第2節 世界経済の調和的発展への貢献

 

1.  74年の世界経済は,石油価格高騰によつて加速されたインフレの同時進行,国際収支の著しい不均衡及び成長減退と,戦後例をみない3重苦に直面した。この傾向は75年に入つて幾分改善の兆しを見せつつあるものの,先行きは依然として楽観を許さない。
 これら諸問題はいずれも一国のみでは解決できるものではなく,国際的協調を必要としている。わが国としてはその中でも特に緊急な課題に適切に対処するとともに,安定した世界経済秩序の再建という中,長期的視野に立つて新たな途を探求していくことが必要である。
 重要な資源や食糧を海外に大きく依存する一方,主要工業国として世界経済の動向にも大きな影響を与えうるわが国は,このような状況下にあつて,今後とも国内経済との調和に十分配慮しながら,多国間,二国間関係を通じて世界経済の調和ある発展のため積極的な努力を払つていくことが期待される。
2.  73年10月以降の石油危機を通じ石油価格は4倍も高騰し,世界経済に深刻な打撃を与えた。
 消費国側は,74年2月,ワシントン・エネルギー会議を開催したが,同会議で設置されたエネルギー調整グループは数次にわたる会合を重ね,11月中旬OECDの枠内に緊急融通制度の実施を骨子とする国際エネルギー機関(IEA)を発足させた。仏は消費国間の協調の必要性を認めつつも方法論上の相違からIEAに参加しなかつたが,同国を除く主要消費国間は,IEAにおいて緊急時には需要抑制,備蓄取崩し,相互融通を行うこととなつた。
 同年12月のマルチニック島における米仏首脳会談において,両国間にエネルギー節約,代替エネルギー開発,及び金融協力の3分野において消費国協力に実質的な進展があることを条件に,産油国・消費国準備会議を開催することが合意され,かかる事情を背景に,前記3分野における消費国間の協調がかなりの進展をみることとなつた。
 この間,石油需給の緩和,価格の下落傾向がみられるに至り,産油国と消費国との力関係に微妙な変化が生じ,産油国と消費国間の対話を開始する気運が高まつたが,OPECも75年3月のアルジェーにおける首脳会談にて先進国との国際会議開催を原則的に支持するに至つた。
 わが国は,ワシントン・エネルギー会議以来,IEAの場を中心とする消費国間協調に積極的に参画してきたが,今後とも,わが国のエネルギー事情を踏まえつつ出来るだけかかる協調を推進していく方針である。
 また,わが国は従来から石油・エネルギー問題はいかなる国も単独では解決しえず,同問題解決のためには産油国と消費国の対話の早期実現が不可欠であるとの基本的立場を堅持してきたが,わが国としては今後とも産油国との協力を多数国間関係及び二国間関係を通じて緊密化していく方針である。産油国と消費国の間の対話は仏の提唱による準備会議を以つて一応開始されることになつたが,産油国との本格的な対話が軌道に乗るまでにはなお多くの迂余曲折が予想される。わが国としてはあくまでも息長く,建設的な対話の実現を求めていく方針である。
3.  74年の金融,通貨分野における最大の課題の一つは,産油国に蓄積されつつある巨額の石油代金(いわゆるオイル・マネー)の還流の問題であつた。
 この問題については,74年中に国際的に種々の具体的提案が行われたが,75年に入つて1月に10カ国蔵相会議及びIMF暫定委員会が開かれ,その結果先進国間の金融協力(financial safety net),IMF石油融資制度(oil facility)の拡大,IMF増資等の問題についての大筋の合意がなされた。その後金融協力については,OECDの特別作業部会において検討が進められ,4月9日にOECD金融支援基金(Financial Support Fund)設立の協定が署名された。
 この金融支援基金は,先進国の国際収支に不測の事態が生じ世界経済を危機に陥れることを防ぐため,既存の国際協力体制に加え相互扶助機能を備えたものとして評価できる。もちろん本基金は産油国との対決色を狙うものではなく,世界経済安定化の一環としての意味を持つものである。
 オイル・マネー還流のためには,その目的や性格に応じて還流経路に多様化をはかると同時に,それらの内容の充実をはかつていくことが必要である。
4.  通商の分野では,74年の世界的スタグフレーション,国際収支困難等の増大により,輸入制限を志向する保護主義への傾斜がみられ,他方資源ナショナリズムの高まりに伴ない一部資源保有国には輸出規制強化の傾向もあらわれた。かかる傾向に対し,同年5月のOECD閣僚理事会において各国は貿易制限措置等を向う1年間回避することを誓約するとの宣言が採択され,また,6月にはIMF20カ国委員会において同様の制限的措置を2年間差控えるべきことにつき意見の一致をみた。
 更に,75年1月,懸案の米国通商法が成立し,これにより新国際ラウンド交渉は本格的に動き出すこととなつた。最近の世界経済情勢にも鑑み,新国際ラウンド交渉を阻む要因は内外ともに増大している。貿易立国を国是とするわが国は,このような困難な状況下において,自由貿易原則を維持,強化していくため関係国との協力をはかりつつ積極的に努力していくこととしている。
5.  世界の食糧需給は72年の逼迫状態の後,73年には主要生産国の増産により一時は若干緩和の方向に向かつたが,74年は主要生産国の穀物生産が天候不順等のため当初の見通しを大幅に下回り,また米国等主要輸出国在庫が低水準に落ち込んでいたこともあつて,世界の食糧需給は依然として逼迫気味に推移している。
 このような状況を背景に74年11月に世界食糧会議が開催され,開発途上国の食糧増産,備蓄,食糧援助,情報システム等の実質的問題のほか,国際農業開発基金,世界食糧理事会等の機構問題が検討され,これらにつきコンセンサスの形で決議が採択された。
 わが国は,先進工業国として食糧問題解決のため開発途上諸国に対する援助の強化を期待される立場にあり,今後とも引き続き農業開発協力の拡充に努めていく方針である。また,同時にわが国は,食糧の主要輸入国として世界の食糧需給の安定に意を用いるべき立場に置かれており,主要輸出国との友好関係の維持増進に努めるとともに,新国際ラウンド交渉,あるいは農産物の商品協定交渉等の多角的な場においても,わが国の立場を反映させるよう努力を重ねていくこととしている。

 

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