―科学技術に関する国際協力―
第8節 科学技術に関する国際協力
73年は,72年の国連人間環境会議のあとをうけて新設された国連環境計画(United Nations Environment Programme ; UNEP)がその活動の第一歩を記した年であつた。6月には,ジュネーヴで第1回の国連環境計画管理理事会が開催され,10月1日には環境事務局がジュネーヴからナイロビ(ケニア)に移転した。また,この間72年のストックホルム会議で採択した「行動計画」具体化のために幾くつかの会議等が行なわれた。これらの活動を財政的に支援したのが73年1月1日に発足した「環境基金」であり,同年中に合計約6.1百万ドル分払い込まれ,わが国も百万ドルを拠出した。
(1) 第一回環境理事会の開催
第一回理事会は58カ国の理事国が参加してジュネーヴで開かれ,わが国も理事国の一員として参加した。初回理事会の主な仕事は,天然資源の問題から汚染問題まで広範にわたる環境の分野の中からいかなる分野を優先的に選び出し具体的活動に着手するかにあつた。わが国は,グローバルな関心があること,フィージビリティと実際性があることを基準として,汚染モニタリングシステムの設置,海洋汚染問題,技術援助と訓練,資源の合理的利用,開発に伴なう環境破壊の防止等を重点分野として主張し,西側先進国もほぼ,わが国と似通つた主張を行なつた。これに対し開発途上国側は,居住問題,土壌問題,環境問題の経済的側面等を重視する発言を行ない,結局,両者の主張を合わせた形の以下の7つの重点分野が決定された。
(A) 人間居住,人の健康と福祉
(B) 土地,水および砂漠化(desertification)の問題
(C) 教育,訓練,援助と情報
(D) 貿易,経済,技術とその移転
(E) 海洋
(F) 自然・野生生物と遺伝子資源の保護
(G) エネルギー
(2) 第28回国連総会での審議
73年秋の国連総会では,6月の第一回理事会の報告をもとに審議が行なわれ,地球環境監視(モニタリング)計画に関する会議の開催を正式に決定,人問居住に関する会議/博覧会を,1年延期して76年春に開催することを決定したほか幾つかの決議を採択した。また,居住会議/博覧会の開催準備のために準備委員会を新設,わが国を含む58カ国から準備委員が送られることとなつた。
(3) エカフェにおける環境活動
73年4月の第29回エカフェ総会の決議に従い,10月バンコックで「環境問題に関するエカフェ域内政府ならびに関係国際機関代表者会議」が開催された。同会議の目的は環境に関するアジア行動計画の策定にあつたが,アジアの環境問題は未開発に根ざすものが大半であり,特に人間居住問題が重要であるとの見解が開発途上国を中心に多数意見として表明された。しかし開発活動が環境に及ぼす影響を事前に評価すべきこと,およびアジアの環境の現状をモニターすべきことを説いたわが国の見解も,参加各代表の支持を受け,結局これらの事項を含む合計20項目の勧告が採択された。
(4) この間,ストックホルムで決まつた「行動計画」具体化のための専門家の会合や,居住会議/博覧会の準備のための専門家による会合等が開催された。この他,IRS(国際情報サービス制度)具体化のため専門家レベ ルの会合が数回開催され,取り扱うべき情報の種類,情報のストックの仕方,利用方法等が検討された。
(5) 今後の問題
国連が環境の問題に取り組み始めてから日も浅く,未だ具体南な活動を開始するに至つてはいないが,ストックホルムの人間環境会議,国連総会,第1回理事会等の場における議論を通じて現われた最大の問題は,広範な分野にわたる環境の問題のうちいかなる分野を優先的に取り扱つてゆくべきかについて,先進諸国と開発途上諸国の見解が一致していないことであつて,このため環境問題の多くの分野において全世界一丸となつて問題に取り組んでゆくことの困難さが予見されている。これは環境問題に対する先進国と開発途上国との認識の違いによるものであつて,この相違が典型的に現われるのが開発と環境の問題である。すなわち,先進諸国は,主として開発が環境に及ぼす悪影響を問題とするのに対し,開発途上国は,開発の遅れ自体が最大の環境問題であつて開発することがその最善の解決策であるとしている点である。このため,ストックホルム会議開催当初の問題意識であつた,地球の環境を守り,また人類の存続自体を人類の活動から守つてゆくとの思想は普遍性を失ない,認識の統一が失なわれつつある感が深い。「かけがえのない地球」を守つてゆくという当初の目標は,UNEPの活動が具体化する以前に大きな困難に直面しているわけで,今後,UNEPの活動を実りあるものとしてゆくためには,この認識の相違を無くし,全世界が一体となつて問題と対処してゆくための基礎を築き上げることが最も重要であり,ぜひとも成しとげねばならぬ課題である。
