実情に適合した工業化のための戦略を検討し,かつ,その実施面での資金,技術協力を促進するための協議をすることは,わが国としても,有益であると考えております。

議長

 次に,「開発と国際経済協力」について考える際,最も重要な問題の1つである食糧問題について触れたいと思います。私は,この重要な食糧問題の解決のためには,開発途上国における食糧の増産こそが,一見遠まわりには見えても,実は問題解決への近道であることを強調しておきたいと思います。そのためには,農業生産基盤の強化及び経済社会的基盤の整備の2つの分野において努力が傾注されるべきものと考えます。第1の面では灌漑排水施設の整備,作物の多角化による土地の効率的利用をはかる必要があり,第2の面では投入財と生産物の双方について流通組織・信用組織を整備し,また,土地制度,農村制度の合理化をはかるなど農村社会全体の改善をはかるよう総合的施策を講ずる必要がありましょう。

 このような措置をすすめるにあたり,各国がそれぞれ行う自助努力に対応して,可能な限りの国際協力が行われることが望まれます。わが国としては,小農をとりこんだ綜合的な形での農業及び農村開発の方式をとりあげる必要があるとの認識の下に,例えば,世界食糧農業機関が目下推進しつつある「アジア綜合農村開発センター」の構想に協力している次第であります。私は,この構想が,農業開発の前にたちはだかる課題,すなわち,農業生産基盤の強化とそれをとりまく経済社会的基盤の整備とを解決するための一助たりうることを希望している次第であります。

議長

 わが国は,従来より,国連の経済・社会分野における有効な活動は,平和と安全の維持の機能とともに,いわば,国連の使命の「車の両輪」であるとの認識を有しております。私は,特に,経済社会分野における国連活動に対する要請が高まつている今日,新たな視点から,その機能の統廃合,手続きの改善を通じて再調整を行つていくべきであるとの考え方を有しております。本件に関する「専門家ハイレベル・グループ」の報告書に見られる諸提案等をも参照して,慎重かつ着実な政府間の検討を進めていくことが重要であると考えます。わが国としても,このような検討には積極的に参加し,かつ,貢献していく所存であります。

 かかる機構改革は決して容易なものでないことは,十分認識しております。しかしながら,国連の諸機関が肥大化し,機動性,総合調整機能等の面において重大な問題に直面している現在,われわれとしては,機関相互の重複を避けつつ,真に緊急であり,かつ,無理なく着手できる分野から,ステップ・バイ・ステップに改革を進めていく必要があると考えます。

議長

 私は,先に述べた6つの基本的な分野に関するわが国の考え方をできる限り具体的に表明する努力をいたしました。その理由は,冒頭に述べたとおり,今次特別総会において,「実行可能な真の合意」が達せられることが,いわゆる南北問題を含む今後の世界経済関係を創造的に再調整していくためにいかに緊要であるかを私自身が切実に感ずるからであります。

議長

 私は,演説を締めくくるにあたり,アプローチの差こそあれ,先進国・開発途上国ともめざしている目的は同一であり,それは世界経済の安定と繁栄及び開発の促進であるという点を指摘しておきたいと思います。

 開発途上国の多くの人々が貧困にあえいでいる今日,われわれは各国間の所得格差を着実に,かつ,早急に解消していかなければならないのであり,各国が協力して共通の目的の下に,かかる貧困からの挑戦にうちかつていくことが必要であると考えます。

 世界の諸国民は,最近の経済・社会上の諸困難に対処するにあたつて,各国間の経済の相互依存関係がいかに高まつているかを如実に知ることができました。このような相互依存関係が増大した今日においては,機械的かつ人為的な富の再配分という方策では,問題の最終的かつ根本的な解決は不可能であります。問題の真の解決のためには世界経済全体の成長と繁栄をはかることがまず必要であり,この過程で開発の促進について先進国及び開発途上国が「実行可能な真の合意」に基づいて協力することが必要であります。私は,この特別総会が世界の進歩と繁栄及び開発の促進のために実り多い成果をあげることな希望するものであり,また,かかる人類共通の目的達成のために苦労を共にすることを世界各国に訴える次第であります。ありがとうございました。

 

目次へ

 

 

(10) 第30回国連総会一般討論における宮澤外務大臣演説

                                 (1975年9月23日 ニューヨークにおいて)

 

議長

 私は,日本政府代表団の名において,貴下が国際連合第30回総会議長に当選されましたことに対し,お祝いを申し上げます。

 国際政治に関する貴下の卓越せる識見と豊富な体験が,この記念すべき総会を第7回特別総会同様実り多きものとすることであろうことを確信しております。

 この機会に私は,前議長プーテフリカ閣下に対し,衷心より感謝の意を表します。閣下の優れた手腕により多事であつた第29回総会及び第7回特別総会も成功裡に幕を閉じることができました。同時に私は,クルト・ワルトハイム事務総長に対し,深い敬意を表したいと思います。国際連合に対する情熱とその基盤強化のために東弄西走される閣下の疲れを知らぬ努力に衷心より敬意を表するものであり,これは全加盟国の賞讃に値するものであります。私は,同事務総長の世界平和のための尽力,国際連合の実行性を一層高めんとする精力的努力は全加盟国の評価と支持が得られるものと信じます。

 ここで私は,今次総会で初めて国際連合に加盟されたカーボ・ヴェルデ共和国,サントメ・プリンシペ民主共和国及びモザンビーク人民共和国に対し,心から歓迎の意を表したいと思います。新たに加盟されたこれらの諸国が,今後,他の加盟国と協力しつつ崇高な憲章の目的達成に貢献されることを期待しております。

議長

 この30年間に国際関係の基盤は大きく変化致しました。創立後間もなく顕在化した厳しい冷戦構造に代つて,今や核の均衡の下において大国間の緊張緩和と話し合いが進みましたし,また,新興独立国の台頭と相俟つて,世界の経済政治関係はますます複雑,かつ,相互依存的になりつつあります。

 この30年の間,加盟国が3倍に増加するに伴い国際連合の人類に対する責任は重味を増し,創立時に優るとも劣らない重要,不可欠なものとなりました。

 戦後の幾多の困難を乗り越えて,今日,国際連合は国際の平和と安全の維持を任務とする普遍的な国際機構として,その地位を不動にしております。国際連合は,また,非植民地化の促進,開発途上国の経済社会開発等において,重要な貢献を行つてきており,更に,経済,社会,人権問題の審議に重要な場を提供してきました。

 国際連合は,また,国際貿易,経済開発,環境,資源,食糧等,増大する相互依存関係を反映した諸問題を世界的観点から取り扱うことを可能にしています。

 この30年にわたる世界の変貌にもかかわらす,憲章第1条及び第2条に掲げられた国際連合の目的と原則は毫もその重要性を失つていず,むしろ,一層その意義と重要性を増しているとさえ言えるのであります。この国際連合創立30周年の機会に我々加盟国各自は改めて憲章の目的と原則の原点に立ち戻り,行動すべきでありましょう。

議長

 過去1年における極めて大きな発展の1つは,インドシナにおいて永年の戦火がようやく収まつたことでありましょう。インドシナ地域の諸国が戦後の復興と経済社会開発に一歩を踏み出したことを歓迎し,この地域の安定と発展がアジアの平和の基礎を固めるものであると信ずるものであります。

