―大洋州地域―

 

第2節 大洋州地域

 

1.豪  州

 

(1) 外交および政治情勢

73年は,前年末に発足した労働党新政権が,外交・内政両面で意欲的な活動を展開した。

(イ) 新政権は,(i)冷戦構造からの脱却,(ii)国際社会における中堅国家としての豪州の地位の確立等新たな外交政策の理念に基づき,アジア・太平洋地域の重視,特にわが国,中国,インドネシアおよびパプア・ニューギニアとの関係の重視,アジア・太平洋地域における地域協力の重視,英国,米国との新しい関係の樹立等の政策を打出した。特に,新政権発足早々,中国,東独,北ヴィエトナムとの外交関係を樹立し,また,フランスの南太平洋核実験に強く反対し,その中止を求めて国際司法裁判所に提訴する等の動きが注目された。

こうした新たな外交の推進にあたり,ウィットラム首相は,諸外国を精力的に歴訪,首脳外交を展開した。わが国(10月)のほか,ニュー・ジーランド,インドネシア,英国,米国,カナダ,インド,中国等,計12カ国を訪問し,これら諸国の首脳と会談した。さらに,74年1月から2月にかけて,マレイシア,ラオス,ビルマ,シンガポール,フィリピンの6カ国を訪問した。

ウィットラム首相は,特に,そのアジア・太平洋重視の政策に基づく70年代の重要な課題として,イデオロギーにとらわれずアジア・太平洋地域を真に代表する地域協力フォーラムを創設する構想をもつており,アジア諸国訪問の際,長期的な課題としてこの問題について意見交換を行なつたといわれる。

なお,地域協力重視政策の一環として,新たに東南アジア開発閣僚会議に参加したことが注目される。

(ロ) 防衛面では,アジア・太平洋地域における緊張緩和に即応して,軍事支出の削減,ヴィエトナム派遣軍事顧問団の引揚げ,5カ国防衛取極に基づく駐留軍の引揚げ,SEATO演習への豪海軍の不参加,徴兵制の廃止等を決定した。但し,米国,ニュー・ジーランドとの相互防衛条約であるANZUS条約については,これを維持するとの立場をとつている。

(ハ) 新政権は,内政面でも,杜会福祉の強化,公務員および労働者の待遇改善等,労働党独自の理想主義に基づく一連の政策を実施した。内政での最大の問題はインフレの進行であり,政府は物価騰貴の対策に全力を投入した。たとえば,有効な物価対策を講ずることができるよう,物価および所得の統制に関する立法権限を連邦議会に付与するための憲法改正案を提案した。(もつとも,12月8日の国民投票の結果,国民の支持を得ることはできなかつた。)議会との関係では労働党政府は,下院では72年末の総選挙で過半数を制したものの,上院では少数与党にとどまつたため,しばしば法案審議が難航した。

上院については,74年5月にその半数の改選が行なわれる予定であつたが,野党の民主労働党党首であつたゲアー上院議員の辞職を契機として,内政は大きな展開を示し,5月18日に,両院総選挙が行なわれることになつた。

(2) 経 済 惰 勢

(イ) 73年は,たまたま経済の好況期と一致したため,豪州政府としては,当面のインフレ対策を除けば,豊富な地下資源を有効に利用し,国内的には福祉国家の建設,対外的には国際的発言力の強化という長期的政策の推進に努めることができた。その例として,外資規制,資源輸出許可制度の拡大等を中心とする一連の外資・資源政策,関税率の引下げを中心とする産業政策等があげられる。

(ロ) 経 済 成 長

73年の豪州経済は,(i)天候に恵まれた結果,小麦などの穀物が大幅増産となつた,(ii)羊毛,食肉などの輸出価格が引続き高水準を維持した,(iii)鉄鉱石などの鉱物輸出量が着実に増大したことなどから好況を呈し,経済成長率(実質)は,ここ1~2年の停滞を脱却して6%台に達したものとみられる。

(ハ) 物  価

インフレは,豪州における,最大の問題の一つであり,主要な値上げ申請をチェックするPrice Justification Tribunalの設置,関税率の一律25%引下げ,一連の豪ドル切上げ,金融引締め,上下両院合同物価委員会による物価動向の監視強化等の措置をとつた。しかし,前述のとおり,政府は物価・所得権限を確保することを目的とする憲法改正の試みについて国民の支持を得ることは出来なかつた。