(1) 国際原子カ機関(以下IAEAと略す)の活動
IAEAは,世界の原子力平和利用を促進,援助するとともに,原子力の平和利用が軍事目的に転用されないよう保障措置を実施することを任務としている。ここにいう保障措置は,単にIAEAが提供した物資,役務等に限らず,他の2国間あるいは多数国問協定による協力活動に対しても,当事国の要請がある場合には適用することとなつている((3)参照)。また,70年3月発効した核兵器不拡散条約(以下NPTと略す)では,締約非核兵器国はIAEAの保障措置を受諾すべきことが定められており,この結果IAEAの保障措置はより広い基盤を与えられるに至つた。NPT下の保障措置については,IAEAは,73年末現在43カ国と交渉を終了し,そのうち33の協定が発効している。
(2) IAEAにおけるわが国の活動
わが国は,原子力平和利用面において世界有数の先進国となつており,IAEAでも積極的な活動を行なつている。
(イ) 保 障 措 置
IAEAの実施する保障措置の適用を受諾したのはわが国が最初の国であり(59年),また,73年6月30日現在,IAEAが保障措置を実施している施設数90(NPTに基づくものを除く)のうち約3分の1が日本の施設であること等,IAEA保障措置制度の発展のため,わが国は多大の貢献をしている。
(ロ) 技 術 援 助
IAEAは,原子力平和利用の促進を図るため,加盟国の拠出金およびUNDP(国連開発計画)からの資金に基づき開発途上国援助を行なつている。わが国も,これに対し,73年度に,163,641ドルを拠出した(同年度拠出金目標総額300万ドル)。
(ハ) 保障措置パネルの開催
IAEAは原子力諸分野での研究の向上と利用拡大のため,毎年数多くのシンポジウム,セミナー,パネル等を各国において開催しているが,73年10月には保障措置に関するパネルを日本政府がホストとして東京で開催した。保障措置に関しては,未だ研究開発すべき部分が多いが,その意味でも東京パネルは重要な貢献をしたと評価される。
(ニ) IAEA理事会
IAEAの最高意志決定機関は全加盟国によつて構成される総会であるが,実質的な決定は,34(従来は22であつたが,73年6月憲章改正を行ない理事国の数の増加を行なつた)の理事国によつて構成される理事会で行なわれている。理事国には,理事会選出の原子力最先進国および地域先進国並びに総会で地域的配分を考慮して選出される理事国があるが,わが国は理事会選出の9つの最先進国のひとつとして選出されている。藤山楢一日本理事(駐オーストリア大使)は73年9月から1年の任期で理事会議長を勤めている。
(3) 原子力平和利用のためのわが国の国際協力
わが国は,憲法および原子力基本法に基づき,平和利用を目的とする原 子力開発を推進している。このような立場から主要国との間での天然ウランあるいは濃縮ウラン等の核燃料の供給,原子力機器等の購入,共同研究開発等を含む協力を目的とする協定を締結している。このような協力協定として,日米(68年7月発効,73年12月一部改正,有効期間35年)日英(68年10月発効,有効期間30年),日加(59年7月発効,当初有効期間10年を了し自動延長されている),日豪(72年7月発効,有効期間25年)および日仏(72年9月発効有効期間10年)の5協定があり,その他,情報の交換,専門家の交換等を行なうためスウェーデン(73年3月)およびイタリア(73年10月)との間で書簡交換を行なつている。なお,これらの協定に基づいて,核燃料,機器等物の移転が行なわれるため,各々の協定において保障措置を受けることを合意しており,その保障措置の実施をIAEAに移管することとしている。そのためIAEA各協定の当事国およびわが国の3者間で保障措置移管のための協定を締結している。