 私は,新しいアジア情勢の中で,朝鮮半島における平和と安定の維持が極めて大きな重要性を持つていると考えます。この地域は国際連合がその平和と安定の維持に長きにわたり直接関与してきた所であります。朝鮮の平和的統一の達成が決して容易でない大事業であることは,この歴史が示す通りであります。その故にこそ我々は,朝鮮問題に対処するに当つて,急激な変化をもたらすことにより同地域を不安定な状態に陥ることは回避さるべきであり,逆に平和的統一の目標に向つて,現実的な段階的アプローチを行うべきであると考えるのであります。今次総会における朝鮮問題審議に関して,我々が共同提案した決議案は,朝鮮半島の平和維持の枠組みを維持しつつ国連軍司令部を解体するため直接関係当事国間の話し合いを呼びかけ,「対決」によらない「話し合い」を通じての合意による解決を目指すものであります。私は,この問題の解決に当つて本総会が朝鮮半島における恒久平和達成のため現実的アプローチな追求するよう呼びかけたいと思います。

議長

 今般エジプトとイスラエルとの間でシナイ半島における新たな兵力引離し協定について合意を見るに至つたことは誠に喜ばしいことであります。

 交渉が多くの困難な局面を経て,遂に合意に至つたことは中東における公正かつ恒久的平和への一層の前進に大きな希望を抱かせるものですが,これは同地域に平和を実現しようとする関係当事国の決意及び仲介に当つたキッシンジャー米国務長官のねばり強い努力のたまものに他なりません。

 わが国としてはこれら各国の態度及び努力を高く評価するものであります。しかし,いまだに未解決の多くの問題が残されています。わが国としては関係諸国がこれら諸問題の平和的解決のため,具体的にいえば,安保理決議338に従い安保理決議242が早期かつ完全に履行されるよう引き続き努力することを強く求めるものであります。この点に関するわが国の基本的考えは,中東問題は話合いにより解決されるべきであり,また,次の諸原則が遵守されるべきであるというものです。即ち,第1に武力による領土取得は認められず,従つてイスラエル軍は1967年の紛争において占領した全ての領土から撤退しなければなりません。第2にイスラエルを含む全関係諸国の生存権が尊重されるべきであり,更に,公正かつ永続的な中東平和達成のためには,パレスチナ人の正当な権利が国連憲章に基づき承認され,尊重されなければなりません。

 わが国は,中東紛争がこれら諸原則に従い一日も早く解決され,同地域の人々に公正,かつ恒久的平和が樹立されるよう祈念するものであります。それまでの間,われわれが国連難民救済事業機関(UNRWA)を通ずる人道的援助に協力を続けていくことは,言うまでもありません。

議長

 この1年間における南部アフリカ情勢の展開は画期的であります。国際的支援を得た非自治地域住民の民族独立運動は,ポルトガル政府の非植民地化政策と相俟つて,幾つもの輝かしい独立をもたらして参りました。この過程で,国際連合が極めて重要な役割を果たしてきました。しかしながら,南ローデシア,ナミビア及び南アフリカのアパルトヘイト問題については解決への明るい兆しは見られず,また,アンゴラ情勢も依然として不安定です。

 私は,南部アフリカにおいて残されたこれら政治的課題の解決を実現すべく,国連加盟国は国際連合の内外で,一層の努力を払うべきであると信じます。わが国は従来より一貫して植民地主義,人種差別主義反対の立場をとつており,関係諸国,特に,周辺のアフリカ諸国がそのために行つている絶え間のない努力を支持するものであります。わが国は,また,南ア共和国政府及び南ローデシアの白人少数政権は国際世論がいかに厳しいものであるかを冷静に認識し,南部アフリカ住民自身の真の幸福のため多大な努力を行うようわが国としても強く要望するものであります。

議長

 国際連合は,過去30年にわたり,軍縮討議のための普遍的常設フォーラムとして大きな役割を果たしてきました。しかしながら,この間国際連合の努力とは裏腹に,核保有国の数は増えており,また核実験やその他の軍備競争が続けられてきました。国際連合の活動に関する本年の年次報告序文の中で事務総長は,核拡散の危険が増大しつつあることを指摘し,真に有効な軍縮についての合意を得るため交渉する努力を強化するよう訴えていますが,私も,この指摘に共感するものであります。

 さる5月に開かれた核兵器不拡散条約再検討会議において,核兵器不拡散条約体制の強化維持を謳つた最終宣言が全会一致で採択されたことは,核兵器不拡散条約体制の強化にとり一つの成果として評価されるべきでありましょう。しかしながら,この会議において,わが国をはじめ多くの非核兵器国が,核軍縮の分野において核兵器国が今後特段の努力を払つていく必要があることを強調いたしました。

 ここで私は,目下米ソ両国間で交渉中の戦略兵器制限交渉新協定を含む核軍備管理及び核軍縮措置及び包括的核兵器実験の禁止等の実現につき,核兵器国が今後一層努力を行うよう再び強く訴えたいと思います。また,部分的核実験停止条約,核兵器不拡散条約等の軍縮措置に参加せず核実験を続行している核兵器国もかかる軍縮措置に参加し,誠実に軍縮を進めていくことを重ねて強く訴えるものであります。

 平和目的核爆発の名のもとに核のより一層の拡散を招来することも防止しなければなりません。私は,今後国際社会が平和目的核爆発をいかに規制していくべきかについて軍縮委員会をはじめあらゆる国際フォーラムにおいてそれぞれの専門的知識を結集しつつ鋭意検討を進めるよう今次総会が指針を与えることを強く要請するものであります。核爆発の平和的応用のための有効かつ合理的な国際レジームが設定されるまでの間全ての国は平和目的核爆発を自制すべきであります。

 日本国政府は,核不拡散条約批准のための承認案件を国会に提出いたしております。私は,わが国ができるだけ早い機会にこの条約を批准し,核拡散防止のための国際的努力に名実ともに参加することができるよう,引続き努力していく所存であります。

議長

 開発の問題を含む国際経済問題は,今日において世界の平和と安全の維持と並んで,国際社会が直面している重要問題であります。

 この問題については,本総会の直前に開催された開発と国際経済協力に関する第7回特別総会において,日本代表はわが国の基本的立場を明らかに致しましたが,私は,同特別総会において,この分野における今後の在り方につき広範な方向づけが行われたことを心より歓迎するものであります。

 近年わが国を含む世界各国が,景気後退,インフレーション,国際収支難に直面し,なかんずく,多くの開発途上国の経済的諸困難が危機的なものになつております。

 わが国は,開発途上国の不満を十分理解し,一層の経済的安定と発展をめざすその熱望を支持するものであります。

 この関連において,開発途上国国民の生活条件の改善及び経済社会開発は,すべての国による一致協調した行動を通じてのみ達成可能であることを指摘する必要があると思います。世界経済が縮小均衡にいたるような状況を回避すべく,各国が最善の努力を払うことがまず必要でありますが,同時に先進国・開発途上国を問わずすべての国が,よりバランスのとれた,かつ,衡平な世界経済関係の創造に向かつて着実な前進を図るべきであります。我々は世界経済の現実を客観的に踏え,今月初めに開始した建設的な対話を維持していかねばなりません。わが国としても,第7回特別総会を支配した対話と協調の精神に意を強くしつつ,第4回国連貿易開発会議を含め今後行われるこの問題に関する国際会議において具体的な成果があがるよう今後とも努力していく所存であります。