(ニ) 国 際 収 支

72/73年度(72年7月~73年6月)における豪州の輸出総額は,前年度比27%増の62億2,000万豪ドルに達したが,輸入総額は,ほぼ前年並の41億2,000万豪ドルであつたため,貿易収支は大幅な黒字となつた。しかし,伝統的な海運収支の赤字もあつて,貿易外収支が約14億豪ドルの赤字を示したほか,外資抑制策の影響で資本収支の黒字幅が少なかつた(約3億豪ドル)こともあり,総合収支では約10億豪ドルの黒字にとどまつた。(前年度は14億4,000万豪ドルの黒字。)

なお,73年12月現在の外貨準備は40億9,000万豪ドル(約60億8,400万米ドル)であつた。

(ホ) 石 油 問 題

世界的な石油危機にあつて,豪州では,石油供給のほぼ3分の2を自給している事情もあり,これまでのところ船舶への給油をのぞき比較的に問題が少なかつたといえよう。しかし,豪州政府としては,事態の深刻化に備え,全石油製品を輸出管理品目とした。

(3) わが国との関係

(イ) 貿易・経済関係

日豪両国間の貿易は,距離的近接性および貿易構造の相互補完性もあつて年々増加を続けており,現在,わが国にとつて豪州は,米国に次ぐ第2位の貿易相手国,豪州にとつてわが国は,第1位の貿易相手国となつている。

73年の日豪貿易も順調に拡大を続け,対豪輸出は,鉄鋼,金属製品を中心に大幅に増加し,前年比64%増の11億9,300万米ドルを記録した。他方対豪輸入は,前年比59%増の34億9,500万米ドルに達した。

このうち鉱物資源については,同年1月の鉱産物輸出許可制の拡大,2月の米ドル切下げを契機とする為替差損補償問題等,いくつかの困難な問題を生じたものの,年間を通じての対豪輸入額は15億8,500万米ドル(前年比49%増)で,全体としては拡大の基調にあることを示した。他方,豪州労働党政権による一連の資源新政策は,わが国にとつて原材料の安定供給源の確保および同供給源の多様化の要請などの問題を改めてクローズアップさせることとなつた。このような意味からも,73年は,両国にとつてそれぞれの国益の問題と,国際協調さらには国際経済全体の繁栄との総合的調整が大きな課題となり相互理解促進の必要性が痛感された一年であつたといえよう。

貿易・経済関係を基軸として,両国関係は広い分野で緊密化しており,とくに73年には,皇太子同妃両殿下の御訪豪,ウィットラム首相の来日と第2回日豪閣僚委員会の開催等により,両国の政治,外交関係にとつて大きな進展が見られた。

(ロ) 皇太子・同妃両殿下の御訪豪

皇太子・同妃両殿下は5月7日から18日まで豪州を公式訪問され,日豪友好親善関係の促進に寄与された。

(ハ) ウィットラム首相の訪日

ウィットラム首相は政府公賓として,夫人同伴で10月26日から31日まで訪日した。滞日中天皇陛下に謁見したほか,田中総理,大平外務大臣と会談し,資源問題を中心とする経済問題および広く国際問題一般につき有益な意見交換を行なつた。ウィットラム首相の訪日に際して,両国間で,渡り鳥保護条約,文化協定の締結交渉を開始すること,両国の基本的関係を律する包括的条約に関する討議を開始すること等の重要な合意が成立した。その後,渡り鳥保護条約は,74年2月6日東京で署名されたが,一般に「奈良条約」と呼ばれる包括的条約および文化協定については現在,両国政府間で交渉中である。

(ニ) 第2回日豪閣僚委員会の開催

ウィットラム首相来日の機会を利用して,10月29・30日の両日,東京で,第2回目豪閣僚委員会が開催され,豪州側からは,ウィットラム首相兼外務大臣(なお同年11月ウイルシー上院議員が外務大臣に就任した)の他,ケアンズ外国貿易大臣,クリーン大蔵大臣,リート第一次産業大臣およびコナー鉱物・エネルギー大臣,日本側からは,大平外務大臣,愛知大蔵大臣,桜内農林大臣,中曾根通産大臣および小坂経済企画庁長官が出席した。

今回の会議の議題は,(i)基調演説,(ii)内外経済・金融問題,(iii)2国間貿易問題および関連問題,(iv)エネルギー・天然資源問題,(v)その他の問題および,(vi)パプア・ニューギニア問題の6項目であつた。

