第3節 南北問題解決への寄与
1. | 74年の開発途上諸国をめぐる諸情勢は極めて大きな変化を示した。 |
特に石油価格の急騰,工業製品価格の高騰,不安定な食糧需給状況及び肥料不足,更には先進諸国の経済成長の鈍化等の諸要因が開発途上諸国の経済社会開発に極めて深刻な影響を与えている。また,世界的な一次産品価格の上昇は,先進諸国ばかりでなくそれら産品を輸入しなければならない開発途上諸国に多大の負担を課している。 | |
開発途上諸国全体の年間経済成長率(実質)は,72年までは「第二次国連開発の10年」の目標である6%を若干上回る実績を示した。しかし,73年から74年にかけての国際経済の激変の結果,今後70年代の終りまでその成長率は6%をはるかに下回るものと予想されており,最も貧困な諸国においては,その急激な人口増加とあいまつて1人当り実質所得は現在の水準からほとんど増加しない見通しにある。 | |
このような状況下にあつて,近年開発途上諸国内部には大きな分化傾向が生じてきている。具体的には,まず,産油国と非産油国の経済上の懸隔は極めて大きなものとなつており,援助面では産油国はもはや必ずしも援助を必要とする開発途上国ではなく,逆にかなり実質的な規模の援助を与える能力を持つた援助供与国も登場してきている。また,産油国の中でも1人当り国民所得が高く開発投資などの国内資金需要に比し余剰収入の多いクウェイトやサウディ・アラビア等の諸国,大規模な国内開発投資を行いつつあるが,現段階では外国からの資本流入を必要とはしていないイランやヴェネズエラ等の諸国,並びに,原油価格の高騰により外貨収入は増加したにもかかわらず国内資金がなお不足しているインドネシア,ナイジェリア等の諸国といつたグループへの分化が明確化してきている。 | |
一方,非産油国においても,石油及び一次産品価格の高騰により種々の影響が生じている。とりわけ,そのために生じた追加的コストの支払いにより特に重大な打撃をうけている諸国(いわゆるMSAC諸国)の問題が深刻化しつつある。これら諸国のほとんどは,肥料及び食糧の輸入に依存する度合いが最も大きい国々であり,現下の石油価格の高騰,食糧需給のひつ迫と肥料不足により二重の影響をうけている。他方,銅をはじめとする鉱物,羊毛,穀物,砂糖等の一次産品の価格騰貴により,ザイール,ザンビア,タイ,フィリピン等のように対外支払い状況をある程度好転せしめ得た国も生じてきている。しかし,石油を除く一次産品ブームは次第に鎮静化してきていることから,これら開発途上国の今後の経済見通しも決して明るいものではない。 | |
加えて,先進工業諸国の経済成長が鈍化してきていることが開発途上諸国の輸出の拡大にマイナスの影響を強く与えている。 | |
このような情況のもとで,74年4月には国連「資源と開発」特別総会が開催され,MSACに対する協力を強化していくため「特別計画」その他の措置をとることが合意され,先進諸国のみならず豊かな産油国による援助努力の強化が要請された。 | |
また,世界の食糧問題を検討するため,74年11月世界食糧会議(WFC)がロ-マで開催され,「飢餓及び栄養不良解消のための世界宣言」が採択されると同時に,食糧問題解決のための諸方策が決議された。 | |
2. | 以上の通り南北問題はますます困難かつ複雑な様相を呈するに至つているが,わが国は従来よりこのような南北問題解決への国際努力に対し,貿易及び開発援助を通じ,できるかぎりの寄与を行つてきた。 |
まず貿易面を通ずる協力としては,一次産品及び製品につき,関税の引下げ,自由化品目の拡大,商品協定への参加,開発途上国側の輸出拡大のためのマーケッティング等の面への協力,一般特恵制度の改善等々により,開発途上諸国の輸出収益の増大等に寄与してきている。この内,一般特恵については,71年8月実施以来,毎年改善を重ねて来ており,受益国・地域の拡大のほか,農水産物等の対象品目の拡大,特恵税率の引下げ,鉱工業製品については,シーリングの弾力的運用及び1/2頭打ち条項の不適用品目の拡大等の改善をはかつてきた。 | |
次に,経済協力面については,まず開発途上国に対する資金の流れ総額は2,962百万ドル(支出純額ベース。以下同じ)であり,対前年比50.7%と大幅に減少した。その対GNP比は0.65%となり73年の1.44%に比しかなり悪化した。資金の流れ総量の内,政府開発援助(ODA)は73年の1,011百万ドルに対し,74年には1,126百万ドルとなり対前年比において11.4%の増加を示した。その対GNP比は前年と同じく0.25%であつた。 | |
3. | 先進諸国自体も現下の世界経済の変動により多くの経済困難を抱えており,開発途上諸国への援助を大幅に拡大していくことは必ずしも容易ではない。しかしながら,国際経済の相互依存関係がますます強まりつつあることに鑑みれば,このような状況においてこそ世界各国が協力し,南北間格差の是正と世界経済の円滑な発展を図つていかなければならない。 |
わが国としても,国際社会の有力な一員として,貿易,経済協力その他の面で相応の協力を進めていくべきである。わが国は経済構造上も種々の面で開発途上諸国との依存関係が強く,この意味からも今後ともこれら諸国との協力関係を強化していかなければならず,現下の流動する国際経済環境のもとで,更に有効な協力を推進していくための新たな方策の検討を迫られている。 |