議長

 開発の問題はもとより経済の分野に限定されるべきものではありません。社会開発の広範な分野,いな人類の幸福に貢献するあらゆる活動の分野を包括するものでなくてはならず,私共もこれらのすべての分野について創造的理解を深めるべきであります。この関連において最近東京に開設された国連大学が本格的にその活動を開始しようとしており,まもなく全人類のための研究活動を行うため全世界からの学者によるネットワークを組織しようとしていることは喜ぶべきことであります。私は,国連大学に対し,全加盟国の積極的な支持が得られることを心から期待するものであります。

議長

 以上私は国際連合が当面する現下の幾つかの個別的問題に関するわが国の考え方を述べて参りましたが,最後に,創立30周年を迎えたこの機に私は国際連合の在り方につき,機能強化の観点から,わが国の考え方を述べたいと思います。

 第1は,加盟国の普遍性の問題であります。

 30年前,51の原加盟国をもつて発足した国際連合が,現在,141カ国を擁するに至り,世界の殆んどの国家,殆んどの人種・宗教・イデオロギーを網羅する程に成長したことは,国際連合が憲章により託された広範な責任を効果的に遂行することに貢献し,また国際連合の実効性を一層高めてまいりました。私は,国際連合が今後とも真に代表的な国際協調の場として在り続けるためには,かかる加盟国の普遍性を確保することが望ましいと確信しております。かかる見地から,加盟国の地位が憲章の義務を履行する意思と能力を有するすべての平和愛好国に開放され続けることが必要であると考えます。

 第2は,国際連合の意思形成と履行の問題であります。

 加盟国が140を越え,その扱う分野も多岐にわたる今日個々の問題解決にいかに加盟国の協調を確保し,現実に決議をいかに履行していくかは単なる知的関心事ではなく,国際連合の存在意義にも触れる重大な問題となつてきております。

 国際連合としての意思形成の過程においては,直接関係国が対話と協調の精神に基づいて問題の実効的,かつ,相互に受諾可能な解決を目指して真摯な努力を行うことにこそ国際協調の真髄があるものと理解すべきでありましょう。この意味で,閉会したばかりの第7回特別総会は勇気づけられるものでありました。加盟国のねばり強い協力的態度により,同特別総会では,多くの重要かつ困難な問題についての合意文書がコンセンサスで採択されました。このような事実は,国連の将来の在り方並びに国連のみが果たし得る建設的な役割につき希望を持たせるものであります。

 第3は,年々累積していく財政赤字をどうすべきかという問題であります。わが国は,かかる財政赤字により国際連合の有効かつ円滑な活動が阻害されることを憂慮し,昨年率先して自主拠出を行いました。これは問題の根本的解決への第一歩となることを期待してのことでありましたが,後に続く国が少なく今もつて問題解決への見通しが立つていないのが現状です。私はこの機会に加盟各国,特に国際連合の財政を支える主要諸国が建設的な協力を行うよう,重ねて要請したいと思います。一方,通常予算についていえば,活動分野の拡大に伴つて年々予算規模が大型化する傾向にありますが,財政の効率的運用に一層の努力が払われる必要があると思います。

 最後に現行憲章の枠内での改善及び憲章のレビューを通じての国際連合の機能強化の重要性に言及しておきたいと思います。わが国としては,創立30年にして国際連合憲章に関するアド・ホック委員会により具体的作業の第一歩を踏み出した憲章再検討を含む国連の在り方の検討が建設的な成果を生み出すことを切に希望するものであります。

議長

 わが国は国際連合の活発な加盟国として,軍事大国への途を自ら排し,諸国民の公正と信義に信頼して自らの平和と安定を確保する途を選んで参りました。この平和主義,国際協調主義は,わが国の国際連合への協力政策の源泉でありますが,かかる政策は,過去,現在そして将来にわたる一貫したわが国外交政策の主要な柱の1つであります。けだし,我々は国際連合を国際協力の推進並びに世界平和の達成のための核心をなす国際機構であると考えるからであります。この記念すべき国際連合創立30周年に当り,私は,わが国政府及びその国民の名において,わが国が国際連合の原則を守り,引き続き平和及び国際協調に徹する覚悟であることを確認し,他のすべての加盟国と手を携えてこの不可欠の機構を強化し,我等の世代の願いを達成する一層効果的なものとし,将来の世代により良き世界,一段と平和な世界をもたらしたいとの夢と希望を実現するための努力を倍化する決意を述べて,私の演説を終えたいと思います。

 御静聴ありがとうございました。

 

目次へ

 

 

(11) ナショナル・プレスクラブにおける宮澤外務大臣演説

   JAPAN AND THE UNITED STATES;

   PARTNERS FOR WORLD PEACE AND PROGRESS

           The NationaI Press Club, Washington, D.C.

           (September 26, 1975)

Mr.Chairman, Ladies and Gentlemen,

 It is nearly two months since Prime Minister Miki, speaking from this same platform, urged that Japan and the United States join forces in creative cooperation for the promotion of world peace and stabi11ty. As our two nations share fundamental ideals and values, I am convinced that we complement each other's strength in working together for the common cause of all mankind.

 In my remarks today, I should like to focus on severa1 of the key issues where Japan and the United States share convergent and immediate interests and state Japan's views and positions on these issues.

 Our shared concerns may be grouped under two broad headings; first, how we can bring greater stabi1Ity to International relations; and second, how we can best contribute to a more viable and more equitable world economy.

 Our scarch for a stabi1Ization of international relations centers, inevitably, at this moment in history, on those two areas of the world where seeds of tensions and instabi1Ity persist-Asia and the Middle East.

 The current situation in East Asia is fluid and complex.

 In order to ensure peace and security for Japan and to stabilize the East Asian situation as a whole, it is essential that Japan achieves the fo11owing three objectives; first, to contribute to the maintenance of peace and stability in the Korean Peninsula; second, to secure stable relations with our two socia1ist neighbors, China and the Soviet Union; and third, to strengthen friend1y cooperative relations with the countries in Southeast Asia.

 In tackling these objectives, it is important that we cooperate closely with our friends not only in Asia, but also in the Pacific,especially the United States. Both Japan and the United States have a common concern for the stabi1ity and progress of the Asian-Pacific region, and in this both of us should continue to play a major role.

 The Japanese Government will continue to do its part to broaden contact and strengthen consultations between our two nations at all levels, including the semiannual consultations between Secretary Kissinger and myself. In addition, we look toward intensified communications and consultations among the advanced democracies of the Pacific-Japan, the United States, Canada, Australia and New Zealand.

 Permit me to comment briefly on each of the three objectives Japan seeks in order to ensure its security and the stabi1ity in East Asia.

 The maintenance of peace and stabi1ity on the Korean Peninsula is, for obvious reasons, a matter of great concern to the Japanese people. I am sure you wi11 agree it is also a matter of far-reaching consequence to world politics.

 To maintain peace and stabi1ity in the area, it is necessary, I believe, that the existing balance between the South and the North be maintained and that the United States military forces continue their presence in Korea to prevent any radical change in the situation.

 For its part, the Japanese Government is determined to promote friendly and cooperative relations with the Republic of Korea. At the Eighth Ministerial Conference held ten days ago in Seoul, Japanese and Korean cabinet Officials, in their exchange of views on the Asian situation, reaffirmed the importance of the friendly relationship between the two countries.

