第5節 食 糧 問 題

 

1 世界の食糧需給は,72年ソ連による小麦大量買付を契機として逼迫状態に陥つたが,73年,主要生産国の増産により一時は若干緩和の方向に向つた。

 しかし74/75年は米国,カナダでの穀物生産が天候不順等のため当初の見通しを大幅に下回つており,また,米国等主要輸出国在庫が低水準におちこんでいることもあつて,世界の食糧需給は当面依然として逼迫気味に推移している。

2 こうした情勢に対しわが国は,食糧需給問題の根本的解決には世界の食糧増産,特に開発途上国の自助努力による増産が必要であるとの立場をとり,国連食糧農業機関(FAO),東南アジア開発閣僚会議,国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)などの場で,開発途上諸国の農業開発の推進の諸計画に積極的に協力した。また,自然災害などの場合の食糧援助についても,できる限りの協力を行つた。

3 わが国は,食糧の主要輸入国として世界の食糧需給の安定に意を用いるべき立場にあると同時に,先進工業国として食糧問題解決のため開発途上諸国に対する援助の強化を期待されている立場にある。74年11月の国連世界食糧会議にわが国は上記の2つの立場を踏まえ積極的に参加した。

4 農産物貿易問題はガットの新国際ラウンドの重要交渉分野の一つである。同交渉の目的は,73年9月の「東京宣言」にうたわれているように,工業品,農産物の双方にわたり関税,非関税障壁などをできるだけ軽減,撤廃すること等により,世界貿易の一層の自由化と拡大を達成することにあり,農産物についてはこの一般目的に則りつつ農業部門の特殊性や特別な問題にも考慮を払うことになつている。本交渉に備えて,資料を整備するため74年より最近の農産物需給変化の分析及び問題点の究明が行われてきたが,75年よりいよいよ実質交渉段階に入つている。

5 最近の食糧需給問題を背景として国際的な食糧備蓄の設立についての提案がいくつか出されている。

(1) 73年6月,バーマFAO事務局長は「世界食糧安全保障構想」と題する提案を行つた。同構想は,世界的規模の食糧不足に備えて,各国が一つの枠組の下に自発的に常時必要最小限の在庫を確保しようとするもので,その骨子は,(イ)食糧の最小安全水準の基本概念の確立,(ロ)在庫水準検討のための定期協議,(ハ)在庫政策に関するガイドラインの確立,(ニ)開発途上国の食糧在庫確保のための先進国の協力等の点よりなつている。本提案に基づき作成された「世界食糧安全保障に関する国際的合意」は,74年11月のFAO第64回理事会で承認され(わが国はFAOの理事国),支持を得るためFAO加盟国及び関係国政府に送付された。74年11月の世界食糧会議でも,本国際的合意の実施に賛同を与える決議が採択され,また,本国際的合意実施のための機関として世界食糧安全保障委員会を設立することが,FAOに対して勧告されることとなつた。FAOは,75年11月の総会で同委員会を設立することをめざし準備作業をすすめており,更に,この国際的合意の具体化についてもFAOで研究が進められている。

(2) 他方,米国は食糧安全保障構想を支持しつつも,備蓄に関して食糧の主要輸出入国間で交渉を行い,拘束力のある備蓄システムを設けることを提案し,74年の世界食糧会議において,キッシンジャー米国務長官は「穀物備蓄調整グループ」の設立を提案した。結局同会議では,本提案を(1)の世界食糧安全保障のための国際約束の実施促進の一環としてとらえ,主要食糧生産,消費及び貿易国間で,できる限り速やかに討議を開始することが決議された。本決議に基づき,米国は主要国による会合の開催を関係国に呼びかけ,75年2月10日及び11日ロンドンで穀物備蓄主要国会議が行われた(参加国はわが国のほか,アルゼンティン,オーストラリア,ブラジル,カナダ,EC,エジプト,インド,タイ,米国及びソ連)。同会議では穀物備蓄システムの内容につき具体的提案は提出されなかつたが,穀物備蓄をめぐる諸問題に関する一般的予備的な意見交換が行われた。

(3) 上記(1)(2)のほかにも食糧の在庫あるいは備蓄については,次のような検討が行われている。

 75年2月のUNCTAD第8回一次産品委員会では,事務局の提案した一次産品に関する総合プログラム構想が討議された。

 本構想には,一次産品の価格安定をはかるための緩衡在庫の設置が含まれている。

 GATTの新国際ラウンドにおいても,74年4月の貿易交渉委員会農業グループで,一部の加盟国より穀物在庫をも考慮した交渉が行われるべきであるとの提案が行われた。わが国としても備蓄問題は新ラウンドと密接な関連を有していると考えている。

(4) このほか,OECDにおいても農業委員会などで需給事情につき検討が行われた。

 

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