―国連における文化・社会・人権問題―
第5節 国連における文化・社会・人権問題
ウ・タン国連事務総長(当時)の提唱になる国連大学は,72年の第27回国連総会決議で設立が決定した後,同決議に基づいて設置された国連大学設立委員会で大学憲章起草作業が進められた。これと並行して,国連大学の財政的基盤を安定させるための資金調達努力が行なわれた。わが国は,設立委員会に鶴岡元国連大使を送り,大学憲章起草作業に積極的に協力するとともに,国連事務総長の呼びかけに応じ,72年6月,他国に先がけて,1億ドルを限度として大学基金に拠出する意向を表明した。
73年12月6日第28回国連総会で,国連大学憲章を採択する
国連大学本部を東京首都圏内に設置する
国連大学学長が就任するまでの間国連事務総長が大学設立事務を代行する
国連事務総長は大学発展のための資金調達の努力を続行する等を骨子とする決議案が,賛成118,反対0,棄権10(共産圏,但し中国,ルーマニア,ユーゴを除く)で採択された。
わが国は当初から,国連は人類の平和と福祉の確保という国連本来の活動に役立つ研究機関を自からの手でつくり出すべきであるとの立場から,国連大学構想の主要な推進役を引受けてきたものであり,国連大学本部の日本設置決定は,わが国にとつて誠によろこばしい。
今後,国連大学理事の任命,学長指名委員会による学長の選考,大学本部仮事務所の開設等の具体的手続を経て,国連大学(注)は1974年秋に正式に発足の運びとなる予定である。
73年の第28回国連総会は,第三委員会を中心に,社会・人権の分野で約20の議題について審議を行なつた。特に,人権に関しては,昨年に引続き,人種差別撤廃闘争,植民地解放闘争に関する問題が審議の中心となり,これを反映して,総会は,11月30日,「アパルトヘイト罪の防止及び処罰に関する条約」を採択した。この結果,国連が中心となつて採択された人権分野の条約は合計19となつた。今回採択された条約は,アパルトヘイトが人道に対する罪であり,その非人間的行為は,国際法の原則,とりわけ国連憲章の目的と原則に違反する罪である旨宣言し,罪となる行為を規定した上で,条約締約国にこれら行為の責任者を処罰するための立法,司法,行政措置をとるよう義務づけること等を内容としている。本条約については,当初から,既に「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する条約」が存在している以上,別個の条約を作る必要性に乏しいとの議論があつた上,採択された条約そのものについても,罪となる行為の規定の仕方が不明確である等,法律的にも検討不十分な点が多数あるため,表決に際しては,大多数の西欧諸国が棄権し,わが国も同様理由により棄権した。この結果,本条約は,事実上アジア,アフリカおよび共産圏諸国のみの支持により採択された形となつた。なお,人種差別撤廃の問題に関しては,別に,73年12月10日からの10年間が人種差別撤廃闘争の10年に指定され,そのための行動計画案が承認された。
その他,第28回総会では,宗教および信条による差別の禁止ならびに報道の自由に関し,それぞれ宣言案および条約案採択のための審議が行なわれたが,いずれも採択されるには至らず,次回総会に持ち越された。また,武力紛争地域におけるジャーナリスト保護の問題については,第28回総会で審議された条約案を,74年にジュネーヴで開催される「武力紛争に適用される国際人道法の再確認と発展に関する外交会議」に提出し,同会議の意見と助言を求めることになつた。
なお,65年以来国連で検討されてきた人権高等弁務官の設置問題については,次回総会から,人権および基本的自由を確保するために,国連の機構内における別の方法および手段を検討することになつた。
(注) 国連大学は,大学理事会,大学本部および世界各地に設置される研究訓練センターから構成され,大学院レベル以上の専門研究を目指し,異民族間の平和共存,平和,人権,開発,環境,資源等人類の生存,開発および福祉にとつて緊急な全世界的諸問題を研究することになつている。 戻る