 At the same time, I earnestly hope that the South and North will resume their bi1ateral talks, endeavoring to work out the terms for Peaceful coexist-ence and paving the way for eventual peaceful reunification of Korea. I also ca11 upon a11 the countries concerned to take whatever steps they can to foster an international environment conducive to the easing of tension there. In this connection, the Japanese Government welcomes the constructive initiative taken by Secretary Kissinger at the United Nations General Assembly a few days ago.

 China is an important neighbor for Japan with close associations dating back to ancient times. Japan's relations with the People's Repub1ic of china are advancing steadily in 1ine with the Joint Communique Whichh marked the normalization of relations between the two countries in September 1972. Last August 15, the two countries signed a fisheries agreement in Tokyo. This concludes all four agreements envisaged in the Joint Communique on trade, shipping, air transport and fisheries.

 To provide durable foundations for our relationship, Japan and china are currently engaged in negotiations for a treaty of peace and friendship. My Government is resolved to sustain its efforts to conclude the treaty.

 The Soviet Union is another important neighbor. It has consistently been our po1icy to develop stable and good-neighborly relations with that country. Considerable progress has been made in various fields in recent years. However, one major question remains to be resolved. This is the question of the return of the four Northern Islands sti11 under Soviet occupation. We are steadfast in our endeavors to settle this question and conclude a peace treaty with the Soviet Union.

 The situation in Southeast Asia has entered a new phase since the ending of hosti1ities in Indochina. Outside Indochina, countries in Southeast Asia are now moving toward greater regional so1idarity-as evidenced by the activities of the five-nation ASEAN group-while at the same time striving to strengthen national resi1ience. Japan welcomes these constructive developments, and is prepared to extend its effective cooperation.

 Securing the stabi1ity of Southeast Asia as a whole requires, I believe, that countries with different po1itical and social systems develop constructive patterns of relations with each other. In this context, Japan, for its part, will seek to develop sound relations with the nations of Indochina, through broadened contacts with Hanoi and the other regimes.

 A just and lasting peace in the Middle East is also essential to international stabi1ity, and is of vital concern to us. Hence Japan heartily welcomes the recent accord between Egypt and Israel, and appreciates the vigorous diplomatic efforts of the United States in helping to achieve this accord. We are also appreciative of the useful role the United Nations is performing in keeping the peace in this area. We sincerely hope the present momentum wi11 be accelerated, so the nations concerned may move as quickly as possible toward a durable peace in the Middle East, consistent with the purposes and principles of the United Nations Charter.

 As in our pursuit of more stable world political relations, so also in our efforts to construct a more viable and more equitable world economy, Japan and the United States share common cause.

 Currently the world economy is suffering from grave stresses. Confronted as they are by many difficulties, a11 nations must join forces in an effort to set the world economy on a path of sound and harmonious development.

 As we strive to overcome the present world-wide recession, it would be wise for us to pay careful heed to the lessons of past history. We must not forget the lessons of the 1930s, when protectionism and autarky defeated our common goals. Only through a global free-market system can we hope to secure vita1ity and growth of the world economy. The past three decades of sustained world economic growth, in which every country had a share, amply testify to the effectiveness of this system.

 Today, the common goal of all countries is to restore growth without inflation. In this endeavor, Japan will work closely with other nations that play a major role in the world economy.

 In this age of interdependence, the North-South problem is one of crucial importance. The nations that have been hardest hit by current world economic conditions are those developing countries which produce no oil, and whose development programs are squeezed between fa11ing export revenues and rising import prices.

 Japan, as a country with particularly close economic ties to these countries, cannot be b1ind to their plight. We understand their difficulties. We are determined, together with like-minded countries, and despite our own current difficulties, to continue to extend our economic and technical cooperation to these developing countries.

 Ultimately, however, genuine progress in North-South relations depends upon the shared determination of both developed and developing to work together for a common world prosperity. For this we need both warm hearts and coo1 minds. We need to be realistic about what will actually work. But we also need to be imaginative about what we can make happen, for the common good.

 The recent Special Session of the United Nations General Assembly, and the forthcoming dialogue now in preparation between industrialized and developing countries, suggest we are now on the right path. The proposals set forth by the United States Government at the United Nations Special Session ear1ier this month were both comprehensive in scope and pragmatic in approach. It is in just this spirit, rather than through confrontation, that the nations of the world will find their way to a truly shared prosperity.

 Japan intends to continue taking a constructive part in the efforts to establish more harmonious, workable relations among all nations, developed and developing, producers as we11 as consumers of oil and other raw materials. We have become one interdependent planet. The common challenge to this generation of the world's peoples is to join our talents, in a spirit of goodwi11 and cooperation, in the search for practical and effective solutions to the problems confronting the world today.

 In striving to secure greater stability and prosperity for the world, we Japanese see no greater treasure than a trusted friend. It was in this spirit that the Japanese people warmly welcomed President Ford last November, when he visited Japan, the first American President to set foot on Japanese soi1 whi1e in office. In a few days time, another page will be added to the history of Japanese-American friendship, when Their Majesties the Emperor and Empress of Japan wi11 arrive for a two-week visit to the United States.

 This visit is beyond po1itics, and is a genuine expression of the depth of goodwi11 of the Japanese people toward the people of the United States. The people of Japan are deeply gratified that this long-awaited visit is about to take Place. They are confident that Their Majesties will be received here in the spirit which animates every aspect of the warm and close friendship between our two peoples.

 The trust we have in each other is real. Let us therefore dedicate our Staunch partnership to this common cause, the creation of a peaceful and prosperous world community, in which all mankind may share.

 

目次へ

 

 

(12) 第30回国連総会第一委員会における朝鮮問題に関する斉藤大使発言

                                  (1975年10月21日 ニューヨークにおいて)

 

委員長

 朝鮮問題という重要問題について日本政府の立場を述べ,また,日本も加わつている28カ国共同決議案の提案趣旨説明を行う機会を得られましたことは,私の光栄とするところであります。

(対話と協調)

 朝鮮半島に休戦協定が成立してから今日まで,20年以上の歳月が経過いたしました。その間,朝鮮の平和的統一という最終目標に向つて,南北両朝鮮が傾注した努力は並々ならぬものでありましたし,同時に,国際連合が同地域の平和と安定の維持に果たしてきた役割もまた重要なものでありました。朝鮮の平和的統一の達成が,決して容易でない大事業であることは,過去の歴史が示すとおりであります。しかし1953年に休戦がもたらされて以来,長らく対話の存在しなかつた朝鮮半島の事態も,近年に至り71年に南北赤十字会談が開始され,また72年に南北共同声明が発出されたことは,南北間の対話と協調による朝鮮の平和的統一という最終目標に向う一里塚として,貴重な意義をもつものでありました。これを受けて,73年の第28国連総会がコンセンサス・ステートメントを採択したことは,我々の記憶に新たなところであります。

 しかしながら,爾後,不幸にしてこの対話は中断され,昨年の第29総会においてもコンセンサス実現のための努力が実を結ばなかつたことは誠に遺憾なことであります。朝鮮問題の最終的解決のためには,南北間の対話と協調が不可欠であり,1日も早くこの対話が再開されるよう祈念する次第であります。

