第2章 わが外交の基本的課題

 

 以上,第1章においてわが国を取りまく国際環境を概観した。このような国際情勢の下で,わが国が取り組むべき外交の基本的課題は次のように要約できるであろう。

(協力と対話を基本とする多角外交の推進)

 わが国の海外との交流は今日世界全域に及んでおり,わが国自身の平和と発展を確保するためには広く国際の平和と安定および国際協力の維持強化をはかることが必要である。

 従つて,わが国は協力と対話を基本とする多角的外交を世界的規模で積極的に展開して行かなければならない。

 このような外交の展開にあたつては,まず第一に,政治体制と経済の発展度をわが国と同じくする北米、西欧および太洋州諸地域の西側諸国との伝統的友好協力関係を維持発展させることが基本的に重要である。特に米国との友好協力関係はわが国外交政策の基軸であり,両国間の「相互協力及び安全保障条約」の精神である相互信頼と協力を旨として日米関係を今後一層発展させて行かねばならない。

 次に,近隣のアジアの諸国との間に存在する伝統的友好協力関係を一層進めることが重要である。わが国の安全と円滑な海外活動の展開のためには身近な東アジアの諸国との関係をわが国は特に重視し,この地域の安定と発展にわが国は絶えざる注意と努力を払わねばならない。

 わが国と体制を異にする諸国との対話を促進し,安定的な関係を維持することも重要である。わけてもわが国の隣国であり,世界政治上重要な地位にある中国及びソ連との関係は極めて重要であるので,中ソ両国との安定的関係の確保に努めることが必要である。

 中東諸国との関係はわが国にとつて特別の重要性を有するものであり,中東の平和と発展のため,わが国は出来る限りの努力を払わねばならない。

 さらにわが国は,国際協力を幅広く推進する立場から,アフリカおよび中南米等広く世界の各地域との相互理解と協力を追求する必要がある。

 わが国の外交は以上のように世界的規模のものとなつており,その推進にあたつては二国間の関係を多角的に進めると同時に国連等の多国間機構における一層の努力が必要である。

 特に紛争解決,軍縮,核拡散防止等国際平和のための多国間協力に対し,支持と貢献を行うことが重要である。

 また,文化,教育面の交流を二国間及び多国間で一層拡大し,諸国民との相互理解と友好を深めていかねばならない。

(世界経済全体の健全な発展への貢献-国際協力と南北問題解決のための努力)

 石油問題の強い影響の下で変動を続ける国際経済に対処し,わが国経済の安定と持続的発展を図るためには,国家間の相互依存関係を十分認識して世界経済全体の健全な発展を確保するよう努力することが必要である。このためわが国は,二国間あるいは国連,ガット,IMF,世銀,OECD,その他各種の国際機関を通ずる諸国との協力を推進し,調和ある国際協力関係の形成に積極的に寄与せねばならない。特に国際関係の安定と国際社会全体の健全な発展を達成するためには,開発途上諸国の民生の安定と経済の発展を確保し,これら諸国と先進経済諸国との間に建設的な協力関係を維持発展させていくことが不可欠である。わが国は,開発途上諸国との間に幅の広い交流を有しており,その国造りの努力に各般の協力を行つてきているが,今後ともわが国に相応しい協力を効果的に進めて行くよう一層の努力が必要であろう。

(人類社会全体の将来にかかわる問題解決への努力)

 今日世界は,政治理念,経済体制,あるいは経済発展段階の相違を超えて,人類社会全体の将来に影響するような幾つかの大きな問題に直面している。このような人類共通の諸問題の解決のため積極的な努力を行うこともわが国外交の重要な課題である。海洋や宇宙の利用,環境問題,原子力平和利用等がそれであり,わが国は,各種の国際協力の枠組を通じ,住みよい明日の世界を創ることを目指して積極的に貢献していく必要がある。

 

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