第3節 青年海外協力隊

 

 青年海外協力隊事業は,開発途上諸国からの要請に応じこれらの諸国の経済的,社会的開発のために必要な技術又は技能を身につけた心身ともに健全な青年を派遣し,相手国の人々と生活と労働をともにして開発のための実践的な活動に従事せしめることを目的としている。

 この事業は65年にわが国内で高まりつつあつた青年の海外交流の気運及び米国の平和部隊等の登場にも刺激されて開始され,当時の海外技術協力事業団の一部局として青年海外協力隊事務局が設置されて発足した。この事業の実施は,74年8月国際協力事業団が発足するに伴い同事業団が承継することになつた。同団法第21条1項2号は「開発途上地域の住民と一体となつて当該地域の経済及び社会の発展に協力することを目的とする海外での青年の活動を促進し,及び助長する」と規定しており,本事業は開発途上地域の経済的,社会的開発のために技術をもつ青年を派遣するという技術協力の一環としての性格をもつとともに,奉仕の精神から海外協力活動を志望する青年に海外交流の場を提供し,その主体的活動を支援するという青年教育という視点をあわせ持つ意味で第2節で述べられた他の技術協力とは性格を異にしている。

 協力隊員の派遣は,わが国政府と相手国政府との間で隊員の取扱いその他について規定する派遣に関する基本取極を結び,これに基づいて行われている。先方政府からの具体的な派遣要請に基づき,国内において年に2回一般公募により選考を行い,合格者に対して4カ月間一般教育,語学訓練の両面にわたる派遣前訓練を行つたうえで,海外に派遣している。さらに隊員が原則として2年間派遣されている間の海外協力活動に対する支援業務に至るまでの一連の業務は,隊員の主体的意思に基づいて行われる海外協力活動を支援するという立場で貫ぬかれている。

 協力隊の派遣分野は,稲作,野菜,養蚕,農業普及,農業土木,漁業,漁具漁法などの農林水産分野,織物加工,窯業,竹工芸,鉱物分析などの鉱工業,車輛整備,ラジオ・TV修理,電話,放送などの交通・通信,建設機械,測量などの土木建設,職業訓練,保健衛生,日本語,柔道などの教育訓練その他,すでに60種をこえる職業分野にわたつている。

 74(会計)年度においては,あらたにコスタ・リカへの派遣が実現したことを含めて17ケ国へ216名の隊員が派遣され,同年度末現在,18カ国490名の隊員を派遣中である。これにより65年以来派遣された隊員数は19カ国,合計1,819名となつた。(そのうち女性隊員は214名である。)この実績を地域別にみるとアジア地域(7カ国)59.3%,アフリカ地域(7カ国)35.9%,中南米地域(2カ国)3.5%,オセアニア地域(2カ国)0.9%,中近東地域(1カ国)0.5%の順となつている。業種別では,農・水産41.0%,教育17.3%,建設13.4%の順になつている。

 74年8月,チュニジアとの間に隊員派遣に関する交換公文が締結されたことにより,同年末現在,派遣取極締結国は20カ国となつた(そのうちカンボディアについては70年春の政変時に引き揚げたままであり,ウガンダへは,派遣準備中であつた71年3月に政変が発生して以来,派遣を中止したままになつている)。

 本事業の74年における特色は,前年に導入された派遣に係わる種々の新制度が軌道にのりつつあり,定着化したことである。帰国協力隊員は,海外での体験を生かし日本国内各地でのオピニオン・リーダーとして活躍しつつあるが,他方その中で再び海外協力を希望する者に対し技術協力専門家への道を開くことを目的とするシニア・ボランティア制度が73年に開始されて以来,13名が現在派遣されている。また,帰国隊員の中から志望者を,その経験を生かしてわが国内での協力隊事業の地方への浸透をはかるための活動等にあたらしめる「国内ボランティア」制度を,74年に新設し,同年10名の要員を確保した。更に,専門家派遣事業にならい73年に導入された所属先補填制度により,民間団体等の所属先の理解をえて身分措置をとつて派遣される・隊員の数が着実に増えており,74年末現在で派遣中の隊員の27%が所属先より有給休職措置をとつたうえで派遣されている。また,隊員の募集選考の面で,73年より都道府県による第1次試験の実施が開始されているが,この関連で国際協力事業団法第40条において,同事業団と地方公共団体との密接な連絡と協力関係が規定された意義は大きい。

 このほか,74年中に協力隊員に対する派遣前訓練の充実及び海外における協力活動に対する各種支援業務の拡充,帰国OB隊員に対する援助の充実等を行なつた。

 

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