 同時に,今次国連総会での朝鮮問題審議に当り,日本政府及び日本代表団としては,国連の各加盟国が第28総会のコンセンサスの精神に戻り,無益な対決を避け,和解的,建設的態度をもつて問題の審議に取組むよう強くアピールしたいと思います。

(朝鮮民族自身の問題)

委員長

 朝鮮問題は,何よりも先ず,朝鮮半島の南北に分れて住む朝鮮民族自身の問題であります。長く輝やかしい歴史と,高度の文化を持つ朝鮮半島の人々が,大統一への強い希求を持つことは当然のことであります。我々日本国民と多くの文化的遺産を共有する偉大な隣人が,冷戦時代の残滓を払拭して統一に進む努力に対し,日本政府及び日本国民は,これを全面的に支持することを私は強調したいと思います。

 朝鮮半島の統一のためには,南北当時者の建設的態度と善意と,柔軟性,そして不撓不屈の努力とが望まれるところであります。私は,南北間の対話が,これまで以上の熱意をもつて進められ,これまで以上の成果を収めることを衷心より期待する次第であります。

(国連の役割及び執るべき措置)

委員長

 朝鮮半島での緊張は,しかしながら,現在もなお完全に除去されておらず,不幸にして対話と協調を願う我々の願望は具体的な成果をあげていないのが実情であります。

 かかる局面を前にして,我々国連加盟国は,国連として一体何を為すべきか,一体何を為し得るかを考えねばならぬと思うのであります。それは,朝鮮半島の人々の統一への動きを醸成し,かかる動きを容易ならしめるために,でき得る限りの協力を行い,また,その実現のために尽力することだと思うのであります。そのためには,朝鮮半島の現状に急激な変化をもたらすことにより,同地域をより不安定な状態に陥れることを是非とも回避しつつ,平和的統一の目標に向つて,南北両朝鮮間の対話が継続し得るような舞台を設定することが,国際連合としての努めでありましょう。

 かかる基本的考え方に立脚して,我々は朝鮮問題の適切な解決のために,総会が次のごとき現実的,段階的措置をとる必要があると思うのであります。

 まず第1は,国連軍司令部の解体と休戦協定の維持を可能にするための中間的措置についての合意をすることであります。我々は,最終的平和解決ができる限り速やかに達成されるよう望んでおります。しかしながら,当面は,最終的平和解決実現につながる可能な限りの措置がとられるべきと考えます。

 周知のとおり,米国政府は韓国政府と協議の上,休戦協定の効力が何らかの形で存続されるならば1976年1月1日までに国連軍司令部を解体する用意がある旨表明しております。

 国連軍司令部を解体することは,休戦協定の一方の当事者が消滅する恐れのあることを意味し,従つて,最終的平和解決のなされぬまま,かつ休戦協定維持の合意が得られないまま国連軍司令部が解体されるならば休戦協定という,南北間に非武装地帯を設け,敵対行為の防止を監視している現行措置を崩す恐れがあります。そして軍事的,法的空白が生じ,朝鮮半島の平和と安全が脅かされることにもなります。我々は現状に急激な変更をもたらすことによつて同地域を不安定にさせることは是非共回避しなければなりません。従つて,右空白を埋めるため中間的措置ともいうべき措置を講じなければならないと考えます。

(最終的平和解決のための新たな措置)

 第2に,朝鮮半島における緊張を緩和し,永続的平和を確保するための新たな措置について述べたいと思います。

 上述の中間的措置が合意されたならば,最終的平和解決に着手すべきであります。一般に休戦協定は,最終的平和解決の達成される間の暫定的性格を本来有するものでありますが,朝鮮半島においてはかかる平和解決は未だ達成されておらず,休戦状態が20年余も経て来ております。よつて,休戦協定に代る最終的平和解決のための新たな措置が早急に執られるよう希望するものであります。

(話合いの奨励)

 我々は,上述した中間的措置及び新たな措置を講ずるために,直接当事者が話し合いのためのテーブルにつくことを慫慂するものであります。話し合いのテーブルにつくことにより,問題の解決策をより効果的に見出すことができるからであります。この話し合いの当事者の中には,朝鮮半島の平和と安全に直接的かつ死活的な利害関係を有する南北両朝鮮が含まれるべきことは当然であります。そして,この話し合いは極めて重要であり,直ちに開始されなければなりません。

 そしてこの話し合いを実現させるために全国連加盟国及び事務総長が適切なる支援を与えるよう要望するものであります。

(わが方決議案の紹介)

委員長

 ここで,わが国を含める28カ国が共同提案した決議案A/C,1/708/Rev.1を紹介させて頂きます。この決議案は,これまで述べてきたようなわが国の基本的な考え方に則り,かつフランスより出された修正案A/C,1/L710を全面的に取入れてあります。

 また,この決議案には,他の本委員会メンバー国から寄せられた示唆も参酌されており,朝鮮問題に強い関心を持ちかつ密接な関係のある多くの国の見解を代表するものであります。

 この決議案主文第1項は朝鮮の平和的再統一を促進するために両朝鮮間の対話が継続されるよう慫慂するものであります。

 主文第2項は,休戦協定に替え,朝鮮半島における永続的平和を確保するための新たな措置について全ての直接当事国が交渉に入るよう希望したものであります。

 主文第3項は,当面の措置として,直接関係当事者が国連軍司令部解体と休戦協定維持のための中間的措置について話し合いを開始することを慫慂しております。

 第4項は,国連軍司令部が1976年1月1日に解体され,その際には南朝鮮に国連旗下の如何なる軍隊も存在しなくなるよう,休戦協定が維持されるための中間的措置が講じられるよう希望を表明したものであります。

(先方案に対するコメント)

委員長

 本委員会には,アルジェリア等共同提案の決議案も提出されております。我々は,アルジェリア等共同提案の決議案を真摯かつ熱心に検討致しました。

 しかしながら,アルジェリア等の決議案には次の如き主要な問題点おあることか判明したのであります。

 第1に,この決議案は,国連軍司令部の解体と国連旗の下における全外国軍隊の撤退を要求するのみであつて,最終的平和がもたらされるまでの間,休戦体制を維持するための措置についての構想が欠けていることであります。これは,朝鮮半島を軍事的,法的空白状態に置くことになるものであり,我々はこの点につき多大の危惧を表明するものであります。更にまた,もしこの決議案が米国及び韓国という2つの主権国家間の合意に基づく現行の安全保障の取極を否認することを意図しているものならば,それは不適当であり,このような問題は当事者の間のみで決定されるべきことであり,国連が介入すべきものではありません。

 第2に,アルジェリア等決議案は,交渉の「真の当事者」から韓国を除外するものであると説明されておりますが,これははなはだしく非現実的であり,最も直接的に関係している当事者の一方を除外することは我々の目的達成にとり何ら貢献することにはならないでありましょう。

 韓国は,朝鮮問題の最終的平和解決について話し合われた1954年のジーネーヴ会議の正式参加国であり,この韓国の参加は国連総会決議711(7)及び1954年2月18日のベルリンにおける外相会議共同コミュニケにおいても明確に認められております。更に,従来から国連総会における朝鮮問題に関する審議においても韓国は米国と共に直接当事国の1つとして認められてきました。ある地域の平和と安全について検討される時に,全ての当事者の利益が代表されるよう,同地域の全直接関係者がその右会議に招請されることは国際的慣例であります。