(1) 最近の宇宙開発は,従来の科学的探査を主とする段階から,宇宙技術の発展に応じ宇宙の利用を主とする方向に変化してきている。既に実用中の通信衛星のほか,気象衛星,放送衛星等の実用化のための開発が予定されている。このような重点の移行に伴い,宇宙空間の効率的利用および各国の利害関係の調整が必要とされている。
(2) 国連宇宙空間平和利用委員会は,66年に「宇宙条約」を,この宇宙条約を補完する細目協定として,68年および72年に「宇宙飛行士および宇宙物体の救助返還協定」および「宇宙損害賠償条約」を夫々作成した。
(3) 73年には宇宙空間平和利用委員会は72年以降の懸案である「月条約案」および「宇宙物体登録条約案」の審議を引続き行なつたほか,72年の第27回国連総会決議「直接テレビ放送衛星の使用を律する国際条約の準備」に関連して「直接放送衛星作業部会」を3年ぶりに再開,直接放送衛星に関連する諸問題の審議を行つた。73年の第28回国連総会は宇宙問題に関し,宇宙空間平和利用委員会の構成国数をそれまでの28カ国から9カ国を越えない範囲で増加すること(構成国数は61年以降増減がなかつた),月条約,宇宙物体登録条約を引続き審議すること,直接放送衛星の使用を律する諸原則を検討すること,資源探査衛皇による地球資源遠隔探査の法的,機構的側面等につき検討すること等を内容とする決議を採択した。
(4) わが国と米国との間には69年7月,平和目的のための宇宙開発協力についての書簡が交換されたが,同交換公文に基づきわが国のロケットおよび実用衛星開発のための技術および機器の導入が進められている。
(5) わが国とESRO(欧州宇宙研究機構)との宇宙協力は,わが国は,72年12月,ESROとの間に,宇宙研究開発協力についての書簡交換を行い,73年3月および10月には日本・ESRO字宙問題協議会議を東京で開催した。
(6) 日仏間の協力については,73年4月,宇宙開発のための政府機関であるフランス宇宙開発センター(CNES)とわが国の宇宙開発委員会との会議が東京で行われた。
核実験反対の国際世論に抗して,フランスは南太平洋で核実験を行なつているが,第28回国連総会で,科学委員会の即時開催を求める仏決議案が成立し,その結果,11月26日および27日の科学委員会特別会期が開かれた。同委員会は,ストロンチウム90及びセシウム137のように半減期の長い放射性物質から2000年までに人類により受容される全放射線量の見積りは誤差範囲内に入り,人類に特に影響はなく新たな報告の要はない旨の報告書を特別政治委員会に提出した。
特別政治委員会は,11月30日および12月3日この報告書を審議した。核実験による環境汚染を遺憾とする豪などと,科学委員会の評価を超える判断を行なうべきでないとする仏の立場が対立する形となつた。その結果,核実験を遺憾とする豪ほか11カ国共同決議案,第23回科学委員会を74年10月開催しその報告書を第29回総会に提出することを求める仏決議案,ならびに,科学委員会のメンバー国を15カ国より最大限20カ国まで増大し,要請国の費用で専門家グループを派遣し,核実験の影響についての報告を行なわせることを求めるペルーほか12カ国共同決議案が採択された。12月14日,総会本会議は,特別政治委員会報告にもとづき3決議をすべて採択した。なおわが国はペルー決議案には棄権した。米国は仏決議案にのみ賛成,中国は自国の核開発は余儀なくされたものとして,投票に参加しなかつた。
アジア科学協力連合(ASCA,Association for Science Cooperation in Asia)は,アジア諸国の科学,技術協力を推進するための政府間機構であり,メンバーシップは原則としてアジア地域内諸国に公開されている。ASCAは,加盟諸国間の科学技術協力を推進するため,科学・技術担当大臣もしくはこれに準ずる者を首席代表とする会議を各国持ち廻わりで毎年1回開催している。
ASCA第2回会議は,73年3月8日から15日まで,東京で開催され,インド,インドネシア,パキスタン,バングラ・デシュ,スリ・ランカ,シンガポール,フィリピン,タイ,ヴィエトナム,クメール,韓国,オーストラリ ア,ニュー・ジーランドおよび日本の14カ国の代表が出席し,他にマレイシアおよび8の国連諸機関がオブザーバーとして出席した。同会議は今後ASCA がとりあげるべき地域協力プロジエクトとして各国研究機関提携問題など9 件のプロジェクトの審議を行なつた。さらに,第3回会議を74年3月,ニュ ーデリーで開催することを決定した。