会議の主要な成果としては,日本側が大きな関心を有している外資・資源問題について,豪州労働党政権の考え方が総合的な形で明らかにされたことがあげられる。

 

2.ニュー・ジーランド

 

(1) 外交および政治情勢

(イ) 72年末,12年ぶりに登場した労働党政権は,外交面で,(i)自主外交の展開,(ii)道義性の重視,(iii)小国の役割の強化等の理念を強調するとともに,(i)アジア・太平洋地域重視,(ii)地域協力の重視等の政策を打ち出した。具体的には,中国,北ヴェトナムとの外交関係を設定し,長期的課題として,アジア・太平洋地域の協力機構の創設を唱えるとともに,主として経済面における協力を念頭に置いて,パプア・ニューギニア,インドネシア,豪州およびニュー・ジーランドの小地域グループの結成を提唱した。

(ロ) 防衛面では,従来どおりANZUS体制を維持し,5カ国防衛取極に基づき,マレイシアおよびシンガポールに派兵している。南太平洋におけるフランスの核実験に対しては強硬に反対し,国際司法裁判所への提訴,実験区域への艦船派遣等を行なつた。

(2) 経 済 情 勢

(イ) 世界的なインフレ傾向の中で,ニュー・ジーランド経済もインフレ問題に悩まされており,73年の経済成長は,名目で14.5%を示したにもかかわらず,実質では3.8%にとどまつた。

このため,政府は,物価抑止を最大の国内経済政策とし,(i)30日間の物価凍結,(ii)8.5%の一般的賃上げ後74年6月末までの賃金凍結,(iii)小売価格に対する統制,(iv)コスト上昇分の価格へ転嫁に対する限度設定(v)一連のNZドルの切上げ等の措置をとつた。しかし,インフレ傾向を抑えるには十分でなく,72年10月から73年9月までの1年間の物価上昇率は8.9%となつた。    

(ロ) 貿 易 動 向

72/73年度(72年7月~73年6月)における同国の輸入は,国内景気の回復に伴い,前年度比17.5%増の12億4,900万NZドルとなり,輸出も,前年度比27.8%増の17億7,300万NZドルに達した。特に,価格高騰を背景に,食肉と羊毛の輸出の伸びが大きく,この2品目のみで輸出総額の約58%を占めているのが注目される。

(ハ) 国 際 収 支

国際収支については,資本収支の均衡および約2億NZドルの貿易外収支の赤字の結果,総合収支で3億NZドル余りの黒字となつた。

このため73年6月末現在の外貨準備高は,約11億NZドル(約16億米ドル)とこれまでの最高を記録した。

(ニ) 石 油 問 題

ニュー・ジーランドは,石油消費量の95%を輸入に依存しているが,石油化学工業にみるべきものがないので,石油危機に際し,船舶への給油問題をのぞいて比較的影響は少なかつた。

(3) わが国との関係

(イ) ニュー・ジーランドにとつてわが国は貿易相手国として重要性を深めつつあり,両国間貿易は好調に拡大している。

このような経済関係を中心とする両国関係の緊密化を背景に,両国間の人的交流も活発化しつつある。

73年5月,皇太子・同妃両殿下が同国を公式訪問され,両国の友好親善関係の促進に貢献された。また,ニュー・ジーランドからは,ワット副首相とウォルディング貿易大臣兼外務補佐大臣が来日し,東京で開催された国際会議に出席するとともに,わが国関係閣僚と会談した。

7月には,ウェリントンで第7回事務レベル定期協議が開催され,両国外務省幹部が参加して,二国間問題のみならず,アジア・太平洋地域等をめぐる相互の関心事項について意見を交換した。さらに,9月には,海上自衛隊練習艦隊がウェリントンを親善訪問した。

(ロ) 経 済 関 係

わが国とニュー・ジーランドとの貿易は,順調に発展しており,73年の両国貿易総額は6億8,400万米ドル(前年比65.3%増)で,対ニュー・ジーランド輸出は2億6,700万米ドル,輸入4億1,700万米ドルを記録した。

わが国にとつては,同国との貿易は必ずしも大きな割合を占めていないが,ニュー・ジーランドにとつては,同国の最大の貿易相手国である英国のEC加盟という事情もあり,近年,農林・水産物を中心とする対日貿易促進に大きな関心と期待を寄せている。