(むすび)

委員長

 朝鮮半島の平和と安全はアジアの平和と安全に直接的関係を有しており,また,アジアの平和と安全は世界の平和と安全に同様な直接的関係を持つております。ヴィエトナムにおける戦乱が終息した現在,朝鮮半島における冷戦時代の残滓が可及的速やかに払拭され,朝鮮民族が平和裡に国造りに専念し得るようになることは,全世界の願望であります。

 換言すれば,国連における朝鮮問題をめぐり,対決と分裂の歴史に終止符を打つ時が来たと私は固く信ずるものであります。多くの代表団の間には,多くの意見や感触の違いが存在するでありましょう。しかし,これまで私が述べてまいりました大綱,即ち,朝鮮半島の問題は何よりも朝鮮民族自身の手に委ねられるべきであり,国連はそのための対話と和解を容易にこそすれ,阻害すべきでないことについては,大多数の代表団の御賛同をいただけるものと信じております。そして,両直接当事者間,即ち南北両朝鮮の間に合意がなければ,いかなる決議も実施され得ないことも明らかであります。議長,もし,本委員会が以上私が述べた大綱につき沿う意向があるならば,国連メンバー国各位が小異とこだわりを捨てて,朝鮮問題の恒久的解決のために,国連として一丸となつて,国連に適した行動をとることは決して難しいことではないと考えます。これこそが,長い戦乱と緊張の歴史を背負わされ,苦しみ続けた南北両朝鮮の人々の最も希求するところであり,同時に一衣帯水の隣人である日本国民は勿論,世界人類の衷心より祈念するところでありましょう。

 28カ国の共同提案国及び日本を代表して,私は,国連加盟諸国各位の深い理解と全面的支持賛同とを願うものであります。

 ありがとうございました。

 

目次へ

 

 

(13)  第30回国連総会第一委員会における軍縮問題一般に関する西堀代表発言

                      (1975年10月31日 ニューヨークにおいて)

 

1.

 議長

 本日私は,軍縮問題についての日本政府の見解を申し述べたいと思います。

 本年は申すまでもなく,国連が設立されてから30年に当たる記念すべき年であります。その間国連は,軍縮及び軍備管理の分野で重要な役割を果たしてきました。このことはワルトハイム事務総長が本年度年次報告の序文において「あらゆる分野にわたる軍縮は,当初から国際連合の主要な目的の1つであつたし,そのための努力という点では,おそらく国際連合の最も継続的な活動であつた。」と述べているところにより明らかであります。では,30年間にわたる国連の「最も継続的な活動」の成果はいかなるものであつたでしょうか。我々はまだ越えるべき峠のふもとにあると言わなければならないかもしれません。このことは,事務総長自身の「まだ決定的な突破口が開かれていないという事実は,国家間の信頼感の危機という,世界が依然として直面している極めて危険な状態を実証するものにほかならない。」という現状認識にも合致するものであります。しかしながら我々は,30年間の努力にもかかわらず,「決定的な突破口」を得られなかつたという事態によつて決して失望,落胆してはならないと思います。軍縮を通じての世界平和への道が長く遠いものであることを考えれば,30年間に我々の得た実績は,決して少な過ぎるものとは言えません。むしろ我々は,事務総長の指摘する現下の「極めて危険な状態」を解消するための新たな努力を倍加し,軍縮達成に向かつて着実かつ倦むことなき前進を続けるべく決意すべき時にあると思うのであります。

2.

 議長

 軍縮の分野で最大の急務が核軍縮であることは誰にも異論がないと思います。核軍縮には,3つの側面があると思います。第1は,核実験禁止,第2は,核兵器の削減・撤廃,第3は,核不拡散であります。これらの3つの側面は,それぞれ独立の問題ではありますが,しかし忘れてはならないのは,これらはあくまでも核軍縮という広範な問題の側面にすぎず,従つて,常に相互関連の見地から検討されなければならないということであります。

 まず核実験禁止については,その実現の見通しが依然としてはつきりしないことは遺憾の極みという他ありません。私は,関係国がすべての軍縮措置が厳重かつ効果的な国際管理の下に行われなければならないという原則を十分念頭におきつつ,包括的核実験禁止問題の解決をはかるため,大局的,政治的観点に立つて良識的な解決をはかるよう訴えたいと思います。一方において「大気圏内核実験を続けている国がそれをやめることが先決で,すべての核兵器国が平等に義務を負うのでなければ禁止には応じられない」という議論があり,他方において,「先進核兵器国が地下核実験を続けている以上,核実験はやめられない」という議論があることも周知のとおりです。しかしそれでは核実験の禁止は永遠に不可能だということではありませんか。これらの議論は,ただ,核兵器国が核実験を続けるための口実として,相手側に責任を転嫁しているものだと言われても仕方がないではありませんか。私は,政治的英断によつて,この悪循環論争を直ちに断ち切ることをすべての核兵器国に対して強く訴えたいと思いますが,同時に,米ソ両国首脳の歴史的使命に対する自覚を促したい気持をおさえることができません。彼等の力が圧倒的に大きいが故に彼等の責任もまた圧倒的に重いことは否定できないと思うからであります。

 半面,大気圏における核実験禁止という既に12年前から実定法になつている国際規範がいまだにユニヴァーサルになつていないということも実に驚くべきことと言わなければならないと思います。大気圏内核実験禁止を遅ればせながらもすすんで受諾するという行為がいかにその国の誠意について国家与論の信頼感を回復せしめるかは,はかりしれないものがあると思います。私は部分核停条約に参加していない核兵器国に対し,同条約に速やかに参加するよう訴えるものであります。

 地下核兵器実験の制限については,既に昨年7月の米ソ首脳会談で合意された条約があり,1976年3月31日以降150キロトン以上の地下核兵器実験を停止することとなつておりますが,私は,この条約が,米ソ両国の批准を得て一日も早く発効をみるよう強く期待したいと思います。さらに私は,米ソ両国が,同条約の合意を拡げて広範な多数国間の合意に拡大していくためのイニシアティヴをとるよう期待するものであります。また,米ソ地下核兵器実験制限条約については,米ソが行う平和目的核爆発が,別途米ソ間で締結される取極によつて規定されることになつていますが,私は,平和目的核爆発が同条約の抜け穴とならないよう有効な合意がすみやかに米ソ間に成立することを期待いたします。

 包括的核実験禁止の障害としての最大の技術問題が検証問題であることは周知のとおりです。地震学的方法による地下核実験の探知に関し,本年の軍縮委員会で,スウェーデン代表が,来年の同委員会で専門家会議を開催することを提案いたしました。核実験の禁止問題の大きな障害の1つとなつている検証問題につき,わが国の専門家は,これまでスウェーデン,カナダ等の専門家と協力して地震学的検証方法につき検討を進めてきておりますが,上記のスウェーデンの提案を支持し,専門家の会議の開催の運びとなるよう期待いたします。

 なお,今総会にソ連から核兵器実験完全・全面禁止条約案が提出されましたが,日本政府といたしましては,右条約案を検討の上あらためて適当な機会に見解を述べることとしたい考えであります。

3.  核軍縮の第2の側面である核兵器の削減・撤廃については,米ソ間で戦略兵器制限交渉が行われておりますが,待望される戦略兵器の削減については,ウラジオストックでの米ソ共同声明に述べられているとおり,1980年ないし1981年より遅くない時期に更に新しい交渉を開始する旨の条項が新協定に盛りこまれることとなつております。従つて我々としては,かかる交渉が1980年よりも早い時期に開始され,早期に合意が達成されることを切望するものであります。かかる事情により当面我々としては,現在米ソ両国間に行われている交渉の結果,できる限りすみやかに,SALT新協定が成立することを期待するほかありませんが,私は,米ソ両国首脳が,この問題も核軍縮というより広範なコンテクストでいずれは他の核兵器国を含めすべての国を関係国とする場合において積極的に核兵器の削減及び撤廃について討議されるべき問題の一環であることを念頭におきつつ,ステーツマンシップを発揮されることを念願致します。
4.

