第6章 邦人の渡航・移住及びその保護
第1節 概 要
過去において増加の一途を辿つてきた邦人海外渡航者数は,74年においては景気停滞の影響を受けてか前年に比し殆んど横ばいであり,数次往復旅券(5年間有効)の普及と相まつて,74年の旅券発給数は前年度より減少した。また74年における,査証(外国人に対する入国査証)の発給数も同様に前年より若干減少している。なお,査証を相互に免除する査免取極については,74年に新しく4カ国と締結し,74年12月現在締結相手国は42カ国になつた。
海外渡航邦人の大部分は観光旅行者である(74年に発行された一般旅券の約90%が観光目的であつた)。多くの邦人が世界各地を旅行して見聞を広めることは有益なことであるが,他方において無銭旅行者による不法就労等のトラブルや麻薬・覚せい剤犯罪,関税法違反などの件数も増加しており,また一部団体旅行者の行き過ぎた行動が旅行先国でひんしゅくを買つた例もふえている。他方,海外の在留邦人についてみると,外務省が在外公館を通じて74年10月1日現在で調査した結果による在外邦人数は,長期滞在者(商社員,銀行員,留学生など3カ月以上外国に滞在するもので永住者でない者)約12.5万人,永住者(日本国籍をもつ者)約25万人,日系人(日本国籍は有しないが民族的に日本人とみなしうる者)約122万人に及んでいる。これら在留邦人数の増加とともに,出生届の受理等国籍,戸籍関係事務及び在留証明関係事務といつた従来通りの領事事務が漸増していることはもとよりであるが,更に外務省は積極的に在留邦人の生活基盤の確立に資するべく海外子女教育に対する援助を行うとともに,巡回医師団を生活環境の厳しい地域に派遣し,在留邦人に対する医療援助を行つている。
その他,邦人が世界中を旅行し,各地で活躍するようになつたため,大地震,戦乱,航空機事故等が,世界のどこかで生ずるたびに多数の邦人がまき込まれている。74年には,3件の大型航空機事故が発生し,多数の邦人が犠牲となつたが,在外公館は全力をあげ,援護活動にあたつた。
わが国の海外における経済進出が進み,商社・銀行・メーカー等の海外駐在員の活躍が著しくなつた。他方,海外移住者の数は最近では年平均5,000名位に落着いている。政府から渡航費の支給を受けて,南米に移住する者の数は,60年を頂点に年々漸減したが,近年は,おおむね年間500名から700名程度に落着いている。このほかにアメリカやカナダ等へ個人的に移住する者もある。内容的には,従来の農業移住中心から技術移住に重点が移つており,これとともに移住者の個人的な幸福追求といつた目的のみならず移住先国の発展にも寄与するという国際協力の推進という視点から移住の意義が見直されている。
このような移住者の送出事業とともに重要なのは,既に移住した人々に対する援護活動である。52年以降,74年3月末までの中南米への政府による渡航費支給移住者の総数は6万4千人を越えており,外務省はこれら移住者を援護するため,(1)ブラジル国営開拓地の地権交付問題やパラグァイの移住地に対する不法侵入問題等につき直接相手国と交渉し,解決を図るとともに,(2)国際協力事業団を通じて,移住者に対する,融資の強化,医療衛生対策,教育対策等の整備,及び営農指導の徹底や営農の機械化等を通じ,移住者の生活基盤の確立に努め,(3)国庫補助県費留学生制度,国際協力事業団による技術研修生受け入れ,或は日本海外移住家族連合会の研修生受入れを通して,移住者子弟の本邦での教育及び研修の実をあげるよう努力している。