ニュー・ジーランドとしては,国内資源の開発,新しい技術の導入・輸出産業の育成などの見地から,わが国の協力を期待している。両国の協力の具体例としては,砂鉄の対日長期輸出契約および開発資金の融資,水産業およびパルプ・製材業における合弁会杜設立,南島のブナ森林開発プロジェクトヘの参加問題などがあげられている。

また,近年,ニュー・ジーランド周辺海域における本邦漁船のいか漁業が盛んになりつつあり,72年12月~73年5月の漁期には約70隻のいかつり船が,73年12月からの漁期には約150隻が出漁した。

他方,ニュー・ジーランド水産業界も74年2月わが国から派遣された専門家の技術指導の下に,いかつりの試験操業を開始した。

 

3. パプア・ニューギニア

 

(1) 豪州の施政権下にあつたパプア・ニューギニア(以下PNGと略称)は73年12月1日に自治制に移行した。自治達成により,外交,防衛その他の一定の権限を除いて,PNG政府が自治権を有することになり,念願の独立ヘー歩近づいた。独立は,74年12月1日に予定されている。なお国連は自治達成を独立への重要な一歩として歓迎しており,豪州はPNGの早期独立を支持している。

(2) わが国とPNGとの関係は,貿昂・経済関係を中心に急速に深まっており,要人の往来も増加している。PNG政府も,わが国との友好協力関係の増進を希望しており,特にわが国からの経済協力に大きな期待を寄せている。72年の第1回日豪閣僚委員会にはPNGからソマレ首席大臣が,また,昨年の第2回日豪閣僚委員会にはキキ防衛・対外関係大臣が,それぞれ参加し,わが国に対する協力の期待を表明した。

わが国としても,過去2回の日豪閣僚委員会その他種々の機会にPNGの国造りのためにできる限り協力したいとの意向を表明している。わが国のPNGに対する経済・技術協力は,現地の実情に即して,この地域の経済開発と杜会の安定に資するものでなければならないこと,また,この地域と特別な関係をもつ豪州政府の立場と意向にも十分考慮を払わねばならないとの立場を明らかにしている。

PNGに対する政府ベースの経済協力は,従来は,PNGが豪州政府の施政権下に置かれていたこともあり,漁業の分野の技術協力が中心であつたが,今後は範囲を広げていくこととなろう。なお,わが国は昨年,PNGから中堅指導者1名を招待した。

(3) 昨年のわが国のPNGとの貿易は,5,170万米ドル(わが国の輸出3,148万ドル,輸入2,022万ドル)となつている(72年では4,288万ドル)。近年,わが国企業の進出が林業,水産業を中心に活発化しており,今後の貿易の一層の増加が期待されている。

 

4. 南太平洋諸国

 

 南太平洋地域には・豪州およびニュー・ジーランドのほか,フィジー,ナウル,トンガ,西サモアの4つの独立国があるが,これらの諸国とわが国との関係は徐々に深まりつつある。

 72年にわが国の駐豪大使がフィジーおよびナウルに対する兼轄大使として任命されたのに続き,73年には,駐ニュー・ジーランド大使がトンガおよび西サモアに対する兼轄大使に任命された。トンガからは,73年11月,国王タウファアハウトウポ4世および同王妃が非公式に来日し,両国の親善関係は一層強化された。また,この機会にトンガの名誉領事館がわが国に設置されることになつた。

 ナウルからは,デロバート大統領が国際会議出席のため,4月および9月の2回にわたり来日し,フィジーからも,通商産業相および労働相が来日した。

 西サモアからは蔵相が来日した。また,わが国からは,海外青年協力隊員3名を派遣し,11月には同国から中堅指導者1名を招待した。

 南太平洋域内では,73年4月に西サモアで南太平洋フォーラムの第4回会議が,また,同年9月にグアムで南太平洋委員会の第13回会議が,それぞれ開催された。

 南太平洋フォーラムの会議には,フィジ,ナウル,トンガ,西サモア,クック諸島,豪州,および,ニュー・ジーランドの各代表が参加し,南太平洋委員会の会議は,フィジー,ナウル,西サモア,豪州,ニュー・ジーランド,米国,英国,フランス等の代表が出席したが,いずれの会議でも,フラ ンスの核実験問題が主要議題とされた。

 

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