 核軍縮の第3の側面は核不拡散であります。核不拡散の分野で最近特に大きな意義を有するものは,去る5月ジュネーヴで開かれたNPT再検討会議であります。この会議は,最終文書を採択して終了しましたが,他方会議において表明された意見の相違や立場のへだたりは,相当に大きいものがありました。私は,議長トルソン女史の卓越した指導力の下に結局再検討会議が合意に達することができたのは,意見の相違,立場のへだたりを越えて,会議を成功させることによりNPT体制の強化に貢献しなければならないという一点については究極的に参加国の意志が全く一致していたからであると考えます。私は,会議の成果としてこのことの意義を最大限に評価するものであります。しかしながら,さきに述べたとおり,この条約の運用ぶりについてかなり意見の相違があつたことは事実であります。私は,この事実をふまえ,新たに第1回再検討会議の結論を出発点としてNPT体制維持強化のために,今後より一層の努力によつて取り組む覚悟こそ,この際最も必要なものであると痛感します。私はこのことを締約核兵器国に対して特に訴えたいと思います。会議で提起された諸問題,すなわち軍縮の推進,非核兵器国の安全保障強化,核不拡散の確保,平和目的核爆発等は,いずれをとつても一朝一夕に解決できる問題ではありません。これらの問題の解決に向つて関係国が締約核兵器国を中心として一層の努力を行つてこそ初めてNPTをより魅力的なものとし,NPTをより普遍的なものとするとともにNPT体制内部の対立を解消して,NPT体制の強化を図ることが可能になると信じます。私は,再検討会議における一般演説の中でNPTの下での核兵器国と非核兵器国との間の責任と義務の均衡の問題に触れ,核兵器国が第6条の義務を誠実に履行することが,この均衡成立のため特に重要であることを指摘し,「かかる約束履行の実績を積み重ねていくことにより,究極的には核兵器を全廃することが必要である」と述べました。ここに,まさに核不拡散問題を核軍縮の重要な一環と見るべき所以があると信じます。

 なお日本政府はNPTの承認案件を国会に提出いたしております。宮澤外務大臣は,本総会の一般討論演説の中でこの点にも触れ,「わが国ができるだけ早い機会にこの条約を批准し,核拡散防止のための国際的努力に名実ともに参加することができるよう,引き続き努力していく所存である」旨表明しました。

5.

 議長

 国連事務総長が年次報告の中で指摘しているとおり「核拡散の危険は依然無くなつていないばかりか,ますます増大している」のであります。中でも平和目的核爆発の問題に関心が集中していることは申すまでもなく軍縮委員会に,第29回国連総会決議をうけてこの問題につき集中的な討議を行いました。軍縮委員会の討議の結果,次の事がますます明らかにされたと思います。すなわち,平和的応用のために利用される装置と軍事目的に利用される装置に共通の最も基本的性質は,それらが比較的小さく軽量なパッケージから数100万分の1秒という時間に非常に大量のエネルギーを放出することでありますが,この固有の特徴ゆえに核爆発装置は,それらが最も幼稚な形であるにせよ高度に技術的なものであるにせよ,軍事的な意味を持つこと,平和目的のために計画された現存のあるいは予見しうるすべての核爆発装置は,ある形態においては1つの武器としても使用されうること等であります。以上のとおり平和目的核爆発計画は必然的に軍事的利益を伴わざるをえないことを前提とすれば,平和目的核爆発の軍備管理上の意味合いは,自ずから明らかでありましょう。

 第1に,包括的核実験禁止が実効的なものであるためには,(イ)平和目的核爆発をも全面的に禁止するか,又は,(ロ)一定の厳しい国際的規制のもとにおいてのみこれを認めるか,の2つの選択しかないということであります。言いかえれば,包括的核実験禁止のもとに平和目的核爆発が組み入れられる場合,いかなる国も平和目的核爆発活動を通じて,兵器関連利益を取得していないとの十分な保障を与えることのできる検証システムが必要であることになります。このことは,包括的核実験禁止実現のために解決されなければならない問題でありましょう。

 第2に,核兵器不拡散を確保するという目的上,平和目的核爆発の拡散も核兵器の拡散とえらぶところがないということが極めて明白な事実となります。従つて,核不拡散を確保するためには,核爆発装置の平和的応用からある潜在的な経済的利益を得ようと欲する非核兵器国は,NPT第5条及びその背後にある原則に従つて行動すべきであることが強調されなければならないと思います。私は,以上の観点からNPT第5条に基づくサービス提供に関する具体的手続を定めた国際取極の締結準備につき国際原子力機関と関係国,特に核兵器国が速やかに措置をとる必要があると考えるものであります。

 私は,すべての非核兵器国が平和目的核爆発についての自由放任主義をすすんで放棄するという崇高な自制的精神を発揮するようこの場で強く訴えるとともに,責任と義務の均衡という観点から核兵器国の平和目的核爆発を含めすべての核爆発の自制が大いに要請されることも強調したいと思います。

 平和目的核爆発について,宮澤大臣は,本総会の一般討論演説の中で,「今後,国際社会が平和目的核爆発をいかに規制していくべきかについて軍縮委員会をはじめあらゆる国際フォーラムにおいてそれぞれの専門的知識を結集しつつ鋭意検討を進めるよう今次総会が指針を与えることを強く要請するものであります」と表明いたしました。私は,この委員会が,この方向に沿つて審議を進めていくよう強く希望いたします。

6.

 以上が核軍縮達成上,相互に関連する2つの側面についての日本政府の見解の概要でありますが,核不拡散に関連して触れておかなければならない問題として非核地帯の問題があると思います。この問題が最近特に強い国際的関心の的となつたのは,非核兵器国の安全強化の希望から出るものであることは明らかであり,この関係非核兵器国の真摯な希望は十分テークノートされなければならないと思います。

 ところで,第29回国連総会決議に従い,軍縮委員会の主催の下に設立された本問題に関する政府専門家グループ報告は,本問題に関する最初の権威ある包括的検討として注目を要するものであります。私は,この機会にまずこの困難な検討に携わつた諸専門家特にグループ議長たるフィンランドのコローネン教授の苦心に対し深甚の敬意を表したいと思います。

 この報告書において,非核地帯設置がそのための適切な条件を備えている地域においては,核不拡散,核軍備競争停止,国際安全強化等の目的に寄与しうるものであること,また,非核地帯設置は,国際法に従つて,国連憲章の諸原則及び国家関係を規制するその他の基本的諸原則に律せられるべきこと等に意見の一致がありました。反面非核地帯の範囲,禁止対象,域内国及び核保有国の権利義務等,多くの重要な点において意見の一致が見られず同報告書が各国の主張を併記する結果となつたことは,この問題が複雑かつ困難な要素を包含していることを示したものといえると思います。しかし,多くの意見が,例えば,非核地帯においては,平和目的核爆発装置も核兵器と同様禁止されるべきであること,非核地帯の設置は,公海における航行の自由の原則を含む国際法の原則に基づいて行われなければならないこと等の重要な原則を支持したことも忘れてはならないと思います。いずれにしても,私は,非核地帯はすべての域内国を含む関係国内の合意に基づいて設置されるべきであり,またその設置は,それが特定の地域内の安全強化に資するのみならず,より,グローバルな国際安全保障と平和維持メカニズムの強化という目的に反しないものであるべきであることを強調し,本年8月フィジー,ニュー・ジーランドにより提案された南太平洋非核地帯構想を含めいかなる非核地帯構想もこの点に十分留意すべきである旨,指摘しておきたいと思います。

7.

 議長

 核軍縮以外の軍縮措置の緊急性と重要性も過小評価されてはなりません。特に,人類の安全にとつて極めて危険な兵器である化学兵器禁止問題につき,わが国は深い関心を有しており,昨年4月軍縮委員会に条約案を提出いたしました。本年の軍縮委員会では,わが国,ドイツ連邦共和国,スウェーデン,カナダ等から作業文書の提出があり,地道な努力が続けられておりますが,本年の軍縮委員会においてみるべき進展を得なかつたことは,残念なことであります。明年は,この問題について見るべき進展が得られることを衷心希望すると共に,わが国も引続き応分の貢献を行いたい意向であることを申し述べておきたいと思います。

 環境変更技術の軍事利用禁止の問題に関する米ソの共同草案が軍縮委員会夏会期の最終段階に提出されたことは喜ぶべき出来事であつたと言えましょう。わが国としてはこの問題の意義に鑑み十分検討の上,明年度の軍縮委員会におけるこの草案の本格的審議に積極的に参加したいと考えています。

 更に右に劣らぬ意義をもつものとして,軍事費の国際比較に関する検討及び通常兵器特に兵器輸出の制限の問題につき,軍縮委員会で米国がイニシアティヴをとりつつあることを歓迎し,これらの問題に対し最近の機会に十分のフォーローアップが与えられることを期待したいと思います。

 議長

 軍縮問題は誠に多岐広汎であるとともに近年益々その技術的性質を深めてきました。そのため,軍縮問題に関する交渉には,高度の専門知識を必要とする尖端的技術問題の解明を強いられています。これは技術の進歩に伴つて避けることのできない現象でありましょう。個々の細かい技術問題の持つ重要性は益々増大せざるを得ないとも思われます。しかしながら私は,技術問題に目を奪われて,軍縮本来の政治目的を見失つてはならないと思います。問題が技術的に複雑になればなる程,その基礎の上に立つての政治的大局的判断の重要性は倍加されていくと信じます。私はこの点は現下の軍縮諸問題の解決上もつとも必要なことであると考えますので,重ねてこの点を世界の指導者に訴えることにより,この演説を終りたいと思います。

 

目次へ

 

 

(14) 国際経済協力会議閣僚会議における宮澤外務大臣の演説

                                       (1975年12月16日 パリにおいて)

 

議長,代表各位

1.

 わが国政府を代表し,本日ここに国際経済協力会議が開催され,先進工業国と開発途上国の間の幅広い経済問題につき対話を行うための第一歩が踏み出されることとなつたことを心から歓迎する。

 特にわが国はこれまで一貫して,このような対話の実現を希求し,そのための努力を払つてきたわけであり,われわれはこの会合に出席できることを特に大きな喜びとするところである。

2.  わが国は,本会合の開催にあたり,関係国が果たしてきた役割を高く評価するものであり,特に仏政府のイニシアティヴ及び同政府が行つた準備及び配慮に対し敬意を表したい。
3.

 現在,世界の多くの国は未だに不況,インフレ,国際収支困難という「三重苦」を脱したとはいえず,特にスタグフレーションの継続は多くの国にとり困難な問題となつており,なかんずく,大半の非産油開発途上国については困難が大きい。

 世界がかような「三重苦」を脱し,安定かつ継続的な成長を実現することはすべての国が現在必要としていることである。そのためには,各国が各々の努力を国際協力を通じて行うべきであり,国際協力の最も効果的かつ現実的な形態を模索することが必要であろうと考える。

4.  エネルギー問題,一次産品問題,開発問題及びこれらに関連する金融問題はいずれも現下の国際経済が直面する困難な問題である。これらの分野での協力の態様の検討にあたつては,まず各参加国が,各国経済が深く相互に関連しており,いずれの国も単独では問題の解決をはかりえない現実を十分認識することが必要である。
5.  わが国としては,準備会合の勧告に基づき今次会議により設立される4つの委員会の活動を通じて参加国の間で建設的な討議が行われ,先進工業国と開発途上国との間に対決ではない,調和ある永続的な関係を確立するための不断の努力が積み重ねられ,根をおろすことを期待している。
6.

 これら4委員会の取り扱う問題についてのわが方の基本的考え方を述べれば次のとおりである。

 まず,エネルギー問題については,世界経済とエネルギーの価格及び供給は密接に結びついていることを各国等しく認識するに至つている。さらに,エネルギー問題はもはやいかなる国も単独では解決しえなくなつており,その根本的解決のためには産油国・消費国を含む関係国による対話が最も有効かつ必要なのである。かかる認識に基づき,エネルギーの分野では,石油問題と世界経済との関係等を過去の経験をも正しく踏まえて,消費国と産油国との間に調和ある永続的な関係を促進していくことを望んでいる。

 次に一次産品問題については,一次産品の生産維持拡大及び貿易を通じて,生産国と消費国との双方に最も効果的に,かつ合理的な条件で一次産品が用いられることが,世界経済の健全なる発展に肝要であると考えているところ,長期的視点からいかなる方途が望ましいかを検討すべきと考える。この際我々としては,他の機関における進捗を勘案することが必要であろうと考える。

 開発問題については,開発途上諸国の自助努力を基礎とした経済発展に対するaspirationを理解し,かつ,開発途上諸国が現下の困難なる経済状況にあることを配慮して,協力に基づいて開発途上国の開発を促進するための方途を,他の国際機関の場における進捗及び既に達成された成果を踏まえつつ,検討することが必要であると考える。

 更に,金融委員会においては,IMF・世銀等の国際機関の権限を尊重しつつ,他の委員会の作業に関連し,また,参加国にとつて重要な金融問題をとりあげるべきものと考える。

7.  準備会合において採択された最終宣言は2回にわたる長い討議を経て達成された関係国の妥協の上に成立しているものである。本件会議は,準備会合最終宣言の勘告に基づき4委員会を設置し,同委員会の討議開始に必要な手順を整えるところにその目的がある点を想起すべきと考える。わが国は同宣言の提案を全面的に支持するものであり,本件会議がこれをendorseする形で各委員会の一般的方向付けを設定することにより所期の成果を収めるよう希望する。
8.  最後に,今次会合が議長の指導のもとに,各国の協力をえて成功裡に終わり,委員会が,明年早々にも実際の活動を開始しうろこととなつて,明年が対話という観点からみて飛躍の年となることを祈りたい。

 

目次へ